2010年4月30日 (金)

色萌えて朽ちてまた…

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記憶には窓からの景色があった。

まだ木立は閑散としながら色を食みだす春
見飽きた山々の形を変えるほどに緑が山肌を食い荒らす夏
どこへ向かうのか赤く死に急ぐ秋
全ての勇み火を吹き消して和をもたらす冬

幾度も見て 何度も見飽きて その都度思い出す。
記憶が色褪せないように 景色も彩ることを止めようとはしない。

それが自然というもので 私もそのほんの一片の彩りです。

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光ありて色 光ありて闇
花淡く 行く色なれど 散りて尊ぶ

景色に「濁り」というものはあまり感じない。
「淀む」ことはあっても濁らない。
濁るのはいつも人の目であって心です。
あのときは 色に染まりすぎたのか 求めすぎたか…

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わけはさておき
混ざり合い 溶け合って 淀み 濁っても
時はそれらを沈めていく。
主のいない家の中で音もたてずに積もる埃のように

あれほどに行く先も怪しいことが
時に濾過されて不純物は取り除かれて光輝いてくる。
それほどに悲しかったことも 悔しかったことも 情けなかったことも
アルバムに閉ざされた写真のように鮮やかに蘇ってくる。

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「あの頃は良かったねーっ」 「あの頃は大変だったよねーっ」と笑う。
でも その「あの頃」には濁りが視野を狭くしていたのか
とても笑えることではないものです。

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それも これも 体あってのこと。
屋台骨が崩れてしまえば 内包していたもの共々時の彼方

死に急ぐことなかれ 
行き急ぐこと幸多かれ

そおいうものだと思いますよ
取り返しのつくことだって 色々あるさ…

そう!「色」。
色とりどりの色。色が萌える

やさしく そして残酷に

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2009年7月17日 (金)

いちごいちえ ③

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ザーン… ザーン… 海の見える山の上まで来た。ここまでも潮騒が聞こえる。
下の道を忙しく走る車の音もなんだか波の音のような気がして心地いい。
海はやっぱりいいなぁーッ
港に大きな岩が見えた。船よりもとても大きくてまるで山みたいな…。
実は大きな海亀がジッとしているだけだったりしてね…

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『ここにいるところがワシどものいる山でした』

『いいところですねーっ海が見渡せられて…ここは、なんて山ですか?』

『下に住みいる人物は“かんのんやま”というわな』

かんのんやま… 観音山…? 観音様がいるんですか?』

『どこさかは知らんしな…でゃが、わちきもそのひとつらしきことです』

『…? あなたの体はどこなんですか?』

『あの木な下におります』

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遠くまで海を見通せる山の中に細い道がずーっと続く。
その両側にはたくさんのお地蔵様が並んでて優しく微笑んでいる。その目は何を見ているのだろう。
昔(生きていたころ)、人は死んだら神様の元(天国)へいけると思っていた。
でも、幽霊のこの身になって、いまだに神様にあったことがない。
ホントは私にとって行かなければならないところがあって、そこにはたぶんいるんだろうけどね…。
それは、私がさまよっているから…迷っているから…迷ってるのかなぁ…

Dscf8086 『こいつが、吾ですねぇ…』

『えっこれって神様(仏様)じゃないですかあなたは、神様だったんですか?』

『いやさ、ここまで人共が持ち上げて、こな形したです。何かに見せたいだろね。ワシらば当たり前の石ですねい』

『ほかの…お地蔵様もそうなんですか?』

『きとね…そうだしょね』

Dscf8084 木の根元に並ぶお地蔵様の端で、柵に寄りかかる一際小さなお地蔵様が、この人(石)だという。
確かにお地蔵様の形はしているけど石には違いない。
私のいた家の近くにも小さな神社のような家があって、その中にお地蔵様が入っていた。
一度、覗いてみると、その顔はとても怖かったけど…。覗いたので怒っていると思ったものだから学校帰りにそこを通らず遠回りするようになったっけ…

『いいですね…お友達がたくさんいて。人もたくさん会いにくるだろうし…』

『いんにゃ!人々と同じもので。小さくなると、それずれ、あちらの考えること分からんようなりす。元よりし、動かぬからに…』

『じゃあ…ここに並ぶほかの人(石)とは…?』

『話もたなです。話したは、ここに訪れはった傷をした小さの人だけ』

『傷? 小さい人?』

『女な人だに。顔に大きの…小さのたくさん傷ついてさ、背をこう…曲げなさったな人』

『…おばあさん… その人と話をしたの?』

『話せなんだす。こちさ話、聞こえなで。そん人な、いつも“なまんだぶ…”ゆうだけでた。なんことだろかな』

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その、おばあさんは、お地蔵様の姿をした石の人をお参りに来ていたんだということは想像できる。
“なまんだぶ”…お経だろうけど何て説明したらいいのかなぁ…

きっと、あなたの姿が神様だから願い事されていたんですよ』

『ふむ、そら思いた。何か願いばされてんね、何かしねばならん思いした。でも聞いたは“なまんだぶ”いっこです。そっていつか来なくなりやった…』

来なくなった… 来れなくなったんだ。そんなおばあさんに高い山の上はね…

『でやから、下へよって探しいたりてたり、人の言うことを聞くことやってしとりました。人の日は短けけどもみんなさん滅茶知っとります。石ん日は長けども、見て聞いとらだけやす。人は面白て飽きまへん』

