2009年3月22日 (日)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』②

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【前回までのあらすじ】 
廃墟大好きOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐ廃墟サイトの先輩、神氏(A型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、この場所へ別ルートから別なカップルも入っていたのです。ところがその彼女・美玖(AB型)は、口にこそ出さないものの『廃墟』は本当は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、その心のうちを察することができず、廃墟を撮っているつもりが廃墟に気を取られていて彼女のことが気に止まりません。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしてしまいました…

Dscf1729 『なんだかさぁ全然、理解できないよね。こういう趣味…』

『ええ…そうですね…

『薄気味悪いし、汚らしいし、虫はいるし…前は一緒に来なかったけど、どうも行動が怪しいから「連れてけ」って言ったら、それから開き直っちゃって…』

『でも…こういうところって滅多に見られるものじゃないし…

『これって粗大ごみみたいなもんじゃない!誰からも見放されてさ、わざわざ草をかき分けて来るほどのところとは思えないよ。そうでしょ?』

『まぁ…そうですよね…』
どうやら私も師匠に無理やり連れてこられてるのだと思っているらしい。
カメラの調子が悪くてバッグにしまってたからなおさらそう思われたかな…
それにしてもバッテリーの調子が悪いのにはまいったなぁ…目の前にこんな凄いところがあるのになぁ…

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『このタイプのレンズのボケ足が、これまた良いんですよ…』

『へぇ~っ検討してみます』

いっや~っ…
思ったとおり話が長引いてきた。
『退屈だよねぇ…座れるところもないし。ホント、デリカシーないって言うか…そっちも大変でしょ?』

Dscf1747 『は…はい… たまにならまだしもね…

『いつもじゃないんだけどさ、ちょっと遠出したら「当然の権利」みたいによるところを決めてるし、その間なんかこっちのこと放ったらかしだもの…』

『はっきり言ってみたら良いんじゃないですか?』

『言えるなら言ってるよ…ダメなんだよね。近頃はストレス感じてる…』

『それじゃ良くないでしょう?言わないとわからないこともあるし…』

『うん…そうなんだけど。でもさあイキイキしてる顔見せてくれるのは、こういうところだけなのさ…。そっちはどうなの?』

Dscf1761 『ええっ?そう!ヒッドイですよぉ!映画1本連れってってくれないし、毎週のようにですよ。こういうところ!』
…つい、相手に合わせてウソをついてしまった…

『よくガマンできるよね』

『いやぁ…問答無用ですよ。「次行こう」とか「早く行こう」とか興奮しまくって鼻血ブーです』
これは自分のことだな…ハハ…

『あの人、そうは見えないのにね…それに比べたら私はまだ甘いんだなぁ…。でもさあ、一緒にいてもひとりっきりみたいなのさ…なんだか…』

『アキさん?なに話してるんですか?こっちに来てくださいよ』

えっ!ちょっとぉ師匠今、話を振られるのマズイよぉ

『えっ?なに?どうしたんですか?へんなポーズして…えっ?違う?なんですか?はっきり言ってくださいよ』

『あのアノあの…ちょっと外の空気吸ってきますぅ…カビ臭くて具合悪いんで…ハハハ
いっやぁー師匠のバーたれっ空気読め空気

『そうですか?それほど感じませんけど…むしろさわやかな…』

『一緒に行きませんか?話長そうだし…』

『はい…』

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ピコピコ…

『あ…

『アキさん!あれ?そういえばカメラは、どうしたんですか?』

『あっちゃあぁ…
バッテリー生きてたのか…スイッチ切ってなかったみたいだ…

『カメラって…』

『そうだ!アキさんのカメラ見せてもらえますか?あれがまた良いものなんですよ』

『あんたも…? …なの?』

『ははは… はい…実は…

『私をだましたの?』

『いいえ…決してそういうわけでは…
ヤバイ…どうしよう…

『あれ?どうしたんですか?』

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…なにさぁどいつもこいつも廃墟廃墟廃墟って!まともな人間いないの

『ちょっと!美玖…?どうした?』

『いやあぁぁぁっっっもう嫌だぁぁぁっこんなの耐えられない

Dscf1730 『待ってどこに行くの
ヤバイヤバイことになった…山の奥の方へ行っちゃった

『あれっ?なにがあったんです?』

『師匠のバカぁっ

『マズイ連れ戻さないと
彼氏の人はあわてて後を追って走っていった。

『私も行きます

『美玖ーっ!おーい!』

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見渡す限り人の足跡を感じないフキの海に埋め尽くされた炭鉱跡。
どこへ消えたのか、既に彼女の姿は見えない。
この緑の中に一瞬にして飲み込まれたみたいに…
その真ん中で、彼はただオロオロしていた。
いったい…いったい、どこへ行ったんだろう。
たぶん…ここにいる誰にもここの土地勘はないと思う…。

『はて?なにかマズイこと言いましたか…?』

                   (つづく)

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2009年3月20日 (金)

廃墟の歩き方Ⅲ 「ら・ら・ら」①

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「えーっまだ先があるのーっ

「うん…こんなに奥深いとは思わなかったなぁ。さすが炭鉱だよ!ほら、向こうにもホッパーが見える。スッゴイなあ…」

Dscf1712 『スッゴイなあ』って… 知ってたんじゃないの
せいぜい1、2箇所かと思ってたら何?この森は…次から次にボロボロな建物が出てくる。
ひとつの中に入って彼がシャッター音を響かせてたら『向こうにもあるよ』って次々渡り歩いていく。
黙って後を付いてきたけど車を止めた道はとっくに木立の向こうで見えなくなった。

「大丈夫なの?ちゃんと戻れる?」

「うん!来たときの通り、辿っていけば大丈夫さ」

「なんだか…クマでも出てきそうなとこじゃない?」

話しながらならクマも寄ってこないんじゃないかなあ…」

「かなあ…」とか言うけどクマに聞いたわけじゃないじゃん!
あ~っ…それにしてもどこまで行くんだろ… あっ…また向こうにもある…

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Dscf1716 「スッゴイですねえ!師匠ーっ!入口んとこのゴミの山見たら正直メゲましたけど。これはもう鼻血ものですよお!」

「うん!大願成就です!うちからじゃここまでは滅多に来られませんしね。途中の街でポジフイルムを調達できなかったのが残念でしたけど…」

「夕べ、ここのことを調べたら『クマの生息域なので単独行動はしないこと』とか警告を載せてるところが多かったですよ。出るんですか?ここ」

「出たという話は聞かないですけどね。これだけ人里離れるとありえないことではないでしょう。エゾシカでもいれば少しは安心なんですけどね」

「そうなんですか?」

「シカも用心深いからクマの気配のあるところには近づかないそうです」

「あっ!師匠!向こうにもホッパーホッパー!

