2009年7月17日 (金)

いちごいちえ ③

Dscf8087

ザーン… ザーン… 海の見える山の上まで来た。ここまでも潮騒が聞こえる。
下の道を忙しく走る車の音もなんだか波の音のような気がして心地いい。
海はやっぱりいいなぁーッ
港に大きな岩が見えた。船よりもとても大きくてまるで山みたいな…。
実は大きな海亀がジッとしているだけだったりしてね…

Dscf8079

『ここにいるところがワシどものいる山でした』

『いいところですねーっ海が見渡せられて…ここは、なんて山ですか?』happy01

『下に住みいる人物は“かんのんやま”というわな』

かんのんやま… 観音山…? 観音様がいるんですか?』coldsweats02

『どこさかは知らんしな…でゃが、わちきもそのひとつらしきことです』

『…? あなたの体はどこなんですか?』

『あの木な下におります』

Dscf8082

遠くまで海を見通せる山の中に細い道がずーっと続く。
その両側にはたくさんのお地蔵様が並んでて優しく微笑んでいる。その目は何を見ているのだろう。
昔(生きていたころ)、人は死んだら神様の元(天国)へいけると思っていた。
でも、幽霊のこの身になって、いまだに神様にあったことがない。
ホントは私にとって行かなければならないところがあって、そこにはたぶんいるんだろうけどね…。
それは、私がさまよっているから…迷っているから…迷ってるのかなぁ…think

Dscf8086 『こいつが、吾ですねぇ…』

『えっsign02これって神様(仏様)じゃないですかsign02あなたは、神様だったんですか?』coldsweats02

『いやさ、ここまで人共が持ち上げて、こな形したです。何かに見せたいだろね。ワシらば当たり前の石ですねい』

『ほかの…お地蔵様もそうなんですか?』

『きとね…そうだしょね』

Dscf8084 木の根元に並ぶお地蔵様の端で、柵に寄りかかる一際小さなお地蔵様が、この人(石)だという。
確かにお地蔵様の形はしているけど石には違いない。
私のいた家の近くにも小さな神社のような家があって、その中にお地蔵様が入っていた。
一度、覗いてみると、その顔はとても怖かったけど…。覗いたので怒っていると思ったものだから学校帰りにそこを通らず遠回りするようになったっけ…

『いいですね…お友達がたくさんいて。人もたくさん会いにくるだろうし…』

『いんにゃ!人々と同じもので。小さくなると、それずれ、あちらの考えること分からんようなりす。元よりし、動かぬからに…』

『じゃあ…ここに並ぶほかの人(石)とは…?』

『話もたなです。話したは、ここに訪れはった傷をした小さの人だけ』

『傷? 小さい人?』

『女な人だに。顔に大きの…小さのたくさん傷ついてさ、背をこう…曲げなさったな人』

『…おばあさん…sign02 その人と話をしたの?』

『話せなんだす。こちさ話、聞こえなで。そん人な、いつも“なまんだぶ…”ゆうだけでた。なんことだろかな』

Dscf8081

その、おばあさんは、お地蔵様の姿をした石の人をお参りに来ていたんだということは想像できる。
“なまんだぶ”…お経だろうけど何て説明したらいいのかなぁ…

きっと、あなたの姿が神様だから願い事されていたんですよ』confident

『ふむ、そら思いた。何か願いばされてんね、何かしねばならん思いした。でも聞いたは“なまんだぶ”いっこです。そっていつか来なくなりやった…』

来なくなった… 来れなくなったんだ。そんなおばあさんに高い山の上はね…

『でやから、下へよって探しいたりてたり、人の言うことを聞くことやってしとりました。人の日は短けけどもみんなさん滅茶知っとります。石ん日は長けども、見て聞いとらだけやす。人は面白て飽きまへん』

『そうかもしれないですね…』

Dscf8066

『おで、おまさんは、人なだすか?』

えーっsweat01 急に何を聞きだすんだよ…。難しいこと聞くなぁ…despair

もちろん人ですよ…。体は…ホントの体とは離れてしまったけど…今は心だけで生きてます』

Dscf8046 『人んてのは、みな、あゆこと出来ようなるんですか?』

『あゆこと?って…』

『辛抱ない石を細くするやとか…』

『えぇっsign02 あれは…わざとじゃないって言うか…わざとか…。sweat02その…すいません。あれ、仕方なかったんです』coldsweats01

『なんらOKです。石らは小さなるだけんで何も変わらす。あの、空さ飛んで来くるのは良かすな。遠くんの人も見て来れる』

『気持ちいですよー風に乗るのは。思い通りの方へ行ってくれないから風任せだけど…』

Dscf7978 そういいつつ、この海に来るまでずいぶん苦労したことが頭をよぎり、自分ながらおかしなことを言っている気もした。

『連れてたもらねんばできんかな?うぬもそうして沢山人ん話ば聞いて、見てきたす…』

『うーん…じゃぁ…風の乗り方、教えましょうか?コツさえ覚えれば簡単ですよ。数日も練習すれば』

Dscf8078 『じゃがま、うぬら石は、よう転がりしも手前で動きらすんのは、上等でなさするしな…。よか、簡単手前手法があるますわ』

そういうと石の人は、人の姿を崩して小さな塊に変わっていく…

『その手の方一本、上げ立ててもらえぬかない』

『???』

言われて手を上げると石の人は、ヒュルヒュルと左手首にまとわりついてきた…。

Dscf0441 『えっ?なに?』coldsweats02

気味が悪くなって、思わず払いのけようとしたところで、その形が固まりだして…
どうなるのかとジッと見ていると、形がハッキリしてきた─

『時計?─』

『そすな。人は、みな、こげんなものをしとるましたから』

『これって…時間合ってるんですか?』

『いちおクオーツ(水晶)だすらら、石んは得意なこってす。ほな、行きまっせら?』

時計─ 時計だーっ変な言葉で話す時計─。
妙な時計…じゃなくて石と知り合ったなぁ…

『何しすたか?』

『いや…なんでもないです。sweat01 じゃあ…行きましょうか』

『よろしく頼もす…』

Hands1

やさしい潮風が山のてっぺんにある森に吹き込んできた。
海に浮かんでいる小船みたいにちょっと妙な気分と何だか説明しずらい気持ちも心の中でプカプカ浮かんでいた。
いいや!とりあえず旅の道連れ、ということで…
風に飛び乗って小路を突き抜けて空高く上がっていく。

今の正直な気持ち…
私の時計─ なんだか嬉しい─ heart01

Youtube 『いちごいちえ』 やなわらばー

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2009年6月23日 (火)

いちごいちえ ②

Rockfallnega私に向かって崖のてっぺんからゆっくりと回りながら落ちてくる岩を見ながら思った…

「また、厄介なことに巻き込まれるんだな…」

Nagisabom 人の目に触れないように風任せの旅をしていても、行く先々で何かしら事件が起こる。
厄介なことは、人の世界だけではないようだ…
いろんなものと出会って いろんなことになって…その度に何とか切り抜けてこれたけど、いつまでも幸運が続くとは思えないなぁ
あの岩を私めがけて落としてきたあの人の考えていることが何かはわからない。
でもなにかしらたくらんでいるのは間違いんだろう。

Rockshot

逃げようが無いことになって、かえって開き直った。
借り物の体を開放してこみ上げていたイライラを岩に全部ぶつける。

        バーン…

パラパラと小石になった岩が夕立みたいに撒き散らされる音が波の音をかき消す…
どうにもならないことになって私は、ホントに開き直ってしまったようだ…
一番避けたかったこと 一番見られたくないところ 
そして、たぶん相手が確かめようとしたこと
あの大きな岩の下敷きになっても、私がこれ以上死ぬようなことはないけど。
なぜなら私は幽霊だし…
問題なのは、私が人の皮を被った幽霊であることで、それを他の幽霊に見られてしまったということ…
粉々に ホントに粉のように飛び散った岩の土煙があたりに漂って、そこにいた敵は見えなくなっていた。

Brind

『さて、どうしよう…でも、戦わないといけないんだな…』

人に化けるのが問題じゃない。
人に化けようとする幽霊がどんな考えを持つかということ。
時間に限りがあるといっても人と霊の世界を行き来することが容易くできるとしたら、それは場合によって良くない結果になるらしい。
私がその力を教えてくれた人が、そんなことを言っていた。
それに簡単に人と霊の間を行き来することは『神様』の意思に逆らうことになりはしないだろうか?
そう思うことがあって誰彼教えることのできる力ではないと思った。

薄らいできた土煙の向こうの「あいつ」の気配は、まだ確かにそこにある。
あいつが何を考えているか、私にはわからない。
人であっても霊であってもそれは同じ。心の中まで読むことはできないから…

Nagisaangry

『あーっ大丈夫だねったね。良かたなや』

相手が敵となったら、本格的にその妙な言葉使いがイラッとする。

『さあ!もう急ぐ必要はなくなったよ!何が望みなの?』

『そうなの?じゃあ教えて欲しかことがあるだよ』

そらきた。人に化ける方法を聞こうと言うんだな… 

Dscf8063 『なにsign02

『人の言葉の作り方、知りたです。どうも難しいよしな』

『はぁっsign02』 何を言ってるのこいつ…coldsweats02

『ずっと人の声、聞いてきたけな、男とか女とか、小さのとか大きの、様々で色々でわからないのよ。だからオラ話すことも…めっさワヤじゃから教えて欲しいもし』

なに?言葉を教えて欲しいって? なんだか思いもしない言葉が返ってきて構えていた私は少しうろたえてしまった…

『そのために私に向かって岩を落としたんですか?』angry

『いや…あれらは、しごく辛抱なかったんらわ。奴ら、もう辛抱できなす。それ、そこの見て後ろごらんね』

Dscf8050

なに?うしろ…? あーっ…coldsweats02
道いっぱいに岩が崩れて小山になっている。
「こいつ」のことが気になっていて目に入っていなかった。
ずっと歩いてきた道は、見上げるほどの山肌に鉄の網が張り巡らされていたけれど、ここはみかんのネットみたいにボロボロにちぎれて岩があふれ出したみたいになっている。

Dscf8046 『本日は、もう落ちれんど、次の来週ふたつ落ちるつもりするす。この奴らは生まれつきの辛抱ないらしいですのな』

『どうしてそんなことがわかるんですか?』gawk

『わらもそいつらと同じ岩ころでから。当たり前、出場所はちゃうけどねん』

『岩?あなた、石なんですか?』coldsweats01

『はいです…』

『でも人の姿してるし…』gawk

Aitsu 『こうしていねとな、貴方みたいな方と会っても話しないの多い。今カッコもホントものでなく、あしは、岩ころだから元よりオスでもメスでもねいよね』

変な話かた…なんだか混乱してきた…happy02sweat01
この人は私みたいな幽霊じゃなくて、なんだ。石の心なのか…石がしゃべるか?
まてよ、わたしに色々教えてくれたのもおしゃべりな石炭だったっけ。

Dscf8053 『で…何を知りたいんですか』gawksweat01

『そね。“なまんだぶ”まず、というのを分るたいなす』

『なまんだぶ?えーっそれはちょっと…なんでまたお経なんかを?』coldsweats02

『“オキョウ”てか?アタのとこ来るンは、皆しゃべる。でも知らんだら』

 

うっわ~っsweat01ますます調子の狂う話し方だな…色んな言葉がゴッチャゴチャしてるみたいだぁ。happy02

『ウラん居るとこぁ、この向こうあっちのほうのどっしり山なだ。行っててみますか?』

この自分が石だという人のことに興味が出てきた。
少なくとも─私の持つ力を知りたいのではないようだ。

『はい。行ってみたいです』

『だいぶ歩くますからけども…』

Fallup 海から新鮮な潮風がシュンと吹き上がるのを感じる。confident うん─

『大丈夫。手をつないでください』

『うっはsign03sweat01

そいつの腕を引っぱって風に飛び乗ったとき、ずいぶん驚いたようだ。
新しい風はとても乗り心地がいい。
風は弱々しくも高くそびえる岩肌を一気に登りつめていく…

気持ちいいーっheart01

(つづく)

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2009年6月 7日 (日)

いちごいちえ ①

Rousoku

『ほら!あれだよ!ローソク岩』

『あれ…?ローソクっていうよりお米の粒みたいですね…』

『うーん…そう言われりゃそうか。でも、あれだよローソクの炎の形にも見えるっしょ!』

波打ち際にどっしり座った大きな石。
こんな大きなのは見たことがない。
ちょっと押したら倒れてしまいそう…。

Road ようやく海に来たーっ。
すぐにでもここから飛び出して行きたいくらいだよォ
いつ以来だろう。ずいぶん長いこと来ていなかった気がする…
トラックのおじさんに乗せてもらって、ずーっと話をしながらここまで来たけれど
海が見えだしてから、あんまり嬉しくて何を言われても半分、上の空だった…
ここまで来る間中、おじさんの家族やおじさんが子どもの頃の話を聞いた。
人(生きている)の話をこんなに聞くのもずーっとなかったなぁ。
まさか、おじさん隣に座る私の正体が「幽霊」だなんて思わないだろうね。

『伝説じゃさーっ…お腹のすいた神様がこの辺でクジラをつまみあげてヨモギの串で焼いてたんだとさ。その串の折れたのが、あの岩だってよ』

『えっsign02そんな大きな神様がいたんですかsign03

『ハハハ…伝説だってsign01で…どの辺りまで行くの?おっちゃん、このまま隣町まで行くんだけどさ』

『そうですねー。どこか止めやすいところでいいです。早く海のそばまで行きたいんで…』

『じゃあー街の入口あたりで止めるよ』

Dscf1604

おじさんは、このあたりの町へ荷物を配達するのが仕事なんだそうだ。
海のほうから潮の香りの風がどんどん吹き込んでくる。
風に乗ってこようと頑張っていたら、気まぐれな風に流されてどこに行ってたかわからない。

Dscf7994 私の爪は、まだピンク色。
これが緑色になってきたら仮の体(命の元を集めて合成した体)から出る時間。
出ないと時間切れになって、この海辺に転がる岩の塊みたいに小さく固まって出られなくなる。
爪が緑色になってくるのがその始まり…それまで4時間ほどだろうか。
少しの時間しか持たないこの体…おじさんは知るよしもない。
目の前で時間切れの私がはじければ別だろうけど…

「あっちの方に古い道があって、親子岩とか眺めのいいところがあったんだけどさ、岩盤が不安定でガケ崩れが良くあったもんだから通行止めになっちゃったさ。この新しい道からだと一番いい景色が見られなくなっちゃったんだなぁ」

「そんなに危ないんですか?」

「まぁねえ…通行止めで仕事にならなかったこともあったよ。道が良くなってから仕事は楽になったけどね…あっこの辺で止めるよ」

プシーッ

空気が抜けるような音がして、大きなトラックは「ウワン ワン」と体に似合わない小さな泣き声を出して止まった。

「すいません!ありがとうございました!」

「泊るとこあるの?知り合いの旅館なら顔が効くよ」

「いいえーっ当てはあるんです」
と、言ってもあるわけじゃない。たぶんどこかの空家にお願いして泊めてもらおうと思う…

Dscf8074 「そっかい!なら気をつけてね。あーっ良かったら、おっちゃんとメル友になってくんないかなァ」

「メルトモ?」coldsweats02

「えっ携帯持ってないの?」

メルトモ? ケータイ? なんだそれ?

