2011年7月11日 (月)

木を植えた男たち

『このままでは十勝の大地は丸裸になってしまう!』

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02  開拓ブームに乗ってどんどん開墾がすすむ大地を前にそんな想いに駆られた人が、この帯広の地にいたそうです。
 おりしも時代は木を植えるよりも木を切り倒さねばならない時代で原始林の樹木は土地を開くために切り倒され、材木やその副産物は暮らしに使われ、役に立たない根は集めて昼夜燃やされて空が真っ黒な煙に包まれていたころもあったと開拓の書には記されている。
 そこに植林を提唱することは狂言としか思われかねない…そんな時代であったことでしょう。ただ、未来を見据えた気持ちは、狂言などではなく的を得た事実には違いなかった。
実際に事が起こってから対処に乗り出すことは現在の世にもたくさんあるものです。

 ともかく時代には、少しばかり早すぎた思想と、時を越えて現在は公園となった場所で空高く伸び上がる大木にはちょっとしたお話がありました…

05  明治31年9月1日、十勝支庁長の移動で新しく赴任してきたのが、諏訪鹿三だった。
新任の諏訪支庁長は着任早々まず管内を一巡、現地視察をした。これはどの支庁長もやることで、ことさら目新しいことではなかったが、彼の目に映ったのは急テンポに進む開拓事業とともに緑豊かな原始林が片っ端から切り倒され、焼き捨てられていく有様だった。
 しかも人々は土地を拓くことばかりに没頭していて誰一人将来のための植林など考えている者はない風だった。

「今は立木がジャマになる時代だから切り倒すこともやむをえないが、このままではやがて十勝に一本の木も無くなってしまう。今のうちに植林のことも考えておかなくてはなるまい」

彼はこう思いついた。やがて年がかわって32年の春が来た。音更の然別で牧場をやっている渡辺勝(※)のところへ支庁長から1枚の葉書が配達された。
その葉書には

『○月○日 植林思想を昂揚するために管内の有名知識人に集まってもらい某所に苗木数本を植えたいと思うのでぜひ出席してもらいたい』

といった意味のことが書かれてあった。

 勝はその日、作男の上村吉蔵をともなって諏訪支庁長の私宅を訪れた。

 支庁長は勝が現れると大いに喜び、部屋に招じ入れ緑化運動の必要性をひとくさりもふたくさりも説き、わが計画の遠大さを風潮した。
 だがどうしたものか昼を過ぎても勝主従のほか、誰も集まってこないのだ。

『どうも先のことのわからぬ連中ばかりのようだ。案内を20通も出したのに…まあ良い!渡辺君が来てくれただけでも運動の成果はあったわけだ。では植林にかかろうか!上村君、そこの庭先のドロ柳の苗を3本ばかり持ってきてくれ』

06 支庁長は上村に苗を掘らせ、それと鍬を彼にもたせ勝とともに植樹地へやってきた。そして3本のドロ柳の苗を等間隔に植え、3人は空を仰いで自分たちの壮挙を自ら自慢し、自分をなぐさめた。
 やがて引き上げる頃になって、もうひとりの参加者があらわれ、この人物も一握りの土を根元にかけ、計4人となったわけだが、この参加者の名前は記録に残っていない。
このささやかな行事が十勝ではじめて行われた緑化運動というべきもので、この時植えたドロ柳は1本が枯れ、2本はいまだ残っている。
旧十勝会館前の広場にいまていていと空を突き、直径2尺ほどのドロ柳の木がそれである。
故上村吉蔵翁遺話/天地人出版企画社『とかち奇談』 渡辺洪著)

(※)渡辺 勝(わたなべ まさる)
明治16年(1883)依田勉三とともに、北海道現在の十勝の海岸部に入植。
晩成社(ばんせいしゃ)三幹部の一人として、活躍。後に、西士狩(にししかり 現在の芽室町)を開墾し然別村(現在の音更町)では牧場の経営に力を注ぎました。アイヌの人々への農業の世話役となって、アイヌの人たちと親交を深め、1896年には第1期音更村会議員に当選するなど、多くの人から信望を集めた。

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 実際のお話は、かなり滑稽な感も否めませんが、これが十勝発の緑化運動にはちがいなかったようです。
 当時あった自然の森の大部分は失ってしまったものの、この想いはやがて継承されることとなり住民の手により都市近郊にも森が作られて植樹や森林愛護の活動は継承されています。諏訪支庁長もさぞや満足なことでしょう。

きっと雲の上から、改めてわが計画の遠大さを風潮しているのでしょう。

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【十勝会館】

昭和3年天皇即位の大典が行われたのを記念するため翌年建設。
宿泊施設と大小の催しや集会などに利用されました。
戦後改造されて利用されていましたが市民会館建設後に解体。
この写真の中のどれかが、その大木であるらしい。

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2010年2月14日 (日)

あたんのバラード

違うよ それは「あんたのバラード」。。。
世良公則&ツイストのデビュー(?)だって

…これじゃMixi日記ノリだし

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ここで言う「あたん」『亜炭』のこと。
通常の石炭と異なり炭化度が低いため品質的には亜種という扱いになるから『亜炭』と付けられたのか…
いずれにしても採掘後、風に当てるなどして良く乾燥させないと製品として出荷できなかったそうです。

十勝の芽室町町境に位置する国見山は現在、営林署所轄の自然散策林として開放されていて軽登山の場として利用者に愛されている。
山頂辺りに「国見チャシ」と呼ばれるこの辺りで生活したアイヌ民族の遺構跡が残っていて、一見すると尾根に作った溝のある高台という風だが、砦とか見張り台とか解釈される。

Dscf4718_2 「国見山」と名が付いていますが「美蔓高台」の突端、河川の侵食によって作られた河岸段丘の一部であるようです。
“軽”といっても運動不足の身では頂上へ行くとそれなりに息が切れる。
1市2町の境でもあるので役所の職員でさえ、この山がどちらに所属するのか戸惑うことがあるようです。

この国見山。夏場の緑を湛えた姿の時には分からないけれど、秋風が吹く頃から徐々に…そして春までの間、山肌を露わにすると実にいびつな形になっている。
近くの橋が竣工した時の写真でも現在のようにガタガタな稜線を見せていた。
末端部が特に際立っていて生える木も踏ん張りが利かないのか、やっとのことで根を下ろしている様子。

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Dscf4726 町史を読むと、その跡は石炭採掘の名残だという。
石炭というと夕張や三笠のように縦抗や斜坑を掘って地中の深いところから産出するというイメージがあるけれど、この山は露天掘りに近かったそうです。
露天掘りというと芦別市などにも跡がありますが、それよりも規模は遥かに小さかったらしい。
ここの亜炭層の厚さは十数センチほどで、その石炭からは化石化した水草も確認されることがあり、一帯は太古の昔には大湿原地帯だったということになるらしい。
年代的にも地の底にある石炭よりも新しいらしい。故に炭化度の低い「亜炭」の状態で産出されていたのでしょう。

