2011年7月11日 (月)

木を植えた男たち

『このままでは十勝の大地は丸裸になってしまう!』

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02  開拓ブームに乗ってどんどん開墾がすすむ大地を前にそんな想いに駆られた人が、この帯広の地にいたそうです。
 おりしも時代は木を植えるよりも木を切り倒さねばならない時代で原始林の樹木は土地を開くために切り倒され、材木やその副産物は暮らしに使われ、役に立たない根は集めて昼夜燃やされて空が真っ黒な煙に包まれていたころもあったと開拓の書には記されている。
 そこに植林を提唱することは狂言としか思われかねない…そんな時代であったことでしょう。ただ、未来を見据えた気持ちは、狂言などではなく的を得た事実には違いなかった。
実際に事が起こってから対処に乗り出すことは現在の世にもたくさんあるものです。

 ともかく時代には、少しばかり早すぎた思想と、時を越えて現在は公園となった場所で空高く伸び上がる大木にはちょっとしたお話がありました…

05  明治31年9月1日、十勝支庁長の移動で新しく赴任してきたのが、諏訪鹿三だった。
新任の諏訪支庁長は着任早々まず管内を一巡、現地視察をした。これはどの支庁長もやることで、ことさら目新しいことではなかったが、彼の目に映ったのは急テンポに進む開拓事業とともに緑豊かな原始林が片っ端から切り倒され、焼き捨てられていく有様だった。
 しかも人々は土地を拓くことばかりに没頭していて誰一人将来のための植林など考えている者はない風だった。

「今は立木がジャマになる時代だから切り倒すこともやむをえないが、このままではやがて十勝に一本の木も無くなってしまう。今のうちに植林のことも考えておかなくてはなるまい」

彼はこう思いついた。やがて年がかわって32年の春が来た。音更の然別で牧場をやっている渡辺勝(※)のところへ支庁長から1枚の葉書が配達された。
その葉書には

『○月○日 植林思想を昂揚するために管内の有名知識人に集まってもらい某所に苗木数本を植えたいと思うのでぜひ出席してもらいたい』

といった意味のことが書かれてあった。

 勝はその日、作男の上村吉蔵をともなって諏訪支庁長の私宅を訪れた。

 支庁長は勝が現れると大いに喜び、部屋に招じ入れ緑化運動の必要性をひとくさりもふたくさりも説き、わが計画の遠大さを風潮した。
 だがどうしたものか昼を過ぎても勝主従のほか、誰も集まってこないのだ。

『どうも先のことのわからぬ連中ばかりのようだ。案内を20通も出したのに…まあ良い!渡辺君が来てくれただけでも運動の成果はあったわけだ。では植林にかかろうか!上村君、そこの庭先のドロ柳の苗を3本ばかり持ってきてくれ』

06 支庁長は上村に苗を掘らせ、それと鍬を彼にもたせ勝とともに植樹地へやってきた。そして3本のドロ柳の苗を等間隔に植え、3人は空を仰いで自分たちの壮挙を自ら自慢し、自分をなぐさめた。
 やがて引き上げる頃になって、もうひとりの参加者があらわれ、この人物も一握りの土を根元にかけ、計4人となったわけだが、この参加者の名前は記録に残っていない。
このささやかな行事が十勝ではじめて行われた緑化運動というべきもので、この時植えたドロ柳は1本が枯れ、2本はいまだ残っている。
旧十勝会館前の広場にいまていていと空を突き、直径2尺ほどのドロ柳の木がそれである。
故上村吉蔵翁遺話/天地人出版企画社『とかち奇談』 渡辺洪著)

(※)渡辺 勝(わたなべ まさる)
明治16年(1883)依田勉三とともに、北海道現在の十勝の海岸部に入植。
晩成社(ばんせいしゃ)三幹部の一人として、活躍。後に、西士狩(にししかり 現在の芽室町)を開墾し然別村(現在の音更町)では牧場の経営に力を注ぎました。アイヌの人々への農業の世話役となって、アイヌの人たちと親交を深め、1896年には第1期音更村会議員に当選するなど、多くの人から信望を集めた。

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 実際のお話は、かなり滑稽な感も否めませんが、これが十勝発の緑化運動にはちがいなかったようです。
 当時あった自然の森の大部分は失ってしまったものの、この想いはやがて継承されることとなり住民の手により都市近郊にも森が作られて植樹や森林愛護の活動は継承されています。諏訪支庁長もさぞや満足なことでしょう。

きっと雲の上から、改めてわが計画の遠大さを風潮しているのでしょう。

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【十勝会館】

昭和3年天皇即位の大典が行われたのを記念するため翌年建設。
宿泊施設と大小の催しや集会などに利用されました。
戦後改造されて利用されていましたが市民会館建設後に解体。
この写真の中のどれかが、その大木であるらしい。

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2011年4月18日 (月)

丸く小さな廃墟の話

Maru

 帯広の東5条の根室本線にある踏切から、札内川鉄橋にかけての一帯は自殺の名所である。根室本線が開通して以来ここで命を絶った数はかなりのものだが、その他にこの鉄橋が帯広と札内市街を結ぶ最短距離であることから事故にあって死んだ人も少なくない。
 こうした条件がそろうと、おそかれはやかれ怪談の名所ともなるわけだが、ここも帯広の怪談名所のひとつである。

Tekkyou

 ここに現れる幽霊はザクザクと砂利を踏む足音で姿は見えないのだが『幽霊には足がない』という定説をくつがえしているところに特徴がある。
 戦後もいろいろなうわさが立ったが、一番はなやかだったのは昭和10年頃だったそうだ。近所のひとの話によると終電車が通り過ぎ、本当の真夜中ころになると根室本線の上をザックザックと通り過ぎていく足音が聞こえるという。そして1人が通り過ぎてしまうと、また1人が、そしてときには5人10人と一定の間隔をおいて足音の聞こえてくる夜があるという。そしてそのほとんどの足音が帯広のほうへ向かってあるいていゆくというのだ。

Bluered  そのころ。帯広に来て間もない恋人同士が、何も知らずに別れを惜しみ終電車のすぎたあとの根室本線の上を鉄橋へ向かって歩いていた。
星の一つもなく、雨がやって来そうな暑い夜だった。
と、こんな夜ふけなのに札内川の鉄橋の方から誰かが、ザックザックと歩いてくるのだ。

『だれだろういまごろ』

 暑くなっているところへ水をさされたような不快さを感じながら、2人が口をつぐんだとたん足音は鉄道の砂利の上からそばの草原にそれ消えてしまった。

『気持がわるいわ』

 女の方が男によりそったとき、また別の足音がザックザックと近づいてくるのだ。そして今度も2、30メートル前までくると草原にそれて消えていった。
足音がそれると、またつぎの足音がザックザックと近づいてくる。
若い2人は、きびすを返すと一目散にいまきた道をかけ出していた。

 そのうちにこれと同じ足音を聞いたという風来坊も出てきたりして、夜ここを通る人はほとんどなくなった。そしてそれから間もなく『きっとここで死んだ連中が、行くところへ行きつけず帯広のネオンが恋しくなって出かけてくるのだろう』と、もっともらしく言いだす者が増えはじめていた。
 『とかち奇談』 より 「足のある幽霊の列」 (渡辺 洪 著  天地人出版企画社 昭和54年発行)