「ケータイ…? たぶんないです…」coldsweats01

「へーっ珍しいね。まぁいいや!毎日ここ走ってるから、また会えたらいいね。いつもは退屈な道だけど楽しかったよ」

「はい!私も!」happy01

Truckdown

大きなタイヤがゆっくり動き出して、おじさんの大きなトラックが道に戻っていく。

パーン…

Greennail手を振っているとラッパみたいな大きな音がして、ビックリして手を引っ込めた。sweat01
「あ…」目に入った爪はいつの間にか薄っすら緑色…
もう時間か…ギリギリで間に合った。sweat01
いつもうっかりしそうなので、人のフリをするのが正直まだ怖い。

とにかく、人目につかないところを探さないと…人がはじけるところなんて見せたらエライ騒ぎになるだろうから。
でも、山と海の間に続く細長い街には隠れられそうなところが意外と見つからない。どうしても目の届くところにチラチラ人が見え隠れする。
どこか、いいところは─ あっ♪happy01

Nagisasea

─視線の奥に海のほうへ向かう柵のある道が目に入った。
ちょっとつかわれていない感じの…あそこへ行ってみよう─

ここが、さっきおじさんの言っていたガケ崩れのあった道らしい。
時間は、あまりないけど慎重に回りの様子を伺いながら道を進む。
海から ザーン ザーンwave と波が来て、時折飛んでくる飛沫が心地いい。
『生きている』shineってこういうなんだなぁ…

Dscf8061 私にまだ自分だけの体があった頃─
学校から帰って、いつも海へ来ていた。
波が行ったり来たりするのをずーっと見ていたり、貝殻やまあるく角の取れたガラスの欠片を拾い集めたり、浜で変な虫がピョンピョン跳ねてるのを見て逃げたり…
楽しかったなぁ…海の向こうのことを考えたりして。
今でも私は海のこっち側にいるけどね…カズくんは、この海の向こうにいるんだろうか?
いるところがわかればすぐにでも飛んで行きたいけれど、私にとって海は、まだ越えちゃいけないものな気がする。
その気持ちがどこから来るのかは、わからない…
 『…おや?』

人がいる!coldsweats01 …釣りの人かな?
まいったなぁ…時間もないし、ここまで来たら戻るわけにもいかない。脇道もなさそうなぁ…
でも変な人だなぁ。 人じゃない? もしかして幽霊?(自分も)
かえってマズイよ。sweat01秘密を見られるわけに行かないし…

Dscf7989

私が仮の体を使うことを良くない考えの霊に見られたら、きっとその方法を知りたがるだろう。
生きている人たちに何か悪いことをすると考えたらゾッとしてくる。
うーん とりあえず、見えないフリして向こうまで行こう…あっちまで行ければ。

「普通の人 私は普通の人だよーっ わたし幽霊なんか見えないよー 全然わからないよー」happy02

Goo「…こんちはー」

「…」 無視無視っgawk

「どこ行くんだべ?」

「…」 なんだ?この人despair

「見えてるんじゃないかしら?」

「…」 うっわぁーっsadsweat01

「頭にクモつけてるじゃん」

impactひーっsign03 どこsign02 どこぉっsign02sweat01  …あsweat02

「ごらんなさい!やっぱなあ!」

う…騙された…crying

「見えんフリすることないじゃないですか。別にへんなことする気ないのにヨォ…」

「いえ…あのーっ急いでいるので…」despair

「なんでじゃ?こんな人の来ない道でさ。このまま進んだって海と岩しかないっしょや」

…変な話し方。それをひょうひょうとしゃべるその人(幽霊)は話し相手が来たと喜んでいるのかもしれない。
でも、今の私にはそんな時間は… sad あーっ爪の色、濃くなってきた。sweat01こんなところで捕まってる場合じゃない!sweat01

Dscf8004

「この辺の人じゃないべ。どこから来たのかしらん?ワシが見えるんだば普通の人でねーしょ?」

「か…関係ないじゃないですかsign03私、時間ないんですsign01annoy

あせっているのと、バカにされてるような口調についイライラして怒鳴ってしまう。

「いっやぁ~あずましくないねぇ…少し話相手してくれてもいいじゃない?」

パラ パラパラパラ…

Dscf8030

岩の壁に張り巡らされた網の向こう側で小さな欠片が落ちる音がした。

「危ないよね。あまり大きな声をだしたらばぁ…」

「すいません!失礼します!」pout

Dscf8062 これ以上相手してるわけにいかない。
その人が付いてこないか心配だったけど私がスタスタ歩き出しても、ズーッとそこに座ったまま…
そのままそこにいて!お願い付いてこないで!sweat01

「今は、そっちへ行かないほうがいいだよ。もう本当に踏ん張りが効かんみたいですから」

もぉーっ何言ってるんだコイツぅ!
…とにかく今は無視して行こう。
とりあえず、こっちの都合を終えてからちょっと懲らしめてやろうかな…
annoy

「行かんといてやsign03やめておいたらばsign02

あーっうるさい!うるさい!

「ホラ見れsign03上が来たですsign03逃げれーsign03

何?何なの?…bearing

「あ…うわぁ…っ」coldsweats02sweat01sweat01

Rockfall

思わず見上げたら
こっちに向かって落ちてくる大きな岩が目に入った…

                      (つづく)

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2009年5月24日 (日)

細身の乙女 ロロ・ジョグラン

Fh000088

南半球にあるインドネシア共和国のジョグジャカルタ近郊にユネスコ世界遺産に登録されている世界遺産、ボロブドール寺院群とプランバナン寺院群。共に1991年に文化遺産として登録されました。
ボロブドールは仏教遺跡として プランバナンはヒンドゥー教の遺跡として
ともに世界最大のものです。

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プランバナン寺院群の付近は、あちこちに遠巻きに見るとタケノコ(アスパラの頭にも見える)のような形の塔が点在していて、住宅も石積みのものが多いため遺跡とそうでないものの境界が『大きさ』のような気にさえなります。

寺院群のうち中心的存在であるプラバナン寺院は古マタラム王国のバリトゥン王(在位898年~910年)による建立と言われる。
古マタラムの王宮もこのあたりにあったと考えられているが、伝染病が流行り10世紀ごろ遷都した。
のちの1549年の地震で遺跡が大破した。しばらく忘れ去られていたが、1937年から遺産の修復作業が行われている。
プランバナン寺院群はヒンドゥー教の遺跡としてはインドネシア最大級で、仏教遺跡のボロブドゥール寺院遺跡群と共にジャワの建築の最高傑作の一つとされる。
   (ウィキペディアより)

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ガイド(現地人案内員)の人の話でも修復作業はまだ続いているらしい。
周囲にはまだ、瓦礫の山が転がっていて、地震で大破したというものをよくここまで直したものです。
外壁のレリーフ部分ならいざ知らず、かなり高度でピースの重いパズルなんだ。

『このあたりに住む皆さんが家を作りたいため、静かにたくさん持ち帰りました』へんな日本語…)

そっかー…それで近くの家も遺跡っぽいのか…
遺跡で作った新築住宅っていうのかな…

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プランバナン寺院は現地では『チャンディ・プランバナン』と呼び、またの名を『ロロ・ジョグラン(細身の乙女)』と言うそうです。
確かに細い。遠くからでも目に付くその大きさも現地で周囲を回るとそれほどでもない。
他に高い建物がないということもあるけど、よほど地盤がしっかりしていないとすぐ倒れてしまうんだろうね。

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Fh000096 寺院内はさほど広くはなくご神体と呼べる像があって壁は中で火を焚いたのかと思うほど煤が付いたようで黒っぽい。

それぞれに祀ってある神様が違い、ビシュヌやブラフマー、ガネーシャなどの像があります。それと共に神様の乗り物である動物(牛)が安置されていた。

『どうぞ牛の背に座ってください。きっと幸せがありますよ』

Fh000100みんな座っていくようで牛の背はきれいだ。
でも、背に座ってご利益というのもなんだか変な話。。。

インドネシアの主たる宗教はイスラム教で、仏教・回教そしてヒンドゥー教は少数派になります。隣のバリ島はヒンドゥー教(厳密には一宗教ではない)が主たる島だからインドネシア全体は、実にさまざまな信心があることになります。
だから、プランバナンやボロブドールは、地元の人にとって単なる客寄せの見世物に過ぎないのかもしれない。
だから、地元の人々もホリデーのお出かけ感覚で普通にここを訪れるようです。
『東京』とか『横浜』と大きく刺繍したキャップを被った子がたくさんいたなぁ。。。流行ってるらしいけど。それをいったら日本人も意味も知らない言葉を書いたTシャツを着たりするしね。

ところで牛に乗ったご利益というのは『多産』なんだって。。。

Fh000102 これほどに大きな寺院を誇った権力も時代の流れに消えて行き、国の宗教も考え方もすっかり変わってしまったのかもしれません。
道は、ノーヘルメットの二人乗りオートバイが常に過密状態で走っているし、信号機があってもほとんど守っていない。(ほかの車とかが来ていないとブンブン入っていく)
どこにいてもオートバイのエンジン音が聞こえるから、ガムランとかジェゴクのような郷土芸能楽曲の屋外録音は難しいらしい。

こういうインドネシアの社会を見ていると、昭和の高度経済成長期の日本を見ているような気がしました。

ホテルに戻ってテレビを付けるとインドネシア語のラッパーがマイクを持って凄みを利かせていた。こういうのは世界共通なんだな。。。

Fh000104

プランバナン寺院群は、2006年5月27日に起きたジャワ島中部地震で被災。大きな被害を受けたそうです。その後、修復作業が行われていますが、いまだ作業完了していないらしい。
その以前に行った時の画像なので現在の様子とは異なるかもしれません。

Fh000110

うーんsweat02 思った以上に気味の悪い絵になったなぁ。。。coldsweats01
インドネシアでは犬より猫の方が各が上だそうです。

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2009年3月 9日 (月)

忘れられた大きなもの

Dscf1638

はじめて来た海 この海
向こう側のことは知らない いつもこちら側にいるから
向こう側のことを想うよりも その ただただ大きい海をじっと見ていた。
大きいからココロを呑まれたのじゃなくて
同等の塩分濃度を持つという体内の海が
意識とは別に呼応していたような気がする。

Dscf1648 いまでも変わらないこと
浜辺に行くと、必ず拾いものをする。

ちんまりと可愛い 大木の一部だった枝
ギザギザにトンガってたのに 砂に洗われて優しくなったガラスの欠片
骨みたいに真っ白に変色した貝殻
クチャクチャにいじけた塊になった海藻

みーんな海を旅してきたんだよ。
長い短いはあるんだろうけど…

Dscf1647 海に向かって両側が山に挟まれている風な景色のこの浜は、視界をさえぎるものなど、ほとんどないから前も後も景色が大きい。
前は海 後は湖。
その湖は、湖と言うより湿原の一部である沼です。

海と沼の間が数メートルの微妙な砂山で途切れていて、かろうじてお互いのプライドを保っている。
その均整の保たれているところを道(橋)が通っている。
大雨で沼側が急激に増水してくると、線路や道路の保安上その砂山を切って、放流することもあるそうです。

海側の中ほどに海産物加工所やドライブイン等が砦みたいに固まった界隈があって蛸や干し物を軒に並べているのが道からも見えた。
道の反対側には、ここもまた食事処兼業の貸しボート屋がある。
海に連れて行ってもらえたのは3~5年に1度くらいだったから子どもには、さして面白くないような場所だけど動物園以上に楽しかったよ。

Dscf1669 海に足を入れたり海水の塩っ辛さを確かめたのも
ポケットいっぱいに貝殻やビーチグラスを詰め込んだのも
ボートに乗って漕いでみたのも
カニとか帆立とかがたくさん乗ったラーメンを初めて食べたのも
隠れようも無いような空の下で焼肉なんてのも
み-
んな、ここが初めて
子どもの頃の話だけどね…

Dscf1679

Dscf1672 大人になって 自分でハンドルを握るようになり、再び訪れてみたくなった…。
多くの古いものや 新しいもの達が、現れては消えていく世の中で砦は、かろうじて呼吸をしていた。
わずかな数の暖簾しか下がらず、多くの店は乾ききって自ら最後の変貌を開始している。

何か、思い出の骨片でもないかと浜を歩いてみた。
時代はガラスビンからペットボトルへの変化して久しく、もう波に洗われたビーチグラスを見つけるのも難しい。そのかわり、波乗りの上手いペットボトルが小山になっている。

『そういえば、道の向こう側でボートに乗ったことがあったよ…』

Dscf1993

Dscf1997 道の向こう側の小屋みたいな店は、今も変わらずそこにあって、今でもお客さんを待っているようだけど、主が商売をやめてからもすでに長い年月が経って、かつてはあったそこへ降りる道もなくなっている。
車が絶え間なく行きかう道をどうにか渡って近くへ─。
『貸しボート』といってもボートなど何処にも見えない。海へ出たのか沼へ出たのかわからない漁船が緑にまみれている。
船の名から、このあたりで使われていたものには間違いないようだ。

Dscf1995

Dscf1998 おかしなもので、ボートに乗った記憶は、あるのだけれども店の記憶は全くない。
それほどに自分で操れる船に乗ったのが印象的だったんだろうか?
最も近所の子とオールを1本づつ受け持っても上手く漕げなくてグルグル回ってたけど…
それでも余裕のVサインで笑っている写真がアルバムにあるよ。

貸しボート屋さんだと思っていたら、中の厨房や小上がりのある様子から食事も出していたようです。
もっとも建物が小さいから広い場所ではないけれど、窓から湖(沼)を望む食堂。
ボートはどこまで行けたのかなぁ…どっちにしても非力で無理だったろうけどさ。

Dscf1654

この辺りは古い土地の人々の言葉で『カラス』を指すという。
『カラス』というと縁起が悪そうだけど、黒光りする上等な着物を羽織るその姿から昔の人は、神として見ていた。
その神が船で来た人をこの浜へ導いたという。

また、神(自然)からの施しだけで生きてきた狩猟民族の彼らは、神々の手違いでしばらく苦しんだことがあった。
神々は、あわててこの浜に大きな鯨を届けたという。
その時、人々が嬉しさのあまり舞い踊った踊りが現在も郷土芸能として伝わっている。

Dscf2015

相変わらず上の道では、ゴムで弾き飛ばしたみたいに車がかっ飛んで行く。
どこへ行くんだろうね。
どこへ…

Holga_tape 道が良くなって 車も良くなって
見たいテレビ番組も予約録画しておけばOK
ご飯も家へ戻る頃には、おいしく炊き上がっている。
お風呂もボタンひとつで良い湯加減。
朝ごはんの洗い物も自動で完了してくれる。
洗濯乾燥も手間要らず。
ついでに『たたみ』もしてくれないかなぁ…

でも、みんな時間がない。時間が足りない。
あの頃と今の時間の進み方が同じとは思えない。
ここより、ずーっと最先端で新しい娯楽施設がこの地上から完全に姿を消してもここが残り続けるのは単に後始末の問題じゃなくて、
時間の温度差というか、時の包容力というか、そういうことがあるのだと思うよ。

想い出は廃れてしまったの?