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(国見山亜炭鉱に関する記事抜粋)

Dscf3739 本町
(芽室町)の鉱業は、国見山南腹の亜炭鉱が唯一で、埋蔵量は350万tといわれています。この鉱区のうち140ha余は昭和17(1942)年4月に依田八百が、284haはどは同18(1943)年7月に鈴木長一がそれぞれ発見しました。炭質が優秀で一時軍用にされましたが、その後変遷を経て同21(1946)年12月、株式会社十勝炭鉱国見事業所として長田正吉に鉱業権が移りました。長田は国の燃料不足対策に沿い、復興金融公庫からも資金援助を受けて本格的操業に着手しました。同22(1947)年8月から1級炭鉱としての配炭公団の全面買取りでしたが、翌年10月の公団買取り廃止で直売しました。遠くは苫小牧王子製紙工場、地元では中央繊維芽室工場、帝国臓器製薬工場そのほか各種産業用や家庭用として供給し、同23(1948)年2月25日、札幌商工局から重要亜炭鉱の指定を受けました。同24(1949)年当時の業績は、出炭3,935t、販売2,328tで、従業員男女10数名による人力の採掘でした。

時代の脚光を浴びた亜炭も、需要が時代とともに減少し、同41(1966)年ごろには販売量228t、従業員も4名になり、経営継続が困難になって翌年11月に閉山しました。

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Dscf3741 閉山後、事業整理されたため当時の名残を残すのは、いびつな稜線だけで登山道を外れて転げ落ちそうな稜線を辿っても石炭らしき欠片も見つけることはできませんでした。
ただ、稜線の1箇所に元々の山肌の高さの部分を残したような塊があった。
石化した火山灰のように見えるそれは、頭頂部に「山神」のようなものを祀っていたかもしれません。

Dscf3745 小さい頃から家は既に石油ストーブだったけれど近所の家で、機関車みたいな石炭ストーブを見たことがある。本体はオートバイの空冷エンジンみたいにヒダ状の突起がたくさんあって、SLの煙突状のところは石炭タンクのようで、細かい石炭が満載されていました。
記憶の中には石炭に関することは非常に少ない。

それでも、どこからか石炭ストーブの煙の香りがしてくると敏感にわかるのは、記憶というよりも血の中にそれがインプットされているのかもしれません。

「温かったけどさ、毎週エント(煙突)掃除しなきゃならんのがメンド臭かったなぁ…」

何代目かの石油ストーブの前で石炭に関わるそんな話を聞いた。
石油の産出もあと40年ほどだという。その後、家族団らんの居間を暖めているのはどんな風に変わっていることだろう…

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2009年9月14日 (月)

マカロニ ③

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お店の外は、太陽が真上を越えて建物の大きな日陰を作り始めていた。
さっきよりも大勢の人で賑わってきて、たまに大きな笑い声があがる。それが少し怖い気がする。
真ん中にいる人はよく平気だなぁ。私があの場に出されたら怖くて一瞬ではじけ飛んでしまうかもしれない。
小さい頃のお祭りは、スゴク楽しいと思えたけど今そう感じてしまうのは、私がいかに人目を避けなきゃならなかったかってことなんだろうね。

Dscf1648 「何のお祭りなんですか?」

「うーん いわゆる夏祭りなんだろけど、時間によっては神輿が出たり、夜は盆踊りもあるよ。それだけじゃなんだから昼間はいろんなイベントしててね。毎年、大道芸人も来るんだよ」

「ふーん」

「こういうの好き?」

Dscf1605 「人の多いところ、苦手なんですよ。…慣れてないので」

「じゃ、ここ離れよう。おいで!」

彼についてわき道の方へ─
高い建物が多くて、コロン(連れの石の魂)と待ち合わせてる大きな看板が見えなくなった。
行った先は車がたくさん停まってる。ここ駐車場?
その中の1台のところへ彼は、歩いていった。

「えっ?私…そんなに遠くまでは…

「そんなに走らないよ。少し気分転換さ。まだ時間、充分あるじゃない」

「そうですけど…」

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断わる理由も思いつかなくて、隣に乗る。
大丈夫かな…今何時だろ。どのくらい経ったかな?

Dscf1929_2 車は駐車場を出て、ゆっくり通りへ出て行った。
お祭りの店がたくさん並ぶ通りを過ぎると嘘みたいに歩く人がいなくなる。
街じゅうの人が、さっきの通りに集まっていたみたいだ。

甘い香りの漂う車の中…聞いたことのない音楽…。
高い建物が後ろへ走り去る様子は、映画を見てるみたい。
いつも空の上から見る地上は、みんなゆっくり走っているように見えるのに車の中からだととても速く感じる。
当たり前なのかもしれないけど、それが私だけの発見みたいでなんだか嬉しくなった。

002424 「なに?」

「はい?なんですか?」

「笑ってたよ」

「そうですか?ちょっと嬉しかったんで…」

ヤバイ! 景色が流れるのが早いから…とか言うのは変だよね。
それにしてもこの人、私が幽霊と知ってもなんとも思わないのかなぁ…
もしかしたらこの人も幽霊だったとか…。

Dscf1945

「あのーっ幽霊とかどう思います?」

「…どうって別にねー。たまに友達と心霊スポットへ行ったりするよ。夏とかには…」

「心霊スポット?」

「幽霊屋敷の噂があるとことか、地縛霊がいるらしいとことかね」

「自爆霊ですか…」 なんだそら…

002085 失敗とか多い私は、たしかに自爆霊に違いない。
そういうのが集まるところでもあるのかな?

それにしても、本当は、私が幽霊だってこと信じてないんだろうか?
そういえば昼間から街中をフラフラして、マカロニグラタンを食べる幽霊なんて私だけかもしれないきっとそうだよ。

「そういうところで幽霊を見たことあるんですか?」

「ないよ!話ではずいぶん聞いたけどね。結局“きもだめし”だから。ホントに出たら行かないよ。呪われちゃたまんないし」

「えーっ“呪い”だなんて…

ヒドイこというなぁ…元は同じ人間なのに…

「良く行くの?ああいう廃墟みたいなとことか」

「へ?」

行くのかなぁ…行くというか夜は、回りが見えないから屋根のあるところで休んでるだけなんだけど…。まさか普通のホテルに泊まれるわけじゃないし…。

「いや…行かないです。幽霊もいろいろだと思いますよ。そんな気味の悪いものじゃ…」

「そういや、ナギサちゃんも幽霊だったよね?」

「でも半人前だし、あまり幽霊に向いてないですけどね…」

「幽霊にも資格がいるの?死ぬのも面倒なんだなぁ」

「落第もできないんですよ」

「ははは…♪試験も何にもない♪ってか」

「ハハハ…

それって、妖怪じゃないかなぁ…
生きてる人のフリしてここにいる私も考えると人に化けるキツネやタヌキと一緒なのかも。

…やっぱり私が幽霊だってことは、本気にしてないみたいだ。
だよね…。私も「トイレの花子さん」とか怖いなぁ…と思ってたから。

自分がそういう身になったら、むしろ生きている人のほうが怖くなってしまったようだ。その「怖さ」というのは、自分がどんな目で人から見られるかということで、人のことが怖いわけじゃない。どこか“仲間はずれ”にされている気持ちと似てて、スゴク孤独な空気に縛られる感じがするんだ。

