ザーン… ザーン… 海の見える山の上まで来た。ここまでも潮騒が聞こえる。
下の道を忙しく走る車の音もなんだか波の音のような気がして心地いい。
海はやっぱりいいなぁーッ
港に大きな岩が見えた。船よりもとても大きくてまるで山みたいな…。
実は大きな海亀がジッとしているだけだったりしてね…
『ここにいるところがワシどものいる山でした』
『いいところですねーっ海が見渡せられて…ここは、なんて山ですか?』
『下に住みいる人物は“かんのんやま”というわな』
『かんのんやま… 観音山…? 観音様がいるんですか?』
『どこさかは知らんしな…でゃが、わちきもそのひとつらしきことです』
『…? あなたの体はどこなんですか?』
『あの木な下におります』
遠くまで海を見通せる山の中に細い道がずーっと続く。
その両側にはたくさんのお地蔵様が並んでて優しく微笑んでいる。その目は何を見ているのだろう。
昔(生きていたころ)、人は死んだら神様の元(天国)へいけると思っていた。
でも、幽霊のこの身になって、いまだに神様にあったことがない。
ホントは私にとって行かなければならないところがあって、そこにはたぶんいるんだろうけどね…。
それは、私がさまよっているから…迷っているから…迷ってるのかなぁ…
『こいつが、吾ですねぇ…』
『えっこれって神様(仏様)じゃないですかあなたは、神様だったんですか?』
『いやさ、ここまで人共が持ち上げて、こな形したです。何かに見せたいだろね。ワシらば当たり前の石ですねい』
『ほかの…お地蔵様もそうなんですか?』
『きとね…そうだしょね』
木の根元に並ぶお地蔵様の端で、柵に寄りかかる一際小さなお地蔵様が、この人(石)だという。
確かにお地蔵様の形はしているけど石には違いない。
私のいた家の近くにも小さな神社のような家があって、その中にお地蔵様が入っていた。
一度、覗いてみると、その顔はとても怖かったけど…。覗いたので怒っていると思ったものだから学校帰りにそこを通らず遠回りするようになったっけ…
『いいですね…お友達がたくさんいて。人もたくさん会いにくるだろうし…』
『いんにゃ!人々と同じもので。小さくなると、それずれ、あちらの考えること分からんようなりす。元よりし、動かぬからに…』
『じゃあ…ここに並ぶほかの人(石)とは…?』
『話もたなです。話したは、ここに訪れはった傷をした小さの人だけ』
『傷? 小さい人?』
『女な人だに。顔に大きの…小さのたくさん傷ついてさ、背をこう…曲げなさったな人』
『…おばあさん… その人と話をしたの?』
『話せなんだす。こちさ話、聞こえなで。そん人な、いつも“なまんだぶ…”ゆうだけでた。なんことだろかな』
その、おばあさんは、お地蔵様の姿をした石の人をお参りに来ていたんだということは想像できる。
“なまんだぶ”…お経だろうけど何て説明したらいいのかなぁ…
『きっと、あなたの姿が神様だから願い事されていたんですよ』
『ふむ、そら思いた。何か願いばされてんね、何かしねばならん思いした。でも聞いたは“なまんだぶ”いっこです。そっていつか来なくなりやった…』
来なくなった… 来れなくなったんだ。そんなおばあさんに高い山の上はね…
『でやから、下へよって探しいたりてたり、人の言うことを聞くことやってしとりました。人の日は短けけどもみんなさん滅茶知っとります。石ん日は長けども、見て聞いとらだけやす。人は面白て飽きまへん』
『そうかもしれないですね…』
『おで、おまさんは、人なだすか?』
えーっ 急に何を聞きだすんだよ…。難しいこと聞くなぁ…
『もちろん人ですよ…。体は…ホントの体とは離れてしまったけど…今は心だけで生きてます』
『人んてのは、みな、あゆこと出来ようなるんですか?』
『あゆこと?って…』
『辛抱ない石を細くするやとか…』
『えぇっ あれは…わざとじゃないって言うか…わざとか…。その…すいません。あれ、仕方なかったんです』
『なんらOKです。石らは小さなるだけんで何も変わらす。あの、空さ飛んで来くるのは良かすな。遠くんの人も見て来れる』
『気持ちいですよー風に乗るのは。思い通りの方へ行ってくれないから風任せだけど…』
そういいつつ、この海に来るまでずいぶん苦労したことが頭をよぎり、自分ながらおかしなことを言っている気もした。
『連れてたもらねんばできんかな?うぬもそうして沢山人ん話ば聞いて、見てきたす…』
『うーん…じゃぁ…風の乗り方、教えましょうか?コツさえ覚えれば簡単ですよ。数日も練習すれば』
『じゃがま、うぬら石は、よう転がりしも手前で動きらすんのは、上等でなさするしな…。よか、簡単手前手法があるますわ』
そういうと石の人は、人の姿を崩して小さな塊に変わっていく…
『その手の方一本、上げ立ててもらえぬかない』
『???』
言われて手を上げると石の人は、ヒュルヒュルと左手首にまとわりついてきた…。
『えっ?なに?』
気味が悪くなって、思わず払いのけようとしたところで、その形が固まりだして…
どうなるのかとジッと見ていると、形がハッキリしてきた─
『時計?─』
『そすな。人は、みな、こげんなものをしとるましたから』
『これって…時間合ってるんですか?』
『いちおクオーツ(水晶)だすらら、石んは得意なこってす。ほな、行きまっせら?』
時計─ 時計だーっ変な言葉で話す時計─。
妙な時計…じゃなくて石と知り合ったなぁ…
『何しすたか?』
『いや…なんでもないです。 じゃあ…行きましょうか』
『よろしく頼もす…』
やさしい潮風が山のてっぺんにある森に吹き込んできた。
海に浮かんでいる小船みたいにちょっと妙な気分と何だか説明しずらい気持ちも心の中でプカプカ浮かんでいた。
いいや!とりあえず旅の道連れ、ということで…
風に飛び乗って小路を突き抜けて空高く上がっていく。
今の正直な気持ち…
私の時計─ なんだか嬉しい─
Youtube 『いちごいちえ』 やなわらばー
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