いいや… 海も 空も 湖も昔のままだったよ。
変わったのは、その間に少し挟まっているものだけ。

Dscf1996

Dscf2029pola 変わらないものは、とても大きくて
そして、ただただ大きいばかりで
向こう側のことどころか、こちら側のことさえも
意に介しないかのように不変です…

神々は、人を導いた土地から不在になったのか…

神は、決してその御業に無関心などではなくて
見捨てようとしているのは、人の方です。

このボートハウスは『北海道廃墟椿』内の「ボートハウスの宝石」で詳しく触れられています。
合わせて御覧ください。


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2009年1月10日 (土)

くるり くるり①

Dscf3783

青い空と緑に包まれた大地
鳥のさえずりが聞こえて木々はそよ風に揺れている。
どこまでも飛んでいけそうな空だけど、この空には結界というのがあるらしい。
わたしのような幽霊がこの辺りから勝手に出て行けないようにしてるそうだ。
そう聞いた…

Dscf3776 「でも…ホントにあるのかな?」confident

風が空からまっすぐ吹き降りてくるのが分かる…
途中に風をさえぎる何かあるようには思えない。
風が抜けられるんなら…

ちょっと試してみよう─ wink

Dscf3470 後ろから道沿いに風が走ってくる。
すかさずピョンと飛び乗って道を通り抜けていくと、時折何かの建物の跡が目に入った。
あそこは何だったんだろうね…
そんなことを考えているうちに両側に立ち並んでいた木立が切れて、広い場所へ出た。
風が開いて空に向かって反り返っていく。

Dscf3785 「うん…?行けそう」

他の道からも同じようにきた風が重なり合って上に向かって押し上げられ、一気に空へ…

「あっsign03coldsweats02

Doom 何かにぶつかった。
風は何事もないように空高く走っていったけど、壁に当たったみたいにはじかれて、風の背から転げ落ちた。

「あーっ…」happy02

草の上で仰向け。ひっくりかえったまま空を見上げると、何も知らないのっそりとした雲がモコモコふくらんでる。

「やっぱり、本当か…アハハ…」coldsweats01

なんだかわからないけど、笑いがこみ上げてきた。
今日はいろんなことがあったから…。落ちたショックで緊張の糸が切れたみたい。

「言われたとおり、煙突を探さないとダメか…」

落ちたところは、木立も少なく、開けた場所。
煙突はどこにあるかと後ろを振り返ると

「あーっsign02coldsweats02

Dscf3792

Dscf3427 さっきまでいた『ザナドゥ』とは違うけど大きい建物がドーンと建っている。
急に目の前に現れたようで驚いた。

「わーっすごい…」coldsweats02

煙突は、まだ見つからないけど、この建物が気になったので様子を伺うことにしよう。
木や草が絡みついて、なんだかジャングルの中の遺跡みたいだなぁ…
本かなにかでこんな感じのを見たことがある気がした。
それにしても痛々しいね。

「あ…あれぇーっ?」

Dscf3426

入れるところを探して横から回ると、建物の真ん中がパックリと大口を開けている。
入口という風じゃない。なにか爆発して吹き飛んだ跡みたいに口を開けた穴は、獲物をジッと待っている大きな生き物のようだ…

「何かあったんだろか…」

Nagisaon

Dscf3457_2 そう思いつつ、その大きく開いた口の中に引き込まれていく。
これがホントに腹ペコの怪物だったら私は犠牲者だよなぁ…。
この青空の下、そんなことはないよねぇ…と軽い考え。
薄暗い闇の中に並ぶ柱が奥行きのある怪物の喉の雰囲気がした。

 

Dscf3441中は、こざっぱりと片付いて、とても恐ろしいものが待ち構えている感じはない。
天井がとても高くて広い。
壁際にいくつか部屋が見える以外ここは、ほとんど大きな部屋がひとつだけ。
柱が何本か、この高い天井をやっと支えているみたいだ。
ここの壁も『ザナドゥ』みたいに落書きがたくさんあって、壊されたみたいに穴が開いている。

かわいそうに…。
どうして動けないものにまでこんな残酷なことをするんだろうか?
ここに何か書けば、願い事が叶うとでもいうかのように隙間なく文字や絵が書きこまれていた。

建物が、こんな目に遭った事をどう思っているのか聞いてみようか…

Dscf3430

Keixit 「ナギサ…」

あれっ!向こうからこっちを呼んできたよ…
ん…?名前を呼んだsign02なんでsign02

「だれsign02  誰か、わたしを見ている!

見回すと壁の上にある四角い穴から光るもやのようなものが湧き出してくるのが見えた。
ユラユラとわたしの方へ漂い降りてくる。
正体を見極めようと目で追っていくと
それは、この広い部屋の中ほどに降りて、だんだん一塊になっていく…。

Keigost

これは…この人は…さっきわたしの前で消えた─
ケイさんだsign03

Dscf6595 思わず身構える! わたしを追ってきたんだ!
またあの、恐ろしい姿で何かするつもり?
今のうちに逃げようか?このまま…
でも、まだ煙突は見つかっていない。
見つけたとしてもそのまま行けば、ここのから出る方法を教えることになる。
どうしよう…どうしよう!

「ナギサちゃん…私…」

「いえ…あの…」 どうしよう!どうしよう!どうしよう!coldsweats02

「怖いんだよね…私が。仕方ないか…。
でも…今は、さっきのダメージが残ってるから平常でいられるよ。
少しの間は、話したいことも話せる…」

Dscf3450 何かたくらんでるんだろうか…
いざとなったら、どうにかできるかな…
できないよなぁ…sweat02

「聞いた?私のこと…」

「…」 だまってうなずく…

「これだけは、聞いて。
私の問題は小さなことだったかもしれないけど、
自分にとっては生きている意味みたいなものだった。
ダメになった時、それでもなんとか修復しようと思ったけど
やっぱりダメで…

私…死んじゃえば逃げられると思ったんだ。
嫌になったことを…考えなくてよくなると…どうにもならない辛いこと…。
ところが体が無くなっただけで、ずっと悩み続けてる…。
それどころか、その辛さから永遠に逃げられなくなっちゃったんだよ。
まるで地獄!そう私自身が地獄になった…滅びることもできなくて…

その挙句、悩み苦しむ化物になってしまった…
わかってたら、生きてた方がずっとマシだった…今にしてみればね…」

泣いてるの…ケイさん…

「今だから言えるの!少しでも平常な今なら。そのときだけ自分でいられるから。やっぱり思う…。死ぬんじゃなかった。死ぬんじゃなかった!でも、もう遅いの。『命の還るところ』へも行けないのは、私への罰なんだ!」

Nagisakei

何も言えない。言葉が見つからない…
ケイさんの言うことは、本当だと思う。
信じられる…というより事情も知らずに逃げようとしたわたしは情けないと思った。

「ケイさん、ケイさん。もういいよ!わたしもなにも知らなかったから…」

「ゴメンね!ごめんね!」

初めて会ったときは─
ピンと張り詰めてて、冷たい感じもしたのに
今は、とても弱々しい。
時間が経てば元に戻るらしいけど、ケイさん自身が自分を縛り付けて苦しめ続けるのだろうか…

─消したくても消せないのよ─

『ザナドゥ』で聞いたあの言葉は、そういうことだったんだ…
魂は消せない…
わたしにだってそんな力はないよ…

でも、ほんの少しでも何かにならないかと思いつくことを話した…話してた。
わたしのことを…
隣に越してきたカズ君と会ったことや
今まで旅をしてきたこと…
ケイさんが苦しんでいることをせめて一時でも忘れさせてあげられないかと…

気がまぎれたのか
ケイさんは少し元気になってきたようだ。

Dscf3448

「ナギサちゃんには、今がホントの人生かもしれないね」

初めて会ったときの無表情な人と、今のケイさんは別人のようだ。

Dscf3446 「もう行ったほうがいいよ。私も回復して、これ以上自分を抑えられなくなってくるから…。煙突はこの外の道を行くとすぐ見えてくるよ」

「知ってるんですか?出口のこと…」

「うん!私は、こんなんじゃどこへも行けないし」

「ごめんなさい。力になれなくて…」

「いいの!私の運命。仕方ないわ…
いつかは終わると信じてる。
早く会えるといいね、カズ君と。
あなただったら、普通の幽霊じゃなくなると思うよ」

「えーっ?どういうことですか?」

「ハハハ…わかんない!」

笑った。ケイさん…

「さあ!もう、行きなさい!」

Keihakka「はい!あの…これ、あげます」

ポケットから、ハッカ飴を出した。

「ふーん。ハッカかぁ…シブいの持ってるね」

ケイさんは包みをひらいて口に放り込んだ。

「じゃあ、お世話になりました」

「いや、私が迷惑かけたよ。ゴメン!」

Keihand 「いいえ…あれ…ケイさん?手が…!」

「えっ?…これって…」

ケイさんの手が光を湯気みたいに上げて溶けるみたいに散らばっていく─

「そんなどうして?…まさか飴?わたしそんなつもりじゃ!」

「待って!このままにして… わかる。私の願いが叶うんだよ」

「願い?」

「命が還るところにいけるの。これで…」

「…」 

「ナギサちゃんがここへ来たのは偶然じゃなかったんだね。私を許すために来てくれたんだね。きっと…」

Keigoodbye

「ケイさん!」 

Keiheven笑みを浮かべながら ケイさんの姿は、どんどん薄くなっていく
光の粒に変わって空へどんどん上っていく

「これでやっと救われる。また生まれ変われることができる。そのときは、ホントの友だちになりたいね」

「うん!」

「ありが…」

消えた─
最後の光の粒が天井に吸い込まれるように消えていった。
本当に願いは叶えられたんだろうか…

…そうだよ。叶ったんだ。きっと─

Shot

Nagisadown 「うぁっ!」

急に背中から強いしびれが走る─
何が何だかわからないまま、力が抜けてその場に倒れこんだ…

「ああ…」

気が遠くなっていく… 近くで覚えのある声がした。

「オレの夢も叶えてもらおうやないか!」

 

   どうなるんだろ…わたし…

(つづく)

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2008年10月24日 (金)

テントウムシ祭りと『ブキミちゃん』

Dscf3990

今年の秋の入り口も暑かったです。 とても…
紅葉は来るのだろうかと心配してたけど 

ちゃーんと来ましたよ。お山のほうからね。

Dscf4501 一面の緑の園が 鮮やかな赤や黄色に彩られて
こんなに視界いっぱいの暖色のなのに
寒々と感じるのはなぜだろうね。

緑好きの画家たちは
今年の絵具を使い残せないから
余した色を使い切るために秋が来る。
完成した絵画は、絵具の乾ききらないうちに
どんどん画商に運びだされ
画家は、真新しいカンバスを前に
次の春の構想を練るのだ。

そんな最中の赤い大地を北へ向かう
もう何度も通った道 地図もナビもいらない
山の「赤」に負けない熱い「赤」の牧場めざしていた。

Dscf4023

北海道津別町相生 道の駅から釧路市阿寒方向へ少し走ったところに
『シゲチャンランド』がある。

毎年通うようになって5年ほどだろうか。
もう すっかり顔も覚えてもらって…でもそこの住人の顔はいまだに覚えきれない。

Dscf3959 人には 誰しも『ふるさと』があって
でも 生まれ育った『ふるさと』のほかに
誰しもこころの『ふるさとも』もいくつかあるんですよ。
自分には、この『シゲチャンランド』がそうです。
同じ気持ちの人もきっとおられることでしょう。

紅葉深まる秋とは言えど 暖かい。
この季節
『シゲチャンランド』には秋の風物詩…というか名物の
『テントウムシ祭り』がある。
正直なところオジャマ虫の彼らが大挙して
ランドに集まってくるのだそうだ。

Dscf4502 『いやぁ 今日は、なぜか少ないんだよねぇ。昨日はすごかったぁ…』

気温が下がってくると 少しでも暖を求めるのか
テントウムシたちは陽で暖められた家の外壁にビッシリとくっついてくる。
ウチもそうだけど
日中は下手に家の中に出入りできない。
さもないと春を心待ちにする家族が一挙に増加するからです。

ランドは昼間の開園中、オープンドアなので一般入場者のほかに
紅葉の鮮やかさに劣等感を感じたやつらが山から降りてくるというわけ。

Dscf3968

「毎年ものすごいもんだから シゲもすっかり神経質になっちゃってね…」 
パ-トナーのココさん談

「うちもたくさん来ますけど、天井の隅のやつは『もういいや』って開き直ってますよ」

Dscf3997_2その数はウチと比べ物でないらしく
閉園時間の午後5時から7時まで「やつら」の掃きだしに費やすのだそうだ。
それもすごいね…
なーんにも気にしないのは ランドの住人たちだけ

秋の小春日和の空の下
ボツボツ人も訪れだして
笑い声やら 喚起の声やら 感嘆の声…
数の多さもさることながら どいつも個性が強い。

Dscf3953 訪れだした はじめの数年は
ひとつでも多く見て 写真を撮ろうと躍起になっていたけど
今は ここでゆったり身を置くようになった。
新しい顔や居場所の変わった顔を探したりなんかして…
見に行っているのやら
こっちが見られに行ってるのやら

10月末頃で『シゲチャンランド』は冬の眠りに付く
熱い牧場は白い雪に包まれて
ここの住人たちは長い休みに入る。
今年のシーズンのお客の話なんかしたりしてね。

Dscf3934

帰り際 ショップで、どーも気になった人形があった。

『ブキミちゃん』?