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あれ…? 気がつくと、景色から高い建物がほとんど逃げ去っていた。

「どこまで行くんですか?」

「どこか行きたいとこある?」

「いえ…近ければどこでも行きます…」

「うん、わかった」

コロン、何してるのかなぁ…
さっきのお祭りのどこかにいたんだろね。一緒に行けば良かった…。

Dscf1940 車は、スーッとスピードを落として左へ…

「ここは?」

「ちょっと休んでこ」

「はあ…」

地下室みたいなところに車を止めて、言われるまま付いていく…
昼間なのになんだか薄暗い…オバケ出そう。(自分がそうか…)
彼がうっすら明るいところのガラスの棒みたいなのを取ると廊下がパッと明るくなる。

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「あーっ青空!」

天井や壁一面に白い雲が流れる青空が…これは、絵だよね。でも青空を見たら少し安心してきた。動かない雲 焼けることのない空…

「ここだよ」

「あ…はい!」

 バーッ

Dscf4513 ドアから入ると水道の勢いよい音が聞こえた。隣にお風呂場があるみたい。
ふーん…こんなとこ初めて。
いつも夜休ませてもらう空家とは大違いだね。
どこからかかすかに音楽が聞こえる。

「部屋はそっちだよ」

「はーい」

えーっなに?この部屋!薄暗くて窓がない!
外が見えなくてどうするの???
中は部屋いっぱいの大きなベッドと テレビと 椅子と小さなテーブル
そんなもの…

002885 「あのーっ…ここ、なんですか?」

「えっ?なにって…ホテルだけど?初めて?」

「たぶん…ですね…」

「…まあいいや。ゆっくりしてこうよ」

「…」

変なとこだなぁ…そんなに広いところじゃないし…

枕元にスイッチがたくさんある。
入れてみたら部屋が明るくなった。
こっちは何だろ?

「…続いてのニュースは、また行楽シーズンの痛ましい事故です…」

わっ テレビか…
ベッドの端に座って、しばらく見てた。何のことを言ってるのか全然分からないけど…
─とバスタオルを腰に巻いた彼が部屋に入ってきた。

002286 「テレビに夢中だったから、お先に使ったけど、お風呂入れるよ」

「えっ?」

「今日は、朝から暑いしねー」

「はあ…」

お風呂に入ることになった。まだ昼間なのに…
なにしてるんだろ私…今日は変な日だよ。
とりあえずお風呂には、入らなきゃならないみたいだし─
大きな鏡のある前で服を脱ぎだした。

「えーっ

002886鏡に映る自分を見てビックリした。

「私って─こんなにオトナだったんだ…」

何をいまさら…って感じだけど、こんなふうに自分の体を見たのは初めてだった。
いつも大して考えもしないで人に化けたりしたけど─

「どしたのー?」

「いいえーっなんでもないですーっ

000080ともかく─
自分が自分じゃないことを思い知った気がした。
なんだか…なんだか…なんだかすごく恥ずかしい…

鏡を見ながら思わず手で顔を覆った…
指の隙間から見えるのは…見えたのは… 『あぁっ
爪の色がすっかり変わってる。
まずい!時間じゃないか! いつの間に時間が経ってたんだろ!
早く元に戻らないと、この体から出られなくなる!

あれ?いくらなんでも遅いな…「ちょっとーまだ上がらないのー」
あれ?いない!あれ?あれれっ?逃げられた?

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「すっかり、お待ちさせたでしたナギサーン。大盛りでお待ちですか?」

「ううん。そうでもないよ─」

「お楽しみかったらしさです。笑わせた人がたくさんあったから」

「ふーん…良かったですね」

「ナギサンは、何をおこなってたんでしょうか?」

「私?いや…何もしてないよ」

「だから ご一緒したきたら良かったのにですより…」

「うーん…そうだね。次はそうするよ…」

「なんだか、お元気が台無しですね。ナギサン?」

「そんなことないよっ。 もう行こ暗くなってきたから」

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赤から紫色に変わり始めた夕日の下で、相変わらずにぎやかな音がしてる。
夜が怖くない人たちの笑顔は、大人も子どもも、どれも同じに見えた。

Dscf1178 今日のことはコロンには黙っておこう。
何言われるかわからないから…

それにしても勝手に逃げちゃって悪いことしたな…
でも、おいしかった…マカロニ

Youtube 「マカロニ」 Pafume

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2009年9月 3日 (木)

マカロニ ②

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「飲み物は?」

「い…いいえ水でいいです」

「じゃ…それで」

「かしこまりました。アイスコーヒーおひとつ、マカロニグラタンがおひとつ。以上ですね」

「はい」

002011_2まいった…
うっかり大声で言っちゃった…

「もしかして、お腹空いてた?」

別にお腹が空いていたわけじゃない。
目の前のことと頭の中が別のことを考えていたんだ。

「は…ははははは…すいません。つい…何年も食べてなかったので…

「えぇっ?」

「いや…食べてます。飴くらいは」

「飴だけ?」

「い…いや食べてます。人間だから…」

うっわ~話せば話すほどボロが出てくるよ…
今すぐにでも逃げ出したい。
向かい側から、ジッと私のほうを見てる。
怪しまれてるかな…私が本物の人かどうか…

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「ところで、この辺の人?」

「いえーっ旅の途中で、ちょっと立ち寄っただけなんです。友達が見たいものがあるとかで…」

「そっか、お祭りだしね。その友達ってのも女の子?」

「はい。今日は…」

「今日は?」

「いやいや今日もです

マズイぞ!絶対マズイ!
なにか話を変えないと…

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「あの…あの、あなたは何者なんですか?」

「ナニモノってかい?そう…たぶんキミが待ってた人」

なに?ちょっと待てよ!名前が同じとしても、この人が私のカズ君のはずないよ…
もしかしてコロンが私を騙そうとしてるのかな?…いや、そんなはずは…
待てよ…落ち着けナギサ!混乱してると相手の思うツボだ。
普通に振舞わないと…普通に…

「私もそう思います」

「へぇッ!話が早いね」

その気になれば何とかなるもので…何とか話に慣れてきた。
車がどうとか仕事がどうとか、よくわからない話をズーッと聞かされたけど、何となく返事をしていれば勝手に話してくれるから楽だな…

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「幽霊?」

ドキッとした 店のどこからか、そう聞こえた。
少し離れている席の女の人らしい…。
背を向けているけど、私の正体を見破ってるのかな?
それとも私の変身がヘタで正体がバレバレなのか…

