2009年9月14日 (月)

マカロニ ③

Dscf1645

お店の外は、太陽が真上を越えて建物の大きな日陰を作り始めていた。
さっきよりも大勢の人で賑わってきて、たまに大きな笑い声があがる。それが少し怖い気がする。
真ん中にいる人はよく平気だなぁ。私があの場に出されたら怖くて一瞬ではじけ飛んでしまうかもしれない。
小さい頃のお祭りは、スゴク楽しいと思えたけど今そう感じてしまうのは、私がいかに人目を避けなきゃならなかったかってことなんだろうね。

Dscf1648 「何のお祭りなんですか?」

「うーん いわゆる夏祭りなんだろけど、時間によっては神輿が出たり、夜は盆踊りもあるよ。それだけじゃなんだから昼間はいろんなイベントしててね。毎年、大道芸人も来るんだよ」

「ふーん」

「こういうの好き?」

Dscf1605 「人の多いところ、苦手なんですよ。…慣れてないので」

「じゃ、ここ離れよう。おいで!」

彼についてわき道の方へ─
高い建物が多くて、コロン(連れの石の魂)と待ち合わせてる大きな看板が見えなくなった。
行った先は車がたくさん停まってる。ここ駐車場?
その中の1台のところへ彼は、歩いていった。

「えっ?私…そんなに遠くまでは…sweat01

「そんなに走らないよ。少し気分転換さ。まだ時間、充分あるじゃない」

「そうですけど…」

Dscf1822

断わる理由も思いつかなくて、隣に乗る。
大丈夫かな…今何時だろ。どのくらい経ったかな?

Dscf1929_2 車は駐車場を出て、ゆっくり通りへ出て行った。
お祭りの店がたくさん並ぶ通りを過ぎると嘘みたいに歩く人がいなくなる。
街じゅうの人が、さっきの通りに集まっていたみたいだ。

甘い香りの漂う車の中…聞いたことのない音楽…。
高い建物が後ろへ走り去る様子は、映画を見てるみたい。
いつも空の上から見る地上は、みんなゆっくり走っているように見えるのに車の中からだととても速く感じる。
当たり前なのかもしれないけど、それが私だけの発見みたいでなんだか嬉しくなった。

002424 「なに?」

「はい?なんですか?」

「笑ってたよ」

「そうですか?sweat01ちょっと嬉しかったんで…」

ヤバイ! 景色が流れるのが早いから…とか言うのは変だよね。
それにしてもこの人、私が幽霊と知ってもなんとも思わないのかなぁ…
もしかしたらこの人も幽霊だったとか…。

Dscf1945

「あのーっ幽霊とかどう思います?」

「…どうって別にねー。たまに友達と心霊スポットへ行ったりするよ。夏とかには…」

「心霊スポット?」

「幽霊屋敷の噂があるとことか、地縛霊がいるらしいとことかね」

「自爆霊ですか…」 なんだそら…gawk

002085 失敗とか多い私は、たしかに自爆霊に違いない。
そういうのが集まるところでもあるのかな?

それにしても、本当は、私が幽霊だってこと信じてないんだろうか?
そういえば昼間から街中をフラフラして、マカロニグラタンを食べる幽霊なんて私だけかもしれないsweat01きっとそうだよ。despair

「そういうところで幽霊を見たことあるんですか?」

「ないよ!話ではずいぶん聞いたけどね。結局“きもだめし”だから。ホントに出たら行かないよ。呪われちゃたまんないし」

「えーっ“呪い”だなんて…sweat02

ヒドイこというなぁ…元は同じ人間なのに…angrysweat01

「良く行くの?ああいう廃墟みたいなとことか」

「へ?」

行くのかなぁ…行くというか夜は、回りが見えないから屋根のあるところで休んでるだけなんだけど…。まさか普通のホテルに泊まれるわけじゃないし…。

「いや…行かないです。sweat02幽霊もいろいろだと思いますよ。そんな気味の悪いものじゃ…」

「そういや、ナギサちゃんも幽霊だったよね?」

「でも半人前だし、あまり幽霊に向いてないですけどね…」

「幽霊にも資格がいるの?死ぬのも面倒なんだなぁ」

「落第もできないんですよ」coldsweats01

「ははは…♪試験も何にもない♪ってか」

「ハハハ…sweat02

それって、妖怪じゃないかなぁ…
生きてる人のフリしてここにいる私も考えると人に化けるキツネやタヌキと一緒なのかも。

…やっぱり私が幽霊だってことは、本気にしてないみたいだ。
だよね…。私も「トイレの花子さん」とか怖いなぁ…と思ってたから。

自分がそういう身になったら、むしろ生きている人のほうが怖くなってしまったようだ。その「怖さ」というのは、自分がどんな目で人から見られるかということで、人のことが怖いわけじゃない。どこか“仲間はずれ”にされている気持ちと似てて、スゴク孤独な空気に縛られる感じがするんだ。

Dscf1975

あれ…? 気がつくと、景色から高い建物がほとんど逃げ去っていた。

「どこまで行くんですか?」

「どこか行きたいとこある?」

「いえ…近ければどこでも行きます…」

「うん、わかった」

コロン、何してるのかなぁ…
さっきのお祭りのどこかにいたんだろね。一緒に行けば良かった…。

Dscf1940 車は、スーッとスピードを落として左へ…

「ここは?」

「ちょっと休んでこ」

「はあ…」

地下室みたいなところに車を止めて、言われるまま付いていく…
昼間なのになんだか薄暗い…オバケ出そう。(自分がそうか…)
彼がうっすら明るいところのガラスの棒みたいなのを取ると廊下がパッと明るくなる。

Dscf4525

「あーっ青空!」

天井や壁一面に白い雲が流れる青空が…これは、絵だよね。でも青空を見たら少し安心してきた。動かない雲 焼けることのない空…

「ここだよ」

「あ…はい!」

 バーッ

Dscf4513 ドアから入ると水道の勢いよい音が聞こえた。隣にお風呂場があるみたい。
ふーん…こんなとこ初めて。
いつも夜休ませてもらう空家とは大違いだね。
どこからかかすかに音楽が聞こえる。

「部屋はそっちだよ」

「はーい」

えーっなに?この部屋!薄暗くて窓がない!
外が見えなくてどうするの???
中は部屋いっぱいの大きなベッドと テレビと 椅子と小さなテーブル
そんなもの…

002885 「あのーっ…ここ、なんですか?」

「えっ?なにって…ホテルだけど?初めて?」

「たぶん…ですね…」

「…まあいいや。ゆっくりしてこうよ」

「…」

変なとこだなぁ…そんなに広いところじゃないし…

枕元にスイッチがたくさんある。
入れてみたら部屋が明るくなった。
こっちは何だろ?

「…続いてのニュースは、また行楽シーズンの痛ましい事故です…」

わっsign02 テレビか…
ベッドの端に座って、しばらく見てた。何のことを言ってるのか全然分からないけど…
─とバスタオルを腰に巻いた彼が部屋に入ってきた。sweat01

002286 「テレビに夢中だったから、お先に使ったけど、お風呂入れるよ」

「えっ?」sweat01

「今日は、朝から暑いしねー」

「はあ…」

お風呂に入ることになった。まだ昼間なのに…
なにしてるんだろ私…今日は変な日だよ。
とりあえずお風呂には、入らなきゃならないみたいだし─
大きな鏡のある前で服を脱ぎだした。

impact「えーっsign02sweat01

002886鏡に映る自分を見てビックリした。

「私って─こんなにオトナだったんだ…」

何をいまさら…って感じだけど、こんなふうに自分の体を見たのは初めてだった。
いつも大して考えもしないで人に化けたりしたけど─

「どしたのー?」

「いいえーっsign01なんでもないですーっsign03sweat01

000080ともかく─
自分が自分じゃないことを思い知った気がした。
なんだか…なんだか…なんだかすごく恥ずかしい…sweat01

鏡を見ながら思わず手で顔を覆った…
指の隙間から見えるのは…見えたのは… 『あぁっsign01
爪の色がすっかり変わってる。
まずい!時間じゃないか! いつの間に時間が経ってたんだろ!
早く元に戻らないと、この体から出られなくなる!

あれ?いくらなんでも遅いな…「ちょっとーまだ上がらないのー」
あれ?いない!あれ?あれれっ?逃げられた?

Dscf1747

「すっかり、お待ちさせたでしたsweat01ナギサーン。大盛りでお待ちですか?」

「ううん。そうでもないよ─」

「お楽しみかったらしさです。笑わせた人がたくさんあったから」

「ふーん…良かったですね」

「ナギサンは、何をおこなってたんでしょうか?」

「私?いや…sweat01何もしてないよ」

「だから ご一緒したきたら良かったのにですより…」

「うーん…そうだね。次はそうするよ…」

「なんだか、お元気が台無しですね。ナギサン?」

「そんなことないよっ。sweat01 もう行こsign01暗くなってきたから」

Dscf1742

赤から紫色に変わり始めた夕日の下で、相変わらずにぎやかな音がしてる。
夜が怖くない人たちの笑顔は、大人も子どもも、どれも同じに見えた。

Dscf1178 今日のことはコロンには黙っておこう。
何言われるかわからないから…

それにしても勝手に逃げちゃって悪いことしたな…
でも、おいしかった…マカロニ

Youtube 「マカロニ」 Pafume

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2009年9月 3日 (木)

マカロニ ②

Dscf1642

「飲み物は?」

「い…いいえsign03水でいいです」sweat01

「じゃ…それで」

「かしこまりました。アイスコーヒーおひとつ、マカロニグラタンがおひとつ。以上ですね」

「はい」

002011_2まいった…sweat01
うっかり大声で言っちゃった…sweat02

「もしかして、お腹空いてた?」

別にお腹が空いていたわけじゃない。
目の前のことと頭の中が別のことを考えていたんだ。

「は…ははははは…sweat01すいません。つい…何年も食べてなかったので…sweat01

「えぇっ?」

「いや…食べてます。飴くらいは」

「飴だけ?」

「い…いやsweat01食べてます。人間だから…」sweat01

うっわ~話せば話すほどボロが出てくるよ…sweat02
今すぐにでも逃げ出したい。
向かい側から、ジッと私のほうを見てる。
怪しまれてるかな…私が本物の人かどうか…

Dscf1620

「ところで、この辺の人?」

「いえーっ旅の途中で、ちょっと立ち寄っただけなんです。友達が見たいものがあるとかで…」

「そっか、お祭りだしね。その友達ってのも女の子?」

「はい。今日は…」

「今日は?」

「いやいやsign01今日もですsweat01

マズイぞ!絶対マズイ!sweat01sweat01
なにか話を変えないと…

Dscf1522

「あの…あの、あなたは何者なんですか?」

「ナニモノってかい?そう…たぶんキミが待ってた人」

なに?ちょっと待てよ!名前が同じとしても、この人が私のカズ君のはずないよ…
もしかしてコロンが私を騙そうとしてるのかな?…いや、そんなはずは…
待てよ…落ち着けナギサ!混乱してると相手の思うツボだ。sweat01
普通に振舞わないと…普通に…

「私もそう思います」

「へぇッ!話が早いね」

その気になれば何とかなるもので…何とか話に慣れてきた。
車がどうとか仕事がどうとか、よくわからない話をズーッと聞かされたけど、何となく返事をしていれば勝手に話してくれるから楽だな…

Dscf1518

「幽霊?」

ドキッとしたsign03sweat01 店のどこからか、そう聞こえた。
少し離れている席の女の人らしい…。
背を向けているけど、私の正体を見破ってるのかな?
それとも私の変身がヘタで正体がバレバレなのか…sweat02

「お待たせいたしました」

Dscf1176

懐かしい香り─
小さい頃の…生きていた頃の…思い出の香り。
フツフツと香りを立ち上らせる黄金色のマカロニグラタン…
しばらく見とれていた。

「食べてていいよ」

Dscf1188「…あ…はいsweat01 いただきまーすsign03

アチッ…アチチチチ…sweat01

「そんな、あわてることないのに…」

「すいません!死んでから、しばらくこういうの食べてなかったので…」

「えっ…? もしかして…ナギサちゃんてさ、幽霊さんなの?」

あ…sweat02 しまった…。グラタンに夢中になって自分でバラした…。sweat02

Dscf1550 「なんか変わってる子だなぁって思ったよ」

「ごめんなさい…騙すつもりじゃなかったんですけど…」sweat02

「でも、こんなカワイイ幽霊なら歓迎だけどね」

「怖くないですか?」

「うん、いろんな人と知り合ったことがあるよ。マリー・アントワネットの生まれ変わりだーとか、実は金星人なんだーとか…他にもいたかな」

「金星?」

私みたいなのの他にもいろんな人がいるんだ。
それにしても幽霊が怖くなさそうな人に驚いた。

「でもさ、幽霊って昼間でも大丈夫なの?」

「始めは…幽霊になった頃は、陽に当たると溶けちゃうと思ってたんですよ。でも違うってことに気がついて…それから風に乗っていろんなところを旅してきました」

008013_2 「風?自分で飛ぶんじゃないの?ユラユラ~って」

「いやぁsweat01風船じゃないんですよsign03

「ハハハ…」

「へ…エヘへ…」sweat01

自分が幽霊だということにズッと引き目を感じていたけど、話を聞いてもらうと、今まで縮こまっていた気持ちがほぐれてきた。

「やっぱり幽霊になるってのは、この世に未練とかあるのかなぁ」

「無いですよ。私は…。気がついたら幽霊だったし…それに始めは、そのことにも気がつかなかったけど。でも…悔しいとか、悲しいとか、そういう気持ちでいっぱいになっちゃってる人もいました。スゴク可哀そうで…」

「えっ?えっ?impactえぇぇっっsign02

また向こうで女の人が大声を出した。sweat01
あれ…?

Dscf1125

「騒がしい店だなぁ…食べ終わったらどこか他所で話そうよ」

「はい」 …向こうの人たち…どこかで会ったような気がするなぁ…。

(つづく)

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2009年8月24日 (月)

マカロニ ①

Dscf1807

「ナギサーン 地面に降りませんか? 空ばかりで たくさん つまらないです」

Hands1 「えっ…あっ…そう?」

相変わらず言葉のヘタな『石』…。私が教えてるから仕方ないけど…。
今は時計の姿で私の左手に巻きついているコロンさん─ 
旅の道連れになった「石」のことをそう呼ぶことにした。コロコロ転がる石だからコロン。
石といっても、お地蔵さんだったけど。元から名前は無いそうだし、付けられた名前も知らないらしいから。
言葉に慣れていないコロンさんは、私を『ナギサン』と呼ぶ。
「ナギサ さん」じゃなくて「ナギサ ん」
別に「ナギサ」でいいんだけど…

「どこか…行きたいところ、ありますか?」

そう言っても風任せだから思うほど好きな方へ行けるわけじゃないけどね。

「群れの 人達のいる地面 いいですね」

「えーっそれはちょっと嫌だなぁ…sweat02

「何だから ですか?」

「いや…誰かに見られたらヤだなーって…sweat01

Dscf6821

風に乗って青空の中にいる私は、これでも幽霊だ。
人に見られたりするのは、好きじゃない。
怖がったり、驚いたりされるから…
要領のいい幽霊なら、そう簡単に見られることもないだろうけど、わたしはどちらかと言うと「へたっぴ」だから、やたら見られたりする。

Dscf1690 「ナギサン ホントは 人に見られたいじゃないですか? 本当は 見られたくないじゃなくて。 ワタシ 見られない しかできない ですから」

う…鋭いこと言ってるかも…
確かに仮の体を作って中にいるときは堂々としてられるけど、今のまま人目に出るのは、すごく怖い…
心だけの存在のような私は裸同然ということになるだろうか。
だから見られそうな気がしてオドオドして、かえって人目につくのかもしれない。

「ちょっとだけですよー。ならいいけど…」

「はい ガッテン 承知でした」

Dscf8339

風の進む先にてっぺんがキラキラ光る塔のようなものを見つけて、そっちへ向かってみる。
思ったとおり街の方にやってきた。いざ街へ入るとなると、なんだかドキドキしてくる…。
とりあえず、なるべく人目につかないところを見つけないと…大きな看板が見える。
あちこち剥がれ落ちているみたいで網のようなものをかけてある。とても古そうな看板。あそこならそれほど見られないかな…

Nagisahawaii 「ここで待ってるから行ってきていいですよ。いつまでにします?」

「そね。5時 どうですか?」

「えっ?sweat01かなりあるじゃない」

「短くですか?」

「いや…別にいいよ…sweat02

コロンさんは「待ってました」とばかりに私の腕から離れて形を人の姿に変えた。
今日は─ 女の人の姿 
「石」だから男女の区別は、無いらしいけどホントのところどうなんだろう…

Dscf1615 「ナギサンも 来るといいよ。 見える姿なら 恥ずかしい ナイね」

「でも、私幽霊だから…sweat02

「暗いだな。いつも空飛ぶだから 上昇志向 ですよ」

ヘンな言葉知ってるなぁ… 石のクセに軽いし…

「うん…考えとく。ここに飽きたら降りてみるよ」

コロンはニコッと笑うとビルの谷間に飛んでいった…
いつもは、あまり動きたがらないから左腕に巻きついたままだけど、こういうときは動きが早い。前に「人間 見るの好きです。大盛りで…」とか言ってたけど

「あっsweat01 時計が行っちゃったsign03

忘れてた…sweat01 どうしよう。時間が分からないとどこにもいけないや…。

Dscf1779

Dscf5390 しばらく空を飛んでいたけど遠くまで行くわけにも行かないので結局、街に戻ってきた。
ビルの間に挟まれたところを人がたくさん行き来して、どこからか楽しそうな笑い声も聞こえる。 …私も下を歩いてこようかな…
少しくらいなら仮の体降りれば大丈夫だよね。でも、あと何時間あるかなぁ…

人気のない薄暗い通りを見つけて、体を造った。
街の中は、道から車が締め出されていて、人が大勢車道を歩き、あちこちになにやら人の塊があった。それを見ているだけで不安になってきた…
さっきの通りには、全然人がいなかったのは、皆ここにいたからかな?
どうやらお祭りかなにかのようだ。

ドキドキする…sweat02体があるからホントに胸がドキドキしてる…

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Dscf1581 空のこぼれ種と 緑の食べ残しと 大地の吐息
そういうものをかき集めてこね上げた私の体。それでも人と同じように動く。
ドキドキとは、しているものの「体」という鎧の中から外を見ている安心感があるから、すぐにでも逃げ出したい気分も少しは薄れるよ。
でも、すれ違っていく人が急に立ち止まり
「おや?キミはホントの人間じゃないな」と聞いてきたらと思うと、ちょっと憂鬱だ…。

「ちょっとキミ?」

000153impactうわあぁぁっっsign02sweat01

振り向くと知らない男の人sign03
嫌だ…正体バレたっっ?

「すっごい驚き方だね。こっちが驚くよ!」

「あ…すいません…。あの…なにか?」

「何か探してるの?」

「いえーっヒマなんでー。ただブラブラと…」 普通にしないと…普通に…sweat01

「だったら、そこの店で少し話しようよ。外は暑過ぎるしさぁ」

Dscf1627 「でも…」

こまったなぁ…sweat01 でも幽霊とはバレていないようだ

「誰かと待ち合わせ?」

「はい…友達と5時に向こうの通りのビルの屋上で…」

「屋上?」

「いえsign03ビルの中ですsweat01

「5時なら、まだまだじゃん。適当に時間つぶしにもなるでしょ?」

「…はい、少しなら…」

Dscf1584

理由が見つからず、言われるままにその人に付いて近くの店に入った。
うーん…困ったな…sweat02

000643 「いらっしゃいませー」

「ふたり!」

「2名様ですね。こちらへどうぞ」

うっわーっsweat01 こんなところ初めてだ…。

「こちらのお席へどうぞ。 お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」

なんていうんだろ…お店の中、外国みたい…。
明るくて、なんだか天国みたいな気がする。
よく夜を過ごす空家とは大違いだなぁ。

000640 「なんにする?」 向かいの彼がメニューを私に手渡す。

sign02 ナニこれsign03 写真載ってないsign01文字ばっかりだ…英語まで書いてある。sweat01
小さい頃、両親と3人で大きいレストランへ行ったことがあったけど、あそことはずいぶん違うなぁ…そういえばあの時、何を食べてたんだっけ? うーんと…sweat02

「名前聞いていい?」

「ま…まだ決まってないですsign03sweat01

002086「いや…それはゆっくりでいいよ。君の名前の方さ」

「あっ…ああ…私ナギサです」
 
なんだ…ビックリした…sweat01すごく、ぎこちない私…sweat02

「素敵な名前だね」

「はい…ありがとうございます…」

「…僕の方は聞いてくれないの?」

「ご…ゴメンナサイ!sweat01 お名前は?」

「カズヒロ!」

「なにsign02…」

008003 この人もカズ君と同じ名前sign01
私の行く先には「カズヒロ」って名前の男しかいないの?

