2011年7月11日 (月)

木を植えた男たち

『このままでは十勝の大地は丸裸になってしまう!』

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02  開拓ブームに乗ってどんどん開墾がすすむ大地を前にそんな想いに駆られた人が、この帯広の地にいたそうです。
 おりしも時代は木を植えるよりも木を切り倒さねばならない時代で原始林の樹木は土地を開くために切り倒され、材木やその副産物は暮らしに使われ、役に立たない根は集めて昼夜燃やされて空が真っ黒な煙に包まれていたころもあったと開拓の書には記されている。
 そこに植林を提唱することは狂言としか思われかねない…そんな時代であったことでしょう。ただ、未来を見据えた気持ちは、狂言などではなく的を得た事実には違いなかった。
実際に事が起こってから対処に乗り出すことは現在の世にもたくさんあるものです。

 ともかく時代には、少しばかり早すぎた思想と、時を越えて現在は公園となった場所で空高く伸び上がる大木にはちょっとしたお話がありました…

05  明治31年9月1日、十勝支庁長の移動で新しく赴任してきたのが、諏訪鹿三だった。
新任の諏訪支庁長は着任早々まず管内を一巡、現地視察をした。これはどの支庁長もやることで、ことさら目新しいことではなかったが、彼の目に映ったのは急テンポに進む開拓事業とともに緑豊かな原始林が片っ端から切り倒され、焼き捨てられていく有様だった。
 しかも人々は土地を拓くことばかりに没頭していて誰一人将来のための植林など考えている者はない風だった。

「今は立木がジャマになる時代だから切り倒すこともやむをえないが、このままではやがて十勝に一本の木も無くなってしまう。今のうちに植林のことも考えておかなくてはなるまい」

彼はこう思いついた。やがて年がかわって32年の春が来た。音更の然別で牧場をやっている渡辺勝(※)のところへ支庁長から1枚の葉書が配達された。
その葉書には

『○月○日 植林思想を昂揚するために管内の有名知識人に集まってもらい某所に苗木数本を植えたいと思うのでぜひ出席してもらいたい』

といった意味のことが書かれてあった。

 勝はその日、作男の上村吉蔵をともなって諏訪支庁長の私宅を訪れた。

 支庁長は勝が現れると大いに喜び、部屋に招じ入れ緑化運動の必要性をひとくさりもふたくさりも説き、わが計画の遠大さを風潮した。
 だがどうしたものか昼を過ぎても勝主従のほか、誰も集まってこないのだ。

『どうも先のことのわからぬ連中ばかりのようだ。案内を20通も出したのに…まあ良い!渡辺君が来てくれただけでも運動の成果はあったわけだ。では植林にかかろうか!上村君、そこの庭先のドロ柳の苗を3本ばかり持ってきてくれ』

06 支庁長は上村に苗を掘らせ、それと鍬を彼にもたせ勝とともに植樹地へやってきた。そして3本のドロ柳の苗を等間隔に植え、3人は空を仰いで自分たちの壮挙を自ら自慢し、自分をなぐさめた。
 やがて引き上げる頃になって、もうひとりの参加者があらわれ、この人物も一握りの土を根元にかけ、計4人となったわけだが、この参加者の名前は記録に残っていない。
このささやかな行事が十勝ではじめて行われた緑化運動というべきもので、この時植えたドロ柳は1本が枯れ、2本はいまだ残っている。
旧十勝会館前の広場にいまていていと空を突き、直径2尺ほどのドロ柳の木がそれである。
故上村吉蔵翁遺話/天地人出版企画社『とかち奇談』 渡辺洪著)

(※)渡辺 勝(わたなべ まさる)
明治16年(1883)依田勉三とともに、北海道現在の十勝の海岸部に入植。
晩成社(ばんせいしゃ)三幹部の一人として、活躍。後に、西士狩(にししかり 現在の芽室町)を開墾し然別村(現在の音更町)では牧場の経営に力を注ぎました。アイヌの人々への農業の世話役となって、アイヌの人たちと親交を深め、1896年には第1期音更村会議員に当選するなど、多くの人から信望を集めた。

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 実際のお話は、かなり滑稽な感も否めませんが、これが十勝発の緑化運動にはちがいなかったようです。
 当時あった自然の森の大部分は失ってしまったものの、この想いはやがて継承されることとなり住民の手により都市近郊にも森が作られて植樹や森林愛護の活動は継承されています。諏訪支庁長もさぞや満足なことでしょう。

きっと雲の上から、改めてわが計画の遠大さを風潮しているのでしょう。

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【十勝会館】

昭和3年天皇即位の大典が行われたのを記念するため翌年建設。
宿泊施設と大小の催しや集会などに利用されました。
戦後改造されて利用されていましたが市民会館建設後に解体。
この写真の中のどれかが、その大木であるらしい。

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2011年4月18日 (月)

丸く小さな廃墟の話

Maru

 帯広の東5条の根室本線にある踏切から、札内川鉄橋にかけての一帯は自殺の名所である。根室本線が開通して以来ここで命を絶った数はかなりのものだが、その他にこの鉄橋が帯広と札内市街を結ぶ最短距離であることから事故にあって死んだ人も少なくない。
 こうした条件がそろうと、おそかれはやかれ怪談の名所ともなるわけだが、ここも帯広の怪談名所のひとつである。

Tekkyou

 ここに現れる幽霊はザクザクと砂利を踏む足音で姿は見えないのだが『幽霊には足がない』という定説をくつがえしているところに特徴がある。
 戦後もいろいろなうわさが立ったが、一番はなやかだったのは昭和10年頃だったそうだ。近所のひとの話によると終電車が通り過ぎ、本当の真夜中ころになると根室本線の上をザックザックと通り過ぎていく足音が聞こえるという。そして1人が通り過ぎてしまうと、また1人が、そしてときには5人10人と一定の間隔をおいて足音の聞こえてくる夜があるという。そしてそのほとんどの足音が帯広のほうへ向かってあるいていゆくというのだ。

Bluered  そのころ。帯広に来て間もない恋人同士が、何も知らずに別れを惜しみ終電車のすぎたあとの根室本線の上を鉄橋へ向かって歩いていた。
星の一つもなく、雨がやって来そうな暑い夜だった。
と、こんな夜ふけなのに札内川の鉄橋の方から誰かが、ザックザックと歩いてくるのだ。

『だれだろういまごろ』

 暑くなっているところへ水をさされたような不快さを感じながら、2人が口をつぐんだとたん足音は鉄道の砂利の上からそばの草原にそれ消えてしまった。

『気持がわるいわ』

 女の方が男によりそったとき、また別の足音がザックザックと近づいてくるのだ。そして今度も2、30メートル前までくると草原にそれて消えていった。
足音がそれると、またつぎの足音がザックザックと近づいてくる。
若い2人は、きびすを返すと一目散にいまきた道をかけ出していた。

 そのうちにこれと同じ足音を聞いたという風来坊も出てきたりして、夜ここを通る人はほとんどなくなった。そしてそれから間もなく『きっとここで死んだ連中が、行くところへ行きつけず帯広のネオンが恋しくなって出かけてくるのだろう』と、もっともらしく言いだす者が増えはじめていた。
 『とかち奇談』 より 「足のある幽霊の列」 (渡辺 洪 著  天地人出版企画社 昭和54年発行)