Kawamo  

現在も運行されている根室本線は、十勝の中心都市「帯広」と隣町、「幕別町」の間を流れる清流「札内川」を渡る。
そこを渡る鉄橋が、このお話の舞台です。

今も徒歩で川を渡るには、数㌔上流か、下流の橋を渡らなければならない。
当時は、下流の橋1本。帯広の街からほろ酔いで帰宅する隣町の人は、手っ取り早く鉄橋を渡ろうとしたこともあったのでしょう。

Katamari  幽霊話が、実際のことか、事故を戒めるための都市伝説か、それも今となっては測ることはできません。
 現在の鉄橋も当時のものではなく、レンガ積みの橋脚だったようですが、すぐ脇にコンクリート製のものに立て替えられ、話の真意を知っていたであろう初代橋脚は引退、
解体されたようでしたが、その後川原に変った感じの玉石が散乱することとなります。やけに目立つ真っ赤な石。塊によってはレンガ積みの目地まで残っている。

この怪談話を知るまでは、上流にレンガ製の建物でもあったのかと思っていましたが、どうやらそれが橋脚の名残のようです。
 以前は、鉄橋の近くにそのときの土台らしきものも見えていたけれど、今年の春は、まだ川の中のようでした。

Rever

レンガのひとつひとつが固まって大きな力になる。
それは既にレンガではなく、大きな力を持つ柱。
その柱が、再びバラバラになったとき、始めのレンガに戻ったかというと…
決してそうではなく、存在意義とともに自分さえも見失っているかのようだ。

だけどギザギザになったその身も
年月は丸く変えていくもののようだ。

そう考えると
人の作るものは、人の鑑でもあるように思えました。

Brick

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2010年8月29日 (日)

バラスト

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果てしなく続く道を走ってる。

「果てしない」は言いすぎだ。見通す先が見えないからといっても果てがないなんてありえない。

しかし、こう景色の変化が乏しいと、それほど走ってもいないのにこのままずーっと続いていくようなんだ。それで「果てしない」感じがする。

「果てしない」とか「永遠」とかいうものは実はつまらないものなのかもしれない。
いまだ「永久」を超越できないのにその空しさをを知り、嘆くのも妙なものだ。

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カーラジオの声も、ほとんどノイズに変ってきたので消してやった。
それにしても今年は春から暑い。
最高気温はともかく路面の温度がどのくらいまで上がったのか気になるんだよ。

こんな日は水分補給はマメにしようと峠前のコンビニで500mlのPETを2本購入したのに既に残り1本で、中身も3分の1。

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Dscf7923 道は、市街地を離れるとズーッと山間をなぞり、人里は畑らしきところは見えるものの、景色から人家の類は、ほとんど見えなくなった。
すれ違う車も少なく、人の足跡を示すのは、山間を併走する鉄路と、今走っている舗装路面くらいしかない。
それでも時折、線路か道路の保安作業の一団に出会うので、不安になるほど奥地ではないようだ。

落ち着きのない線路は、道の上を横切ったり、下をくぐったり、山を突き抜けたりしているうちに遠のいていった。
山も道から離れていったので、ようやく人里へと達するのかと思う。しかし景色は、ただ原野が続いていく。
それも単に原野ではなく、拓かれた土地が人の世話を受けたのも久しく、元の原野に成り果ててしまったかのようです。
時折、老朽化で倒壊した家や乗降客などいなさそうなバス停、赤土色の農耕具が目に入ることがあった。
ここは、すでに人が見捨ててしまった土地なのか…

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この集落の開拓は古く、明治41(1908)年にさかのぼる。ちょうど青森─函館間の連絡線が運航開始した年だそうだ。
近くの川で砂金も採取された記録もあるが、期間・採取地域が限定されてそれほど盛んに採取されていなかったらしい。

Dscf7916 やがて、大戦・戦後になり戦後引揚者の入植が激増。
しかし、舗装化がすすんだ現在では想像もつかないが、この辺り極度に交通の便が悪く、それが一帯を孤立化させる一大要因でした。

水道(簡易)や電気がようやく引かれたのも昭和40年に入ってからという。
ずっと道を併走してきた鉄路が敷設されるまでは、交通機関からも遠く、数箇所駅逓が設けられて流通を担う。

でも半孤立化の集落は農業生産品を出荷する術がないので、生産するのは自家用の栽培がほとんどで、現金収入の要は林業が主の半農半労暮らしぶりであったらしい。
ようやくここに石勝線が開通したものの、すでに離農者が続出していたことから、当初計画されていた駅は信号所になり、それが異常に信号所の多い地帯になった要因であるそうだ。

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いまや原野に姿を変えた農耕地は、既に開拓の記憶も失ってしまったように山と変らない顔をしている。
ここは、すでに非居住地帯になってしまったようだった…
しかし、この先の山間には大きな2棟のタワー型ホテルのある一大リゾート地帯がある。
そこまで行くと店やペンションもあり、そこまで到達すると緑色の砂漠を通り抜けてオアシスにたどり着いた気分にすらなるだろう。
すぐ近くには高速道のICも完成している。

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空のブルーと大地のグリーンの原色に目が犯され過ぎたころ、路肩に違和感のある中間色が目に入った。
この場所には不似合いなパーキング。…というより砂利を無造作に敷き詰めた場所。
砂利を敷いただけで圧鎮していないようで、重機のわだちや敷きムラが激しい。
工事用重機の待機場所の感じで、普通乗用車ではあまり入りたくない場所だった。
そんな場所に敢えて入ったのは、その脇に小さな木造住宅が半分砂利に埋もれるように立っていたから…
良い感じの廃屋を見つけたというより、やっと家の形をしたものがあるところまで走ってきたという気分。
大半の家屋は既に雪の重みで潰れて原野に埋もれてしまったのだろうか?

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非居住地帯というのは結構見かけるが、大抵は住居が残っていて離農して街へ移った住人が夏場のみ自家用農作のため一時居住している。
しかし、この辺りはそれすらも通り越してしまったかのように思えた。
その家が埋もれているように見えたのは車道と同じ高さに積み上げられたバラスト(砂利)のためであったらしい。
近くに寄ってみるとギリギリの線で埋もれずに済んでいたようです。しかも屋根近くに窓も見えるので2階建てのようだ。
老壁は黒ずんで木目も深く際立っていた。
このように壁が炭のごとく黒ずんでいるのは、耐水・防水のために塗ったクレオソートで染められ、陽射しで焼けたからなのだろう。
鉱物油の香りは消し飛んでいる。

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Dscf7896 波打った床の方々から熊笹が顔を覗かせ、奥の壁は既に崩壊して家の中で一番明るい部屋と化していた。
外観と違って中は荒れ放題。まるで竜巻に襲われたかのようだ。それに匹敵するほどに冬は気象の荒れるところなのかもしれない。
木造とはいってもそれなりに石油ストーブや家財道具の感じからすると数十年前まで暮らしが営まれていたかもしれない。

こういった離農で過疎の進むところで生まれ育ち、学校で「故郷の未来」なんてテーマで絵を描くと、必ず山よりもそびえ立つ高層ビルと縦横無尽に走る高速道、そしてレジャーを楽しむ家族が描かれることが多い。
その全ての要素を手に入れたこの土地は、それでも理想の未来だろうか…
肝心の人が去ってしまって。

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それでも、これが北海道らしい裏風景。

誰もが試されて 誰も負け犬などではない。
ほんの少しタイミングがずれれば、何処とて同じだったと思う。

だからそこはただ、そうなるべくしてそういう景色であるのだろう

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ただひとつ
人里が自然に無償で受け入れられる景色の中で
どうしても不似合いなのがバラストなのです

