2010年2月14日 (日)

あたんのバラード

違うよ それは「あんたのバラード」。。。
世良公則&ツイストのデビュー(?)だって

…これじゃMixi日記ノリだし

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ここで言う「あたん」『亜炭』のこと。
通常の石炭と異なり炭化度が低いため品質的には亜種という扱いになるから『亜炭』と付けられたのか…
いずれにしても採掘後、風に当てるなどして良く乾燥させないと製品として出荷できなかったそうです。

十勝の芽室町町境に位置する国見山は現在、営林署所轄の自然散策林として開放されていて軽登山の場として利用者に愛されている。
山頂辺りに「国見チャシ」と呼ばれるこの辺りで生活したアイヌ民族の遺構跡が残っていて、一見すると尾根に作った溝のある高台という風だが、砦とか見張り台とか解釈される。

Dscf4718_2 「国見山」と名が付いていますが「美蔓高台」の突端、河川の侵食によって作られた河岸段丘の一部であるようです。
“軽”といっても運動不足の身では頂上へ行くとそれなりに息が切れる。
1市2町の境でもあるので役所の職員でさえ、この山がどちらに所属するのか戸惑うことがあるようです。

この国見山。夏場の緑を湛えた姿の時には分からないけれど、秋風が吹く頃から徐々に…そして春までの間、山肌を露わにすると実にいびつな形になっている。
近くの橋が竣工した時の写真でも現在のようにガタガタな稜線を見せていた。
末端部が特に際立っていて生える木も踏ん張りが利かないのか、やっとのことで根を下ろしている様子。

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Dscf4726 町史を読むと、その跡は石炭採掘の名残だという。
石炭というと夕張や三笠のように縦抗や斜坑を掘って地中の深いところから産出するというイメージがあるけれど、この山は露天掘りに近かったそうです。
露天掘りというと芦別市などにも跡がありますが、それよりも規模は遥かに小さかったらしい。
ここの亜炭層の厚さは十数センチほどで、その石炭からは化石化した水草も確認されることがあり、一帯は太古の昔には大湿原地帯だったということになるらしい。
年代的にも地の底にある石炭よりも新しいらしい。故に炭化度の低い「亜炭」の状態で産出されていたのでしょう。

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(国見山亜炭鉱に関する記事抜粋)

Dscf3739 本町
(芽室町)の鉱業は、国見山南腹の亜炭鉱が唯一で、埋蔵量は350万tといわれています。この鉱区のうち140ha余は昭和17(1942)年4月に依田八百が、284haはどは同18(1943)年7月に鈴木長一がそれぞれ発見しました。炭質が優秀で一時軍用にされましたが、その後変遷を経て同21(1946)年12月、株式会社十勝炭鉱国見事業所として長田正吉に鉱業権が移りました。長田は国の燃料不足対策に沿い、復興金融公庫からも資金援助を受けて本格的操業に着手しました。同22(1947)年8月から1級炭鉱としての配炭公団の全面買取りでしたが、翌年10月の公団買取り廃止で直売しました。遠くは苫小牧王子製紙工場、地元では中央繊維芽室工場、帝国臓器製薬工場そのほか各種産業用や家庭用として供給し、同23(1948)年2月25日、札幌商工局から重要亜炭鉱の指定を受けました。同24(1949)年当時の業績は、出炭3,935t、販売2,328tで、従業員男女10数名による人力の採掘でした。

時代の脚光を浴びた亜炭も、需要が時代とともに減少し、同41(1966)年ごろには販売量228t、従業員も4名になり、経営継続が困難になって翌年11月に閉山しました。

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Dscf3741 閉山後、事業整理されたため当時の名残を残すのは、いびつな稜線だけで登山道を外れて転げ落ちそうな稜線を辿っても石炭らしき欠片も見つけることはできませんでした。
ただ、稜線の1箇所に元々の山肌の高さの部分を残したような塊があった。
石化した火山灰のように見えるそれは、頭頂部に「山神」のようなものを祀っていたかもしれません。

Dscf3745 小さい頃から家は既に石油ストーブだったけれど近所の家で、機関車みたいな石炭ストーブを見たことがある。本体はオートバイの空冷エンジンみたいにヒダ状の突起がたくさんあって、SLの煙突状のところは石炭タンクのようで、細かい石炭が満載されていました。
記憶の中には石炭に関することは非常に少ない。

それでも、どこからか石炭ストーブの煙の香りがしてくると敏感にわかるのは、記憶というよりも血の中にそれがインプットされているのかもしれません。

「温かったけどさ、毎週エント(煙突)掃除しなきゃならんのがメンド臭かったなぁ…」

何代目かの石油ストーブの前で石炭に関わるそんな話を聞いた。
石油の産出もあと40年ほどだという。その後、家族団らんの居間を暖めているのはどんな風に変わっていることだろう…

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2009年7月26日 (日)

みっつめの朝

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始めの朝は 生れたてきた日、最初の朝
次の朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝は…

「今日、泊ってくの?峠は大雪らしいよ」

「えぇっ?!」

Dscf0415 GWの最終日、これから200㎞以上の距離を家まで戻らなければならないというときに友人から驚くことを聞いた。この季節、大雪といっても北海道では、驚くほどのことではない。
自分が通る用事がなければ…
でも、数日前は夏日に近い日もあったことだから、そんなことあるはずないと思っていた。

行きの峠道は緑も芽吹き始め、春の小花もあちこちで見えていた。サクラはまだ峠を越えてはいなかったけど。
だから、とっくに夏タイヤ。ほとんどの人がそうだったと思う。
天気予報で峠が雪といってもチラつくくらいだったし。

「明日、仕事あるから、とりあえず行ってみる。どの程度の雪か解らないし…」

Dscf0416 とりあえず友人と別れて帰途につく。
峠のある町まで、普通に春の夜道。
真冬の大雪と春先の大雪は感覚的にも違いもあるから、降っても数センチかなぁ…でも峠に入ると路面凍結…?

最高点標高1,023mの峠は、急勾配と急カーブの連続で、樹海と高い岩山に囲まれている。それでも重要産業道路であることから末端両町の合意で村道として開通した道は昼夜を問わず通行車が多い。
夏場は霧に悩まされ、冬は、その交通量から圧雪・アイスバーンになりやすく重大交通事Dscf0477 故も多発。近年は、高速道の開通部分が延長されて険しい部分は回避できるようになって、交通量が激減した。
それでも道東への流通を担った道には違いなく、今でも流通のトラックは覆道と長いトンネルの連続する道をグングン登っていく。

峠の町まで近づくと、話の通り路肩に季節外れの雪が目立ち始めてきた。それでも路面は乾いている。

「もしかして行けそう?」

Dscf0474 やがて、進むほどに積雪量はどんどん増えて、峠手前の市街地は、お祭りでもあるのかというほどトラックや乗用車でごった返していた。
峠は荒天のため一時封鎖されており、越えるのは不可能。
少し戻ったところからもうひとつの峠に迂回する道も積雪が及んでいるため冬タイヤかタイヤチェーン装備の車両でなければ無理らしい。
海沿いから遠回りする道もあったけれど、そっちへ回る気にはならない。
「明日、峠が開くまで待つしかないなぁ…どうせ待つなら札幌で待てば良かった…」
そう思うほどに峠の町の夜は早く、すでに全ての店は閉まっている。
その頃は、まだコンビニや道の駅ができる前で、物産館駐車場からあふれた車は、国道の両側に路上駐車。
歩道に乗り上げたり、私有地に入り込んだり、エンジンかけっぱなしで地域住民とトラブルになっている様子あった。

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「この辺じゃ待てないなぁ…」

喧騒の市街地を離れ、暗い道を引き返す。
路面に溜まるシャーベット状の雪の上、時折タイヤが空転しているような気がした。
夜というのはこんなに暗いものなんだと思い返すほど暗い道だった。

街からほどほど外れたところにポッカリとドライブインらしきところが見えてくる。
少しでも峠近くで待機!と言わんばかりに集まった車両は、ここにおらず、大型トラックが数台だけ…

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「とりあえず、ここにしよう…」

Dscf0425 春の重たい雪が積もるパーキングに車を滑り込ませて、外灯近くのなるべく明るいところに駐車。
エンジンを切ると5月だというのにミルミル車内の温度が冷えてくるのが分かった…タンクの残量を考えるとエンジンをかけっぱなしというわけには、いかないし…。
とりあえず荷物からパーカーやらシャツを引っぱり出して着ぶくれに着込んでみる。気が付くとウインドーは内側から曇りだしていた。

「なんだか情けなくなってきたな…」

少し、窓を開けると遠くからチョロチョロと水が滴る音がする。

「?」

明かりの中ぼんやりと浮ぶキャンプ場の洗い場みたいなところのひとつが蛇口を開けたままで、下のバケツに水を溢れさせ続けている。たぶん凍結防止のためかな? まだこの辺りはそんなに冷え込むんだろうか…?