Kawamo  

現在も運行されている根室本線は、十勝の中心都市「帯広」と隣町、「幕別町」の間を流れる清流「札内川」を渡る。
そこを渡る鉄橋が、このお話の舞台です。

今も徒歩で川を渡るには、数㌔上流か、下流の橋を渡らなければならない。
当時は、下流の橋1本。帯広の街からほろ酔いで帰宅する隣町の人は、手っ取り早く鉄橋を渡ろうとしたこともあったのでしょう。

Katamari  幽霊話が、実際のことか、事故を戒めるための都市伝説か、それも今となっては測ることはできません。
 現在の鉄橋も当時のものではなく、レンガ積みの橋脚だったようですが、すぐ脇にコンクリート製のものに立て替えられ、話の真意を知っていたであろう初代橋脚は引退、
解体されたようでしたが、その後川原に変った感じの玉石が散乱することとなります。やけに目立つ真っ赤な石。塊によってはレンガ積みの目地まで残っている。

この怪談話を知るまでは、上流にレンガ製の建物でもあったのかと思っていましたが、どうやらそれが橋脚の名残のようです。
 以前は、鉄橋の近くにそのときの土台らしきものも見えていたけれど、今年の春は、まだ川の中のようでした。

Rever

レンガのひとつひとつが固まって大きな力になる。
それは既にレンガではなく、大きな力を持つ柱。
その柱が、再びバラバラになったとき、始めのレンガに戻ったかというと…
決してそうではなく、存在意義とともに自分さえも見失っているかのようだ。

だけどギザギザになったその身も
年月は丸く変えていくもののようだ。

そう考えると
人の作るものは、人の鑑でもあるように思えました。

Brick

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2010年8月29日 (日)

バラスト

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果てしなく続く道を走ってる。

「果てしない」は言いすぎだ。見通す先が見えないからといっても果てがないなんてありえない。

しかし、こう景色の変化が乏しいと、それほど走ってもいないのにこのままずーっと続いていくようなんだ。それで「果てしない」感じがする。

「果てしない」とか「永遠」とかいうものは実はつまらないものなのかもしれない。
いまだ「永久」を超越できないのにその空しさをを知り、嘆くのも妙なものだ。

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カーラジオの声も、ほとんどノイズに変ってきたので消してやった。
それにしても今年は春から暑い。
最高気温はともかく路面の温度がどのくらいまで上がったのか気になるんだよ。

こんな日は水分補給はマメにしようと峠前のコンビニで500mlのPETを2本購入したのに既に残り1本で、中身も3分の1。

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Dscf7923 道は、市街地を離れるとズーッと山間をなぞり、人里は畑らしきところは見えるものの、景色から人家の類は、ほとんど見えなくなった。
すれ違う車も少なく、人の足跡を示すのは、山間を併走する鉄路と、今走っている舗装路面くらいしかない。
それでも時折、線路か道路の保安作業の一団に出会うので、不安になるほど奥地ではないようだ。

落ち着きのない線路は、道の上を横切ったり、下をくぐったり、山を突き抜けたりしているうちに遠のいていった。
山も道から離れていったので、ようやく人里へと達するのかと思う。しかし景色は、ただ原野が続いていく。
それも単に原野ではなく、拓かれた土地が人の世話を受けたのも久しく、元の原野に成り果ててしまったかのようです。
時折、老朽化で倒壊した家や乗降客などいなさそうなバス停、赤土色の農耕具が目に入ることがあった。
ここは、すでに人が見捨ててしまった土地なのか…

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この集落の開拓は古く、明治41(1908)年にさかのぼる。ちょうど青森─函館間の連絡線が運航開始した年だそうだ。
近くの川で砂金も採取された記録もあるが、期間・採取地域が限定されてそれほど盛んに採取されていなかったらしい。

Dscf7916 やがて、大戦・戦後になり戦後引揚者の入植が激増。
しかし、舗装化がすすんだ現在では想像もつかないが、この辺り極度に交通の便が悪く、それが一帯を孤立化させる一大要因でした。

水道(簡易)や電気がようやく引かれたのも昭和40年に入ってからという。
ずっと道を併走してきた鉄路が敷設されるまでは、交通機関からも遠く、数箇所駅逓が設けられて流通を担う。

でも半孤立化の集落は農業生産品を出荷する術がないので、生産するのは自家用の栽培がほとんどで、現金収入の要は林業が主の半農半労暮らしぶりであったらしい。
ようやくここに石勝線が開通したものの、すでに離農者が続出していたことから、当初計画されていた駅は信号所になり、それが異常に信号所の多い地帯になった要因であるそうだ。

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いまや原野に姿を変えた農耕地は、既に開拓の記憶も失ってしまったように山と変らない顔をしている。
ここは、すでに非居住地帯になってしまったようだった…
しかし、この先の山間には大きな2棟のタワー型ホテルのある一大リゾート地帯がある。
そこまで行くと店やペンションもあり、そこまで到達すると緑色の砂漠を通り抜けてオアシスにたどり着いた気分にすらなるだろう。
すぐ近くには高速道のICも完成している。

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空のブルーと大地のグリーンの原色に目が犯され過ぎたころ、路肩に違和感のある中間色が目に入った。
この場所には不似合いなパーキング。…というより砂利を無造作に敷き詰めた場所。
砂利を敷いただけで圧鎮していないようで、重機のわだちや敷きムラが激しい。
工事用重機の待機場所の感じで、普通乗用車ではあまり入りたくない場所だった。
そんな場所に敢えて入ったのは、その脇に小さな木造住宅が半分砂利に埋もれるように立っていたから…
良い感じの廃屋を見つけたというより、やっと家の形をしたものがあるところまで走ってきたという気分。
大半の家屋は既に雪の重みで潰れて原野に埋もれてしまったのだろうか?

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非居住地帯というのは結構見かけるが、大抵は住居が残っていて離農して街へ移った住人が夏場のみ自家用農作のため一時居住している。
しかし、この辺りはそれすらも通り越してしまったかのように思えた。
その家が埋もれているように見えたのは車道と同じ高さに積み上げられたバラスト(砂利)のためであったらしい。
近くに寄ってみるとギリギリの線で埋もれずに済んでいたようです。しかも屋根近くに窓も見えるので2階建てのようだ。
老壁は黒ずんで木目も深く際立っていた。
このように壁が炭のごとく黒ずんでいるのは、耐水・防水のために塗ったクレオソートで染められ、陽射しで焼けたからなのだろう。
鉱物油の香りは消し飛んでいる。

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Dscf7896 波打った床の方々から熊笹が顔を覗かせ、奥の壁は既に崩壊して家の中で一番明るい部屋と化していた。
外観と違って中は荒れ放題。まるで竜巻に襲われたかのようだ。それに匹敵するほどに冬は気象の荒れるところなのかもしれない。
木造とはいってもそれなりに石油ストーブや家財道具の感じからすると数十年前まで暮らしが営まれていたかもしれない。

こういった離農で過疎の進むところで生まれ育ち、学校で「故郷の未来」なんてテーマで絵を描くと、必ず山よりもそびえ立つ高層ビルと縦横無尽に走る高速道、そしてレジャーを楽しむ家族が描かれることが多い。
その全ての要素を手に入れたこの土地は、それでも理想の未来だろうか…
肝心の人が去ってしまって。