「はいはい順番にね」

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「ちょっとおー

「なに?」

「今の聞こえなかった

「何が?」

「獣の鳴き声みたいな…さかってるみたいな…」

「いやー、聞こえなかったけど」

Dscf1821 確かに聞こえたよ! 風なんかなかったし…
クマの声は聞いたことがないけど、テレビか何かで聞いたけど木の上のサルが人間が来たのを威嚇するみたいな声が聞こえた気がする。

「こんな人も滅多にこないようなところまで来てヤバくない?」

「そうでもないみたいだよ。結構あちこちに足跡もあるし…」

そういわれて下を見ると、湿った粘土状の土の上に靴跡がたくさん見える。
こいつみたいなもの好きが他にもいるんだろうか…
それよか、私のソールもすっかり泥だらけだ…トホホ…泣きたいよ。

「あそこまで行ったらとりあえず今日は戻ろう。これ以上行ってもキリ無いみたいだし」

「ホント?わかった」

彼の指差す向こうにひときわ大きい建物が見える。
ともかくあそこまではガマンだ…

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「師匠ってクマと遭遇したことあるんですかあ?」

「いや!ないです。でも、新しいフンを見たことがあるし、何かが近くにいる気配も感じたことがありますよ。その時は、さすがに深入りできませんでしたけど…」

「ここって遺構がたくさんあって嬉しくなっちゃいますよォ正気を失いそう

Dscf1725 「倒産ではなくて閉鎖ですからね。場所によっては国有地だったから閉鎖のときに原状回復でほとんどの建物を解体したところもあるようです。この辺りは、まだ地権は保有されているのでしょう」

「あっ!あっちの大っきいすぐ行きましょう

「話、聞いてませんね…。やれやれ…」

「えっ何か言いました?」

「いや!アキさんもカメラの腕が上がったなぁって…」

「もっと言ってください!私、褒められて伸びるタイプですから」

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あーっシンドイなぁ…。どうしてこんなところをサクサク進んでいけるんだろ?カメラとか三脚とか持ってて…。
同じ道を戻ることを考えただけで、うんざりだなぁ…とにかくここで終わりらしいから、この辺で待ってよ。

  ガサガサッ!

        「えっ?なに!」

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「あ…あれっ?」

「どうしましたか?」

「あの…いや!後で話します…」

あれーっ?なんでバッテリー切れるんだよぉ!おっかしいなぁ…こんなはずじゃないのに。
やっぱりフイルムカメラも持ってくれば良かった…
ん…?

「師匠なにかいます今、あそこでなにか動いた

「シッ!静かに…」

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何かいる!壁の向こうに…!
どうしよう!私ひとりだ。ヘタに動いたり騒いだりして、もしクマだったら…
どこにいる? あっ!あそこだ!
手を振ってみよう。
離れ過ぎてて全然気付いてくれない… そうだ!何か投げてみよう。
この棒でいいか…それっ!
あーっ 当たった…

「痛っ!なんだよ危ないな!」

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Dscf1774「あれは人ですよ。『痛っ』て聞こえた」

「誰か住んでいるんですか?ここに」

「いや…同業ですね。静か過ぎるし、心霊系でも昼真っからは来ないでしょう。かすかにシャッター音もするようです」

「さすが師匠!年の功!」

「褒めているんですか?それ…」

「もちろんです!師匠も褒められて伸びるタイプです。さあ!行ってください!」

「なんか変だなぁ…」

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「ギャーッッッッ助けてぇーッ

「何だ!どうした?」

「決して怪しい者じゃありません!」

「そうです!怪しく見えても実は違います!」

「どういう意味ですか?それ…」

「ははは…頭悪いんで上手く言えないんですよ」

「どちら様ですか?」

「いや、僕らもここを撮りに来ただけで…驚かせてすいません」

「そうですか。こんな場所で同業と会うのも珍しいですね」

同業? なんだコイツら!
死ぬほど驚かせて何のんびりしてるんだ!
あ…壁に寄りかかったから服が汚れたよ。トホホ…

「ゴメンね。驚かせるつもりじゃなかったんだけど」

「いえ…大丈夫です…」

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「どこかサイトやってる方ですか?」

「いいえ。単に写真が趣味で撮るだけですよ。サイト運営してるんですか?」

「はい『廃墟楓』というのを…」

「あーっ!良く見てますよ!すごいですよね。あの写真技術は!」

「本当ですか。それは嬉しい! これ…私の名刺で、今後ともよろしくお願いします」

「いやっ!これはご丁寧に…仕事用で失礼ですが、こういう者で…」

なに? こんなとこで名刺交換? 信じらんない!
嫌だな… なんだか長引きそうだ…

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「ねぇお互い大変ですね…」

「えっ何が?」

「変な趣味の男と付き合ってるとさぁ…うんざりするよ…」

「えぇっあ…そ…そうですよね…確かに…」

そっかぁ、この人は趣味じゃないんだ…
まいったなぁ…『私もそうなんです』とか言えないなぁ。これじゃ…

                        (つづく)

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2008年12月27日 (土)

廃墟の歩き方Ⅱ『ウォーホルの家』

Wea

「えーっやっぱりぃ

車が、急に減速したと思ったらUターン。
今、通り過ぎたばかりの脇道へと入っていった…。

Dscf9092 そうだ…そうだったんだよ。 そう思って然り!
札幌一泊で楽しませてもらったんだから、こういうのも「有り」か…
そういう話は、してなかったから今回は、ないものだと安心してたのに…

行きは高速に乗ったのに、帰りは違う道。
出発した時間も早かったからどこかへ寄るもんだと思ってたら、なんと『廃墟』かい。好きだなぁ…
今日知り合ったばかりの相手に、こんなところに連れてこられたら完璧に犯罪の前兆だよ…

入り込んだ道は舗装になっているけど、背の高い雑草が多い尽くさんばかりに倒れこんで、車のボディをパラパラと叩いていく…
私の不安をよそに気分上々の運転手。
少し奥に入ったところの脇にプレハブのような小屋が建った広い場所を見つけて停まる。
その小屋は、場所に不似合いなバスの待合室かと思ったら、中に地蔵のようなものが見えた。

