2012年1月 5日 (木)

ハカセ

「博士」の読みには「はかせ」と「はくし」 ふたつある。
PCの変換では、どちらでも可能。

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それぞれの意味に違いはあるのだろうか?
調べると「はかせ」は、古いどちらかといえば俗的な呼び方で、
「はくし」が本来正式な読み方になるのだそうだ。
でも、元から「はかせ」と読ませるものもあり、どちらが正しいというものでもないらしい。

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032 博士には博士号を持っていて、その筋の(主に科学・化学・医学など)の専門家というイメージがします。

それとは別に“ハカセ”とは呼ばれていますが、専門家の代名詞として、公式ではない博士があるようです。
例えば地元で“漬物博士”と呼ばれているお婆ちゃんや“詩吟博士”の名を欲しいままにするおじいちゃんなど。
そこには「権威」よりも「尊敬」の気持ちがあるように思えます。
 そうするとマニアもまた、ある意味では「博士」でありえるかもしれない。

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『ハカセ』の名を見かけた。
そこに『博士』は意外でしたが、確かに『ハカセ』がいたらしい。
どの分野の専門だったか、この場所から察するのは難しいのですが、宿だったようです。

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北海道の真っ只中。視界の90%が空。そう思えるほど空。
それなのに生きていく日々、いつのまにか足元ばかり見ている。
人が、世界や宇宙に舞台を広げても地上のものであることは変わらない。
口を開けっ放しで見上げるような高い建物も、遙かに高い空に比べれば、地上にへばりつく小さな突起に過ぎないのだ。
そして私たちは突起に翻弄される。

05 突起でしかない高い山の頂に感動や畏怖を感じるのは、人が己の大きさを知り、物事を見失っているわけではないということなのだろう。
人は突起の先端を目指し始める。想像力を駆使して。
想像力は飛べないものを飛ばし、宇宙へも行かせる。
想像力が届くならば宇宙の果てもいずれ必ず見えてくるだろう。
日常の当たり前のようにあるものも、かつては未知なものからが出発点です。
それを解明し、私たちにわかりやすく、身近なものにするのが、すなわち『博士』なんだ。
たぶんそう。そう思う。

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ハカセはどこへ行ってしまったのだろう。

09 宿主が博士だったのか、博士のいた家が宿になったのかもわからない。
小さな一軒家風の…たぶん民宿。
壁のあちこちに落書き…というよりも寄せ書き風の書き込みがたくさんある。
日付からは時代が平成に変わる前あたり。
「とほ宿」とか「ライダー宿」の類だったのでしょう。
“観光”ではなく純粋に“旅”を楽しみたいならそういった宿は良いところです。宿泊料も安いし。

 でも、1人が好きな人やスケジュールが混んでいる人には向かないかもしれない。
夕食後の会話のひと時が意外と膨らんで、気が付くと陽が昇りかけいる。そこからとりあえず仮眠のつもりが寝過ごしてしまいます。

ハカセはどこへ?

ハカセは、きっと研究の旅に出たのでしょう。
ハカセもまた旅人 旅人もまた研究者です。

ハカセは、行き場に迷ったものをまとめる専門家です。
だから「ハカセ」と呼ばれるのです。

親愛を込めて。

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2009年8月 9日 (日)

廃墟の歩き方Ⅳ 『ちいさな頃から』②

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「へーっここ遊園地かなにか?」

「いえ…ラブホです…」

「えっ?ランボー?」

「ラブホですよ」

「らぶ…。あっあぁ~っラブホテルね。なんだ…変なとこーっ

Dscf0265 変なとこって…
しかし、廃墟嫌いと言いつつ、ケロッとしてるなぁ。
自分で来たいって言った手前、仕方ないだろうけど。

「良く見たらスペースシャトルの形だ。キレイな時だったら来ても良かったねぇ…」

「…」

「こういうところ、良く来るのぉ?」

「いや!ラブホは行かないです

「はぁ?廃墟のことだよ」

Dscf0305 う…墓穴掘った。なんか調子狂うなぁ。
なんていうか、いかにも理解のなさそうって感じの人と来ると、私もこんなところで何やってるんだろ…って気がしてくる。
師匠だったら、私が言ったことに的確にリアクションしてくれるけど、趣味が違うからなんだろうけど。
師匠は聞き上手だよ。やっぱり…
あ~っ神経が疲れてくる…

Dscf0290「営業していた頃は、まだ上水道が来てなくて地下水汲み上げだったそうです。それが近くの道路工事の影響で水が上がらなくなったと聞きましたよ」

「それでこんな有様に…中、見れれる?」

なんだか美玖さんのほうが乗り気だなぁ…
彼氏と廃墟へは行ったことがあるらしいから慣れてるんだろけどね。
好き嫌いは感受性の差なんだろう。
シャトルルームの中でも割と中がきれい目なところを選ぶ。
と、言っても、どこもかしこも木片や誰かが放り投げた室内電話や消火器とかの備品も散乱している。
いつから放ってあるのか知らないけれど消火器は、破裂することもあるらしいからなるべく近づかないようにしてる。

「気をつけてくださいよ。頭の上とか…」

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Imga0236「わーっ汚ったないでも広いんだなぁ…。こっちは、お風呂だ腐ってるーっ