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それでも、これが北海道らしい裏風景。

誰もが試されて 誰も負け犬などではない。
ほんの少しタイミングがずれれば、何処とて同じだったと思う。

だからそこはただ、そうなるべくしてそういう景色であるのだろう

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ただひとつ
人里が自然に無償で受け入れられる景色の中で
どうしても不似合いなのがバラストなのです

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2010年3月26日 (金)

旅立ち

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Dscf3075 北海道足寄町出身で札幌を拠点に全国で活躍するシンガーソングライター松山千春
彼が23歳の時に発表したベストセラー自伝「足寄より」
その自伝がデビュー30週年にして映画化された「旅立ち~足寄より」
その撮影は、もちろん足寄町で行われた。

自伝の映画化といっても30年の年月は足寄町や周辺の様子もすっかり変えている。
それでも街並みは時代の色を寛容に残していたことから映画のロケが可能だったようだ。
事実、既に閉店しているとはいえ、松山千春がデビュー前から通っていた「喫茶カトレア」もかろうじて残っており、初めて町でコンサートを開いた足寄町公民館も老朽化で閉鎖されていながらも当時の姿を残している。旧足寄駅は面影も無く新築されてしまったことから同じ沿線の赴きある利別駅が変わりに使われた。

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Dscf3058 ところが肝心の松山宅は、とっくに新築されており生家であるとかち新聞社は既に失われていたので、主要な舞台として新たに場を準備する必要があったようだ。
足寄町役場近くにある『千春の家(とかち新聞社)』は、映画クランクアップ後もロケ地として週末・祝日に一般公開されており、中に実際に入ることもできる。
とはいえ、小さな家なので大人数で入ることは難しい。
一般住宅から想像もつかない梯子のような急な階段で撮影クルーが機材を担いでスタンバイしていたかと思うと脅威にすら思えてくる。
ここは、もともと松山家とは無縁の家を映画用に改装したものだが、実に赴き深くて大道具の「汚し」の技術を持ってしても、これだけ人としての息遣いの聞こえそうな家が再現できるだろうかと思う。銀幕上でそれが生かしきれたかはわからないけれど…

Dscf3070 映画撮影の時は、例年に無く雪が少ない年で冬のシーン撮影のため山から雪を大量に運んでくるということもあったそうです。
ともかく映画はいまだに見てないんですよね。自伝も読んでないし…
コンサートのMC録「らいぶ」は読んだことあるけど。
管理の人から熱烈なファンと思われそうなくらい、家のあちこちを撮ってきたけど正直、千春の歌はあまり聴いたことが無い。
聴かなかったんじゃなくて、千春の歌は空気のようで、いつもどこからとも無く聞こえてきた。大好きでいつも聞いていた歌よりも、そういう歌のほうが、ズーッとあとになって心の中に根を下ろしていたことに気が付く。

「千春の家」の管理人さんがこう言ってた。

「ここは、木造モルタルだった家を映画の大道具さんが木造に改修したんですよ」

「えーっそうなんですか?」 それは驚きだ…

もともと、この家自身が持つ歴史の記憶と、もうひとつの人生の記憶を持つところです。

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どこまであるのか確かめたことすらない空の下
錆付いたトタンのほうがこの空のことを知っているようです。
記憶の色は色あせるんじゃなくて
むしろ塗り重ねられていくのだと思う。

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2010年2月14日 (日)

あたんのバラード

違うよ それは「あんたのバラード」。。。
世良公則&ツイストのデビュー(?)だって

…これじゃMixi日記ノリだし

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ここで言う「あたん」『亜炭』のこと。
通常の石炭と異なり炭化度が低いため品質的には亜種という扱いになるから『亜炭』と付けられたのか…
いずれにしても採掘後、風に当てるなどして良く乾燥させないと製品として出荷できなかったそうです。

十勝の芽室町町境に位置する国見山は現在、営林署所轄の自然散策林として開放されていて軽登山の場として利用者に愛されている。
山頂辺りに「国見チャシ」と呼ばれるこの辺りで生活したアイヌ民族の遺構跡が残っていて、一見すると尾根に作った溝のある高台という風だが、砦とか見張り台とか解釈される。

Dscf4718_2 「国見山」と名が付いていますが「美蔓高台」の突端、河川の侵食によって作られた河岸段丘の一部であるようです。
“軽”といっても運動不足の身では頂上へ行くとそれなりに息が切れる。
1市2町の境でもあるので役所の職員でさえ、この山がどちらに所属するのか戸惑うことがあるようです。

この国見山。夏場の緑を湛えた姿の時には分からないけれど、秋風が吹く頃から徐々に…そして春までの間、山肌を露わにすると実にいびつな形になっている。
近くの橋が竣工した時の写真でも現在のようにガタガタな稜線を見せていた。
末端部が特に際立っていて生える木も踏ん張りが利かないのか、やっとのことで根を下ろしている様子。

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Dscf4726 町史を読むと、その跡は石炭採掘の名残だという。
石炭というと夕張や三笠のように縦抗や斜坑を掘って地中の深いところから産出するというイメージがあるけれど、この山は露天掘りに近かったそうです。
露天掘りというと芦別市などにも跡がありますが、それよりも規模は遥かに小さかったらしい。
ここの亜炭層の厚さは十数センチほどで、その石炭からは化石化した水草も確認されることがあり、一帯は太古の昔には大湿原地帯だったということになるらしい。
年代的にも地の底にある石炭よりも新しいらしい。故に炭化度の低い「亜炭」の状態で産出されていたのでしょう。

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(国見山亜炭鉱に関する記事抜粋)

Dscf3739 本町
(芽室町)の鉱業は、国見山南腹の亜炭鉱が唯一で、埋蔵量は350万tといわれています。この鉱区のうち140ha余は昭和17(1942)年4月に依田八百が、284haはどは同18(1943)年7月に鈴木長一がそれぞれ発見しました。炭質が優秀で一時軍用にされましたが、その後変遷を経て同21(1946)年12月、株式会社十勝炭鉱国見事業所として長田正吉に鉱業権が移りました。長田は国の燃料不足対策に沿い、復興金融公庫からも資金援助を受けて本格的操業に着手しました。同22(1947)年8月から1級炭鉱としての配炭公団の全面買取りでしたが、翌年10月の公団買取り廃止で直売しました。遠くは苫小牧王子製紙工場、地元では中央繊維芽室工場、帝国臓器製薬工場そのほか各種産業用や家庭用として供給し、同23(1948)年2月25日、札幌商工局から重要亜炭鉱の指定を受けました。同24(1949)年当時の業績は、出炭3,935t、販売2,328tで、従業員男女10数名による人力の採掘でした。

時代の脚光を浴びた亜炭も、需要が時代とともに減少し、同41(1966)年ごろには販売量228t、従業員も4名になり、経営継続が困難になって翌年11月に閉山しました。