「お待たせいたしました」

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懐かしい香り─
小さい頃の…生きていた頃の…思い出の香り。
フツフツと香りを立ち上らせる黄金色のマカロニグラタン…
しばらく見とれていた。

「食べてていいよ」

Dscf1188「…あ…はい いただきまーす

アチッ…アチチチチ…

「そんな、あわてることないのに…」

「すいません!死んでから、しばらくこういうの食べてなかったので…」

「えっ…? もしかして…ナギサちゃんてさ、幽霊さんなの?」

あ… しまった…。グラタンに夢中になって自分でバラした…。

Dscf1550 「なんか変わってる子だなぁって思ったよ」

「ごめんなさい…騙すつもりじゃなかったんですけど…」

「でも、こんなカワイイ幽霊なら歓迎だけどね」

「怖くないですか?」

「うん、いろんな人と知り合ったことがあるよ。マリー・アントワネットの生まれ変わりだーとか、実は金星人なんだーとか…他にもいたかな」

「金星?」

私みたいなのの他にもいろんな人がいるんだ。
それにしても幽霊が怖くなさそうな人に驚いた。

「でもさ、幽霊って昼間でも大丈夫なの?」

「始めは…幽霊になった頃は、陽に当たると溶けちゃうと思ってたんですよ。でも違うってことに気がついて…それから風に乗っていろんなところを旅してきました」

008013_2 「風?自分で飛ぶんじゃないの?ユラユラ~って」

「いやぁ風船じゃないんですよ

「ハハハ…」

「へ…エヘへ…」

自分が幽霊だということにズッと引き目を感じていたけど、話を聞いてもらうと、今まで縮こまっていた気持ちがほぐれてきた。

「やっぱり幽霊になるってのは、この世に未練とかあるのかなぁ」

「無いですよ。私は…。気がついたら幽霊だったし…それに始めは、そのことにも気がつかなかったけど。でも…悔しいとか、悲しいとか、そういう気持ちでいっぱいになっちゃってる人もいました。スゴク可哀そうで…」

「えっ?えっ?えぇぇっっ

また向こうで女の人が大声を出した。
あれ…?

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「騒がしい店だなぁ…食べ終わったらどこか他所で話そうよ」

「はい」 …向こうの人たち…どこかで会ったような気がするなぁ…。

(つづく)

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2009年8月24日 (月)

マカロニ ①

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「ナギサーン 地面に降りませんか? 空ばかりで たくさん つまらないです」

Hands1 「えっ…あっ…そう?」

相変わらず言葉のヘタな『石』…。私が教えてるから仕方ないけど…。
今は時計の姿で私の左手に巻きついているコロンさん─ 
旅の道連れになった「石」のことをそう呼ぶことにした。コロコロ転がる石だからコロン。
石といっても、お地蔵さんだったけど。元から名前は無いそうだし、付けられた名前も知らないらしいから。
言葉に慣れていないコロンさんは、私を『ナギサン』と呼ぶ。
「ナギサ さん」じゃなくて「ナギサ ん」
別に「ナギサ」でいいんだけど…

「どこか…行きたいところ、ありますか?」

そう言っても風任せだから思うほど好きな方へ行けるわけじゃないけどね。

「群れの 人達のいる地面 いいですね」

「えーっそれはちょっと嫌だなぁ…

「何だから ですか?」

「いや…誰かに見られたらヤだなーって…

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風に乗って青空の中にいる私は、これでも幽霊だ。
人に見られたりするのは、好きじゃない。
怖がったり、驚いたりされるから…
要領のいい幽霊なら、そう簡単に見られることもないだろうけど、わたしはどちらかと言うと「へたっぴ」だから、やたら見られたりする。

Dscf1690 「ナギサン ホントは 人に見られたいじゃないですか? 本当は 見られたくないじゃなくて。 ワタシ 見られない しかできない ですから」

う…鋭いこと言ってるかも…
確かに仮の体を作って中にいるときは堂々としてられるけど、今のまま人目に出るのは、すごく怖い…
心だけの存在のような私は裸同然ということになるだろうか。
だから見られそうな気がしてオドオドして、かえって人目につくのかもしれない。

「ちょっとだけですよー。ならいいけど…」

「はい ガッテン 承知でした」

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風の進む先にてっぺんがキラキラ光る塔のようなものを見つけて、そっちへ向かってみる。
思ったとおり街の方にやってきた。いざ街へ入るとなると、なんだかドキドキしてくる…。
とりあえず、なるべく人目につかないところを見つけないと…大きな看板が見える。
あちこち剥がれ落ちているみたいで網のようなものをかけてある。とても古そうな看板。あそこならそれほど見られないかな…

Nagisahawaii 「ここで待ってるから行ってきていいですよ。いつまでにします?」

「そね。5時 どうですか?」

「えっ?かなりあるじゃない」

「短くですか?」

「いや…別にいいよ…

コロンさんは「待ってました」とばかりに私の腕から離れて形を人の姿に変えた。
今日は─ 女の人の姿 
「石」だから男女の区別は、無いらしいけどホントのところどうなんだろう…

Dscf1615 「ナギサンも 来るといいよ。 見える姿なら 恥ずかしい ナイね」

「でも、私幽霊だから…

「暗いだな。いつも空飛ぶだから 上昇志向 ですよ」

ヘンな言葉知ってるなぁ… 石のクセに軽いし…

「うん…考えとく。ここに飽きたら降りてみるよ」

コロンはニコッと笑うとビルの谷間に飛んでいった…
いつもは、あまり動きたがらないから左腕に巻きついたままだけど、こういうときは動きが早い。前に「人間 見るの好きです。大盛りで…」とか言ってたけど

「あっ 時計が行っちゃった

忘れてた… どうしよう。時間が分からないとどこにもいけないや…。

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Dscf5390 しばらく空を飛んでいたけど遠くまで行くわけにも行かないので結局、街に戻ってきた。
ビルの間に挟まれたところを人がたくさん行き来して、どこからか楽しそうな笑い声も聞こえる。 …私も下を歩いてこようかな…
少しくらいなら仮の体降りれば大丈夫だよね。でも、あと何時間あるかなぁ…

人気のない薄暗い通りを見つけて、体を造った。
街の中は、道から車が締め出されていて、人が大勢車道を歩き、あちこちになにやら人の塊があった。それを見ているだけで不安になってきた…
さっきの通りには、全然人がいなかったのは、皆ここにいたからかな?
どうやらお祭りかなにかのようだ。

ドキドキする…体があるからホントに胸がドキドキしてる…

Dscf1626

Dscf1581 空のこぼれ種と 緑の食べ残しと 大地の吐息
そういうものをかき集めてこね上げた私の体。それでも人と同じように動く。
ドキドキとは、しているものの「体」という鎧の中から外を見ている安心感があるから、すぐにでも逃げ出したい気分も少しは薄れるよ。
でも、すれ違っていく人が急に立ち止まり
「おや?キミはホントの人間じゃないな」と聞いてきたらと思うと、ちょっと憂鬱だ…。

「ちょっとキミ?」

000153うわあぁぁっっ

振り向くと知らない男の人
嫌だ…正体バレたっっ?