『そうかもしれないですね…』

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『おで、おまさんは、人なだすか?』

えーっ 急に何を聞きだすんだよ…。難しいこと聞くなぁ…

もちろん人ですよ…。体は…ホントの体とは離れてしまったけど…今は心だけで生きてます』

Dscf8046 『人んてのは、みな、あゆこと出来ようなるんですか?』

『あゆこと?って…』

『辛抱ない石を細くするやとか…』

『えぇっ あれは…わざとじゃないって言うか…わざとか…。その…すいません。あれ、仕方なかったんです』

『なんらOKです。石らは小さなるだけんで何も変わらす。あの、空さ飛んで来くるのは良かすな。遠くんの人も見て来れる』

『気持ちいですよー風に乗るのは。思い通りの方へ行ってくれないから風任せだけど…』

Dscf7978 そういいつつ、この海に来るまでずいぶん苦労したことが頭をよぎり、自分ながらおかしなことを言っている気もした。

『連れてたもらねんばできんかな?うぬもそうして沢山人ん話ば聞いて、見てきたす…』

『うーん…じゃぁ…風の乗り方、教えましょうか?コツさえ覚えれば簡単ですよ。数日も練習すれば』

Dscf8078 『じゃがま、うぬら石は、よう転がりしも手前で動きらすんのは、上等でなさするしな…。よか、簡単手前手法があるますわ』

そういうと石の人は、人の姿を崩して小さな塊に変わっていく…

『その手の方一本、上げ立ててもらえぬかない』

『???』

言われて手を上げると石の人は、ヒュルヒュルと左手首にまとわりついてきた…。

Dscf0441 『えっ?なに?』

気味が悪くなって、思わず払いのけようとしたところで、その形が固まりだして…
どうなるのかとジッと見ていると、形がハッキリしてきた─

『時計?─』

『そすな。人は、みな、こげんなものをしとるましたから』

『これって…時間合ってるんですか?』

『いちおクオーツ(水晶)だすらら、石んは得意なこってす。ほな、行きまっせら?』

時計─ 時計だーっ変な言葉で話す時計─。
妙な時計…じゃなくて石と知り合ったなぁ…

『何しすたか?』

『いや…なんでもないです。 じゃあ…行きましょうか』

『よろしく頼もす…』

Hands1

やさしい潮風が山のてっぺんにある森に吹き込んできた。
海に浮かんでいる小船みたいにちょっと妙な気分と何だか説明しずらい気持ちも心の中でプカプカ浮かんでいた。
いいや!とりあえず旅の道連れ、ということで…
風に飛び乗って小路を突き抜けて空高く上がっていく。

今の正直な気持ち…
私の時計─ なんだか嬉しい─ 

Youtube 『いちごいちえ』 やなわらばー

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2009年6月23日 (火)

いちごいちえ ②

Rockfallnega私に向かって崖のてっぺんからゆっくりと回りながら落ちてくる岩を見ながら思った…

「また、厄介なことに巻き込まれるんだな…」

Nagisabom 人の目に触れないように風任せの旅をしていても、行く先々で何かしら事件が起こる。
厄介なことは、人の世界だけではないようだ…
いろんなものと出会って いろんなことになって…その度に何とか切り抜けてこれたけど、いつまでも幸運が続くとは思えないなぁ
あの岩を私めがけて落としてきたあの人の考えていることが何かはわからない。
でもなにかしらたくらんでいるのは間違いんだろう。

Rockshot

逃げようが無いことになって、かえって開き直った。
借り物の体を開放してこみ上げていたイライラを岩に全部ぶつける。

        バーン…

パラパラと小石になった岩が夕立みたいに撒き散らされる音が波の音をかき消す…
どうにもならないことになって私は、ホントに開き直ってしまったようだ…
一番避けたかったこと 一番見られたくないところ 
そして、たぶん相手が確かめようとしたこと
あの大きな岩の下敷きになっても、私がこれ以上死ぬようなことはないけど。
なぜなら私は幽霊だし…
問題なのは、私が人の皮を被った幽霊であることで、それを他の幽霊に見られてしまったということ…
粉々に ホントに粉のように飛び散った岩の土煙があたりに漂って、そこにいた敵は見えなくなっていた。

Brind

『さて、どうしよう…でも、戦わないといけないんだな…』

人に化けるのが問題じゃない。
人に化けようとする幽霊がどんな考えを持つかということ。
時間に限りがあるといっても人と霊の世界を行き来することが容易くできるとしたら、それは場合によって良くない結果になるらしい。
私がその力を教えてくれた人が、そんなことを言っていた。
それに簡単に人と霊の間を行き来することは『神様』の意思に逆らうことになりはしないだろうか?
そう思うことがあって誰彼教えることのできる力ではないと思った。

薄らいできた土煙の向こうの「あいつ」の気配は、まだ確かにそこにある。
あいつが何を考えているか、私にはわからない。
人であっても霊であってもそれは同じ。心の中まで読むことはできないから…

Nagisaangry

『あーっ大丈夫だねったね。良かたなや』

相手が敵となったら、本格的にその妙な言葉使いがイラッとする。

『さあ!もう急ぐ必要はなくなったよ!何が望みなの?』

『そうなの?じゃあ教えて欲しかことがあるだよ』

そらきた。人に化ける方法を聞こうと言うんだな… 

Dscf8063 『なに

『人の言葉の作り方、知りたです。どうも難しいよしな』

『はぁっ』 何を言ってるのこいつ…

『ずっと人の声、聞いてきたけな、男とか女とか、小さのとか大きの、様々で色々でわからないのよ。だからオラ話すことも…めっさワヤじゃから教えて欲しいもし』

なに?言葉を教えて欲しいって? なんだか思いもしない言葉が返ってきて構えていた私は少しうろたえてしまった…

『そのために私に向かって岩を落としたんですか?』

『いや…あれらは、しごく辛抱なかったんらわ。奴ら、もう辛抱できなす。それ、そこの見て後ろごらんね』

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なに?うしろ…? あーっ…
道いっぱいに岩が崩れて小山になっている。
「こいつ」のことが気になっていて目に入っていなかった。
ずっと歩いてきた道は、見上げるほどの山肌に鉄の網が張り巡らされていたけれど、ここはみかんのネットみたいにボロボロにちぎれて岩があふれ出したみたいになっている。

Dscf8046 『本日は、もう落ちれんど、次の来週ふたつ落ちるつもりするす。この奴らは生まれつきの辛抱ないらしいですのな』

『どうしてそんなことがわかるんですか?』

『わらもそいつらと同じ岩ころでから。当たり前、出場所はちゃうけどねん』

『岩?あなた、石なんですか?』

『はいです…』

『でも人の姿してるし…』

Aitsu 『こうしていねとな、貴方みたいな方と会っても話しないの多い。今カッコもホントものでなく、あしは、岩ころだから元よりオスでもメスでもねいよね』

変な話かた…なんだか混乱してきた…
この人は私みたいな幽霊じゃなくて、なんだ。石の心なのか…石がしゃべるか?
まてよ、わたしに色々教えてくれたのもおしゃべりな石炭だったっけ。

Dscf8053 『で…何を知りたいんですか』

『そね。“なまんだぶ”まず、というのを分るたいなす』

『なまんだぶ?えーっそれはちょっと…なんでまたお経なんかを?』

『“オキョウ”てか?アタのとこ来るンは、皆しゃべる。でも知らんだら』

 

うっわ~っますます調子の狂う話し方だな…色んな言葉がゴッチャゴチャしてるみたいだぁ。

『ウラん居るとこぁ、この向こうあっちのほうのどっしり山なだ。行っててみますか?』

この自分が石だという人のことに興味が出てきた。
少なくとも─私の持つ力を知りたいのではないようだ。

『はい。行ってみたいです』

『だいぶ歩くますからけども…』

Fallup 海から新鮮な潮風がシュンと吹き上がるのを感じる。 うん─

『大丈夫。手をつないでください』

『うっは

そいつの腕を引っぱって風に飛び乗ったとき、ずいぶん驚いたようだ。
新しい風はとても乗り心地がいい。
風は弱々しくも高くそびえる岩肌を一気に登りつめていく…

気持ちいいーっ

(つづく)

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2009年6月 7日 (日)