「…」

こう、わかってくれそうな人だったら「ここがいい!」とか「ここはキレイだね」とかも言えるけど今日の場合は難しいなぁ…。私が私らしくなくなる。

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「どのくらいやってるの?」

「えっ?何がですか?」

「こういうところに来るのをさ」

「そう…5年くらいになるかなぁ…始めは同じような趣味の人を知らなかったから、ずーっとひとりで…」

「ふーん…でも今は、理解ある彼氏がいるからいいよね」

「へっ?誰…まさか師匠の話

「うん」

「ち…ちょっとぉなに言ってるんですか勘弁してくださいよ

「だってぇ、こんな怪しいところに一緒に来れる人ったらそうじゃないのぉ?」

ないないないですかんぐり過ぎですって

「もう外へ行こ。なんだか空気がスゴク重たい感じがするよ…ここ」

ふーっ。いきなり何を突っ込んでくるのさ…あ~っ早く帰りたい

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Dscf0229 シャトルを出て、管理室と通常ルームのつながる棟へ。
真っ暗なボイラー室を通り抜けるとき、美玖さんが背中にピッタリ張り付いてきた。
反対側の客室の棟はいくつか部屋が並んでいるけど端から2部屋は内装作製中に工事中断して、柱とかが剥き出しのまま。
たぶんシャトル棟だけで用が足りたので全てを完成させずに営業していたんだろう。
一番手前の部屋もボイラー室から直接繋がっているので客室ではなく、乾燥室に転用していたようでタオルや浴衣が散乱して、天井には物干しがたくさん。
のこり3部屋が客室として使われていた。もっともひとつはガレージのシャッターが閉まったまま壊れているので『開かずの間』と化している。

Dscf0283 「ずいぶん人が来てるんじゃない?あちこち壊されてるけど…」

「たぶん、肝…」 マズッ

「なに?」

「いや… 危ない危ない…

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「小さいころさぁ…小1くらいの時かなぁ!捨て猫を拾ってさ、真っ黒いけど目がビー玉みたいにキラキラの子猫。近所の子とこんな狭い階段のある空家の2階で飼ってたことあるよ。その頃、私んち社宅だったし、他の子の家もダメだったから…」

Dscf0315 「そうですか…」

「カワイかったんだぁ。すぐ死んじゃったけどね…っていうか殺されたんだけど」

「えぇっ?」

「みんなの秘密基地にしてたけど、ひとり男子がさぁ、じぶんの兄ちゃんに教えちゃったのさ。後で白状させたけど…。その子達、行ったみたいで“黒猫は悪魔の使いだ!”って寄ってたかって蹴り殺しちゃったらしい…見つけたときはもう、ボロボロで冷たくなってた。あんなやつら呪われてしまえばいいのに!」

「…

「それからこんなとこ来なくなったよ…」

そういうことあったのか…
ないとしても普通は、廃墟好きにならないだろうけど…

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「もういいや…帰ろう

「なにかに…なりました?」

「うーん…よくわかんない私には、さっぱりさぁ…」

その横顔からは、廃墟が好きだとか嫌いだとか、そういうことは読み取れない。
意外とスッキリしたような表情ではあるけど…
ただ、ここに来てみた─それだけなのかもしれない。

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「このシャトルがホントに飛んでいったら私たちの街の上だよね」

Dscf0345 朽ちかけながらも整然と並ぶシャトルは確かに街のほうを向いている。
夜なら、空と地上の星に挟まれる…ここは天と地の境目がわからなくなる景色なのかも…
でもシャトルは、静かに…ただ静かに空を見上げるだけ
鳴り物入りで打ち上げるスペースシャトルとは違うから…

「たまに…アツシも誘ってあげて」

「いいんですか?

「うん!たまにならね。アキさんの彼氏と3人なら構わないよ」

だから…違うって…

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Dscf0301 「あーっビックリした…人が来るとは思わなかったよーっ

「そうですなんですか?人間はいろんなとこへ来るあるますね…」

「そう…“あるます”だよ…

Youtube/JUDY&MARY『小さな頃から』

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2009年8月 5日 (水)

廃墟の歩き方Ⅳ 『ちいさな頃から』①

Coffee

『幽霊?』

『う…疑うの?アキさん』

『いや…そういうわけじゃなくて…』

『ホントにあの時見たのさ!あの炭鉱で…』

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美玖さんに相談があると言われ週末、街で会うことになった。
久々の青空の下は気温もグングン上がり、通りは歩行者天国。夏のイベントでごった返している。どうも人の多いところは私の性に合わない…
待ち合わせた美玖さんは、この前、写真の師匠である神さんと行った山奥の炭鉱跡で偶然出会った。
彼氏に連れられてそこに来た美玖さんは『廃墟趣味』ではないらしく、あの草深い森の中では当然のごとく不満そうで…。
途中、ちょっとしたことから機嫌を損ねて遺構と樹木でうっそうとした森の奥を突っ走って行方不明になってしまった。しばらくして無事、見つかったけれど…

後日、その美玖さんが師匠を通じて私に連絡してきた─
まさかとは、思ったけど…

『名刺を見つけたの。アツシの部屋で。神っていう人の…それで連絡してみたんだ…』

Nagisamiku なんの気なしに会ってみて、幽霊の話とは驚いた。
悪いけれど私は幽霊を信じる方じゃない。というかまったく信じてなどいない。
信じてたら廃墟など絶対行かないよ。
しかも、あの時に見たって…あの時は、まっ昼間じゃないのさ。

『すぐ近くにいたんだよ!はじめは、なんだろ?って感じだったけど、振り向いて“大丈夫ですよ”とか話してきてさ…』

『えぇっ…?…で、どんな感じでした?』

『うーん…白っぽくて少しユラユラしてて…影っていうか…そう、若い女の人の影に見えた!』

『女?』

『そう!若くて…ワンピって感じ』

『… 

古い炭鉱跡に昼間っからワンピースの女の霊?それは誰も信じないでしょ…まいったなぁ…

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『信じてないっしょ?』

『いや…そういうわけでは…』

『ホントは、私も今になったら本当のことだったか怪しくてさ…。幽霊じゃなかったら宇宙人かなぁ…』

Dscf9516その…あの、彼氏の人には話したんですか?そのこと…』

あの森の中で私と師匠、美玖さんとその彼氏、4人が右往左往していたのは、ついこの間のこと…
その日以来、雨の日が続いて思うように探索はしていない。
彼女ともそのときぶりだけど、神経質そうだったあの子が私に会いたいと連絡してくるとは思わなかった。

『そうなのさ!』

わっ!なんだ急に!