「すっごい驚き方だね。こっちが驚くよ!」

「あ…すいません…。あの…なにか?」

「何か探してるの?」

「いえーっヒマなんでー。ただブラブラと…」 普通にしないと…普通に…

「だったら、そこの店で少し話しようよ。外は暑過ぎるしさぁ」

Dscf1627 「でも…」

こまったなぁ… でも幽霊とはバレていないようだ

「誰かと待ち合わせ?」

「はい…友達と5時に向こうの通りのビルの屋上で…」

「屋上?」

「いえビルの中です

「5時なら、まだまだじゃん。適当に時間つぶしにもなるでしょ?」

「…はい、少しなら…」

Dscf1584

理由が見つからず、言われるままにその人に付いて近くの店に入った。
うーん…困ったな…

000643 「いらっしゃいませー」

「ふたり!」

「2名様ですね。こちらへどうぞ」

うっわーっ こんなところ初めてだ…。

「こちらのお席へどうぞ。 お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」

なんていうんだろ…お店の中、外国みたい…。
明るくて、なんだか天国みたいな気がする。
よく夜を過ごす空家とは大違いだなぁ。

000640 「なんにする?」 向かいの彼がメニューを私に手渡す。

 ナニこれ 写真載ってない文字ばっかりだ…英語まで書いてある。
小さい頃、両親と3人で大きいレストランへ行ったことがあったけど、あそことはずいぶん違うなぁ…そういえばあの時、何を食べてたんだっけ? うーんと…

「名前聞いていい?」

「ま…まだ決まってないです

002086「いや…それはゆっくりでいいよ。君の名前の方さ」

「あっ…ああ…私ナギサです」
 
なんだ…ビックリした…すごく、ぎこちない私…

「素敵な名前だね」

「はい…ありがとうございます…」

「…僕の方は聞いてくれないの?」

「ご…ゴメンナサイ! お名前は?」

「カズヒロ!」

「なに…」

008003 この人もカズ君と同じ名前
私の行く先には「カズヒロ」って名前の男しかいないの?

「…いや、ステキなお名前です」

「女性にそんなこと言われたのは初めてだなぁ。すごくありふれてると思うけど」

「そんなことないです!たぶん…絶対…」

     ミーッ…

「なに 何の音

「オーダーしないと…まだ決まってなかった?」

…忘れてた。

「お決まりですか?」

「アイスコーヒー!ナギサちゃんは?」

えーっ! えーっ! どうしよう…
あ…そうだ思い出した

「マカロニグラタン

「えぇっ

Dscf0910

     (つづく)

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2009年7月17日 (金)

いちごいちえ ③

Dscf8087

ザーン… ザーン… 海の見える山の上まで来た。ここまでも潮騒が聞こえる。
下の道を忙しく走る車の音もなんだか波の音のような気がして心地いい。
海はやっぱりいいなぁーッ
港に大きな岩が見えた。船よりもとても大きくてまるで山みたいな…。
実は大きな海亀がジッとしているだけだったりしてね…

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『ここにいるところがワシどものいる山でした』

『いいところですねーっ海が見渡せられて…ここは、なんて山ですか?』

『下に住みいる人物は“かんのんやま”というわな』

かんのんやま… 観音山…? 観音様がいるんですか?』

『どこさかは知らんしな…でゃが、わちきもそのひとつらしきことです』

『…? あなたの体はどこなんですか?』

『あの木な下におります』

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遠くまで海を見通せる山の中に細い道がずーっと続く。
その両側にはたくさんのお地蔵様が並んでて優しく微笑んでいる。その目は何を見ているのだろう。
昔(生きていたころ)、人は死んだら神様の元(天国)へいけると思っていた。
でも、幽霊のこの身になって、いまだに神様にあったことがない。
ホントは私にとって行かなければならないところがあって、そこにはたぶんいるんだろうけどね…。
それは、私がさまよっているから…迷っているから…迷ってるのかなぁ…

Dscf8086 『こいつが、吾ですねぇ…』

『えっこれって神様(仏様)じゃないですかあなたは、神様だったんですか?』

『いやさ、ここまで人共が持ち上げて、こな形したです。何かに見せたいだろね。ワシらば当たり前の石ですねい』

『ほかの…お地蔵様もそうなんですか?』

『きとね…そうだしょね』

Dscf8084 木の根元に並ぶお地蔵様の端で、柵に寄りかかる一際小さなお地蔵様が、この人(石)だという。
確かにお地蔵様の形はしているけど石には違いない。
私のいた家の近くにも小さな神社のような家があって、その中にお地蔵様が入っていた。
一度、覗いてみると、その顔はとても怖かったけど…。覗いたので怒っていると思ったものだから学校帰りにそこを通らず遠回りするようになったっけ…

『いいですね…お友達がたくさんいて。人もたくさん会いにくるだろうし…』

『いんにゃ!人々と同じもので。小さくなると、それずれ、あちらの考えること分からんようなりす。元よりし、動かぬからに…』

『じゃあ…ここに並ぶほかの人(石)とは…?』

『話もたなです。話したは、ここに訪れはった傷をした小さの人だけ』

『傷? 小さい人?』

『女な人だに。顔に大きの…小さのたくさん傷ついてさ、背をこう…曲げなさったな人』

『…おばあさん… その人と話をしたの?』

『話せなんだす。こちさ話、聞こえなで。そん人な、いつも“なまんだぶ…”ゆうだけでた。なんことだろかな』

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その、おばあさんは、お地蔵様の姿をした石の人をお参りに来ていたんだということは想像できる。
“なまんだぶ”…お経だろうけど何て説明したらいいのかなぁ…

きっと、あなたの姿が神様だから願い事されていたんですよ』

『ふむ、そら思いた。何か願いばされてんね、何かしねばならん思いした。でも聞いたは“なまんだぶ”いっこです。そっていつか来なくなりやった…』

来なくなった… 来れなくなったんだ。そんなおばあさんに高い山の上はね…

『でやから、下へよって探しいたりてたり、人の言うことを聞くことやってしとりました。人の日は短けけどもみんなさん滅茶知っとります。石ん日は長けども、見て聞いとらだけやす。人は面白て飽きまへん』