いちごいちえ ①

Rousoku

『ほら!あれだよ!ローソク岩』

『あれ…?ローソクっていうよりお米の粒みたいですね…』

『うーん…そう言われりゃそうか。でも、あれだよローソクの炎の形にも見えるっしょ!』

波打ち際にどっしり座った大きな石。
こんな大きなのは見たことがない。
ちょっと押したら倒れてしまいそう…。

Road ようやく海に来たーっ。
すぐにでもここから飛び出して行きたいくらいだよォ
いつ以来だろう。ずいぶん長いこと来ていなかった気がする…
トラックのおじさんに乗せてもらって、ずーっと話をしながらここまで来たけれど
海が見えだしてから、あんまり嬉しくて何を言われても半分、上の空だった…
ここまで来る間中、おじさんの家族やおじさんが子どもの頃の話を聞いた。
人(生きている)の話をこんなに聞くのもずーっとなかったなぁ。
まさか、おじさん隣に座る私の正体が「幽霊」だなんて思わないだろうね。

『伝説じゃさーっ…お腹のすいた神様がこの辺でクジラをつまみあげてヨモギの串で焼いてたんだとさ。その串の折れたのが、あの岩だってよ』

『えっそんな大きな神様がいたんですか

『ハハハ…伝説だってで…どの辺りまで行くの?おっちゃん、このまま隣町まで行くんだけどさ』

『そうですねー。どこか止めやすいところでいいです。早く海のそばまで行きたいんで…』

『じゃあー街の入口あたりで止めるよ』

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おじさんは、このあたりの町へ荷物を配達するのが仕事なんだそうだ。
海のほうから潮の香りの風がどんどん吹き込んでくる。
風に乗ってこようと頑張っていたら、気まぐれな風に流されてどこに行ってたかわからない。

Dscf7994 私の爪は、まだピンク色。
これが緑色になってきたら仮の体(命の元を集めて合成した体)から出る時間。
出ないと時間切れになって、この海辺に転がる岩の塊みたいに小さく固まって出られなくなる。
爪が緑色になってくるのがその始まり…それまで4時間ほどだろうか。
少しの時間しか持たないこの体…おじさんは知るよしもない。
目の前で時間切れの私がはじければ別だろうけど…

「あっちの方に古い道があって、親子岩とか眺めのいいところがあったんだけどさ、岩盤が不安定でガケ崩れが良くあったもんだから通行止めになっちゃったさ。この新しい道からだと一番いい景色が見られなくなっちゃったんだなぁ」

「そんなに危ないんですか?」

「まぁねえ…通行止めで仕事にならなかったこともあったよ。道が良くなってから仕事は楽になったけどね…あっこの辺で止めるよ」

プシーッ

空気が抜けるような音がして、大きなトラックは「ウワン ワン」と体に似合わない小さな泣き声を出して止まった。

「すいません!ありがとうございました!」

「泊るとこあるの?知り合いの旅館なら顔が効くよ」

「いいえーっ当てはあるんです」
と、言ってもあるわけじゃない。たぶんどこかの空家にお願いして泊めてもらおうと思う…

Dscf8074 「そっかい!なら気をつけてね。あーっ良かったら、おっちゃんとメル友になってくんないかなァ」

「メルトモ?」

「えっ携帯持ってないの?」

メルトモ? ケータイ? なんだそれ?

「ケータイ…? たぶんないです…」

「へーっ珍しいね。まぁいいや!毎日ここ走ってるから、また会えたらいいね。いつもは退屈な道だけど楽しかったよ」

「はい!私も!」

Truckdown

大きなタイヤがゆっくり動き出して、おじさんの大きなトラックが道に戻っていく。

パーン…

Greennail手を振っているとラッパみたいな大きな音がして、ビックリして手を引っ込めた。
「あ…」目に入った爪はいつの間にか薄っすら緑色…
もう時間か…ギリギリで間に合った。
いつもうっかりしそうなので、人のフリをするのが正直まだ怖い。

とにかく、人目につかないところを探さないと…人がはじけるところなんて見せたらエライ騒ぎになるだろうから。
でも、山と海の間に続く細長い街には隠れられそうなところが意外と見つからない。どうしても目の届くところにチラチラ人が見え隠れする。
どこか、いいところは─ あっ♪

Nagisasea

─視線の奥に海のほうへ向かう柵のある道が目に入った。
ちょっとつかわれていない感じの…あそこへ行ってみよう─

ここが、さっきおじさんの言っていたガケ崩れのあった道らしい。
時間は、あまりないけど慎重に回りの様子を伺いながら道を進む。
海から ザーン ザーン と波が来て、時折飛んでくる飛沫が心地いい。
『生きている』ってこういうなんだなぁ…

Dscf8061 私にまだ自分だけの体があった頃─
学校から帰って、いつも海へ来ていた。
波が行ったり来たりするのをずーっと見ていたり、貝殻やまあるく角の取れたガラスの欠片を拾い集めたり、浜で変な虫がピョンピョン跳ねてるのを見て逃げたり…
楽しかったなぁ…海の向こうのことを考えたりして。
今でも私は海のこっち側にいるけどね…カズくんは、この海の向こうにいるんだろうか?
いるところがわかればすぐにでも飛んで行きたいけれど、私にとって海は、まだ越えちゃいけないものな気がする。
その気持ちがどこから来るのかは、わからない…
 『…おや?』

人がいる! …釣りの人かな?
まいったなぁ…時間もないし、ここまで来たら戻るわけにもいかない。脇道もなさそうなぁ…
でも変な人だなぁ。 人じゃない? もしかして幽霊?(自分も)
かえってマズイよ。秘密を見られるわけに行かないし…

Dscf7989

私が仮の体を使うことを良くない考えの霊に見られたら、きっとその方法を知りたがるだろう。
生きている人たちに何か悪いことをすると考えたらゾッとしてくる。
うーん とりあえず、見えないフリして向こうまで行こう…あっちまで行ければ。

「普通の人 私は普通の人だよーっ わたし幽霊なんか見えないよー 全然わからないよー」

Goo「…こんちはー」

「…」 無視無視っ

「どこ行くんだべ?」

「…」 なんだ?この人

「見えてるんじゃないかしら?」

「…」 うっわぁーっ

「頭にクモつけてるじゃん」

ひーっ どこ どこぉっ  …あ

「ごらんなさい!やっぱなあ!」

う…騙された…

「見えんフリすることないじゃないですか。別にへんなことする気ないのにヨォ…」

「いえ…あのーっ急いでいるので…」

「なんでじゃ?こんな人の来ない道でさ。このまま進んだって海と岩しかないっしょや」

…変な話し方。それをひょうひょうとしゃべるその人(幽霊)は話し相手が来たと喜んでいるのかもしれない。
でも、今の私にはそんな時間は…  あーっ爪の色、濃くなってきた。こんなところで捕まってる場合じゃない!