『あの日以来、ああいうとこ行かなくなったんだよね。アツシ…ひとりでも行かなくなったみたい。前は、ちゃっかり計画してて当日発表みたいなー』

『それは、まあ…ああいうことのあった後ですからね…』

『映画とか…ショッピングとか…連れて行ってくれるんだ。郊外へ出かけたって「また?」と思ったけど全然寄らなくなった』

『それはそれで、良かった…んじゃないですか?』

『…』 

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美玖さん…黙ってしまった…。
返す言葉に失敗したかな?
師匠に今日、美玖さんと会うんだと話したら…

『気をつけてくださいよ。あの子、神経質そうだから…』

『大丈夫です!師匠より女の扱いには長けてますから』

そ・れ・が!イカンのですよ。話すときは、しっかり噛み砕いてからにしたほうが…』

『買いかぶらないで下さい。これでも私、ご飯は、しっかり30回噛むんですよ!』

『会話の話ですよ。それに、それを言うなら“見くびらない”です』

やっぱり師匠にも来てもらえば良かった!
用事で札幌へ行くって言ってたけど確信犯だなぁ…
なんだか、緊張してきた…。
お腹空いたなぁ…緊張するとお腹空いて来るんだよ…
あーっこの暑いのに熱いグラタン食べてる子がいる。変なヤツだなぁ…

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『ねぇ!ちょっとアキさん!聞いてるの?』

『あ…はい!聞いてます!』

『で…ものは相談なんだけどさ!どこか知ってる廃墟に連れてって

『えっ?えっ?えぇぇっっ

思わず大声が出て、回りの視線が一斉にこっちへ…
美玖さんもグラタン女もキョトンとした顔で私を見つめてる…
うわぁーっ恥ずかしい…
美玖さんが急に思いもしないことを言い出したからじゃないかーっ

『私、廃墟なんか嫌いだよ!でもさ…ああいうところでアツシは幸せそうな顔を見せてくれたのさ。今でも笑ってくれるけど…違うんだよね。なんだか自分にウソ付かせてるみたいなのさ…』

『はあ…』

『一緒に行ってても“こんなとこ嫌だ”って感じで見てたから、アツシの感じるものをわからなかったんだなぁって…。そういうのを理解したい気持ちもあるんだけどアツシ行こうとしなくなっちゃったし。ああいうことのあった後だから私から言えないし…』

この前、グチってばかりいた子とは思えない。
今時、こんな理解力のある子、いないじゃないか。
私もこういう理解ある彼氏欲しいなぁ…廃墟趣味に理解のある…

Dscf9572 『愛してるんですね…』

『へへっ… まあね…』

『で…いつ行きます?』

『明日でも、どう?時間ある?』

『明日

『アツシ、明日まで仕事で出張だからさ。近いとことかないの?』

『いや…あることはありますけどね』

弱ったなぁ…師匠もいないし…
近場か…近いとこ…ないことはないけど…

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『こんにちはーっ』

おやぁ?またあんたかい!物好きだねぇ…こんなとこばっか来てたら嫁の貰い手なくなるべさ』

『だいじょうブイです!すいません今日も見てきていいですか?』

ああ!怪我だけは、しんようにね。あんなとこだしさ…。また写真かい?』

『いえ!今日は見るだけで…。あっちのバリケード、大きくなってましたけど、また誰か来てたんですか?』

Dscf0267 師匠と一緒に来たことのあるこの廃墟は、ずいぶん前に閉鎖されたラブホテル跡。
高台の突端にあるので上水道の充実していなかったころに近隣の道路拡張工事の影響で地下水脈が変わり、地下水を汲み上げられなくなったのが閉鎖の原因とも聞いている。
この廃墟に隣接している裏の道は一見、ここの道のように見えるけど、まったく無関係で、奥にある家の私道だ。心霊スポットの噂もある場所だから夏になると肝試しの連中が毎夜のように来るらしい。
事情を知らない人が奥の家をホテルの廃屋と思って勝手に覗きに行くことがあったんだそうだ。
そういうこともあるので、ブログに場所のことは載せられないし、時々来る情報照会のメールも丁重に断わるようにしている。

『この前の連休あたりからね。ボチボチ出てきてるよ…

『あまりひどかったら通報した方がいいんじゃないですか?』

『いんや、そこまで迷惑こうむってるもんでもないし…ウチのもんでもないからさ』

Dscf0328 心霊の噂もあるここは、夏場になると肝試しのハッテン場になっているらしい。
噂の信憑性は、近所で聞いて回っても「そんなこと初めて聞いたよ」と言ってたくらいだから、やっぱり怪しいんだろう。
それでも冷やかしの連中は良く来るらしく、中はずいぶんと荒らされてる。それとは別にこっそり不法投棄していく人も相変わらずいるみたい。
他にも銅線の窃盗目的で来る人もいるらしく、あちこちの電線が切断された跡がある。
天井裏にまで入った痕跡もあったし…

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『ずいぶんかかったね。面倒なの?』

『いえ!世間話ですよ…。ホントにいいんですか?』

『…うん

今まで、いろんな廃墟を見てきたけど、こんなに気が重いのは初めてだ…
とりあえず、近場と言えばここしか知らないし「心霊の噂」だけは黙っておこう…

(つづく)

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2009年7月26日 (日)

みっつめの朝

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始めの朝は 生れたてきた日、最初の朝
次の朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝は…

「今日、泊ってくの?峠は大雪らしいよ」

「えぇっ?!」

Dscf0415 GWの最終日、これから200㎞以上の距離を家まで戻らなければならないというときに友人から驚くことを聞いた。この季節、大雪といっても北海道では、驚くほどのことではない。
自分が通る用事がなければ…
でも、数日前は夏日に近い日もあったことだから、そんなことあるはずないと思っていた。

行きの峠道は緑も芽吹き始め、春の小花もあちこちで見えていた。サクラはまだ峠を越えてはいなかったけど。
だから、とっくに夏タイヤ。ほとんどの人がそうだったと思う。
天気予報で峠が雪といってもチラつくくらいだったし。

「明日、仕事あるから、とりあえず行ってみる。どの程度の雪か解らないし…」

Dscf0416 とりあえず友人と別れて帰途につく。
峠のある町まで、普通に春の夜道。
真冬の大雪と春先の大雪は感覚的にも違いもあるから、降っても数センチかなぁ…でも峠に入ると路面凍結…?