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Dscf3741 閉山後、事業整理されたため当時の名残を残すのは、いびつな稜線だけで登山道を外れて転げ落ちそうな稜線を辿っても石炭らしき欠片も見つけることはできませんでした。
ただ、稜線の1箇所に元々の山肌の高さの部分を残したような塊があった。
石化した火山灰のように見えるそれは、頭頂部に「山神」のようなものを祀っていたかもしれません。

Dscf3745 小さい頃から家は既に石油ストーブだったけれど近所の家で、機関車みたいな石炭ストーブを見たことがある。本体はオートバイの空冷エンジンみたいにヒダ状の突起がたくさんあって、SLの煙突状のところは石炭タンクのようで、細かい石炭が満載されていました。
記憶の中には石炭に関することは非常に少ない。

それでも、どこからか石炭ストーブの煙の香りがしてくると敏感にわかるのは、記憶というよりも血の中にそれがインプットされているのかもしれません。

「温かったけどさ、毎週エント(煙突)掃除しなきゃならんのがメンド臭かったなぁ…」

何代目かの石油ストーブの前で石炭に関わるそんな話を聞いた。
石油の産出もあと40年ほどだという。その後、家族団らんの居間を暖めているのはどんな風に変わっていることだろう…

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2009年9月14日 (月)

マカロニ ③

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お店の外は、太陽が真上を越えて建物の大きな日陰を作り始めていた。
さっきよりも大勢の人で賑わってきて、たまに大きな笑い声があがる。それが少し怖い気がする。
真ん中にいる人はよく平気だなぁ。私があの場に出されたら怖くて一瞬ではじけ飛んでしまうかもしれない。
小さい頃のお祭りは、スゴク楽しいと思えたけど今そう感じてしまうのは、私がいかに人目を避けなきゃならなかったかってことなんだろうね。

Dscf1648 「何のお祭りなんですか?」

「うーん いわゆる夏祭りなんだろけど、時間によっては神輿が出たり、夜は盆踊りもあるよ。それだけじゃなんだから昼間はいろんなイベントしててね。毎年、大道芸人も来るんだよ」

「ふーん」

「こういうの好き?」

Dscf1605 「人の多いところ、苦手なんですよ。…慣れてないので」

「じゃ、ここ離れよう。おいで!」

彼についてわき道の方へ─
高い建物が多くて、コロン(連れの石の魂)と待ち合わせてる大きな看板が見えなくなった。
行った先は車がたくさん停まってる。ここ駐車場?
その中の1台のところへ彼は、歩いていった。

「えっ?私…そんなに遠くまでは…

「そんなに走らないよ。少し気分転換さ。まだ時間、充分あるじゃない」

「そうですけど…」

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断わる理由も思いつかなくて、隣に乗る。
大丈夫かな…今何時だろ。どのくらい経ったかな?

Dscf1929_2 車は駐車場を出て、ゆっくり通りへ出て行った。
お祭りの店がたくさん並ぶ通りを過ぎると嘘みたいに歩く人がいなくなる。
街じゅうの人が、さっきの通りに集まっていたみたいだ。

甘い香りの漂う車の中…聞いたことのない音楽…。
高い建物が後ろへ走り去る様子は、映画を見てるみたい。
いつも空の上から見る地上は、みんなゆっくり走っているように見えるのに車の中からだととても速く感じる。
当たり前なのかもしれないけど、それが私だけの発見みたいでなんだか嬉しくなった。

002424 「なに?」

「はい?なんですか?」

「笑ってたよ」

「そうですか?ちょっと嬉しかったんで…」

ヤバイ! 景色が流れるのが早いから…とか言うのは変だよね。
それにしてもこの人、私が幽霊と知ってもなんとも思わないのかなぁ…
もしかしたらこの人も幽霊だったとか…。

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「あのーっ幽霊とかどう思います?」

「…どうって別にねー。たまに友達と心霊スポットへ行ったりするよ。夏とかには…」

「心霊スポット?」

「幽霊屋敷の噂があるとことか、地縛霊がいるらしいとことかね」

「自爆霊ですか…」 なんだそら…

002085 失敗とか多い私は、たしかに自爆霊に違いない。
そういうのが集まるところでもあるのかな?

それにしても、本当は、私が幽霊だってこと信じてないんだろうか?
そういえば昼間から街中をフラフラして、マカロニグラタンを食べる幽霊なんて私だけかもしれないきっとそうだよ。

「そういうところで幽霊を見たことあるんですか?」

「ないよ!話ではずいぶん聞いたけどね。結局“きもだめし”だから。ホントに出たら行かないよ。呪われちゃたまんないし」

「えーっ“呪い”だなんて…

ヒドイこというなぁ…元は同じ人間なのに…

「良く行くの?ああいう廃墟みたいなとことか」

「へ?」

行くのかなぁ…行くというか夜は、回りが見えないから屋根のあるところで休んでるだけなんだけど…。まさか普通のホテルに泊まれるわけじゃないし…。

「いや…行かないです。幽霊もいろいろだと思いますよ。そんな気味の悪いものじゃ…」

「そういや、ナギサちゃんも幽霊だったよね?」

「でも半人前だし、あまり幽霊に向いてないですけどね…」

「幽霊にも資格がいるの?死ぬのも面倒なんだなぁ」

「落第もできないんですよ」

「ははは…♪試験も何にもない♪ってか」

「ハハハ…

それって、妖怪じゃないかなぁ…
生きてる人のフリしてここにいる私も考えると人に化けるキツネやタヌキと一緒なのかも。

…やっぱり私が幽霊だってことは、本気にしてないみたいだ。
だよね…。私も「トイレの花子さん」とか怖いなぁ…と思ってたから。

自分がそういう身になったら、むしろ生きている人のほうが怖くなってしまったようだ。その「怖さ」というのは、自分がどんな目で人から見られるかということで、人のことが怖いわけじゃない。どこか“仲間はずれ”にされている気持ちと似てて、スゴク孤独な空気に縛られる感じがするんだ。

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あれ…? 気がつくと、景色から高い建物がほとんど逃げ去っていた。

「どこまで行くんですか?」

「どこか行きたいとこある?」

「いえ…近ければどこでも行きます…」

「うん、わかった」

コロン、何してるのかなぁ…
さっきのお祭りのどこかにいたんだろね。一緒に行けば良かった…。

Dscf1940 車は、スーッとスピードを落として左へ…

「ここは?」

「ちょっと休んでこ」

「はあ…」

地下室みたいなところに車を止めて、言われるまま付いていく…
昼間なのになんだか薄暗い…オバケ出そう。(自分がそうか…)
彼がうっすら明るいところのガラスの棒みたいなのを取ると廊下がパッと明るくなる。

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「あーっ青空!」

天井や壁一面に白い雲が流れる青空が…これは、絵だよね。でも青空を見たら少し安心してきた。動かない雲 焼けることのない空…

「ここだよ」

「あ…はい!」

 バーッ

Dscf4513 ドアから入ると水道の勢いよい音が聞こえた。隣にお風呂場があるみたい。
ふーん…こんなとこ初めて。
いつも夜休ませてもらう空家とは大違いだね。
どこからかかすかに音楽が聞こえる。

「部屋はそっちだよ」

「はーい」

えーっなに?この部屋!薄暗くて窓がない!
外が見えなくてどうするの???
中は部屋いっぱいの大きなベッドと テレビと 椅子と小さなテーブル
そんなもの…

002885 「あのーっ…ここ、なんですか?」

「えっ?なにって…ホテルだけど?初めて?」

「たぶん…ですね…」

「…まあいいや。ゆっくりしてこうよ」

「…」

変なとこだなぁ…そんなに広いところじゃないし…

枕元にスイッチがたくさんある。
入れてみたら部屋が明るくなった。
こっちは何だろ?