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「この辺の人じゃないべ。どこから来たのかしらん?ワシが見えるんだば普通の人でねーしょ?」

「か…関係ないじゃないですか私、時間ないんです

あせっているのと、バカにされてるような口調についイライラして怒鳴ってしまう。

「いっやぁ~あずましくないねぇ…少し話相手してくれてもいいじゃない?」

パラ パラパラパラ…

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岩の壁に張り巡らされた網の向こう側で小さな欠片が落ちる音がした。

「危ないよね。あまり大きな声をだしたらばぁ…」

「すいません!失礼します!」

Dscf8062 これ以上相手してるわけにいかない。
その人が付いてこないか心配だったけど私がスタスタ歩き出しても、ズーッとそこに座ったまま…
そのままそこにいて!お願い付いてこないで!

「今は、そっちへ行かないほうがいいだよ。もう本当に踏ん張りが効かんみたいですから」

もぉーっ何言ってるんだコイツぅ!
…とにかく今は無視して行こう。
とりあえず、こっちの都合を終えてからちょっと懲らしめてやろうかな…

「行かんといてややめておいたらば

あーっうるさい!うるさい!

「ホラ見れ上が来たです逃げれー

何?何なの?…

「あ…うわぁ…っ」

Rockfall

思わず見上げたら
こっちに向かって落ちてくる大きな岩が目に入った…

                      (つづく)

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2009年5月24日 (日)

細身の乙女 ロロ・ジョグラン

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南半球にあるインドネシア共和国のジョグジャカルタ近郊にユネスコ世界遺産に登録されている世界遺産、ボロブドール寺院群とプランバナン寺院群。共に1991年に文化遺産として登録されました。
ボロブドールは仏教遺跡として プランバナンはヒンドゥー教の遺跡として
ともに世界最大のものです。

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プランバナン寺院群の付近は、あちこちに遠巻きに見るとタケノコ(アスパラの頭にも見える)のような形の塔が点在していて、住宅も石積みのものが多いため遺跡とそうでないものの境界が『大きさ』のような気にさえなります。

寺院群のうち中心的存在であるプラバナン寺院は古マタラム王国のバリトゥン王(在位898年~910年)による建立と言われる。
古マタラムの王宮もこのあたりにあったと考えられているが、伝染病が流行り10世紀ごろ遷都した。
のちの1549年の地震で遺跡が大破した。しばらく忘れ去られていたが、1937年から遺産の修復作業が行われている。
プランバナン寺院群はヒンドゥー教の遺跡としてはインドネシア最大級で、仏教遺跡のボロブドゥール寺院遺跡群と共にジャワの建築の最高傑作の一つとされる。
   (ウィキペディアより)

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ガイド(現地人案内員)の人の話でも修復作業はまだ続いているらしい。
周囲にはまだ、瓦礫の山が転がっていて、地震で大破したというものをよくここまで直したものです。
外壁のレリーフ部分ならいざ知らず、かなり高度でピースの重いパズルなんだ。

『このあたりに住む皆さんが家を作りたいため、静かにたくさん持ち帰りました』へんな日本語…)

そっかー…それで近くの家も遺跡っぽいのか…
遺跡で作った新築住宅っていうのかな…

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プランバナン寺院は現地では『チャンディ・プランバナン』と呼び、またの名を『ロロ・ジョグラン(細身の乙女)』と言うそうです。
確かに細い。遠くからでも目に付くその大きさも現地で周囲を回るとそれほどでもない。
他に高い建物がないということもあるけど、よほど地盤がしっかりしていないとすぐ倒れてしまうんだろうね。

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Fh000096 寺院内はさほど広くはなくご神体と呼べる像があって壁は中で火を焚いたのかと思うほど煤が付いたようで黒っぽい。

それぞれに祀ってある神様が違い、ビシュヌやブラフマー、ガネーシャなどの像があります。それと共に神様の乗り物である動物(牛)が安置されていた。

『どうぞ牛の背に座ってください。きっと幸せがありますよ』

Fh000100みんな座っていくようで牛の背はきれいだ。
でも、背に座ってご利益というのもなんだか変な話。。。

インドネシアの主たる宗教はイスラム教で、仏教・回教そしてヒンドゥー教は少数派になります。隣のバリ島はヒンドゥー教(厳密には一宗教ではない)が主たる島だからインドネシア全体は、実にさまざまな信心があることになります。
だから、プランバナンやボロブドールは、地元の人にとって単なる客寄せの見世物に過ぎないのかもしれない。
だから、地元の人々もホリデーのお出かけ感覚で普通にここを訪れるようです。
『東京』とか『横浜』と大きく刺繍したキャップを被った子がたくさんいたなぁ。。。流行ってるらしいけど。それをいったら日本人も意味も知らない言葉を書いたTシャツを着たりするしね。

ところで牛に乗ったご利益というのは『多産』なんだって。。。

Fh000102 これほどに大きな寺院を誇った権力も時代の流れに消えて行き、国の宗教も考え方もすっかり変わってしまったのかもしれません。
道は、ノーヘルメットの二人乗りオートバイが常に過密状態で走っているし、信号機があってもほとんど守っていない。(ほかの車とかが来ていないとブンブン入っていく)
どこにいてもオートバイのエンジン音が聞こえるから、ガムランとかジェゴクのような郷土芸能楽曲の屋外録音は難しいらしい。

こういうインドネシアの社会を見ていると、昭和の高度経済成長期の日本を見ているような気がしました。

ホテルに戻ってテレビを付けるとインドネシア語のラッパーがマイクを持って凄みを利かせていた。こういうのは世界共通なんだな。。。

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プランバナン寺院群は、2006年5月27日に起きたジャワ島中部地震で被災。大きな被害を受けたそうです。その後、修復作業が行われていますが、いまだ作業完了していないらしい。
その以前に行った時の画像なので現在の様子とは異なるかもしれません。

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うーん 思った以上に気味の悪い絵になったなぁ。。。
インドネシアでは犬より猫の方が各が上だそうです。

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2009年3月 9日 (月)

忘れられた大きなもの

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はじめて来た海 この海
向こう側のことは知らない いつもこちら側にいるから
向こう側のことを想うよりも その ただただ大きい海をじっと見ていた。
大きいからココロを呑まれたのじゃなくて
同等の塩分濃度を持つという体内の海が
意識とは別に呼応していたような気がする。

Dscf1648 いまでも変わらないこと
浜辺に行くと、必ず拾いものをする。

ちんまりと可愛い 大木の一部だった枝
ギザギザにトンガってたのに 砂に洗われて優しくなったガラスの欠片
骨みたいに真っ白に変色した貝殻
クチャクチャにいじけた塊になった海藻

みーんな海を旅してきたんだよ。
長い短いはあるんだろうけど…

Dscf1647 海に向かって両側が山に挟まれている風な景色のこの浜は、視界をさえぎるものなど、ほとんどないから前も後も景色が大きい。
前は海 後は湖。
その湖は、湖と言うより湿原の一部である沼です。