「…いや、ステキなお名前です」

「女性にそんなこと言われたのは初めてだなぁ。すごくありふれてると思うけど」

「そんなことないです!たぶん…絶対…」

     ミーッ…

「なにsign02 何の音sign03sweat01

「オーダーしないと…まだ決まってなかった?」

…忘れてた。sweat02

「お決まりですか?」

「アイスコーヒー!ナギサちゃんは?」

えーっ! えーっ!sweat01 どうしよう…sweat01sweat01
あ…そうだsign03思い出したsign03

「マカロニグラタンsign03

「えぇっsign02

Dscf0910

     (つづく)

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2009年7月26日 (日)

みっつめの朝

Dscf0481

始めの朝は 生れたてきた日、最初の朝
次の朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝は…

「今日、泊ってくの?峠は大雪らしいよ」

「えぇっ?!」coldsweats02

Dscf0415 GWの最終日、これから200㎞以上の距離を家まで戻らなければならないというときに友人から驚くことを聞いた。この季節、大雪といっても北海道では、驚くほどのことではない。
自分が通る用事がなければ…
でも、数日前は夏日に近い日もあったことだから、そんなことあるはずないと思っていた。

行きの峠道は緑も芽吹き始め、春の小花もあちこちで見えていた。サクラはまだ峠を越えてはいなかったけど。
だから、とっくに夏タイヤ。ほとんどの人がそうだったと思う。
天気予報で峠が雪といってもチラつくくらいだったし。

「明日、仕事あるから、とりあえず行ってみる。どの程度の雪か解らないし…」

Dscf0416 とりあえず友人と別れて帰途につく。
峠のある町まで、普通に春の夜道。
真冬の大雪と春先の大雪は感覚的にも違いもあるから、降っても数センチかなぁ…でも峠に入ると路面凍結…?

最高点標高1,023mの峠は、急勾配と急カーブの連続で、樹海と高い岩山に囲まれている。それでも重要産業道路であることから末端両町の合意で村道として開通した道は昼夜を問わず通行車が多い。
夏場は霧に悩まされ、冬は、その交通量から圧雪・アイスバーンになりやすく重大交通事Dscf0477 故も多発。近年は、高速道の開通部分が延長されて険しい部分は回避できるようになって、交通量が激減した。
それでも道東への流通を担った道には違いなく、今でも流通のトラックは覆道と長いトンネルの連続する道をグングン登っていく。

峠の町まで近づくと、話の通り路肩に季節外れの雪が目立ち始めてきた。それでも路面は乾いている。

「もしかして行けそう?」

Dscf0474 やがて、進むほどに積雪量はどんどん増えて、峠手前の市街地は、お祭りでもあるのかというほどトラックや乗用車でごった返していた。
峠は荒天のため一時封鎖されており、越えるのは不可能。
少し戻ったところからもうひとつの峠に迂回する道も積雪が及んでいるため冬タイヤかタイヤチェーン装備の車両でなければ無理らしい。
海沿いから遠回りする道もあったけれど、そっちへ回る気にはならない。
「明日、峠が開くまで待つしかないなぁ…どうせ待つなら札幌で待てば良かった…」
そう思うほどに峠の町の夜は早く、すでに全ての店は閉まっている。
その頃は、まだコンビニや道の駅ができる前で、物産館駐車場からあふれた車は、国道の両側に路上駐車。
歩道に乗り上げたり、私有地に入り込んだり、エンジンかけっぱなしで地域住民とトラブルになっている様子あった。

Dscf0414

「この辺じゃ待てないなぁ…」

喧騒の市街地を離れ、暗い道を引き返す。
路面に溜まるシャーベット状の雪の上、時折タイヤが空転しているような気がした。
夜というのはこんなに暗いものなんだと思い返すほど暗い道だった。

街からほどほど外れたところにポッカリとドライブインらしきところが見えてくる。
少しでも峠近くで待機!と言わんばかりに集まった車両は、ここにおらず、大型トラックが数台だけ…

Dscf0421

「とりあえず、ここにしよう…」think

Dscf0425 春の重たい雪が積もるパーキングに車を滑り込ませて、外灯近くのなるべく明るいところに駐車。
エンジンを切ると5月だというのにミルミル車内の温度が冷えてくるのが分かった…タンクの残量を考えるとエンジンをかけっぱなしというわけには、いかないし…。
とりあえず荷物からパーカーやらシャツを引っぱり出して着ぶくれに着込んでみる。気が付くとウインドーは内側から曇りだしていた。

「なんだか情けなくなってきたな…」sweat02

少し、窓を開けると遠くからチョロチョロと水が滴る音がする。

「?」

明かりの中ぼんやりと浮ぶキャンプ場の洗い場みたいなところのひとつが蛇口を開けたままで、下のバケツに水を溢れさせ続けている。たぶん凍結防止のためかな? まだこの辺りはそんなに冷え込むんだろうか…?

Dscf0424 この辺りのドライブインは、「ミツバチ族」とか「ブンブン族」と呼ばれてた道内2輪旅行者が利用する素泊まり宿が多い。
ドライブイン兼なので食事も可能。脇の大きなプレハブ小屋が宿で、洗い場みたいなところも泊り客用のものらしい。
5月では、まだ気の早い旅人はいないらしく宿泊棟に明かりは点っておらず、オートバイも見当たらない。

にわかにドライブイン正面から人が出てきた。
やおら空を仰いでいたその人がこっちを見たかと思ったら、そのままこっちに向かって歩いてくるじゃないか。

Dscf0423 「うわ~ッヤだなぁ…私有地だから出てけ!って言われそうだな…」despair

そばまで来たその人は、こっちが車の中にいるのを覗き込んで、

「どしたの?こんなところで…」

「いえ…峠が通行止めなんで…」despair

「あ~っやっぱり通行止めなったかい!こんな時にこんだけ降ることなんか滅多にないんだけどね」

「はあ…」 早く行っちゃってくれないかな…catface

「ここで夜明かししたらシバレる(凍る)よ。まだ霜も降りるし」

「えぇ…でも、行けるところもないですし…」

「裏、開けてあげるから寝てきな!布団はあるから!」

「いや…でも…」coldsweats01

「お金は、いいから泊ってきな!こんなとこいたら凍死するわ!」

Dscf0442

半ば不安に苛まれながらも強制的に案内される。
鍵を盗りに行ったご主人は、奥のプレハブの中へ案内してくれた。
決して明るいとは言えない照明を点けると両側にドアがいくつか並んでいる。
そのひとつに入ると、どこも相部屋らしく布団が数組並んでいた。
ご主人はポータブルストーブに火を入れながら

「夏休み頃だとライダーでいっぱいなんだけどね。まだちょっと早いんだ」

「なるほど…」coldsweats01

「好きなとこで寝ていいよ。寝る前に火だけは消しといてね」

「はい…ありがとうございます」coldsweats01

「ご飯、食べたの?」

「いえ!大丈夫です!」coldsweats01

「そっかい。じゃあゆっくり休んでや」

Dscf0430 話もそこそこにご主人は引き上げて行った。いつもあるのかな?こういうこと…

ゆっくりと温まる部屋の中。
古い雑誌や文庫本がたくさん積まれている他には、ポータブルテレビがひとつ。
宿というより工事現場の仮宿舎みたい。
でも車内泊が思わず布団でノビノビ眠れることになった。しかもタダで。
布団は冷たかったけれど心地よい眠りに付くには充分だった。

Dscf0457 

「すいませーん…すいませーん…?」gawk

翌朝、ドライブインへお礼だけでも言っておこうと寄ったが、いくら呼べども返事はない。

「出かけてるのかな?」gawk

Dscf0433_2 前日とは打って変わって早朝から温かい春の空。
陽射で融けた雪の雨だれのような音で目が覚めたほど。
駐車場も道もほとんど乾いてきている。
相変らずご主人のいる様子が無いので今度来たときに礼をしようと出発することにした…
建物の壁に「素泊まり1500円」とある。
峠は路肩に雪が積もっていたけれど路面は、すっかり乾いてコントラストが際立っている。
結局、この日、仕事は休んだ。

それから程なく国道は新路線の完成により、このドライブイン前を走る車は激減した。
そのうち…と思っていた自分でさえ、再び訪れたのは何年後になったのだろうか。

長雨がようやくあがった朝 ようやく訪れる。時間は経ちすぎていた。
たった一夜の思い出だけど、この変わりように寂しい。
あの後、ここで何があったんだろうか。
屋根板の剥がれ落ちた屋内でとっくにあがった雨は、まだ降り続いていた。

新しい道は、かくも残酷な結果をもたらすのだろうか…。
いくら「廃墟好き」と言ったって「廃墟」になって欲しくないものもあるよね…。あるんだよ。

はじめの朝は 生まれた日、最初の朝
つぎの朝は ときめきと気だるさにひたすら続く日々の朝
みっつめの朝─ それは 大事な何かが一緒に来なかった朝

Dscf0447 朝は、いつもやってくる。一日をリセットするみたいに。
ある意味、過去への訣別として。
爽やかな朝を繰り返して、時は積み重なっていく。
友達は親の都合で引っ越して 子どもは遠くに巣立ち 親は加速して年老いていく…
歯が抜けていくように不安になって、何かを悟ったようにぼんやりした答が波のように打ち寄せる。
時の重さに気がついて 朝が来ないように祈ったとしても、それは私的な我儘(わがまま)にすぎない。
人の心は、まだまだ繊細です。他の生き物達に比べると。
皇帝も独裁者も神々の名の下にある人も…終わりがあるのは自然の中の約束事。
そんな静かで無関心な朝の訪れは、時として残酷なものかもしれません。

でも朝には悪意も差別も中傷もない…朝ってそういうものでしょう? そうだよね。
無意味に迎えた朝はあっても 無意味に明けた朝などないのだから。

Dscf0976

あの 朝日の後で また会いましょう。

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2009年6月23日 (火)

いちごいちえ ②

Rockfallnega私に向かって崖のてっぺんからゆっくりと回りながら落ちてくる岩を見ながら思った…

「また、厄介なことに巻き込まれるんだな…」

Nagisabom 人の目に触れないように風任せの旅をしていても、行く先々で何かしら事件が起こる。
厄介なことは、人の世界だけではないようだ…
いろんなものと出会って いろんなことになって…その度に何とか切り抜けてこれたけど、いつまでも幸運が続くとは思えないなぁ
あの岩を私めがけて落としてきたあの人の考えていることが何かはわからない。
でもなにかしらたくらんでいるのは間違いんだろう。

Rockshot

逃げようが無いことになって、かえって開き直った。
借り物の体を開放してこみ上げていたイライラを岩に全部ぶつける。

        バーン…

パラパラと小石になった岩が夕立みたいに撒き散らされる音が波の音をかき消す…
どうにもならないことになって私は、ホントに開き直ってしまったようだ…
一番避けたかったこと 一番見られたくないところ 
そして、たぶん相手が確かめようとしたこと
あの大きな岩の下敷きになっても、私がこれ以上死ぬようなことはないけど。
なぜなら私は幽霊だし…
問題なのは、私が人の皮を被った幽霊であることで、それを他の幽霊に見られてしまったということ…
粉々に ホントに粉のように飛び散った岩の土煙があたりに漂って、そこにいた敵は見えなくなっていた。

Brind

『さて、どうしよう…でも、戦わないといけないんだな…』

人に化けるのが問題じゃない。
人に化けようとする幽霊がどんな考えを持つかということ。
時間に限りがあるといっても人と霊の世界を行き来することが容易くできるとしたら、それは場合によって良くない結果になるらしい。
私がその力を教えてくれた人が、そんなことを言っていた。
それに簡単に人と霊の間を行き来することは『神様』の意思に逆らうことになりはしないだろうか?
そう思うことがあって誰彼教えることのできる力ではないと思った。

薄らいできた土煙の向こうの「あいつ」の気配は、まだ確かにそこにある。
あいつが何を考えているか、私にはわからない。
人であっても霊であってもそれは同じ。心の中まで読むことはできないから…

Nagisaangry

『あーっ大丈夫だねったね。良かたなや』

相手が敵となったら、本格的にその妙な言葉使いがイラッとする。

『さあ!もう急ぐ必要はなくなったよ!何が望みなの?』

『そうなの?じゃあ教えて欲しかことがあるだよ』

そらきた。人に化ける方法を聞こうと言うんだな… 

Dscf8063 『なにsign02

『人の言葉の作り方、知りたです。どうも難しいよしな』

『はぁっsign02』 何を言ってるのこいつ…coldsweats02

『ずっと人の声、聞いてきたけな、男とか女とか、小さのとか大きの、様々で色々でわからないのよ。だからオラ話すことも…めっさワヤじゃから教えて欲しいもし』

なに?言葉を教えて欲しいって? なんだか思いもしない言葉が返ってきて構えていた私は少しうろたえてしまった…

『そのために私に向かって岩を落としたんですか?』angry

『いや…あれらは、しごく辛抱なかったんらわ。奴ら、もう辛抱できなす。それ、そこの見て後ろごらんね』

Dscf8050

なに?うしろ…? あーっ…coldsweats02
道いっぱいに岩が崩れて小山になっている。
「こいつ」のことが気になっていて目に入っていなかった。
ずっと歩いてきた道は、見上げるほどの山肌に鉄の網が張り巡らされていたけれど、ここはみかんのネットみたいにボロボロにちぎれて岩があふれ出したみたいになっている。

Dscf8046 『本日は、もう落ちれんど、次の来週ふたつ落ちるつもりするす。この奴らは生まれつきの辛抱ないらしいですのな』

『どうしてそんなことがわかるんですか?』gawk

『わらもそいつらと同じ岩ころでから。当たり前、出場所はちゃうけどねん』

『岩?あなた、石なんですか?』coldsweats01

『はいです…』

『でも人の姿してるし…』gawk

Aitsu 『こうしていねとな、貴方みたいな方と会っても話しないの多い。今カッコもホントものでなく、あしは、岩ころだから元よりオスでもメスでもねいよね』

変な話かた…なんだか混乱してきた…happy02sweat01
この人は私みたいな幽霊じゃなくて、なんだ。石の心なのか…石がしゃべるか?
まてよ、わたしに色々教えてくれたのもおしゃべりな石炭だったっけ。

Dscf8053 『で…何を知りたいんですか』gawksweat01

『そね。“なまんだぶ”まず、というのを分るたいなす』

『なまんだぶ?えーっそれはちょっと…なんでまたお経なんかを?』coldsweats02

『“オキョウ”てか?アタのとこ来るンは、皆しゃべる。でも知らんだら』

 

うっわ~っsweat01ますます調子の狂う話し方だな…色んな言葉がゴッチャゴチャしてるみたいだぁ。happy02

『ウラん居るとこぁ、この向こうあっちのほうのどっしり山なだ。行っててみますか?』

この自分が石だという人のことに興味が出てきた。
少なくとも─私の持つ力を知りたいのではないようだ。

『はい。行ってみたいです』

『だいぶ歩くますからけども…』

Fallup 海から新鮮な潮風がシュンと吹き上がるのを感じる。confident うん─

『大丈夫。手をつないでください』

『うっはsign03sweat01

そいつの腕を引っぱって風に飛び乗ったとき、ずいぶん驚いたようだ。
新しい風はとても乗り心地がいい。
風は弱々しくも高くそびえる岩肌を一気に登りつめていく…

気持ちいいーっheart01

(つづく)

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2009年6月 7日 (日)

いちごいちえ ①

Rousoku

『ほら!あれだよ!ローソク岩』

『あれ…?ローソクっていうよりお米の粒みたいですね…』

『うーん…そう言われりゃそうか。でも、あれだよローソクの炎の形にも見えるっしょ!』

波打ち際にどっしり座った大きな石。
こんな大きなのは見たことがない。
ちょっと押したら倒れてしまいそう…。

Road ようやく海に来たーっ。
すぐにでもここから飛び出して行きたいくらいだよォ
いつ以来だろう。ずいぶん長いこと来ていなかった気がする…
トラックのおじさんに乗せてもらって、ずーっと話をしながらここまで来たけれど
海が見えだしてから、あんまり嬉しくて何を言われても半分、上の空だった…
ここまで来る間中、おじさんの家族やおじさんが子どもの頃の話を聞いた。
人(生きている)の話をこんなに聞くのもずーっとなかったなぁ。
まさか、おじさん隣に座る私の正体が「幽霊」だなんて思わないだろうね。

『伝説じゃさーっ…お腹のすいた神様がこの辺でクジラをつまみあげてヨモギの串で焼いてたんだとさ。その串の折れたのが、あの岩だってよ』

『えっsign02そんな大きな神様がいたんですかsign03

『ハハハ…伝説だってsign01で…どの辺りまで行くの?おっちゃん、このまま隣町まで行くんだけどさ』

『そうですねー。どこか止めやすいところでいいです。早く海のそばまで行きたいんで…』

『じゃあー街の入口あたりで止めるよ』

Dscf1604

おじさんは、このあたりの町へ荷物を配達するのが仕事なんだそうだ。
海のほうから潮の香りの風がどんどん吹き込んでくる。
風に乗ってこようと頑張っていたら、気まぐれな風に流されてどこに行ってたかわからない。

Dscf7994 私の爪は、まだピンク色。
これが緑色になってきたら仮の体(命の元を集めて合成した体)から出る時間。
出ないと時間切れになって、この海辺に転がる岩の塊みたいに小さく固まって出られなくなる。
爪が緑色になってくるのがその始まり…それまで4時間ほどだろうか。
少しの時間しか持たないこの体…おじさんは知るよしもない。
目の前で時間切れの私がはじければ別だろうけど…

「あっちの方に古い道があって、親子岩とか眺めのいいところがあったんだけどさ、岩盤が不安定でガケ崩れが良くあったもんだから通行止めになっちゃったさ。この新しい道からだと一番いい景色が見られなくなっちゃったんだなぁ」

「そんなに危ないんですか?」

「まぁねえ…通行止めで仕事にならなかったこともあったよ。道が良くなってから仕事は楽になったけどね…あっこの辺で止めるよ」

プシーッ

空気が抜けるような音がして、大きなトラックは「ウワン ワン」と体に似合わない小さな泣き声を出して止まった。

「すいません!ありがとうございました!」

「泊るとこあるの?知り合いの旅館なら顔が効くよ」

「いいえーっ当てはあるんです」
と、言ってもあるわけじゃない。たぶんどこかの空家にお願いして泊めてもらおうと思う…

Dscf8074 「そっかい!なら気をつけてね。あーっ良かったら、おっちゃんとメル友になってくんないかなァ」

「メルトモ?」coldsweats02

「えっ携帯持ってないの?」

メルトモ? ケータイ? なんだそれ?

「ケータイ…? たぶんないです…」coldsweats01

「へーっ珍しいね。まぁいいや!毎日ここ走ってるから、また会えたらいいね。いつもは退屈な道だけど楽しかったよ」

「はい!私も!」happy01

Truckdown

大きなタイヤがゆっくり動き出して、おじさんの大きなトラックが道に戻っていく。

パーン…

Greennail手を振っているとラッパみたいな大きな音がして、ビックリして手を引っ込めた。sweat01
「あ…」目に入った爪はいつの間にか薄っすら緑色…
もう時間か…ギリギリで間に合った。sweat01
いつもうっかりしそうなので、人のフリをするのが正直まだ怖い。

とにかく、人目につかないところを探さないと…人がはじけるところなんて見せたらエライ騒ぎになるだろうから。
でも、山と海の間に続く細長い街には隠れられそうなところが意外と見つからない。どうしても目の届くところにチラチラ人が見え隠れする。
どこか、いいところは─ あっ♪happy01

Nagisasea

─視線の奥に海のほうへ向かう柵のある道が目に入った。
ちょっとつかわれていない感じの…あそこへ行ってみよう─

ここが、さっきおじさんの言っていたガケ崩れのあった道らしい。
時間は、あまりないけど慎重に回りの様子を伺いながら道を進む。
海から ザーン ザーンwave と波が来て、時折飛んでくる飛沫が心地いい。
『生きている』shineってこういうなんだなぁ…

Dscf8061 私にまだ自分だけの体があった頃─
学校から帰って、いつも海へ来ていた。
波が行ったり来たりするのをずーっと見ていたり、貝殻やまあるく角の取れたガラスの欠片を拾い集めたり、浜で変な虫がピョンピョン跳ねてるのを見て逃げたり…
楽しかったなぁ…海の向こうのことを考えたりして。
今でも私は海のこっち側にいるけどね…カズくんは、この海の向こうにいるんだろうか?
いるところがわかればすぐにでも飛んで行きたいけれど、私にとって海は、まだ越えちゃいけないものな気がする。
その気持ちがどこから来るのかは、わからない…
 『…おや?』

人がいる!coldsweats01 …釣りの人かな?
まいったなぁ…時間もないし、ここまで来たら戻るわけにもいかない。脇道もなさそうなぁ…
でも変な人だなぁ。 人じゃない? もしかして幽霊?(自分も)
かえってマズイよ。sweat01秘密を見られるわけに行かないし…

Dscf7989

私が仮の体を使うことを良くない考えの霊に見られたら、きっとその方法を知りたがるだろう。
生きている人たちに何か悪いことをすると考えたらゾッとしてくる。
うーん とりあえず、見えないフリして向こうまで行こう…あっちまで行ければ。

「普通の人 私は普通の人だよーっ わたし幽霊なんか見えないよー 全然わからないよー」happy02

Goo「…こんちはー」

「…」 無視無視っgawk

「どこ行くんだべ?」

「…」 なんだ?この人despair

「見えてるんじゃないかしら?」

「…」 うっわぁーっsadsweat01

「頭にクモつけてるじゃん」

impactひーっsign03 どこsign02 どこぉっsign02sweat01  …あsweat02

「ごらんなさい!やっぱなあ!」

う…騙された…crying

「見えんフリすることないじゃないですか。別にへんなことする気ないのにヨォ…」

「いえ…あのーっ急いでいるので…」despair

「なんでじゃ?こんな人の来ない道でさ。このまま進んだって海と岩しかないっしょや」

…変な話し方。それをひょうひょうとしゃべるその人(幽霊)は話し相手が来たと喜んでいるのかもしれない。
でも、今の私にはそんな時間は… sad あーっ爪の色、濃くなってきた。sweat01こんなところで捕まってる場合じゃない!sweat01

Dscf8004

「この辺の人じゃないべ。どこから来たのかしらん?ワシが見えるんだば普通の人でねーしょ?」

「か…関係ないじゃないですかsign03私、時間ないんですsign01annoy

あせっているのと、バカにされてるような口調についイライラして怒鳴ってしまう。

「いっやぁ~あずましくないねぇ…少し話相手してくれてもいいじゃない?」

パラ パラパラパラ…

Dscf8030

岩の壁に張り巡らされた網の向こう側で小さな欠片が落ちる音がした。

「危ないよね。あまり大きな声をだしたらばぁ…」

「すいません!失礼します!」pout

Dscf8062 これ以上相手してるわけにいかない。
その人が付いてこないか心配だったけど私がスタスタ歩き出しても、ズーッとそこに座ったまま…
そのままそこにいて!お願い付いてこないで!sweat01

「今は、そっちへ行かないほうがいいだよ。もう本当に踏ん張りが効かんみたいですから」

もぉーっ何言ってるんだコイツぅ!
…とにかく今は無視して行こう。
とりあえず、こっちの都合を終えてからちょっと懲らしめてやろうかな…
annoy

「行かんといてやsign03やめておいたらばsign02

あーっうるさい!うるさい!