Dscf0424 この辺りのドライブインは、「ミツバチ族」とか「ブンブン族」と呼ばれてた道内2輪旅行者が利用する素泊まり宿が多い。
ドライブイン兼なので食事も可能。脇の大きなプレハブ小屋が宿で、洗い場みたいなところも泊り客用のものらしい。
5月では、まだ気の早い旅人はいないらしく宿泊棟に明かりは点っておらず、オートバイも見当たらない。

にわかにドライブイン正面から人が出てきた。
やおら空を仰いでいたその人がこっちを見たかと思ったら、そのままこっちに向かって歩いてくるじゃないか。

Dscf0423 「うわ~ッヤだなぁ…私有地だから出てけ!って言われそうだな…」

そばまで来たその人は、こっちが車の中にいるのを覗き込んで、

「どしたの?こんなところで…」

「いえ…峠が通行止めなんで…」

「あ~っやっぱり通行止めなったかい!こんな時にこんだけ降ることなんか滅多にないんだけどね」

「はあ…」 早く行っちゃってくれないかな…

「ここで夜明かししたらシバレる(凍る)よ。まだ霜も降りるし」

「えぇ…でも、行けるところもないですし…」

「裏、開けてあげるから寝てきな!布団はあるから!」

「いや…でも…」

「お金は、いいから泊ってきな!こんなとこいたら凍死するわ!」

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半ば不安に苛まれながらも強制的に案内される。
鍵を盗りに行ったご主人は、奥のプレハブの中へ案内してくれた。
決して明るいとは言えない照明を点けると両側にドアがいくつか並んでいる。
そのひとつに入ると、どこも相部屋らしく布団が数組並んでいた。
ご主人はポータブルストーブに火を入れながら

「夏休み頃だとライダーでいっぱいなんだけどね。まだちょっと早いんだ」

「なるほど…」

「好きなとこで寝ていいよ。寝る前に火だけは消しといてね」

「はい…ありがとうございます」

「ご飯、食べたの?」

「いえ!大丈夫です!」

「そっかい。じゃあゆっくり休んでや」

Dscf0430 話もそこそこにご主人は引き上げて行った。いつもあるのかな?こういうこと…

ゆっくりと温まる部屋の中。
古い雑誌や文庫本がたくさん積まれている他には、ポータブルテレビがひとつ。
宿というより工事現場の仮宿舎みたい。
でも車内泊が思わず布団でノビノビ眠れることになった。しかもタダで。
布団は冷たかったけれど心地よい眠りに付くには充分だった。

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「すいませーん…すいませーん…?」

翌朝、ドライブインへお礼だけでも言っておこうと寄ったが、いくら呼べども返事はない。

「出かけてるのかな?」

Dscf0433_2 前日とは打って変わって早朝から温かい春の空。
陽射で融けた雪の雨だれのような音で目が覚めたほど。
駐車場も道もほとんど乾いてきている。
相変らずご主人のいる様子が無いので今度来たときに礼をしようと出発することにした…
建物の壁に「素泊まり1500円」とある。
峠は路肩に雪が積もっていたけれど路面は、すっかり乾いてコントラストが際立っている。
結局、この日、仕事は休んだ。

それから程なく国道は新路線の完成により、このドライブイン前を走る車は激減した。
そのうち…と思っていた自分でさえ、再び訪れたのは何年後になったのだろうか。

長雨がようやくあがった朝 ようやく訪れる。時間は経ちすぎていた。
たった一夜の思い出だけど、この変わりように寂しい。
あの後、ここで何があったんだろうか。
屋根板の剥がれ落ちた屋内でとっくにあがった雨は、まだ降り続いていた。

新しい道は、かくも残酷な結果をもたらすのだろうか…。
いくら「廃墟好き」と言ったって「廃墟」になって欲しくないものもあるよね…。あるんだよ。

はじめの朝は 生まれた日、最初の朝
つぎの朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝─ それは 大事な何かが一緒に来なかった朝

Dscf0447 朝は、いつもやってくる。一日をリセットするみたいに。
ある意味、過去への訣別として。
爽やかな朝を繰り返して、時は積み重なっていく。
友達は親の都合で引っ越して 子どもは遠くに巣立ち 親は加速して年老いていく…
歯が抜けていくように不安になって、何かを悟ったようにぼんやりした答が波のように打ち寄せる。
時の重さに気がついて 朝が来ないように祈ったとしても、それは私的な我儘(わがまま)にすぎない。
人の心は、まだまだ繊細です。他の生き物達に比べると。
皇帝も独裁者も神々の名の下にある人も…終わりがあるのは自然の中の約束事。
そんな静かで無関心な朝の訪れは、時として残酷なものかもしれません。

でも朝には悪意も差別も中傷もない…朝ってそういうものでしょう? そうだよね。
無意味に迎えた朝はあっても 無意味に明けた朝などないのだから。

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あの 朝日の後で また会いましょう。

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2009年5月17日 (日)

鮮やかな地獄

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●へ

Dscf8661いつも元気な●は
最近、どこか弱気が見える
2年前はまだまだいけいけだったョネ!
もうあの時から10年くらいたったような●に
最近はそう思います

母は心配はしていません!(何事も経験)
あなたを信じているから
まだまだ地獄があるんだョ!

母もあなた以上に年(歳)の分、地獄を見たし
体験もしてきました。
みんな体験または経験をしているのです。
それ以上の人々もたくさんいるのです。
まだまだ●は幸福だと思うョ!
母の声を聞きたくなったらいつでもTEL下さい!…

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戦後並とも言われる景気の低迷。
失業率6%台も間近と言われています。
新卒者の就職内定取り消しや自宅待機。
とりあえずの就職内定率を誇る学校もその内訳には微妙な感が…

Dscf8670 『仕事があるだけましだよー』

『ボーナスでるだけマシと思わなきゃ』

『時代は変わったんだよ…』

戦いを忘れた群れが四列縦隊で進む様
うつろな目 うつろな子どもの目 うつろな芽生え
リアルと見分けの付かない敵に無制限な銃を向けてうつろに撃ちまくる。
『あっ!民間人だった』 減点…

Dscf8666 時間を縮める機械 時間を省略する機械 時間を先に進める機械
何も変わらないようでいながら人は機械の一部になって機械に奉仕してるみたいだ。

気難しい機械 気難しい自分 気難しい夢
それでも手放しがたい恍惚の桃源郷。

ショボいユートピア ダサいフロンティア マイブームなサンクチュアリ
ひとりだけの夢 ひとりだけの居場所 ひとりだけの応接間
ホラごらん…居酒屋のウリだって『隠れ家の雰囲気』だってさ。

Dscf8672人生に借りがあるのか 貸しがあるのか
手の届くものが取れないみたいで 実はてを出してもいない
心の傷だけが生きている証明のような気がして、癒えた傷の痛みさえ懐かしくて懐かしくて…ただ懐かしくて

でも案ずることはありません。
時代の良し悪しに関係なく、何時もたわわの実りを得る人もいれば、空の器をただ眺めるだけの人もいるのです。
自分も含めて、みんなキリギリスなのかアリンコなのかさえも判りません。
いくら時代が良くても世を儚みたくなる人はいたのです。
始まりから極論 そして弁解

実りは餅撒きのごとく手が届いた人のところへ
そして痛みは皆に公平に分配。
傷つけられる覚えの無い人まで平等に

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広い空 新緑芽吹く広大な北の台地。
北海道らしい風景の中に北海道の象徴らしくサイロと牛舎がポツーンとたたずむ。

いるはずのものは居らず 住んでいるべき人も忘却の彼方。
ただ そこに営みがあった証明だけが現代遺跡のようにそこに存在するだけ。
さても その大地の同胞(はらから)にブルーの不似合いな袋が大量に置かれてる…。

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『また、不法投棄か…』

Dscf8665 近頃は、ごみ排出も有料化の市町村もほとんど。
それほどに地域財政も逼迫しているわけ。でも処理費用は行政との折半(税金)です。
分別もルール化しているから指定外物の混入は回収されません。
だからといって他所の町に置くのは筋違いですよ。
でも よくもまぁ こんなところまで……?