「…続いてのニュースは、また行楽シーズンの痛ましい事故です…」

わっ テレビか…
ベッドの端に座って、しばらく見てた。何のことを言ってるのか全然分からないけど…
─とバスタオルを腰に巻いた彼が部屋に入ってきた。

002286 「テレビに夢中だったから、お先に使ったけど、お風呂入れるよ」

「えっ?」

「今日は、朝から暑いしねー」

「はあ…」

お風呂に入ることになった。まだ昼間なのに…
なにしてるんだろ私…今日は変な日だよ。
とりあえずお風呂には、入らなきゃならないみたいだし─
大きな鏡のある前で服を脱ぎだした。

「えーっ

002886鏡に映る自分を見てビックリした。

「私って─こんなにオトナだったんだ…」

何をいまさら…って感じだけど、こんなふうに自分の体を見たのは初めてだった。
いつも大して考えもしないで人に化けたりしたけど─

「どしたのー?」

「いいえーっなんでもないですーっ

000080ともかく─
自分が自分じゃないことを思い知った気がした。
なんだか…なんだか…なんだかすごく恥ずかしい…

鏡を見ながら思わず手で顔を覆った…
指の隙間から見えるのは…見えたのは… 『あぁっ
爪の色がすっかり変わってる。
まずい!時間じゃないか! いつの間に時間が経ってたんだろ!
早く元に戻らないと、この体から出られなくなる!

あれ?いくらなんでも遅いな…「ちょっとーまだ上がらないのー」
あれ?いない!あれ?あれれっ?逃げられた?

Dscf1747

「すっかり、お待ちさせたでしたナギサーン。大盛りでお待ちですか?」

「ううん。そうでもないよ─」

「お楽しみかったらしさです。笑わせた人がたくさんあったから」

「ふーん…良かったですね」

「ナギサンは、何をおこなってたんでしょうか?」

「私?いや…何もしてないよ」

「だから ご一緒したきたら良かったのにですより…」

「うーん…そうだね。次はそうするよ…」

「なんだか、お元気が台無しですね。ナギサン?」

「そんなことないよっ。 もう行こ暗くなってきたから」

Dscf1742

赤から紫色に変わり始めた夕日の下で、相変わらずにぎやかな音がしてる。
夜が怖くない人たちの笑顔は、大人も子どもも、どれも同じに見えた。

Dscf1178 今日のことはコロンには黙っておこう。
何言われるかわからないから…

それにしても勝手に逃げちゃって悪いことしたな…
でも、おいしかった…マカロニ

Youtube 「マカロニ」 Pafume

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2009年9月 3日 (木)

マカロニ ②

Dscf1642

「飲み物は?」

「い…いいえ水でいいです」

「じゃ…それで」

「かしこまりました。アイスコーヒーおひとつ、マカロニグラタンがおひとつ。以上ですね」

「はい」

002011_2まいった…
うっかり大声で言っちゃった…

「もしかして、お腹空いてた?」

別にお腹が空いていたわけじゃない。
目の前のことと頭の中が別のことを考えていたんだ。

「は…ははははは…すいません。つい…何年も食べてなかったので…

「えぇっ?」

「いや…食べてます。飴くらいは」

「飴だけ?」

「い…いや食べてます。人間だから…」

うっわ~話せば話すほどボロが出てくるよ…
今すぐにでも逃げ出したい。
向かい側から、ジッと私のほうを見てる。
怪しまれてるかな…私が本物の人かどうか…

Dscf1620

「ところで、この辺の人?」

「いえーっ旅の途中で、ちょっと立ち寄っただけなんです。友達が見たいものがあるとかで…」

「そっか、お祭りだしね。その友達ってのも女の子?」

「はい。今日は…」

「今日は?」

「いやいや今日もです

マズイぞ!絶対マズイ!
なにか話を変えないと…

Dscf1522

「あの…あの、あなたは何者なんですか?」

「ナニモノってかい?そう…たぶんキミが待ってた人」

なに?ちょっと待てよ!名前が同じとしても、この人が私のカズ君のはずないよ…
もしかしてコロンが私を騙そうとしてるのかな?…いや、そんなはずは…
待てよ…落ち着けナギサ!混乱してると相手の思うツボだ。
普通に振舞わないと…普通に…

「私もそう思います」

「へぇッ!話が早いね」

その気になれば何とかなるもので…何とか話に慣れてきた。
車がどうとか仕事がどうとか、よくわからない話をズーッと聞かされたけど、何となく返事をしていれば勝手に話してくれるから楽だな…

Dscf1518

「幽霊?」

ドキッとした 店のどこからか、そう聞こえた。
少し離れている席の女の人らしい…。
背を向けているけど、私の正体を見破ってるのかな?
それとも私の変身がヘタで正体がバレバレなのか…

「お待たせいたしました」

Dscf1176

懐かしい香り─
小さい頃の…生きていた頃の…思い出の香り。
フツフツと香りを立ち上らせる黄金色のマカロニグラタン…
しばらく見とれていた。

「食べてていいよ」

Dscf1188「…あ…はい いただきまーす

アチッ…アチチチチ…

「そんな、あわてることないのに…」

「すいません!死んでから、しばらくこういうの食べてなかったので…」

「えっ…? もしかして…ナギサちゃんてさ、幽霊さんなの?」

あ… しまった…。グラタンに夢中になって自分でバラした…。

Dscf1550 「なんか変わってる子だなぁって思ったよ」

「ごめんなさい…騙すつもりじゃなかったんですけど…」

「でも、こんなカワイイ幽霊なら歓迎だけどね」

「怖くないですか?」

「うん、いろんな人と知り合ったことがあるよ。マリー・アントワネットの生まれ変わりだーとか、実は金星人なんだーとか…他にもいたかな」

「金星?」

私みたいなのの他にもいろんな人がいるんだ。
それにしても幽霊が怖くなさそうな人に驚いた。

「でもさ、幽霊って昼間でも大丈夫なの?」

「始めは…幽霊になった頃は、陽に当たると溶けちゃうと思ってたんですよ。でも違うってことに気がついて…それから風に乗っていろんなところを旅してきました」

008013_2 「風?自分で飛ぶんじゃないの?ユラユラ~って」

「いやぁ風船じゃないんですよ

「ハハハ…」

「へ…エヘへ…」

自分が幽霊だということにズッと引き目を感じていたけど、話を聞いてもらうと、今まで縮こまっていた気持ちがほぐれてきた。

「やっぱり幽霊になるってのは、この世に未練とかあるのかなぁ」

「無いですよ。私は…。気がついたら幽霊だったし…それに始めは、そのことにも気がつかなかったけど。でも…悔しいとか、悲しいとか、そういう気持ちでいっぱいになっちゃってる人もいました。スゴク可哀そうで…」

「えっ?えっ?えぇぇっっ

また向こうで女の人が大声を出した。
あれ…?