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「ちょっと行ってくるから、待ってる? 15分…30分くらいかなぁ」

ち…ちょっと待ってよ…
ホラー映画とかの設定だと、こういう場所にひとり残されると、必ず恐ろしい目に遭うんだ。いきなり最初の犠牲者とか…
そんな場所ではないと分かっていても頭に妄想は、湧き上がってくる…

行く一緒に行くよ

「ホント?じゃあ、行こう!」

なにやら嬉しそうに笑った。

Dscf9086 そそくさとトランクルームから、旅行中積みっぱなしだったバッグを降ろして用意を始めた。三脚だのカメラバッグだの手袋だの…
用意周到だ… これは、絶対確信犯。

車で、今上がってきた道を歩いて降りていくと、雑草に埋め尽くされた二階建ての家が見えてきた。
庭が、この雑草の山だと人がいなくなってずいぶん経つだろう。
Dscf9006 雑草の繁殖力はすごい。
舗装面を割ってニョキニョキ伸びている。
私どころか前で家を見上げる彼の背丈さえもすでに越えていた。
もし、この藪の向こうに誰かがジッと潜んでいてもたぶん分からない。

こんなとこ、幽霊屋敷に見えてもイキな郊外レストランなんかには絶対見えない。
いったいこういうところの何に惹かれるんだろう。
部屋で『廃墟』の写真集を見つけてパラパラながめたりしたけど、
その魅力と言うか、傾倒するものがあるかどうかは、私には全然わからない。

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それにしても大きな家だな。
うちの近所でこれほど大きい家の主だと、それなりの会社の部長クラス以上だろう。
こんな郊外だと、土地の予算が安く済む分、家にお金をかけられるのか…

Dscf9126 「ここから入ろう」

コイツは雑草を踏み分けて入っていった。
まいったなぁ…それでもジーンズだっただけましか。
それならそうと始めから言ってくれればいいのに…
もっとも始めから知っていたら、準備以前に文句を言うが…
それが分かってるから、行き当たりばったりみたいなマネもするんだろうな。

「そこで待つのー?」

「いや行くって

草とか、そのへんのものに触らないように踏み分け道へ入っていくと
彼はもう玄関口にいて中の写真を撮っていた。

「開いてたの?」

「うん!開いてた!」

映画の中で一見誰も住んでいないような容易に入れる家は、曲者なんだ。
絶対何かの罠があって、そこにノコノコ入っていく若者は、人の皮を被ったサイコな男の手によって、たちどころに犠牲者になる。
それは無いにしても、コイツの部屋で読んだ廃墟のなんたらいうタイトルの本にも書いてあった─

「廃墟と言えども許可なく立ち入ることは不法侵入にあたることがある」

だからといって、いまさら後戻りもできない。
クモの巣とかがないか確かめながらついていった。

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「うわーっ広いっ!」

玄関と言うより、ひとつの部屋だね。
50人分の靴くらい悠々並びそうだ…
ここだけでも私の部屋の半分以上の広さがあるよ。

Dscf9041 「ほら!この光と闇のコントラスト。良い感じと思わない?」

手前の階段が上の階から差し込む光で輝いている。
奥の居間らしいところは薄暗くて、天井から板というか布切れみたいなものがたくさん垂れ下がっていた。これは、夜見たら明らかに幽霊に見える。

いうなれば“失意の中”から見いだした希望というのかなぁ…
あれ、なに共感してんだろー私…

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ガサガサガサーッ

Dscf9052_2うわっ!うわうわうわーっ!

「何かいる!何かーっ!もう嫌だーっ!」

後の部屋からスゴイ音がした!
彼も驚いたようだが、意外と冷静に部屋の様子を伺う。

「ちょっとーッやめなよー。もう行こう!」

Dscf9051 「シーッ…」

部屋の中は、ダンボールやら襖の戸やら何かの置物が雑然と積まれていて中に入れる感じではない。

「たぶん、犬か猫だよ」

犬や猫が玄関の戸を開けて入るわけないじゃん…
それに、猫ならまだしも犬だったらヤバイよ!

「追い詰めたりしなけりゃ大丈夫」

「えーっなんでわかるのさ?」

「冬に入ったところで、大っきいタヌキと鉢合わせになった時はさすがにビビッたことがあるなぁ…野生のタヌキ見たの始めてだったし…」

「もし噛まれたら狂犬病とかエキノコックスになるかもしれないよ」

「いや!エキノコックスは噛まれてうつるわけじゃないと思うな。狂犬病だって今の日本にはないらしいよ」

それにしたって噛まれりゃ痛いじゃないさ…。
私の重大な問題は、コイツにはさしたる問題ではないらしく乾いたシャッター音を響かせながら2階へ上がっていった。

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「ちょっとー!黙って行かないでよ!」

さっきの部屋から
またガサッという音がした─

Dscf9071_2  「おーっ!こいつはすごいな…来てごらん」

「なに?」

窓の上の壁にビッシリ何かが並んでる。
タバコの箱─?
部屋は引っ越したあとみたいにゴミひとつなく、きれいに片付いていて
そこの壁だけが異彩を放っていた。

「アンディ・ウオーホルって知ってる?」

「いや…」

「マリリン・モンローとかエルビス・プレスリーの色使いが大胆なのとか、スープの缶やコーラのビンをたくさん並べたポスターを描いた人だよ。描いたって言うかシルクスクリーンっていう版画の一種なんだよ。それと感じが似てるなぁ…ウォーホルって人間的であるより人工的で感情のないような造形をしていたんだよ。始めはそうではなかったようだけど、コマーシャリズム的な社会情勢の中で広告の仕事をしていて、画家の個性の入らないような表現になっていったんだよ

「…よくわかんない」

「ユニクロのプリントTで缶の絵の持ってたっしょ。あれ!あの絵を描いた人」

「あ…あぁ!あれね!思い出した!このタバコもそうなの?」

「いや!これは違うけどさ。整然と並べてるイメージがこんな感じだなって…」

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なんだ良くわかんない話…
しかし、大きい家だけあって2階も広いなぁ。
こんな立派な家、朽ちるままにして…
ここに着くまでの間、コンビニどころかちょっとした店すら全然なかったから、不便なところではあるんだろう。