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2010年3月26日 (金)

旅立ち

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Dscf3075 北海道足寄町出身で札幌を拠点に全国で活躍するシンガーソングライター松山千春
彼が23歳の時に発表したベストセラー自伝「足寄より」
その自伝がデビュー30週年にして映画化された「旅立ち~足寄より」
その撮影は、もちろん足寄町で行われた。

自伝の映画化といっても30年の年月は足寄町や周辺の様子もすっかり変えている。
それでも街並みは時代の色を寛容に残していたことから映画のロケが可能だったようだ。
事実、既に閉店しているとはいえ、松山千春がデビュー前から通っていた「喫茶カトレア」もかろうじて残っており、初めて町でコンサートを開いた足寄町公民館も老朽化で閉鎖されていながらも当時の姿を残している。旧足寄駅は面影も無く新築されてしまったことから同じ沿線の赴きある利別駅が変わりに使われた。

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Dscf3058 ところが肝心の松山宅は、とっくに新築されており生家であるとかち新聞社は既に失われていたので、主要な舞台として新たに場を準備する必要があったようだ。
足寄町役場近くにある『千春の家(とかち新聞社)』は、映画クランクアップ後もロケ地として週末・祝日に一般公開されており、中に実際に入ることもできる。
とはいえ、小さな家なので大人数で入ることは難しい。
一般住宅から想像もつかない梯子のような急な階段で撮影クルーが機材を担いでスタンバイしていたかと思うと脅威にすら思えてくる。
ここは、もともと松山家とは無縁の家を映画用に改装したものだが、実に赴き深くて大道具の「汚し」の技術を持ってしても、これだけ人としての息遣いの聞こえそうな家が再現できるだろうかと思う。銀幕上でそれが生かしきれたかはわからないけれど…

Dscf3070 映画撮影の時は、例年に無く雪が少ない年で冬のシーン撮影のため山から雪を大量に運んでくるということもあったそうです。
ともかく映画はいまだに見てないんですよね。自伝も読んでないし…
コンサートのMC録「らいぶ」は読んだことあるけど。
管理の人から熱烈なファンと思われそうなくらい、家のあちこちを撮ってきたけど正直、千春の歌はあまり聴いたことが無い。
聴かなかったんじゃなくて、千春の歌は空気のようで、いつもどこからとも無く聞こえてきた。大好きでいつも聞いていた歌よりも、そういう歌のほうが、ズーッとあとになって心の中に根を下ろしていたことに気が付く。

「千春の家」の管理人さんがこう言ってた。

「ここは、木造モルタルだった家を映画の大道具さんが木造に改修したんですよ」

「えーっそうなんですか?」 それは驚きだ…

もともと、この家自身が持つ歴史の記憶と、もうひとつの人生の記憶を持つところです。

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どこまであるのか確かめたことすらない空の下
錆付いたトタンのほうがこの空のことを知っているようです。
記憶の色は色あせるんじゃなくて
むしろ塗り重ねられていくのだと思う。

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2010年2月14日 (日)

あたんのバラード

違うよ それは「あんたのバラード」。。。
世良公則&ツイストのデビュー(?)だって

…これじゃMixi日記ノリだし

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ここで言う「あたん」『亜炭』のこと。
通常の石炭と異なり炭化度が低いため品質的には亜種という扱いになるから『亜炭』と付けられたのか…
いずれにしても採掘後、風に当てるなどして良く乾燥させないと製品として出荷できなかったそうです。

十勝の芽室町町境に位置する国見山は現在、営林署所轄の自然散策林として開放されていて軽登山の場として利用者に愛されている。
山頂辺りに「国見チャシ」と呼ばれるこの辺りで生活したアイヌ民族の遺構跡が残っていて、一見すると尾根に作った溝のある高台という風だが、砦とか見張り台とか解釈される。

Dscf4718_2 「国見山」と名が付いていますが「美蔓高台」の突端、河川の侵食によって作られた河岸段丘の一部であるようです。
“軽”といっても運動不足の身では頂上へ行くとそれなりに息が切れる。
1市2町の境でもあるので役所の職員でさえ、この山がどちらに所属するのか戸惑うことがあるようです。

この国見山。夏場の緑を湛えた姿の時には分からないけれど、秋風が吹く頃から徐々に…そして春までの間、山肌を露わにすると実にいびつな形になっている。
近くの橋が竣工した時の写真でも現在のようにガタガタな稜線を見せていた。
末端部が特に際立っていて生える木も踏ん張りが利かないのか、やっとのことで根を下ろしている様子。

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Dscf4726 町史を読むと、その跡は石炭採掘の名残だという。
石炭というと夕張や三笠のように縦抗や斜坑を掘って地中の深いところから産出するというイメージがあるけれど、この山は露天掘りに近かったそうです。
露天掘りというと芦別市などにも跡がありますが、それよりも規模は遥かに小さかったらしい。
ここの亜炭層の厚さは十数センチほどで、その石炭からは化石化した水草も確認されることがあり、一帯は太古の昔には大湿原地帯だったということになるらしい。
年代的にも地の底にある石炭よりも新しいらしい。故に炭化度の低い「亜炭」の状態で産出されていたのでしょう。

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(国見山亜炭鉱に関する記事抜粋)

Dscf3739 本町
(芽室町)の鉱業は、国見山南腹の亜炭鉱が唯一で、埋蔵量は350万tといわれています。この鉱区のうち140ha余は昭和17(1942)年4月に依田八百が、284haはどは同18(1943)年7月に鈴木長一がそれぞれ発見しました。炭質が優秀で一時軍用にされましたが、その後変遷を経て同21(1946)年12月、株式会社十勝炭鉱国見事業所として長田正吉に鉱業権が移りました。長田は国の燃料不足対策に沿い、復興金融公庫からも資金援助を受けて本格的操業に着手しました。同22(1947)年8月から1級炭鉱としての配炭公団の全面買取りでしたが、翌年10月の公団買取り廃止で直売しました。遠くは苫小牧王子製紙工場、地元では中央繊維芽室工場、帝国臓器製薬工場そのほか各種産業用や家庭用として供給し、同23(1948)年2月25日、札幌商工局から重要亜炭鉱の指定を受けました。同24(1949)年当時の業績は、出炭3,935t、販売2,328tで、従業員男女10数名による人力の採掘でした。

時代の脚光を浴びた亜炭も、需要が時代とともに減少し、同41(1966)年ごろには販売量228t、従業員も4名になり、経営継続が困難になって翌年11月に閉山しました。

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Dscf3741 閉山後、事業整理されたため当時の名残を残すのは、いびつな稜線だけで登山道を外れて転げ落ちそうな稜線を辿っても石炭らしき欠片も見つけることはできませんでした。
ただ、稜線の1箇所に元々の山肌の高さの部分を残したような塊があった。
石化した火山灰のように見えるそれは、頭頂部に「山神」のようなものを祀っていたかもしれません。

Dscf3745 小さい頃から家は既に石油ストーブだったけれど近所の家で、機関車みたいな石炭ストーブを見たことがある。本体はオートバイの空冷エンジンみたいにヒダ状の突起がたくさんあって、SLの煙突状のところは石炭タンクのようで、細かい石炭が満載されていました。
記憶の中には石炭に関することは非常に少ない。