最高点標高1,023mの峠は、急勾配と急カーブの連続で、樹海と高い岩山に囲まれている。それでも重要産業道路であることから末端両町の合意で村道として開通した道は昼夜を問わず通行車が多い。
夏場は霧に悩まされ、冬は、その交通量から圧雪・アイスバーンになりやすく重大交通事Dscf0477 故も多発。近年は、高速道の開通部分が延長されて険しい部分は回避できるようになって、交通量が激減した。
それでも道東への流通を担った道には違いなく、今でも流通のトラックは覆道と長いトンネルの連続する道をグングン登っていく。

峠の町まで近づくと、話の通り路肩に季節外れの雪が目立ち始めてきた。それでも路面は乾いている。

「もしかして行けそう?」

Dscf0474 やがて、進むほどに積雪量はどんどん増えて、峠手前の市街地は、お祭りでもあるのかというほどトラックや乗用車でごった返していた。
峠は荒天のため一時封鎖されており、越えるのは不可能。
少し戻ったところからもうひとつの峠に迂回する道も積雪が及んでいるため冬タイヤかタイヤチェーン装備の車両でなければ無理らしい。
海沿いから遠回りする道もあったけれど、そっちへ回る気にはならない。
「明日、峠が開くまで待つしかないなぁ…どうせ待つなら札幌で待てば良かった…」
そう思うほどに峠の町の夜は早く、すでに全ての店は閉まっている。
その頃は、まだコンビニや道の駅ができる前で、物産館駐車場からあふれた車は、国道の両側に路上駐車。
歩道に乗り上げたり、私有地に入り込んだり、エンジンかけっぱなしで地域住民とトラブルになっている様子あった。

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「この辺じゃ待てないなぁ…」

喧騒の市街地を離れ、暗い道を引き返す。
路面に溜まるシャーベット状の雪の上、時折タイヤが空転しているような気がした。
夜というのはこんなに暗いものなんだと思い返すほど暗い道だった。

街からほどほど外れたところにポッカリとドライブインらしきところが見えてくる。
少しでも峠近くで待機!と言わんばかりに集まった車両は、ここにおらず、大型トラックが数台だけ…

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「とりあえず、ここにしよう…」

Dscf0425 春の重たい雪が積もるパーキングに車を滑り込ませて、外灯近くのなるべく明るいところに駐車。
エンジンを切ると5月だというのにミルミル車内の温度が冷えてくるのが分かった…タンクの残量を考えるとエンジンをかけっぱなしというわけには、いかないし…。
とりあえず荷物からパーカーやらシャツを引っぱり出して着ぶくれに着込んでみる。気が付くとウインドーは内側から曇りだしていた。

「なんだか情けなくなってきたな…」

少し、窓を開けると遠くからチョロチョロと水が滴る音がする。

「?」

明かりの中ぼんやりと浮ぶキャンプ場の洗い場みたいなところのひとつが蛇口を開けたままで、下のバケツに水を溢れさせ続けている。たぶん凍結防止のためかな? まだこの辺りはそんなに冷え込むんだろうか…?

Dscf0424 この辺りのドライブインは、「ミツバチ族」とか「ブンブン族」と呼ばれてた道内2輪旅行者が利用する素泊まり宿が多い。
ドライブイン兼なので食事も可能。脇の大きなプレハブ小屋が宿で、洗い場みたいなところも泊り客用のものらしい。
5月では、まだ気の早い旅人はいないらしく宿泊棟に明かりは点っておらず、オートバイも見当たらない。

にわかにドライブイン正面から人が出てきた。
やおら空を仰いでいたその人がこっちを見たかと思ったら、そのままこっちに向かって歩いてくるじゃないか。

Dscf0423 「うわ~ッヤだなぁ…私有地だから出てけ!って言われそうだな…」

そばまで来たその人は、こっちが車の中にいるのを覗き込んで、

「どしたの?こんなところで…」

「いえ…峠が通行止めなんで…」

「あ~っやっぱり通行止めなったかい!こんな時にこんだけ降ることなんか滅多にないんだけどね」

「はあ…」 早く行っちゃってくれないかな…

「ここで夜明かししたらシバレる(凍る)よ。まだ霜も降りるし」

「えぇ…でも、行けるところもないですし…」

「裏、開けてあげるから寝てきな!布団はあるから!」

「いや…でも…」

「お金は、いいから泊ってきな!こんなとこいたら凍死するわ!」

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半ば不安に苛まれながらも強制的に案内される。
鍵を盗りに行ったご主人は、奥のプレハブの中へ案内してくれた。
決して明るいとは言えない照明を点けると両側にドアがいくつか並んでいる。
そのひとつに入ると、どこも相部屋らしく布団が数組並んでいた。
ご主人はポータブルストーブに火を入れながら

「夏休み頃だとライダーでいっぱいなんだけどね。まだちょっと早いんだ」

「なるほど…」

「好きなとこで寝ていいよ。寝る前に火だけは消しといてね」

「はい…ありがとうございます」

「ご飯、食べたの?」

「いえ!大丈夫です!」

「そっかい。じゃあゆっくり休んでや」

Dscf0430 話もそこそこにご主人は引き上げて行った。いつもあるのかな?こういうこと…

ゆっくりと温まる部屋の中。
古い雑誌や文庫本がたくさん積まれている他には、ポータブルテレビがひとつ。
宿というより工事現場の仮宿舎みたい。
でも車内泊が思わず布団でノビノビ眠れることになった。しかもタダで。
布団は冷たかったけれど心地よい眠りに付くには充分だった。