Dscf9038 「ここにいた人は、どこいっちゃったの?」

「さぁ…この辺りは畑ばかりだから農業かな。たぶん後継者の問題とかで離農したとか…」

「でもタバコの箱を並べてるような人は、いたってことでしょ」

「うん。でも今の世の中、農業も大変だから継いでくれるとは限らないし、親も継がせる気にならないこともあるそうだよ」

「どして?」

「あれ!原油価格高騰だよ。トウモロコシからバイオ燃料を作るとかで穀物相場がすごく上がったんだ。親戚の酪農家で家畜の飼料価格の上昇で大変らしい。飼料とか畑の肥料もほとんど輸入らしいから」

「ふーん。でも、この家が空き家になったのって今年や去年じゃないんじゃない?」

「それはなにか事情があったんだろうね…景気に関係なく、無くなる企業や閉める店ってあるから」

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窓から見える風景は、ほとんどが藪ばかり。
太陽は、変わらず輝いていて、緑もまぶしいのにさ…

Dscf9074元は、キレイに整備されて庭に色とりどりの草花も植えられていたんだろうね。
「永遠」なんてないんだと思うけど、こんな終末的な景色はいたたまれなくなってきた…。

「大丈夫?」

「うん…なんだか鬱になってきた…」

「そろそろ降りよう」

コイツは、好き好んでこういうところに来るけど、鬱な気分にならないんだろうか。
私には見えない何かが見えているんだろうと思うけど…
どこからか見つけてくる廃墟の本やPCの「お気に入り」にも廃墟なんとか見たいなタイトルみたいなサイトがたくさんあるところを見るとコイツだけの趣味じゃないんだと思うけど。

Dscf9077 あれ…いない置いてかれた

あわてて下へ降りると階段前の部屋で壁を撮っていた。
和室─畳の部屋だ。それも広い!客間っていうのかな。

「思ったほどここは古くないのかもしれないね。ほら!」

指差す先の壁にポスターがあった。
L'Arc~en~Cielの…雑誌の綴じ込み付録のような。

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Mixi_dscf9044 「10年も経っていないみたい」

「うん…」

「何があったんだろうね」

「さあ…」

知らない時代の遺物ならいざ知らず、リアルに知っていたものに出くわすのは、なんだかショックだ。

「なんだか見てたら寂しくなってくるね…」

「そうだね」

「寂しいの好きなの?」

「そういう意味じゃないけど…感情って楽しいこととか、嬉しいことばっかりじゃなくてさ、悲しいこととか寂しいことも求めるんだよ。人としての心を失わないためにさ。テレビや映画がコメディばかりじゃないみたいに…心の痛みっていうのは意外と経験していないのかもしれないから敢えてそれと向かい合うと、そこに美的なものすら感じるんだと思うんだよ。闇があるから光がわかるみたいにさ。ネガティヴなものがあるからこそのポジティヴっていうか、そんな気持ちだよ」

ふーん なかなか言うじゃないか…

「あと、居間の方見たら、もう行こう」

「うん」

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天井板が力なく垂れ下がった居間。

ここで家族団らんもあったんだろうね。
何人家族かもわからないけど、家族がいなくなってから家は悲しさのあまり自分を傷つけたような、守るべきものがいなくなった自暴自棄からヤケクソになったようなそんな気がする。

「勝手口が開いてたから、さっきの猫か何かはそこからはいったみたいだよ」

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「あれ?あれって…ピアノ?」

Dscf9065 向こうの部屋の壁際に大きな家具が見えた。
そこは部屋ではなく、隣の床の間に続く縁側のようなところ。
外の立木が風に煽られて当たったのか、誰かがワザと割ったのかガラスが粉々に飛び散ってる。

やっぱりピアノだ。
小さいころ親にねだっても夢は叶わなかったものが、当然のようにここにあって埃にまみれている。
そっと蓋を開けてみると鍵盤も惨めに薄汚れている。

Dscf9061 カシューン…
後から 乾いたシャッターの音が鳴り続けている

ポーン…
いつか 忘れてきた夢の音 
その音に乾いた音は鳴り止んだ
夢が現実に勝った気がした…

ヒューマニズムがコマーシャリズムに対して1本取ってやったような…
それほど大げさじゃないけど

なんだかね…

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Dscf9072_2夢は生きるための心の糧
喜びはそのためのビタミン

悲しみや寂しさは─ほんのささいなミネラル
ささいだけれど無くていいものではない

そういうものなのかもしれないね…

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2008年10月24日 (金)

テントウムシ祭りと『ブキミちゃん』

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今年の秋の入り口も暑かったです。 とても…
紅葉は来るのだろうかと心配してたけど 

ちゃーんと来ましたよ。お山のほうからね。

Dscf4501 一面の緑の園が 鮮やかな赤や黄色に彩られて
こんなに視界いっぱいの暖色のなのに
寒々と感じるのはなぜだろうね。

緑好きの画家たちは
今年の絵具を使い残せないから
余した色を使い切るために秋が来る。
完成した絵画は、絵具の乾ききらないうちに
どんどん画商に運びだされ
画家は、真新しいカンバスを前に
次の春の構想を練るのだ。

そんな最中の赤い大地を北へ向かう
もう何度も通った道 地図もナビもいらない
山の「赤」に負けない熱い「赤」の牧場めざしていた。

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北海道津別町相生 道の駅から釧路市阿寒方向へ少し走ったところに
『シゲチャンランド』がある。

毎年通うようになって5年ほどだろうか。
もう すっかり顔も覚えてもらって…でもそこの住人の顔はいまだに覚えきれない。

Dscf3959 人には 誰しも『ふるさと』があって
でも 生まれ育った『ふるさと』のほかに
誰しもこころの『ふるさとも』もいくつかあるんですよ。
自分には、この『シゲチャンランド』がそうです。
同じ気持ちの人もきっとおられることでしょう。

紅葉深まる秋とは言えど 暖かい。
この季節
『シゲチャンランド』には秋の風物詩…というか名物の
『テントウムシ祭り』がある。
正直なところオジャマ虫の彼らが大挙して
ランドに集まってくるのだそうだ。

Dscf4502 『いやぁ 今日は、なぜか少ないんだよねぇ。昨日はすごかったぁ…』

気温が下がってくると 少しでも暖を求めるのか
テントウムシたちは陽で暖められた家の外壁にビッシリとくっついてくる。
ウチもそうだけど
日中は下手に家の中に出入りできない。
さもないと春を心待ちにする家族が一挙に増加するからです。