それでも、どこからか石炭ストーブの煙の香りがしてくると敏感にわかるのは、記憶というよりも血の中にそれがインプットされているのかもしれません。

「温かったけどさ、毎週エント(煙突)掃除しなきゃならんのがメンド臭かったなぁ…」

何代目かの石油ストーブの前で石炭に関わるそんな話を聞いた。
石油の産出もあと40年ほどだという。その後、家族団らんの居間を暖めているのはどんな風に変わっていることだろう…

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2009年9月14日 (月)

マカロニ ③

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お店の外は、太陽が真上を越えて建物の大きな日陰を作り始めていた。
さっきよりも大勢の人で賑わってきて、たまに大きな笑い声があがる。それが少し怖い気がする。
真ん中にいる人はよく平気だなぁ。私があの場に出されたら怖くて一瞬ではじけ飛んでしまうかもしれない。
小さい頃のお祭りは、スゴク楽しいと思えたけど今そう感じてしまうのは、私がいかに人目を避けなきゃならなかったかってことなんだろうね。

Dscf1648 「何のお祭りなんですか?」

「うーん いわゆる夏祭りなんだろけど、時間によっては神輿が出たり、夜は盆踊りもあるよ。それだけじゃなんだから昼間はいろんなイベントしててね。毎年、大道芸人も来るんだよ」

「ふーん」

「こういうの好き?」

Dscf1605 「人の多いところ、苦手なんですよ。…慣れてないので」

「じゃ、ここ離れよう。おいで!」

彼についてわき道の方へ─
高い建物が多くて、コロン(連れの石の魂)と待ち合わせてる大きな看板が見えなくなった。
行った先は車がたくさん停まってる。ここ駐車場?
その中の1台のところへ彼は、歩いていった。

「えっ?私…そんなに遠くまでは…

「そんなに走らないよ。少し気分転換さ。まだ時間、充分あるじゃない」

「そうですけど…」

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断わる理由も思いつかなくて、隣に乗る。
大丈夫かな…今何時だろ。どのくらい経ったかな?

Dscf1929_2 車は駐車場を出て、ゆっくり通りへ出て行った。
お祭りの店がたくさん並ぶ通りを過ぎると嘘みたいに歩く人がいなくなる。
街じゅうの人が、さっきの通りに集まっていたみたいだ。

甘い香りの漂う車の中…聞いたことのない音楽…。
高い建物が後ろへ走り去る様子は、映画を見てるみたい。
いつも空の上から見る地上は、みんなゆっくり走っているように見えるのに車の中からだととても速く感じる。
当たり前なのかもしれないけど、それが私だけの発見みたいでなんだか嬉しくなった。

002424 「なに?」

「はい?なんですか?」

「笑ってたよ」

「そうですか?ちょっと嬉しかったんで…」

ヤバイ! 景色が流れるのが早いから…とか言うのは変だよね。
それにしてもこの人、私が幽霊と知ってもなんとも思わないのかなぁ…
もしかしたらこの人も幽霊だったとか…。

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「あのーっ幽霊とかどう思います?」

「…どうって別にねー。たまに友達と心霊スポットへ行ったりするよ。夏とかには…」

「心霊スポット?」

「幽霊屋敷の噂があるとことか、地縛霊がいるらしいとことかね」

「自爆霊ですか…」 なんだそら…

002085 失敗とか多い私は、たしかに自爆霊に違いない。
そういうのが集まるところでもあるのかな?

それにしても、本当は、私が幽霊だってこと信じてないんだろうか?
そういえば昼間から街中をフラフラして、マカロニグラタンを食べる幽霊なんて私だけかもしれないきっとそうだよ。

「そういうところで幽霊を見たことあるんですか?」

「ないよ!話ではずいぶん聞いたけどね。結局“きもだめし”だから。ホントに出たら行かないよ。呪われちゃたまんないし」

「えーっ“呪い”だなんて…

ヒドイこというなぁ…元は同じ人間なのに…

「良く行くの?ああいう廃墟みたいなとことか」

「へ?」

行くのかなぁ…行くというか夜は、回りが見えないから屋根のあるところで休んでるだけなんだけど…。まさか普通のホテルに泊まれるわけじゃないし…。

「いや…行かないです。幽霊もいろいろだと思いますよ。そんな気味の悪いものじゃ…」

「そういや、ナギサちゃんも幽霊だったよね?」

「でも半人前だし、あまり幽霊に向いてないですけどね…」

「幽霊にも資格がいるの?死ぬのも面倒なんだなぁ」

「落第もできないんですよ」

「ははは…♪試験も何にもない♪ってか」

「ハハハ…

それって、妖怪じゃないかなぁ…
生きてる人のフリしてここにいる私も考えると人に化けるキツネやタヌキと一緒なのかも。

…やっぱり私が幽霊だってことは、本気にしてないみたいだ。
だよね…。私も「トイレの花子さん」とか怖いなぁ…と思ってたから。

自分がそういう身になったら、むしろ生きている人のほうが怖くなってしまったようだ。その「怖さ」というのは、自分がどんな目で人から見られるかということで、人のことが怖いわけじゃない。どこか“仲間はずれ”にされている気持ちと似てて、スゴク孤独な空気に縛られる感じがするんだ。

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あれ…? 気がつくと、景色から高い建物がほとんど逃げ去っていた。

「どこまで行くんですか?」

「どこか行きたいとこある?」

「いえ…近ければどこでも行きます…」

「うん、わかった」

コロン、何してるのかなぁ…
さっきのお祭りのどこかにいたんだろね。一緒に行けば良かった…。

Dscf1940 車は、スーッとスピードを落として左へ…

「ここは?」

「ちょっと休んでこ」

「はあ…」

地下室みたいなところに車を止めて、言われるまま付いていく…
昼間なのになんだか薄暗い…オバケ出そう。(自分がそうか…)
彼がうっすら明るいところのガラスの棒みたいなのを取ると廊下がパッと明るくなる。

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「あーっ青空!」

天井や壁一面に白い雲が流れる青空が…これは、絵だよね。でも青空を見たら少し安心してきた。動かない雲 焼けることのない空…

「ここだよ」

「あ…はい!」

 バーッ

Dscf4513 ドアから入ると水道の勢いよい音が聞こえた。隣にお風呂場があるみたい。
ふーん…こんなとこ初めて。
いつも夜休ませてもらう空家とは大違いだね。
どこからかかすかに音楽が聞こえる。

「部屋はそっちだよ」

「はーい」

えーっなに?この部屋!薄暗くて窓がない!
外が見えなくてどうするの???
中は部屋いっぱいの大きなベッドと テレビと 椅子と小さなテーブル
そんなもの…

002885 「あのーっ…ここ、なんですか?」

「えっ?なにって…ホテルだけど?初めて?」

「たぶん…ですね…」

「…まあいいや。ゆっくりしてこうよ」

「…」

変なとこだなぁ…そんなに広いところじゃないし…

枕元にスイッチがたくさんある。
入れてみたら部屋が明るくなった。
こっちは何だろ?