「いやぁ~ちょっと急に縫ってみたんだよね。こういうの作りそうもないって言われちゃうんだけど…フフフ」

うーん ココさん ジュエリーが専門みたいなイメージありますからねぇ…
でも この表情、ブキミというよりとぼけた感じ。

Dscf5266

そんなわけで 気になって仕方なかった『ブキミちゃん』
ウチの部屋でチンマリ座っています。
来年からは、里帰りもさせよう。

シゲチャンランド紹介を含むHP  『Wild Little Garden』 SevenCatさん

今回は『シゲチャンランド』で知り合った親友の『∋(◎v◎)』さんへ送ります。
ランドから離れたところで生活していますが、また元気で会えることを心待ちにしています。  (ねこん)

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2008年9月24日 (水)

廃墟画廊

Dscf3129

ホント言うと Uターンするのが すごく苦手。

できないわけじゃないけど 前に道が続いているのに引き返すのがもったいない…と思う。

だから行けるところまで行ってみて
適当な脇道から本道に戻ろうと考えるんですよ。

Dscf3141

でも 

いけども脇道が見つからなくて、とんでもないところに行き着くこともある。

『地図では国道へ戻る脇道があるんだよね…』

ナビなんて持ってないし 持ってる地図は8年位前の…
 「これ以上、行ってもダメだ~sweat01 ってところまで行って
やむなく引き返した。

Dscf3106 

だけど

戻るんじゃなく 引き返す自分ってのが許せなくて
途中見つけた脇道さらに紛れ込んだ。
ずーっと山の間を縫う舗装道だったからダイジョウブwink ということで…

ところが徐々に舗装と砂利が交互して
そのうち工事を途中で放棄したみたいなところへ出て
きれいな舗装とは えらく様子が変わってきた。
路面は雨に洗われて凸凹
土のうまで路面に散乱してる。

Dscf3142「ここどこだろ?スタックしてもJAF呼べないよ…coldsweats01

…と半分泣きの入ったところで遠くの林に赤い屋根が…。
近くまで行ってみると林に埋もれてて 見るからに廃墟っぽい。
でも人里のいたるところへ出たってことで一安心。
『国道まで●㎞』の表示も見つけた。

 

とりあえず

あの赤い屋根を 今日最初の訪問ということで…
近づいてみると学校のようです。
手前に地区会館(地域公民館)があってますます学校跡っぽいな。
そこまでは笹ヤブが少し続くので 装備を最小限にして いざ!wink

Dscf3109校舎らしきものは少し山側へ高くなっているので
手前のここは どうやらグラウンドというところでしょう。
向こう側に『お墓』のようなものがある。
行ってみると平成7年建立の馬頭観音らしい
しかし 既成の墓石に篆刻したものみたいだし
形はあきらかに『お墓』

その碑を横目に校舎を目指す。
今年は何度か「ササダニ」に食いつかれたので
正直 笹ヤブは苦手だよ~coldsweats01

近くまで行くとやはり学校
それも わりと近代的な体育館のようです。
回りに校舎は見当たらないので 体育館以外は解体らしいです。

Dscf3130

バタバタバタ…

Dscf3126 入ると同時にハトが数羽飛んでった。建物の向こう側から…
そう その先は建物が角から崩落して青空が覗いている。
う~ん、こういうところを見つけるのはハトの方が断然早い。

中は農具の倉庫に使われていたらしく工具や機械が数点置かれている。
でも落葉松の木や笹に囲まれているくらいだから今は使われていないんだろう…
学校の面影としては 生徒用のイスがいくつか投げ出されていた。
記憶は刻まれてやしないかと壁を食い入るようにたどる。
当時の傷らしきものは見えるけど落書きの文字とかは確認できなかった。

Dscf3136

Dscf3118 でもそこに

1枚の絵があるんだ。
朽ち始めた合板に描かれた卒業記念らしい絵が…
シカとウサギ 故郷の山々
こんな風に朽ち果てる定めなら 作者達にとって描くことが空しい
今や 朽ちかけた画廊はこの1枚絵だけを掲げ、終の日まで営業し続ける。

Dscf3138 だがしかし

もう1枚絵があったんだ。
天井から大きく崩れ落ちてぽっかりと開いた壁の向こう
広がる空と緑の絵が…
夏の空 青みがかった雲が流れて
濃いブルーの空が穴のように見える。

なんとなく思った。
バチカン宮殿・システィーナ礼拝堂の天井壁画で
ミケランジェロ「最後の審判」ってのを思い出した。
あの背景も 青空っぽかったね。
神の鉄槌は 天変地異を伴うんじゃなくて
意外とこんな青空の下に振り下ろされるのかもしれないよ。

Dscf3135閉校記念品として保存されるべきだった校旗が寂しく取り残されてた。
真っ赤な 血のような赤 命の色

そして 暖かい色

ミケランジェロ/『最後の審判』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 

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2008年8月 8日 (金)

案山子と炒飯

Dscf9924

北海道の十勝。芽室町西部の農村風景が続く通り。
この道、じつは信じられないほどの交通量、それも尋常でないスピードの対向車とひっきりなしにすれ違う。昼も夜も…
幅員も普通の郊外の町道レベルしかなく、歩道は昭和51年に閉校となった学校があった辺りにしか設けられていない。広くて直線が続くというわけでもないになぜこんなに飛ばす車両が多いのか。

Dscf9986食料自給率の低い日本において、驚くべきことに十勝の食料自給率(カロリーベース:平成18年度)は1100%という話です。その西部に位置する芽室町は『スイートコーン』の作付面積が808ha。収穫量が9,770tで、作付・収穫共に日本一の出荷を誇っています。その反面、就農者人口の減少。少子高齢化による後継者不足Dscf9983 は深刻で地区農村青年部も部員の減少から近隣地区と合併を余儀なくされている例もあるようです。農業を取り巻く情勢も安定したものではなく、家と畑を守りたい気持と厳しい経営を後継者に任せるべきかという気持の葛藤の話も多聞にあります。
Dscf9988 所々に生産者の遺跡が点在するのが目に入り、それを合わせても家の数は決して多くはないように思える。でも古い地図を見ると、その土地にはびっしりと名前が書き込まれていて一戸辺りどれほどの土地を持てたのかと思うほど。
豊かながらもどこかしら寂しい雰囲気があるのは、描き上げた絵を塗りつぶしてしまうかのような激しい季節の変化のせいか、大地の広さのあまり心がぽっかり抜け出してしまったからなのか…

Dscf9931

Dscf9972 この風景の中を車種を問わずたくさんの車が通過するようになったのは、ずいぶん前からです。小型・中型はもとより、大型車の通行料が多い。それも工事関係車両などではなく、貨物車両が特に多いのです。
Dscf9942 何ゆえ、この道にそれほどの交通量があるのかというと、町の中央部を横断する国道38号線を迂回するようにこの道が外側(山側)にあり、日勝峠まで続いていました。
一見、近道?と思いますが、距離的にはさほど差は無く、速度制限やオービスなどのある国道より速度を上げられる分だけ急ぐ人には都合がいいということがこの交通量の理由のようです。ただ者の速度でもないので、警察の測定も頻繁に行われているようですが、常時見張るというものでも無く、歯止めにはならないようです。
道なりに停車して風景でも撮ろうと降りてみても、道の前後に気をつけなければ非常に危ないのがこの通りの印象。

Dscf9991

Dscf9927 この危ない通りに10年程前から『ただ者』ではない集団が通りの左右に立ち始めました。その数およそ60人。
その始まりに位置するところに看板があります。

『かかし街道』

そう、道の両側に点々と立ちつくす彼らは『案山子』。
でもその役目は害鳥から作物を守るという本来の目的ではなかったようです。

それにしてもたくさんいるんだなぁ…

Dscf9929

Dscf9952 ビュンビュン追い越していく車を避けながら撮り続けていっても「まだある!」 「あっ!あそこにも」
その案山子たちも、農夫姿だけではなく子ども・婦人・老人など様々。
中に、手の込んだ一団がありました。
ここのお宅は、陶芸と篆刻の工房「太情庵(どんかち)」で、案山子は流木を加工した手の込んだものです。その姿は、群を抜いてユーモラス。
畑の中なのに漁師なんかいたりして…

Dscf9956 「ホントに凄く飛ばしていくんだよね…」

なんでもこの『かかし街道』は今年限りと聞きましたが…

「うちの前の連中はこのまま続けていくけどね。街道を始めた人たちももう歳だからねぇ。準備とか下草刈りとか、しんどくなったみたいでね。」

そうですか…残念ですね。

「でも、青年部の人達が引き継いでいくって話も出てきてるんですよ」

そうかぁ。ただ消えていくんじゃないんですね。

Dscf9969

Dscf9951 『かかし街道』だけじゃない。
この街では今年度から特産品のスイートコーンでご当地メニューを提案し、『コーン炒飯』プロジェクトを立ち上げ、ご当地メニューの発信を始めた。
ただ時勢や環境に流されるだけじゃなく、小さくてもいいから何か始めてみようという動きが出てきた。
それは何もここだけの話じゃなくて、そういう動きはどこの町にもあると思います。
『なにか始めてみよう』 その気持が、混沌とした世に光を指し示す指標になるのかもしれない。少なくとも何もしないでいるより前進しているよ。

Dscf1558 さて、そのコーン炒飯、味はいかがなものでしょうか?
噂では「あんな感じかなぁ…」という風にも聞きますが…

それは機会があったならどうぞ。味は噂で伝わりません。

ただ…この炒飯は夢と情熱のかくし味がふんだんに香る。

Dscf0040

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2008年5月10日 (土)

ひとつ目の巨人

風になってずっと飛んでいた
雲の間をすり抜けながら何も考えないで真っ白になっている
どこまでも続く空みたいに 心の中が透き通る…

ずっと高いところを飛んでいたけど、大きな山を越えてから低い所に降りてくると、かすかな点にしか見えなかった建物もはっきり見える。
どこまでも続く道がヘビみたいくねくねして、脇に家が点々と座っている。その数がどんどん増えて、その先に街が見えた。道なりに左へ進路を取る。
もう「風乗り」が板に付いたみたいで半分得意気になってるよ。

Dscf8717

「あれ?なんだろう…」

今、通り過ぎたばかりの山に不思議なマークが見えた。

Dscf8686 近くまで寄ってみたけど、見れば見るほど何だかわからない。
風の上からだとゆっくり見れないので、とりあえずこのへんに降りてみることにしよう。

地面に降りると、ずっと高い所を飛んでいると平らに見えた山も下から見るとすごく大きい。
さっきの場所へ向おうと道をさかのぼっていくと鮮やかな色の大きな門があった。
大きいなぁ…こんな門は見たことがない。それに変わった形だよ。よっぽどすごいお家なんだろうな。
その先に続く木立に囲まれた道を登っていくと、さっきの不思議なマークが見えてきた。
「家… じゃない?」
草に覆われた急な階段の先に空を睨んでいる一つ目の巨人がいた。

Dscf8689

Dscf8695 家の階段にしてはすごく長いうえ、とても急だ。
普通の人ならすぐ疲れるだろうなーって思いながらテンテン跳ねながら上がっていった。
途中に白いテーブルみたいなものが…これって…空飛ぶ円盤?
ここは、宇宙基地なのかな?それとも宇宙観測台だろうか…

とりあえず上を目指す。
人がいたら厄介だけど、かなり古ぼけた感じがして、しばらく人もきていないみたいだ。
登りきったところで振り返ってみると…いい眺め!
道を走っていく車が虫みたいに見えた。

Dscf8712

Dscf8711 「ようこそ…!」

「わっ! びっくりした!」

ひとつ目巨人が私を見下ろして力強く呟いた。

「あなた達が来るのをずっと待っていました。歓迎します。」

「たち? 私ひとりですけど…。私のこと知ってるんですか?」

Dscf8700 「もちろんです。ずっと信号を送っていましたから」

信号? 私、そんなの見てないよ…

「ところで、どちらの星からお越しですか?」

「星? 私地球人です。 あれっ?地球人だったかな?前は地球人…今も地球人か。でも人間でもないか…。地球にいるんだから地球人だよ。それとも…?」

「なんだか難しそうですね…」

Dscf8709 「あ…はい。地球人だと思います。いちお…ずっとこの星ですから…」

「しかし、さっき空から降りてくるのが見えたよ。人間には真似できないことだ」

「風に乗ってきたんです。海の方から。 私…幽霊ですから。」

「そうか…地球人か…また違ったんだ…」

古ぼけた巨人が前より荒んで見えた。ちょっとがっかりさせたみたいだな…。

「宇宙人を待っているんですか?」

「そう!ずーっとね。40年くらいになるかなぁ…これが僕の仕事だから。」

「へーっそんなに長く…誰のためにですか?」

Dscf8696 その経緯と言うのが…
宇宙から来る人たちと友達になることを願って集まった人たちが昔、オキクルミカムイという神様がカムイシンタという竜に乗ってこの山に降りたという伝説から、ここに彼を建てたのだそうだ。全て集まった人たちの手作りで。
やがて、その指導をした人が病気になり、しばらくしてみんな山を降りて行ってしまったそうだ。
残されたこのひとつ目巨人さんは、またみんなを呼び戻すためにひとり空に信号を送って、宇宙人が来るのを待っている。

「宇宙人って、怖くないです?」

「そんなことはない。とても美しい人達らしいよ」

ふーん…会ってみたいな。でも、こんな崖みたいなところに空飛ぶ円盤が降りられるんだろうか?

「その『大きいクルミ』って神様はどんな方だったんですか?」

「『オキクルミ』だよ。足元の右にいったところに像があるから見ておいで」

「はーい!そうします」

Dscf8707  

吹き下ろす風に飛び乗ってそっちに行ってみる。

Dscf8691 「あっこれか…なんか変だなぁ…」

神様と言うよりも飛行機だよね。これ… 前に回ってみると…裏に生き物がいた。

「あーっデンデンムシ!可愛いなぁ…」 指で突っついていると…

Dscf8693 「だっ誰だ!ちょっとやめてくれよ!」

「あっしゃべった!ごめんなさい!」

「…ったく…朝っぱらから…」

「すいません…『オクイクルミ』ってこれですか?」

デンデンムシさんは、寝起きでイライラしている風だったけど教えてくれた。

Dscf8687 「『オキクルミ』だろ?もっと向こうだよ。小さい熊が2匹下にいるからすぐわかるさ!」

「じゃぁ…これはなんですか?」

「こいつは、向こうのオンボロを作った奴らが置いていったんだ。なんでも宇宙人が地球の最後の日に選ばれた人間を宇宙に連れ出すための宇宙船らしいぜ。もっとも何も来なかったらしいけどな」

「地球最後の日? それ困るよ。カズ君に会えなくなる!」

「なんのこっちゃ? どーせなら人間みんな連れていってくれりゃいいのさ。もういいだろ!もう少し寝かせてくれや…」

「ありがとう…」 地球最後の日? ずいぶん怖い話だな…でもいまだに来ないっていうのは、まだその日は来てないってことだよね?
デンデンムシさんに聞いたほうに大きい像があった。手前に可愛い熊を2匹従えて。
その神様は静かに座っている。まだ、神様には会ったことがないけれど宇宙人って感じじゃなくて、やさしいおじいさんみたいだ。
石の像は本当の神様じゃないらしくて何も話さなかった…

Dscf8718

Dscf8716 「どうだった?」

「はい…なんか、不思議な人だなーって…」

「そう!宇宙人は、地球人にできない不思議な力を持っているそうだよ」

「死んだ人を生き返らせることなんかもできますか?」

「きっとね。僕のボロボロの体も直してくれるだろうさ…彼らが来たら風に乗せて教えてあげる」

「早くその日がくるといいですね。じゃ!私いきます。どうもありがとう!」

「風に乗るんだったら僕の頭の上から行けばいい。ちょうどいい風が吹いてきているよ」

「ありがとうございます」

Nagisaflight

巨人の頭のてっぺんに上がった。遠くまで見渡せて気持がいい。
ここからなら空飛ぶ円盤が来たらすぐ見えそうだね。
私は、朝の新しい風に飛び乗って山を離れた。

Hayopira

「さよなら巨人さん」 早く願いが叶うといいね…。
振り返ると、相変わらず赤い目で空を見続けていた

ほんの一瞬も見逃さないぞ! という目で…

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2008年1月 5日 (土)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ五】

Dscf1725

海岸にヨタヨタと転がっていた流木。
畑に棲家を奪われて寝そべるだけの雑木の根。
雪解けのぬかるみで呑気に錆びたトタン板。
実っても誰にも歓迎されない歪な瓢箪(ひょうたん)。
律儀に働いていつのまにか老いぼれた鋸の歯。
夜会の席で幸せそうに抜かれたフランスのシャンパンのコルク。
明け方の酒場で眠たそうに捨てられたメキシコビールの王冠。
カーブもかからないほど擦り減ったゴムのベースボール。
遠足の児童にも引率の先生にも拾ってもらえない地味で華のない貝殻。
最後に飛んだ空を草むらから見上げていた鳥の羽。