ランドは昼間の開園中、オープンドアなので一般入場者のほかに
紅葉の鮮やかさに劣等感を感じたやつらが山から降りてくるというわけ。

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「毎年ものすごいもんだから シゲもすっかり神経質になっちゃってね…」 
パ-トナーのココさん談

「うちもたくさん来ますけど、天井の隅のやつは『もういいや』って開き直ってますよ」

Dscf3997_2その数はウチと比べ物でないらしく
閉園時間の午後5時から7時まで「やつら」の掃きだしに費やすのだそうだ。
それもすごいね…
なーんにも気にしないのは ランドの住人たちだけ

秋の小春日和の空の下
ボツボツ人も訪れだして
笑い声やら 喚起の声やら 感嘆の声…
数の多さもさることながら どいつも個性が強い。

Dscf3953 訪れだした はじめの数年は
ひとつでも多く見て 写真を撮ろうと躍起になっていたけど
今は ここでゆったり身を置くようになった。
新しい顔や居場所の変わった顔を探したりなんかして…
見に行っているのやら
こっちが見られに行ってるのやら

10月末頃で『シゲチャンランド』は冬の眠りに付く
熱い牧場は白い雪に包まれて
ここの住人たちは長い休みに入る。
今年のシーズンのお客の話なんかしたりしてね。

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帰り際 ショップで、どーも気になった人形があった。

『ブキミちゃん』?

「いやぁ~ちょっと急に縫ってみたんだよね。こういうの作りそうもないって言われちゃうんだけど…フフフ」

うーん ココさん ジュエリーが専門みたいなイメージありますからねぇ…
でも この表情、ブキミというよりとぼけた感じ。

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そんなわけで 気になって仕方なかった『ブキミちゃん』
ウチの部屋でチンマリ座っています。
来年からは、里帰りもさせよう。

シゲチャンランド紹介を含むHP  『Wild Little Garden』 SevenCatさん

今回は『シゲチャンランド』で知り合った親友の『∋(◎v◎)』さんへ送ります。
ランドから離れたところで生活していますが、また元気で会えることを心待ちにしています。  (ねこん)

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2008年1月 5日 (土)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ五】

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海岸にヨタヨタと転がっていた流木。
畑に棲家を奪われて寝そべるだけの雑木の根。
雪解けのぬかるみで呑気に錆びたトタン板。
実っても誰にも歓迎されない歪な瓢箪(ひょうたん)。
律儀に働いていつのまにか老いぼれた鋸の歯。
夜会の席で幸せそうに抜かれたフランスのシャンパンのコルク。
明け方の酒場で眠たそうに捨てられたメキシコビールの王冠。
カーブもかからないほど擦り減ったゴムのベースボール。
遠足の児童にも引率の先生にも拾ってもらえない地味で華のない貝殻。
最後に飛んだ空を草むらから見上げていた鳥の羽。

ザワザワと群れるキュート。ケラケラと慄えるセンチメンタル。
静止したまま大騒ぎする形、色、気配。果てもなく謳い黙々と氾濫するバラエティ。

(シゲチャンランド公式写真集より)

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廃墟サイトでここを扱うのもいかがなものですが、元廃墟。今は熱い空間。
そこは、異形の見世物小屋ではなく、個性が一人歩きしたサーカス小屋。

Dscf1742_2 廃墟であった農場は、悲しみと喪失感であふれ返っていましたが、今では『あいつら』があふれて、いたるところの物影に隠れています。
夢も喜びも、そしてチャンスも本質は足元に転がっていながら探し続けるのが人なのかもしれません。
手塚治虫氏の『火の鳥』が無限の力を持ちながらたった一つの小さな愛を手に入れられないように…
人が打ち捨てて見向きもしないようなもの達が、ここでは人を感動させ、喜ばせ、泣かせます。誰もが見覚えがあって、暮らしの側にあったもの達。久しぶりに出会ってずいぶん立派になったね…というような驚きと、遠いどこかで無くしてしまい懇情の別れとなったものとの再会のような感激に包まれて、『あいつら』は声なき声で語り返すのです。

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ここですべてを見せてしまうわけにもいかないので紹介しきれない大部分は機会があれば是非行ってみてください。
『あいつら』が貴方を鑑賞し、声なき語りを投げかけてくる様を経験してみてください。

近くには、貴方の反応に「ニッ」と子どものように笑うシゲチャンがいることでしょう。
アートに哲学はさほど重要ではありません。要は体験することです。

《シゲチャンランド》 
北海道網走郡津別町字相生
開館期間:5月1日~10月31日  休館日:毎週 水・木・金曜日
開館時間:10:00~17:00

※館主シゲチャンこと大西重成氏は、カメラ(特にオールド物)が大好きです。その話だと大変盛り上がります。カメラ談義に華を咲かせるのもまた結構です。

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Dscf1834 『廃』は『無』ではない
万物は決して『無』から生じたものでもなく、捨てられても『無』になることはない
朽ち果てても燃え尽きても、それは形をかえて見えなくなっただけです。
それは、我々があの「1000の風」になるように…
このランドの「あいつら」もひとつの形の変わり方。
目に止まる「そいつ」はあなた自身なのかもしれない。

おなじようにドライブのみちすがら見かける「廃」はまだ現役なのです。時代の語り手として…
その語り口から見えてくるのもまた自分自身の姿。
でも明確な答えはなかなか見つからないのです
            

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2008年1月 4日 (金)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ四】

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Dscf1688_2 目の前にあるものを、あんなに見ようとしたことはない。
見たものはすべて感情となって、流れ込んだ。
シゲチャンランドで過ごした時間が、チクチクと僕を刺し、ペロペロと僕を舐めている。
(シゲチャンランド公式写真集より)

Dscf1696 神とはなんだろうか?そんなことを考えることがありますか?
社や道際に祀られた神々。美術書なかの絵画や彫刻のテーマとして具象化された神々。
そのほか、仏や土着的な精霊など…

宗教家は其の疑問に的確に答えることができるのでしょうが、欲しい答えが押し問答では困ります。
かつて、豊かな幸をもたらす反面、一端荒れ狂うと驚異をもたらす大自然は、神としてあがめられ儀式によってあがめられました。自然はやがて具象化していき、高レベルな人格を伴って人間と同じ姿形となります。そしてすべてを統括する絶対的な存在が登場します。さらにそこから解釈によって分派が作られ、儀式は格式化。より難しく明細もより細かく計算されます。

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胸元に輝くクロスは果たして神が宿っているのでしょうか?
意味も知らないお経で救われるのでしょうか?