「…続いてのニュースは、また行楽シーズンの痛ましい事故です…」

わっ テレビか…
ベッドの端に座って、しばらく見てた。何のことを言ってるのか全然分からないけど…
─とバスタオルを腰に巻いた彼が部屋に入ってきた。

002286 「テレビに夢中だったから、お先に使ったけど、お風呂入れるよ」

「えっ?」

「今日は、朝から暑いしねー」

「はあ…」

お風呂に入ることになった。まだ昼間なのに…
なにしてるんだろ私…今日は変な日だよ。
とりあえずお風呂には、入らなきゃならないみたいだし─
大きな鏡のある前で服を脱ぎだした。

「えーっ

002886鏡に映る自分を見てビックリした。

「私って─こんなにオトナだったんだ…」

何をいまさら…って感じだけど、こんなふうに自分の体を見たのは初めてだった。
いつも大して考えもしないで人に化けたりしたけど─

「どしたのー?」

「いいえーっなんでもないですーっ

000080ともかく─
自分が自分じゃないことを思い知った気がした。
なんだか…なんだか…なんだかすごく恥ずかしい…

鏡を見ながら思わず手で顔を覆った…
指の隙間から見えるのは…見えたのは… 『あぁっ
爪の色がすっかり変わってる。
まずい!時間じゃないか! いつの間に時間が経ってたんだろ!
早く元に戻らないと、この体から出られなくなる!

あれ?いくらなんでも遅いな…「ちょっとーまだ上がらないのー」
あれ?いない!あれ?あれれっ?逃げられた?

Dscf1747

「すっかり、お待ちさせたでしたナギサーン。大盛りでお待ちですか?」

「ううん。そうでもないよ─」

「お楽しみかったらしさです。笑わせた人がたくさんあったから」

「ふーん…良かったですね」

「ナギサンは、何をおこなってたんでしょうか?」

「私?いや…何もしてないよ」

「だから ご一緒したきたら良かったのにですより…」

「うーん…そうだね。次はそうするよ…」

「なんだか、お元気が台無しですね。ナギサン?」

「そんなことないよっ。 もう行こ暗くなってきたから」

Dscf1742

赤から紫色に変わり始めた夕日の下で、相変わらずにぎやかな音がしてる。
夜が怖くない人たちの笑顔は、大人も子どもも、どれも同じに見えた。

Dscf1178 今日のことはコロンには黙っておこう。
何言われるかわからないから…

それにしても勝手に逃げちゃって悪いことしたな…
でも、おいしかった…マカロニ

Youtube 「マカロニ」 Pafume

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2009年9月 3日 (木)

マカロニ ②

Dscf1642

「飲み物は?」

「い…いいえ水でいいです」

「じゃ…それで」

「かしこまりました。アイスコーヒーおひとつ、マカロニグラタンがおひとつ。以上ですね」

「はい」

002011_2まいった…
うっかり大声で言っちゃった…

「もしかして、お腹空いてた?」

別にお腹が空いていたわけじゃない。
目の前のことと頭の中が別のことを考えていたんだ。

「は…ははははは…すいません。つい…何年も食べてなかったので…

「えぇっ?」

「いや…食べてます。飴くらいは」

「飴だけ?」

「い…いや食べてます。人間だから…」

うっわ~話せば話すほどボロが出てくるよ…
今すぐにでも逃げ出したい。
向かい側から、ジッと私のほうを見てる。
怪しまれてるかな…私が本物の人かどうか…

Dscf1620

「ところで、この辺の人?」

「いえーっ旅の途中で、ちょっと立ち寄っただけなんです。友達が見たいものがあるとかで…」

「そっか、お祭りだしね。その友達ってのも女の子?」

「はい。今日は…」

「今日は?」

「いやいや今日もです

マズイぞ!絶対マズイ!
なにか話を変えないと…

Dscf1522

「あの…あの、あなたは何者なんですか?」

「ナニモノってかい?そう…たぶんキミが待ってた人」

なに?ちょっと待てよ!名前が同じとしても、この人が私のカズ君のはずないよ…
もしかしてコロンが私を騙そうとしてるのかな?…いや、そんなはずは…
待てよ…落ち着けナギサ!混乱してると相手の思うツボだ。
普通に振舞わないと…普通に…

「私もそう思います」

「へぇッ!話が早いね」

その気になれば何とかなるもので…何とか話に慣れてきた。
車がどうとか仕事がどうとか、よくわからない話をズーッと聞かされたけど、何となく返事をしていれば勝手に話してくれるから楽だな…

Dscf1518

「幽霊?」

ドキッとした 店のどこからか、そう聞こえた。
少し離れている席の女の人らしい…。
背を向けているけど、私の正体を見破ってるのかな?
それとも私の変身がヘタで正体がバレバレなのか…

「お待たせいたしました」

Dscf1176

懐かしい香り─
小さい頃の…生きていた頃の…思い出の香り。
フツフツと香りを立ち上らせる黄金色のマカロニグラタン…
しばらく見とれていた。

「食べてていいよ」

Dscf1188「…あ…はい いただきまーす

アチッ…アチチチチ…

「そんな、あわてることないのに…」

「すいません!死んでから、しばらくこういうの食べてなかったので…」

「えっ…? もしかして…ナギサちゃんてさ、幽霊さんなの?」

あ… しまった…。グラタンに夢中になって自分でバラした…。

Dscf1550 「なんか変わってる子だなぁって思ったよ」

「ごめんなさい…騙すつもりじゃなかったんですけど…」

「でも、こんなカワイイ幽霊なら歓迎だけどね」

「怖くないですか?」

「うん、いろんな人と知り合ったことがあるよ。マリー・アントワネットの生まれ変わりだーとか、実は金星人なんだーとか…他にもいたかな」

「金星?」

私みたいなのの他にもいろんな人がいるんだ。
それにしても幽霊が怖くなさそうな人に驚いた。

「でもさ、幽霊って昼間でも大丈夫なの?」

「始めは…幽霊になった頃は、陽に当たると溶けちゃうと思ってたんですよ。でも違うってことに気がついて…それから風に乗っていろんなところを旅してきました」

008013_2 「風?自分で飛ぶんじゃないの?ユラユラ~って」

「いやぁ風船じゃないんですよ

「ハハハ…」

「へ…エヘへ…」

自分が幽霊だということにズッと引き目を感じていたけど、話を聞いてもらうと、今まで縮こまっていた気持ちがほぐれてきた。

「やっぱり幽霊になるってのは、この世に未練とかあるのかなぁ」

「無いですよ。私は…。気がついたら幽霊だったし…それに始めは、そのことにも気がつかなかったけど。でも…悔しいとか、悲しいとか、そういう気持ちでいっぱいになっちゃってる人もいました。スゴク可哀そうで…」

「えっ?えっ?えぇぇっっ

また向こうで女の人が大声を出した。
あれ…?