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「すいませーん…すいませーん…?」

翌朝、ドライブインへお礼だけでも言っておこうと寄ったが、いくら呼べども返事はない。

「出かけてるのかな?」

Dscf0433_2 前日とは打って変わって早朝から温かい春の空。
陽射で融けた雪の雨だれのような音で目が覚めたほど。
駐車場も道もほとんど乾いてきている。
相変らずご主人のいる様子が無いので今度来たときに礼をしようと出発することにした…
建物の壁に「素泊まり1500円」とある。
峠は路肩に雪が積もっていたけれど路面は、すっかり乾いてコントラストが際立っている。
結局、この日、仕事は休んだ。

それから程なく国道は新路線の完成により、このドライブイン前を走る車は激減した。
そのうち…と思っていた自分でさえ、再び訪れたのは何年後になったのだろうか。

長雨がようやくあがった朝 ようやく訪れる。時間は経ちすぎていた。
たった一夜の思い出だけど、この変わりように寂しい。
あの後、ここで何があったんだろうか。
屋根板の剥がれ落ちた屋内でとっくにあがった雨は、まだ降り続いていた。

新しい道は、かくも残酷な結果をもたらすのだろうか…。
いくら「廃墟好き」と言ったって「廃墟」になって欲しくないものもあるよね…。あるんだよ。

はじめの朝は 生まれた日、最初の朝
つぎの朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝─ それは 大事な何かが一緒に来なかった朝

Dscf0447 朝は、いつもやってくる。一日をリセットするみたいに。
ある意味、過去への訣別として。
爽やかな朝を繰り返して、時は積み重なっていく。
友達は親の都合で引っ越して 子どもは遠くに巣立ち 親は加速して年老いていく…
歯が抜けていくように不安になって、何かを悟ったようにぼんやりした答が波のように打ち寄せる。
時の重さに気がついて 朝が来ないように祈ったとしても、それは私的な我儘(わがまま)にすぎない。
人の心は、まだまだ繊細です。他の生き物達に比べると。
皇帝も独裁者も神々の名の下にある人も…終わりがあるのは自然の中の約束事。
そんな静かで無関心な朝の訪れは、時として残酷なものかもしれません。

でも朝には悪意も差別も中傷もない…朝ってそういうものでしょう? そうだよね。
無意味に迎えた朝はあっても 無意味に明けた朝などないのだから。

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あの 朝日の後で また会いましょう。

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2008年10月26日 (日)

カタオモイ…

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心のふれあいは温かい そうあるべきです 本来は。
温泉もまた然り  だから心に浸み込むのです。

どちらも五感を通して、心地よくしみわたる…

そして温泉へ行くことは愛情に似ている。
相思相愛の状況に…
ただし、そうではなくなった「片思いの湯」のお話です。

Dscf6915 「温泉」 漠然と入るけれど、地の底で「お湯」が滾々と存在していることが不思議に思う。
火山やマグマの影響で地下水が温められているということは知っているけれど、そこまでもぐって見てきたわけじゃない。
小さい頃、家族で泊った温泉宿の駐車場にお湯の湧き出している穴を見つけて、寒い日なのに地面からお湯が沸きあがってくるのが不思議でたまらなかった。

不思議なものは、いつしか普通 そして当たり前に。
当たり前にあるものは、いつしかその価値を見失う。
水も 空気も 愛情さえも…。

夜空見上げ 立ち上る湯気に 
浮世のしがらみを忘れて
理想も屁理屈も絡め取らせて一緒に飛ばそう
湯は絶え間ないように懇々と沸き続ける
愛のように まさに愛があるべきように

でも 誰のためって訳じゃない そんな大地の温もり

Dscf6918 日本人 おそらく誰しもが温泉好き。
大きなホテルには 大きな宮殿を思わせるような大浴場
小さな温泉宿は 思考を凝らした自然と一帯の情緒

ブームは「湯」を「温もり」を愛して止まない人々を
小さな温泉宿、いわゆる「秘湯」と呼ばれるところにさえも足を向けさせる。

このところ 目新しい温泉も目に付くようになった。
「手湯」 「足湯」 そして「源泉かけながし」という言葉も聞かれるようになった。
すべての温泉が本物じゃなかったこともあったから…
その湯もいろいろあって 冷まさないと入れないほど高温の所や
加温しなければ適温に満たないところもある。
それが本物かどうかは別として加温を必要とする温泉も意外と多いことに気が付く。

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Dscf6939 原油価格高騰
その煽りで閉館を余儀されなかった湯があちこちに存在する。
そんな時代的犠牲が温泉の現状を炙り出したようです。
入浴には温度の満たない湯や温泉とは呼べない冷泉まで
ボイラーで加温して温泉として成り立てた。
後の世が分かっていたなら「まちづくり」は決して足枷にはならなかっただろう。
ブームとは言っても維持費の高騰に見合うほどの収益増も実らずに図らずも
温泉もどきは、窮地に陥り
温泉であっても細々と続いた秘湯宿でさえ、少しづつ姿を消していく。

Dscf6950

Dscf6924 地の中にあるものが
また 地の中にあるものに翻弄される。
なんだか妙ですね。
でも地の底の問題じゃなくて
地上にいるものの問題なんです。

Dscf6932

Dscf6937 どんな秘湯も専門誌に載るなどして情報を聞きつけた人は訪れる。
クマが出そうな人里離れた山の中の天然温泉でさえもシーズンには絶え間なく人が訪れるみたい。
情報に山の深さは重要じゃないんだなぁ…