ザワザワと群れるキュート。ケラケラと慄えるセンチメンタル。
静止したまま大騒ぎする形、色、気配。果てもなく謳い黙々と氾濫するバラエティ。

(シゲチャンランド公式写真集より)

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廃墟サイトでここを扱うのもいかがなものですが、元廃墟。今は熱い空間。
そこは、異形の見世物小屋ではなく、個性が一人歩きしたサーカス小屋。

Dscf1742_2 廃墟であった農場は、悲しみと喪失感であふれ返っていましたが、今では『あいつら』があふれて、いたるところの物影に隠れています。
夢も喜びも、そしてチャンスも本質は足元に転がっていながら探し続けるのが人なのかもしれません。
手塚治虫氏の『火の鳥』が無限の力を持ちながらたった一つの小さな愛を手に入れられないように…
人が打ち捨てて見向きもしないようなもの達が、ここでは人を感動させ、喜ばせ、泣かせます。誰もが見覚えがあって、暮らしの側にあったもの達。久しぶりに出会ってずいぶん立派になったね…というような驚きと、遠いどこかで無くしてしまい懇情の別れとなったものとの再会のような感激に包まれて、『あいつら』は声なき声で語り返すのです。

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ここですべてを見せてしまうわけにもいかないので紹介しきれない大部分は機会があれば是非行ってみてください。
『あいつら』が貴方を鑑賞し、声なき語りを投げかけてくる様を経験してみてください。

近くには、貴方の反応に「ニッ」と子どものように笑うシゲチャンがいることでしょう。
アートに哲学はさほど重要ではありません。要は体験することです。

《シゲチャンランド》 
北海道網走郡津別町字相生
開館期間:5月1日~10月31日  休館日:毎週 水・木・金曜日
開館時間:10:00~17:00

※館主シゲチャンこと大西重成氏は、カメラ(特にオールド物)が大好きです。その話だと大変盛り上がります。カメラ談義に華を咲かせるのもまた結構です。

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Dscf1834 『廃』は『無』ではない
万物は決して『無』から生じたものでもなく、捨てられても『無』になることはない
朽ち果てても燃え尽きても、それは形をかえて見えなくなっただけです。
それは、我々があの「1000の風」になるように…
このランドの「あいつら」もひとつの形の変わり方。
目に止まる「そいつ」はあなた自身なのかもしれない。

おなじようにドライブのみちすがら見かける「廃」はまだ現役なのです。時代の語り手として…
その語り口から見えてくるのもまた自分自身の姿。
でも明確な答えはなかなか見つからないのです
            

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2008年1月 4日 (金)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ四】

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Dscf1688_2 目の前にあるものを、あんなに見ようとしたことはない。
見たものはすべて感情となって、流れ込んだ。
シゲチャンランドで過ごした時間が、チクチクと僕を刺し、ペロペロと僕を舐めている。
(シゲチャンランド公式写真集より)

Dscf1696 神とはなんだろうか?そんなことを考えることがありますか?
社や道際に祀られた神々。美術書なかの絵画や彫刻のテーマとして具象化された神々。
そのほか、仏や土着的な精霊など…

宗教家は其の疑問に的確に答えることができるのでしょうが、欲しい答えが押し問答では困ります。
かつて、豊かな幸をもたらす反面、一端荒れ狂うと驚異をもたらす大自然は、神としてあがめられ儀式によってあがめられました。自然はやがて具象化していき、高レベルな人格を伴って人間と同じ姿形となります。そしてすべてを統括する絶対的な存在が登場します。さらにそこから解釈によって分派が作られ、儀式は格式化。より難しく明細もより細かく計算されます。

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胸元に輝くクロスは果たして神が宿っているのでしょうか?
意味も知らないお経で救われるのでしょうか?

Dscf1690 日常的に『それ(敢えて神と呼ばず)』を感じることはないでしょうか。
ちょっとしたラッキー
意外な偶然
思っても見なかった出会い
まさかの大逆転…
  それはある意味『それ』を意識する瞬間です。
ただ、それだけではなく日常とは違う雰囲気・空間・観念などで『それ』を自覚することがあります。

Dscf1786 そして、崇高に扱われる芸術品もまた神の感覚なのかもしれません。
ピンと張り詰めながら淀みのない空気。凛とした時間。それらは作品をより、神聖化させます。
でもそれらとは違う空気は、魔を生み出すのでしょうか。
其の回答は、この『シゲチャンランド』にあるのかもしれません。
大西氏の現出させた数多の『あいつら』には崇高な空気も雰囲気もない。
拝むとご利益があるとか霊感新たかなものがあるという話もありません。

其処にあるのは神でも仏でもないならそこにいるのは誰なのでしょう。
ガラクタや廃棄物で作られた『あいつら』は俗世の我々の姿なのかもしれません。
本来言われるところの神々は『到達できない理想の自分の投影』
ここにいる神々は『現世での自己像』 そう考えます。

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アナタハ カミヲ 信ジマスカ?

アナタハ 自分ヲ 愛シテイマスカ?

(つづく)

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物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ三】

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泣けない目玉は、目玉ではない。
 泣けない目玉は、笑いもできない。

         (シゲチャンランド公式写真集より)

Dscf1724 シゲチャンランド内に点在する建物は、牛舎・サイロ・母屋・資材庫・飼料庫などがありますがそれらには「手」や「鼻」、「口」などの人体パーツの名が付けられています。
現在、広大な敷地内に新たに建てられたものが年々増殖しています。

大西重成氏は、立体造形に表現の主体を移し、それらの仕事をこなすうちに其の膨大な作品群すなわち「あいつら」が誕生しました。
「東京」の暮らしと今後の生涯のステップを考えたとき、一冊の洋書と出会ったそうです。

ハワード・フィンスターの「パラダイス・ガーデン」。
アメリカ・ジョージア州の牧師でフォーク・アーティストでもある彼が、庭にジャンク材で寺院・教会・ボトルタワー・天使の像等が溢れる庭園を創造した写真集です。

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その本との出会いが大西氏に「東京でできないこと」へと熱意を駆り立てました。
その想いがここ北海道の津別町に「シゲチャン・ランド」として現実のものとなりました。
私設美術館ということですが表現もさることながら空間も一つの作品となるこのランドは、美術館というよりも「あいつら」のコミューンの様相を強く感じます。
作品も自由なら展示も「あいつら」が自由に散っている雰囲気で個性的な「あいつら」の生息域に我々が訪れたような気になってきます。

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Dscf1704 作品は素材や表現方法だけではなく、公開する空間演出もまた重要なものだと考えさせられます。
これらの作品の一部が昨年初頭に帯広市美術館の企画で出張(?)してきましたが、見慣れた場所と違って妙に不似合いに思ったものです。

プレゼントには驚きと歓喜が必要です。
この真っ赤なビックリ箱は、常習癖をもよおすような魅力にあふれています。
美術・芸術の小難しい後付理論などいらない。当世流行のリサイクルなんてチャチなものでもない。
まるで始めからそうなるべくして生まれたもののようだから…

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Dscf1689 「鼻」を離れて「目」の館へ。
白が基調の屋内には大きな連中が並んでいました。
壇上に整然と並ぶこの空間は見世物小屋的な雰囲気。
素材も元々生命をもっていた流木や倒木などなので生命感・皮膚感があって、実在する生物のようにリアルな感覚のものがここに並びます。
素材は「収集」というよりも「捕獲」に近いかもしれません。

朽ち跡は体に。焼け焦げは顔に。自在に伸びた根や枝があたかもそういう体であるかのようです。
こういう素材がその辺にいとも簡単に転がっているのでしょうか?

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『あーあれは●●湖で見つけたんだよ』
大西氏の屈託ない語り口は表現者というより悪戯好きな子といったほうがふさわしいような気がしました。

(つづく)

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2008年1月 1日 (火)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ二】

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赤子はわらい、 老婆はおがむ。
           シゲチャンランド

                (シゲチャンランド公式写真集より)

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そびえ立つ祭壇状のオブジェを見上げていたときに背後の足音に気が付いて脳裏に法衣姿のサイババが浮かびました。
逃げる理由もなく、ましてや入場料もまだ払っていない自分ですから…

Dscf1713 「やぁ、いらっしゃい。」

「あ…こんにちは」 目の前に立っているのはサイババなどではなく、蛍光迷彩ジャケットと特長靴スタイルのアウトドア風の方。宗教家ではありませんが、芸術家とも思えません…

「ちょっとお客さんのお相手をしてたものですから」

「そぅ、入場料がまだでした…」

「お帰りでけっこうですよ。ごゆっくり見て行ってください」 
とても、この祭壇を造った人には見えませんでした。

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Dscf1720 最初の「左手の部屋」で度肝を抜かれてしまいましたが、他の館を見ることに。

「鼻」 と名付けられた館。中はとても暗く、要所に間接照明が置かれています。細竹で作られたカーテンが入口に下げられ外の明かりが侵入するのを防いでいるようです。
柱と梁がむき出しになった屋内はクジラのような大きな生き物の体内にいるような印象があります。
そのあちらこちらに異形の生物がいて、一斉にこちらの様子を伺ってきました。

それらはすべて流木、倒木、廃品などで造られた作品達です。
とくに大げさな細工を施しているわけではないようですが、其の姿は異形でありユーモラス。ごく一部を除いて名前を持たない其のもの達は其の存在が個性であり、名前であるようです。

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作品には空間もまた重要な意味を持つようです。彫刻は屋内と屋外では表情が格段に異なります。
この美術館の館長大西重成(おおにし しげなり)氏は、この町「津別町」出身。

1965年 北海道立津別高等学校卒業と同時に横浜郵便局に入局
1971年

渡米、NYスクール・オブ・ビジュアルアーツに入学

1972年

帰国、東京を拠点にイラストレーションなどの制作活動を開始

1978年

東京アートディレクターズクラブ主催の美術コンペに於いてADC賞を受賞

1979年

Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)のレコードジャケットのイラストを手がける

1979年

坂本龍一のレコードジャケットのイラストを手がける(SUMMER NERVES)

1983年

フランス・Temps Futurs社のL'art Medicalに作品が掲載される

1986年

スイス・Wizard&Genus社よりポストカードが全世界で発売される

1988年

カナダのテレビ制作会社、ACCESS NETWORKの教育番組に作品を提供

1989年

PATER'S SHOP AND GALLERY にて「Smiling time」個展

1990年

モスバーガー小冊子「モスモス」の表紙、及び中のイラストを95年まで担当
 (一時は80万部の発行部数を記録)

1993年

フジテレビ「ひらけ!ポンキッキ」のオープニングタイトルを制作

1996年

「シゲチャンランド」開設のため、北海道網走郡津別町字相生に活動拠点を移す

公式サイト:「シゲチャンランド」(「Wild Little Garden へようこそ(seven cats氏主催)」内より 一部割愛)

芸術というより広告アートの世界で主に活躍してきた大西氏ですが、その表現を現在のような廃品・廃物による立体造形に移してから、その作品群を収蔵する私設美術館の構想を模索していたようです。

その拠点を模索しながら見つけたのが故郷である津別町の相生でした。(メキシコ移住もも考えにあったとか)
大西氏は、その作品を「あいつら」と呼びます。それは、正しいのかもしれない。

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この美術館としての空間は、廃酪農場であったところに手を入れて開設されたところで、其の中に納められた「あいつら」は、一般的な美術館のようにもっとも鑑賞しやすい位置・高さに納められたものではなく、頭の上や足元。梁や柱の影、表に逃げ出しているようなものやら…鑑賞に来ていると言うよりもこっちが鑑賞されているような、魑魅魍魎の館に入り込んだような錯覚を覚えます。

ここを訪れる人は、様々な反応をします。

その滑稽な異形のものたちに笑う人
終始、感心と感嘆が交錯する人
神がかったものを感じる人
何かに共鳴して涙を流す人
怖くて泣き出す子
「あいつら」と同化して走りまわっている子…

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「マタ オカシナヤツガ キタヨウダ…」

そんな声が聞こえてくるような気がします。

(つづく)

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2007年12月30日 (日)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ一】

“ルイン・ドロップ”年末年始企画Dscf1681

ナニカガ ジット 生キテイル
   アフレルヨウニ 其処ニイル
       
(シゲチャンランド公式写真集より)

人生…人生を語るには、まだまだ青二才に過ぎないが其れを承知で、人生最大の驚きと言うか驚愕に近いこの出来事は、ここに来るまでなかったのかもしれない。

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Dscf1721 数年前のことになります。
遠出のドライブとか、週末一泊旅行で主に札幌方面に行くことが多かったので、道東を走ってみることにしました。
そもそも道東に足を伸ばさなかったのは、小学校の社会見学と称した1泊旅行で要所をほぼ回っていたことと会社の旅行でも数回、一帯を走っていたからです。

さほど遠いところではないのに自分で走るのは、初めてに等しい。
それは、近場にいる友人のようなもので会おうと思えば何時でも会えると思っていて全くいかないのと同じです。

GWの喧騒は、外したかったので6月に有休を当てて出発。生田原町(現在遠軽町と合併)の「チャチャワールド(木工おもちゃの博物館)」へと…
あいにく、「蝦夷梅雨」と呼ばれる時期で日程の間、霧雨に悩まされました。どのみち屋内施設が目的だったのと「おもちゃ」が中心ながら大人気なく楽しめるところです。

初日は、北見市で一泊。翌日阿寒回りで帰ることにしてのったり車を走らせます。
相変わらずの霧雨は、むしろ雨といっても良いほどで近くの植林をまとった山もぼんやりしか見えません。

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Dscf1679 津別町に入り、旧国鉄相生線線終着の「相生駅」、現在は道の駅「あいおい」となっているところで駅舎や客車を見たあと阿寒湖畔へ向かおうと国道を南下。
その途中、霧の中から突如として普通ではない真っ赤な牧場が浮かび上がりました。
この辺りの町のほとんどが林業を主幹産業としていますが、安価な輸入材などによる製材業の低迷で主幹産業とは言えないものになりました。
それでも各町、思考をめぐらせて木工クラフトなどで町の活性化に貢献しています。

Dscf1713 そんな「愛林の里・津別町」にも酪農業は少なからずあり、営農は続けられますが国立公園が近いことと植林地が多いことからエゾシカの出没があり、作物の食害も多いことから畑に隣接する山地との境界にネットフェンスが延々と張られており、畑が隔離されているような印象があります。
農業は自然との闘いであり、其の相手はなにも鹿だけではなく、バッタの大発生によるものそして、霜などの冷害に悩まされます。豊作になったとしても卸価格のダウン。牛乳も卸価格は現在まで低迷を続けています。
戦前戦後に入植した人々もやがて離農していき、かつての10分の1かそれ以下の戸数にまで減少。この辺りを走っていても時折、廃墟と化した酪農家跡が見られます。

霧の中から現われた農場は一際、変わっていました。
牛舎・サイロ・資材庫などすべてがナナカマドの実のような真紅に彩られていて、緑の山や草原に囲まれています。
入口の「シゲチャン・ランド」の文字と牛舎の屋根の「極楽美術館」の文字が目に入り、ちょっと興味を持ちました。

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駐車場には数台の車。牧場を取り囲んだ柵には、これでもかと言うほど多種多様な廃物が打ち付けられています。元々ここにあったと思われるものや他所から持ち込んだようなものなど…。
霧雨の中、様子を見に伺うと人の気配の感じられない静かな牧場。チケット売り場なるものはありましたが、誰もいません。建物の間には高い位置に張られたロープには様々な色の裂布が等間隔で結ばれて風にたなびいています。
顔のような「モノ」があちこちに転がってユーモラスで「へっ面白そうだな…」と奥のほうへ進みます。各建物のドアが見えて其の中のひとつを見てみることにしました。ドアがふたつ上には「右手」「左手」。となりの牛舎には「鼻」と筆で書かれています。

「???」とりあえず「左手」を…
「!!!」中には建物同様、赤系色彩でインドの方の派手な祭壇のようなものが高い天井に届かんばかりにうず高く積み上げられていました。

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それを見たとき、直感「ここって…ヤバイところじゃない?」と感じました。
美術館と称した妙な宗教施設。そんな印象と共に自称教組の経営者なんかを想像していました。

其のとき、既に背後の方から砂利を食む靴音が近づきました…
脳裏には、法衣を着てつかみどころのない威厳に満ちたサイババチックな姿が浮かびました。

(つづく)

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2007年12月28日 (金)

白いギターのレクイエム

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母と思われる女性の名だけが刻まれた表札。
およそ似つかわしくない虫かごやおもちゃが残る室内。
そして窓際に残された1冊のバイブル…ここからどんなドラマが思いつきますか?