Dscf1125

「騒がしい店だなぁ…食べ終わったらどこか他所で話そうよ」

「はい」 …向こうの人たち…どこかで会ったような気がするなぁ…。

(つづく)

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2009年8月24日 (月)

マカロニ ①

Dscf1807

「ナギサーン 地面に降りませんか? 空ばかりで たくさん つまらないです」

Hands1 「えっ…あっ…そう?」

相変わらず言葉のヘタな『石』…。私が教えてるから仕方ないけど…。
今は時計の姿で私の左手に巻きついているコロンさん─ 
旅の道連れになった「石」のことをそう呼ぶことにした。コロコロ転がる石だからコロン。
石といっても、お地蔵さんだったけど。元から名前は無いそうだし、付けられた名前も知らないらしいから。
言葉に慣れていないコロンさんは、私を『ナギサン』と呼ぶ。
「ナギサ さん」じゃなくて「ナギサ ん」
別に「ナギサ」でいいんだけど…

「どこか…行きたいところ、ありますか?」

そう言っても風任せだから思うほど好きな方へ行けるわけじゃないけどね。

「群れの 人達のいる地面 いいですね」

「えーっそれはちょっと嫌だなぁ…

「何だから ですか?」

「いや…誰かに見られたらヤだなーって…

Dscf6821

風に乗って青空の中にいる私は、これでも幽霊だ。
人に見られたりするのは、好きじゃない。
怖がったり、驚いたりされるから…
要領のいい幽霊なら、そう簡単に見られることもないだろうけど、わたしはどちらかと言うと「へたっぴ」だから、やたら見られたりする。

Dscf1690 「ナギサン ホントは 人に見られたいじゃないですか? 本当は 見られたくないじゃなくて。 ワタシ 見られない しかできない ですから」

う…鋭いこと言ってるかも…
確かに仮の体を作って中にいるときは堂々としてられるけど、今のまま人目に出るのは、すごく怖い…
心だけの存在のような私は裸同然ということになるだろうか。
だから見られそうな気がしてオドオドして、かえって人目につくのかもしれない。

「ちょっとだけですよー。ならいいけど…」

「はい ガッテン 承知でした」

Dscf8339

風の進む先にてっぺんがキラキラ光る塔のようなものを見つけて、そっちへ向かってみる。
思ったとおり街の方にやってきた。いざ街へ入るとなると、なんだかドキドキしてくる…。
とりあえず、なるべく人目につかないところを見つけないと…大きな看板が見える。
あちこち剥がれ落ちているみたいで網のようなものをかけてある。とても古そうな看板。あそこならそれほど見られないかな…

Nagisahawaii 「ここで待ってるから行ってきていいですよ。いつまでにします?」

「そね。5時 どうですか?」

「えっ?かなりあるじゃない」

「短くですか?」

「いや…別にいいよ…

コロンさんは「待ってました」とばかりに私の腕から離れて形を人の姿に変えた。
今日は─ 女の人の姿 
「石」だから男女の区別は、無いらしいけどホントのところどうなんだろう…

Dscf1615 「ナギサンも 来るといいよ。 見える姿なら 恥ずかしい ナイね」

「でも、私幽霊だから…

「暗いだな。いつも空飛ぶだから 上昇志向 ですよ」

ヘンな言葉知ってるなぁ… 石のクセに軽いし…

「うん…考えとく。ここに飽きたら降りてみるよ」

コロンはニコッと笑うとビルの谷間に飛んでいった…
いつもは、あまり動きたがらないから左腕に巻きついたままだけど、こういうときは動きが早い。前に「人間 見るの好きです。大盛りで…」とか言ってたけど

「あっ 時計が行っちゃった

忘れてた… どうしよう。時間が分からないとどこにもいけないや…。

Dscf1779

Dscf5390 しばらく空を飛んでいたけど遠くまで行くわけにも行かないので結局、街に戻ってきた。
ビルの間に挟まれたところを人がたくさん行き来して、どこからか楽しそうな笑い声も聞こえる。 …私も下を歩いてこようかな…
少しくらいなら仮の体降りれば大丈夫だよね。でも、あと何時間あるかなぁ…

人気のない薄暗い通りを見つけて、体を造った。
街の中は、道から車が締め出されていて、人が大勢車道を歩き、あちこちになにやら人の塊があった。それを見ているだけで不安になってきた…
さっきの通りには、全然人がいなかったのは、皆ここにいたからかな?
どうやらお祭りかなにかのようだ。

ドキドキする…体があるからホントに胸がドキドキしてる…

Dscf1626

Dscf1581 空のこぼれ種と 緑の食べ残しと 大地の吐息
そういうものをかき集めてこね上げた私の体。それでも人と同じように動く。
ドキドキとは、しているものの「体」という鎧の中から外を見ている安心感があるから、すぐにでも逃げ出したい気分も少しは薄れるよ。
でも、すれ違っていく人が急に立ち止まり
「おや?キミはホントの人間じゃないな」と聞いてきたらと思うと、ちょっと憂鬱だ…。

「ちょっとキミ?」

000153うわあぁぁっっ

振り向くと知らない男の人
嫌だ…正体バレたっっ?

「すっごい驚き方だね。こっちが驚くよ!」

「あ…すいません…。あの…なにか?」

「何か探してるの?」

「いえーっヒマなんでー。ただブラブラと…」 普通にしないと…普通に…

「だったら、そこの店で少し話しようよ。外は暑過ぎるしさぁ」

Dscf1627 「でも…」

こまったなぁ… でも幽霊とはバレていないようだ

「誰かと待ち合わせ?」

「はい…友達と5時に向こうの通りのビルの屋上で…」

「屋上?」

「いえビルの中です

「5時なら、まだまだじゃん。適当に時間つぶしにもなるでしょ?」

「…はい、少しなら…」

Dscf1584

理由が見つからず、言われるままにその人に付いて近くの店に入った。
うーん…困ったな…

000643 「いらっしゃいませー」

「ふたり!」

「2名様ですね。こちらへどうぞ」

うっわーっ こんなところ初めてだ…。

「こちらのお席へどうぞ。 お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」

なんていうんだろ…お店の中、外国みたい…。
明るくて、なんだか天国みたいな気がする。
よく夜を過ごす空家とは大違いだなぁ。

000640 「なんにする?」 向かいの彼がメニューを私に手渡す。

 ナニこれ 写真載ってない文字ばっかりだ…英語まで書いてある。
小さい頃、両親と3人で大きいレストランへ行ったことがあったけど、あそことはずいぶん違うなぁ…そういえばあの時、何を食べてたんだっけ? うーんと…

「名前聞いていい?」

「ま…まだ決まってないです

002086「いや…それはゆっくりでいいよ。君の名前の方さ」

「あっ…ああ…私ナギサです」
 
なんだ…ビックリした…すごく、ぎこちない私…

「素敵な名前だね」

「はい…ありがとうございます…」

「…僕の方は聞いてくれないの?」

「ご…ゴメンナサイ! お名前は?」

「カズヒロ!」

「なに…」

008003 この人もカズ君と同じ名前
私の行く先には「カズヒロ」って名前の男しかいないの?

「…いや、ステキなお名前です」

「女性にそんなこと言われたのは初めてだなぁ。すごくありふれてると思うけど」

「そんなことないです!たぶん…絶対…」

     ミーッ…

「なに 何の音

「オーダーしないと…まだ決まってなかった?」

…忘れてた。

「お決まりですか?」

「アイスコーヒー!ナギサちゃんは?」

えーっ! えーっ! どうしよう…
あ…そうだ思い出した

「マカロニグラタン

「えぇっ

Dscf0910

     (つづく)

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2009年7月26日 (日)

みっつめの朝

Dscf0481

始めの朝は 生れたてきた日、最初の朝
次の朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝は…

「今日、泊ってくの?峠は大雪らしいよ」

「えぇっ?!」

Dscf0415 GWの最終日、これから200㎞以上の距離を家まで戻らなければならないというときに友人から驚くことを聞いた。この季節、大雪といっても北海道では、驚くほどのことではない。
自分が通る用事がなければ…
でも、数日前は夏日に近い日もあったことだから、そんなことあるはずないと思っていた。

行きの峠道は緑も芽吹き始め、春の小花もあちこちで見えていた。サクラはまだ峠を越えてはいなかったけど。
だから、とっくに夏タイヤ。ほとんどの人がそうだったと思う。
天気予報で峠が雪といってもチラつくくらいだったし。

「明日、仕事あるから、とりあえず行ってみる。どの程度の雪か解らないし…」

Dscf0416 とりあえず友人と別れて帰途につく。
峠のある町まで、普通に春の夜道。
真冬の大雪と春先の大雪は感覚的にも違いもあるから、降っても数センチかなぁ…でも峠に入ると路面凍結…?