湯は滾々と沸き続け
疲れを癒し 冷えた心を温める
湯気は優しくその場所を指し示していた。

Dscf6911

Dscf6916 閉められた湯場
やり場のない温もり
立ち上る湯気は龍の如く「癒すべきもの」を求めて城を遡っていった。
そうせざろうえなかったかのように…

行き場のない「癒し」が、やがて宿の「毒」となり 静かに建物を蝕み始める。
かなわぬ愛が自らを傷つけるように…

湯浴の乙女は寡黙な龍の怒りで湯場が廃れゆく様を物悲しく見届けねばならない。
それが 由々しき勤めに生きてきた彼女の 悲しき定めでもあったから…。

Dscf6946

この温泉は解体され更地になりました。
冷泉とはいかないまでも加温の必要があったため原油価格高騰のあおりで閉鎖を余儀なくされたわけです。
現在、国からの補助を受けて再開発の計画が持ち上がるも国や町の財政状況を考えると再開発は負担であるとか、もっと資金投入すべきことがあるとかいう住民感情も無視できません。
町では住民説明会などを得て町の資源活用と活性化を説得しています。
計画では数年後に生まれ変わった温泉がここに現れることでしょう。
そうなっても湯を愛する人たちが「行きずりの愛」で終わらないようになって欲しいものです。

Dscf1929  ここから消えてしまった湯浴の乙女。 
目に浮かんだ雫は湯気だったのか
それともそれは…

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2008年7月29日 (火)

ONE(ラブホ牧場の朝)

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青空の下に広がる果てしない田園風景 風に波打つ青々とした草原
思い思いに空と大地のめぐみを食む家畜たちの群れ
鮮やかな色の畜舎

ビビッドな色ながら寛大に癒しをもたらす北海道の夏景色。
健康を景色に例えるとこんな景色もふさわしいと言うと言い過ぎだろうか。
道外の人に言わせると「こういうところに住むと人間ものんびりするんじゃないですか?」というところらしい。
それくらい北海道は広いらしい。道外では同じ景色がずっと続くような場所は少ないらしいから…。

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Dscf0188 でも、道民は意外とあくせくしている。行先が遠すぎるからアクセルを踏んでる。モータリゼーション化で一般家庭の自動車保有率が上がる。
その影響で公共の鉄路や陸路が減っていく。
線路は錆びて、バス停は朽ちかけて緑に埋もれていく。
なおさら車を持たねばならない。ガソリンを入れるために長い距離を走らねばらないという矛盾。都市基盤の分散や集中。内勤業務でも車がないと通えない。
だから「愛」にもガソリンが必要。
ガソリンで愛を語り ガソリンで愛を深め ガソリンで愛を確かめ合う
今言うと贅沢に聞えるね。
人目を忍んで走れ!二人だけの世界に 水入らずの砦は万全のセキュリティと幸福のひと時を約束する。決められた時間の中で…

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この牧場は、生産も飼育も出荷もしない。
利用者が「愛」を育てるための牧場というのが適当です。
今のように大手や系列チェーン展開のラブホではなく、個人経営によるもので大掛かりなギミックは無いようです。

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一帯は国道からさほど離れておらず、同一ホテルが点在する地域。一昔前までは…
ここ同様、廃業や商売替えで姿を消していったようです。
この手は街外れや郊外にあるのが普通の感がありましたが、今は国道隣接や街中や住宅街にも普通に存在しています。

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Dscf0346_2 幾千の夜 数多の朝
長すぎる昼 ひたすら短い夜
止まらない時間

いろんな秘密と思い出を詰めた牧場。
やがて時が来て牧場長も去りました。

語られない思い出
記録されない夢
色あせた愛
忘れかけた言葉

たしかにあった時間
たしかに横にいた人
たしかに覚えてること

それは 「もうひとつ」のことじゃなくて
「ひとつ」だったってこと…

自然の光には縁がなかったここに最高の光が差し込む
光がこんなにきれいに見えるのは この闇があったから
愛おしく感じることは それが もう戻らないから
こんな光景に宗教感を感じるのは
信仰も建物も時が深まると廃れていくモノだからなのか─
美しいものを愛でる心と卑しいとされる心はあまりにも近すぎるから誤解されやすく混同しやすい。

慣れるということは純粋じゃなくなること…純粋を恥じるかい?夢を笑うのかい?

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廃墟ミューズは静かに眠る
「いばら姫」のごとく 緑に埋め尽くされたこの牧場にひとり

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  zutto kokoni iruyo.

※アルバム完成 右欄外からどーぞ 

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2008年3月 2日 (日)

夜は僕らをひどく悲しくする

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Dscf4513 小さい頃 大きな空 特にとびっきりの青空の下が大好きで 家の中に閉じこもっているなんて夜、寝るとき以外はできなかったよ

夜は怖いよね 習った覚えも 教えたつもりも無いのに『怖い』ということを覚えていく
それはいわゆる【自衛本能】というものなんだろうね

ひとは 創造力でいろんな見たことのないものを見えるようにしたから『怖い』ということも大きくしてしまったんだ

それを克服できたら 一躍ヒーローなのかな

そうさ だから夜は未知が多いけど 魅力的でもあるんだ

じゃぁ ここみたいに夜に青空はひどく奇妙に感じるよ

いや ボタンひとつで青空を闇夜に変えられるから ここでは誰もが神に近くなれるのさ

 

  パチン     パチン

 

Dscf4520 うん 確かにそうだね でもなんだか 『青空』箱に閉じ込められているみたい
雲が凍り付いているみたいに動かないから…

この空は外の闇を閉じ込めているのさ こちらが外で 外が箱の中
そう考えると すごく自然だ

外が中… なんだかよく分からない…

この世の始まりは全て闇から始まって光が現われたんだそうだよ
始めは闇に刺す一閃の光 それは闇に包まれていて
そこから闇と光は常に包みあうようになったんだ
はみ出したポケットみたいに裏返って…

Dscf4524 戦っているのではないの?

相手を包みあうのさ そうでなければ 夜はひどく悲しいよ

でも闇は ひとりだととても不安だよ

それが夜の魔法なのさ 人恋しくさせるための…
人は胎内の海と暗闇から生まれてくるから闇は愛情なんだね

『歴史は夜作られる』ていうのかな?