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「騒がしい店だなぁ…食べ終わったらどこか他所で話そうよ」

「はい」 …向こうの人たち…どこかで会ったような気がするなぁ…。

(つづく)

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2009年8月24日 (月)

マカロニ ①

Dscf1807

「ナギサーン 地面に降りませんか? 空ばかりで たくさん つまらないです」

Hands1 「えっ…あっ…そう?」

相変わらず言葉のヘタな『石』…。私が教えてるから仕方ないけど…。
今は時計の姿で私の左手に巻きついているコロンさん─ 
旅の道連れになった「石」のことをそう呼ぶことにした。コロコロ転がる石だからコロン。
石といっても、お地蔵さんだったけど。元から名前は無いそうだし、付けられた名前も知らないらしいから。
言葉に慣れていないコロンさんは、私を『ナギサン』と呼ぶ。
「ナギサ さん」じゃなくて「ナギサ ん」
別に「ナギサ」でいいんだけど…

「どこか…行きたいところ、ありますか?」

そう言っても風任せだから思うほど好きな方へ行けるわけじゃないけどね。

「群れの 人達のいる地面 いいですね」

「えーっそれはちょっと嫌だなぁ…

「何だから ですか?」

「いや…誰かに見られたらヤだなーって…

Dscf6821

風に乗って青空の中にいる私は、これでも幽霊だ。
人に見られたりするのは、好きじゃない。
怖がったり、驚いたりされるから…
要領のいい幽霊なら、そう簡単に見られることもないだろうけど、わたしはどちらかと言うと「へたっぴ」だから、やたら見られたりする。

Dscf1690 「ナギサン ホントは 人に見られたいじゃないですか? 本当は 見られたくないじゃなくて。 ワタシ 見られない しかできない ですから」

う…鋭いこと言ってるかも…
確かに仮の体を作って中にいるときは堂々としてられるけど、今のまま人目に出るのは、すごく怖い…
心だけの存在のような私は裸同然ということになるだろうか。
だから見られそうな気がしてオドオドして、かえって人目につくのかもしれない。

「ちょっとだけですよー。ならいいけど…」

「はい ガッテン 承知でした」

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風の進む先にてっぺんがキラキラ光る塔のようなものを見つけて、そっちへ向かってみる。
思ったとおり街の方にやってきた。いざ街へ入るとなると、なんだかドキドキしてくる…。
とりあえず、なるべく人目につかないところを見つけないと…大きな看板が見える。
あちこち剥がれ落ちているみたいで網のようなものをかけてある。とても古そうな看板。あそこならそれほど見られないかな…

Nagisahawaii 「ここで待ってるから行ってきていいですよ。いつまでにします?」

「そね。5時 どうですか?」

「えっ?かなりあるじゃない」

「短くですか?」

「いや…別にいいよ…

コロンさんは「待ってました」とばかりに私の腕から離れて形を人の姿に変えた。
今日は─ 女の人の姿 
「石」だから男女の区別は、無いらしいけどホントのところどうなんだろう…

Dscf1615 「ナギサンも 来るといいよ。 見える姿なら 恥ずかしい ナイね」

「でも、私幽霊だから…

「暗いだな。いつも空飛ぶだから 上昇志向 ですよ」

ヘンな言葉知ってるなぁ… 石のクセに軽いし…

「うん…考えとく。ここに飽きたら降りてみるよ」

コロンはニコッと笑うとビルの谷間に飛んでいった…
いつもは、あまり動きたがらないから左腕に巻きついたままだけど、こういうときは動きが早い。前に「人間 見るの好きです。大盛りで…」とか言ってたけど

「あっ 時計が行っちゃった

忘れてた… どうしよう。時間が分からないとどこにもいけないや…。

Dscf1779

Dscf5390 しばらく空を飛んでいたけど遠くまで行くわけにも行かないので結局、街に戻ってきた。
ビルの間に挟まれたところを人がたくさん行き来して、どこからか楽しそうな笑い声も聞こえる。 …私も下を歩いてこようかな…
少しくらいなら仮の体降りれば大丈夫だよね。でも、あと何時間あるかなぁ…

人気のない薄暗い通りを見つけて、体を造った。
街の中は、道から車が締め出されていて、人が大勢車道を歩き、あちこちになにやら人の塊があった。それを見ているだけで不安になってきた…
さっきの通りには、全然人がいなかったのは、皆ここにいたからかな?
どうやらお祭りかなにかのようだ。

ドキドキする…体があるからホントに胸がドキドキしてる…

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Dscf1581 空のこぼれ種と 緑の食べ残しと 大地の吐息
そういうものをかき集めてこね上げた私の体。それでも人と同じように動く。
ドキドキとは、しているものの「体」という鎧の中から外を見ている安心感があるから、すぐにでも逃げ出したい気分も少しは薄れるよ。
でも、すれ違っていく人が急に立ち止まり
「おや?キミはホントの人間じゃないな」と聞いてきたらと思うと、ちょっと憂鬱だ…。

「ちょっとキミ?」

000153うわあぁぁっっ

振り向くと知らない男の人
嫌だ…正体バレたっっ?

「すっごい驚き方だね。こっちが驚くよ!」

「あ…すいません…。あの…なにか?」

「何か探してるの?」

「いえーっヒマなんでー。ただブラブラと…」 普通にしないと…普通に…

「だったら、そこの店で少し話しようよ。外は暑過ぎるしさぁ」

Dscf1627 「でも…」

こまったなぁ… でも幽霊とはバレていないようだ

「誰かと待ち合わせ?」

「はい…友達と5時に向こうの通りのビルの屋上で…」

「屋上?」

「いえビルの中です

「5時なら、まだまだじゃん。適当に時間つぶしにもなるでしょ?」

「…はい、少しなら…」

Dscf1584

理由が見つからず、言われるままにその人に付いて近くの店に入った。
うーん…困ったな…

000643 「いらっしゃいませー」

「ふたり!」

「2名様ですね。こちらへどうぞ」

うっわーっ こんなところ初めてだ…。

「こちらのお席へどうぞ。 お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」

なんていうんだろ…お店の中、外国みたい…。
明るくて、なんだか天国みたいな気がする。
よく夜を過ごす空家とは大違いだなぁ。

000640 「なんにする?」 向かいの彼がメニューを私に手渡す。

 ナニこれ 写真載ってない文字ばっかりだ…英語まで書いてある。
小さい頃、両親と3人で大きいレストランへ行ったことがあったけど、あそことはずいぶん違うなぁ…そういえばあの時、何を食べてたんだっけ? うーんと…

「名前聞いていい?」

「ま…まだ決まってないです

002086「いや…それはゆっくりでいいよ。君の名前の方さ」

「あっ…ああ…私ナギサです」
 
なんだ…ビックリした…すごく、ぎこちない私…

「素敵な名前だね」

「はい…ありがとうございます…」

「…僕の方は聞いてくれないの?」

「ご…ゴメンナサイ! お名前は?」

「カズヒロ!」

「なに…」

008003 この人もカズ君と同じ名前
私の行く先には「カズヒロ」って名前の男しかいないの?