『そうかもしれないですね…』

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『おで、おまさんは、人なだすか?』

えーっ 急に何を聞きだすんだよ…。難しいこと聞くなぁ…

もちろん人ですよ…。体は…ホントの体とは離れてしまったけど…今は心だけで生きてます』

Dscf8046 『人んてのは、みな、あゆこと出来ようなるんですか?』

『あゆこと?って…』

『辛抱ない石を細くするやとか…』

『えぇっ あれは…わざとじゃないって言うか…わざとか…。その…すいません。あれ、仕方なかったんです』

『なんらOKです。石らは小さなるだけんで何も変わらす。あの、空さ飛んで来くるのは良かすな。遠くんの人も見て来れる』

『気持ちいですよー風に乗るのは。思い通りの方へ行ってくれないから風任せだけど…』

Dscf7978 そういいつつ、この海に来るまでずいぶん苦労したことが頭をよぎり、自分ながらおかしなことを言っている気もした。

『連れてたもらねんばできんかな?うぬもそうして沢山人ん話ば聞いて、見てきたす…』

『うーん…じゃぁ…風の乗り方、教えましょうか?コツさえ覚えれば簡単ですよ。数日も練習すれば』

Dscf8078 『じゃがま、うぬら石は、よう転がりしも手前で動きらすんのは、上等でなさするしな…。よか、簡単手前手法があるますわ』

そういうと石の人は、人の姿を崩して小さな塊に変わっていく…

『その手の方一本、上げ立ててもらえぬかない』

『???』

言われて手を上げると石の人は、ヒュルヒュルと左手首にまとわりついてきた…。

Dscf0441 『えっ?なに?』

気味が悪くなって、思わず払いのけようとしたところで、その形が固まりだして…
どうなるのかとジッと見ていると、形がハッキリしてきた─

『時計?─』

『そすな。人は、みな、こげんなものをしとるましたから』

『これって…時間合ってるんですか?』

『いちおクオーツ(水晶)だすらら、石んは得意なこってす。ほな、行きまっせら?』

時計─ 時計だーっ変な言葉で話す時計─。
妙な時計…じゃなくて石と知り合ったなぁ…

『何しすたか?』

『いや…なんでもないです。 じゃあ…行きましょうか』

『よろしく頼もす…』

Hands1

やさしい潮風が山のてっぺんにある森に吹き込んできた。
海に浮かんでいる小船みたいにちょっと妙な気分と何だか説明しずらい気持ちも心の中でプカプカ浮かんでいた。
いいや!とりあえず旅の道連れ、ということで…
風に飛び乗って小路を突き抜けて空高く上がっていく。

今の正直な気持ち…
私の時計─ なんだか嬉しい─ 

Youtube 『いちごいちえ』 やなわらばー

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2009年6月23日 (火)

いちごいちえ ②

Rockfallnega私に向かって崖のてっぺんからゆっくりと回りながら落ちてくる岩を見ながら思った…

「また、厄介なことに巻き込まれるんだな…」

Nagisabom 人の目に触れないように風任せの旅をしていても、行く先々で何かしら事件が起こる。
厄介なことは、人の世界だけではないようだ…
いろんなものと出会って いろんなことになって…その度に何とか切り抜けてこれたけど、いつまでも幸運が続くとは思えないなぁ
あの岩を私めがけて落としてきたあの人の考えていることが何かはわからない。
でもなにかしらたくらんでいるのは間違いんだろう。

Rockshot

逃げようが無いことになって、かえって開き直った。
借り物の体を開放してこみ上げていたイライラを岩に全部ぶつける。

        バーン…

パラパラと小石になった岩が夕立みたいに撒き散らされる音が波の音をかき消す…
どうにもならないことになって私は、ホントに開き直ってしまったようだ…
一番避けたかったこと 一番見られたくないところ 
そして、たぶん相手が確かめようとしたこと
あの大きな岩の下敷きになっても、私がこれ以上死ぬようなことはないけど。
なぜなら私は幽霊だし…
問題なのは、私が人の皮を被った幽霊であることで、それを他の幽霊に見られてしまったということ…
粉々に ホントに粉のように飛び散った岩の土煙があたりに漂って、そこにいた敵は見えなくなっていた。

Brind

『さて、どうしよう…でも、戦わないといけないんだな…』

人に化けるのが問題じゃない。
人に化けようとする幽霊がどんな考えを持つかということ。
時間に限りがあるといっても人と霊の世界を行き来することが容易くできるとしたら、それは場合によって良くない結果になるらしい。
私がその力を教えてくれた人が、そんなことを言っていた。
それに簡単に人と霊の間を行き来することは『神様』の意思に逆らうことになりはしないだろうか?
そう思うことがあって誰彼教えることのできる力ではないと思った。

薄らいできた土煙の向こうの「あいつ」の気配は、まだ確かにそこにある。
あいつが何を考えているか、私にはわからない。
人であっても霊であってもそれは同じ。心の中まで読むことはできないから…

Nagisaangry

『あーっ大丈夫だねったね。良かたなや』

相手が敵となったら、本格的にその妙な言葉使いがイラッとする。

『さあ!もう急ぐ必要はなくなったよ!何が望みなの?』

『そうなの?じゃあ教えて欲しかことがあるだよ』

そらきた。人に化ける方法を聞こうと言うんだな… 

Dscf8063 『なに

『人の言葉の作り方、知りたです。どうも難しいよしな』

『はぁっ』 何を言ってるのこいつ…

『ずっと人の声、聞いてきたけな、男とか女とか、小さのとか大きの、様々で色々でわからないのよ。だからオラ話すことも…めっさワヤじゃから教えて欲しいもし』

なに?言葉を教えて欲しいって? なんだか思いもしない言葉が返ってきて構えていた私は少しうろたえてしまった…

『そのために私に向かって岩を落としたんですか?』

『いや…あれらは、しごく辛抱なかったんらわ。奴ら、もう辛抱できなす。それ、そこの見て後ろごらんね』

Dscf8050

なに?うしろ…? あーっ…
道いっぱいに岩が崩れて小山になっている。
「こいつ」のことが気になっていて目に入っていなかった。
ずっと歩いてきた道は、見上げるほどの山肌に鉄の網が張り巡らされていたけれど、ここはみかんのネットみたいにボロボロにちぎれて岩があふれ出したみたいになっている。

Dscf8046 『本日は、もう落ちれんど、次の来週ふたつ落ちるつもりするす。この奴らは生まれつきの辛抱ないらしいですのな』

『どうしてそんなことがわかるんですか?』

『わらもそいつらと同じ岩ころでから。当たり前、出場所はちゃうけどねん』

『岩?あなた、石なんですか?』

『はいです…』

『でも人の姿してるし…』

Aitsu 『こうしていねとな、貴方みたいな方と会っても話しないの多い。今カッコもホントものでなく、あしは、岩ころだから元よりオスでもメスでもねいよね』

変な話かた…なんだか混乱してきた…
この人は私みたいな幽霊じゃなくて、なんだ。石の心なのか…石がしゃべるか?
まてよ、わたしに色々教えてくれたのもおしゃべりな石炭だったっけ。

Dscf8053 『で…何を知りたいんですか』

『そね。“なまんだぶ”まず、というのを分るたいなす』

『なまんだぶ?えーっそれはちょっと…なんでまたお経なんかを?』

『“オキョウ”てか?アタのとこ来るンは、皆しゃべる。でも知らんだら』

 