最高点標高1,023mの峠は、急勾配と急カーブの連続で、樹海と高い岩山に囲まれている。それでも重要産業道路であることから末端両町の合意で村道として開通した道は昼夜を問わず通行車が多い。
夏場は霧に悩まされ、冬は、その交通量から圧雪・アイスバーンになりやすく重大交通事Dscf0477 故も多発。近年は、高速道の開通部分が延長されて険しい部分は回避できるようになって、交通量が激減した。
それでも道東への流通を担った道には違いなく、今でも流通のトラックは覆道と長いトンネルの連続する道をグングン登っていく。

峠の町まで近づくと、話の通り路肩に季節外れの雪が目立ち始めてきた。それでも路面は乾いている。

「もしかして行けそう?」

Dscf0474 やがて、進むほどに積雪量はどんどん増えて、峠手前の市街地は、お祭りでもあるのかというほどトラックや乗用車でごった返していた。
峠は荒天のため一時封鎖されており、越えるのは不可能。
少し戻ったところからもうひとつの峠に迂回する道も積雪が及んでいるため冬タイヤかタイヤチェーン装備の車両でなければ無理らしい。
海沿いから遠回りする道もあったけれど、そっちへ回る気にはならない。
「明日、峠が開くまで待つしかないなぁ…どうせ待つなら札幌で待てば良かった…」
そう思うほどに峠の町の夜は早く、すでに全ての店は閉まっている。
その頃は、まだコンビニや道の駅ができる前で、物産館駐車場からあふれた車は、国道の両側に路上駐車。
歩道に乗り上げたり、私有地に入り込んだり、エンジンかけっぱなしで地域住民とトラブルになっている様子あった。

Dscf0414

「この辺じゃ待てないなぁ…」

喧騒の市街地を離れ、暗い道を引き返す。
路面に溜まるシャーベット状の雪の上、時折タイヤが空転しているような気がした。
夜というのはこんなに暗いものなんだと思い返すほど暗い道だった。

街からほどほど外れたところにポッカリとドライブインらしきところが見えてくる。
少しでも峠近くで待機!と言わんばかりに集まった車両は、ここにおらず、大型トラックが数台だけ…

Dscf0421

「とりあえず、ここにしよう…」

Dscf0425 春の重たい雪が積もるパーキングに車を滑り込ませて、外灯近くのなるべく明るいところに駐車。
エンジンを切ると5月だというのにミルミル車内の温度が冷えてくるのが分かった…タンクの残量を考えるとエンジンをかけっぱなしというわけには、いかないし…。
とりあえず荷物からパーカーやらシャツを引っぱり出して着ぶくれに着込んでみる。気が付くとウインドーは内側から曇りだしていた。

「なんだか情けなくなってきたな…」

少し、窓を開けると遠くからチョロチョロと水が滴る音がする。

「?」

明かりの中ぼんやりと浮ぶキャンプ場の洗い場みたいなところのひとつが蛇口を開けたままで、下のバケツに水を溢れさせ続けている。たぶん凍結防止のためかな? まだこの辺りはそんなに冷え込むんだろうか…?

Dscf0424 この辺りのドライブインは、「ミツバチ族」とか「ブンブン族」と呼ばれてた道内2輪旅行者が利用する素泊まり宿が多い。
ドライブイン兼なので食事も可能。脇の大きなプレハブ小屋が宿で、洗い場みたいなところも泊り客用のものらしい。
5月では、まだ気の早い旅人はいないらしく宿泊棟に明かりは点っておらず、オートバイも見当たらない。

にわかにドライブイン正面から人が出てきた。
やおら空を仰いでいたその人がこっちを見たかと思ったら、そのままこっちに向かって歩いてくるじゃないか。

Dscf0423 「うわ~ッヤだなぁ…私有地だから出てけ!って言われそうだな…」

そばまで来たその人は、こっちが車の中にいるのを覗き込んで、

「どしたの?こんなところで…」

「いえ…峠が通行止めなんで…」

「あ~っやっぱり通行止めなったかい!こんな時にこんだけ降ることなんか滅多にないんだけどね」

「はあ…」 早く行っちゃってくれないかな…

「ここで夜明かししたらシバレる(凍る)よ。まだ霜も降りるし」

「えぇ…でも、行けるところもないですし…」

「裏、開けてあげるから寝てきな!布団はあるから!」

「いや…でも…」

「お金は、いいから泊ってきな!こんなとこいたら凍死するわ!」

Dscf0442

半ば不安に苛まれながらも強制的に案内される。
鍵を盗りに行ったご主人は、奥のプレハブの中へ案内してくれた。
決して明るいとは言えない照明を点けると両側にドアがいくつか並んでいる。
そのひとつに入ると、どこも相部屋らしく布団が数組並んでいた。
ご主人はポータブルストーブに火を入れながら

「夏休み頃だとライダーでいっぱいなんだけどね。まだちょっと早いんだ」

「なるほど…」

「好きなとこで寝ていいよ。寝る前に火だけは消しといてね」

「はい…ありがとうございます」

「ご飯、食べたの?」

「いえ!大丈夫です!」

「そっかい。じゃあゆっくり休んでや」

Dscf0430 話もそこそこにご主人は引き上げて行った。いつもあるのかな?こういうこと…

ゆっくりと温まる部屋の中。
古い雑誌や文庫本がたくさん積まれている他には、ポータブルテレビがひとつ。
宿というより工事現場の仮宿舎みたい。
でも車内泊が思わず布団でノビノビ眠れることになった。しかもタダで。
布団は冷たかったけれど心地よい眠りに付くには充分だった。

Dscf0457 

「すいませーん…すいませーん…?」

翌朝、ドライブインへお礼だけでも言っておこうと寄ったが、いくら呼べども返事はない。

「出かけてるのかな?」

Dscf0433_2 前日とは打って変わって早朝から温かい春の空。
陽射で融けた雪の雨だれのような音で目が覚めたほど。
駐車場も道もほとんど乾いてきている。
相変らずご主人のいる様子が無いので今度来たときに礼をしようと出発することにした…
建物の壁に「素泊まり1500円」とある。
峠は路肩に雪が積もっていたけれど路面は、すっかり乾いてコントラストが際立っている。
結局、この日、仕事は休んだ。

それから程なく国道は新路線の完成により、このドライブイン前を走る車は激減した。
そのうち…と思っていた自分でさえ、再び訪れたのは何年後になったのだろうか。

長雨がようやくあがった朝 ようやく訪れる。時間は経ちすぎていた。
たった一夜の思い出だけど、この変わりように寂しい。
あの後、ここで何があったんだろうか。
屋根板の剥がれ落ちた屋内でとっくにあがった雨は、まだ降り続いていた。

新しい道は、かくも残酷な結果をもたらすのだろうか…。
いくら「廃墟好き」と言ったって「廃墟」になって欲しくないものもあるよね…。あるんだよ。

はじめの朝は 生まれた日、最初の朝
つぎの朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝─ それは 大事な何かが一緒に来なかった朝