違う…ごみじゃない
きれいにたたんだ衣類 子どものオモチャ 布団や日用品…
不要になったというよりも 手身近な荷物入れにしたような感じ。

束ねられた書簡はライフラインの支払い催促通知と供給停止勧告。
それら全てが仮にここへ置かれたのか 用を無くしたのかは計れません。

地獄 生き地獄にいた
それが自ずからはまり込んだ地獄なのか すべからず堕ちてしまったところなのか…
とりあえず逃げ出した道行の途中がここであったことには違いありません。

Dscf8664地獄と天国が絶えず交差するこの世。
まだまだ捨てたのもじゃないと…思うけれど
この有様を前にして何す術も その力さえも ましてや救う手立ても そして行方さえもわからない自分には
ただ静かに涙するほかに なにもできません。

空の財布の中に 母からのせいいっぱいの励ましが記された言伝が残されていて…

地獄と称された大地に春は芽吹き 雲が青空を流れていく
あまりにも美しい地獄絵図は 昔からそうであったように
未来にかけて地上の出来事に無関心です。
寛大に残酷に実り 癒し続けていく

春の香りは “甘く危険な香り”…なのかな

地獄から何とか抜け出せていられればね。
それだけは祈ります。

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救済が流行とは無縁なものであり続けますように

生意気言ってすいません

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2009年4月12日 (日)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』④

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【前回までのあらすじ】 
大好物のクリームコロンより廃墟が大好きなサブカルOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイト『廃墟楓』を運営する先輩、神氏(A型)と大きな炭鉱跡へ行きました。

同じ頃、別ルートからもカップルが一組。その彼女の方・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。写真を撮りに行くのを怪しいと疑っていた美玖の『いっしょに行きたい!』発言を趣味の一致と早合点していたようで週末デートも半分廃墟巡りに…。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから美玖の廃墟嫌いが爆発…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました。

そんな事件の最中、風の背に乗って空を行く幽霊少女『ナギサ』(血液型なし)
海へ向かう風に乗れなくて、辺りをウロウロしていました。
そこで目に入ったのが廃墟の樹海をさまよう美玖の姿。
それともうひとつ、近くをうろつくクマ(たぶんO型)の影。
『このままじゃ危ない!』
クマを説得しようとするナギサですが、クマはとっても頑固…。さて、どうしたものでしょうか

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「アツシ…」
そもそも私の疑り深い性格のせいなんだな…
それに嫌なら『行きたくない』と言えばいいのにそれができなくて…
だからって、少しは察してくれてもいいじゃない
普通はこんなところに来たい人なんかいないじゃない…
幽霊とクマくらいしかいなさそうなところだし…。
それにしてもアツシのほかにも同じ趣味の人がいたなんてビックリした。
一緒にいたあの子までそうとは思わなかったよ。

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Dscf1751 『ねえーっクマさーん…やめましょうよ…』

『うるさいなカスミのお前には関係ないだろ

『それはそうですけど…どうなるか知ってて見殺しにしたら私、一生後悔しちゃいます』

『一生って、お前1回死んでんだろ

『あっそうかクマさんナーイス突っ込みィへへへ…』

Dscf6874_2 『ドやかましいいいかげん行かないとバラバラになるほど吹き飛ばしてやるぞ

『でも、あの人襲っちゃうと鉄砲を持った人間がたくさん来てクマさんのこと探しますよ』

『なんで人間だけが特別なんだ俺にとっちゃあシカも人間も同じ食い物だノコノコ縄張りに入ってくる奴のほうが悪い

『じゃあ…私が替わりに食べられるようにしてあげますから、それでどうですか?』

『…今はインスタントは食いたくねえな

うーん…このクマ、すっごいムカついてきたぞ

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                         プップップー

「あっ合図です車のところで見つかったようですよ」

「いや…プップップだから車にはいなかったようです…」

そうか…師匠に確認した私が間違えてどうする

「このことで、やっとわかりました。僕は美玖に甘え過ぎてたんだなぁって…」

Dscf1747  「えっ?」

「解ってはいたんです。美玖がこういうところがキライだってことは…でも、美玖の好きな時間を作れば僕もこういうところへ来る時間を作れるって思ってて…それが結果として美玖に引き目を負わせていたんだなぁ…。僕は単に自分のエゴのために恩着せがましいことをしていただけなんですよ…僕は最低だ

「はあ…」

「何が自分に一番大事かってわかりました…」

Dscf1744 「あなたはやっぱり優しい人ですよ…」

「やっぱり、ここでジッとしていられないもし美玖がピット(穴)にでも落ちていたら

「あっ待ってください私も行きます

「いや僕の問題です。20分待っても何の合図もなかったら警察に連絡してください。お願いします

あ…行っちゃう…

Nagisa_on_ruin_2

「クマさーん?ホントはそんなにお腹空いてないんじゃないですかぁ?」

「しつっこい奴だなキサマ…いいかげんにしないとしまいには怒るぞ

「私もいい加減に分かってもらえないと怒りますよクマさんのためにも言ってるのに

「分からなかったら何だというんだ …あ

Nagisa_brake

           「ヒーッ

Dscf1746 あーっ…あっという間に逃げちゃった…
なにさーっ弱虫
ともかく何とかなったんだからいいや

「なに?」 向こう側の音は…動物の声?

アツシかもしれない

「えぇっ?」 な…何?あれ…

「あれ… もう大丈夫ですよ」 もしかして見えてる?

Nagisa_and_miku

「ギャーッ出たーッ

あら…行っちゃった…やっぱり見られた 
昼真っからこんなに見られて…私、幽霊向いてないのかなぁ

Dash

「今の声はミクーッどこだー

「えっ?見つかった

遠くからものすごい悲鳴とともに人間とは思えない勢いで美玖さんが走ってくるのが見えた!

「ミクーッこっちだ

「行ってカメラは預かっておきます」

「あっお願いします!ミクーッ

うっわーっものすごい勢い…。 あのままふたりがぶつかったらバラバラにはじけ飛んでしまうくらいスゴイ…

Dash2

「アツシィーッアツシアツシアツシアツシィーッ

「ミクミクミクミクーッ

「怖かったよ怖かったよォーッ離さないでよォーッ

「ゴメンこんなとこ連れてきて今すぐここから出よう

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「おっ見つかりましたか良かったぁ」

「いいにゃー。私も彼氏ほしい…

「こんな私もフリーですけど?」

「そうなんですか?お互いがんばりましょう

「…

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「あっ…風向きが変わったね…」
ここで足止めされてる場合じゃないや。とりあえず海を目指そう。
木立を吹き抜ける風に乗って再び空へ上がる。

「おや?あれはさっきの…。 彼氏とはぐれてたんだ…いいにゃーっ
私もこのままカズ君のところまで飛んで行こうか…
でも、どこにいるか知らないんだったなぁ…
とりあえず海行こ…ラララ~ッ

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それぞれの恋模様 それぞれの想い
一陣の風が運んでく
行きつ、戻りつ、行き着くべき場所へ
ずっとずっとずっと、一緒にいようね…