うっわ~っますます調子の狂う話し方だな…色んな言葉がゴッチャゴチャしてるみたいだぁ。

『ウラん居るとこぁ、この向こうあっちのほうのどっしり山なだ。行っててみますか?』

この自分が石だという人のことに興味が出てきた。
少なくとも─私の持つ力を知りたいのではないようだ。

『はい。行ってみたいです』

『だいぶ歩くますからけども…』

Fallup 海から新鮮な潮風がシュンと吹き上がるのを感じる。 うん─

『大丈夫。手をつないでください』

『うっは

そいつの腕を引っぱって風に飛び乗ったとき、ずいぶん驚いたようだ。
新しい風はとても乗り心地がいい。
風は弱々しくも高くそびえる岩肌を一気に登りつめていく…

気持ちいいーっ

(つづく)

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2008年5月10日 (土)

ひとつ目の巨人

風になってずっと飛んでいた
雲の間をすり抜けながら何も考えないで真っ白になっている
どこまでも続く空みたいに 心の中が透き通る…

ずっと高いところを飛んでいたけど、大きな山を越えてから低い所に降りてくると、かすかな点にしか見えなかった建物もはっきり見える。
どこまでも続く道がヘビみたいくねくねして、脇に家が点々と座っている。その数がどんどん増えて、その先に街が見えた。道なりに左へ進路を取る。
もう「風乗り」が板に付いたみたいで半分得意気になってるよ。

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「あれ?なんだろう…」

今、通り過ぎたばかりの山に不思議なマークが見えた。

Dscf8686 近くまで寄ってみたけど、見れば見るほど何だかわからない。
風の上からだとゆっくり見れないので、とりあえずこのへんに降りてみることにしよう。

地面に降りると、ずっと高い所を飛んでいると平らに見えた山も下から見るとすごく大きい。
さっきの場所へ向おうと道をさかのぼっていくと鮮やかな色の大きな門があった。
大きいなぁ…こんな門は見たことがない。それに変わった形だよ。よっぽどすごいお家なんだろうな。
その先に続く木立に囲まれた道を登っていくと、さっきの不思議なマークが見えてきた。
「家… じゃない?」
草に覆われた急な階段の先に空を睨んでいる一つ目の巨人がいた。

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Dscf8695 家の階段にしてはすごく長いうえ、とても急だ。
普通の人ならすぐ疲れるだろうなーって思いながらテンテン跳ねながら上がっていった。
途中に白いテーブルみたいなものが…これって…空飛ぶ円盤?
ここは、宇宙基地なのかな?それとも宇宙観測台だろうか…

とりあえず上を目指す。
人がいたら厄介だけど、かなり古ぼけた感じがして、しばらく人もきていないみたいだ。
登りきったところで振り返ってみると…いい眺め!
道を走っていく車が虫みたいに見えた。

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Dscf8711 「ようこそ…!」

「わっ! びっくりした!」

ひとつ目巨人が私を見下ろして力強く呟いた。

「あなた達が来るのをずっと待っていました。歓迎します。」

「たち? 私ひとりですけど…。私のこと知ってるんですか?」

Dscf8700 「もちろんです。ずっと信号を送っていましたから」

信号? 私、そんなの見てないよ…

「ところで、どちらの星からお越しですか?」

「星? 私地球人です。 あれっ?地球人だったかな?前は地球人…今も地球人か。でも人間でもないか…。地球にいるんだから地球人だよ。それとも…?」

「なんだか難しそうですね…」

Dscf8709 「あ…はい。地球人だと思います。いちお…ずっとこの星ですから…」

「しかし、さっき空から降りてくるのが見えたよ。人間には真似できないことだ」

「風に乗ってきたんです。海の方から。 私…幽霊ですから。」

「そうか…地球人か…また違ったんだ…」

古ぼけた巨人が前より荒んで見えた。ちょっとがっかりさせたみたいだな…。

「宇宙人を待っているんですか?」

「そう!ずーっとね。40年くらいになるかなぁ…これが僕の仕事だから。」

「へーっそんなに長く…誰のためにですか?」

Dscf8696 その経緯と言うのが…
宇宙から来る人たちと友達になることを願って集まった人たちが昔、オキクルミカムイという神様がカムイシンタという竜に乗ってこの山に降りたという伝説から、ここに彼を建てたのだそうだ。全て集まった人たちの手作りで。
やがて、その指導をした人が病気になり、しばらくしてみんな山を降りて行ってしまったそうだ。
残されたこのひとつ目巨人さんは、またみんなを呼び戻すためにひとり空に信号を送って、宇宙人が来るのを待っている。

「宇宙人って、怖くないです?」

「そんなことはない。とても美しい人達らしいよ」

ふーん…会ってみたいな。でも、こんな崖みたいなところに空飛ぶ円盤が降りられるんだろうか?

「その『大きいクルミ』って神様はどんな方だったんですか?」

「『オキクルミ』だよ。足元の右にいったところに像があるから見ておいで」

「はーい!そうします」

Dscf8707  

吹き下ろす風に飛び乗ってそっちに行ってみる。

Dscf8691 「あっこれか…なんか変だなぁ…」

神様と言うよりも飛行機だよね。これ… 前に回ってみると…裏に生き物がいた。

「あーっデンデンムシ!可愛いなぁ…」 指で突っついていると…

Dscf8693 「だっ誰だ!ちょっとやめてくれよ!」

「あっしゃべった!ごめんなさい!」

「…ったく…朝っぱらから…」

「すいません…『オクイクルミ』ってこれですか?」

デンデンムシさんは、寝起きでイライラしている風だったけど教えてくれた。

Dscf8687 「『オキクルミ』だろ?もっと向こうだよ。小さい熊が2匹下にいるからすぐわかるさ!」

「じゃぁ…これはなんですか?」

「こいつは、向こうのオンボロを作った奴らが置いていったんだ。なんでも宇宙人が地球の最後の日に選ばれた人間を宇宙に連れ出すための宇宙船らしいぜ。もっとも何も来なかったらしいけどな」

「地球最後の日? それ困るよ。カズ君に会えなくなる!」

「なんのこっちゃ? どーせなら人間みんな連れていってくれりゃいいのさ。もういいだろ!もう少し寝かせてくれや…」

「ありがとう…」 地球最後の日? ずいぶん怖い話だな…でもいまだに来ないっていうのは、まだその日は来てないってことだよね?
デンデンムシさんに聞いたほうに大きい像があった。手前に可愛い熊を2匹従えて。
その神様は静かに座っている。まだ、神様には会ったことがないけれど宇宙人って感じじゃなくて、やさしいおじいさんみたいだ。
石の像は本当の神様じゃないらしくて何も話さなかった…