Dscf0447 朝は、いつもやってくる。一日をリセットするみたいに。
ある意味、過去への訣別として。
爽やかな朝を繰り返して、時は積み重なっていく。
友達は親の都合で引っ越して 子どもは遠くに巣立ち 親は加速して年老いていく…
歯が抜けていくように不安になって、何かを悟ったようにぼんやりした答が波のように打ち寄せる。
時の重さに気がついて 朝が来ないように祈ったとしても、それは私的な我儘(わがまま)にすぎない。
人の心は、まだまだ繊細です。他の生き物達に比べると。
皇帝も独裁者も神々の名の下にある人も…終わりがあるのは自然の中の約束事。
そんな静かで無関心な朝の訪れは、時として残酷なものかもしれません。

でも朝には悪意も差別も中傷もない…朝ってそういうものでしょう? そうだよね。
無意味に迎えた朝はあっても 無意味に明けた朝などないのだから。

Dscf0976

あの 朝日の後で また会いましょう。

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2009年7月17日 (金)

いちごいちえ ③

Dscf8087

ザーン… ザーン… 海の見える山の上まで来た。ここまでも潮騒が聞こえる。
下の道を忙しく走る車の音もなんだか波の音のような気がして心地いい。
海はやっぱりいいなぁーッ
港に大きな岩が見えた。船よりもとても大きくてまるで山みたいな…。
実は大きな海亀がジッとしているだけだったりしてね…

Dscf8079

『ここにいるところがワシどものいる山でした』

『いいところですねーっ海が見渡せられて…ここは、なんて山ですか?』

『下に住みいる人物は“かんのんやま”というわな』

かんのんやま… 観音山…? 観音様がいるんですか?』

『どこさかは知らんしな…でゃが、わちきもそのひとつらしきことです』

『…? あなたの体はどこなんですか?』

『あの木な下におります』

Dscf8082

遠くまで海を見通せる山の中に細い道がずーっと続く。
その両側にはたくさんのお地蔵様が並んでて優しく微笑んでいる。その目は何を見ているのだろう。
昔(生きていたころ)、人は死んだら神様の元(天国)へいけると思っていた。
でも、幽霊のこの身になって、いまだに神様にあったことがない。
ホントは私にとって行かなければならないところがあって、そこにはたぶんいるんだろうけどね…。
それは、私がさまよっているから…迷っているから…迷ってるのかなぁ…

Dscf8086 『こいつが、吾ですねぇ…』

『えっこれって神様(仏様)じゃないですかあなたは、神様だったんですか?』

『いやさ、ここまで人共が持ち上げて、こな形したです。何かに見せたいだろね。ワシらば当たり前の石ですねい』

『ほかの…お地蔵様もそうなんですか?』

『きとね…そうだしょね』

Dscf8084 木の根元に並ぶお地蔵様の端で、柵に寄りかかる一際小さなお地蔵様が、この人(石)だという。
確かにお地蔵様の形はしているけど石には違いない。
私のいた家の近くにも小さな神社のような家があって、その中にお地蔵様が入っていた。
一度、覗いてみると、その顔はとても怖かったけど…。覗いたので怒っていると思ったものだから学校帰りにそこを通らず遠回りするようになったっけ…

『いいですね…お友達がたくさんいて。人もたくさん会いにくるだろうし…』

『いんにゃ!人々と同じもので。小さくなると、それずれ、あちらの考えること分からんようなりす。元よりし、動かぬからに…』

『じゃあ…ここに並ぶほかの人(石)とは…?』

『話もたなです。話したは、ここに訪れはった傷をした小さの人だけ』

『傷? 小さい人?』

『女な人だに。顔に大きの…小さのたくさん傷ついてさ、背をこう…曲げなさったな人』

『…おばあさん… その人と話をしたの?』

『話せなんだす。こちさ話、聞こえなで。そん人な、いつも“なまんだぶ…”ゆうだけでた。なんことだろかな』

Dscf8081

その、おばあさんは、お地蔵様の姿をした石の人をお参りに来ていたんだということは想像できる。
“なまんだぶ”…お経だろうけど何て説明したらいいのかなぁ…

きっと、あなたの姿が神様だから願い事されていたんですよ』

『ふむ、そら思いた。何か願いばされてんね、何かしねばならん思いした。でも聞いたは“なまんだぶ”いっこです。そっていつか来なくなりやった…』

来なくなった… 来れなくなったんだ。そんなおばあさんに高い山の上はね…

『でやから、下へよって探しいたりてたり、人の言うことを聞くことやってしとりました。人の日は短けけどもみんなさん滅茶知っとります。石ん日は長けども、見て聞いとらだけやす。人は面白て飽きまへん』

『そうかもしれないですね…』

Dscf8066

『おで、おまさんは、人なだすか?』

えーっ 急に何を聞きだすんだよ…。難しいこと聞くなぁ…

もちろん人ですよ…。体は…ホントの体とは離れてしまったけど…今は心だけで生きてます』

Dscf8046 『人んてのは、みな、あゆこと出来ようなるんですか?』

『あゆこと?って…』

『辛抱ない石を細くするやとか…』

『えぇっ あれは…わざとじゃないって言うか…わざとか…。その…すいません。あれ、仕方なかったんです』

『なんらOKです。石らは小さなるだけんで何も変わらす。あの、空さ飛んで来くるのは良かすな。遠くんの人も見て来れる』

『気持ちいですよー風に乗るのは。思い通りの方へ行ってくれないから風任せだけど…』

Dscf7978 そういいつつ、この海に来るまでずいぶん苦労したことが頭をよぎり、自分ながらおかしなことを言っている気もした。

『連れてたもらねんばできんかな?うぬもそうして沢山人ん話ば聞いて、見てきたす…』

『うーん…じゃぁ…風の乗り方、教えましょうか?コツさえ覚えれば簡単ですよ。数日も練習すれば』

Dscf8078 『じゃがま、うぬら石は、よう転がりしも手前で動きらすんのは、上等でなさするしな…。よか、簡単手前手法があるますわ』

そういうと石の人は、人の姿を崩して小さな塊に変わっていく…

『その手の方一本、上げ立ててもらえぬかない』

『???』

言われて手を上げると石の人は、ヒュルヒュルと左手首にまとわりついてきた…。

Dscf0441 『えっ?なに?』

気味が悪くなって、思わず払いのけようとしたところで、その形が固まりだして…
どうなるのかとジッと見ていると、形がハッキリしてきた─

『時計?─』

『そすな。人は、みな、こげんなものをしとるましたから』

『これって…時間合ってるんですか?』

『いちおクオーツ(水晶)だすらら、石んは得意なこってす。ほな、行きまっせら?』

時計─ 時計だーっ変な言葉で話す時計─。
妙な時計…じゃなくて石と知り合ったなぁ…

『何しすたか?』

『いや…なんでもないです。 じゃあ…行きましょうか』

『よろしく頼もす…』

Hands1

やさしい潮風が山のてっぺんにある森に吹き込んできた。
海に浮かんでいる小船みたいにちょっと妙な気分と何だか説明しずらい気持ちも心の中でプカプカ浮かんでいた。
いいや!とりあえず旅の道連れ、ということで…
風に飛び乗って小路を突き抜けて空高く上がっていく。

今の正直な気持ち…
私の時計─ なんだか嬉しい─ 

Youtube 『いちごいちえ』 やなわらばー

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