Youtube『ら・ら・ら』大黒摩季

※この物語はフィクションです。廃炭鉱は実在しますが、登場する人物そのほかは実在するものではありません。深読みしないように。。。
また、現地の照会はいたしかねます。たぶん

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2009年4月 9日 (木)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』③

【前回までのあらすじ】 
廃墟がスイーツより大好きなサブカルOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイトを運営する先輩、神氏(A型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、別ルートからは、もう一組のカップル。その
彼女・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』が大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。物事を深く考えない性格なのか、週末デートも半分廃墟巡りのようです。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから
美玖の廃墟嫌いが爆発…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました…

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「あの…携帯で呼んでみたらどうですか?」

「あっそうか…いや…ダメだ…ここは圏外です」

私のもダメ…この山奥にエリア拡大ってのも妙な話だけど、これじゃ意味無い…

「とにかく、手分けして…」

「闇雲に動くのはやめたほうが良いですよ。近くにいるかも知れないし。とにかく、こっちまで迷い込んだらコトですから少し冷静になりましょう」

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「あれ…ここどこ?」

表に飛び出してガムシャラに走ったけれど、落ち着いてきたら自分が来た方向もどっちかわからなくなった…
相変わらず、遠くにボロボロな建物は見えているけど、どれも同じにで、方角も分からない…

「アツシぃ…」

私、迷った…? どうしよう…

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「あれから…どのくらい経ちます?」

「30分くらいになりますかね」

「美玖がヘタに動いていたらマズイな…」

「そうです!いくらなんでも迷ってたら気が付いてるでしょう!」

「おーい!美玖―っ」

「ミクさーん!」
これは私のせいだなぁ…責任感じるよ…。

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あ~っ完全に迷っちゃった…どうしよう…

「アツシー!アツシーッ!どこーッ!」

困ったなぁ…困ったなぁ…ずいぶん歩いたけど、道がどっちだったかも分からない…
鳥になれたらこんなところからすぐに逃げ出せるのに…
こんなことになるならはじめからハッキリ「行きたくない」って言えば良かった…
でも言えなかったな…アツシの夢中な姿見てたら…
それにしても疲れたよぉ…どこかで少し休もう…

Nagisky

そんな地上の騒ぎなど意に介さないほど青い空。
海を目指して風の背に乗っている女の子がひとり。

「ズンタカター♪ズンタカターッ♪海!うみ!もうすぐだよーっ

ところが思い通りにならないのが風。海の方へ向かう風がなかなか吹いてくれないようです。

風任せの旅もメンドーだなぁ…降りてどこかの車に乗せてもらおうか…
でも、まだ木の海の真上。走っている車どころか、道も見えない。

「木が多すぎるんだ。少し低いところを行こう」

低いところは、山や木の影響があるので風も不安定だけど、今日は穏やかだから大丈夫だよね。
山の中なのに小さな家が点々と見える。
おや?緑の中に誰かいるみたいだなぁ…あんなところで何してるの?

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「ミクーッ!」

「おかしいですね。聞こえないのかな…」

「もしかしたら、車のところへ行ってるかもしれません。もしやということもありますから様子を見てきます」

Dscf1741_2 「そうですね。お願いします…」

「見つけたらクラクションを鳴らしますから」

「いなかったら?」

「いたら『プー』で、いなかったら『プップップ』にしましょう」

「プーとプップップですね」

笑いそうになったけどそういう状況じゃない…

「それと、なるべく音を出すようにしてください。まさかとは思いますが…」

「え?クマでも出るって言うんですか!」

「ここは、シカがたくさんいるって聞いてるんですよ。でもズーッと痕跡も見ないので…。こっちの気配でいなくなったのかもしれませんけど、万が一のこともありますから…」

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ここはどの辺なんだろう…
どっちを向いても同じような風景。気のせいか回りは山ばかり…

「そうだ!ケータイ!」

圏外…!なんてとこだろ…

ガサガサ…

なんだ?今の音!

「アツシ? アツシなの?」

音のした方を見たけどなにもいない…薄暗い林と何かがあったコンクリートの跡が見えるだけ…
こんなところにいるのは、シカかクマくらいだよね…
クマ…! だったらどうしよう!
ジッと林の方を見ていた。風かもしれないけど草が揺れて見える。
なにか…なにかあそこにいる?
クマだったら見つからないようにしないと…気味悪いけど、あそこの廃墟に隠れてよう…

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「おや?動き出した…。 あ…もう一人いる。…人じゃない?クマだ。あのままじゃクマと鉢合わせになるよ」

Dscf6874 「う~んシカの奴らすっかり見かけなくなったな…。待ち伏せしやすいところだったが、そろそろ他のところへ行かないとダメか…」

「あーっどんどん近づいていくそっちに行っちゃダメだって

「ん…?獲物の匂いがするな。まだマヌケな奴が残っているようだ。ヒヒ…」

「あのーっクマさんちょっと待ってください

「んッ?なんだお前は! どこかで見た奴だな…」

「あーっ?いつかのクマさんですね…。生まれ変わったら食べてやるとか言われてたんだ…」

「思い出したぞ!あのときのカスミ女だな!相変わらずカスミのままなのか!」

「カスミって… 私、ナギサですよ。ここで何してるんですか?」

「俺は今、忙しいんだ!獲物がいるんだ

「獲物って…この先にいるのは人間ですよ」

「だからなんだ

「なんだって言われても…」

うーん…ヤバイなぁ…。やっぱりあの人を狙ってるのか…

Nagisaruin2

                                (つづく)

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2009年3月22日 (日)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』②

Dscf1769

【前回までのあらすじ】 
廃墟大好きOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐ廃墟サイトの先輩、神氏(A型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、この場所へ別ルートから別なカップルも入っていたのです。ところがその彼女・美玖(AB型)は、口にこそ出さないものの『廃墟』は本当は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、その心のうちを察することができず、廃墟を撮っているつもりが廃墟に気を取られていて彼女のことが気に止まりません。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしてしまいました…

Dscf1729 『なんだかさぁ全然、理解できないよね。こういう趣味…』

『ええ…そうですね…

『薄気味悪いし、汚らしいし、虫はいるし…前は一緒に来なかったけど、どうも行動が怪しいから「連れてけ」って言ったら、それから開き直っちゃって…』

『でも…こういうところって滅多に見られるものじゃないし…

『これって粗大ごみみたいなもんじゃない!誰からも見放されてさ、わざわざ草をかき分けて来るほどのところとは思えないよ。そうでしょ?』

『まぁ…そうですよね…』
どうやら私も師匠に無理やり連れてこられてるのだと思っているらしい。
カメラの調子が悪くてバッグにしまってたからなおさらそう思われたかな…
それにしてもバッテリーの調子が悪いのにはまいったなぁ…目の前にこんな凄いところがあるのになぁ…

Dscf1695

『このタイプのレンズのボケ足が、これまた良いんですよ…』

『へぇ~っ検討してみます』

いっや~っ…
思ったとおり話が長引いてきた。
『退屈だよねぇ…座れるところもないし。ホント、デリカシーないって言うか…そっちも大変でしょ?』

Dscf1747 『は…はい… たまにならまだしもね…

『いつもじゃないんだけどさ、ちょっと遠出したら「当然の権利」みたいによるところを決めてるし、その間なんかこっちのこと放ったらかしだもの…』

『はっきり言ってみたら良いんじゃないですか?』

『言えるなら言ってるよ…ダメなんだよね。近頃はストレス感じてる…』

『それじゃ良くないでしょう?言わないとわからないこともあるし…』

『うん…そうなんだけど。でもさあイキイキしてる顔見せてくれるのは、こういうところだけなのさ…。そっちはどうなの?』

Dscf1761 『ええっ?そう!ヒッドイですよぉ!映画1本連れってってくれないし、毎週のようにですよ。こういうところ!』
…つい、相手に合わせてウソをついてしまった…