うん そんなところさ

Dscf4511 そうなると『青空』はとても可愛そうになるね

『青空』はひとを散らばらせて 夜がまとめるから 出会いの仕掛けなんだよ

そうなのかな…

青空と 暗闇と どっちが好き?

 

 

んー 今は暗闇かな…

 

  パチン

 

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Dscf4517 トゥルルルルル…  ガチャッ

はい?

  あと10分でお時間になりますが 延長なさいますか?

はい

 

 

ちょっと『青空』が干渉してきたみたいだ

ハハハ…

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2008年1月16日 (水)

戦士の休息 ②

澄み渡ったというよりも塗りこめたような冬の青空の下で学び舎は静かに余生を送っています。収蔵された郷土資料も同じ宿命でここに来ました。2名の軍人もここで静かに休息しています。忘れてはいけない記憶も閉じ込めてしまっては無しも同然。彼らがここを出て再び時代の証言者になる日はくるのでしょうか?

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Dscf2498 ここが閉校になったとき、他にいくつかの学校が共に閉校となり新設校へ統合になりました。
町内に15あった学び舎(中学校は除く。中学校併置校は含む)は、現在4つ。市街地にもとよりある学校は、宅地造成にともなって生徒数は増加。学校もそうですが低学年児童用の学童保育所(放課が早いので一時預かりの目的)は定員オーバーで飽和状態は改善されていないようです。
他の新設校は郡部からのスクールバス通と近隣校区内のみで全校生徒300人以下かそれにも及ばない格差がついています。
適正配置の名の下に閉校が繰り返されてきましたが、弊害もやや出てきているようです。
少子化で児童減少のため存続の危ない学校もあれば、近郊の分譲宅地化で児童数の集中する学校もあります。

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Dscf2489 ここが郷土飼料備蓄庫になったのは閉校からさほど経っていないようです。学校も資料館も郷土資料も教育委員会管轄ですから自然な成り行きなのです。児童の使っていた机は奥の1室にまとめられてはいるものの、さほど壊されもせず現存。
体育館の屋根は錆ですっかり変色はしていますが、まだ雨漏りもなく比較的いい状態で、施設として再利用するなら大げさな手直しがなくても使えるようです。近隣の他校がそのように作りかえられているので実際には難しいのでしょうけど。
木造校舎としては定評もあるのですが…

屋根が錆びつきながらも体育館の中は、かつての威厳を保ったまま集会の日に備、隅の卒業生寄贈のピアノも校歌の伴奏を記憶しているのでしょう。

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Dscf2496 校内の掲示物も閉校時の様子が見えて昭和63年3月のあの日以来、時は動くのを止めてしまいました。
動かない校舎の中、時から捨てられた動かないもの達が集められ、行先もなく沈黙の時間割がずっと続いていきます。

空気の停止した感じは、かび臭いということではなく、閉じ込められていた空気(状態)がこわばって固まってしまったようなものです。

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Dscf2446 ねこんがいた学校も市街地に統合になった過去がありますが実感がなくて、ましてや卒業式とともに閉校式も兼ねていたので、学校がなくなるんだという実感はなかったと記憶します。
見えていたものが見えなくなってから(解体)手遅れの実感がでました。
錆びた屋根は桜との対比でみすぼらしくなってしまったのかもしれませんが、土地の功労者の一人としてねぎらいの気持は持ってあげたいですね。

旅で訪れた学び舎は、すべて母校です。記念碑が墓標になってしまわないように祈ります。『永久』が文字だけになってしまわないように…
『いつか』が『いまさら』に変わらないうちに何かをとどめていきたいです。

Epitaph

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「♪…」 体育館からピアノの音色が聞こえる

    空気が一瞬にして溶きほぐれた感じがした

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                   確かに感じた

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2007年12月17日 (月)

鋼の鳥 ⑤

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Dscf8992 北海道観光に関して次のような言葉があります。
『自然は一流 料理は二流 サービス三流』 それはどういうことなのでしょうか?
かつて、北海道は過酷な自然環境と海を隔てた土地柄から身近な異国のイメージもありました。
徒歩・ヒッチハイク・自転車・オートバイ… 気ままな一人旅の人々がリアルな北海道の魅力を道外へ伝えてくれました。 北海道を愛してくれました。

時代的にもおいそれと国外へ行けるものではありませんでしたから近場の娯楽、近郊のリゾート、近所のテーマパークが登場しだしそこそこに繁盛していったようです。
それを可能にしたのが公的資金とバブル融資でしたが、それらを当てにしなくとも充分やってこれた施設が蝋燭の灯りのように静かに消えていきました。

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それは、あらかじめ決められた終の時がきたのか、人の心が変っていったのかは、どちらとも言えません。

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ここ数十年は、一時のブームは去ったとはいえ、根強い温泉ブームが続いています。
それは、健康志向や癒しを求める心が背景にあるのでしょうが、小さな・寂れた温泉宿が意外と人気があります。
それは、現世から隔絶された空間に自分を置いてみるという点では、『廃墟ブーム』と似たものがあるのかもしれません。明らかに異なるのは『温泉』という実があり、行先は廃墟などではないということです。

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旅館は観光の看板と名目で経営されていても地域とのつながりが、色濃いものです。
地域の会合・宴会・結婚式・仕出し等の面で関係深くなっているものなのですが、核家族化や町内会の不参加。それ以前に町内会すら形成されない地域。戦後60年は人の心をそんなに変えてしまったのかとの嘆きが聞こえてきそうです。

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人間は火の元に集う生き物です。火を囲み、自然の驚異から身を守ってきました。
特に日本人は火の元に集う週間が多く、囲炉裏や鍋を囲み湯に集うのは、単に生きる術だけではなく共に暖を得ることで心を通わせる習慣が根強いのかもしれません。
寒い季節に鍋が恋しくなるのも、ひとつには心の寂しさなのかもしれないですね。

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豊かになると暮らしもレベルアップしていきますが、何か大事なものを切り捨ててしまったような気もします。