「ホラ見れsign03上が来たですsign03逃げれーsign03

何?何なの?…bearing

「あ…うわぁ…っ」coldsweats02sweat01sweat01

Rockfall

思わず見上げたら
こっちに向かって落ちてくる大きな岩が目に入った…

                      (つづく)

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2009年5月17日 (日)

鮮やかな地獄

Dscf8648

●へ

Dscf8661いつも元気な●は
最近、どこか弱気が見える
2年前はまだまだいけいけだったョネ!
もうあの時から10年くらいたったような●に
最近はそう思います

母は心配はしていません!(何事も経験)
あなたを信じているから
まだまだ地獄があるんだョ!

母もあなた以上に年(歳)の分、地獄を見たし
体験もしてきました。
みんな体験または経験をしているのです。
それ以上の人々もたくさんいるのです。
まだまだ●は幸福だと思うョ!
母の声を聞きたくなったらいつでもTEL下さい!…

Dscf8653

戦後並とも言われる景気の低迷。
失業率6%台も間近と言われています。
新卒者の就職内定取り消しや自宅待機。
とりあえずの就職内定率を誇る学校もその内訳には微妙な感が…

Dscf8670 『仕事があるだけましだよー』

『ボーナスでるだけマシと思わなきゃ』

『時代は変わったんだよ…』

戦いを忘れた群れが四列縦隊で進む様
うつろな目 うつろな子どもの目 うつろな芽生え
リアルと見分けの付かない敵に無制限な銃を向けてうつろに撃ちまくる。
『あっ!民間人だった』 減点…

Dscf8666 時間を縮める機械 時間を省略する機械 時間を先に進める機械
何も変わらないようでいながら人は機械の一部になって機械に奉仕してるみたいだ。

気難しい機械 気難しい自分 気難しい夢
それでも手放しがたい恍惚の桃源郷。

ショボいユートピア ダサいフロンティア マイブームなサンクチュアリ
ひとりだけの夢 ひとりだけの居場所 ひとりだけの応接間
ホラごらん…居酒屋のウリだって『隠れ家の雰囲気』だってさ。

Dscf8672人生に借りがあるのか 貸しがあるのか
手の届くものが取れないみたいで 実はてを出してもいない
心の傷だけが生きている証明のような気がして、癒えた傷の痛みさえ懐かしくて懐かしくて…ただ懐かしくて

でも案ずることはありません。
時代の良し悪しに関係なく、何時もたわわの実りを得る人もいれば、空の器をただ眺めるだけの人もいるのです。
自分も含めて、みんなキリギリスなのかアリンコなのかさえも判りません。
いくら時代が良くても世を儚みたくなる人はいたのです。
始まりから極論 そして弁解

実りは餅撒きのごとく手が届いた人のところへ
そして痛みは皆に公平に分配。
傷つけられる覚えの無い人まで平等に

Dscf8656

広い空 新緑芽吹く広大な北の台地。
北海道らしい風景の中に北海道の象徴らしくサイロと牛舎がポツーンとたたずむ。

いるはずのものは居らず 住んでいるべき人も忘却の彼方。
ただ そこに営みがあった証明だけが現代遺跡のようにそこに存在するだけ。
さても その大地の同胞(はらから)にブルーの不似合いな袋が大量に置かれてる…。

Dscf8663

『また、不法投棄か…』

Dscf8665 近頃は、ごみ排出も有料化の市町村もほとんど。
それほどに地域財政も逼迫しているわけ。でも処理費用は行政との折半(税金)です。
分別もルール化しているから指定外物の混入は回収されません。
だからといって他所の町に置くのは筋違いですよ。
でも よくもまぁ こんなところまで……?

違う…ごみじゃない
きれいにたたんだ衣類 子どものオモチャ 布団や日用品…
不要になったというよりも 手身近な荷物入れにしたような感じ。

束ねられた書簡はライフラインの支払い催促通知と供給停止勧告。
それら全てが仮にここへ置かれたのか 用を無くしたのかは計れません。

地獄 生き地獄にいた
それが自ずからはまり込んだ地獄なのか すべからず堕ちてしまったところなのか…
とりあえず逃げ出した道行の途中がここであったことには違いありません。

Dscf8664地獄と天国が絶えず交差するこの世。
まだまだ捨てたのもじゃないと…思うけれど
この有様を前にして何す術も その力さえも ましてや救う手立ても そして行方さえもわからない自分には
ただ静かに涙するほかに なにもできません。

空の財布の中に 母からのせいいっぱいの励ましが記された言伝が残されていて…

地獄と称された大地に春は芽吹き 雲が青空を流れていく
あまりにも美しい地獄絵図は 昔からそうであったように
未来にかけて地上の出来事に無関心です。
寛大に残酷に実り 癒し続けていく

春の香りは “甘く危険な香り”…なのかな

地獄から何とか抜け出せていられればね。
それだけは祈ります。

Dscf8668

救済が流行とは無縁なものであり続けますようにthink

生意気言ってすいませんsweat02

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2009年5月12日 (火)

ひとりじゃないの

Dscf9216

私はナギサ 風に乗って青空を旅する幽霊。
どうにもこの辺りはイジワルな風が多いのか海に行こうとしているのになかなかたどり着けない。
昨日なんか高いところから海が見えていたのに風に引き戻されて、また山の方へ戻ってしまった。

Dscf9213

「ホントにもぉー」

「何を怒ってるんだい?」

Dscf9180_2 家が話しかけてきた。
あちこち痛んで、骨ばかりになった屋根から白々と明けて空が見えている。
風は昨日と同じで山の方に向かって吹いているようなので、また足止めかと思ってうんざりする…

昨日も数え切れないくらい風を乗り換えたけれど、進んでいるような、いないような…
必死(幽霊だけど)になっても仕方がないので、この家に夕べから泊まっていた。
幽霊といっても私もやっぱり人だから、夜は何かにぶつかるのが怖くて飛ばないし、屋根のあるところで休みたい。
もちろん、生きてる人のいるところには行けないし、崩れているとか汚れているとか…そういうのは幽霊の私に関係ない。

「風が…言うこと聞いてくれないんです。海に行きたいんだけど…」

「海?そこのテレビで見たことがあったなぁ。わしも行ったことはないけどね…でも今ごろは、南からくる温かい風が多いから風に言うこと聞かせるのは難しいだろうね。故郷を目指す鮭みたいなもんだわ」

「そうですか…やっぱり。もう少し明るくなったら、海の方へ向かう車に乗せてもらおうと思うんですけど…海に向かう車って、この前の道、通りますか?」

「うーむ…車のことまでは分からないな…でも南の方から、この辺とは香りの違う車が通るから左の方へ向かう車なら行くんじゃなかろうかね」

「はい、そうしてみます…」

Dscf9178

南の風が穴の開いた屋根から吹き込んできて私をからかうように剥がれかかった屋根の鉄板をカラカラ鳴らしている。

Dscf9195 「こんなになっちゃって屋根…痛くないですか?」

「いや…別になんともないさな。冬の北風が悪さして…わしも歳だから、やられ放題だよ。それでもご主人が帰ってくるまではなぁ…」

「ええっ?」coldsweats02

屋根にこんな大穴が開いて部屋の中に木も生えてきてるのに家の人が帰ってくるんだろうか?
もし、そうでもこの有様を見たら、たぶん入りもしないで帰ってしまうと思うけど…

Dscf9207

「そうとも!だからストーブもテレビもちゃーんと置いていってる。ここの子の大事なオモチャもな。だから家族が帰ってくる日までわしは、ここから消えるわけにはいかないよ」

Dscf9177 「…その日からどのくらい経つんですか?」

「もう40年近くなるかなぁ…」

「えぇっ40年sign03coldsweats02

それって私が生きていた頃どころか、私を生んだママさえ生まれていたかどうかってほど昔じゃない…

Dscf9175「帰って…くるんですか…?」

「そうさな!出発の日、わらしっ子は泣いて嫌がったが、父親の『すぐ帰ってこられるから!』の言葉についていったのさ。わしもそう思っている」

「でも…40年って…」coldsweats02

「何が?」

「いえ…別に…」coldsweats01

Dscf9173

Dscf9201こういうところに来るのはカメラを持ってる人くらいなんだろうけど…
もう、ここに住んでいた人は帰ってこないと思う。その子も今じゃすっかり大人なんだろうし、この家のことも覚えていないのかも…。
でも、お家に時間は関係ないんだろうな…少なくともこのお家は。

Dscf9196たぶん、お家は捨てられちゃったんだろう。
始めはそういうつもりじゃなかったんだろうけど、事情があって引っ越したんだと思う。
私の家の隣に越してきたカズくん一家がそうだったみたいに…

私もカズ君に忘れられるのかな…このお家みたいに。
そう考えるとウルウルしてきた…体のない私。幽霊のわたし…

Dscf9214

「おやおや?どうしたのかな?何があったか知らないが…」

「いいえ!なんでもないです。私のお家のこと思い出して」

Dscf9200 私のいた家もあの嵐の夜、屋根に大きな穴が開いて陽の光が入ってきた。
自分が、死んじゃって幽霊になったと気がついてから、明るいところに出ると蒸発しちゃうと思ったから太陽が怖かったなぁ…それで気がついたら何年も経ってた。
屋根が壊れなかったら、まだずっと家にいたのかもしれないね。

どうしてるかなぁ…私の家。「行っておいで」と送り出してくれたけど心配になってきた。
あれからどれくらい経ったんだろう…

「まあ、あせっても仕方ないさ。のんびりやんなさい。風もいつかは言うことをきくものさ」

「はい!そうですね」

陽が昇ってきたようで、部屋の中にも光が射しこみはじめてきた。

Dscf9186

Dscf9187 「あれ…あれは…」

押入れの中にひときわ眩い光が射しこんで、きれいな女の人の顔が浮かんできた。

「ああ…あれは『白雪姫』だよ」

「白雪姫って…あれはお話のひとじゃ…」

「ワシにはよく分からないが家の者は、そう言っていたな」

白雪姫ってホントにいた人だったの?
でもホントに美しい人…お話のことじゃなくてホントにいたかもしれない。

「その白雪姫がいるからワシもひとりじゃないって思えたのさ。いつも慰めてくれているよ…」

ゴーッ…

前の道を大きなトラックが走り抜けて行った。
朝がようやく動き始めたようだね…私もそろそろ行こう。
風は…穏やかな朝だけど、風はまだ気むずかしいらしい。

Dscf9208 「一晩お世話になりました。私、もう行くことにします」

「そうかい…ひさしぶりに楽しい夜だったよ」

「ちょっと…ここで着替えていっていいですか?」

「別にかまわないよ。なんなら目をつぶっていようか?」

「かまわないです…でも見たことは秘密にしてください」

「はい、わかりましたよ…」

Dscf9194

「ほお…こいつはたまげたな…」

「私の特技なんです。短い時間しか持たないんですけど…ホントにナイショですよ」wink

「もちろん!約束だからね…あんたもどこかのお姫様みたいだな」

「いいえーっ言いすぎですよ。coldsweats01それじゃさよなら。お元気で…」

「はい、さようなら。元気でね」

家の前のササをかき分けて表に出た。
足にササが絡まって進み辛い。こういう時は、体を持つというのも面倒なことだと思う。

Dscf9172

家のすぐ前に横たわる道の脇に立ってこっちに向かってくる車を待った。
たしか…向こうにいく車に乗せてもらえば海の方へ行けるんだ。
前にこうして道端で走ってくる車をジーッと見つめていたら乗せてくれたことがあったから、またそうしてみよう…あ…来た来た…

Dscf1617プシーッ…
大きなトラックが止まって、ずっと上の方にある車の窓から男の人の顔が覗いた。

「どうしたの?ヒッチハイクかい?」

「あの…海まで行きますか?」

「海?…まあ海沿いには行くよ」

「お願いします!」happy01

Dscf1660_2 乗り込んで両手で大きなドアを バンッsign03 と閉めるとトラックは、ゆっくり動き始めた。
このところ、仮の体も使っていなかったのでちょっとくたびれる。
軽くため息をついて外を見ると窓のところの鏡にさっきの家が写ってどんどん小さくなっていくのが見えた。

「旅行してる人?」

「え…はい!ずっと、ひとり旅してます」

「ふーん…それにしちゃ身軽だね」

「はい!風に乗れちゃうくらいですから…」

「ええっ?面白いこと言うね。ハハハ…」

Dscf1659

男の人は、大きなハンドルを握りながら笑ってた。
そりゃあ、そうだよね。

もうすぐだ、海…海。

Youtube 「ひとりじゃないの」天地真理

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2009年4月12日 (日)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』④

Dscf6893

【前回までのあらすじ】 
大好物のクリームコロンより廃墟が大好きなサブカルOLアキ(virgoA型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイト『廃墟楓』を運営する先輩、神氏(shadowA型)と大きな炭鉱跡へ行きました。

同じ頃、別ルートからもカップルが一組。その彼女の方・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。写真を撮りに行くのを怪しいと疑っていた美玖の『いっしょに行きたい!』発言を趣味の一致と早合点していたようで週末デートも半分廃墟巡りに…。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから美玖の廃墟嫌いが爆発…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました。

そんな事件の最中、風の背に乗って空を行く幽霊少女『ナギサ』(血液型なし)
海へ向かう風に乗れなくて、辺りをウロウロしていました。
そこで目に入ったのが廃墟の樹海をさまよう美玖の姿。
それともうひとつ、近くをうろつくクマ(たぶんO型)の影。
『このままじゃ危ない!』
クマを説得しようとするナギサですが、クマはとっても頑固…。さて、どうしたものでしょうか

Dscf1805

「アツシ…」weep
そもそも私の疑り深い性格のせいなんだな…
それに嫌なら『行きたくない』と言えばいいのにそれができなくて…
だからって、少しは察してくれてもいいじゃないsign03
普通はこんなところに来たい人なんかいないじゃない…
幽霊とクマくらいしかいなさそうなところだし…。
それにしてもアツシのほかにも同じ趣味の人がいたなんてビックリした。
一緒にいたあの子までそうとは思わなかったよ。

Dscf1692_2

Dscf1751 『ねえーっsign01クマさーん…やめましょうよ…』

『うるさいなsign03カスミのお前には関係ないだろsign02

『それはそうですけど…どうなるか知ってて見殺しにしたら私、一生後悔しちゃいます』

『一生って、お前1回死んでんだろsign02

『あっそうかsign01クマさんナーイス突っ込みィsign01へへへ…』

Dscf6874_2 『ドやかましいsign03いいかげん行かないとバラバラになるほど吹き飛ばしてやるぞsign01

『でも、あの人襲っちゃうと鉄砲を持った人間がたくさん来てクマさんのこと探しますよ』

『なんで人間だけが特別なんだsign02俺にとっちゃあシカも人間も同じ食い物だsign02ノコノコ縄張りに入ってくる奴のほうが悪いsign03

『じゃあ…私が替わりに食べられるようにしてあげますから、それでどうですか?』

『…今はインスタントは食いたくねえなsign03

うーん…このクマ、すっごいムカついてきたぞannoyangry

Dscf1796

                         プップップー

virgo「あっsign01合図ですsign03車のところで見つかったようですよ」

「いや…プップップだから車にはいなかったようです…」

そうか…師匠に確認した私が間違えてどうするsweat01

「このことで、やっとわかりました。僕は美玖に甘え過ぎてたんだなぁって…」

Dscf1747  virgo「えっ?」

「解ってはいたんです。美玖がこういうところがキライだってことは…でも、美玖の好きな時間を作れば僕もこういうところへ来る時間を作れるって思ってて…それが結果として美玖に引き目を負わせていたんだなぁ…。僕は単に自分のエゴのために恩着せがましいことをしていただけなんですよ…僕は最低だsign03

virgo「はあ…」

「何が自分に一番大事かってわかりました…」

Dscf1744 virgo「あなたはやっぱり優しい人ですよ…」

「やっぱり、ここでジッとしていられないsign03もし美玖がピット(穴)にでも落ちていたらsign03

virgo「あっsign01待ってくださいsign03私も行きますsign01

「いやsign03僕の問題です。20分待っても何の合図もなかったら警察に連絡してください。お願いしますsign03

あ…行っちゃう…sweat01

Nagisa_on_ruin_2

「クマさーん?ホントはそんなにお腹空いてないんじゃないですかぁ?」

「しつっこい奴だなキサマ…annoyいいかげんにしないとしまいには怒るぞsign03

「私もいい加減に分かってもらえないと怒りますよsign02クマさんのためにも言ってるのにsign03

「分からなかったら何だというんだsign03 …あsign02

Nagisa_brake

           「ヒーッsign03sweat01

Dscf1746 あーっ…gawkあっという間に逃げちゃった…
なにさーっsign01弱虫impactpunch
ともかく何とかなったんだからいいやgawk

「なに?」 向こう側の音は…動物の声?

アツシかもしれないhappy02

「えぇっ?」 な…何?あれ…coldsweats02

「あれ…sweat01 もう大丈夫ですよcoldsweats01」 もしかして見えてる?

Nagisa_and_miku

「ギャーッsign03出たーッsign03shock

あら…sweat02行っちゃった…やっぱり見られたcrying 
昼真っからこんなに見られて…私、幽霊向いてないのかなぁsweat02

Dash

「今の声はsign03ミクーッsign03どこだーsign03

virgo「えっ?見つかったsign02

遠くからものすごい悲鳴とともに人間とは思えない勢いで美玖さんが走ってくるのが見えた!

「ミクーッsign03こっちだsign03

virgo「行ってsign01カメラは預かっておきます」

「あっsign01お願いします!ミクーッsign03

うっわーっsign01ものすごい勢い…。 あのままふたりがぶつかったらバラバラにはじけ飛んでしまうくらいスゴイ…sweat01

Dash2

「アツシィーッsign01アツシアツシアツシアツシィーッsign03

「ミクミクミクミクーッsign03

「怖かったよ怖かったよォーッsign01離さないでよォーッsign03crying

「ゴメンsign01こんなとこ連れてきて今すぐここから出ようsign03

Dscf1827

shadow「おっsign01見つかりましたかsign03良かったぁ」

virgo「いいにゃー。私も彼氏ほしい…sweat02

shadow「こんな私もフリーですけど?」

virgo「そうなんですか?お互いがんばりましょうsign03

shadow「…sweat02

Dscf1809_2

「あっ…風向きが変わったね…」
ここで足止めされてる場合じゃないや。とりあえず海を目指そう。
木立を吹き抜ける風に乗って再び空へ上がる。

「おや?あれはさっきの…。 彼氏とはぐれてたんだ…いいにゃーっheart01
私もこのままカズ君のところまで飛んで行こうか…
でも、どこにいるか知らないんだったなぁ…sweat01
とりあえず海行こ…coldsweats01ラララ~ッnote

Dscf1741_2

それぞれの恋模様 それぞれの想い
一陣の風が運んでく
行きつ、戻りつ、行き着くべき場所へ
ずっとずっとずっと、一緒にいようね…

Youtube『ら・ら・ら』大黒摩季

※この物語はフィクションです。廃炭鉱は実在しますが、登場する人物そのほかは実在するものではありません。深読みしないように。。。
また、現地の照会はいたしかねます。たぶんcat

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2009年4月 9日 (木)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』③

【前回までのあらすじ】 
廃墟がスイーツより大好きなサブカルOLアキ(virgoA型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイトを運営する先輩、神氏(shadowA型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、別ルートからは、もう一組のカップル。その
彼女・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』が大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。物事を深く考えない性格なのか、週末デートも半分廃墟巡りのようです。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから
美玖の廃墟嫌いが爆発impact…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました…

Dscf1691

virgo「あの…携帯で呼んでみたらどうですか?」

「あっそうか…いや…ダメだ…ここは圏外です」

私のもダメ…この山奥にエリア拡大ってのも妙な話だけど、これじゃ意味無い…

virgo「とにかく、手分けして…」

shadow「闇雲に動くのはやめたほうが良いですよ。近くにいるかも知れないし。とにかく、こっちまで迷い込んだらコトですから少し冷静になりましょう」

Dscf1819

「あれ…ここどこ?」coldsweats02

表に飛び出してガムシャラに走ったけれど、落ち着いてきたら自分が来た方向もどっちかわからなくなった…
相変わらず、遠くにボロボロな建物は見えているけど、どれも同じにで、方角も分からない…

「アツシぃ…」weep

私、迷った…? どうしよう…

Dscf1813

「あれから…どのくらい経ちます?」

shadow「30分くらいになりますかね」

「美玖がヘタに動いていたらマズイな…」

virgo「そうです!いくらなんでも迷ってたら気が付いてるでしょう!」

「おーい!美玖―っ」

virgo「ミクさーん!」
これは私のせいだなぁ…責任感じるよ…。

Dscf1811

あ~っ完全に迷っちゃった…どうしよう…

「アツシー!アツシーッ!どこーッ!」sad

困ったなぁ…困ったなぁ…ずいぶん歩いたけど、道がどっちだったかも分からない…
鳥になれたらこんなところからすぐに逃げ出せるのに…
こんなことになるならはじめからハッキリ「行きたくない」って言えば良かった…
でも言えなかったな…アツシの夢中な姿見てたら…
それにしても疲れたよぉ…どこかで少し休もう…

Nagisky

そんな地上の騒ぎなど意に介さないほど青い空。
海を目指して風の背に乗っている女の子がひとり。

「ズンタカター♪ズンタカターッ♪海!waveうみ!もうすぐだよーっscissorsheart04

ところが思い通りにならないのが風。海の方へ向かう風がなかなか吹いてくれないようです。

風任せの旅もメンドーだなぁ…降りてどこかの車に乗せてもらおうか…
でも、まだ木の海の真上。走っている車どころか、道も見えない。

「木が多すぎるんだ。少し低いところを行こう」

低いところは、山や木の影響があるので風も不安定だけど、今日は穏やかだから大丈夫だよね。
山の中なのに小さな家が点々と見える。
おや?緑の中に誰かいるみたいだなぁ…あんなところで何してるの?