『よくガマンできるよね』

『いやぁ…問答無用ですよ。「次行こう」とか「早く行こう」とか興奮しまくって鼻血ブーです』
これは自分のことだな…ハハ…

『あの人、そうは見えないのにね…それに比べたら私はまだ甘いんだなぁ…。でもさあ、一緒にいてもひとりっきりみたいなのさ…なんだか…』

『アキさん?なに話してるんですか?こっちに来てくださいよ』

えっ!ちょっとぉ師匠今、話を振られるのマズイよぉ

『えっ?なに?どうしたんですか?へんなポーズして…えっ?違う?なんですか?はっきり言ってくださいよ』

『あのアノあの…ちょっと外の空気吸ってきますぅ…カビ臭くて具合悪いんで…ハハハ
いっやぁー師匠のバーたれっ空気読め空気

『そうですか?それほど感じませんけど…むしろさわやかな…』

『一緒に行きませんか?話長そうだし…』

『はい…』

Dscf1766

ピコピコ…

『あ…

『アキさん!あれ?そういえばカメラは、どうしたんですか?』

『あっちゃあぁ…
バッテリー生きてたのか…スイッチ切ってなかったみたいだ…

『カメラって…』

『そうだ!アキさんのカメラ見せてもらえますか?あれがまた良いものなんですよ』

『あんたも…? …なの?』

『ははは… はい…実は…

『私をだましたの?』

『いいえ…決してそういうわけでは…
ヤバイ…どうしよう…

『あれ?どうしたんですか?』

Dscf1792

…なにさぁどいつもこいつも廃墟廃墟廃墟って!まともな人間いないの

『ちょっと!美玖…?どうした?』

『いやあぁぁぁっっっもう嫌だぁぁぁっこんなの耐えられない

Dscf1730 『待ってどこに行くの
ヤバイヤバイことになった…山の奥の方へ行っちゃった

『あれっ?なにがあったんです?』

『師匠のバカぁっ

『マズイ連れ戻さないと
彼氏の人はあわてて後を追って走っていった。

『私も行きます

『美玖ーっ!おーい!』

Dscf1800

見渡す限り人の足跡を感じないフキの海に埋め尽くされた炭鉱跡。
どこへ消えたのか、既に彼女の姿は見えない。
この緑の中に一瞬にして飲み込まれたみたいに…
その真ん中で、彼はただオロオロしていた。
いったい…いったい、どこへ行ったんだろう。
たぶん…ここにいる誰にもここの土地勘はないと思う…。

『はて?なにかマズイこと言いましたか…?』

                   (つづく)

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2009年3月20日 (金)

廃墟の歩き方Ⅲ 「ら・ら・ら」①

Dscf1776

「えーっまだ先があるのーっ

「うん…こんなに奥深いとは思わなかったなぁ。さすが炭鉱だよ!ほら、向こうにもホッパーが見える。スッゴイなあ…」

Dscf1712 『スッゴイなあ』って… 知ってたんじゃないの
せいぜい1、2箇所かと思ってたら何?この森は…次から次にボロボロな建物が出てくる。
ひとつの中に入って彼がシャッター音を響かせてたら『向こうにもあるよ』って次々渡り歩いていく。
黙って後を付いてきたけど車を止めた道はとっくに木立の向こうで見えなくなった。

「大丈夫なの?ちゃんと戻れる?」

「うん!来たときの通り、辿っていけば大丈夫さ」

「なんだか…クマでも出てきそうなとこじゃない?」

話しながらならクマも寄ってこないんじゃないかなあ…」

「かなあ…」とか言うけどクマに聞いたわけじゃないじゃん!
あ~っ…それにしてもどこまで行くんだろ… あっ…また向こうにもある…

Dscf1711

Dscf1716 「スッゴイですねえ!師匠ーっ!入口んとこのゴミの山見たら正直メゲましたけど。これはもう鼻血ものですよお!」

「うん!大願成就です!うちからじゃここまでは滅多に来られませんしね。途中の街でポジフイルムを調達できなかったのが残念でしたけど…」

「夕べ、ここのことを調べたら『クマの生息域なので単独行動はしないこと』とか警告を載せてるところが多かったですよ。出るんですか?ここ」

「出たという話は聞かないですけどね。これだけ人里離れるとありえないことではないでしょう。エゾシカでもいれば少しは安心なんですけどね」

「そうなんですか?」

「シカも用心深いからクマの気配のあるところには近づかないそうです」

「あっ!師匠!向こうにもホッパーホッパー!

「はいはい順番にね」

Dscf1722

「ちょっとおー

「なに?」

「今の聞こえなかった

「何が?」

「獣の鳴き声みたいな…さかってるみたいな…」

「いやー、聞こえなかったけど」

Dscf1821 確かに聞こえたよ! 風なんかなかったし…
クマの声は聞いたことがないけど、テレビか何かで聞いたけど木の上のサルが人間が来たのを威嚇するみたいな声が聞こえた気がする。

「こんな人も滅多にこないようなところまで来てヤバくない?」

「そうでもないみたいだよ。結構あちこちに足跡もあるし…」

そういわれて下を見ると、湿った粘土状の土の上に靴跡がたくさん見える。
こいつみたいなもの好きが他にもいるんだろうか…
それよか、私のソールもすっかり泥だらけだ…トホホ…泣きたいよ。

「あそこまで行ったらとりあえず今日は戻ろう。これ以上行ってもキリ無いみたいだし」

「ホント?わかった」

彼の指差す向こうにひときわ大きい建物が見える。
ともかくあそこまではガマンだ…

Dscf1728

「師匠ってクマと遭遇したことあるんですかあ?」

「いや!ないです。でも、新しいフンを見たことがあるし、何かが近くにいる気配も感じたことがありますよ。その時は、さすがに深入りできませんでしたけど…」

「ここって遺構がたくさんあって嬉しくなっちゃいますよォ正気を失いそう

Dscf1725 「倒産ではなくて閉鎖ですからね。場所によっては国有地だったから閉鎖のときに原状回復でほとんどの建物を解体したところもあるようです。この辺りは、まだ地権は保有されているのでしょう」

「あっ!あっちの大っきいすぐ行きましょう

「話、聞いてませんね…。やれやれ…」

「えっ何か言いました?」

「いや!アキさんもカメラの腕が上がったなぁって…」

「もっと言ってください!私、褒められて伸びるタイプですから」

Dscf1753

あーっシンドイなぁ…。どうしてこんなところをサクサク進んでいけるんだろ?カメラとか三脚とか持ってて…。
同じ道を戻ることを考えただけで、うんざりだなぁ…とにかくここで終わりらしいから、この辺で待ってよ。

  ガサガサッ!

        「えっ?なに!」

Dscf1750

「あ…あれっ?」

「どうしましたか?」

「あの…いや!後で話します…」

あれーっ?なんでバッテリー切れるんだよぉ!おっかしいなぁ…こんなはずじゃないのに。
やっぱりフイルムカメラも持ってくれば良かった…
ん…?

「師匠なにかいます今、あそこでなにか動いた

「シッ!静かに…」

Dscf1736

何かいる!壁の向こうに…!
どうしよう!私ひとりだ。ヘタに動いたり騒いだりして、もしクマだったら…
どこにいる? あっ!あそこだ!
手を振ってみよう。
離れ過ぎてて全然気付いてくれない… そうだ!何か投げてみよう。
この棒でいいか…それっ!
あーっ 当たった…