Dscf1690 日常的に『それ(敢えて神と呼ばず)』を感じることはないでしょうか。
ちょっとしたラッキー
意外な偶然
思っても見なかった出会い
まさかの大逆転…
  それはある意味『それ』を意識する瞬間です。
ただ、それだけではなく日常とは違う雰囲気・空間・観念などで『それ』を自覚することがあります。

Dscf1786 そして、崇高に扱われる芸術品もまた神の感覚なのかもしれません。
ピンと張り詰めながら淀みのない空気。凛とした時間。それらは作品をより、神聖化させます。
でもそれらとは違う空気は、魔を生み出すのでしょうか。
其の回答は、この『シゲチャンランド』にあるのかもしれません。
大西氏の現出させた数多の『あいつら』には崇高な空気も雰囲気もない。
拝むとご利益があるとか霊感新たかなものがあるという話もありません。

其処にあるのは神でも仏でもないならそこにいるのは誰なのでしょう。
ガラクタや廃棄物で作られた『あいつら』は俗世の我々の姿なのかもしれません。
本来言われるところの神々は『到達できない理想の自分の投影』
ここにいる神々は『現世での自己像』 そう考えます。

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アナタハ カミヲ 信ジマスカ?

アナタハ 自分ヲ 愛シテイマスカ?

(つづく)

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物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ三】

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泣けない目玉は、目玉ではない。
 泣けない目玉は、笑いもできない。

         (シゲチャンランド公式写真集より)

Dscf1724 シゲチャンランド内に点在する建物は、牛舎・サイロ・母屋・資材庫・飼料庫などがありますがそれらには「手」や「鼻」、「口」などの人体パーツの名が付けられています。
現在、広大な敷地内に新たに建てられたものが年々増殖しています。

大西重成氏は、立体造形に表現の主体を移し、それらの仕事をこなすうちに其の膨大な作品群すなわち「あいつら」が誕生しました。
「東京」の暮らしと今後の生涯のステップを考えたとき、一冊の洋書と出会ったそうです。

ハワード・フィンスターの「パラダイス・ガーデン」。
アメリカ・ジョージア州の牧師でフォーク・アーティストでもある彼が、庭にジャンク材で寺院・教会・ボトルタワー・天使の像等が溢れる庭園を創造した写真集です。

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その本との出会いが大西氏に「東京でできないこと」へと熱意を駆り立てました。
その想いがここ北海道の津別町に「シゲチャン・ランド」として現実のものとなりました。
私設美術館ということですが表現もさることながら空間も一つの作品となるこのランドは、美術館というよりも「あいつら」のコミューンの様相を強く感じます。
作品も自由なら展示も「あいつら」が自由に散っている雰囲気で個性的な「あいつら」の生息域に我々が訪れたような気になってきます。

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Dscf1704 作品は素材や表現方法だけではなく、公開する空間演出もまた重要なものだと考えさせられます。
これらの作品の一部が昨年初頭に帯広市美術館の企画で出張(?)してきましたが、見慣れた場所と違って妙に不似合いに思ったものです。

プレゼントには驚きと歓喜が必要です。
この真っ赤なビックリ箱は、常習癖をもよおすような魅力にあふれています。
美術・芸術の小難しい後付理論などいらない。当世流行のリサイクルなんてチャチなものでもない。
まるで始めからそうなるべくして生まれたもののようだから…

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Dscf1689 「鼻」を離れて「目」の館へ。
白が基調の屋内には大きな連中が並んでいました。
壇上に整然と並ぶこの空間は見世物小屋的な雰囲気。
素材も元々生命をもっていた流木や倒木などなので生命感・皮膚感があって、実在する生物のようにリアルな感覚のものがここに並びます。
素材は「収集」というよりも「捕獲」に近いかもしれません。

朽ち跡は体に。焼け焦げは顔に。自在に伸びた根や枝があたかもそういう体であるかのようです。
こういう素材がその辺にいとも簡単に転がっているのでしょうか?

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『あーあれは●●湖で見つけたんだよ』
大西氏の屈託ない語り口は表現者というより悪戯好きな子といったほうがふさわしいような気がしました。

(つづく)

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2008年1月 1日 (火)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ二】

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赤子はわらい、 老婆はおがむ。
           シゲチャンランド

                (シゲチャンランド公式写真集より)

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そびえ立つ祭壇状のオブジェを見上げていたときに背後の足音に気が付いて脳裏に法衣姿のサイババが浮かびました。
逃げる理由もなく、ましてや入場料もまだ払っていない自分ですから…

Dscf1713 「やぁ、いらっしゃい。」

「あ…こんにちは」 目の前に立っているのはサイババなどではなく、蛍光迷彩ジャケットと特長靴スタイルのアウトドア風の方。宗教家ではありませんが、芸術家とも思えません…

「ちょっとお客さんのお相手をしてたものですから」

「そぅ、入場料がまだでした…」

「お帰りでけっこうですよ。ごゆっくり見て行ってください」 
とても、この祭壇を造った人には見えませんでした。

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Dscf1720 最初の「左手の部屋」で度肝を抜かれてしまいましたが、他の館を見ることに。

「鼻」 と名付けられた館。中はとても暗く、要所に間接照明が置かれています。細竹で作られたカーテンが入口に下げられ外の明かりが侵入するのを防いでいるようです。
柱と梁がむき出しになった屋内はクジラのような大きな生き物の体内にいるような印象があります。
そのあちらこちらに異形の生物がいて、一斉にこちらの様子を伺ってきました。

それらはすべて流木、倒木、廃品などで造られた作品達です。
とくに大げさな細工を施しているわけではないようですが、其の姿は異形でありユーモラス。ごく一部を除いて名前を持たない其のもの達は其の存在が個性であり、名前であるようです。

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作品には空間もまた重要な意味を持つようです。彫刻は屋内と屋外では表情が格段に異なります。
この美術館の館長大西重成(おおにし しげなり)氏は、この町「津別町」出身。