海と沼の間が数メートルの微妙な砂山で途切れていて、かろうじてお互いのプライドを保っている。
その均整の保たれているところを道(橋)が通っている。
大雨で沼側が急激に増水してくると、線路や道路の保安上その砂山を切って、放流することもあるそうです。

海側の中ほどに海産物加工所やドライブイン等が砦みたいに固まった界隈があって蛸や干し物を軒に並べているのが道からも見えた。
道の反対側には、ここもまた食事処兼業の貸しボート屋がある。
海に連れて行ってもらえたのは3~5年に1度くらいだったから子どもには、さして面白くないような場所だけど動物園以上に楽しかったよ。

Dscf1669 海に足を入れたり海水の塩っ辛さを確かめたのも
ポケットいっぱいに貝殻やビーチグラスを詰め込んだのも
ボートに乗って漕いでみたのも
カニとか帆立とかがたくさん乗ったラーメンを初めて食べたのも
隠れようも無いような空の下で焼肉なんてのも
み-
んな、ここが初めて
子どもの頃の話だけどね…

Dscf1679

Dscf1672 大人になって 自分でハンドルを握るようになり、再び訪れてみたくなった…。
多くの古いものや 新しいもの達が、現れては消えていく世の中で砦は、かろうじて呼吸をしていた。
わずかな数の暖簾しか下がらず、多くの店は乾ききって自ら最後の変貌を開始している。

何か、思い出の骨片でもないかと浜を歩いてみた。
時代はガラスビンからペットボトルへの変化して久しく、もう波に洗われたビーチグラスを見つけるのも難しい。そのかわり、波乗りの上手いペットボトルが小山になっている。

『そういえば、道の向こう側でボートに乗ったことがあったよ…』

Dscf1993

Dscf1997 道の向こう側の小屋みたいな店は、今も変わらずそこにあって、今でもお客さんを待っているようだけど、主が商売をやめてからもすでに長い年月が経って、かつてはあったそこへ降りる道もなくなっている。
車が絶え間なく行きかう道をどうにか渡って近くへ─。
『貸しボート』といってもボートなど何処にも見えない。海へ出たのか沼へ出たのかわからない漁船が緑にまみれている。
船の名から、このあたりで使われていたものには間違いないようだ。

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Dscf1998 おかしなもので、ボートに乗った記憶は、あるのだけれども店の記憶は全くない。
それほどに自分で操れる船に乗ったのが印象的だったんだろうか?
最も近所の子とオールを1本づつ受け持っても上手く漕げなくてグルグル回ってたけど…
それでも余裕のVサインで笑っている写真がアルバムにあるよ。

貸しボート屋さんだと思っていたら、中の厨房や小上がりのある様子から食事も出していたようです。
もっとも建物が小さいから広い場所ではないけれど、窓から湖(沼)を望む食堂。
ボートはどこまで行けたのかなぁ…どっちにしても非力で無理だったろうけどさ。

Dscf1654

この辺りは古い土地の人々の言葉で『カラス』を指すという。
『カラス』というと縁起が悪そうだけど、黒光りする上等な着物を羽織るその姿から昔の人は、神として見ていた。
その神が船で来た人をこの浜へ導いたという。

また、神(自然)からの施しだけで生きてきた狩猟民族の彼らは、神々の手違いでしばらく苦しんだことがあった。
神々は、あわててこの浜に大きな鯨を届けたという。
その時、人々が嬉しさのあまり舞い踊った踊りが現在も郷土芸能として伝わっている。

Dscf2015

相変わらず上の道では、ゴムで弾き飛ばしたみたいに車がかっ飛んで行く。
どこへ行くんだろうね。
どこへ…

Holga_tape 道が良くなって 車も良くなって
見たいテレビ番組も予約録画しておけばOK
ご飯も家へ戻る頃には、おいしく炊き上がっている。
お風呂もボタンひとつで良い湯加減。
朝ごはんの洗い物も自動で完了してくれる。
洗濯乾燥も手間要らず。
ついでに『たたみ』もしてくれないかなぁ…

でも、みんな時間がない。時間が足りない。
あの頃と今の時間の進み方が同じとは思えない。
ここより、ずーっと最先端で新しい娯楽施設がこの地上から完全に姿を消してもここが残り続けるのは単に後始末の問題じゃなくて、
時間の温度差というか、時の包容力というか、そういうことがあるのだと思うよ。

想い出は廃れてしまったの?

いいや… 海も 空も 湖も昔のままだったよ。
変わったのは、その間に少し挟まっているものだけ。

Dscf1996

Dscf2029pola 変わらないものは、とても大きくて
そして、ただただ大きいばかりで
向こう側のことどころか、こちら側のことさえも
意に介しないかのように不変です…

神々は、人を導いた土地から不在になったのか…

神は、決してその御業に無関心などではなくて
見捨てようとしているのは、人の方です。

このボートハウスは『北海道廃墟椿』内の「ボートハウスの宝石」で詳しく触れられています。
合わせて御覧ください。


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2009年1月10日 (土)

くるり くるり①

Dscf3783

青い空と緑に包まれた大地
鳥のさえずりが聞こえて木々はそよ風に揺れている。
どこまでも飛んでいけそうな空だけど、この空には結界というのがあるらしい。
わたしのような幽霊がこの辺りから勝手に出て行けないようにしてるそうだ。
そう聞いた…

Dscf3776 「でも…ホントにあるのかな?」

風が空からまっすぐ吹き降りてくるのが分かる…
途中に風をさえぎる何かあるようには思えない。
風が抜けられるんなら…

ちょっと試してみよう─ 

Dscf3470 後ろから道沿いに風が走ってくる。
すかさずピョンと飛び乗って道を通り抜けていくと、時折何かの建物の跡が目に入った。
あそこは何だったんだろうね…
そんなことを考えているうちに両側に立ち並んでいた木立が切れて、広い場所へ出た。
風が開いて空に向かって反り返っていく。

Dscf3785 「うん…?行けそう」

他の道からも同じようにきた風が重なり合って上に向かって押し上げられ、一気に空へ…

「あっ

Doom 何かにぶつかった。
風は何事もないように空高く走っていったけど、壁に当たったみたいにはじかれて、風の背から転げ落ちた。

「あーっ…」

草の上で仰向け。ひっくりかえったまま空を見上げると、何も知らないのっそりとした雲がモコモコふくらんでる。

「やっぱり、本当か…アハハ…」

なんだかわからないけど、笑いがこみ上げてきた。
今日はいろんなことがあったから…。落ちたショックで緊張の糸が切れたみたい。

「言われたとおり、煙突を探さないとダメか…」

落ちたところは、木立も少なく、開けた場所。
煙突はどこにあるかと後ろを振り返ると

「あーっ

Dscf3792

Dscf3427 さっきまでいた『ザナドゥ』とは違うけど大きい建物がドーンと建っている。
急に目の前に現れたようで驚いた。

「わーっすごい…」

煙突は、まだ見つからないけど、この建物が気になったので様子を伺うことにしよう。
木や草が絡みついて、なんだかジャングルの中の遺跡みたいだなぁ…
本かなにかでこんな感じのを見たことがある気がした。
それにしても痛々しいね。