Dscf1796

「ミクーッ!」

virgo「おかしいですね。聞こえないのかな…」

shadow「もしかしたら、車のところへ行ってるかもしれません。もしやということもありますから様子を見てきます」

Dscf1741_2 「そうですね。お願いします…」

shadow「見つけたらクラクションを鳴らしますから」

virgo「いなかったら?」

shadow「いたら『プー』で、いなかったら『プップップ』にしましょう」

virgo「プーとプップップですね」

笑いそうになったけどそういう状況じゃない…

shadow「それと、なるべく音を出すようにしてください。まさかとは思いますが…」

virgo「え?クマでも出るって言うんですか!」

shadow「ここは、シカがたくさんいるって聞いてるんですよ。でもズーッと痕跡も見ないので…。こっちの気配でいなくなったのかもしれませんけど、万が一のこともありますから…」

Dscf1738

ここはどの辺なんだろう…
どっちを向いても同じような風景。気のせいか回りは山ばかり…

「そうだ!ケータイ!」mobilephone

圏外…!なんてとこだろ…bearing

ガサガサ…

なんだ?今の音!coldsweats02

「アツシ? アツシなの?」

音のした方を見たけどなにもいない…薄暗い林と何かがあったコンクリートの跡が見えるだけ…
こんなところにいるのは、シカかクマくらいだよね…
クマ…! だったらどうしよう!
ジッと林の方を見ていた。風かもしれないけど草が揺れて見える。
なにか…なにかあそこにいる?
クマだったら見つからないようにしないと…気味悪いけど、あそこの廃墟に隠れてよう…

Dscf1745

「おや?動き出した…。 あ…もう一人いる。…人じゃない?クマだ。あのままじゃクマと鉢合わせになるよ」

Dscf6874 「う~んシカの奴らすっかり見かけなくなったな…。待ち伏せしやすいところだったが、そろそろ他のところへ行かないとダメか…」

「あーっどんどん近づいていくsign01そっちに行っちゃダメだってsign03sweat01

「ん…?獲物の匂いがするな。まだマヌケな奴が残っているようだ。ヒヒ…」

「あのーっsign01クマさんsign03ちょっと待ってくださいsign01

「んッ?なんだお前は! どこかで見た奴だな…」

「あーっ?いつかのクマさんですね…。生まれ変わったら食べてやるとか言われてたんだ…」

「思い出したぞ!あのときのカスミ女だな!相変わらずカスミのままなのか!」

「カスミって…sweat02 私、ナギサですよ。thunderここで何してるんですか?」

「俺は今、忙しいんだ!annoy獲物がいるんだsign03

「獲物って…この先にいるのは人間ですよ」

「だからなんだsign03

「なんだって言われても…」

うーん…ヤバイなぁ…。やっぱりあの人を狙ってるのか…

Nagisaruin2

                                (つづく)

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2009年3月22日 (日)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』②

Dscf1769

【前回までのあらすじ】 
廃墟大好きOLアキ(virgoA型)は、週末に師匠と仰ぐ廃墟サイトの先輩、神氏(shadowA型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、この場所へ別ルートから別なカップルも入っていたのです。ところがその彼女・美玖(AB型)は、口にこそ出さないものの『廃墟』は本当は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、その心のうちを察することができず、廃墟を撮っているつもりが廃墟に気を取られていて彼女のことが気に止まりません。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしてしまいました…

Dscf1729 『なんだかさぁ全然、理解できないよね。こういう趣味…』gawk

virgo『ええ…そうですね…sweat01

『薄気味悪いし、汚らしいし、虫はいるし…前は一緒に来なかったけど、どうも行動が怪しいから「連れてけ」って言ったら、それから開き直っちゃって…』

virgo『でも…こういうところって滅多に見られるものじゃないし…sweat02

『これって粗大ごみみたいなもんじゃない!誰からも見放されてさ、わざわざ草をかき分けて来るほどのところとは思えないよ。そうでしょ?』pout

virgo『まぁ…sweat01そうですよね…』
どうやら私も師匠に無理やり連れてこられてるのだと思っているらしい。
カメラの調子が悪くてバッグにしまってたからなおさらそう思われたかな…
それにしてもバッテリーの調子が悪いのにはまいったなぁ…目の前にこんな凄いところがあるのになぁ…

Dscf1695

shadow『このタイプのレンズのボケ足が、これまた良いんですよ…』

『へぇ~っ検討してみます』

いっや~っ…sweat02
思ったとおり話が長引いてきた。bearing
『退屈だよねぇ…座れるところもないし。ホント、デリカシーないって言うか…そっちも大変でしょ?』

Dscf1747 virgo『は…はい… たまにならまだしもね…sweat01

『いつもじゃないんだけどさ、ちょっと遠出したら「当然の権利」みたいによるところを決めてるし、その間なんかこっちのこと放ったらかしだもの…』gawk

virgo『はっきり言ってみたら良いんじゃないですか?』

『言えるなら言ってるよ…ダメなんだよね。近頃はストレス感じてる…』weep

virgo『それじゃ良くないでしょう?言わないとわからないこともあるし…』

『うん…そうなんだけど。でもさあイキイキしてる顔見せてくれるのは、こういうところだけなのさ…。そっちはどうなの?』

Dscf1761 virgo『ええっ?sweat01そう!ヒッドイですよぉ!映画1本連れってってくれないし、毎週のようにですよ。こういうところ!』
…つい、相手に合わせてウソをついてしまった…sweat01

『よくガマンできるよね』gawk

virgo『いやぁ…問答無用ですよ。「次行こう」とか「早く行こう」とか興奮しまくって鼻血ブーです』
これは自分のことだな…ハハ…sweat01

『あの人、そうは見えないのにね…それに比べたら私はまだ甘いんだなぁ…。でもさあ、一緒にいてもひとりっきりみたいなのさ…なんだか…』think

shadow『アキさん?なに話してるんですか?こっちに来てくださいよ』

えっ!ちょっとぉ師匠sign03sweat02今、話を振られるのマズイよぉsign03sweat01

shadow『えっ?なに?どうしたんですか?へんなポーズして…えっ?違う?なんですか?はっきり言ってくださいよ』

virgo『あのアノあの…sweat01ちょっと外の空気吸ってきますぅ…sweat01カビ臭くて具合悪いんで…ハハハsweat01
いっやぁーsign01師匠のバーたれっsign01空気読めsign01空気sign03

shadow『そうですか?それほど感じませんけど…むしろさわやかな…』

virgo『一緒に行きませんか?話長そうだし…』

『はい…』delicious

Dscf1766

ピコピコ…

virgo『あ…sweat02

shadow『アキさん!あれ?そういえばカメラは、どうしたんですか?』

virgo『あっちゃあぁ…mist
バッテリー生きてたのか…スイッチ切ってなかったみたいだ…sweat02

『カメラって…』

shadow『そうだ!アキさんのカメラ見せてもらえますか?あれがまた良いものなんですよ』

『あんたも…? …なの?』coldsweats02

virgo『ははは…sweat01 はい…実は…sweat02

『私をだましたの?』coldsweats02

virgo『いいえ…sweat01決してそういうわけでは…sweat02
ヤバイ…どうしよう…sweat01

shadow『あれ?どうしたんですか?』

Dscf1792

…なにさぁsign01どいつもこいつも廃墟sign01廃墟sign01廃墟sign01って!まともな人間いないのsign02bearing

『ちょっと!美玖…?どうした?』

『いやあぁぁぁっっっsign03もう嫌だぁぁぁっsign03こんなの耐えられないsign03crying

Dscf1730 virgo『待ってsign01どこに行くのsign02
ヤバイsign03ヤバイことになった…sign03山の奥の方へ行っちゃったsign03

shadow『あれっ?なにがあったんです?』

virgo『師匠のバカぁっsign03impact

『マズイsign01連れ戻さないとsign03
彼氏の人はあわてて後を追って走っていった。

virgo『私も行きますsign03

『美玖ーっ!おーい!』

Dscf1800

見渡す限り人の足跡を感じないフキの海に埋め尽くされた炭鉱跡。
どこへ消えたのか、既に彼女の姿は見えない。
この緑の中に一瞬にして飲み込まれたみたいに…
その真ん中で、彼はただオロオロしていた。
いったい…いったい、どこへ行ったんだろう。
たぶん…ここにいる誰にもここの土地勘はないと思う…。

shadow『はて?なにかマズイこと言いましたか…?』

                   (つづく)

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2009年3月20日 (金)

廃墟の歩き方Ⅲ 「ら・ら・ら」①

Dscf1776

「えーっsign01まだ先があるのーっsign02coldsweats02

「うん…こんなに奥深いとは思わなかったなぁ。さすが炭鉱だよ!ほら、向こうにもホッパーが見える。スッゴイなあ…」

Dscf1712 『スッゴイなあ』って…sweat01 知ってたんじゃないのsign02annoy
せいぜい1、2箇所かと思ってたら何?この森は…次から次にボロボロな建物が出てくる。
ひとつの中に入って彼がシャッター音を響かせてたら『向こうにもあるよ』って次々渡り歩いていく。
黙って後を付いてきたけど車を止めた道はとっくに木立の向こうで見えなくなった。gawk

「大丈夫なの?ちゃんと戻れる?」

「うん!来たときの通り、辿っていけば大丈夫さ」

「なんだか…クマでも出てきそうなとこじゃない?」shock

話しながらならクマも寄ってこないんじゃないかなあ…」

「かなあ…」とか言うけどクマに聞いたわけじゃないじゃん!
あ~っ…それにしてもどこまで行くんだろ… あっ…また向こうにもある…shock

Dscf1711

Dscf1716 virgo「スッゴイですねえ!heart02師匠ーっ!入口んとこのゴミの山見たら正直メゲましたけど。これはもう鼻血ものですよお!」

shadow「うん!大願成就です!うちからじゃここまでは滅多に来られませんしね。途中の街でポジフイルムを調達できなかったのが残念でしたけど…」

virgo「夕べ、ここのことを調べたら『クマの生息域なので単独行動はしないこと』とか警告を載せてるところが多かったですよ。出るんですか?ここ」

shadow「出たという話は聞かないですけどね。これだけ人里離れるとありえないことではないでしょう。エゾシカでもいれば少しは安心なんですけどね」

virgo「そうなんですか?」

shadow「シカも用心深いからクマの気配のあるところには近づかないそうです」

virgo「あっ!師匠!向こうにもnoteホッパーホッパー!heart04

shadow「はいはい順番にね」

Dscf1722

「ちょっとおーsign02happy02

「なに?」

「今の聞こえなかったsign01wobbly

「何が?」

「獣の鳴き声みたいな…さかってるみたいな…」shock

「いやー、聞こえなかったけど」

Dscf1821 確かに聞こえたよ!coldsweats02 風なんかなかったし…
クマの声は聞いたことがないけど、テレビか何かで聞いたけど木の上のサルが人間が来たのを威嚇するみたいな声が聞こえた気がする。

「こんな人も滅多にこないようなところまで来てヤバくない?」

「そうでもないみたいだよ。結構あちこちに足跡もあるし…」

そういわれて下を見ると、湿った粘土状の土の上に靴跡がたくさん見える。
こいつみたいなもの好きが他にもいるんだろうか…
それよか、私のソールもすっかり泥だらけだ…トホホ…泣きたいよ。crying

「あそこまで行ったらとりあえず今日は戻ろう。これ以上行ってもキリ無いみたいだし」

「ホント?わかった」happy01

彼の指差す向こうにひときわ大きい建物が見える。
ともかくあそこまではガマンだ…catface

Dscf1728

virgo「師匠ってクマと遭遇したことあるんですかあ?」

shadow「いや!ないです。でも、新しいフンを見たことがあるし、何かが近くにいる気配も感じたことがありますよ。その時は、さすがに深入りできませんでしたけど…」

virgo「ここって遺構がたくさんあって嬉しくなっちゃいますよォsign03正気を失いそうsign01

Dscf1725 shadow「倒産ではなくて閉鎖ですからね。場所によっては国有地だったから閉鎖のときに原状回復でほとんどの建物を解体したところもあるようです。この辺りは、まだ地権は保有されているのでしょう」

virgo「あっ!あっちの大っきいsign03すぐ行きましょうsign01

shadow「話、聞いてませんね…。やれやれ…」

virgo「えっsign02何か言いました?」

shadow「いや!アキさんもカメラの腕が上がったなぁって…」

virgo「もっと言ってください!私、褒められて伸びるタイプですから」

Dscf1753

bearingあーっシンドイなぁ…。どうしてこんなところをサクサク進んでいけるんだろ?カメラとか三脚とか持ってて…。
同じ道を戻ることを考えただけで、うんざりだなぁ…とにかくここで終わりらしいから、この辺で待ってよ。

  ガサガサッ!

        「えっ?なに!」coldsweats02

Dscf1750

virgo「あ…あれっ?」

shadow「どうしましたか?」

virgo「あの…いや!後で話します…」

あれーっ?なんでバッテリー切れるんだよぉ!おっかしいなぁ…こんなはずじゃないのに。
やっぱりフイルムカメラも持ってくれば良かった…
ん…?

virgo「師匠sign03なにかいますsign01今、あそこでなにか動いたsign03

shadow「シッ!静かに…」

Dscf1736

何かいる!壁の向こうに…!coldsweats02
どうしよう!私ひとりだ。ヘタに動いたり騒いだりして、もしクマだったら…
どこにいる? あっ!あそこだ!
手を振ってみよう。
離れ過ぎてて全然気付いてくれない…weep そうだ!何か投げてみよう。
この棒でいいか…それっ!
あーっsign01 impact当たった…coldsweats01

「痛っ!なんだよ危ないな!」

Dscf1754

Dscf1774shadow「あれは人ですよ。『痛っ』て聞こえた」

virgo「誰か住んでいるんですか?ここに」

shadow「いや…同業ですね。静か過ぎるし、心霊系でも昼真っからは来ないでしょう。かすかにシャッター音もするようです」

virgo「さすが師匠!年の功!」

shadow「褒めているんですか?それ…」

virgo「もちろんです!師匠も褒められて伸びるタイプです。さあ!行ってください!」

shadow「なんか変だなぁ…」

Dscf1789

「ギャーッッッッsign03助けてぇーッsign03shock

「何だ!どうした?」

shadow「決して怪しい者じゃありません!」

virgo「そうです!怪しく見えても実は違います!」

shadow「どういう意味ですか?それ…」

virgo「ははは…sweat01頭悪いんで上手く言えないんですよ」

「どちら様ですか?」

shadow「いや、僕らもここを撮りに来ただけで…驚かせてすいません」

「そうですか。こんな場所で同業と会うのも珍しいですね」

同業? なんだコイツら!pout
死ぬほど驚かせて何のんびりしてるんだ!
あ…壁に寄りかかったから服が汚れたよ。トホホ…crying

virgo「ゴメンね。驚かせるつもりじゃなかったんだけど」

「いえ…大丈夫です…」gawk

Dscf1727

shadow「どこかサイトやってる方ですか?」

「いいえ。単に写真が趣味で撮るだけですよ。サイト運営してるんですか?」

shadow「はい『廃墟楓』というのを…」

「あーっ!良く見てますよ!すごいですよね。あの写真技術は!」

shadow「本当ですか。それは嬉しい! これ…私の名刺で、今後ともよろしくお願いします」

「いやっ!これはご丁寧に…仕事用で失礼ですが、こういう者で…」

angryなに? こんなとこで名刺交換? 信じらんない!
嫌だな… なんだか長引きそうだ…

Dscf1708

「ねぇsign03お互い大変ですね…」gawk

virgo「えっsign02何が?」

「変な趣味の男と付き合ってるとさぁ…sweat02うんざりするよ…」sad

virgo「えぇっsign02あ…sweat01そ…そうですよね…確かに…」

そっかぁ、この人は趣味じゃないんだ…
まいったなぁ…『私もそうなんです』とか言えないなぁ。これじゃ…

                        (つづく)

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2008年10月 6日 (月)

やすみざか

Dscf3324

坂がキツくて長いので 休み休み登らないとならない
ゆえに ついた名が「休坂」

それが真意かどうかは不明だが ここに暮らす人々にこの名で呼ばれ、通り名になった…

Dscf3300

Dscf3296 釧路の坂には面白い名前がある。ほかにも「学問坂」とか「きんぎょ坂」など文学的でしゃれたネーミングの坂があちこちにある。
歌・詩人の石川啄木が北海道放浪期にこの地で新聞社に勤めていたことなどから文学的背景があるからそんな印象を感じるのだろうか。

この「休坂」
釧路幣舞橋の向こう側にあるロータリーから海側へ走る南大通りの脇にある。
歩行者専用道と言っても現在は舗装されているので、さほどキツさは感じないが、往年の砂利道のころ、それも行商のリヤカーなど引いていれば確かにキツそうだ。

Dscf3297 郊外に出ないと地形に起伏が出ない平野地に暮らしているから、こんな町自体が起伏に富んでいて街路がウネウネしているところが面白い。
こんなところは日本中、どこにもあるのだろうけど、広くて見通しが良くても平坦で碁盤の目のような区画の街に生きてきたから近場のこんな街にロマンを感じてしまう。

ドライブがてら何度も訪れたことはあるけれど、自分の足で釧路の路を歩いたことがあまり無かった。
一度、ゆっくり街を散策してみようと一泊の旅に出た。
「旅」の雰囲気が欲しいので宿もいかにも「旅人用」なところを選択してみよう。
書店で何度か手に取ったことのある雑誌『とほ』。

「とほネットワーク旅人宿の会」監修による全国72件。“ひとりからでも泊まれる「旅人宿」ガイド”。

登録宿の特徴は
①リラックスできる個性的な宿
②宿主が24時間常駐する安心清潔な宿
③ドミトリースタイル(男女別相部屋)なので低料金
④旅が好きで、コミュニケーション好きな個性的な宿主

パラパラとめくると主に旅のライダーが利用するみたいだ。荷物を満載したオートバイの写真が載っている。
確かに個性的な宿が多くて、経験したことのない世界が見えそうだ。

今回は釧路ということで、先の坂の名を持つ『休坂』にお世話になることにしました。
この宿、『酔いどれ宿』の肩書き。「酔いどれ?」
まぁ とにかくメールで予約を入れてみます。
翌日返信があり、宿の手配はOK。

Dscf3270

当日、旅路あちこちを見たり、海でビーチグラスを探したりなんかしながら、ゆっくり向う。
目的があっても近場の旅路を急ぐのは、もったいない気がするから…。

でも百十数キロを7時間かけるのは、どうかと思うよ。

脇道入れるともう少しは走っているか…

Dscf3319 「酔いどれ宿 休坂」は休坂の途中にあり、古い下宿屋さんを改造して営まれている。
『カレーや黒魔術』というカレー屋さんを併設して、隠れた穴場らしい。
そのカレーも目当てにしていたのですが…

元下宿屋の建物という話の通り、古いけど懐かしい感じがする。
階段やら廊下に所狭しと並んだ本や飾りの漁具の類。
床板が 「キィ!」 と鳴いたりしてちょっといい感じの雰囲気。
一流ホテルは、自分には不相応だし、ビジネスホテルも無機質だと思う。
学生時代に過ごした下宿もこんな感じだったから、なんだか落ち着く。
部屋は四畳半ほどに造りの二段別途がふたつ。
お風呂は近場に銭湯があるらしい。
まだ、今日の宿泊客は到着してないみたいだ。