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Dscf3251Dscf3281 バイブルは「新世界訳」。ものみの塔出版局、いわゆる「エホバの証人」のものです。
その特徴は、原文の文語訳で他宗派で使うもののように文学的解釈の翻訳ではないので正確な翻訳の反面、難解で誤解を受けやすいそうです。

「エホバの証人」というと輸血の拒否や人と競うような競技の不参加、あるいは誕生日・クリスマスなどのお祝いはせず、他宗葬儀は身内であっても参列できないなどの厳しい戒律があることで知られています。
彼らは同じキリスト教であっても他宗派は「バベル」と称して間違った考えを持つ宗派としている。

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Dscf3250Dscf3280 多くを語るというより、カルト視された彼らに関する文献は被害者サイドのものが多く、片寄った評価に陥るので割愛します。今回は宗派の問題ではなく、「信仰自体」に関する事柄です。
畑の中に物置と共にポツンと佇む家。幹線道自体遠く離れているので、近くを流れる川の堤防上の道がこの家への引き込み道のようです。表札はさほど変色しておらず、近年まで居住していたのかと思わせますが、庭は荒れてシャクナゲの枝も歪に曲がりくねっています。時折、土に半分埋もれてボールや宇宙船のようなおもちゃが点々と落ちていました。たぶん、ここには男の子がいたのでしょう。

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表札の名義が一人であることから息子は独立。伴侶は既に先立ち、息子夫婦が孫を連れてくるのを楽しみにしながら日々を暮らす老婆の姿が見えてきます。
この辺りの地域は、開拓記念・郷土史のようなものが発行されていないので実際の家柄は想像の域は出ません。
仏壇や身の回りのある程度のものを携えて家は、残されました。
タンスの中の大部分や寝具などは無いのにテレビの上に飲みかけのジュースのペットボトルが置かれたまま…

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Dscf3255 Dscf3258遺品の中に確かにバイブルはありますが、神棚が祀られている家なので老婆が信心していたとは考えにくいですね。 するとこの家の息子が…?そう考えるとこの家の成り行きが納得できます。
わが子は家を出た後、現在の信心に傾倒して母にも熱心に入信を勧めたが改宗によって祖先や亡き伴侶の供養ができなくなるのなら、それはできない相談…
しかし、老いたる身であることから想いを通しきれず、どこか他所に身を寄せるようになったか、菩提は弔えないという条件で息子のところへ行ったのか…

これもあくまで想像の域です。
自由な世の中。信仰もそれぞれ自由なのですが、自由のしわ寄せは戦後の動乱から自由を与えられた人々が老いていくにしたがって表面化してきたようです。
こんなお話は、ありえることではなく実際に聞くことです。
永代供養も家が続いてこそ…

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奥の部屋に置かれた白いギター。調音など狂いきっていますが、爪弾いて出るその音は調和を失った小さな家からバランスを失った世界へのレクイエムなのです。

Dscf3261 ひとつの時代は去り 次の時代が来る
しかし地はいつまでも変わらない
日は昇り 日は沈み
またもとの上るところに帰っていく
風は南に吹き 巡って北に吹く
巡りめぐって風は吹く
しかしその巡る道に風は帰る

川はみな海に流れ込むが
海は満ちることがない
川は流れ込むところにまた流れる
すべてのことは物憂い

人は語ることさえできない
目は見て 飽きることもなく
耳は聞いて 満ち足りることもない
昔あったものは これからもあり
昔起こったことは これからもまた起こる
日の下には新しいものはひとつもない

          (伝道者の書1の4-9)

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真理は与えられるものか? 自分で見つけるものなのか?

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2007年9月30日 (日)

カムイ・ピラ石仏群

アフガニスタンの首都カブールから230㎞北西に位置するバーミヤン渓谷。
ユネスコ世界遺産にも制定されたここには東西に巨大な大仏が渓谷壁面に掘られ、その数1000以上に上る石窟があることでも有名です。

 2001年ターリバーン勢力の侵攻により2対の大仏は爆破され、その様子を世界に発信したターリバーン勢力は、世界的に非難を浴びました。
(詳細→『バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群』)

 今回の物件は、バーミヤンとはスケールが比べ物になりませんが、偶然の作り出した光景をご覧いただきます。

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Dscf0602_2  峠や最寄のJR駅のある本町方面をこの地域に向かい、高台の上から目に入る対岸の高台。そこに何やら崖崩れのような跡があります。
 ここは通称『ガンゲ』と呼ばれ、この地域で生まれ育った人々は、これを見て始めて故郷に帰ってきた事を実感します。

Dscf0604  しかし、この高台が人のいなかった遥か昔に一帯を襲った超巨大火砕流の痕跡であることを知る人は、さほど多くは無いようです。
 火砕流の跡ということで、土砂の大半が火山灰で形成されているようです。こういった場所は、ここだけではありませんが、地域史等にも載るように地域に認識されている現場は、知る限りここだけのようです。
 ここへ近づいたことは、今までありませんでしたが今回、寄れるだけ寄ってみることにしました。

Dscf0636  この一帯は、かつて町の穀倉地帯とまで言われるほどの水耕地が広がるところでした。
今では、当時を記す記念碑や灌漑溝跡がわずかに残る程度で、昔は水田が広がっていたことを知る人は地元でも決して多くはないでしょう。水田が消えていったのは、栽培成績ではなく、1970年代当時に米余りの対策で国の出した減反政策に寄るものでしたから…

 開拓期、イモやカボチャや蕗ばかり食べていた当時の人々の悲願は、米の飯でしたので水田の試作には積極的でした。一部地域は火山灰土壌のために引いた水がすぐに地中に浸透してしまい不可でしたが、地域の両側をこの『ガンゲ』を伴う高台に挟まれた小さな盆地とも言えるところで、試作初期は、技術不足・品種の不適合・水温の問題で試行錯誤を繰り返しました。
 悲願と努力の末、勝ち取った収穫でしたが当時の喜びを記すのは、現在記念碑のみです。

 幹線を右往左往して何とか『ガンゲ』手前の十勝川河川敷へ出ました。

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『おおぉっ!』 現場について思ったのは、まるで巨大石仏のように見えたことでした。
それも1体や2対ではなく、無数の像が整列しているかのように見えます。
 これは、河川の侵食と風と雨が作り出した彫刻です。現場にいると壮大ですね。

Dscf0607 樹木の生育により若干、見え辛くなったり見えなくなったりしている部分も広がりましたが、以前は高台の広い面積にこのような跡が見えていたようです。
 砂利や土のように火山灰も商品価値が出たため、この造形が失われた地域もありますが、ここはまだまだ健在でいてくれるでしょう。

 地域の顔とも言える『ガンゲ』ですが観光景観として紹介されるでもなく、土地の見張り役として、ただ静かにかつての水耕地帯を見下ろしているのでした…

※『カムイ・ピラ(神の崖)』の名は、ねこんの創作であり、実際には『ガンゲ』の名で地元に知られています。

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2007年9月15日 (土)

祈りと救いの小路 ③

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 あまり小難しいお話もなんですが、もうひとつ巡礼行のなかでも最も知られる『四国八十八箇所』についても簡単に触れてみましょう。

Dscf7383  多くの仏教宗派の開祖の中でも弘法大師として親しまれる空海は、四国・香川県の善通寺市で生まれました。大日如来(だいにちにょらい ※インドではビルシャナーと呼ばれる)が現世に姿を現したとまで言われた空海は仏道修行のため唐に渡り、帰国後は真言宗を興し、各地に寺山を開いたほか、水田振興など庶民の福利厚生のためにも多大な貢献をしました。
 四国各地にはこうした空海ゆかりの寺山がたくさんありますがこの遺跡が四国八十八箇所霊場になります。
 巡礼の始まりは、弘法大師の姿をもとめて四国を21回も回ったという衛門三郎と言う人につながります。彼はやがて病に倒れ、死の淵に来たときに大師が現われて生前の罪を許しました。「なお願いはあるか」の問いに三郎は「河野一族の世継ぎに生まれ変わりたい」と答えると大師は三郎の手に【衛門三郎再来】と書いた小石を握らせました。
 数十年後河野家に生まれた男の子の手には、遍路の功徳の証明である再生悲願成就の例の小石が握られていたそうです。この石は現在も八十八箇所第五十一番目の愛媛県・石手寺に寺宝として存在しているそうです。

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Dscf7399  江戸時代頃から庶民の間に巡礼が流行し始めました。
「西国三十三箇所」「熊野詣」「善光寺参り」そして『四国八十八箇所』です。
小豆島には、この八十八箇所を模した『小豆島八十八箇所霊場』、江戸には『御府内八十八箇所霊場』が作られ【写し】とか【移し】と呼ばれ、全国各地にも大小さまざまな霊場が作られていきます。

Dscf7377  他の巡礼と異なり『四国八十八箇所』を巡ることを特に【遍路】と言い、巡礼者は【お遍路さん】と呼ばれます。八十八箇所全てを回るとその総距離は1200~1400㎞程。
 遍路で各札所を回ることを【打つ】と呼び、1度の旅で全て回ることを【通し打ち】、数回に分けるのを【区切り打ち】と言います。順路通りに回ると【順打ち】、逆に回ることを【逆打ち】。特にうるう年に逆打ちを行うと倍のご利益があるそうで例年よりも人出があるそうです。これは、うるう年の逆回りは【お大師さん(弘法大師)】とすれ違うと言う言い伝えによるものだそうです。
 現在は車やバスで巡るのも一般的ですが、それでも10日前後。通常の徒歩で巡れば40日前後の巡礼になります。現在も多くの巡礼者が大勢いますがその性質は信仰だけに留まらず、「自分探し」「癒し」の目的で回るものも増えています。そのため、一時は減少傾向であった本来の「歩き遍路」も増加してきたそうです。
大師さまの功徳もポピュラーになってきたようですね。

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Dscf7436  この地の石仏たちもこれらの巡礼地の「写し」なわけですが、更にその地域ならではの雰囲気があって決して「写し」ではないのかもしれません。

 誤解の発生源として、テレビの心霊特集番組などで、こういった場所を不安定なアングルで撮り、上に読経をBGMで被せたりして見せるやり方があり、こういった場所の真意が曲解しているように感じます。

 御仏は「救う」者であり、「祟る」ものではないのです。「祟り」に係わるお地蔵さまなどの怪談も聞きますが、どうも眉唾な気がしませんか。

 早朝から子安地蔵をお参りに来た若夫婦。その背景を察することもできます…。
彼らの幸福と光を見ることの無かった子に安らぎがあらんことを遠巻きに祈りました。

ここは300の祈りと300の救いの小路

 

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2007年9月14日 (金)

祈りと救いの小路 ②

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Dscf7393  ここには聖徳太子堂も併設されています。商売繁盛、家内安全、学業成就などにお参するそうです。ちょっと柱が壊れかけています。弘円寺境内となっていますが住職が常駐しているわけではないようです。
 敷地内に『西国三十三箇所』と『四国八十八箇所』が共に置かれているお話をしましたが、その一方、「西国三十三箇所」について少し…

Dscf7392  西国三十三箇所(さいこくさんじゅうさんかしょ)は、近畿2府4県と岐阜県に点在している観音霊場の総称です。これらの霊場を札所とした巡礼は日本で最も古い巡礼行で、現在も『西国三十三所巡礼』として多くの参拝者が訪れます。
 しかし、その始まりは苦難に満ちたものでした。

Dscf7452  718年(養老2年)大和国・長谷寺の徳道上人が62歳のときに病のため亡くなりました。冥土の入口で閻魔大王に出会い、33箇所の観音霊場をつくり巡礼で人々を救うように託宣を受け起請文と三十三の宝印を授かりあの世から戻されました。そしてその宝印に従い霊場を定め、三十三箇所巡礼を人々に説きますが当時、人々の信用を得られず、あまり普及しなかったようです。
 上人は機が熟すのを待つこととして宝印を摂津国・中山寺の石櫃に収め、三十三箇所巡礼は人々から忘れられていきます。

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Dscf7447  270年ののち、花山法皇が紀州国の那智山で参籠していたとき、熊野権現が姿を現し、徳道上人が定めた観音霊場を再興するよう託宣を受けました。そして中山寺で訪印を探し出して、三十三箇所を巡礼したことから人々に広まっていったとのことです。

 三十三の数は、観音菩薩が衆生を救うとき、33の姿に変化することに由来するといわれています。西国三十三霊場の観音菩薩を参拝巡礼すると、現世で犯したあらゆる罪状が消滅して、極楽往生できるとされています。

Dscf7449  北海道開拓に従事した人々の多くは、渡ってくるのにも大変な日数を要しましたが、それ以上に開墾の数年間で持参した蓄えもすぐに底をついてしまうような暮らしの中で、故郷との繋がりも自然に切れていき、戻れることはあまり無かったようです。
 かような生活の中にも信心は失うことなく、信仰の聖地に想いを馳せていたことがこのようなミニチュア版ともいえる霊場を形成していったのでしょう。

 そのような背景にあっても、いつしか真意はそれていったのかキャンディーやクレヨンを1本づつ供えてあったりします。やはり、水子霊場の認識の方が強くなってしまったのですね。

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 御仏の願いは、『人々を救うこと』
 だから、救われたいものが集うのもまた、自然な成り行きなのかもしれません。

(つづく)

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2007年9月13日 (木)