「あ…あれぇーっ?」

Dscf3426

入れるところを探して横から回ると、建物の真ん中がパックリと大口を開けている。
入口という風じゃない。なにか爆発して吹き飛んだ跡みたいに口を開けた穴は、獲物をジッと待っている大きな生き物のようだ…

「何かあったんだろか…」

Nagisaon

Dscf3457_2 そう思いつつ、その大きく開いた口の中に引き込まれていく。
これがホントに腹ペコの怪物だったら私は犠牲者だよなぁ…。
この青空の下、そんなことはないよねぇ…と軽い考え。
薄暗い闇の中に並ぶ柱が奥行きのある怪物の喉の雰囲気がした。

 

Dscf3441中は、こざっぱりと片付いて、とても恐ろしいものが待ち構えている感じはない。
天井がとても高くて広い。
壁際にいくつか部屋が見える以外ここは、ほとんど大きな部屋がひとつだけ。
柱が何本か、この高い天井をやっと支えているみたいだ。
ここの壁も『ザナドゥ』みたいに落書きがたくさんあって、壊されたみたいに穴が開いている。

かわいそうに…。
どうして動けないものにまでこんな残酷なことをするんだろうか?
ここに何か書けば、願い事が叶うとでもいうかのように隙間なく文字や絵が書きこまれていた。

建物が、こんな目に遭った事をどう思っているのか聞いてみようか…

Dscf3430

Keixit 「ナギサ…」

あれっ!向こうからこっちを呼んできたよ…
ん…?名前を呼んだなんで

「だれ  誰か、わたしを見ている!

見回すと壁の上にある四角い穴から光るもやのようなものが湧き出してくるのが見えた。
ユラユラとわたしの方へ漂い降りてくる。
正体を見極めようと目で追っていくと
それは、この広い部屋の中ほどに降りて、だんだん一塊になっていく…。

Keigost

これは…この人は…さっきわたしの前で消えた─
ケイさんだ

Dscf6595 思わず身構える! わたしを追ってきたんだ!
またあの、恐ろしい姿で何かするつもり?
今のうちに逃げようか?このまま…
でも、まだ煙突は見つかっていない。
見つけたとしてもそのまま行けば、ここのから出る方法を教えることになる。
どうしよう…どうしよう!

「ナギサちゃん…私…」

「いえ…あの…」 どうしよう!どうしよう!どうしよう!

「怖いんだよね…私が。仕方ないか…。
でも…今は、さっきのダメージが残ってるから平常でいられるよ。
少しの間は、話したいことも話せる…」

Dscf3450 何かたくらんでるんだろうか…
いざとなったら、どうにかできるかな…
できないよなぁ…

「聞いた?私のこと…」

「…」 だまってうなずく…

「これだけは、聞いて。
私の問題は小さなことだったかもしれないけど、
自分にとっては生きている意味みたいなものだった。
ダメになった時、それでもなんとか修復しようと思ったけど
やっぱりダメで…

私…死んじゃえば逃げられると思ったんだ。
嫌になったことを…考えなくてよくなると…どうにもならない辛いこと…。
ところが体が無くなっただけで、ずっと悩み続けてる…。
それどころか、その辛さから永遠に逃げられなくなっちゃったんだよ。
まるで地獄!そう私自身が地獄になった…滅びることもできなくて…

その挙句、悩み苦しむ化物になってしまった…
わかってたら、生きてた方がずっとマシだった…今にしてみればね…」

泣いてるの…ケイさん…

「今だから言えるの!少しでも平常な今なら。そのときだけ自分でいられるから。やっぱり思う…。死ぬんじゃなかった。死ぬんじゃなかった!でも、もう遅いの。『命の還るところ』へも行けないのは、私への罰なんだ!」

Nagisakei

何も言えない。言葉が見つからない…
ケイさんの言うことは、本当だと思う。
信じられる…というより事情も知らずに逃げようとしたわたしは情けないと思った。

「ケイさん、ケイさん。もういいよ!わたしもなにも知らなかったから…」

「ゴメンね!ごめんね!」

初めて会ったときは─
ピンと張り詰めてて、冷たい感じもしたのに
今は、とても弱々しい。
時間が経てば元に戻るらしいけど、ケイさん自身が自分を縛り付けて苦しめ続けるのだろうか…

─消したくても消せないのよ─

『ザナドゥ』で聞いたあの言葉は、そういうことだったんだ…
魂は消せない…
わたしにだってそんな力はないよ…

でも、ほんの少しでも何かにならないかと思いつくことを話した…話してた。
わたしのことを…
隣に越してきたカズ君と会ったことや
今まで旅をしてきたこと…
ケイさんが苦しんでいることをせめて一時でも忘れさせてあげられないかと…

気がまぎれたのか
ケイさんは少し元気になってきたようだ。

Dscf3448

「ナギサちゃんには、今がホントの人生かもしれないね」

初めて会ったときの無表情な人と、今のケイさんは別人のようだ。

Dscf3446 「もう行ったほうがいいよ。私も回復して、これ以上自分を抑えられなくなってくるから…。煙突はこの外の道を行くとすぐ見えてくるよ」

「知ってるんですか?出口のこと…」

「うん!私は、こんなんじゃどこへも行けないし」

「ごめんなさい。力になれなくて…」

「いいの!私の運命。仕方ないわ…
いつかは終わると信じてる。
早く会えるといいね、カズ君と。
あなただったら、普通の幽霊じゃなくなると思うよ」

「えーっ?どういうことですか?」

「ハハハ…わかんない!」

笑った。ケイさん…

「さあ!もう、行きなさい!」

Keihakka「はい!あの…これ、あげます」

ポケットから、ハッカ飴を出した。

「ふーん。ハッカかぁ…シブいの持ってるね」

ケイさんは包みをひらいて口に放り込んだ。

「じゃあ、お世話になりました」

「いや、私が迷惑かけたよ。ゴメン!」

Keihand 「いいえ…あれ…ケイさん?手が…!」

「えっ?…これって…」

ケイさんの手が光を湯気みたいに上げて溶けるみたいに散らばっていく─

「そんなどうして?…まさか飴?わたしそんなつもりじゃ!」

「待って!このままにして… わかる。私の願いが叶うんだよ」

「願い?」

「命が還るところにいけるの。これで…」

「…」 

「ナギサちゃんがここへ来たのは偶然じゃなかったんだね。私を許すために来てくれたんだね。きっと…」

Keigoodbye

「ケイさん!」 

Keiheven笑みを浮かべながら ケイさんの姿は、どんどん薄くなっていく
光の粒に変わって空へどんどん上っていく

「これでやっと救われる。また生まれ変われることができる。そのときは、ホントの友だちになりたいね」

「うん!」

「ありが…」

消えた─
最後の光の粒が天井に吸い込まれるように消えていった。
本当に願いは叶えられたんだろうか…

…そうだよ。叶ったんだ。きっと─

Shot

Nagisadown 「うぁっ!」

急に背中から強いしびれが走る─
何が何だかわからないまま、力が抜けてその場に倒れこんだ…

「ああ…」

気が遠くなっていく… 近くで覚えのある声がした。

「オレの夢も叶えてもらおうやないか!」

 