「痛っ!なんだよ危ないな!」

Dscf1754

Dscf1774「あれは人ですよ。『痛っ』て聞こえた」

「誰か住んでいるんですか?ここに」

「いや…同業ですね。静か過ぎるし、心霊系でも昼真っからは来ないでしょう。かすかにシャッター音もするようです」

「さすが師匠!年の功!」

「褒めているんですか?それ…」

「もちろんです!師匠も褒められて伸びるタイプです。さあ!行ってください!」

「なんか変だなぁ…」

Dscf1789

「ギャーッッッッ助けてぇーッ

「何だ!どうした?」

「決して怪しい者じゃありません!」

「そうです!怪しく見えても実は違います!」

「どういう意味ですか?それ…」

「ははは…頭悪いんで上手く言えないんですよ」

「どちら様ですか?」

「いや、僕らもここを撮りに来ただけで…驚かせてすいません」

「そうですか。こんな場所で同業と会うのも珍しいですね」

同業? なんだコイツら!
死ぬほど驚かせて何のんびりしてるんだ!
あ…壁に寄りかかったから服が汚れたよ。トホホ…

「ゴメンね。驚かせるつもりじゃなかったんだけど」

「いえ…大丈夫です…」

Dscf1727

「どこかサイトやってる方ですか?」

「いいえ。単に写真が趣味で撮るだけですよ。サイト運営してるんですか?」

「はい『廃墟楓』というのを…」

「あーっ!良く見てますよ!すごいですよね。あの写真技術は!」

「本当ですか。それは嬉しい! これ…私の名刺で、今後ともよろしくお願いします」

「いやっ!これはご丁寧に…仕事用で失礼ですが、こういう者で…」

なに? こんなとこで名刺交換? 信じらんない!
嫌だな… なんだか長引きそうだ…

Dscf1708

「ねぇお互い大変ですね…」

「えっ何が?」

「変な趣味の男と付き合ってるとさぁ…うんざりするよ…」

「えぇっあ…そ…そうですよね…確かに…」

そっかぁ、この人は趣味じゃないんだ…
まいったなぁ…『私もそうなんです』とか言えないなぁ。これじゃ…

                        (つづく)

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2009年3月 9日 (月)

忘れられた大きなもの

Dscf1638

はじめて来た海 この海
向こう側のことは知らない いつもこちら側にいるから
向こう側のことを想うよりも その ただただ大きい海をじっと見ていた。
大きいからココロを呑まれたのじゃなくて
同等の塩分濃度を持つという体内の海が
意識とは別に呼応していたような気がする。

Dscf1648 いまでも変わらないこと
浜辺に行くと、必ず拾いものをする。

ちんまりと可愛い 大木の一部だった枝
ギザギザにトンガってたのに 砂に洗われて優しくなったガラスの欠片
骨みたいに真っ白に変色した貝殻
クチャクチャにいじけた塊になった海藻

みーんな海を旅してきたんだよ。
長い短いはあるんだろうけど…

Dscf1647 海に向かって両側が山に挟まれている風な景色のこの浜は、視界をさえぎるものなど、ほとんどないから前も後も景色が大きい。
前は海 後は湖。
その湖は、湖と言うより湿原の一部である沼です。

海と沼の間が数メートルの微妙な砂山で途切れていて、かろうじてお互いのプライドを保っている。
その均整の保たれているところを道(橋)が通っている。
大雨で沼側が急激に増水してくると、線路や道路の保安上その砂山を切って、放流することもあるそうです。

海側の中ほどに海産物加工所やドライブイン等が砦みたいに固まった界隈があって蛸や干し物を軒に並べているのが道からも見えた。
道の反対側には、ここもまた食事処兼業の貸しボート屋がある。
海に連れて行ってもらえたのは3~5年に1度くらいだったから子どもには、さして面白くないような場所だけど動物園以上に楽しかったよ。

Dscf1669 海に足を入れたり海水の塩っ辛さを確かめたのも
ポケットいっぱいに貝殻やビーチグラスを詰め込んだのも
ボートに乗って漕いでみたのも
カニとか帆立とかがたくさん乗ったラーメンを初めて食べたのも
隠れようも無いような空の下で焼肉なんてのも
み-
んな、ここが初めて
子どもの頃の話だけどね…

Dscf1679

Dscf1672 大人になって 自分でハンドルを握るようになり、再び訪れてみたくなった…。
多くの古いものや 新しいもの達が、現れては消えていく世の中で砦は、かろうじて呼吸をしていた。
わずかな数の暖簾しか下がらず、多くの店は乾ききって自ら最後の変貌を開始している。

何か、思い出の骨片でもないかと浜を歩いてみた。
時代はガラスビンからペットボトルへの変化して久しく、もう波に洗われたビーチグラスを見つけるのも難しい。そのかわり、波乗りの上手いペットボトルが小山になっている。

『そういえば、道の向こう側でボートに乗ったことがあったよ…』

Dscf1993

Dscf1997 道の向こう側の小屋みたいな店は、今も変わらずそこにあって、今でもお客さんを待っているようだけど、主が商売をやめてからもすでに長い年月が経って、かつてはあったそこへ降りる道もなくなっている。
車が絶え間なく行きかう道をどうにか渡って近くへ─。
『貸しボート』といってもボートなど何処にも見えない。海へ出たのか沼へ出たのかわからない漁船が緑にまみれている。
船の名から、このあたりで使われていたものには間違いないようだ。

Dscf1995

Dscf1998 おかしなもので、ボートに乗った記憶は、あるのだけれども店の記憶は全くない。
それほどに自分で操れる船に乗ったのが印象的だったんだろうか?
最も近所の子とオールを1本づつ受け持っても上手く漕げなくてグルグル回ってたけど…
それでも余裕のVサインで笑っている写真がアルバムにあるよ。

貸しボート屋さんだと思っていたら、中の厨房や小上がりのある様子から食事も出していたようです。
もっとも建物が小さいから広い場所ではないけれど、窓から湖(沼)を望む食堂。
ボートはどこまで行けたのかなぁ…どっちにしても非力で無理だったろうけどさ。

Dscf1654

この辺りは古い土地の人々の言葉で『カラス』を指すという。
『カラス』というと縁起が悪そうだけど、黒光りする上等な着物を羽織るその姿から昔の人は、神として見ていた。
その神が船で来た人をこの浜へ導いたという。

また、神(自然)からの施しだけで生きてきた狩猟民族の彼らは、神々の手違いでしばらく苦しんだことがあった。
神々は、あわててこの浜に大きな鯨を届けたという。
その時、人々が嬉しさのあまり舞い踊った踊りが現在も郷土芸能として伝わっている。

Dscf2015

相変わらず上の道では、ゴムで弾き飛ばしたみたいに車がかっ飛んで行く。
どこへ行くんだろうね。
どこへ…

Holga_tape 道が良くなって 車も良くなって
見たいテレビ番組も予約録画しておけばOK
ご飯も家へ戻る頃には、おいしく炊き上がっている。
お風呂もボタンひとつで良い湯加減。
朝ごはんの洗い物も自動で完了してくれる。
洗濯乾燥も手間要らず。
ついでに『たたみ』もしてくれないかなぁ…

でも、みんな時間がない。時間が足りない。
あの頃と今の時間の進み方が同じとは思えない。
ここより、ずーっと最先端で新しい娯楽施設がこの地上から完全に姿を消してもここが残り続けるのは単に後始末の問題じゃなくて、
時間の温度差というか、時の包容力というか、そういうことがあるのだと思うよ。

想い出は廃れてしまったの?

いいや… 海も 空も 湖も昔のままだったよ。
変わったのは、その間に少し挟まっているものだけ。

Dscf1996

Dscf2029pola 変わらないものは、とても大きくて
そして、ただただ大きいばかりで
向こう側のことどころか、こちら側のことさえも
意に介しないかのように不変です…

神々は、人を導いた土地から不在になったのか…

神は、決してその御業に無関心などではなくて
見捨てようとしているのは、人の方です。

このボートハウスは『北海道廃墟椿』内の「ボートハウスの宝石」で詳しく触れられています。
合わせて御覧ください。


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2009年1月25日 (日)

くるり くるり②

『ここにいてください! この家があなたを許すまで…』

Front

『うわぁっ!…』

あ… 夢を見てた。すごく怖いの。 いつから見てなかったかな。夢なんか…
たしか…幽霊になってから眠ったことなんてなかったからその前だ。
自分が自分でなくなる夢。
体がパキパキ音をたてながら恐ろしい怪物に変わっていく夢…
あれ…?なんで眠ってたんだろ…

Dscf6898 そうか…体が急にしびれて動けなくなったんだ。それで、そのまま…
まだ頭がボーっとして考えが固まらない。

ここは…さっきまでいたところじゃないな…
家の中みたいだけどボロボロに崩れてあちこちの穴から外が見えている。
どうしてこんなところに立ってるんだろ…

何があったんだろう…何があったんだっけ…?