Dscf3380

Dscf3376 『今夜、宿泊の皆さんと共同でシャブシャブにしようって話になっているんですよ。よかったら参加しませんか?』

うーん それも悪くないかなぁ…

「そうですね。参加します。ぜひ!」happy01

まだ陽は高かったので釧路の街を歩くことにする。
この街も帯広と同じで大規模量販店が郊外に移り、中心街の活気が沈みがちに感じた。
車の中からは気が付かなかったけど「空テナント」や「売物件」などの貼り紙が多い。

Dscf3304

「住んでみたい都市意識調査」なるものがあって、№1が「札幌」だそうです。
狸小路もひところより休みの日の人出は減ったようです。
郊外型は、どこでも同じということでしょうか…。

Dscf3282 夜、銭湯へ行ってから「シャブシャブタイム」でその日の宿泊者と席を共にしました。
ほとんどが道外からのライダー。
今朝、東京を出てフェリーで苫小牧着、そのまま釧路まで…。
なんだかすごい強行日程だなぁ…

連泊組もいて のんびり近場を巡ったり、漫画読んでいたりするそうです。
ちょーっと『廃墟』の話なんかもしておよそ興味なさそうな話でも食いついてきてくれるんですよね。
一度知り合ったらもう親友みたいで、しばらく忘れていた感じ。

Dscf3312 思ったのは やっぱり北海道の魅力に詳しいのは彼らだってことだなぁ…
自分が知らないことをずいぶん知ってる。
「旅人」だからありのままの北海道を見ることができるんだろうね。住んで当たり前になった景色にも感動できるって言うか…

こんな宿のマスターだからイカツイ風貌からは想像もつかないほど心が柔軟です。
懐の深さを感じるって言うか…

北海道観光もどんどんメジャーになってきて、諸外国からのツアーもたくさん来て、豪華な日本・北海道のもてなしをしてるけど、しょせん一時の贅沢旅行で終わって、その先のリピーターができないとどうなるのかなぁ…
実情は現場の人じゃないので想像できないですが。

Dscf3316

地球儀をクルクル回してやっと見つかるような小さな島国

その突端の北の大地

そこの点にもならないようなところに自分が住んでいる

そして 回りの多くが行ったことのない街で

通ったことのない路

だから とりあえず今のところは

自分には余りある小さな器を見ていよう

…と思う。

Dscf3320

Dscf3292「休坂」の時間は明け方近くまで続いた。

翌朝の予定が3時間ほど遅れたけれど
チェックアウトのルーズな宿の朝 

早出のライダーと挨拶を交わして出発。

心の疲れが一番重たい。

体の疲れは一時のものだよ。 

心の重荷が軽くなれば まだがんばれそうだし

Dscf3290 そのほうが 充実すると思う。

その疲れを

ふるい落とすのも 掻き落とすのも 燻り落とすのも

その人の自由… いちおーね。

旅は面白い。 それは今からでも遅くないし

遠くでなくてもいい

心を晒して 干せるところならば

だから 「休坂」の真意は「体を止めて心を休める坂」なのだと思うよ。

『体』という字が一本荷を降ろせば『休』となるように…

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2008年9月19日 (金)

コッペリアの柩 ③

Dic1

「表に行こ!なんか、にらまれてるから」

私もつい大きな声を出したものだからカウンターの係の人が気になるみたいで、こっちをチョロっと見ていた。
昼過ぎとはいえ、太陽はまだ高い。底を平らにした夏の雲がゆっくり流れていく。

Balet_2 「…で、どうして辞めちゃったんですか?バレエ…」

「え…その話?…聞きたい?」

ナチさんの表情がちょっとこわばった…マズイこと聞いたかなsweat01

Dscf2382「いえっ無理には…」

「別にいいよ。近所に住んでた男の子に『気持悪い』って言われてね頭の中が真っ白になっちゃったんだ。…で、その日のうちに『辞める!』って…『習いたい!』って言ったのも自分だったけど」

「そうだったんですか…すいません」

「いいのいいの!男の子には理解できないんだろうからさ。いつもいっしょに遊んでた子なんだけど、頭はともかくスポーツ万能でさ、特に泳ぎなんか信じらんないくらい凄かったよ。私、劣等感感じてたんだよね。そんでバレエ始めたんかなぁ…あの頃、ただ憧れてて考えなかったけど、認めて欲しかったのかなぁ…自分もできることがあるって」

「残念ですね…」 どうもうまく言葉が出ない…sweat02

Dscf5916

「それがさ!結果的には見せたんだよ。うちの近くで良く探検した廃校でね。衣装も無しの1対1で。」

Dscf4968 「そうなんですか?!」

「うん!感動してくれたよ。でもねー引っ越しちゃったんだ。その後すぐに遠いとこへ…」

「…」

「それで終わり!バレエも探険も」

そう言いつつナチさんは、何かを思い出してるみたいだった…言葉を出せない静かな時間

「あっそうだ!バスの時間だ!ごめん!もう行かなきゃ!ごめんね、つき合わせて…」

「いえっ!私こそ色々教えてもらって…」

「じゃねーっ学校で会おうねーっ!私、A組だからーっ」

Nagisa_nail2 大きいスポーツバッグを肩に背負ってナチさんは駆けていった。時折振り返って手を振りながら…
振り返す私の手をふと見ると爪が緑色に変わってきていた。

もう時間だ…

このところ居候していた家の畜舎の屋根裏でずーっと今日のことを考えてた。

「友達か…でも学校にはいけないよなぁ」

結局ズーッと嘘を付きとおしてしまった。
本当のことなんて何ひとつ言えなかったけど…言っても信じてもらえないだろうけどさ…

Dre とりあえず、明日の朝が来たらこの町は離れることにした。
読みかけだった「ダレン・シャン」は残念だけど、またいつかよそで読むことにしよう。

誰にもホントの気持を出せないまま本を読みふけっている私は確かに『コッペリア』と同じなのかもしれないね。
でもバレエのように華やかにはなれないんだろうね。私は…

…うーん、ダメだ! こんな考え方!

できることならホントの友達になりたいね。ナチさん…

西日がドアの隙間から差し込んで薄暗かったここが一瞬舞台のように輝きだした。…バレエは良くわからないけど光の中で踊ってみる。こんな感じかなぁ…。でもモヤモヤした気持ちがなんだか薄れていくようだった…

Nagisa_ballet2

Pfa023 「ねぇーっフジタぁーっ」

「あのなぁ新井!俺は担任であって友達じゃないんだぞ?そういう呼び方はやめてくれ!」

「えーっ?なにカッコつけてるのさぁ!フジタはフジタじゃないさ!」

「…それでなんだ?」

「そうそう!うちらの学年に転校生来るっしょ?いつから来るんだろ」

「いや、そういう話は聞いてないぞ」

「いるよぉ!昨日会ったもぉ図書館で!もう制服だって着てたしぃ!」

「いないって!お前、数学の時居眠りしてたろ?俺の授業中に夢見ないでくれよ…もう部活の時間だろ?ほどほどにがんばれよ」

「えーっどうなってんのさ?ナギサぁ…確かに会ったよねぇ…?」

Kumo

その頃 ナギサは、風の上
雲の間を飛びながら後ろ髪引かれる想いを押さえ込んでいた…

このふたりが再び出会う日のお話は
また次の機会に

Youtube/ALI PROJECT「コッペリアの柩」

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2008年9月12日 (金)

コッペリアの柩 ②

Ruin_sky

Nagisa_down誰が見ても一見普通の少女“ナギサ”
帰宅バスに乗り損ねた町の子“ナチ”とたまたま出会いました。
ナギサは、本当はこの世のものではない自分が『生きている人』に化けることが、少し面倒なことにもなるんだと思った。

ところが、その子が「私、幽霊だったよ」言い出したことから会話がチグハグに…それは、ナギサの早とちりだったわけです。『ジゼル』とか『ウィリ』なんて難しい言葉が出てきたものだから…

『ジゼル』解説 『コッペリア』解説 出典:フリー百科事典ウィキペディア

「コッペリアって…?」

「えーっ!.知らないの? そっかぁ!一幕とかの区切りしかやってないのかなぁ。どんなとこだった?」

「うーんと…風に乗ってー、ひとつ目の巨人さんに会ったり…」

「はぁっ?おかしいなぁ…『コッペリア』ってそんなんじゃないよ。ちょっとおいで…」

Coppelia_2 ナチさんは図書館の中に戻って左右の棚をキョロキョロ見上げながら奥へ向かう。ある棚の前で止まると本の背を指でなぞりながら1冊抜き出してパラパラと…

「これこれ!変わり者の老人が作った自動人形、これがコッペリアで、いつも窓辺で本をよんでるの。…で「ジゼル」っていうのが…」

「あれ、なんの話でしたっけ?」

「バレエの話だよぉ!何だと思った?」

「ナチさんが幽霊だったっていうから…」

「幽霊って役の話だよ!私が幽霊のわけないじゃん!あんただってそうでしょ?」

Nagisanachi_2「はい!生きてます。私!幽霊じゃないです!」

「あはっ!なんか面白い人だね ナギサって!」

あぁ~私…変人だなこれじゃ…“幽霊”とか言われてつい…coldsweats01
あ…時間…まだ大丈夫か…緊張するなぁ…
それから学校の話をたくさん聞いた。
クラスのこととか担任の先生のこととか…

「家はどのへん?近いの?」

Win

「いや…えーと、少し遠いです…どこっていうのかなぁ」

まさか誰もいない空家とも言えないし

「まだ住所よかわかんないか…。たまにあるよね。郊外に家を建てたり農家跡の空家を直して入るとこ…そんなん?」

「…うん」 なんだか嘘ばっかりついてるな…私って。

Dscf6574_3 「そんな空家に勝手に入って秘密基地にしてたことがあったよ。ずいぶん前だけどね」

「そういうところ好きなんですか?」

「そうじゃなくてーっ!近所にいた子が、隊長で私を隊員にして探険ごっこしたのさ。『廃墟』とか行ったり、川で泳いだりーとかしてさ…」

Ruin

そう言うとさっきまで元気だったナチさんは、電池が切れたおもちゃみたいに急に静かになった。

「どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないよ!でも、安心した」

「えっ?」

「ずっと家にいて、ひとりで本を読んでた…っていうからさー。ちょっと心配したけど全然話すじゃん!自閉症なのかと思ったからさ」

そっか…私の事情知らないもんね。でも話すわけにもいかないか…信じられないだろうしね─

「人は人形じゃないから自分に閉じこもってちゃいけないんだよね」

「いや!人形は人形の生き方があるんですよ。自分の生まれた意味も知っているし、動けない自分を呪うこともないんですよ。人形はやっぱり人形でいたいと思ってるし…」

Dscf1582 この前会った“ミハルちゃん”のことが頭をよぎって、つい出すぎたことを言った…。 気がつくと、ナチさんが目をまん丸くする。

「ビックリした…」

「すいません!つい…」

「いや…ナギサの言うとおりだよ。私そこまで考えなかったなぁ」

ナチさんはそう言って笑ってた。
なんだか嬉しそうに…

(つづく)

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2008年9月 8日 (月)

コッペリアの柩 ①

Bus

「あ~っ!また置いてかれたぁ~っ!んもぉーっ!毎週毎週!」

とある土曜日の午後、部活帰りのバスに乗り遅れた子がひとり。
ここから話は始まります。

Dscf2722 一方、同じ町の図書館。
ずーっと本の虫になっている制服を着た少女がいた。

その子が今回のナギサの姿─

このところ数日、この町に留まってる。
ずーっと風に乗って旅をしてたんだけど図書館を見かけたら久しぶりに本が読みたくなった…
今は、仮の体で誰の目も気にしないでいられるから嬉しい。
郊外の人のいない農家の跡に泊めてもらいながら毎日、図書館の開く時間を心待ちにしている。もう5日位になるかな…

Cop_top

「毎日いらっしゃいますね。良ければ借り出してご覧になってもよろしいんですよ」

「あ…いえっ!この町のものではないんで…」

「今は町外の方でも管内であれば広域貸し出しが可能なので、よろしければどうぞ」

「あのぉ…ちょっと遠いところで、短い間だけなんですよ…」

Gg084_l一度、図書館の人に声をかけられてから同じ姿で行くのはマズイ!ってことで町の人を観察して、毎回姿を変えていくようにした。
それというのも、今は読みかけの本が面白くて離れられないんだ。
夢中になりすぎて体の限界時間ギリギリであわてて出て行ったこともある。それからは壁の時計の音が聞えるほど近くにいることにした。
でも毎日2回、違う人が同じ本を同じ場所で読んでいるのって変に思われないかなぁ。悪いことしてるわけじゃないからいいか…

ナギサは風に乗って旅する幽霊。その道すがら、大気中に散らばる素(元素)を合成して仮の姿を作る術を身につけた。でもその体は4時間の制限があり、時が過ぎる前に出なければ体は萎縮し「石」になって閉じ込められる危険がある。まだ家に閉じこもって明るい日差しの世界を恐れていた頃にひとり読書にふけっていたことから読書好きになっていたのだろう。
本の魔力が何かの思惑があってナギサをこの町に足止めさせていたのだろうか?

Dscf1970

Nagisa2_3 その日のお昼過ぎ、制服姿の子を見て「午後は、あれでいこう!」ということにした。
うーんと、さっきまでのページはと…

それから10ページくらい読んでいたら
急に背中をドンッと強く押された!

「わっ?!」

「ちょっとー、ミクーっ!図書館なんて、アンタらしくないとこいるじゃんか!」

Monoomoi 思いのほか大きな声だったので貸し出しカウンターの人が一瞬こっちをジロッて見た。happy02
私はイタズラを叱られた子猫みたいに…すごく悪いことをしたような気持がした。うつむきぎみにそーっと後ろを振り向くと…

「あーっ…違う!ごめん!間違えた…」

同じ制服を着て、大きなバッグを肩に背負ったその子は、まん丸な目で私より驚いたみたいに口元を押えてた。

「ごめんね!後ろから見たら友達と思ってさぁ…」

「いえ…いいんです…」

「でも余り見かけない子だね。何年?うちの学校だよね」

マ…マズイ!マズくなってきたよぉ…coldsweats02

「えーと…あの…1年です」

「へーっ同じじゃん!でも知らないなぁ…もしかして転校?」

「は…はい!そうです!転校ですsweat01

「そっかぁー私、ナチ!あなたは?」

「ナギサ…」

「よろしくね!今日ガッコ来てた?土曜だけど」

「…」

「たぶん転入試験かぁ…私、部活で出てきてたんだけど、それがさぁ─」

Dscf2721_2

「雑談はロビーの方でお願いします─」

彼女の大きな声で、カウンターの人に注意された。

はーい!すいませーん! ねぇ時間あるしょ?友達になるんだから付き合ってよ。バスに乗り損ねて2時間くらいヒマでさぁ~」

「は…はい…」 やれやれ困ったことになったぞ…gawk
読みかけの『ダレン・シャン』がぁ…weep
逃げれば良かったかな…でも普通なら逃げる理由ないし─

「私、バレー部なのさぁ 今日も部活でね」

「バレーボール?」

「うんそう!それがさぁ私、小学校の時バレエやってた時があってね。それをどこで聞いたんだか『経験者なら入れ!』って顧問が話も聞かないでさぁ…全然違うのに」

「はぁっ?」

「あんね!わかんない?私がやってたのは“バレエ”バレーボールじゃないの。わかる?」

「あ…ああっ!わかります!」

「そんで無理矢理やらされてさーっ『何だ全然じゃないか!』ってことになったのさ!ところが、訳を知っても辞めさせてくれなかったわけよ!『お前は身長があるから向いてる』って褒め言葉にもなんないよ!」

Hd084_350a

「ハハハ…へーっ、バレエをやってたんですか。お姉さん…」

「お姉さん?あれ!同じ歳じゃないの?」

「同じ!同じです!大人っぽいからつい…sweat01

「私も嫌なら辞めれば良かったんだけどね。ズルズルとさ…」

Hd088_350a「バレエってどんなのをやったんですか?」

「いやーっそんなにやってなかったよ。3年も続かなかったから…発表会の『ジゼル』で役をもらったのさ。私、幽霊だったんだよ」

「ええっ?!そうなんですか?」 それは意外だったなぁ…私と同じ人がいるんだぁhappy01

「うん 暗い森に住む精霊…」

「実は…私もそうなんです」

「えっそうなの!奇遇だね。…で、何?ジゼルとかミルタとか他のウィリとか…」

「へ…?いや…私こっちへ来るまでは、ひとりで家にいてずーっと本ばっかり読んでたから…」

「え…?なんか違うんじゃない?それって『コッペリア』じゃないの?」

『コッペ…』?何それ。あ~っなんだか頭が混乱してきた…

(つづく)

YouTube『ジゼル』   YouTube『コッペリア』

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2008年7月27日 (日)

0の丘∞の空⑥ 約束

Nagisa_stand

本当の体じゃないと聞かされたけどさ、この手には確かに血が通ってる気がする。 いろいろ悩んだけどさ、いざ自分の体を手に入れると嬉しくて思わず笑みがこぼれてきた。
もっと真面目に考えなくちゃいけないんだ!
でも、嬉しい…うれしいよ!

Green_storn2 「どう?感想は?」

「うれしいです!…でも、あんまり久しぶりだから…重いです。体がなんだか…」

「慣れるのにちょっと時間がかかるかもしれないね。でも、くれぐれも時間はオーバーしないようにね」

「はい…でも、その時間ってどうしたら分かるんですか?」

「爪を時々、気をつけて見ていればいいよ。今はヒトと同じピンク色だろうけど、時間が経つにつれて緑色になってく。あきらかに緑色だってくらいに色が鮮やかになったらその体から出られることができる。そうなったらすぐに内側から突き破って外に出なきゃいけない。その体は、元の光の粒になってすぐに消える。だけど、もし爪が茶色に変わってチョコレートみたいな色になると仮の体から出られなくなり、そのまま石みたいに縮んで閉じ込められることになるよ。僕みたいにね」

Dscf7385 大丈夫かな? 私、すぐポカンとするからなぁ…いやいや!そんなこと言ってられないよ。でも…この人はどうして失敗したの?

「あのー」 「なんだい?」

「どうして…そんな風に?」

「僕はたくさんの約束事を破ったからこうなったんだよ。だから仕方がない…」

「聞かせてください」

「…そうだね。話しておいてもいいかな…」

Dscf7270

僕は妻と生まれたばかりの娘の3人家族でね。機械の修理が仕事で車であちこちを行き来してたんだ。月に数回しか家に帰られないこともあったんだけど娘の成長を見るのが楽しみでね。赤ちゃんの頃はホントに大きくなるのが早いんだよ。帰るたびビックリしたなぁ…

Dscf7298 それがある日の帰り道で、居眠り運転の車と正面衝突する事故でそのまま死んでしまった。始めは自分がどうなったのか分からなくて、家に戻って驚いたよ。僕の葬式の準備の最中さ。奥の部屋に変わり果てた僕が寝かされてて…
あまりのことに、ただオロオロして妻や同僚にも僕がここにいることを教えようとしたけど…ダメだった。もう僕の声は誰にも届かなかったんだ。
何も知らない娘の寝顔だけが救いだったけど葬儀も終わり、僕の体は灰になった。
思ったよ…もう全て終わったんだなぁって。通夜の夜、娘を抱いた妻が涙ながらに「お願い!帰って来て!」って叫んでたのが心に痛かったよ。

Dscf7281 せめてずっと側にいようと思ってた。だけど、娘がやっと壁をつたって歩き始めて転んで額を少し切ったのをすぐ前で見ていながら何もできなかったことで思った。何もできない僕はもうここにいるべきじゃないってことに…

全てを忘れるためにあても無く出て、そこで思いがけず出会ったのが、あの石炭さ。
飛びついたね。その話!ダメだと言われたら燃やしてやるって脅かそうと思ったくらいさ。彼は「いいさ!別に。」と軽く教えてくれたけど、変身前後を人に見られないように気をつけることと時間に限りがあることを教えられたよ。そのときの僕にそれが重大な問題には、考えられなかったけど夢のような方法だと感じてた…

Dscf7288 ところがだよ。喜び勇んで自分の家へ飛び込むように帰ってみたら歓迎どころか恐怖の的さ。「出てって!」と言われた。
当然だよね。僕の『死』は現実のものだったんだから。
僕は、つい軽率な考えに走ったんだよ。

Dscf7278 それで行く当てのない僕は、ここへ戻ってきた。でも自分がこのまま存在している意味はもう無かったと思う。
彼(石炭)は「第二の人生さ。楽しめばいいよ」と言ってたけど、そんな気力もなかった。ただ丘に来る鳥達を眺めたり、気晴らしにクマの奴をからかったりしてたよ。時間切れ寸前に腕を噛ませといて「ポーン」とはじけて消える…
クマのやつの悔しそうな顔ったらなかったね。

「えーっ嫌だ…」

そのうち、そんなことにも空しくなってきた頃にうっかりやっちゃったんだよ。爪の色が変色してチョコボールみたいだった。もう遅かったんだ。そして、そのまま…こうなった。でも、どうでもいいやと思う。こうして何も考えずに転がってるのも悪いこっちゃない。
たまにイタズラに来る奴らに踏まれたり転がされたりはしたけど…

Hacca 「…かわいそうな話ですね」

「いや、それほどのことじゃないよ」

「でも、このままでいいんですか?お嬢さんのこと見守ってあげることもしないで…」 

探ったポケットの底に…あった!ハッカ飴

「…今さらね。辛いだけだよ」

「私がお譲さんだったら、わからなくてもいいから側にいて欲しいです。何もかも捨てても思い出はどこまでも付いてきますよ」

「……もう遅いよ。ここからは出られない」 

「遅くないです!私がやってみます!」

「ダメだ!それは自然との約束を破ることになる!甘くないんだ!」

「自然がそんな仕打ちするなんて私は認めない!」

Light 私は、自分に変なところがあることに気が付いていた─
─何か不思議な力が私にあること─
─私のポケットには、いつもなぜか『ハッカ飴』があること─

ずーっとそれが『意味すること』を考えていた。
そして試してもみたし、練習もした。だからこのくらいの石なら…
ハッカ飴が口の中で融け出すと、なにか新しい力が湧きあがるのを感じる。

Rockbrifgt 頭の中でイメージする。この石を砕くことを想像する。
その想いは、掌から糸のようにかすかでハッカのように透き通った光の筋を放つとスーッと音も無く、染み込むように石の中へ消えていく…
これでいい何度もやってみたとおりだ。うまくいけばたぶん…

石はゴトゴトと音を立てて揺れだす。

ドーン!