「…いや、ステキなお名前です」

「女性にそんなこと言われたのは初めてだなぁ。すごくありふれてると思うけど」

「そんなことないです!たぶん…絶対…」

     ミーッ…

「なに 何の音

「オーダーしないと…まだ決まってなかった?」

…忘れてた。

「お決まりですか?」

「アイスコーヒー!ナギサちゃんは?」

えーっ! えーっ! どうしよう…
あ…そうだ思い出した

「マカロニグラタン

「えぇっ

Dscf0910

     (つづく)

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2009年8月 9日 (日)

廃墟の歩き方Ⅳ 『ちいさな頃から』②

Dscf0329

「へーっここ遊園地かなにか?」

「いえ…ラブホです…」

「えっ?ランボー?」

「ラブホですよ」

「らぶ…。あっあぁ~っラブホテルね。なんだ…変なとこーっ

Dscf0265 変なとこって…
しかし、廃墟嫌いと言いつつ、ケロッとしてるなぁ。
自分で来たいって言った手前、仕方ないだろうけど。

「良く見たらスペースシャトルの形だ。キレイな時だったら来ても良かったねぇ…」

「…」

「こういうところ、良く来るのぉ?」

「いや!ラブホは行かないです

「はぁ?廃墟のことだよ」

Dscf0305 う…墓穴掘った。なんか調子狂うなぁ。
なんていうか、いかにも理解のなさそうって感じの人と来ると、私もこんなところで何やってるんだろ…って気がしてくる。
師匠だったら、私が言ったことに的確にリアクションしてくれるけど、趣味が違うからなんだろうけど。
師匠は聞き上手だよ。やっぱり…
あ~っ神経が疲れてくる…

Dscf0290「営業していた頃は、まだ上水道が来てなくて地下水汲み上げだったそうです。それが近くの道路工事の影響で水が上がらなくなったと聞きましたよ」

「それでこんな有様に…中、見れれる?」

なんだか美玖さんのほうが乗り気だなぁ…
彼氏と廃墟へは行ったことがあるらしいから慣れてるんだろけどね。
好き嫌いは感受性の差なんだろう。
シャトルルームの中でも割と中がきれい目なところを選ぶ。
と、言っても、どこもかしこも木片や誰かが放り投げた室内電話や消火器とかの備品も散乱している。
いつから放ってあるのか知らないけれど消火器は、破裂することもあるらしいからなるべく近づかないようにしてる。

「気をつけてくださいよ。頭の上とか…」

Imga0237

Imga0236「わーっ汚ったないでも広いんだなぁ…。こっちは、お風呂だ腐ってるーっ

「…」

こう、わかってくれそうな人だったら「ここがいい!」とか「ここはキレイだね」とかも言えるけど今日の場合は難しいなぁ…。私が私らしくなくなる。

Dscf0249

「どのくらいやってるの?」

「えっ?何がですか?」

「こういうところに来るのをさ」

「そう…5年くらいになるかなぁ…始めは同じような趣味の人を知らなかったから、ずーっとひとりで…」

「ふーん…でも今は、理解ある彼氏がいるからいいよね」

「へっ?誰…まさか師匠の話

「うん」

「ち…ちょっとぉなに言ってるんですか勘弁してくださいよ

「だってぇ、こんな怪しいところに一緒に来れる人ったらそうじゃないのぉ?」

ないないないですかんぐり過ぎですって

「もう外へ行こ。なんだか空気がスゴク重たい感じがするよ…ここ」

ふーっ。いきなり何を突っ込んでくるのさ…あ~っ早く帰りたい

Dscf0272

Dscf0229 シャトルを出て、管理室と通常ルームのつながる棟へ。
真っ暗なボイラー室を通り抜けるとき、美玖さんが背中にピッタリ張り付いてきた。
反対側の客室の棟はいくつか部屋が並んでいるけど端から2部屋は内装作製中に工事中断して、柱とかが剥き出しのまま。
たぶんシャトル棟だけで用が足りたので全てを完成させずに営業していたんだろう。
一番手前の部屋もボイラー室から直接繋がっているので客室ではなく、乾燥室に転用していたようでタオルや浴衣が散乱して、天井には物干しがたくさん。
のこり3部屋が客室として使われていた。もっともひとつはガレージのシャッターが閉まったまま壊れているので『開かずの間』と化している。

Dscf0283 「ずいぶん人が来てるんじゃない?あちこち壊されてるけど…」

「たぶん、肝…」 マズッ

「なに?」

「いや… 危ない危ない…

Dscf0308

「小さいころさぁ…小1くらいの時かなぁ!捨て猫を拾ってさ、真っ黒いけど目がビー玉みたいにキラキラの子猫。近所の子とこんな狭い階段のある空家の2階で飼ってたことあるよ。その頃、私んち社宅だったし、他の子の家もダメだったから…」

Dscf0315 「そうですか…」

「カワイかったんだぁ。すぐ死んじゃったけどね…っていうか殺されたんだけど」

「えぇっ?」

「みんなの秘密基地にしてたけど、ひとり男子がさぁ、じぶんの兄ちゃんに教えちゃったのさ。後で白状させたけど…。その子達、行ったみたいで“黒猫は悪魔の使いだ!”って寄ってたかって蹴り殺しちゃったらしい…見つけたときはもう、ボロボロで冷たくなってた。あんなやつら呪われてしまえばいいのに!」

「…

「それからこんなとこ来なくなったよ…」

そういうことあったのか…
ないとしても普通は、廃墟好きにならないだろうけど…

Imga0249

「もういいや…帰ろう

「なにかに…なりました?」

「うーん…よくわかんない私には、さっぱりさぁ…」

その横顔からは、廃墟が好きだとか嫌いだとか、そういうことは読み取れない。
意外とスッキリしたような表情ではあるけど…
ただ、ここに来てみた─それだけなのかもしれない。

Dscf0268

「このシャトルがホントに飛んでいったら私たちの街の上だよね」

Dscf0345 朽ちかけながらも整然と並ぶシャトルは確かに街のほうを向いている。
夜なら、空と地上の星に挟まれる…ここは天と地の境目がわからなくなる景色なのかも…
でもシャトルは、静かに…ただ静かに空を見上げるだけ
鳴り物入りで打ち上げるスペースシャトルとは違うから…

「たまに…アツシも誘ってあげて」

「いいんですか?