Dscf8718

Dscf8716 「どうだった?」

「はい…なんか、不思議な人だなーって…」

「そう!宇宙人は、地球人にできない不思議な力を持っているそうだよ」

「死んだ人を生き返らせることなんかもできますか?」

「きっとね。僕のボロボロの体も直してくれるだろうさ…彼らが来たら風に乗せて教えてあげる」

「早くその日がくるといいですね。じゃ!私いきます。どうもありがとう!」

「風に乗るんだったら僕の頭の上から行けばいい。ちょうどいい風が吹いてきているよ」

「ありがとうございます」

Nagisaflight

巨人の頭のてっぺんに上がった。遠くまで見渡せて気持がいい。
ここからなら空飛ぶ円盤が来たらすぐ見えそうだね。
私は、朝の新しい風に飛び乗って山を離れた。

Hayopira

「さよなら巨人さん」 早く願いが叶うといいね…。
振り返ると、相変わらず赤い目で空を見続けていた

ほんの一瞬も見逃さないぞ! という目で…

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2008年4月14日 (月)

ラマンチャの兄妹

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Dscf6056 「風が鳴き 空が怒る 空忍ハリケンレッド!」

「えーっ またぁ? あたしキュアホワイトがいい!」

「プリキュアなんて女ふたりじゃねーか! ハリケンブルーにしろよ」

「やだなー…いっつも…」

「じゃあ もうやめるぞぉ!!」

「わかったって!! もう! 『水が舞い 波が踊る 水忍ハリケンブルー…』」

Dscf6078 「人も知らず 世も知らず…」

「イエローはどうすんのさぁ!」

「ふたりしかいないのにできねぇよ!! うるっさいなぁ! もうやめる!」

「だからプリキュアがいいって言ってんのに… もーっ!すぐイジけて!」

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丘の上 勇者ドン・キホーテとその従者サンチョ・パンサがそんなふたりを静かに見下ろしていた。

Dscf6057 騎士道物語を読みふけりすぎたために現実と虚構がわからなくなったラマンチャの男は自ら『ドン・キホーテ・デ・ラマンチャ』と名乗り、虚構の旅に出た。
やがて出会った酒場の女アルドンサに恋するが彼女は自分の境遇から狂言と相手にしない。
しかし、あくまでも自分に淑女として接してくるドン・キホーテに心が動き始めた頃、虚構の旅に出た彼を追ってきた主治医に連れ戻されて現実にもどされていった。

Dscf6058 アルドンサは彼を探し、サンチョ・パンサの助けもあって、やっとの想いで彼に出会うが、既に彼は「ドン・キホーテ」では無い。
思わず口ずさむ彼の唄っていた「見果てぬ夢」が彼の中の『ドン・キホーテ』を甦らせ、サンチョ・パンサを従えて声高らかに騎士道を歌い上げる。だが、彼は既に命尽きる宿命だった…

昔見た映画、ピーター・オトゥール主演の『ラ・マンチャの男』はこんな話だったと思う。ミュージカル映画はあまり見ないけれど、これと『チキチキ・バンバン』は好きな映画から外せない。

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Dscf6064 ある意味 子どもの頃は、男の子でも女の子でも「ドン・キホーテ」か「ハックル・ベリー」だと思う。例えが古いがゴーレッドとキュアドリームでもいい。
ともかく自分を何の抵抗もなくヒーローと自分を同一視できる。
いわゆる「なりきり」というやつですね。
ただ根底になるものは前出のふたつの物語に行き着くと私は思います。
ヒーローになりきる、なりきろうと夢を馳せる物語。
外国のお話ですから反論もあるでしょうけど…
ひとつのキャラクターとして捉えなければ両者共ヒーローになりきるという意味では接点があると思います。

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丘の上に立つ2基のサイロ
赤茶けた鉄兜を被ったノッポとズングリを見上げて自分はこれを「ラ・マンチャの男」と重ねた…それだけのことです。

先の兄妹には冒頭ような会話があったのでしょうか?
それはなんとも言えませんが丘の上に建ち四方広がる大地の中でのびのび育ち、どんな夢・想いを通わせていたのか…

今や廃墟となって住宅も解体されてかつての生活は見えませんが、この兄妹には普通の兄妹とは少し違った結びつきがあったのです。

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二卵生双生児 一卵性とは少々異なりますが、いわゆる双子
見えない心の繋がりは 同じ母の兄妹も及ばないほど深いという。
同じ愛を受け、同じ時間を同じように見つめてきたふたりなのだから…

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Dscf6077 兄妹を見守り続けてきたドン・キホーテは従者と共にここで立ち続ける
今も「見果てぬ夢」に想いを馳せて。

誰もが見ることをやめてしまう夢のために

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2008年1月14日 (月)

ダグトリオの森

ダグトリオ

分類:モグラポケモン  タイプ:地面  英語名:Diglet
体長:0.2m  体重:0.8kg  特性:すながくれ/ありじごく

D1ディグダの進化形。モグラの形体だが実際はモグラたたきのモグラに近い。体は筒状で頭が半球。体の下部は土の中だが、その部分は誰も知らない。
地下1メートルの深さを掘り進み、木の根をかじって生きている。穴を掘ることを得意とする。実際のモグラは植物の根を荒らすため害獣とされるが、ディグダが通った後は地面が程よく耕されるため、多くの農家に飼われる益獣である。皮膚が薄いため日光に弱い。

なぜ、数が増えただけなのに進化になるんだろう…
ともかく始めて見た時にポケモンの「ダグトリオ」だなーって思ったんです。

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Dag順番は手前右が長男。その奥の青頭が次男。頭のないのが3男だと思います。
お断りしておきますが、ここはねこんのオリジナル物件ではありません。
マイミクの方の既出なので、敬意を表します。「ウォーッシ!」(←これは気合)

ここへは来た事はありませんでしたが、ここの土地勘はあったので沢沿いのここに牧場があったことは不思議に思いました。なぜならばこの沢の上にも下にも沢沿いに牧場を築くところは皆無だったからです。そこそこ高低差の出る沢で、西日が陰るのも早いこの場で夏場はともかく冬場は辛いところが偲ばれます。(おそらく真冬なら日中に水道管凍結)

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Dscf3992 住宅はもっと高台の上の方にあったでしょうが、今は解体されているようです。
現在残るのはサイロ3兄弟と屋根の落ちた牛舎の痕跡。収容頭数は10頭もない大きさなので、サイロ3本は過剰。別棟の牛舎があったとするのが普通か…?昭和52年の空撮では林はまだ深くはなっていませんが、引き込み道の跡が見えないので既に離農後か?
Dscf3989手前の木立のところには住居のようなものが見えます。平地のようにも見えるけど、沢に向かって傾斜のある土地。

帽子のない3男は、一番ずんぐりして頑丈そうですが、背面に回ると大きな傷がありました。奥の青帽子の次男に比べてブロックの面が大きい。専用ブロックではなく、一般普及型で塀などに使う「間知(けんち)ブロック」と呼ばれる断面に穴が空いているものを使っているようですね。目地も荒いので自分で施工したようですが、基礎に難があって加重に偏りがでたらしい。長い時間をかけての施工の末、使われることなく兄弟達と一緒に立ち続ける。

Dscf3986

いつか、傷心の弟を兄達が支えることもあるでしょう。

「ひとりじゃないんだ…がんばれよ」

ダグトリオは、3匹でひとつ。お互いの繋がりが深いからこそひとつになれる

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