Bom 「わっ!ビックリした!!」coldsweats02 石は、大きな音とともに粉々に破裂。同時に光の粒も飛び散った。土埃が舞い上がり、辺りはよく見えなくなる。窓から建物のどこかにいた鳥さんたちがあわてて飛び去っていくのが見えた。

「だ…大丈夫ですか?!」coldsweats01 自分でやっておきながら、あまりのことに驚いた。
石の欠片もない!私、やりすぎた?丸ごと吹き飛ばしちゃったのかな…shock
やがて埃が静まっていくと、石があった場所に白い影が浮かび上がってきた。

Fun 「いやぁ…荒っぽいね…」

「すいません!ごめんなさい!やりすぎました!」

「いや!やっぱり君の言ったとおりかもしれない。僕は自分の境遇に悲観してやるべきことをしなかったんだ。それに気づいたときは、もう遅いんだと思ってたよ。…だから返ってありがとう!」

「いえ!いいんです。私こそ…ありがとうございました」

「僕は、家族の元へ行くことにする。僕の娘の将来を見届けるために。君はこれからどうするの?君のご両親はどうしてる?」

Nagisa_holga 「わからないです。私のせいでどこかへ行ってしまって…ともかく旅を続けます。いつか会えるかも知れないから…それに今はいろんな経験ができるので楽しいんです」

「そうか…頑張ってね。それと君の手に入れた力…できれば、それで誰かを幸せにしてあげて欲しいな」

「はい!そうします。それじゃあ失礼します」

ペコッと頭を下げると、建物を後にした。
丘に吹き上がってくる風の中から遠くへ行けそうなのを探す。

Wait 「あーっそうだ!言い忘れてたよー。その体でいるときは、風に乗ったりとかできないよ!普通の人と一緒だから。時間までは体から出られないんだからねー。もっとも普通の人が死んじゃうほどの怪我でもすれば体のほうが分解するけどー」

「えぇえーっっ?!」 それぇ…キツイなぁ…coldsweats01

「とりあえず歩いて行きます。アハハハ…sweat01

無限の空が急に遠く感じた。
あのクマ…出てこなきゃいいな…

Last

かつて炭鉱として栄えた街跡の丘に佇む建物は、人にとって失ってしまった過去の象徴なのでした。

このふた棟も屍のような朽ちた体を晒してやがて無に返っていくことでしょう。
でも無は単に「ゼロ」ではないのです。
「ゼロ」は始まりのことでもあるのです。
そこから見渡す景色はどこまでも無限。今までも、この先もずっと…

人生はやり直せないというけれど大自然の一部と考えれば「ゼロ」に還るものではなく「無限」の一部なんだ。…そう思います。

だから、ここは始まりの場所 そういうことにしておきましょう

Youtube「0の丘∞の空」 遊佐未森

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2008年7月21日 (月)

0の丘∞の空⑤ 再生の光

5top

悲しみにくれるようなくすんだ壁の色に反して、色鮮やかな苔に覆われたその石は、まるで緑豊かなひとつの星のようにも見えた。
人探しに夢中で何度もその脇をすり抜けていたから石に話しかけられたとき驚いたよ。

Green_storn 「あの…私、ナギサっていいます。こんにちは…」

「はい こんにちは」

「実は私、幽霊で…あの、旅してるんですけど向こうの道のそばにいる『セキタン(石炭)』さんに聞いて…あの、魔法みたいなので生き返った人がここにいるから見てきてくれって頼まれたんですけど…」

Dscf7327 「うん それで?」

「あ…勝手に入ってすいませんでした。…私、その人を探してるんです。」

「そうか、その人とは、たぶんボクのことだよ」

えっ!この石が?! あ…待て待て!またココロを読まれてたら大変だ!
でもこの石が生き返ったことがある人ってのは何かおかしいなぁ…
そんなことを考えるので、つい石から目をそらせてしまう。本当の人が近くに隠れていて様子を見られてるんじゃないかって気もした。

Dscf7375 「実は…わたしもその『生き返る魔法』を教えていただきたいのですけど…」

「彼(石炭)に聞いたのかい?」 「はい…」

「君は、いくつで霊だけになったの?」

「9歳です」

「9歳?! 9歳か…ずいぶん早いんだね…そうは見えないけど」

「こ…これは、見た目だけ変わってるんです」

「いろいろあったんだろね。いいさ!彼にことわったんなら教えてあげるよ」

「ホントですか?ありがとうございます」

ずいぶんいろいろ聞く人(石)だなぁ…

Dscf7399 「ただし、残念だけど言っておくよ─」

「え…」 急に口調が変わって、私は思わず後ずさりしてしまった。

「『生き返る』ってのは無理なことなんだ!残酷なことを言うけど…それが自然との約束なんだよ…この術を知った人がみんな生き返って普通に生き続けられたら、たぶん世の中はメチャクチャになってしまう。人間の世界だけに係わらずね。これはこの星だけじゃなくて宇宙全体の約束事なんだよ。」

「…」 『無理』 やっぱりそう?
命は、やっぱりひとつだけなんだね…。
そんな都合のいい話は、やっぱりないのか… 
期待してた分だけガックリした…考えてなかったわけじゃないんだけど。
あれ?目の前がユラユラして見える。
私、また泣き出してしまったんだ。

Dscf7329

静かな丘の家の大きな家の中、私の涙を押し殺そうとするかすかな声だけが響いていたんだろう。
しばらくして、その石は、また話しだした。

「でも、自然は決して無情でもないんだよ。むしろその逆さ。それができるのが、この術なんだ。彼(石炭)が遥か太古の昔に土に埋もれたとき、土に還らずに自分達の姿をこの世に残すために見つけた術がこれなんだそうだ。それには『自然とのちょっとした約束』を守らなければならない」

Dscf7286

ちょっと難しい話になるけど…
この世の中にあるものは、硬いものや柔らかいもの、軽いものや重いもの色々ある。例えば青々と茂る木の葉と川原に転がっている石は、見た目も触った感じも違うということは君にも解るだろ?

はい…

Ge027_l ものには、それぞれ持って生まれた豊かな『性質』というものがある。
人の世界でも、その性質は違っても、そもそも『ものというのは何からできているか?』という疑問が昔から学者の間には、あったんだ。
最初それを解こうとした人は、水と火と空気と土という風に考えていたけど誰もが納得できる答えではなくて、ずっと後の時代になってから『分子』というものが発見されたんだ。さらにその分子は『原子』というものが組み合わさってできているということもわかってきた。
わかるかい?この話

─えーっよくわからないです…

うん。難しい話だよ。でも100年くらい前にその『原子』も実は、『電子と陽子と中性子』というモノすごく小さいものからできていることまでわかったんだ。

Dscf7296 ─???─

つまり、葉っぱも石も元を正すと同じ目に見えないような小さい粒が積み木とかパズルみたいに組み合わさってできているということなんだよ。
少し別のものも含まれているけどおおよそ、この三つのものからできていると思っていい。
その組み合わせのほんのわずかな違いが、硬いものや柔らかいもの…空を行く雲もそれを見上げる人も、その人が乗っている自転車さえも作っているんだ。
そして、君が生きていた頃の体も、今の姿も全ておんなじっていうことなんだね。それは自然が全てやってきたことなんだ。

Dscf7363 はあ…

そのパズルの破片は、何もないように見えるこの空の下に無限にある。
それを自然から借りるのがこの術だ。
ただし、それは借り物でしかないから生きている頃の姿になれるのは、ほんの短い時間。人から見れば生きている人と変わらないし、時間内なら生きている人と全く同じと思っていい。

─その時間って…どのくらい?

その破片の質によって違うけど僕の経験では、一番いい状態ので4時間くらいだろう。その後は、自分で体を壊して元に戻らないと…

どうなるんですか?

僕のような姿になるよ。体は一気に縮んで、ずーっと閉じ込められることになる。約束を守れなかったことへの罰だね

…それでその姿に? 聞いてゾッとした。永遠に石の中に閉じ込められる自分のことを想像して…。

Dscf7372_2

「…で、どうする?やめるかい?」

Dscf7294 自分のことだけど自分じゃ決められない気がする。どうしよう…ホントの体じゃないっていうし、うっかり時間を忘れたりしても『シンデレラ』のお話みたいには、なりそうもない。
あーっ頭の中がゴチャゴチャになってきたよ。
落ち着け!そう言い聞かせて目を閉じる。

「教えてください。そのために来たんです。お願いします…」
ココロにあの人の笑顔がよぎって、そう答えた。

「わかった。それを決めれば決して難しいことじゃないよ。それと約束して欲しい。これは誰にでも教えないこと!良くないことを考えるのもいるかもしれないし、生きている人たちを困らせることになっちゃいけない。術を使うところや解くところを見られるのもいけないよ。仲間の霊であっても…」

「わかりました」

Dscf7320

Nagisa_flash昔、たくさんの人が住んで、たくさんの人が住んで賑やかだった街。
時代が変わり、人も家も消えて全てを失った街は、この「ゼロの丘」に痛々しくもかすかな記憶を残している。
でも、無くなったのは目に見えるものだけで、無限のものがここにはあったんだ。どこまでも空が続いていくように…
小さな数え切れないほどの光があちこちから私の体に絡みつくのを感じながらそれを思ってた。

先の不安もあったけれど、今は気持の何かが勝っている…

Nagisa_rebirs やがて、まとわり付く全ての光が静まった…
そっと腕を動かしてみた
あっなんだか…今までと違う感じがする
そう、吹き込んできた風が頬をくすぐるのもわかる!

うまくいったのかな?

「おめでとう!成功したよ。思った以上の出来だ!」

(つづく)

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2008年6月14日 (土)

Some small hope ②

Dscf9292

Dscf9285 「ここは俺の公園だ!さっさと出てけ!!」

大人の姿になれてちょっと気分が浮かれてたら、この人に急に怒鳴られた。
あっけにとられてポカンとしてた。
『立入禁止』のところに入ったのは私が悪いとしても…俺の公園ってどういうこと? 我が物顔で言いたい放題の態度に少しムッとしてくる。おまけに『ババア』まで言われてさ…pout

Dscf9363 「俺のって…公園はみんなのものなんじゃないですか?」

「なんだ?生意気だぞクソガキ!さっさと帰れ!」

えぇっ?今度は『ガキ』? 人のことなんだと思ってるのさ!
そいつは、始めから話なんかするつもりはないって感じで家(東屋)へ上がっていった。

「ちょっと!なんでなんですか?いきなり『出てけ!』って言われても…」

考えてみると私は人のことに首を突っ込みすぎたのかもしれない。
背格好が大人になったから気も大きくなっていた

「生意気だって言ってんだろ!」

Shot2

Leaf そう言ったとたん、手が私の方に飛んで来るのが見えた…
その途端、ものすごい衝撃を胸に感じて後ろに飛ばされた。
後ろにあった木にぶつかって根元に崩れ落ちる。
まだ、青々とした葉がハラハラと落ちる。さっきまで聞えた小鳥のさえずりもピタッと止また。
森の中は風と違うざわめきが起こり始める。

Nagisa_fall 飛ばされた時、木にぶつかった体は痛くはないけれど、心にすごい痛みが走る。こんなこと初めてだ… 

Leaf_fall_down 「え…あ…?」 何か言おうとするけど驚きでうまく話せない…

「ここは俺の森だ!生きてるヤツだろうが幽霊でもここを犯すのはゆるさん!俺を無視した奴も親も先公もここに入ってくる奴は絶対に許さんからな!なんならブッ殺してやる!!」

なんなの?この人…すごく恨みに満ちてて、みるみる心が黒くなっていくのが分かった。

Dscf9361

Dscf9271 「…どうして…?」

「俺は何年も学校で、見に覚えのないことで人間以下の扱いをされてたんだよ。毎日のように殴られたり、金せびられて…親も学校も目の前で起こらないことは信じちゃくれねぇし…みんな無視して助けてくれなかったから…俺の『死』であいつらを戒めてやろうとしたんだよ!ところがあいつらは、無罪放免さ」

あいつら? 殴られる? 金? 無視? 戒め? どういうことなの…
でも、この人がいじめられていたんだってことは、何となく分かった。
俺の『死』で戒めるって…まさか?

Dscf9316 「自殺…?」

「そうさ!ここで首吊った。ここは、俺って亡霊の出る心霊スポットだよ。 死んでんのにまだ、からかいに来るんだよ!バカ共が『肝試し』とか言ってさ!」

「その人たちに何かしたの?」

「やったさ!脅かしたり、失礼な奴は道を壊して怪我もさせてやった!だからここは立入禁止になったけどな」

「それ…違うよ。間違ってるよ…それじゃ何も変わらない!あなたがいじめられたように、この森があなたにいじめられてるんだよ!」

Evil_black

「なに?! 生意気だぞ!ぶっ殺してやる!!」
その人は、みるみる黒ずみだして悪魔のような顔になった
その恐ろしい視線だけでもチクチク刺さってくる

殺す? 誰を殺す? 私を この幽霊の私を殺せるの?
まさか、と思ったけど…

「やめて!」

憎悪に満ちたものが私に向ってきたとき、思わず叫んだ
同時に私の頭の中で何かが「ギンッ!」と音を立てて…

Evil_gost

「あ─…」

その黒い恐ろしい影は、一瞬でどこかへ消え失せた

私は、何かした?   私が、何かした!   私は、何をした?

Dscf9355

森は、ほんの今まで起こっていた恐ろしい出来事を何も知らぬかの様に静まり返っている。どれだけの時間が経ったのか小鳥のさえずりも戻ってきて、何かが終わったことを感じた。

Dscf9358_2  怖かったよ
ホントに殺されるかと思ったよ

危機は逃れたのだろうけどまだ、怖い
私が今、何をしたのかということが…

森は、何があったのか教えてくれない
私は、聞こうともしない

座り込んだまましばらく泣いてた

Dscf8497

暗くなって、町外れの空家に泊まった

「お客さん どうしたんだい?」

「…」 

お家さんが声をかけてくれたけれど、私は部屋の隅で、座ったまま黙って闇を見つめている。
さっきのやつが闇の中から飛び出してきそうな気もしてたから…

Dscf8307「外のことでも話してくれないかい?」

「…うるさい!」

「おやおや、何だか荒れてるねェ…」

「あ…ごめんなさい…」

私もおんなじだ あの人と同じ…
明日は、元の私に戻ろう
朝が来たらきっと…

たったひとつの小さな希望を持って…

You tube: Some small Hope/Virginia Astley

※この公園の木道は実際に老朽化で通行に危険とのことから、数箇所の通行が禁止されています。
ここは、地域の開拓時代を彷彿とさせる原生林と湿地の残る緑地公園です。
不法投棄、樹木の成長による近隣住居の日照不足などの問題はありますが、市内数箇所に残る緑地帯の中でも秀逸の場所です。
 木道が再整備されていないのは、財政難が起因しているのかもしれませんが、実証は分かりません。

※このお話の内容は創作であり、この緑地公園で同様の事件・事故等の過去はありません。

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2008年6月11日 (水)

Some small hope ①

満たされぬまま広がる あらゆる夢
私たちの前を通り過ぎていく あらゆる生き物
私の孤独な魂は ささいな思いに悩む
けれど真心だけは 純粋でいられる

Nagisa_top

真っ青な空に雲が優雅に踊る 
筋状に広がって一斉に同じところへ流れていく雲
どこへ行くでもなく空の真ん中で孤独に浸る雲
回りを巻き込んでどんどん湧き上がる雲

その中を大抵の人には見えない小さな光の軌跡を残しながら
「ナギサ」と言う名の幽霊が雲の間をぬって飛んでいる

空のものは決して地を這うものを見下しているわけではなく
地に下りることがかなわないがため、憧れの視線を下ろしているのかもしれません。

Dscf8339_3  

Dscf8401 雨上がりの空を飛んで 久しぶりに人のいる街に来た。
緑の広がる中に街を見つけたら行ってみたくなった。

たくさんの家 私のいたところよりたくさんの車が走ってる。
そんなに忙しく、どこへ行くのかな?
大きな橋の上にある塔が空を突き破ろうと背伸びしてがんばっているよ。
橋の上にもたくさんの車が走ってて、みんな あくせくと楽しそうだ。 
顔には出さないけど、生きてることを楽しんでるんだね。

少し人恋しくなっったんだろうか。でも、私みたいな『幽霊』が見える人がいるかと思うと降りてみる勇気は出ないな。
だから高いところや隠れられるところを選んで様子を伺っている。

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Dscf5876 街の真ん中に大きなコンクリートの橋が長く横たわっていた。その上を列車がゆっくりと駅に向って入っていくところが見える。青くてスラッとした体が光ってとてもきれいだ。
大きな三角定規の上に立って人の流れを眺めていた。

─間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号発車の時刻です…

「バンザーイ! ロックシンガーシゲオ! バンザーイ!」

えーっ!なんだ…? ひとりで大声でバンザイしてる人がいる… 

「ち…ちょっと…やめてくれよ! おおげさだなぁ…」

「なに言ってんだよ! RUINSの代表にエールを送って何が悪い! 笑いたいやつは笑わしとけ! バンザーイ!」

あぁ!見送りかぁ… 嬉しそうだなぁ あの人、友達なんだね。
ともだちかぁ…
友達欲しいなぁ…

見ていたら、何だかやるせなくなってきたよ。街を離れることにしょう…。
山の方に向かって走る風を捕まえて飛び乗った。

Dscf8400

Dscf8550 途中、ずーっと屋根の波が続く先にお城のようにそびえる緑の塊が見えた。
「あそこは何だろう?」

ちょっと寄ってみよう…

まるで森の中のみたいに木々や草が茂っていて木でできた道が続いている。誰かいるかもしれないから様子を見に入口の方へ行くと立て札があった。

「木道の老朽化により通行を禁止します 委託管理者」

後ろの漢字が分からないけど、どうやら道が壊れているので、人は入れないみたいだ。
ちょうどいいから少しここで休んでいこう。
聞えるのは鳥のさえずりと、そよ風に踊る葉の音。
時折聞える車の走る音が懐かしい波の音に聞える。
地上に降りてまわりを気にしないで歩けるのは、やっぱり気分がいい。

街中なのに、こんなに静かなのは人が来ないせいだけではないようだ。
途中、子どもの姿を見なかったから、今日は学校のある日なんだね。

Dscf8535 旅に出てから曜日が分からなくなった。
お家にいた頃は、窓から外を覗くとランドセルを背負った子が見えたりして何となく曜日が分かったけど、今の私は毎日が日曜日…でもこの間、先生のところに行ったから久々の登校日だったな。

そういえばその前に寄った学校で男の子と女の子に会ったっけ。
1年生だけど86歳と90歳と聞いてびっくりしたよ。
でもあの子、言ってた…

「アタシとカッちゃんは、ずっといっしょに遊んでいたいから1年生の頃に戻ったの! できるんだよ!ただ、考えればいいの。昔の記憶よりは小さいけど、来るはずだった未来の記憶も心の中に眠っているからね」

Dscf8525

そうだ大人になりたかったな。ホントだったら私も今頃は中学校へ通っていたんだけど取り戻せない時間のことを考えても仕方がないからずーっと考えてなかった。そのときの私は、どんなだっただろう。
…ずっと前に見たママのアルバムで見た写真のことを思い出した。

「ナギサは小さい頃のママに似ているから中学に上がる頃は、こんな子になってるね…」

そうだ、あの写真のママが、私がなれた姿なんだよ。

Lifht

Dscf8538 そう思ったとたん、軽いけど「ズーン」とめまいがして体が光の粒みたいにバラバラに弾けた気がした。
すぐ、何もなかったみたいに元の私に戻る…

「え…何だ今の…」

おや?何か変だ!急に回りがさっきまでと違うような…頭の上にあった木の枝がすぐ近くに見えた。たぶん踏み台の上にいるみたいに回りが少し違って見えた…ってことは…背が伸びている?