Dscf6937

『あれ?』

手が動かない!
手だけじゃない!何かに腕を押さえられて動くことができない!

Cage

『気ィついた?』

『!』

Dscf6916 思い出した!そうだ!こいつが来たんだ!

『おっかないなぁ…そんな顔せんでや。ホンのちょっと頼みがあるだけやし…』

初めて会った時の軽い口調で話しかけてくる。
この人は、ザナドゥのふたりやケイさんとは違う。恐ろしいものをどこかに潜めているんだ。

『なに…なんですか?』

『あっちでも聞きかけとったけど、飛び方を教わりたいんや』

Dscf6900 やっぱり…ここから出ることを考えてるんだ。
マズイ!そんなこと絶対できない!

『私、飛べない!できないです!』

『空から落っこちてきたやろ?見てたで。さっきのケイとの話も全部聞いちょったし。オレもオバハンに閉じ込められて迷惑してるんやで。助けてぇなぁ』

『知ってても無理です!あなたはここから出ちゃいけないんだって…』

あ…言っちゃった!

Dscf6913 『なんでぇ?オレ、なにしたん?』

『あなたは…殺された人で…』

『だからぁ?そんなん関係ないやん!オレが閉じ込められなアカン理由なる?』

あるって…何かあったよ。
頭の中がゴチャゴチャしてる…。
…そうだ!

『人に取り憑けるって…』

『あんたは自分で飛べるんやろ?オレのできることって人にくっ付いて動くだけや。
言わば、行き先を自分で決められないタクシー乗ったみたいなものやねん。
それが、こんなんとこ来たばっかりにオバハンに目ェつけられただけなんよ。
悪いって言えば、無賃乗車みたいなもんやろうけどさ…』

Dscf6920

え…なんか話違う。
それじゃあ、わたしがカズくん(こいつもカズか…)と会ってた時とか、自転車に乗せてもらった時と同じじゃないか…これじゃ責められない…。
べつに責めるわけじゃないけど、なにか信用できないんだ。どこか…

Dscf6912 『ともかく、あの結界があったら出られないんや。だから、ええやろ?』

『ダメです!だからって、わたしをここに縛り付ける理由ないじゃないですか!』

『逃げられたら、なんぼ話したって誤解解けんし、あかんやろ?
みいんなナギサちゃんに色々吹き込んどったけど、オレのことフォローしてくれるのん、おらんしなぁ…』

話を返せない…。それどころか同情しそうだ…

『頼むよホンマ!1回でいい!家へ帰りたいんや!母ちゃんの顔見てきたいんや!』

Dscf6923 『…』

『なぁ?』

『ごめんなさい…わたしにはできないです』

信じてあげたいけど、わたしは素直になりきれない…。なぜか…どうしても…

『そっかぁ…しゃあないなぁ…』

ごめんなさい…わたし、自分で自分の考えが決められなくて…

『じゃあ、お前に憑かせてもらうわ!』

『えぇっ?』

『器(体)がない分、心まで取れるわ!ケイみたいにグッチャな頭やないやろしな!あいつも煙突から出て行くことくらいできたやろうが、閉じこもる気持ちが強くてアカンかったしなあ!』

なに!ケイさんにまでそんなことしてたの?
だから、ケイさんと争っていたんだ!
やっぱり信じちゃいけないんだ!この人!

Bad 『おとなしくせぇや。適当なとこまで行ったら自由にしちゃる…』

『ちょっと!いやだ!やめて…』

こころに─
なにか黒い影が入り込んできた。
粘土細工みたいに頭の中身が、つぶされていく感じが…

こんな!いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ イヤダ…

『いやだ!!』

Shot

真っ白だ
もう、どうでもいい気がした。
どうせ、一度死んじゃったんだし。難しいことなんか、これ以上考えたくない…

まだ、わたしはわたしでいるの?
目を開けるとここにいるのは、わたしだけになっている。
体は自由に動けるようになっていたけれど、
もう、こころは支配されているんだろうか…

『な…なんや!何した!動けん…』

『ええっ?』

声が聞こえて見上げると、さっきここに立っていた顔が影になって焼きついていた。

Wall

『出せや!ここから出せや!』

Dscf6906 わたし?何かした?したんだろうか…
たぶん、そうなんだ。他の誰の気配もしないし…
それとも、わたしには解らないなにかが助けてくれたの…

『出せや!早よう!承知せんぞ!』

ピシッ!

家のどこからか乾いた音が走る。

『ここにいてください! この家があなたを許すまで。 わたしには決められません!どうしたらいいのか…』

─あと30年は、このまま立っていられるよ。ほとんど潰れた年寄りだが、生きのいい魂が入ったからな─

Light

これは、家の声! 助けてくれたんですね?

─何もしとらんよ。やったのは娘さんのようだったがな…。まあ話はわかった。もう行きなさい─

『すいません!お願いします』

『待てーっ!戻れ!戻って来いやぁ!』

Entotsu_2もう、何もないよね。
何も起こらないよね。

祈りながら逃げるように家を後に…。
悲痛な叫びをこれ以上聞かないように早く離れよう…

家の前の坂を下りると、さっきケイさんと話した建物が見えた。
すぐ前に大きな道も見える。

─道なりに行くとすぐ左に見えてくるよ─

ケイさんに聞いた通り、すぐに高い煙突が見えてきた。
回りに何もないところに煙突が空を支える柱みたい。

Nagisa_flight煙突の真下にドアみたいなものがあって塞がっていたけれど、隙間があるらしくて空気を吸い込んで、風が中を通り抜けていく音がした。
わずかでも隙間があれば、わたしは入っていける。

もう一度、来た道を振り返ると
空も草木も何事もなかったように静かだった。
ここに落ちてきたのは、偶然だったのだろうか。
それとも何かに導かれてきたのか…
今は考えられない。

でも、わたしがここに来てから多くのことが動いたのは間違いない…

『海へ行こう…』

しばらく樹の海しか見ていなかったから─
海が見たくなった。海に癒されたくなった…
高いところへ上がったら潮の香りを探そう…

End

『行かせて良かったのかい?あの子は…』

『私も鬼では、ないのですよ。…ご存知でしょう?』

『うん、そうだったね…』

Kinenhi_2 風は走る 海めざして
波と見たいに行きつ戻りつ…

やがて全ても回りまわって海に帰る
くるり くるり と
回りまわって新しい命に変わる

それはリサイクルではなくて
サイクルに他ならない

それが本来、自然なこと…なのかもしれないのです。

♪Youtube 『くるりくるり』 ナナムジカ

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2009年1月10日 (土)

くるり くるり①

Dscf3783

青い空と緑に包まれた大地
鳥のさえずりが聞こえて木々はそよ風に揺れている。
どこまでも飛んでいけそうな空だけど、この空には結界というのがあるらしい。
わたしのような幽霊がこの辺りから勝手に出て行けないようにしてるそうだ。
そう聞いた…

Dscf3776 「でも…ホントにあるのかな?」

風が空からまっすぐ吹き降りてくるのが分かる…
途中に風をさえぎる何かあるようには思えない。
風が抜けられるんなら…

ちょっと試してみよう─ 

Dscf3470 後ろから道沿いに風が走ってくる。
すかさずピョンと飛び乗って道を通り抜けていくと、時折何かの建物の跡が目に入った。
あそこは何だったんだろうね…
そんなことを考えているうちに両側に立ち並んでいた木立が切れて、広い場所へ出た。
風が開いて空に向かって反り返っていく。