「うん!たまにならね。アキさんの彼氏と3人なら構わないよ」

だから…違うって…

Dscf0306

Dscf0301 「あーっビックリした…人が来るとは思わなかったよーっ

「そうですなんですか?人間はいろんなとこへ来るあるますね…」

「そう…“あるます”だよ…

Youtube/JUDY&MARY『小さな頃から』

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2009年8月 5日 (水)

廃墟の歩き方Ⅳ 『ちいさな頃から』①

Coffee

『幽霊?』

『う…疑うの?アキさん』

『いや…そういうわけじゃなくて…』

『ホントにあの時見たのさ!あの炭鉱で…』

Dscf9574

美玖さんに相談があると言われ週末、街で会うことになった。
久々の青空の下は気温もグングン上がり、通りは歩行者天国。夏のイベントでごった返している。どうも人の多いところは私の性に合わない…
待ち合わせた美玖さんは、この前、写真の師匠である神さんと行った山奥の炭鉱跡で偶然出会った。
彼氏に連れられてそこに来た美玖さんは『廃墟趣味』ではないらしく、あの草深い森の中では当然のごとく不満そうで…。
途中、ちょっとしたことから機嫌を損ねて遺構と樹木でうっそうとした森の奥を突っ走って行方不明になってしまった。しばらくして無事、見つかったけれど…

後日、その美玖さんが師匠を通じて私に連絡してきた─
まさかとは、思ったけど…

『名刺を見つけたの。アツシの部屋で。神っていう人の…それで連絡してみたんだ…』

Nagisamiku なんの気なしに会ってみて、幽霊の話とは驚いた。
悪いけれど私は幽霊を信じる方じゃない。というかまったく信じてなどいない。
信じてたら廃墟など絶対行かないよ。
しかも、あの時に見たって…あの時は、まっ昼間じゃないのさ。

『すぐ近くにいたんだよ!はじめは、なんだろ?って感じだったけど、振り向いて“大丈夫ですよ”とか話してきてさ…』

『えぇっ…?…で、どんな感じでした?』

『うーん…白っぽくて少しユラユラしてて…影っていうか…そう、若い女の人の影に見えた!』

『女?』

『そう!若くて…ワンピって感じ』

『… 

古い炭鉱跡に昼間っからワンピースの女の霊?それは誰も信じないでしょ…まいったなぁ…

Dscf9533

『信じてないっしょ?』

『いや…そういうわけでは…』

『ホントは、私も今になったら本当のことだったか怪しくてさ…。幽霊じゃなかったら宇宙人かなぁ…』

Dscf9516その…あの、彼氏の人には話したんですか?そのこと…』

あの森の中で私と師匠、美玖さんとその彼氏、4人が右往左往していたのは、ついこの間のこと…
その日以来、雨の日が続いて思うように探索はしていない。
彼女ともそのときぶりだけど、神経質そうだったあの子が私に会いたいと連絡してくるとは思わなかった。

『そうなのさ!』

わっ!なんだ急に!

『あの日以来、ああいうとこ行かなくなったんだよね。アツシ…ひとりでも行かなくなったみたい。前は、ちゃっかり計画してて当日発表みたいなー』

『それは、まあ…ああいうことのあった後ですからね…』

『映画とか…ショッピングとか…連れて行ってくれるんだ。郊外へ出かけたって「また?」と思ったけど全然寄らなくなった』

『それはそれで、良かった…んじゃないですか?』

『…』 

Dscf9521

美玖さん…黙ってしまった…。
返す言葉に失敗したかな?
師匠に今日、美玖さんと会うんだと話したら…

『気をつけてくださいよ。あの子、神経質そうだから…』

『大丈夫です!師匠より女の扱いには長けてますから』

そ・れ・が!イカンのですよ。話すときは、しっかり噛み砕いてからにしたほうが…』

『買いかぶらないで下さい。これでも私、ご飯は、しっかり30回噛むんですよ!』

『会話の話ですよ。それに、それを言うなら“見くびらない”です』

やっぱり師匠にも来てもらえば良かった!
用事で札幌へ行くって言ってたけど確信犯だなぁ…
なんだか、緊張してきた…。
お腹空いたなぁ…緊張するとお腹空いて来るんだよ…
あーっこの暑いのに熱いグラタン食べてる子がいる。変なヤツだなぁ…

Dscf9426

『ねぇ!ちょっとアキさん!聞いてるの?』

『あ…はい!聞いてます!』

『で…ものは相談なんだけどさ!どこか知ってる廃墟に連れてって

『えっ?えっ?えぇぇっっ

思わず大声が出て、回りの視線が一斉にこっちへ…
美玖さんもグラタン女もキョトンとした顔で私を見つめてる…
うわぁーっ恥ずかしい…
美玖さんが急に思いもしないことを言い出したからじゃないかーっ

『私、廃墟なんか嫌いだよ!でもさ…ああいうところでアツシは幸せそうな顔を見せてくれたのさ。今でも笑ってくれるけど…違うんだよね。なんだか自分にウソ付かせてるみたいなのさ…』

『はあ…』

『一緒に行ってても“こんなとこ嫌だ”って感じで見てたから、アツシの感じるものをわからなかったんだなぁって…。そういうのを理解したい気持ちもあるんだけどアツシ行こうとしなくなっちゃったし。ああいうことのあった後だから私から言えないし…』

この前、グチってばかりいた子とは思えない。
今時、こんな理解力のある子、いないじゃないか。
私もこういう理解ある彼氏欲しいなぁ…廃墟趣味に理解のある…

Dscf9572 『愛してるんですね…』

『へへっ… まあね…』

『で…いつ行きます?』

『明日でも、どう?時間ある?』

『明日

『アツシ、明日まで仕事で出張だからさ。近いとことかないの?』

『いや…あることはありますけどね』

弱ったなぁ…師匠もいないし…
近場か…近いとこ…ないことはないけど…

Dscf0266

『こんにちはーっ』

おやぁ?またあんたかい!物好きだねぇ…こんなとこばっか来てたら嫁の貰い手なくなるべさ』

『だいじょうブイです!すいません今日も見てきていいですか?』

ああ!怪我だけは、しんようにね。あんなとこだしさ…。また写真かい?』

『いえ!今日は見るだけで…。あっちのバリケード、大きくなってましたけど、また誰か来てたんですか?』

Dscf0267 師匠と一緒に来たことのあるこの廃墟は、ずいぶん前に閉鎖されたラブホテル跡。
高台の突端にあるので上水道の充実していなかったころに近隣の道路拡張工事の影響で地下水脈が変わり、地下水を汲み上げられなくなったのが閉鎖の原因とも聞いている。
この廃墟に隣接している裏の道は一見、ここの道のように見えるけど、まったく無関係で、奥にある家の私道だ。心霊スポットの噂もある場所だから夏になると肝試しの連中が毎夜のように来るらしい。
事情を知らない人が奥の家をホテルの廃屋と思って勝手に覗きに行くことがあったんだそうだ。
そういうこともあるので、ブログに場所のことは載せられないし、時々来る情報照会のメールも丁重に断わるようにしている。

『この前の連休あたりからね。ボチボチ出てきてるよ…

『あまりひどかったら通報した方がいいんじゃないですか?』

『いんや、そこまで迷惑こうむってるもんでもないし…ウチのもんでもないからさ』

Dscf0328 心霊の噂もあるここは、夏場になると肝試しのハッテン場になっているらしい。
噂の信憑性は、近所で聞いて回っても「そんなこと初めて聞いたよ」と言ってたくらいだから、やっぱり怪しいんだろう。
それでも冷やかしの連中は良く来るらしく、中はずいぶんと荒らされてる。それとは別にこっそり不法投棄していく人も相変わらずいるみたい。
他にも銅線の窃盗目的で来る人もいるらしく、あちこちの電線が切断された跡がある。
天井裏にまで入った痕跡もあったし…

Dscf0262

『ずいぶんかかったね。面倒なの?』

『いえ!世間話ですよ…。ホントにいいんですか?』

『…うん

今まで、いろんな廃墟を見てきたけど、こんなに気が重いのは初めてだ…
とりあえず、近場と言えばここしか知らないし「心霊の噂」だけは黙っておこう…

(つづく)

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