「あれ?成功したの?」

掌を見ると、手も指も自分じゃないみたいに大きくなっている。足もそう。

「鏡…どこかに鏡ないかな?」 でも、すぐ思い出した。自分が鏡に写らないことを…

「うーん… くっそー!!」 思わず大声を出してしまった。

 

「うるせぇな!!」

えっ?誰? どこにいるの? あわてて回りを見たけど分からない。

「誰だお前! ここは立入禁止だ!」

Bad

Dscf8527 声のする方を見ると屋根のあるお家見たいな所に誰かが立っている…
中学…高校生かな…? ポケットに手を突っ込んでイラついた顔の男の人…
私が分かるってことは…仲間だよね?

「すいません 知らなかったんです」
そういうこの人はここで何してる?…と思ったけど、ちょうどいいから聞いてみた。

「あのーっ 聞いていいですか? 私、いくつに見えますか?」

Dscf8540 「あぁっ? わかんねぇこと聞くなババア!!」

「バ…ババア…?」

なんなの?この人!

(つづく)

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2008年4月14日 (月)

ラマンチャの兄妹

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Dscf6056 「風が鳴き 空が怒る 空忍ハリケンレッド!」

「えーっ またぁ? あたしキュアホワイトがいい!」

「プリキュアなんて女ふたりじゃねーか! ハリケンブルーにしろよ」

「やだなー…いっつも…」

「じゃあ もうやめるぞぉ!!」

「わかったって!! もう! 『水が舞い 波が踊る 水忍ハリケンブルー…』」

Dscf6078 「人も知らず 世も知らず…」

「イエローはどうすんのさぁ!」

「ふたりしかいないのにできねぇよ!! うるっさいなぁ! もうやめる!」

「だからプリキュアがいいって言ってんのに… もーっ!すぐイジけて!」

Dscf6059

丘の上 勇者ドン・キホーテとその従者サンチョ・パンサがそんなふたりを静かに見下ろしていた。

Dscf6057 騎士道物語を読みふけりすぎたために現実と虚構がわからなくなったラマンチャの男は自ら『ドン・キホーテ・デ・ラマンチャ』と名乗り、虚構の旅に出た。
やがて出会った酒場の女アルドンサに恋するが彼女は自分の境遇から狂言と相手にしない。
しかし、あくまでも自分に淑女として接してくるドン・キホーテに心が動き始めた頃、虚構の旅に出た彼を追ってきた主治医に連れ戻されて現実にもどされていった。

Dscf6058 アルドンサは彼を探し、サンチョ・パンサの助けもあって、やっとの想いで彼に出会うが、既に彼は「ドン・キホーテ」では無い。
思わず口ずさむ彼の唄っていた「見果てぬ夢」が彼の中の『ドン・キホーテ』を甦らせ、サンチョ・パンサを従えて声高らかに騎士道を歌い上げる。だが、彼は既に命尽きる宿命だった…

昔見た映画、ピーター・オトゥール主演の『ラ・マンチャの男』はこんな話だったと思う。ミュージカル映画はあまり見ないけれど、これと『チキチキ・バンバン』は好きな映画から外せない。

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Dscf6064 ある意味 子どもの頃は、男の子でも女の子でも「ドン・キホーテ」か「ハックル・ベリー」だと思う。例えが古いがゴーレッドとキュアドリームでもいい。
ともかく自分を何の抵抗もなくヒーローと自分を同一視できる。
いわゆる「なりきり」というやつですね。
ただ根底になるものは前出のふたつの物語に行き着くと私は思います。
ヒーローになりきる、なりきろうと夢を馳せる物語。
外国のお話ですから反論もあるでしょうけど…
ひとつのキャラクターとして捉えなければ両者共ヒーローになりきるという意味では接点があると思います。

Dscf6065

丘の上に立つ2基のサイロ
赤茶けた鉄兜を被ったノッポとズングリを見上げて自分はこれを「ラ・マンチャの男」と重ねた…それだけのことです。

先の兄妹には冒頭ような会話があったのでしょうか?
それはなんとも言えませんが丘の上に建ち四方広がる大地の中でのびのび育ち、どんな夢・想いを通わせていたのか…

今や廃墟となって住宅も解体されてかつての生活は見えませんが、この兄妹には普通の兄妹とは少し違った結びつきがあったのです。

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二卵生双生児 一卵性とは少々異なりますが、いわゆる双子
見えない心の繋がりは 同じ母の兄妹も及ばないほど深いという。
同じ愛を受け、同じ時間を同じように見つめてきたふたりなのだから…

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Dscf6077 兄妹を見守り続けてきたドン・キホーテは従者と共にここで立ち続ける
今も「見果てぬ夢」に想いを馳せて。

誰もが見ることをやめてしまう夢のために

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2008年4月13日 (日)

あなたがいた森

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Dscf5917_2 今日は 半年ぶりに彼の元へ行く

山を愛する彼がずっと山にいるようになってもう数年…
今は年に何度か私が会いにいく
街にいた頃は、いつも私のところに迎えに来てくれたけど、今は、それができない。

道が舗装されているとはいえ、こんな山の中にずっといるんだ。
街は、すっかり春めいて冬の名残もなかなか見つけることはできないけれど、ここではまだ雪の塊が大地に名残惜しそうに点々としがみついている。

Dscf5916

仲間がたくさんいるとはいえ、冬は雪に閉ざされるここにいて寂しくはならないのだろうか? でも人の波の中にいても寂しさを感じる街よりは恵まれているのかもしれない…。
街は山よりも乾いている。

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彼は同じ大学の時から山岳部に入って北海道内や道外の山に登っていた。
卒業後の進路も登山ができるかで場所も決めたようだ。
それが私の故郷でもあった。

Dscf5987 「ねぇー? 私と山と どっちが好き?」

こんなことを聞いたことがあったよ。

「どっちも好きだよ とても魅力的で それに僕をやさしくしてくれる 」

なんとなくそんな答えだと思った。
山と同じ… 喜んでいいのかな…いいよね

そうだ 彼のところへ行く前にちょっと大好きな場所に寄ってこよう。

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Dscf5893_2 ふたりで来たことのあるキャンプ場のある公園地 ここに滝がある。
本当は何十年も前に作られた電力用の小さなダムだったらしいけど大雨で底を抉られて陥没。 一夜でこんな景観を作り上げたのだそうだ。
人工と自然が作り出した奇妙な景観。
小さいといっても展望台から下を見ていると吸い込まれそうになる…

Dscf5899 しばらく水が流れ落ちていく様に見入っていると、つい…

「…」 「えっ?!」

誰かに呼ばれた 振り返ると誰もいない。
気のせい…だよね? 彼に呼ばれた気がしたけど、ここに寄ってることなんか知らないはず。 それに今日来ることは言っていないから…

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ここの上流を少し行くと公園を備えた水源地ダムがある。
それまで、この川は、大雨の時にすごく荒れ狂う川だったそうだ。
下流に位置する街ではそんなこと考えられないほどの清流なのに…
更に上にいったところに登山のベースキャンプに使われるヒュッテ(避難小屋)があり、何度か登山のときにそこまで送ったことがあった。

Dscf5940

Dscf5949 今はまだ登山シーズンに早いので途中のゲートは閉まっている。
大抵、ここに来るときは仲間と2・3の山を縦走することが多く日程も予備日数を入れると1週間ほどにもなる。
さすがに大きな日程では仕事を何度も休めないので年に1・2回。
それ以外は、日帰り日程のスケジュールがほとんど。

一度、一緒に登ったことがあって初心者用とは聞いていたけれど登り途中で体力の限界で彼に連れられて下山した挙句、翌日から3日間下半身の筋肉痛で仕事を休んだ。それからは誘われても迷惑になりそうで行かなかった。

「最初は誰でもそうだよ 小さい山から少しずつ ゆっくりこなして あの高みを目指すんだ」

うん わかってるんだけどね… それでも頂上の景色は素晴らしいんだろうな…
彼が登る山は写真でしか見たことが無いけど、もっとすごいんだろう。
まるで恐竜の背中のような尾根を伝って歩くのは、怖くてとても真似できないよ。

そうだ そろそろ行かないと…

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Dscf5965 彼のいるところは周りを木立に囲まれた森の中
その木立の上に彼の好きだった山々がそびえ立つ
大自然に抱かれ、ここに彼はいる。

「また 来たよ…」

Dscf6010

Dscf5996 ここに眠る彼は 答えることも 抱きしめてくれることもない…

「じゃぁ行ってくるよ」

大きな赤いザックを背負った彼が心の中で笑ってた

「また 迎えにいくよ」

いつか 私が心から彼に迎えられる日まで 私が通い続ける…

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Dscf5906日高山脈は中生代ジュラ紀より、新世代三期にかけて生成された褶曲(しゅうきょく)山脈でスイスアルプス、ヒマラヤ、ロッキーの造山期と同じころ、その骨格が組み立てられたといわれており、幌尻岳(2,052m)を最高峰として札内岳(1,896m)、十勝幌尻岳(1,846m)、ペテガリ岳(1,736m)楽古岳(1,472m)など1,500-2,000m級の山脈を連ね、その稜線は鋭く切れ込んだナイフブリッジで現在も風化侵蝕が進み山容はいずれも峻険で深い峻谷を刻んでいる。

日高山脈国立公園は、北海道を東西に二分する全国一の規模を持つ山岳公園である。
植生はヒダカソウ・アポイツメクサなど固有種・希少種の高山植物が存在している。

利用状況としては山脈が極めて急峻であるため登山などの自然探勝に限定されてきた。アプローチは相当に長く、アポイ岳を除いては経験者向きの山が多い。
現在であっても7月から8月にかけて入山するパーティーは100を越すことからも、ここがアルピニストを魅了する山脈群に他ならない。

しかし、札内岳(1,895.5m)を源とする北海道有数の急流河川、札内川のもつ特性(急流・出水量の変化の著しさ)から上流地域では、滑落・水死などの犠牲者が後を絶たない。さらに雪崩・熊害などの事故で平成20年現在、59名の痛ましい犠牲者が出ている。

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Dscf6006 平成元年 札内川ダムの着工に伴い、いくつかの犠牲者追悼碑が影響をうけることから工事関係者・地元団体で協議し、遺族の了解の元この地に「札内川上流地域殉難者慰霊碑」が建立された。

十勝地方特有の温和な気候を作り出す日高山脈は「魔の山」であり「神の山」でもある。
その本当の姿を知るのは、そこに挑んだ人たちだけなのだろう。

  YOU TUBE 「あなたがいた森」 樹海

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2008年4月12日 (土)

蒼い戦士たち ~蒼い季節にさよなら~

Dscf5309

Dscf8289 長かったような休暇も終わりに差し掛かり、もう向こうに戻る日がきた。

「体に気をつけてね 忙しくてもしっかり食べてよ」

「うん わかったよ」

学生の頃には、ウザイくらいに思っていた母さんの言葉も今は全てが温かく感じる。
父さんからは、特に言葉は無かったけれど何となく胸の内はわかるような気がした。
男同志ってやつかな…
去りがたい気も無くはなかった。みんな捨てちゃってさ…でもそうもいかないようだ。

Dscf3142

Dscf7356 夕べ、ヒロと飲みにいった。
豆腐屋は朝早い商売なのに遅くまで付き合ってくれた。

「もったいつけてないで、紅白にでも出ろや! 俺は待ってるんだゼ 俺だけじゃないさ タクだってリョージだって ナチだって お前からは見えんだろけど むこうは見てるはずだぞ」

「いや…紅白って…ちょっとそれは…」

すっかり目の据わったヒロは、ずっと僕を励まして(あおって)ばかりいた。
でもそれは、故郷にひとり残っているヒロの寂しさにも感じてる…ただ適当な言葉が見つからなくてずっと受身でいた。

「なぁヒロ… いつかまた、みんなでセッションしたいね」

「ん…? 言ったな? その言葉忘れねェぞ アマだと思って甘く見るなよ… 俺わぁ…豆腐なんて柔らかいものを扱ってるけど…音には固いんだ 絶対妥協せんぞ! 俺がOK出すまではスタジオ出せねェ~んだからな…」

「楽しみにしてるよ」

Dscf5438

こんな羽目をはずすヒロを見るのも久しぶりだ。
打ち上げのときは大抵こうだったな…

Dscf5885_2  「ライブ成功にカンパ~イ」

「リョージの失敗以外にカンパ~イィ!」

「なんだよ!いつ失敗したよ!」

「知ってるぜ3か所 なぁタク!」

「あぁ!」

「嘘つくなァ!おいナチ! おまえ前で見てたから知ってるよな? 俺、トチってないよな?」

Dscf2757 「うん!もっとやってた」

「ナチ!てめェなんだよ! シゲオ!お前もかぁ?」

「え…? いや…そんなことはなかったと思うけど…」

「シゲ ほんとのこと言わないとリョージのためにならないよ」

「いやぁーどいつもこいつも… そうだよ間違ったよ!全く うっせーなぁー!」

「リョージの失敗にカンパ~イ!」

「するか!このバカ!」

ついこの間のようで、遠い昔のような気もする

「シゲ!辛くなったらいつでもこいよ!甘い気持を叩きなおして、背中押し返してやるからよ!」

「あぁ…その時は頼む」

Dscf5866

荒っぽいけど、すごく嬉しかった。 ずっと心でこわばっていたものがほぐれた気がする。

もうずいぶん前から高架になった線路はビルの間をぬった滑走路のように見える。
数年前は夢に憧れてここに立った。
とりあえず夢は叶えられた今、何を想えばいいのだろうか?

Dscf5870

─お待たせいたしました 間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号が4番ホームに入ります

Dscf5876

やや置いて蒼い車体がホームに滑り込んできた…
さて、またこことも暫くの間 お別れだ…

Dscf5862 「おーい! シゲェーっ!」

「あ…」

車内に乗り込みだしたところにヒロが走ってきた。ところどころ大豆粕が付いたエプロン姿のまま…

「いっやー 間に合った まにあった 夕べは飲んだな~。寝過ごして母ちゃんにどやされてよ…何とか仕込んで配達の途中さ」

「大丈夫か?」

「ああ ちーっと二日酔いだ! それにしても たかだ見送りで160円も取るんだな今時の駅は うちの豆腐の方が価値あるぜ!」

Dscf5860 「ハハハ…豆腐と比較かぁ… 良く時間わかったね」

「シゲん家で聞いてきた ほれ!これ持ってけや」

手渡された袋包みは、ほんのり暖かい

「なんだいこれ?」

「いや! 油揚げだ 俺手作りの…小揚げ2、3枚だから試食と思って食えや! お前が思ってるようなやつとは味がちがうからさ」

「え…あぁ ありがとう」

「それと…さっきタクから電話きてたよ 話したら会いたがってたぜ ナチも… 子どもにもCD聞かせてるそうだよ」

「ホントかい? 僕も話したかったな」

─間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号発車の時刻です…

「がんばれよ! 応援してる ファンレターは書けんけど」

「ありがとう 連絡するよ」

「無理すんなって」

Dscf5877

RRRRRRRR…

「バンザーイ! ロックシンガーシゲオ! バンザーイ!」

急に大声で叫びだしたヒロに他の客も駅員も驚いて振り向く

「ち…ちょっと…やめてくれよ! おおげさだなぁ…」

「なに言ってんだよ! RUINSの代表にエールを送って何が悪い! 笑いたいやつは笑わしとけ! バンザーイ!」

プシーッ

ドアが閉まり、列車はゆっくりと走り出して両手を高々と上げ続けるヒロが遠ざかって行く…なんだか涙がこぼれてきた。
やがて線路の緩やかなカーブは視界からヒロの姿を隠していく…

Dscf5854

客車内に入るとさっきの騒ぎに気づいた人の視線がこっちをつき刺してきた。

「やれやれ…まいったなぁ…」
席につくと後方に流れていく街の景色を眺めながら、さっきの包みを思い出した。

「油揚げか…」 袋を開けると香ばしい香りが広がる。
1枚つまみ出してかじってみた。
揚げたてらしく、カリッとしている。 

「美味い!」 味噌汁の具とかに入っているのしか食べたことがないが、これは美味い。
このままでもいけるじゃないか…

香りが車内に広がったらしく視線がまたこちらに…

Dscf5880

ヒロ…タク…リョージ そしてナチ… またみんなで会いたいな。 その日がくるのを楽しみにしてる…

カタタン…カタタン… 
レールは心地よいリズムを刻み続けている

07phas06

未来(あした)にくじけそうな時
ここに来れば 誰か
背中押してくれるようで

ひたむきな瞳を忘れたくない
蒼い季節 みんな戦士だったね
ひとつの夢めがけて
つながっている
僕達は描いた道に
立ってるかな

(DEEN/蒼い戦士たち)

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2008年4月 6日 (日)

蒼い戦士たち ④

Dscf4710

Dscf3227 タクには、3つ年上の兄貴がいて江別のほうの農業系大学へ進んでいたが、向こうで自分の道を見つけて故郷に戻ってこなくなった。
だからタクが当たり前のように跡継ぎということになっていたのだろう。
時代の変化の中、農業経営の難しさは素人が志せるようなものではないらしい。
現役の農業人たちがその生業を見切ったとき、見切らねばならなくなったとき「地産地消」とか「食料自給率」なんて言葉は、閉校記念碑の碑文のように意味が風化して重さがなくなっていくようだ…

Dscf2763 「タクはデビューに乗りたかったんだ あいつもそれが夢だったから… あいつの腕ならどこでやっても無理じゃなかっただろ?」

「あぁ…確かに もっと話すべきだったかもしれないよな…」

「でも、あいつは行かなかったさ。 俺が先に 『行かない』 といったことに気を使ったんだろ それにあいつの家の経営が行き詰ったのは、あの時から見えてたらしいし、親も無理は期待してなかったらしいよ…でもタクは自分の夢をかなえるためにここに残る者の方を考えると行けなかったんだな」

Dscf4707

Dscf2772 「もめた日にタクが飛び出したホントの訳は、リョージの罵声じゃなくて あそこにいたナチの悲しそうな姿を見てられなかったんだそうだ そう言ってた」

「それって…」

「んー… お前と付き合っていたナチにタクも惚れたってことだよな」

「…」

「お前さぁ ナチに一度も連絡しなかっただろ?」

Dscf4716 「ああ… しないつもりじゃなかったんだけどさ…」

「まぁ とやかく責めんよ 事情もあるだろし…ともかく、あいつらは結果として惹き合ったんだと思うよ…そんで…子どもができたんで入籍だけして、ナチは大学中退ってことさ」

そっか… そうだな…3年もの間にはいろんなことが…。

「それから…子どもが生まれて間もなかったけど 職探しにタクは札幌に出て、後からナチと子どもを迎えに来た…そんで今はむこうにいる」

Dscf3718

東京に出てあっという間に過ぎていった3年が急に重みを増してのしかかってきた気がした。
そう 小さい頃、母さんが枕元で読んでくれた「浦島太郎」みたいに 軽々しく思っていた時の流れが、その本当の正体を現して後悔で僕を取り殺そうとしているかのようだ。

Dscf3640

Dscf4711 「タクが札幌に経つ日、シゲに『すまない』って言付かったよ それと『遠慮しないで歌ってくれ』とさ」

「遠慮?」

「CD聞かせてもらったけど『RUINS』でやった曲だけはパワーダウンするんだよな お前さ 俺たちみんなでやってた曲だから何か後ろめたさみたいのが出るんだよな タクも感じてた」

確かに その曲はレコーディングでも引っかかって何度も録り直した。音が変わったせいで違和感が出たくらいに思ってた。でも『RUINS』やみんなのことが頭に浮かんでいたと思う。

「ところでさ リョージはどうしてる? 途中から脱退した風だけど…」

「いや…他のメンバーと合わなくなったらしい 止めたんだけどさ 今はどうしてるか…」

Dscf3120 「あいつは喧嘩っ早いからなぁ 俺とタクが始終もめてたからさ あいつはまとまりのなさそうなところほど逆に冷静になるやつだからな… シゲ、お前も俺とタクは仲が悪いと思ってただろ?」

「え? どういう意味?」

「シゲも腫れ物に触るように感じてたろけど あれが普通だったからなぁ俺たちさ 言い訳もしなかったけど…俺、小3までいじめられっ子で登校拒否してて、見かねた親が山村留学させたところがタクのいた小学校なのさ 今じゃ廃校になったけど」

Dscf2307

山村留学した先でヒロに一番接してきたのがタクだったそうだ。
口数の少ないあいつがヒロより話すやつだったというのは、すごく意外に感じる。
そこから卒業して町の中学へ進み、タクが自分の兄貴の影響でドラムをやってたことからヒロもバンドに憧れてベースをやりはじめた。
『RUINS』のリズムラインはこの頃から始まって、高校で僕とリョージに出会ったわけだ。

Dscf2296

Dscf2294 「あの学校のあたりも寂しくなったな 閉校のときは12人だけになったらしいから… 学校も体育館以外は潰して公民館になって、いまじゃタクの家を含めて廃屋だらけみたいになっちまったけどな。近くの川へザリガニとかカエルの卵を取りに行ったっけなぁ」

そこまで言うと ヒロはベースをつかみ、黙ってまたリズムを刻む。 

「『RUINS』の頃はみんな蒼かったな…俺も今じゃ しがない豆腐屋家業だけどさ… なんとかやってるさ…」

Dscf2301_2

ギターの音が「泣く」という表現をすることがあるけど、静かに刻まれるベースの音こそ切なく泣いている。
心臓の鼓動のように…

ヒロが口に出さないで隠している寂しさが伝わってきた

(つづく)