Dscf3785 「うん…?行けそう」

他の道からも同じようにきた風が重なり合って上に向かって押し上げられ、一気に空へ…

「あっ

Doom 何かにぶつかった。
風は何事もないように空高く走っていったけど、壁に当たったみたいにはじかれて、風の背から転げ落ちた。

「あーっ…」

草の上で仰向け。ひっくりかえったまま空を見上げると、何も知らないのっそりとした雲がモコモコふくらんでる。

「やっぱり、本当か…アハハ…」

なんだかわからないけど、笑いがこみ上げてきた。
今日はいろんなことがあったから…。落ちたショックで緊張の糸が切れたみたい。

「言われたとおり、煙突を探さないとダメか…」

落ちたところは、木立も少なく、開けた場所。
煙突はどこにあるかと後ろを振り返ると

「あーっ

Dscf3792

Dscf3427 さっきまでいた『ザナドゥ』とは違うけど大きい建物がドーンと建っている。
急に目の前に現れたようで驚いた。

「わーっすごい…」

煙突は、まだ見つからないけど、この建物が気になったので様子を伺うことにしよう。
木や草が絡みついて、なんだかジャングルの中の遺跡みたいだなぁ…
本かなにかでこんな感じのを見たことがある気がした。
それにしても痛々しいね。

「あ…あれぇーっ?」

Dscf3426

入れるところを探して横から回ると、建物の真ん中がパックリと大口を開けている。
入口という風じゃない。なにか爆発して吹き飛んだ跡みたいに口を開けた穴は、獲物をジッと待っている大きな生き物のようだ…

「何かあったんだろか…」

Nagisaon

Dscf3457_2 そう思いつつ、その大きく開いた口の中に引き込まれていく。
これがホントに腹ペコの怪物だったら私は犠牲者だよなぁ…。
この青空の下、そんなことはないよねぇ…と軽い考え。
薄暗い闇の中に並ぶ柱が奥行きのある怪物の喉の雰囲気がした。

 

Dscf3441中は、こざっぱりと片付いて、とても恐ろしいものが待ち構えている感じはない。
天井がとても高くて広い。
壁際にいくつか部屋が見える以外ここは、ほとんど大きな部屋がひとつだけ。
柱が何本か、この高い天井をやっと支えているみたいだ。
ここの壁も『ザナドゥ』みたいに落書きがたくさんあって、壊されたみたいに穴が開いている。

かわいそうに…。
どうして動けないものにまでこんな残酷なことをするんだろうか?
ここに何か書けば、願い事が叶うとでもいうかのように隙間なく文字や絵が書きこまれていた。

建物が、こんな目に遭った事をどう思っているのか聞いてみようか…

Dscf3430

Keixit 「ナギサ…」

あれっ!向こうからこっちを呼んできたよ…
ん…?名前を呼んだなんで

「だれ  誰か、わたしを見ている!

見回すと壁の上にある四角い穴から光るもやのようなものが湧き出してくるのが見えた。
ユラユラとわたしの方へ漂い降りてくる。
正体を見極めようと目で追っていくと
それは、この広い部屋の中ほどに降りて、だんだん一塊になっていく…。

Keigost

これは…この人は…さっきわたしの前で消えた─
ケイさんだ

Dscf6595 思わず身構える! わたしを追ってきたんだ!
またあの、恐ろしい姿で何かするつもり?
今のうちに逃げようか?このまま…
でも、まだ煙突は見つかっていない。
見つけたとしてもそのまま行けば、ここのから出る方法を教えることになる。
どうしよう…どうしよう!

「ナギサちゃん…私…」

「いえ…あの…」 どうしよう!どうしよう!どうしよう!

「怖いんだよね…私が。仕方ないか…。
でも…今は、さっきのダメージが残ってるから平常でいられるよ。
少しの間は、話したいことも話せる…」

Dscf3450 何かたくらんでるんだろうか…
いざとなったら、どうにかできるかな…
できないよなぁ…

「聞いた?私のこと…」

「…」 だまってうなずく…

「これだけは、聞いて。
私の問題は小さなことだったかもしれないけど、
自分にとっては生きている意味みたいなものだった。
ダメになった時、それでもなんとか修復しようと思ったけど
やっぱりダメで…

私…死んじゃえば逃げられると思ったんだ。
嫌になったことを…考えなくてよくなると…どうにもならない辛いこと…。
ところが体が無くなっただけで、ずっと悩み続けてる…。
それどころか、その辛さから永遠に逃げられなくなっちゃったんだよ。
まるで地獄!そう私自身が地獄になった…滅びることもできなくて…

その挙句、悩み苦しむ化物になってしまった…
わかってたら、生きてた方がずっとマシだった…今にしてみればね…」

泣いてるの…ケイさん…

「今だから言えるの!少しでも平常な今なら。そのときだけ自分でいられるから。やっぱり思う…。死ぬんじゃなかった。死ぬんじゃなかった!でも、もう遅いの。『命の還るところ』へも行けないのは、私への罰なんだ!」

Nagisakei

何も言えない。言葉が見つからない…
ケイさんの言うことは、本当だと思う。
信じられる…というより事情も知らずに逃げようとしたわたしは情けないと思った。

「ケイさん、ケイさん。もういいよ!わたしもなにも知らなかったから…」

「ゴメンね!ごめんね!」

初めて会ったときは─
ピンと張り詰めてて、冷たい感じもしたのに
今は、とても弱々しい。
時間が経てば元に戻るらしいけど、ケイさん自身が自分を縛り付けて苦しめ続けるのだろうか…

─消したくても消せないのよ─

『ザナドゥ』で聞いたあの言葉は、そういうことだったんだ…
魂は消せない…
わたしにだってそんな力はないよ…

でも、ほんの少しでも何かにならないかと思いつくことを話した…話してた。
わたしのことを…
隣に越してきたカズ君と会ったことや
今まで旅をしてきたこと…
ケイさんが苦しんでいることをせめて一時でも忘れさせてあげられないかと…

気がまぎれたのか
ケイさんは少し元気になってきたようだ。

Dscf3448

「ナギサちゃんには、今がホントの人生かもしれないね」

初めて会ったときの無表情な人と、今のケイさんは別人のようだ。

Dscf3446 「もう行ったほうがいいよ。私も回復して、これ以上自分を抑えられなくなってくるから…。煙突はこの外の道を行くとすぐ見えてくるよ」

「知ってるんですか?出口のこと…」

「うん!私は、こんなんじゃどこへも行けないし」

「ごめんなさい。力になれなくて…」

「いいの!私の運命。仕方ないわ…
いつかは終わると信じてる。
早く会えるといいね、カズ君と。
あなただったら、普通の幽霊じゃなくなると思うよ」

「えーっ?どういうことですか?」

「ハハハ…わかんない!」

笑った。ケイさん…

「さあ!もう、行きなさい!」

Keihakka「はい!あの…これ、あげます」

ポケットから、ハッカ飴を出した。

「ふーん。ハッカかぁ…シブいの持ってるね」

ケイさんは包みをひらいて口に放り込んだ。

「じゃあ、お世話になりました」

「いや、私が迷惑かけたよ。ゴメン!」

Keihand 「いいえ…あれ…ケイさん?手が…!」

「えっ?…これって…」

ケイさんの手が光を湯気みたいに上げて溶けるみたいに散らばっていく─

「そんなどうして?…まさか飴?わたしそんなつもりじゃ!」

「待って!このままにして… わかる。私の願いが叶うんだよ」

「願い?」

「命が還るところにいけるの。これで…」

「…」 

「ナギサちゃんがここへ来たのは偶然じゃなかったんだね。私を許すために来てくれたんだね。きっと…」

Keigoodbye

「ケイさん!」 

Keiheven笑みを浮かべながら ケイさんの姿は、どんどん薄くなっていく
光の粒に変わって空へどんどん上っていく

「これでやっと救われる。また生まれ変われることができる。そのときは、ホントの友だちになりたいね」

「うん!」

「ありが…」

消えた─
最後の光の粒が天井に吸い込まれるように消えていった。
本当に願いは叶えられたんだろうか…

…そうだよ。叶ったんだ。きっと─

Shot

Nagisadown 「うぁっ!」

急に背中から強いしびれが走る─
何が何だかわからないまま、力が抜けてその場に倒れこんだ…

「ああ…」

気が遠くなっていく… 近くで覚えのある声がした。

「オレの夢も叶えてもらおうやないか!」

 

   どうなるんだろ…わたし…

(つづく)

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