   どうなるんだろ…わたし…

(つづく)

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2008年10月24日 (金)

テントウムシ祭りと『ブキミちゃん』

Dscf3990

今年の秋の入り口も暑かったです。 とても…
紅葉は来るのだろうかと心配してたけど 

ちゃーんと来ましたよ。お山のほうからね。

Dscf4501 一面の緑の園が 鮮やかな赤や黄色に彩られて
こんなに視界いっぱいの暖色のなのに
寒々と感じるのはなぜだろうね。

緑好きの画家たちは
今年の絵具を使い残せないから
余した色を使い切るために秋が来る。
完成した絵画は、絵具の乾ききらないうちに
どんどん画商に運びだされ
画家は、真新しいカンバスを前に
次の春の構想を練るのだ。

そんな最中の赤い大地を北へ向かう
もう何度も通った道 地図もナビもいらない
山の「赤」に負けない熱い「赤」の牧場めざしていた。

Dscf4023

北海道津別町相生 道の駅から釧路市阿寒方向へ少し走ったところに
『シゲチャンランド』がある。

毎年通うようになって5年ほどだろうか。
もう すっかり顔も覚えてもらって…でもそこの住人の顔はいまだに覚えきれない。

Dscf3959 人には 誰しも『ふるさと』があって
でも 生まれ育った『ふるさと』のほかに
誰しもこころの『ふるさとも』もいくつかあるんですよ。
自分には、この『シゲチャンランド』がそうです。
同じ気持ちの人もきっとおられることでしょう。

紅葉深まる秋とは言えど 暖かい。
この季節
『シゲチャンランド』には秋の風物詩…というか名物の
『テントウムシ祭り』がある。
正直なところオジャマ虫の彼らが大挙して
ランドに集まってくるのだそうだ。

Dscf4502 『いやぁ 今日は、なぜか少ないんだよねぇ。昨日はすごかったぁ…』

気温が下がってくると 少しでも暖を求めるのか
テントウムシたちは陽で暖められた家の外壁にビッシリとくっついてくる。
ウチもそうだけど
日中は下手に家の中に出入りできない。
さもないと春を心待ちにする家族が一挙に増加するからです。

ランドは昼間の開園中、オープンドアなので一般入場者のほかに
紅葉の鮮やかさに劣等感を感じたやつらが山から降りてくるというわけ。

Dscf3968

「毎年ものすごいもんだから シゲもすっかり神経質になっちゃってね…」 
パ-トナーのココさん談

「うちもたくさん来ますけど、天井の隅のやつは『もういいや』って開き直ってますよ」

Dscf3997_2その数はウチと比べ物でないらしく
閉園時間の午後5時から7時まで「やつら」の掃きだしに費やすのだそうだ。
それもすごいね…
なーんにも気にしないのは ランドの住人たちだけ

秋の小春日和の空の下
ボツボツ人も訪れだして
笑い声やら 喚起の声やら 感嘆の声…
数の多さもさることながら どいつも個性が強い。

Dscf3953 訪れだした はじめの数年は
ひとつでも多く見て 写真を撮ろうと躍起になっていたけど
今は ここでゆったり身を置くようになった。
新しい顔や居場所の変わった顔を探したりなんかして…
見に行っているのやら
こっちが見られに行ってるのやら

10月末頃で『シゲチャンランド』は冬の眠りに付く
熱い牧場は白い雪に包まれて
ここの住人たちは長い休みに入る。
今年のシーズンのお客の話なんかしたりしてね。

Dscf3934

帰り際 ショップで、どーも気になった人形があった。

『ブキミちゃん』?

「いやぁ~ちょっと急に縫ってみたんだよね。こういうの作りそうもないって言われちゃうんだけど…フフフ」

うーん ココさん ジュエリーが専門みたいなイメージありますからねぇ…
でも この表情、ブキミというよりとぼけた感じ。

Dscf5266

そんなわけで 気になって仕方なかった『ブキミちゃん』
ウチの部屋でチンマリ座っています。
来年からは、里帰りもさせよう。

シゲチャンランド紹介を含むHP  『Wild Little Garden』 SevenCatさん

今回は『シゲチャンランド』で知り合った親友の『∋(◎v◎)』さんへ送ります。
ランドから離れたところで生活していますが、また元気で会えることを心待ちにしています。  (ねこん)

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2008年9月24日 (水)

廃墟画廊

Dscf3129

ホント言うと Uターンするのが すごく苦手。

できないわけじゃないけど 前に道が続いているのに引き返すのがもったいない…と思う。

だから行けるところまで行ってみて
適当な脇道から本道に戻ろうと考えるんですよ。

Dscf3141

でも 

いけども脇道が見つからなくて、とんでもないところに行き着くこともある。

『地図では国道へ戻る脇道があるんだよね…』

ナビなんて持ってないし 持ってる地図は8年位前の…
 「これ以上、行ってもダメだ~ ってところまで行って
やむなく引き返した。

Dscf3106 

だけど

戻るんじゃなく 引き返す自分ってのが許せなくて
途中見つけた脇道さらに紛れ込んだ。
ずーっと山の間を縫う舗装道だったからダイジョウブ ということで…

ところが徐々に舗装と砂利が交互して
そのうち工事を途中で放棄したみたいなところへ出て
きれいな舗装とは えらく様子が変わってきた。
路面は雨に洗われて凸凹
土のうまで路面に散乱してる。

Dscf3142「ここどこだろ?スタックしてもJAF呼べないよ…

…と半分泣きの入ったところで遠くの林に赤い屋根が…。
近くまで行ってみると林に埋もれてて 見るからに廃墟っぽい。
でも人里のいたるところへ出たってことで一安心。
『国道まで●㎞』の表示も見つけた。

 

とりあえず

あの赤い屋根を 今日最初の訪問ということで…
近づいてみると学校のようです。
手前に地区会館(地域公民館)があってますます学校跡っぽいな。
そこまでは笹ヤブが少し続くので 装備を最小限にして いざ!