この旅館にも集いの場は浴室のほかに、屋内ゲートボール場(元宴会場?)、いくつかの大部屋と宴会場があります。

ゲートボール場といってもどれほどの利用者がいたかと考えると微妙ですが、ゲートボールが盛んになった時期を考えればしごく自然な考えだったでしょう。
見て回った中ではゲートボールがプレイされていた痕跡は伺えませんでした。

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奥のほうにある大広間へ行くとそれまでの薄暗いイメージと打って変り、室内は曇りの人は言え明るい感じです。
ここまで来ると雑木で見えなかった湖もやや見えてきます。
湖畔の広間で賑やかな宴会が催されたことも多々あったことでしょう。
背景画のあるステージも完備されて、そこに立つと荒れきってしまったこの場でも数列並んだ膳とその両側で笑う人々の顔が浮かんでくるようです。

Dscf8852 今年の北海道は年明けから雪の少ない幕開け。
夏になっても雨は少なく、一時的な断水もあり、ダムの貯水量も記録的ではないかというほど激減していたように思います。
『幻の橋』と呼ばれる糠平湖の旧士幌線タウシュベツ橋梁も今年は、湖に沈まず年間通して見ることができたのに少々複雑な心境です。『こんなことは珍しい…』そんな話を聞きました。

世の中のことなど意に介せずかのように、ここの湖は豊富な水をたたえています。
もう宴会場の歓喜も、大浴場の調子っぱずれな鼻歌も聞こえないのに…

時の止まった旅館の上空を相変わらず鋼の翼が威嚇し続けていた…

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2007年12月15日 (土)

鋼の鳥 ④

みなさま こんにちは(^-^*)/ 
廃旅館の奥に進むにしたがって正面外観からは想像のできないラビリンスの広がりにかなり興奮でっす。 ズイズイ進んでいくといつの間にか最初のところに出てたりで、ウオッ!!(゚ロ゚屮)屮 ということも…。

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温泉ホテルと言うくらいですから当然浴室に行かなければなりません。
なみなみとお湯が入っていたらいいなーなんて考えながら入ってみました。

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脱衣所。まず男湯の方から入ってみましたが何となく湿気で床が怪しい雰囲気があるので慎重に(-_-;)。 定番色のコインロッカー。でもずいぶん故障中ではないですか。マジックで思いっきり直書きしてるし…
ここだけ見ると寂れた温泉宿のイメージがあるけど、廃墟ではありませんね。
ドアを開けて浴室を拝見。

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Σ(゚д゚;) ヌオォ!? 
何? 混浴ですか? 大きな浴室内は中央に楕円形の浴槽がひとつ。その回りにコーナーを使っていくつか別な浴槽が散らばっている造りです。

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実のところは女湯側は角の小さな浴槽だけで、間は風情に欠けるブルーの衝立で仕切られています。その比率は、9:1という圧倒的大差。

「温泉いって来ようぜぃ! ●●まで…」(o^∇^o)ノ

「えーっ?あそこツマンナイ…」(*´ο`*)=3

そんなことも言われかねませんね。これでは…

元々は混浴であったのでしょうが、時代の流れとして分けることにしたようです。
しかし、この衝立は、脱衣所が1段高いというか半階高くなっているので、脱衣所を出たところから向こう側が見えてしまう恐れがありました。
 窓の外は緑に覆われています。綺麗に整理されていれば湖が眼前に広がり、シーズンには白鳥の飛び交う様も見ることができたのでしょう。今となると深い藪のほかは何も見えませんでした。

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よく室内は、他の自然崩壊っぽいところと比べてあからさまに破壊行為の跡が色濃く残っています。洗面器や瓦礫が散乱しているので足元を気にしながら歩いていると…

うぉ!w(*゚o゚*)w

彫像の頭部がゴロンと置いてあります。これはちょっとビビリました。
 これも壊されてしまったのでしょう。もともとの胴体を捜してみるとそれらしきところが女湯の方の浴槽の縁にそれらしき痕跡がみられました。

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魚(?)に跨る胸から下の部分が確認できましたが、ずいぶん惨い仕打ちですね。
ここには、心霊スポットとしての側面もあるらしいのですが、「俺ァ幽霊なんか怖かねいゼィ!」と挑みこんだが、何も出てこないので有り余った若気の至りで湯守の乙女にこんなことをしてしまったのでしょう。

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錆び

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Dscf8964浴室入口の上方に火山の絵があります。コードが下がっているからランプが点いて、沸々と煮えたぎるマグマを演出していたのかな?

この辺の湖の近くには活火山はないから他所の山ですね。ロビーの上に噴火の写真が飾ってあったので有珠山だと思います。

1977年8月7日9:12 1944年以来の再噴火は、翌年にわたり洞爺湖温泉街に大打撃をあたえました。
2000年3月31日の噴火も記憶に新しいです。1977年の噴火写真が洞爺湖の某ホテルから寄贈された形になっているので、ここと何らかの関係が深かったようです。ちなみにその旅館は現役です。`s(・'・;)

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でも、ロマン風呂との関連はあまりないようです。北海道=豊かな自然=自然の驚異=火山=温泉 という図式になるのかな?

Dscf8961 お風呂場に入浴料の表示があるのも変ですね。缶詰の値段が缶の中にあったみたいです。それに記載された家族風呂です。

贅沢にそして大胆にタイルをあしらった内風呂。
400円だそうです。普通の自宅の風呂場みたいですが、今でも家族風呂ってあるのかなぁ

蛇口をひねってみましたが何も出てきませんでした。

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乾ききった浴室内。
かつて、ここもふんだんなお湯が浴槽を満たして、厳寒の冬に氷結した湖を眼前に極楽気分を味わえたことでしょう。

枯渇したのは温泉ではなく人の流れだったようです。
それでも、前支配人から引き継がれた旅館は、息の長い経営だったと言えるでしょう。

バイブラ・寝湯・サウナ・打たせ湯などの充実した温泉もいいんですけどね。

(つづく)

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