1965年 北海道立津別高等学校卒業と同時に横浜郵便局に入局
1971年

渡米、NYスクール・オブ・ビジュアルアーツに入学

1972年

帰国、東京を拠点にイラストレーションなどの制作活動を開始

1978年

東京アートディレクターズクラブ主催の美術コンペに於いてADC賞を受賞

1979年

Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)のレコードジャケットのイラストを手がける

1979年

坂本龍一のレコードジャケットのイラストを手がける(SUMMER NERVES)

1983年

フランス・Temps Futurs社のL'art Medicalに作品が掲載される

1986年

スイス・Wizard&Genus社よりポストカードが全世界で発売される

1988年

カナダのテレビ制作会社、ACCESS NETWORKの教育番組に作品を提供

1989年

PATER'S SHOP AND GALLERY にて「Smiling time」個展

1990年

モスバーガー小冊子「モスモス」の表紙、及び中のイラストを95年まで担当
 (一時は80万部の発行部数を記録)

1993年

フジテレビ「ひらけ!ポンキッキ」のオープニングタイトルを制作

1996年

「シゲチャンランド」開設のため、北海道網走郡津別町字相生に活動拠点を移す

公式サイト:「シゲチャンランド」(「Wild Little Garden へようこそ(seven cats氏主催)」内より 一部割愛)

芸術というより広告アートの世界で主に活躍してきた大西氏ですが、その表現を現在のような廃品・廃物による立体造形に移してから、その作品群を収蔵する私設美術館の構想を模索していたようです。

その拠点を模索しながら見つけたのが故郷である津別町の相生でした。(メキシコ移住もも考えにあったとか)
大西氏は、その作品を「あいつら」と呼びます。それは、正しいのかもしれない。

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この美術館としての空間は、廃酪農場であったところに手を入れて開設されたところで、其の中に納められた「あいつら」は、一般的な美術館のようにもっとも鑑賞しやすい位置・高さに納められたものではなく、頭の上や足元。梁や柱の影、表に逃げ出しているようなものやら…鑑賞に来ていると言うよりもこっちが鑑賞されているような、魑魅魍魎の館に入り込んだような錯覚を覚えます。

ここを訪れる人は、様々な反応をします。

その滑稽な異形のものたちに笑う人
終始、感心と感嘆が交錯する人
神がかったものを感じる人
何かに共鳴して涙を流す人
怖くて泣き出す子
「あいつら」と同化して走りまわっている子…

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「マタ オカシナヤツガ キタヨウダ…」

そんな声が聞こえてくるような気がします。

(つづく)

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2007年12月30日 (日)

物言わぬ雄弁者の群れ【其ノ一】

“ルイン・ドロップ”年末年始企画Dscf1681

ナニカガ ジット 生キテイル
   アフレルヨウニ 其処ニイル
       
(シゲチャンランド公式写真集より)

人生…人生を語るには、まだまだ青二才に過ぎないが其れを承知で、人生最大の驚きと言うか驚愕に近いこの出来事は、ここに来るまでなかったのかもしれない。

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Dscf1721 数年前のことになります。
遠出のドライブとか、週末一泊旅行で主に札幌方面に行くことが多かったので、道東を走ってみることにしました。
そもそも道東に足を伸ばさなかったのは、小学校の社会見学と称した1泊旅行で要所をほぼ回っていたことと会社の旅行でも数回、一帯を走っていたからです。

さほど遠いところではないのに自分で走るのは、初めてに等しい。
それは、近場にいる友人のようなもので会おうと思えば何時でも会えると思っていて全くいかないのと同じです。

GWの喧騒は、外したかったので6月に有休を当てて出発。生田原町(現在遠軽町と合併)の「チャチャワールド(木工おもちゃの博物館)」へと…
あいにく、「蝦夷梅雨」と呼ばれる時期で日程の間、霧雨に悩まされました。どのみち屋内施設が目的だったのと「おもちゃ」が中心ながら大人気なく楽しめるところです。

初日は、北見市で一泊。翌日阿寒回りで帰ることにしてのったり車を走らせます。
相変わらずの霧雨は、むしろ雨といっても良いほどで近くの植林をまとった山もぼんやりしか見えません。

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Dscf1679 津別町に入り、旧国鉄相生線線終着の「相生駅」、現在は道の駅「あいおい」となっているところで駅舎や客車を見たあと阿寒湖畔へ向かおうと国道を南下。
その途中、霧の中から突如として普通ではない真っ赤な牧場が浮かび上がりました。
この辺りの町のほとんどが林業を主幹産業としていますが、安価な輸入材などによる製材業の低迷で主幹産業とは言えないものになりました。
それでも各町、思考をめぐらせて木工クラフトなどで町の活性化に貢献しています。

Dscf1713 そんな「愛林の里・津別町」にも酪農業は少なからずあり、営農は続けられますが国立公園が近いことと植林地が多いことからエゾシカの出没があり、作物の食害も多いことから畑に隣接する山地との境界にネットフェンスが延々と張られており、畑が隔離されているような印象があります。
農業は自然との闘いであり、其の相手はなにも鹿だけではなく、バッタの大発生によるものそして、霜などの冷害に悩まされます。豊作になったとしても卸価格のダウン。牛乳も卸価格は現在まで低迷を続けています。
戦前戦後に入植した人々もやがて離農していき、かつての10分の1かそれ以下の戸数にまで減少。この辺りを走っていても時折、廃墟と化した酪農家跡が見られます。

霧の中から現われた農場は一際、変わっていました。
牛舎・サイロ・資材庫などすべてがナナカマドの実のような真紅に彩られていて、緑の山や草原に囲まれています。
入口の「シゲチャン・ランド」の文字と牛舎の屋根の「極楽美術館」の文字が目に入り、ちょっと興味を持ちました。

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駐車場には数台の車。牧場を取り囲んだ柵には、これでもかと言うほど多種多様な廃物が打ち付けられています。元々ここにあったと思われるものや他所から持ち込んだようなものなど…。
霧雨の中、様子を見に伺うと人の気配の感じられない静かな牧場。チケット売り場なるものはありましたが、誰もいません。建物の間には高い位置に張られたロープには様々な色の裂布が等間隔で結ばれて風にたなびいています。
顔のような「モノ」があちこちに転がってユーモラスで「へっ面白そうだな…」と奥のほうへ進みます。各建物のドアが見えて其の中のひとつを見てみることにしました。ドアがふたつ上には「右手」「左手」。となりの牛舎には「鼻」と筆で書かれています。