祈りと救いの小路 ①

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Dscf7371  かつて柏林の中に鈴蘭が群生していたことから名付けられた音更町の小高い丘の上にある鈴蘭公園。
 十勝川の対岸にありながら開拓期に特殊な事情があり昭和期まで帯広市が管理していました。園内には、北海道を探検した松浦武四郎の「このあたり 馬の車のみつぎもの み蔵を立てて つままほしけれ」の和歌を背面に記した帯広開町記念碑があります。他に明治から太平洋戦争期までの戦没者の慰霊碑、中国との有効記念である仏舎利塔などがあります。
 広い園内にはジョギングやウォーキングの人たちが早朝から見られ、日中はピクニックや焼肉を楽しむファミリーも多いところです。

 この公園の北端の住宅街と隣接する柏木立の中にこれらの地蔵(観音)群が並んでいます。建立時等間隔に据え置かれただけなので冬場の地面の凍上、春からの解凍の繰り返しのため、危なかしく傾いたものや倒壊して補修されたものも多く見られて少々、奇妙な感もあります。

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Dscf7373  この地蔵群は一端で「水子供養」に建立され地蔵の数が水子の数。さらに救われない水子たちが彷徨う霊場との誤解を受けていることもまた、事実です。
 実際、この霊場の姿は西北側の『西国三十三箇所』と北端の『四国八十八箇所』。また、ここを管理する弘円寺の南に近隣町から移された『十勝新三十三観音霊場』、堂屋を持つ馬頭観音及び地蔵菩薩が数体。西北崖下の十勝管内屈指の大きさの不動明王。各霊場の番外、重複も含めると総数約300基を誇る十勝最大の霊場で、信心はともかく、一体一体見ていくと非常に興味深い郷土の史跡。
 特に不動明王の脇侍で知られる矜羯羅童子(こんがらどうじ)、制吨童子(せいたかどうじ)など管内では類を見ない36体の童子像は必見だそうです。

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Dscf3450  夜、『赤ん坊の泣き声が聞こえた…』とか『足に何かまとわりついてきた』との噂もありましたが真意はともかく、一般住宅も目と鼻の先なのであまり騒いでは頂きたくない場所です。もちろん水子供養に訪れる人もいないわけではありません。
 先の北西崖下の不動明王の脇には湧き水があり、霊水として人気も高く、遠方から汲みに来る人が多いところです。

 元々、巡礼は歩く宗教で、日常から離れて仏と二人旅を通じて御仏の心を体験するものです。本土を遠く離れて開拓に従事した仏教徒の悲願が具象化したのが道内各地の寺院境内や公園などに点在するこういった仮巡礼と言えるものなのでしょう。
 現在では山本ラク氏の開いた道内各地を巡礼する『北海道三十三箇所霊場』なるものもあります。【函館市:北南山高野寺(ほくなんざん こうやじ)を起点として東端・根室市:護国山清隆寺(ごこくざん せいりゅうじ)。更に最北端、稚内市:高野山最北大師真言寺(こうやさんさいほくだいし しんごんじ)から南下、静内・三石を経由して室蘭市:高野山大正寺(こうやさん たいしょうじ)までの三十三箇所を結ぶ】

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 現在はこれらの実際の巡礼が北海道内でも執り行われていますが、開拓者の子孫の信仰の変化か、豊かになったことから実際の巡礼に赴くようになったためか、これら巡礼地のご本尊を模した巡礼地は、史跡としての意味合いの方が色濃くなったような気もします。仏の並ぶ小道には自転車のタイヤ跡や投棄物も目につき、日常から忘れられかけてしまっているのかもしれないですね。

(つづく)

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2007年7月 4日 (水)

雪割姫 ③

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 雪割姫の戯れに春を待つものの中には、せっかちな奴らがいて、姫の歩みを追ってくるように勝手に芽生えを始めだしてきた。
 姫の後ろから足跡形に小さな春がすぐそこまで追ってきている。

  久しく閉鎖状態のコンクリートプラント。建物は既に撤去されていますが、その作業も中断状態。切断されたH鋼、壁が崩れて剥き出しの鉄筋、埋められもしないトイレ、砂を詰めたままのピット、充填物の詰まったまま放置されたドラム缶や消火器等。
 今年に入り、「私有地につき立ち入り禁止」の看板が立ちました。しかし、バリケードがあるわけでもなく、反対側に用事のある人は、老若男女問わず時折、横切っているようです。現在、個人の所有(管理)とされていますが倒産物件らしく、管理が及んでいるとは思えません。途中までの撤去作業も残骸の残り方から、鉄屑の現金化目的で正式な撤去ではない感じがしています。
 残された施設、雑草、立木も多く、道なりに見ると内部の様子は伺うことのできない状態で、不法投棄や犯罪行為の後始末(大量に見かける空のバッグや財布の類)にも利用され、無法地帯といっても過言ではありません。地域の問題として取り上げられているのでしょうが、おそらく治安対策として、効果の期待できない看板というより標識が数枚、立てられていますが、すでに雑草に埋もれようとしていました。
 人間を知らない
雪割姫の目には、これらの遺物もアンコールワットやボロヴドールのように消え去った文明の遺跡として映っていたことでしょう。

 雪割姫が城跡に入ってみると始めて見る壁画があった。これが『人間』の姿だろうか?

「そうではないよ…」 風がささやいた。

Dscf1972_1 ──ここは、人が城や塔の材料を作ったところだよ。

「人?そのひとは何処へいったのでしょうか?」

──何処にもいっていないよ。回りに見える小さな箱の中でジッと春をまっているよ。

「ここには誰もいないのですか…」

──ここはもう、いらなくなってしまったのだろう。さっきの老人も転がっていた連中も人がここに捨てていったのだからね。ここは、いらないものの街というわけさ… 

「『捨てる』とはどういうことなのでしょう。」

──約束と違う返し方をすることだよ。ひとは約束事をいつも溜め込んで忙しいので返し方を忘れたのだろう。

Dscf1962  風は通り過ぎていった。まだ、聞いてみたいことはたくさんあったのだが、そうもいかないようだ。足元に春をねだるものたちの感触を感じたからだ。
 考えることを止めたものたちが累々と横たわる大地とここを去っていった忘れっぽい者たちのことは、また知ることもあるだろう。

 雪割姫は、春を歌う。
それを待ち焦がれていた生命の種が静かにはじけて。すぐに春が大地を覆いだすことだろう。その感触を確認しながら姫は、何か思っていた。
 雪が消えて地上が春一色になれば、自分は眠りに付く。それまでのわずかな間、『人の世』も見て行こうとそう思った。
 そして、次の目覚めの場所はどこになるのだろうか?そんな期待に胸を膨らませながら雪割姫は春の風に乗って、空へ舞い上がる。地上には先ほどの城跡や赤茶けた老人たちが小さく見えた。

 季節の画家たちが新品の絵具箱のふたを開けてこの純白の大地に春を描き出していく、人間の集う小石をばら撒いたようなコンクリートの一角にも…

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季節は差別なく訪れる。人の世のゴタゴタなど知る由もないのだから…

(未完)

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2007年7月 3日 (火)

雪割姫 ②

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Dscf1970  この城跡のようなところには人影は無かった。雪割姫は、いつしかこの小さな探検を楽しんでいたのかもしれない。自分の生きる意味に使命とか宿命とか運命とか、そんなしがらみはなかったのに、いつもと違った目覚めの夢が何か誘惑めいたものをはらんでいたのだろうか…

Dscf1972  城跡というがそのようなものを姫は、それほど見たことがない。
少し覚えているのは、いつかの春の時。こんな感じの奇妙な石積を住処にしていた古木の話を聞いたときのことでした。住んでいたというより生まれながらにそこにいて、すっかりよりどころにしていたようでした。

Dscf3206 ここには、昔たくさんの『人間』がいて、狭い谷間に固まって暮らしていた。
彼らは毎日、決まった時間に集まって穴倉に閉じこもり、黒い石を大事に集めていた。

木を倒し、山を崩しながら黒くて新しい山を作った、自分達の顔も真っ黒にしながら煙が空を灰色に変えていても、楽しくて仕方が無いように笑っていてね…

やがて、空が元の色を取り戻し始めた頃、人間は悲しんで青空を呪い始めた。彼らにとって青空が帰ってくることは山の死を意味するらしく、多くの人間はここから去って戻らなくなった。
我らには、かえって住みやすくなったが、辺りにあるのがその『人間』の城の跡だよ。

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 四角くて穴だらけの壁の中から姫を見下ろして古木は、そう言った。
回りの木や草達は『人間』遺跡を物珍しげに覗き込んだり、拠所にしてのしかかったりしていたが、石の壁自身は姫の語りかけに答えるものではないようでした。古木の話は良く分からなかったが、自分とは違う仕事をする者たちには興味を持ちました。
 しかし、人の計りきれない年月のほんの一時期だけに生きてきた姫にとって人の命はあまりにも短すぎたのかもしれません。

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Dscf1992  ここの城跡には黒い石は見えませんでしたが、ここで生きていた『人間』達は砂や石を集めていたようです。宝物の袋みたいなものも隠してありますが、なぜ大事にしていたのか姫には理解できません。

 白い大地は、姫の心の異変に気がついたようでしたが、ただ黙って見守っているようです…

(つづく)

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2007年7月 2日 (月)

雪割姫 ①

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 凍てつく北の冬に春の訪れがやってきた
 『雪割姫』の目覚め
 彼女は雪の中から誕生し、命の調べを歌い、春の訪れを宣言する
 見渡す限り無のような白い大地はその歌で無限の命を現出させていく…

Dscf1947  ただ、今年の『雪割姫』の目覚めは奇妙であった…

 毎年、大地が春色に覆われたのを見届けると姫は再び眠りに付く
 「次の目覚めは、どんなところなのだろう」と期待に胸をふくらましながら…

 「ここは…いったいどこ?」
 雪の白は、いつもと同じだったのだが見慣れないものが回りには累々としています。
 姫は歌うことも忘れて辺りを彷徨いだしました──

Dscf1942  ここがいつからこのような状態になったのかは分かりません。話に聞いたときには倒産していたようで、それが既に十数年前。真意のほどは不明です。閉鎖されたことには、かわりないでしょう。聞いた話と見たものからコンクリートプラントであったようです。
 西は国道に面し、東は一角に工務店がありますが河川が横たわり、南北は、これが奇妙なことに新興住宅地にはさまれた孤立地帯です。
 後に建物は解体された様子ですが、今だ残る多くのもの・新たに加わったもの、それらを「雪割姫」の目線で見て行きましょう…

 姫は、赤茶けた大きな目の男に出会いました。
「ここは、いったいどんなところなのでしょうか?」

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Dscf1943「残念ながら、わたしには何もわからないね…」
 男はかなり老いて目もかすんでいるため、回りのことを全く知らないのだ。
 主人に雇われて長い間、荷物を運ぶ仕事をしていましたが体が思うように動かなくなり「迎えに来るまで、ここで待っているように」と言われ、もうずいぶん長い時間が経っている様でした。時折、血の気の多い若者が来てひどい痛手Dscf1948_1を負わせているようだが、忠実に生きてきた赤茶色で小柄な老人には、黙って受け入れる他になかったようだ。それは、自分の運命を悟っていてのようだがそれ以上のことは語ろうとはしない。
 『生命の息吹』しか知らない姫にとっては、おそらく理解できないことであろう。

   老人に軽く会釈すると姫は先を進んだ。途中、自分が何だったか分からなくなったものたちが固まったり、散りぢりになって一帯にたむろしている。
 彼らは、何も答えず考えることすらも止めてしまったようだ。
 近くには、まだ「春の訪れ」の宣言もしていないのにヒョロヒョロと伸びていたり、ずんぐりしているおかしな植物が気ままに生えている。これも姫の言葉には答えなかった。

Dscf1949Dscf1950  いつしか姫は、この土地のもつ毒気にあてられたのか自分の使命も忘れてしまったかのように雪の荒野の中を彷徨う。
 しかし、ひとつには今まで考えることもしなかったが、自分という存在と宿命に対して初めて向き会ったような気がしていた。
 それは春という季節だけに生きてきた自分への疑問であったのかもしれない。

 やがて、向こうに古い城跡のようなものが見えてきた。

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春の訪れは少し伸びたようです。『雪割姫』の旅が長引いてしまい今年の春は、あわてて始まったようで、いつに無く暑い春でした。

(つづく)

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2007年7月 1日 (日)

コンクリートの海 祈りの島 ④

Dscf3980  たった2日間で終わった明治5年12月。あわただしく故郷へ戻った工夫たちは、再び丸山に戻ることはありませんでした。

 開拓使入植以前の札幌はうっそうとした原生林で空も見えないほどです。
 開拓者たちは、この樹木を取り払うことから始め、ところかまわず切り倒して焼き払いました。
 さすがに開拓使は樹木の切り過ぎを懸念し、このままでは札幌は丸裸になってしまうということで、明治4年に特定の樹木の伐採を禁じます。6年には「道路両側の十間幅の樹木は特に支障のあるもののほかは伐採を禁ずる」との令を発布。
 特に丸山と藻岩山は豊富な樹木に覆われた美しい山であり、明治4年に落成されていた札幌神社の神域でもあることから樹木の伐採禁止から石材採掘も禁止されるのは当然の成り行きなのでした。

Dscf3939_1 丸山に変わる採石場は明治6年に現在の南区川沿地区で硬石が、8年には石山地区で軟石が発見され、石工が募集されましたが、今回は丸山採掘と別の組が呼ばれて丸山の仮安置された「山神」はそのまま放置され時代を越えることになったのです。

Dscf3944  そして昭和21年、大師堂世話人に発見され、石屋の造った神様は木材屋によって祀られるという数奇な運命をたどったのです。

 丸山はその後、八十八ヵ所が整備されます。北海道各地に入植した人たちの大半は仏教徒であり、西国三十三観音霊場や四国八十八ヵ所霊場の存在は知っていたことでしょう。
 生涯に一度は、こうした霊場を参拝したいという熱望は持っていましたが、当時、北海道に渡ってくると遠く離れた地の巡礼は、費用・時間・健康の面からそう簡単にはいきません。それで代わるものとして西国・四国両場のご本尊を模した石仏を安置し、参拝したのでした。
 開拓事業が安定し、生活に余裕が出てきた大正期以降、各地の有力者が奉加帳を作って善意の寄進を仰ぎ、豊かな人は1戸で1体。余裕の無い人は共同でと資金を拠出して霊場が形成されていきました。
 先人の想いが現代人に伝わるものばかりではありませんが、山道を行く人には寄進者の名を刻んであることから墓所であると思い込み、あるいは水子供養の奉納と誤解釈して本来の意図とは違う方向に認識されつつあります。本家両霊場も現在は略式で巡るバスツアーやDVDでお遍路旅などというものもあるそうです。
 もちろん正式な順路八十八番までの1400キロあまりを歩いて参拝するスタイルも現在まで受け継がれています。

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Dscf3920 Dscf3928 この巡礼、いわゆる「お遍路」の始まりは身の悪行を悔い、御仏の許しを乞うため高名な弘法大師の姿を求めて四国を巡った衛門三郎という人に単を発します。
 彼が病に倒れ、命が尽きようとするとき、枕元に大師が現われて現世の罪を許しました。
 「なお願いがあるか」との大師の言葉に三郎は「自分が家の世継ぎに生まれ変わりたい」と答えると大師は三郎の手に「衛門三郎再来」と書いた小石を握らせたといいます。