Dscf3109校舎らしきものは少し山側へ高くなっているので
手前のここは どうやらグラウンドというところでしょう。
向こう側に『お墓』のようなものがある。
行ってみると平成7年建立の馬頭観音らしい
しかし 既成の墓石に篆刻したものみたいだし
形はあきらかに『お墓』

その碑を横目に校舎を目指す。
今年は何度か「ササダニ」に食いつかれたので
正直 笹ヤブは苦手だよ~

近くまで行くとやはり学校
それも わりと近代的な体育館のようです。
回りに校舎は見当たらないので 体育館以外は解体らしいです。

Dscf3130

バタバタバタ…

Dscf3126 入ると同時にハトが数羽飛んでった。建物の向こう側から…
そう その先は建物が角から崩落して青空が覗いている。
う~ん、こういうところを見つけるのはハトの方が断然早い。

中は農具の倉庫に使われていたらしく工具や機械が数点置かれている。
でも落葉松の木や笹に囲まれているくらいだから今は使われていないんだろう…
学校の面影としては 生徒用のイスがいくつか投げ出されていた。
記憶は刻まれてやしないかと壁を食い入るようにたどる。
当時の傷らしきものは見えるけど落書きの文字とかは確認できなかった。

Dscf3136

Dscf3118 でもそこに

1枚の絵があるんだ。
朽ち始めた合板に描かれた卒業記念らしい絵が…
シカとウサギ 故郷の山々
こんな風に朽ち果てる定めなら 作者達にとって描くことが空しい
今や 朽ちかけた画廊はこの1枚絵だけを掲げ、終の日まで営業し続ける。

Dscf3138 だがしかし

もう1枚絵があったんだ。
天井から大きく崩れ落ちてぽっかりと開いた壁の向こう
広がる空と緑の絵が…
夏の空 青みがかった雲が流れて
濃いブルーの空が穴のように見える。

なんとなく思った。
バチカン宮殿・システィーナ礼拝堂の天井壁画で
ミケランジェロ「最後の審判」ってのを思い出した。
あの背景も 青空っぽかったね。
神の鉄槌は 天変地異を伴うんじゃなくて
意外とこんな青空の下に振り下ろされるのかもしれないよ。

Dscf3135閉校記念品として保存されるべきだった校旗が寂しく取り残されてた。
真っ赤な 血のような赤 命の色

そして 暖かい色

ミケランジェロ/『最後の審判』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 

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2008年8月 8日 (金)

案山子と炒飯

Dscf9924

北海道の十勝。芽室町西部の農村風景が続く通り。
この道、じつは信じられないほどの交通量、それも尋常でないスピードの対向車とひっきりなしにすれ違う。昼も夜も…
幅員も普通の郊外の町道レベルしかなく、歩道は昭和51年に閉校となった学校があった辺りにしか設けられていない。広くて直線が続くというわけでもないになぜこんなに飛ばす車両が多いのか。

Dscf9986食料自給率の低い日本において、驚くべきことに十勝の食料自給率(カロリーベース:平成18年度)は1100%という話です。その西部に位置する芽室町は『スイートコーン』の作付面積が808ha。収穫量が9,770tで、作付・収穫共に日本一の出荷を誇っています。その反面、就農者人口の減少。少子高齢化による後継者不足Dscf9983 は深刻で地区農村青年部も部員の減少から近隣地区と合併を余儀なくされている例もあるようです。農業を取り巻く情勢も安定したものではなく、家と畑を守りたい気持と厳しい経営を後継者に任せるべきかという気持の葛藤の話も多聞にあります。
Dscf9988 所々に生産者の遺跡が点在するのが目に入り、それを合わせても家の数は決して多くはないように思える。でも古い地図を見ると、その土地にはびっしりと名前が書き込まれていて一戸辺りどれほどの土地を持てたのかと思うほど。
豊かながらもどこかしら寂しい雰囲気があるのは、描き上げた絵を塗りつぶしてしまうかのような激しい季節の変化のせいか、大地の広さのあまり心がぽっかり抜け出してしまったからなのか…

Dscf9931

Dscf9972 この風景の中を車種を問わずたくさんの車が通過するようになったのは、ずいぶん前からです。小型・中型はもとより、大型車の通行料が多い。それも工事関係車両などではなく、貨物車両が特に多いのです。
Dscf9942 何ゆえ、この道にそれほどの交通量があるのかというと、町の中央部を横断する国道38号線を迂回するようにこの道が外側(山側)にあり、日勝峠まで続いていました。
一見、近道?と思いますが、距離的にはさほど差は無く、速度制限やオービスなどのある国道より速度を上げられる分だけ急ぐ人には都合がいいということがこの交通量の理由のようです。ただ者の速度でもないので、警察の測定も頻繁に行われているようですが、常時見張るというものでも無く、歯止めにはならないようです。
道なりに停車して風景でも撮ろうと降りてみても、道の前後に気をつけなければ非常に危ないのがこの通りの印象。

Dscf9991

Dscf9927 この危ない通りに10年程前から『ただ者』ではない集団が通りの左右に立ち始めました。その数およそ60人。
その始まりに位置するところに看板があります。

『かかし街道』

そう、道の両側に点々と立ちつくす彼らは『案山子』。
でもその役目は害鳥から作物を守るという本来の目的ではなかったようです。

それにしてもたくさんいるんだなぁ…

Dscf9929

Dscf9952 ビュンビュン追い越していく車を避けながら撮り続けていっても「まだある!」 「あっ!あそこにも」
その案山子たちも、農夫姿だけではなく子ども・婦人・老人など様々。
中に、手の込んだ一団がありました。
ここのお宅は、陶芸と篆刻の工房「太情庵(どんかち)」で、案山子は流木を加工した手の込んだものです。その姿は、群を抜いてユーモラス。
畑の中なのに漁師なんかいたりして…

Dscf9956 「ホントに凄く飛ばしていくんだよね…」

なんでもこの『かかし街道』は今年限りと聞きましたが…

「うちの前の連中はこのまま続けていくけどね。街道を始めた人たちももう歳だからねぇ。準備とか下草刈りとか、しんどくなったみたいでね。」

そうですか…残念ですね。

「でも、青年部の人達が引き継いでいくって話も出てきてるんですよ」

そうかぁ。ただ消えていくんじゃないんですね。

Dscf9969

Dscf9951 『かかし街道』だけじゃない。
この街では今年度から特産品のスイートコーンでご当地メニューを提案し、『コーン炒飯』プロジェクトを立ち上げ、ご当地メニューの発信を始めた。
ただ時勢や環境に流されるだけじゃなく、小さくてもいいから何か始めてみようという動きが出てきた。
それは何もここだけの話じゃなくて、そういう動きはどこの町にもあると思います。
『なにか始めてみよう』 その気持が、混沌とした世に光を指し示す指標になるのかもしれない。少なくとも何もしないでいるより前進しているよ。

Dscf1558 さて、そのコーン炒飯、味はいかがなものでしょうか?
噂では「あんな感じかなぁ…」という風にも聞きますが…

それは機会があったならどうぞ。味は噂で伝わりません。

ただ…この炒飯は夢と情熱のかくし味がふんだんに香る。

Dscf0040

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