「???」とりあえず「左手」を…
「!!!」中には建物同様、赤系色彩でインドの方の派手な祭壇のようなものが高い天井に届かんばかりにうず高く積み上げられていました。

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それを見たとき、直感「ここって…ヤバイところじゃない?」と感じました。
美術館と称した妙な宗教施設。そんな印象と共に自称教組の経営者なんかを想像していました。

其のとき、既に背後の方から砂利を食む靴音が近づきました…
脳裏には、法衣を着てつかみどころのない威厳に満ちたサイババチックな姿が浮かびました。

(つづく)

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2007年12月23日 (日)

骨董 元気会

  「3丁目の夕日」の続編が評判です。
昭和最後の年から20年の年月が流れようとしていますが、既に時代は「昭和」を懐かしんでいます。
静かながらも世の中はレトロブームで、混沌とした平成の世に、つい前時代に想いをめぐらせてしまうのでしょうか。
昭和風居酒屋。昭和グッズを扱う店。戦後の高度経済成長期において良くも悪くも色々なものが生まれてきました。
戦争も全共闘も南沙織もたのきんトリオもエリック・クラプトンもテクノミュージックもスターウォーズも口裂け女もツチノコも思いつくものすべてが詰まったパンドラボックス。それが「昭和」なのです。

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Dscf4580 昭和がこんなにまで愛されている背景は、今現在、目にするものの多くが昭和を出発点としているからでしょうか。
悲惨な戦争期、それを外して昭和を語れませんが、戦後の闇市・バラックの頃から高度経済成長期を迎え、石炭増産、オイルショック、発展の夢と世紀末の不安感。メンコとファミリーコンピューター。昭和のキーワードを思いつくだけでもいかに激しい時代だったかが感じられます。
平成生まれの世代が成人を迎えようとする今、昭和の残した大量の遺跡に何を思うのでしょう。

その昭和の過程、まだ庶民の娯楽がせいぜい近郊の海・山・川だけだったような頃、この山岳地帯の迫る奥地は、がむしゃらに働き続けた世代の保養地として賑わっていました。
現在は、地域の観光ガイドには載るものの訪れる人も少なくなったようです。キャンプ場も不便な奥地より張り芝で電源設備もある公園のようなオートキャンプ場が栄えて、この地のバンガローも多くが朽ちだしています。キャンプ情報誌などで、ここはやたらと熊が出るような紹介をしているのも問題ですけど。

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かつて、このあたりは開拓の鍬が入ってから多くのいくつかの集落を併合して村となりました。時代が昭和に入り、近隣村と共に帯広市へ合併になりました。
日高の山々が眼前にそびえるこの地域も現在は、離農が相次ぎ、古いサイロが遺跡のように点在。
その反面、近年になってからドロップアウト組が第二の人生の地として、半自給自足の生活を楽しむ小さな住宅も増えてちょっとした集落があります。

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この地域の古くからまとまった集落を形成していた地域にこの家があります。
看板(?)を出したのは、時代は平成に入っていましたが、もう一昔前のことで街のタウン誌で見かけて行ってみました。
「骨董と食事?」なんだか奇妙です。今でこそアンティークレストランなるものもありますが同じ意味でも言葉自体で印象が変わります。(蛇足ですが「古本と大判焼き」という店もありました)

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Dscf4576外観はどう見ても今時の民家。それも比較的新しめで和とも洋とも言い切れない…
外壁には、古い日本酒の看板や手書きの文字。普通の玄関横にペプシ(ビン用)の自販機が置いてあるのが違和感を誘います。
「まぁ、ここが入口なんだろうな…」ドアを開くと明らかに今時の住宅の玄関。ランドセルとかグローブが放り出してあってもおかしくないような感じです。

何やら紐が下がっていて
『紐を引いてお待ちください。店主がすぐ参ります』とあります。

ガランガランと鐘の音が響いて、奥から『いらっしゃいませ!』と威勢の良い声。

現われたのは…丁度、今のマイク真木の髪と髭を黒く染めて、作務衣を着せた感じの人。
通された6畳ほどの和室は3方が天井まで骨董品で囲まれて先客のいた居間は、壁全面に大量のホーロー看板やゼンマイ式柱時計が並び、それぞれが微妙にずれた時を刻んでいます。

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『今日は仕込みをしていなかったもので、ザルうどんだけで申し訳ないのですが…』

申し訳というより、脅迫っぽい強い口調に『あっ、それでいいです…』と、つい…

『かしこまりましたご主人様!(メイド喫茶か?雰囲気は冥途)

ガサの大きいラジオや蓄音機、おすし屋さんのカウンタにあるようなガラスケースの中にはたくさんの時計。本棚にあるのは、古いアサヒグラフとかノラクロ。

『それは自由に見ていただいてかまわんであります。』

Dscf4582今度は軍隊調。 あがってきたザルうどんは、ホントのザルに入ったものでコシがあってツルツルのいい感じ。
手の空いた主は、先客(地元の人かな?)と談笑中。

「ずいぶん古いものを集めているんですね」
「古いものが好きなんですよ」

「エビスを置いているんですね」
「私はエビス以外認めません」

いっやーヘタに何か聞かなくて良かった…会話下手ですね。
それだけが問題ではないのでしょうが…
メニューによると、ここでは毎週土曜日限定の『元気会』という宴会企画がありました。

『19時~元気がでるまで』
日本酒とエビス飲み放題。屋外メニューと五右衛門風呂。予約制。うーんどういう内容だったんだろう。
現在、庭には五右衛門風呂が残っていますが辺りは雑草の伸びるままに放置されています。あれから20年近い年月も経っていますから…

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近所で農作業中の御宅へ主の所在を確認すると、『しばらく見ていないですね…』
家の周りの雑草や無用なところへ根を下ろした白樺の木の高さから考えても長いこと放置しているようです。大好きな昭和の残影を残して何処へ出かけているのか…

Dscf4589 過ぎた時代の思い出は甘く切ないものです。
その時代をリアルに過ごしていた頃は、辛いことも厳しいこともたくさんあったはずなのに…
そんな動乱も思い出にしてしまうほど、人の心は寛容なようです。

近い将来、「平成回顧」なんて時代もくるのでしょうか。
平成を象徴するものは何なのか?
今のところ思いつくのは「昭和」の模倣です。

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