 三郎没後、数十年経って家に生まれた子どもの手には遍路の大願成就の証である小石が入っていたそうです。その石が現在も八十八ヵ所51番の愛媛県石手寺に寺宝として保管されているということです。

 現在、札幌市丸山は、市民・観光者の憩いの場であり、山道も気軽に登れる山として賑わい、人々は採石の切羽跡に腰掛け都市高度成長の証であるコンクリートの大海に感動のため息を漏らしています。それは、同じ場所から開拓の進む札幌樹海を眺めた石工夫たちのものと同じだったのでしょうか。

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2007年6月30日 (土)

コンクリートの海 祈りの島 ③

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Dscf3932  明治2年、新政府は北海道に開拓使をおくことにしました。
 開拓判官の島義勇が現在の札幌市に本府を定め、街づくりは大通りを中心に南を商店街に、北を官庁街とする構想で進め、開拓使本庁舎(現在残る赤レンガ庁舎は二代目)を石造りとすることにしました。
 これは野火を心配したためで、大通りは当初、防火線(類焼を防ぐ)として整備されました。

Dscf3939  明治5年3月、請負人の大岡助右衛門が円山頂上で良質の石材を発見して採掘を出願、20人ほどの工夫で採掘を開始。
 円山頂上はもともと土で覆われて樹木も密生していたそうです。現在、岩石が露出して展望台のようになっている部分は石材を採掘した切羽跡ということです。ここで切り出された石材は、そのまま急斜面を山下へ転がし落としました。
 斜面の緩やかなところまで転がり落ちた石材は運搬しやすいように小割にして、現在の丸山墓地の辺り(石工夫の作業場と宿舎を兼ねる)まで運んで製品化していたそうです。

Dscf3942  現在も丸山の南側を沢伝いに行くと斜面に引っかかった岩塊(楔跡が残る)や半製品化した物を見ることがあります。登山道も上へ向こうごとに岩石の露出が増え、切り出したものを固めておいた場所を確認できます。(登山道の整備や園内を流れる川の護岸にも利用されているようで楔跡が見えます)

 明治5年7月、開拓使本庁舎の建築が始まり、石材生産も本格化しました。石工たちは作業場である丸山に守護神として「山神」を祀ろうとしたのは、ごく自然なことで、付近の石が選ばれて、それが現在の「山神」だったのです。石工頭は増産の合間を見て山神の一字一画に心を込めて彫りこんだことでしょう。

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 山神碑の建立は明治5年12月12日が選ばれ、準備が進められていました。

 ところが、新政府は11月9日に突如、大政官布告を発令。「太陰暦を廃し、太陽暦を用う。すなわち明治5年12月3日をもって明治6年1月1日とする」という旨のもので事実、明治5年の12月はたった2日間しかなかったことになります。
 「山神碑」製作は、まだ途中で、しかも建立予定の12月12日が存在しなくなることになります。幸い、建立の日付はまだ入れていなかったので、とりあえず仮建立されました。

Dscf3946  もともと冬の採掘は休止であることと、太陽暦の採用で1か月も早く正月が来るということから、工夫たちは故郷で正月を迎えるため、あわただしくなりその年の作業を切り上げて「山神」は翌年に定置することにして旅立っていきました。

 ところが、工夫たちは丸山に戻ることはありませんでした。いったいなにが?

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2007年6月29日 (金)

コンクリートの海 祈りの島 ②

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Dscf3945  昭和21年、登山口の大師堂の世話役が、丸山頂上で半ば土に埋もれた石を起こしてみました。
 すると、正面に「山神」、側面に「明治五年十二月」の文字が刻まれていたのでした。

 何故、この山に「山神」が存在しているのか?
 何気なくみていると、どうとも思われませんが山神は、山を仕事場にする者(造材・採石・採炭・炭焼・トンネル工事等)が祀る習慣があり、山岳信仰に端を発するものと考えられるそうです。
 すなわち、この山は何らかの作業場であったということです。
 更に「山神」は別名『十二様』とも呼ばれて1年に12人の子を産むとされ、産神の性格を持っています。農作物・林産物・狩りの獲物など山の幸を生み出してくれる守護神で女性の神です。
 「山神」の祭日は、その職業集団により月が異なりますが主に「12日」。これも十二様との関係があるようです。

Dscf3947  丸山の山神は「明治五年十二月」の彫り込みは、ありますが日付がありません。これは、正式な建立がまだ行われていないおそれがあることをものがたります。

 大師堂世話役により発見された山神は、発見場所に仮安置してお参りされていましたが、昭和31年、再び倒れるおそれもあることからしっかりした基礎が必要になり、世話役は知人を通じて札幌地区林材協会に話を持ち込みました。
 協会では、木材業者の守り神でもある「山神」を近くに祀りたい考えもあったため、同協会により、石組みの基礎台を付け、祀られることになりました。
 近年まで鳥居も据えられていましたが現在はありません。「山神」を正面に見てすぐ右方(山の南方あたり)に岩場があり、地平線まで続く、家波(本来なら「甍の波」と言いたいところ)が絶景を作ります。

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 山に登って感動するのは、山自体ではなく自分の足元に広がるものに対してなのですね。

Dscf3961  「山神」正式建立の話が成されていた頃、札幌史編纂委員によりこの山は明治五年当時、石材を採掘する現場となっており、碑はその人たちによって建てられたのであろうということが分かりました。
 昭和31年9月12日山神碑の復興際と明治五年以来85年にあたることから「丸山山頂山神碑創設八十五周年記念祭」が行われ、2年目以降は札幌地区林材協会が引き継ぎ毎年例祭として祀られています。

 ところで、丸山を現場とした石工達は、「山神」をこの場に残してどこへ行ってしまったのでしょうか?           

(つづく)

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2007年6月28日 (木)

コンクリートの海 祈りの島 ①

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 明治5年。時の新政府は11月5日にある大政官布告を発した。あまりにも突然で強引な─それが知る人の少ない山の奇妙な歴史の始まりでした。

 ここは札幌市の西部に位置する丸山。標高226メートルの小さな山林のその姿は周囲を建造物群に地平線まで取り囲まれていて遠巻きに見ると、さながらコンクリートの海に浮かぶ小島のようです。園内には北海道神宮をはじめ、動物園・球場などが整備されています。
 この日、開花宣言はまだ発表されていませんが桜が2分咲きで多くの市民が花と焼肉に酔いしれて、香ばしい煙があちこちで立ち昇る中、一心に登山道へ向かう「ねこん」には辛い行脚でした。

Dscf3916  登山道入口に到着。焼肉の香りをおかずにおにぎりをいただいてから装備をチェックしていざ、丸山へ…といっても市民も日常的に利用する軽登山道(散策道)ですが。
 登山道入り口と言いましても少し物々しいですね。それというのもこの登山道は神宮側に弘法大師(空海)を祀る大師堂があり、山道は四国八十八ヵ所にちなんだ観音様が祀られています。そのためか、不気味な雰囲気もありますが市民もごく普通に登っていくので後ろに従って山道を登っていきました。上り口には恐ろしい表情の馬頭観音、不動明王などが祀られています。

 各像の台座には番号と寄進者の名が刻まれています。主に大正・昭和期に設置されたようです。名前が刻まれていることから墓所と勘違いする人もいますが本来、四国地方に空海ゆかりのお寺が八十八ヵ所あり、師の業績をたたえて88のお寺を結ぶ1,400㎞を通称『お遍路』として現在も巡礼されています。これを模したものが日本各地に形成されて、この丸山も現在の形になりました。

 登り始めてほどなく現われるカツラの大木。こんな木がところどころにあるのが「天然記念物丸山原始林」の所以です。大蛇のようにのたくりまわる太い根と観音様。「悟り」に向かって菩提樹の下で最後の瞑想に入った仏陀を連想します。

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 山際まで建物に囲まれた陸の小島の中にこんな大木が当たり前のように残っています。
 休日であるのも伴い、老若男女・諸外国の人たちも登るこの山。体力づくりにほぼ毎日登る方もいて、この山の数奇な歴史に関して聞いてみましたが現在、それを知る人はそれほどいなかったようです。

(つづく)

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2007年6月 8日 (金)

赤い社と供物

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Dscf4727 育ちも暮らしも内陸の山育ちのためか、海はいつ来てもいいですねー。
浜の人たちは「オラ こんなもん飽きてるだべー」とまでは言わないでしょうが山の者ほどの感動はあるのでしょうか。
 それに好天の海というのも久しぶりでトーチカなどを廻りながら暫く海をながめました。
「まともに海に来たのは、いつ以来かな~」と海岸線をトロトロ走っていると赤いものが目に入りました。

『お社?』 赤い鳥居と祠です。 でも少し様子が変です。倒壊しているようです。
冬場に雪の重みで崩れたのか。数年前の地震に伴う津波のためか。鳥居は無事ですが祠は押し倒されたように崩れています。

Dscf4729  海辺の祠は赤いものが多いですね。この辺りは内陸の方になると馬頭観音が多く稲荷はあまりありません。稲荷はほとんど神社の併設か単独の神宮の形になっています。
 海場に多く見る赤い神社は、稲荷なのでしょうか。中を伺うことが出来なかったので真相は分かりませんが稲荷の赤は生命の色なので稲作の神と言うだけでなく命あるもの全てをつかさどるのかもしれないですね。いずれにしても崩れたままというのはいただけません。
と、思ったらすぐ横に新築移転しているようです。しかも、いかがわしい雑誌がお供えしてあるようです。

 廃墟探訪していると近場に馬頭様や道祖神が良く祀られています。信心は薄いけれど探索の安全と好物件に出会えるようにお参りするようにしています。さすがに八十八箇所とかは割愛していますが…

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鳥居の辺から海を覗き込むと… うつろな目のクマが数匹。

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2007年4月 9日 (月)

モンドな神宮

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 すがすがしい青空。心地の良いそよ風。こんな天気の日は迷わずお弁当を持ってドライブに出掛けましょう。今日の目的地は真っ赤な鳥居と黄金の観音様!!!

Imga0278  道東自動車道を走っていくと途中の山間地帯で山の中腹辺りに黄金色の巨大な字母観音像が目に入ります。最寄の幹線道から向かうと農村風景の広がる中を山肌を縫うようにあっちだこっちだと走ることになるので迷いやすいかもしれません。
 ここは、その字母観音様眼下の温泉旅館付属のものらしく、集客に一役買っているようです。この観音様の参拝は自由ですが、そこに到達するまでの道の入り口がまず分かりづらい… 旅館の入り口にはタイガーバーム公園の仏像のようにカラフルに着色(頭が水色:剃髪部分にしては青すぎる)された『一休さん』がお出迎えします。

Imga0274  ここは、ラドン温泉も備えた地元の老舗温泉ですが主要温泉街とかけ離れた場所にあるため集客(客層)の方向性を変える一事業として建立されたようですね。ですから、この観音様のお膝元へ上がるためには、まず宿の正面に入ってから建物裏手へ回る道に入らねばなりません。この道も、砂利敷きで大雨の際、雨水の流れが路面をえぐったような跡もあり、軽自動車ではかなりきつい道でした。バスでもこの道は厳しいと思われます。

Imga0277  上まで登ると十勝平野の展望が広がる好スポットです。
遠巻きに見ていると、山肌に立っているため小さく見えますが、実に大きい!
でも、ここに来て見ると何か妙ですね。右に真っ赤な鳥居、左に字母観音像。
解説板に寄りますと『開拓先人と荒れ果てた世の建て直しのため、いずれの宗派にも属さない●野山霊●山寺の別院として建立(要約)』ということでした。でも違和感は否めません。稲荷とか密教とかごちゃ混ぜの民間信仰が体言化したようで…こういうところ、私は大好きです。この雰囲気と似たところは、あの『●の都』ですね。あそこの観音様はもっと巨大ですが。

Imga0275  観音様の足元にある小さな緑色の屋根の祠には、十二支に充てられた各仏様が祭られています。自分の干支のところでおまいりしました。
『素敵な廃墟と出会えますように…』
後日、ご利益があったことは言うまでもありません。
 中央の拝殿の中は50人は収容できそうな大きな仏間があり、祭壇下には木魚や綸子も見えます。ご神体は字母観音様とは異なります。無宗派とはいえ、何らかの型がありそうです。

 宿の案内には他の見所や宿のお楽しみと一緒に紹介されるこの観音様。そのやさしいお顔には『温泉とお参りとパークゴルフ』の構図は見受けられませんでしたが…

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2007年2月27日 (火)

拓○のピエタ(悲しみのマリア)

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 原形は、ルネッサンス芸術のテーマとしてミケランジェロの彫刻などに代表されるピエタ。キリストの死を悲しむマリアの姿を描いたもので、これはそのキリストが車に置き換えられた交通事故の私設警告画です。
 心なしか車も事故車というよりふにゅふにゃしていて、サルバトール・ダリの絵画のようです。小柄な廃サイロながら片面いっぱいに書かれていて、かなり圧巻です。

Dscf0359  このピエタと出会ったのは、もう一昔前のこと…夏のある休みの日の午後、暇をもてあまして友人と『牧場レストランに行こう』ということになり、南へ車を走らせました。友人が行ったことがあるそうで彼女のナビです。
 いつも遠くに見える山々がどんどん近づいて山肌の木々もはっきりして、樹海のようです。しかし、いくら走ってもレストランらしきところは見えてこない。内心ナビに疑いを持ちながらも『こっちで間違いない』の言葉に従っていました。
 いつしか、砂利道になって雑草が道側に覆いかぶさるようなり、畑らしきものも視界から消えていき、最後には誰が見てもダムにつきました。木々に囲まれて陽の光はかなりかげってきた…

『どこで間違ったかな…』
『おーい!!』

Pieta_1   当然、来た道を戻りましたが日没も近い、夏場なのでかなり時間をロスしたようです。暗がりで来た道も見失い、前と燃料計を交互に見ながらの半無き状態。『どこかで道を聞こう』とその道を走り続けて建物を発見。でも廃屋だったようです。先に行こうと車を出したところにそびえ立ったのがこの『ピエタ』

Dscf0357_1  暗がりにこれはかなりキツイ!『ひ~っ!』何か来てはならないところに来た気がしてメチャメチャ走り、国道に抜けることができました。
 ここは、けっこう有名どころの心霊情報のあるダム湖の近く、特に関連もないこのピエタもその不気味さから心霊サイトで取り上げられていました。当時はとても飛ばすことのできない砂利道でしたが現在は、舗装路面でいまでこそ飛ばす車も多くなりましたからこの絵の真意も出てきました。
 離農住居がほとんどだった付近は『週末山暮らし』の小さな別荘がやたらと建ちました。このマリアの向かいにもお洒落な家が建ち、まっすぐな一本道。ダム湖の付近も数年かけた工事で綺麗なキャンプ場になったそうです。心霊の噂もありますが、カヌーの練習やフライなどの釣りでにぎわう場所です。幽霊よりも熊の出現情報が多いので戦う準備が必要(?)。

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