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2008年3月30日 (日)

蒼い戦士たち ③

Dscf5690

あの日の朝、リョージと僕は駅のホームにいた。
上京の手はずがつき今日、新千歳まで迎えに出ているプロダクションの人と合流する。

興奮して夕べは眠れなかった。電車の中で仮眠すればいいだろうと当分戻ることのない部屋を朝まで整理してた。

リョージはすっかりテンションが上がっていて、服装もすっかりロッカーを気取っているかのように皮のパンツとジャンパー。サングラスも新調したようだ。

Dscf5340「これから行く所は北海道と違うんだぜ…」

「わかってるさ! 別に変じゃないだろ? ナチ!」

ナチがひとりで見送りに来ていた。
ヒロとタクには、あのもめた日、以来会っていなかった…

「うん…でもリョージのイメージには、ちょっとねー」

「似合ってないってのかよ!」

「そんなんじゃないけどさ…違和感っていうか、今までそんなリョージ見たことないから…フフフ…」

「笑ってんじゃねェや! デリカシーねーな!」

それはそうだ 今まで破れジーンズに同じTシャツをローテーションで着てたリョージが、いかにも真新しい皮の上下なんだから…

Dscf5769 

間もなく2番線ホームに入る列車は 新千歳経由札幌行き スーパーおおぞらです…
アナウンスの後、程なくホームに列車が入ってきた。

「先、乗ってるぜ…」
ギターケースとバッグを取るとリョージはそそくさと乗り込んでいった。

Dscf5335「じゃあ 連絡するから…」

「うん…」

「卒業したら、こっちにこないか?」

「うん…考えとく…」

「そっか…」

昨日まで普通に話せていたのに今日は、始めて出会ったみたいな、ぎこちなさを感じる。

「シゲオ!席どこだ? 早く来てくれよ!」
先に乗ってるとか言って、意外と気がきく奴と思っていたが考え違いのようだ…

「今行くよ! …じゃあ向こうに着いたら連絡する」

「うん…元気でね」

Dscf5342

 戸口に立って見つめ合っていたけど、ナチはどこか伏せ目がちだ。

RRRRRRRR…

「がんばってね」

「うん! ナチも…」

Dscf5311プシューッ  言いかけたところでドアが閉まる音で途切れてしまった。
上げた手がふたりの言葉を代弁した。

席のほうへ行くとリョージは、ようやく席を見つけて悦に入っていた。

「グリーン車かー 初めてだぜ、こんなの」

数時間後には飛行機の中。
ホームでうつむいているナチの姿に後ろ髪引かれる想いがする。
やがて動き出す特急列車。ナチの上げる手に応えるがガラス1枚向こうが映画を見てるように別世界の気がした。

「あれ? あれタクじゃないか?」

「えっ?どこに? 出発のことタクは知らないよ! これるわけないだろ!」

「まぁそうだけど…勘違いかもしんねぇな…階段のところにいた奴がタクそっくりだったけどよ…」

Dscf0459  

それから、今日までヒロやタクどころか、ナチにさえ一度も連絡を取ることはなかった…
向こうについてから時間の流れ方が一変した。今までは時間が無いと騒いでいても時に隙間があったのことを改めて感じた。
それに思っていた以上にめまぐるしい世界に翻弄されて、自分を見失ったようだった。

Dscf5798

夕食の時、母さんに聞いた。

Fb074「そう言えば 高校まで同じだった●●さんとこの那智って子 今はどうしてんの?」

「あー なっちゃんね。結婚したって聞いてたけど…1年…2年になるかしらね。大学卒業間近だったけど中退して…」

そうか…数年の間、街並みは変わらなくてもいろんなことは、ずいぶん変わったんだな…
約束も守らなかった僕にそれを責める資格なんてあるはずもない…

「シゲオ、ヒロユキ君のところには顔出してきたのか? うちでも豆腐の配達を頼んでるから帰ってくることは言っといたよ」 父さんがそう言い出した。

「えっ? いや…今日は別なところにいってたんだ 明日行って来るよ。 母さん 明日も車貸してもらえるかな?」

「いいわよ。用事はお父さんに頼むから それより久しぶりの休みなんだから もっとゆっくりしてよ」

「父さん ヒロユキ 何か言ってた?」

「うん 『そうですかー久しぶりっスねー』 とか言ってたよ」

 

 

Dscf5310豆腐屋の朝は早いそうだ。
ヒロのところも3時くらいからその日の仕込みをしている。
まだ『RUINS』の活動中にヒロの父親が倒れて豆腐屋の経営が危うくなり、ヒロの母さんは商売は続けるということで経費節減ということもありヒロがそれまで勤めていた会社を退職して手伝うようになっている。
だからデビューの足がかりができたときは、すごく後ろめたかった。

それにしても早く来すぎたか…店の車がないから配達に出てるんだろう。
とりあえずいくあてもないからしばらくここで待つか…
タバコを取り出して火を点けかけたとき…

コンコン… 

顔を上げると横のウインドウにニッと笑ったヒロが立っていて、思わずタバコを落としそうになった。

「おい!うち見張って何やってんだよ 入んな!」

Dscf5757

「営業車は、車検に出してきたとこだよ」
事務所の脇に懐かしいベースが立てかけてある。

「今でもやってるのかい?」

「あぁ!…っていっても近所の高校生に教えてるくらいだけどな 言っとくけど今でも腕は落ちてないよ」

Dscf5696ベースを取ると懐かしいナンバーを弾き出した。ヒロのベースは、アタックが特徴的でアンプに繋いでいなくても体に響いてくる音だ。

「タクのところは行ったか?」

「え…あ…あぁ…昨日行ったよ…」

「じゃあ もう知ってるな?」

「おおよそのことはな…」

「タクの嫁さんのことは?」

「…いや…」

Dscf5799  

「そうか…知っといたほうがいいだろな お前も一番知りたかったことだろうし…タクの嫁さんてのはナチなんだよ」

「え?」

変わっていないと思った様々なことが、実は自分以外の全てが変わってたってことに気づくことになった…。

(つづく)

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2008年3月24日 (月)

蒼い戦士たち ②

Dscf6529 「ただいま…」

「あらー シゲちゃん おかえりー 電話くれれば迎えにいったのにー」

「いやー こっちに来る便の時間がはっきりしなくってさ…」

「すっかり垢抜けしたよねー 都会の人みたいで…」

「そんなことないさ… 母さん、帰ってきてすぐになんだけど 車貸してくんないかな?」

「いいけど…疲れてないの?」

「いや飛行機と電車で仮眠してたし、友達に会って来たいんだ 夕方には戻るよ」

バッグを下ろすと車の鍵を受け取った

04phaj41

音好きが集ったバンド「RUINS」は、大方のバンドと同じようにコピーから始めた。DEENやその他の楽曲、ほとんどはリョージが「これ、やろーぜ」ってかんじで。
目立ちたがり屋のあいつだから、パンクとか激しいものが多かったと思う。
僕は前からオリジナル曲をやりたいという欲求があって、少しづつ書きためたり、いじったりしていた。
高校も卒業してそれぞれが就職したり、家業の手伝いになったがバンドは相変わらず続いていた。僕は経理の資格もあったので親父のコネで事務系の仕事。リョージは宅配便のバイト。ヒロは家業の豆腐やで、タクは実家が酪農だった。

Dscf6737

学生の頃より練習の回数は減ったけど、いちお社会人ということで門限はないようなものだったし、僕も一人暮らしを始めたりしたのでむしろ時間は自由だった。
学生の頃から付き合っていたナチは、地元の大学へ進んでいて半同棲みたいな生活だったので練習もいつもいっしょに来て、ちょっとしたマネージャーみたいだった。
そして写真が趣味で部活も写真部だった彼女が「RUINS」の名付け親だ。

Fb142 「ルインズ? どういう意味?」

「具体的いうと…廃墟ってことなんだけどさ…」

「なんだよ?暗いなー それほど退廃的じゃないよ」

「それは先入観だってばさ! 廃墟ってさ、本来の存在意義を失って、ものの本質を出してるんだよね たてまえとか見栄のない姿っていうかさ…」

それまで学生時代から意味も無くつけた『下克上』ってバンド名はあったんだけど、なんか右寄りっぽくてみんな嫌になって、かといってこれってのも思いつかなかったからナチのいう「RUINS」になった。語感は悪くなかったし…下克上よりはずっとよかった…

Pna017 「せっかく曲を書いてるんだからみんなに聞かせてみれば?」
ナチにそう言われて練習の合間ににちょっと披露してみた。
ベースのヒロは「それ、いいんじゃないか? やってみようや」と興味をもってくれた。
リョージはあまり乗り気ではなかったが、自分のソロ部分があるとかえってその気になるほどで、オリジナルに力が入れられるようになった。
自分がノートに書いた曲がメンバーの中で、あれこれいじられて本物の音になったときは、感動だった。その頃はまだ、荒削りだったけれど…
いつも口数の少ないタクが一番、飲み込みが早くて、すぐ完全な音を叩き出したのには、正直驚いた。兄貴の影響で小学生の頃から洋楽とか聞いててドラムも叩いていたから体に感性が備わっているんだろう。

オリジナルをやり出すと、コピーがメインのバンドにも独特のカラーが出てくる。月イチくらいの対バンライブでも手ごたえを得られるようになり、単独でも過ぎるほどと戸惑うような客入りは嬉しかった。

そう、その頃には、口に出さなくともメジャー志向があったんだ…
自分達の力を試してみたくて、かなり手痛い出費(特にずっとバイト生活のリョージには)だが300枚程度のシングルCDを自主制作。スリーブの写真はナチが趣味で写真をやっていたのでみつくろってもらった。

「えーっ? アタシんでいいのー? たいしたもんないよー どんなんがいいのかなー」

「いやー 写真のこと俺、全然わかんないからさ…なんとなくタイトル曲のイメージでさ…頼むよ」

「なんか 難しーね でも探してみるよ」

04phaj40  

こうしてみんなの力をひとつにして出来上がったCDは、ぼくらの宝物になった。
上機嫌のリョージが顔でバラ撒いたのがほとんどだったけど、枚数が少ないこともあって販売分はほどなく完売した。
「もっとプレスしても良かったよなー」

僕は、十数枚をいろんなプロダクションへ送った。
うぬぼれも少しはあったかもしれないけれど自分達の力をためしてみたい…そう思っていた。期待半分 ダメでもともと半分で…

04phaj34 RRRRRRR…

ある休みの日の朝、といっても10時はとっくに回った頃、1本の電話が入った。

「ねぇ シゲ 電話だよ…」

「ん…? あぁ…」

横で一緒に眠っていたナチに起こされて電話に出た。

「はい…●●です…」

「おはようございます シゲオさんですか? 私、▲▲▲プロモーションの■■という者です。●●さんから『RUINS』のデモを頂いておりましてお電話させていただきました」

 

一瞬で目が覚めた。

 

 
反射的に裸のままベッドの上で弾け飛んで正座した。ナチもビックリして目を丸くして毛布にくるまって縮こまった。

「はい! わざわざありがとうございます!」

「大変興味を持たせていただきました。上の方に持ち込んだりしていたので、返事を差し上げるのに遅れましたことをお詫びします。都合の良い時に直接お伺いしてお話をさせていただきたく存じますがいかがなものでしょうか?」

Dscf5488 「はい! いつでも結構です!」

詳しいことはみんなの都合を聞いてから連絡すると言うことで話を終えたが、興奮が収まらない…

「何の電話?」

「東京の音楽プロダクションさ! やったよ! 夢のようだ!」

「そう…おめでとう」

それから皆に電話をかけまくった。
リョージが一番喜んだようだ。

「おー! やったな! とうとう俺たちの時代だ! 今日は午後から早退するから前祝いしようぜ!」

Dscf5441_2  ヒロとタクは、ことの重大さが分からないようで、ちょっとそっけなかった。

ようやく気が静まって落ち着いてきたとき、ナチがいつのまにか帰ってしまったことに気がついた。
この日から微妙に何か、かみ合わなくなったんだろう。
夢を見たかったんだ
でも、夢中になりすぎて、いろんなものを忘れてしまったようだ…

Ek081 今回の帰省は、ずっと心の底にあったしこりを振りほどきたい気持があった。
いざ、来てみると決心が鈍る。とりあえずヒロとタクには会っておきたい。

デビューの算段がついた頃、ヒロが言い出した。

「俺はプロになる気ないよ 家業ほったらかしにできねぇしさ」

「お前 何言ってんだよ今更! チャンスじゃねえか!」
リョージが即刻キレた。

「話進めてんの お前とシゲオだけだろ!」

「ちょっと待ってくれよ! 確かにヒロの話も聞いてなかったよ でも好きなんだろ?音楽は! それに売り込みには反対してなかっただろ?」

Ek062 「別にメジャーが全てじゃないだろ? 今のまんまで俺は満足だよ! デビューするなんて少しも思わなかったさ。だからって何でも犠牲にできねェよ 俺には!」

「タク! お前はどうなんだよ!」 火の付いたリョージはタクまであおりだした。

「俺も…行けないよ…」

「何だよ! 何言ってんだよ! 貧乏臭い牛飼いずっとやってんのかよ?!」

タクは黙って上着をつかむとスタジオを飛び出して帰っていった。

「シゲオ! お前は逃げねェだろ?!」

即答できなかった。
リョージの肩越しに耳を押えてうずくまるナチが見えた…

 

 

「いたしかたないですね…補充はこちらに来てから選抜ということでぜひともお願いします。全面的に私が皆さんを押していることもありますので…」

この頃には、ヒロとタクを無視するように話は進んだ。
ナチも僕のところには、ほとんどこないか来ても早めに帰ってしまうようになった…

そのわだかまりの清算をしたいのが今回の目的なんだ。
でも、ずっと会って何を言おうかと考えてきたが、この日を迎えてしまうと躊躇してしまう。
とりあえず、タクが一番話しやすいんじゃ…と思い、郊外へ車を走らせる。

2、3度ドラムセットを運ぶのに来たことがあった。タクは次男坊だったけど兄貴は大学に行った先で就職してしまい帰ってこなくなったことからタクが暗黙の了解で酪農家の跡取りになってしまったようだ。
夏の訪れがおそいとは言え、初夏の香りもしてくる北の大地の風景は、植え付けも始まったばかりのようで緑色の細い筋が走るのが目立つ畑がほとんどだ。
やがて緩やかなカーブの先にタクの農場が見えてきた…

 
 

「あれ…?」  様子がおかしい…

Dscf3550

Dscf3551 枯れた雑草の目立つそこに人や家畜の気配はない。
車を止めて牛舎へいってみるとやはりもぬけの殻だった。
荒れて物が雑多に散らばっている。
農機具は、あちこちに点在しているけど、どれもツル性の植物に絡まれて放置された亡骸のようだ…
サイロは虚栄のシンボルのように虚ろに立ち尽くしている…

Dscf3583 「なんで…?」

家の方も戸口まで雑草がはびこって人のいる様子はない。呼び鈴を押してみたが電気が通っていないらしく音すらしないようだ…

何かの冗談のような気もして、近所へ聞きに行った。

「▲▲さんね…もう辞めて2年になるわ ものすごく乳値が落ち込んでたからねぇ きっぱり牛は見限って野菜に切り替えたんだけどそれも原価割れして、にっちもさっちもいかなくなったみたいなのさ… お嫁さん迎えたばっかりだったんだけどね…」

Dscf3573「今はどちらへ?」

「親御さんは市街の方で暮らしてるけど、若夫婦は札幌の方へ出たみたいだよ。まだ若いから何でもできるっしょ 小さい子もいるから大変だけど…」

そうか タクも大変だったんだな…
結婚したのも知らなかったよ。
ヒロに聞けば詳しいことも知ってるだろう…
衝突したヒロには、いちばん会いずらかったけど、今はそういうわけにもいかない。
この3年の間にみんな何かを相手に戦っていたんだ…

でもその間だけの誤解は、できることなら解いてみたい…

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(つづく)

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2008年3月17日 (月)

蒼い戦士たち ①

聞える 目を閉じると
魂が揺れるほどの歓声が…

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聞いていたDEENのアルバムの最後の曲 「蒼い戦士たち」がイヤホンから流れだしたころ、車窓の景色は故郷の色が濃くなり始めてきた。
この景色を見るのは実に3年ぶりになる。

Dscf5558 3年前もこの眺めを見て旅立った。数年程度では、どこもほとんど変わってはいないようだ。それでも新鮮な気持に心躍るのは、いかに自分が故郷を忘れていたかということなんだろう。

高校の頃から続けていたバンドの傍ら、ダメモトであちこちに送っていたテープが、某プロモーターの耳にとまるという幸運に恵まれた。
夢に見ていながら、夢にも思わなかった現実。
でも4人の仲間の気持は、それで分裂してしまった…

僕とリョージは夢行きの電車に乗り
ヒロとタクは自らの意思で残ることにした

Dscf5342 僕らは、ちょうどリズムとメロディが分断してしまったかのようだった。
上京後は今まで思いもしないことを色々経験した。プロモや売り込みの取材で気の休まる余裕もない毎日ながらも、それが講じて爆発的とは言わずも3年で思っていた以上の評価を得られたのは喜ぶべきだっただろう?

ここに至るまでには「勝つより大事なこと」「負けるより悔しいこと」の体験。
そしてリョージも自分の進むべき道に軌道修正して僕の前から消えた。
それも辛かったが、それ以上にいつも頭の片隅にあって自分を苦しめてきたことがある

自分は『裏切り者』なんだ… ということ

Dscf5337 そんな気持がいつも脳裏にあったから今回の帰省もどこか後ろめたい。
改札を抜けてから駅の南口でそそくさとタクシーへ乗り込む。ここに来てまでそうするほど顔が売れていると自惚れたわけじゃないけどサングラスをしながらも目線がうつむきぎみになってしまう。

「●●の方へお願いします」

とりあえず懐かしの我が家へ…
春とはいっても日陰には名残雪の塊がポツポツ目に付く風景。
それを一生懸命砕いて路上へばら撒く老人は、通行の迷惑など意に介していないかのようだ。

車は、隣町へ至る橋を越えて眼前に見覚えのある砦が見えてきた。
主のいない砦。いつかそこへ皆で入ったことがあった… 

Dscf4205  

「いいよなー ドラムは荷物が少なくってよー 棒っこ2本だもんな」

「なんだよ!自分の相棒連れられないモンの身になっていってんのか? うっとうしいなら表に立てかけとけよ!」

ヒロが入口にベースのヘッドを引っ掛けてグチり、ドラムのタクがやり返す。

「シッ!ちょっと静かにしとけや…騒ぐとこじゃねぇんだからよ。ムードねーだろ?」

住宅街の狭間に鎮座する無人の要塞。そこに入ってみようと言い出したのは、リードギターのリョージ。
先陣をきって中へ入り、後に続くリズムパートをたしなめる。
一番遅れて周囲を気にしながら中へ入る僕がシゲオ。その頃からボーカルと若干ギターを弾いていた。

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Dscf3416 練習場の帰りによく見かけていたその砦は、倒産したアミューズメント施設。
川近くにそびえ立つ要塞のようでいつも気になっていた。
現役の頃に一度、親といっしょに来た記憶がある。
往年は、近隣や郊外からも若者が連夜集い、いわゆるナンパスポットだったそうだ。当時でも終焉の日から10年を越える。

創始者は、畑違いの業種から娯楽業界へ参入し、一代で地域にグループを展開して当時は地元で最も成功した人として賞賛された。
バブルとは無縁と思えた北海道でも、今考えてみると大いに恩恵は受けていたのだろう。多くの金融機関が当時、これらの砦を築き上げることを可能にしていたのはやはり、当時の時勢だったようだ。

いまや「夢の跡」となった砦に行ってみようとリョージは言い出した。

Dscf0935「何かこう現実離れしたとこから、ひらめきがあるかもしんねーからよ。」
それを真に受けたわけではないけれど、ヒロもタクも反対しなかったので寄ってみる事にした。倒産した当時は裁判所の管理下に置かれたが、今は依託管理先もわからない。
ただ荒らされていくだけの無防備な要塞になってしまったようだ。

駐車場は、隣接する家の窓から丸見えなので正直ビビる。それよりも間近に来てみてアスファルトのひびをこじ開けるようにして伸び上がる雑草に囲まれ、音も無いまま虚ろに立ち尽くす巨大な二棟を見たときの威圧感は、初めて経験した。
これが交通の激しい通りに面した場所とは信じがたい。

「シゲオ!何してんだよ 早く入れよ!」

「あ… あぁ…」

入ったところに見える白亜のシンボルタワー。サイバーな感じがあるけど、よく見るとスクラップ部品を使っているようだ。奥には、思ったよりゲーム機とかのモノが残っている。ただし、ガラスが割られたり、部品が剥がされたりで、その壊されようから人が随分入ってきたことは想像できる。
散乱する利用者カード 景品獲得の記念写真、相性テストの判断結果…思い出は無造作に色あせる。
バラ撒かれたゲームコインは「これが全部、お金だったら…」というよりお金の価値が空しく感じるような光景だ。

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Dscf4213_4 「いやーっ俺の部屋に置きてぇな これ、電気入れりゃ使えるかなぁ…」

「タクの部屋6畳だろ? 入んねーって! 牛舎に置くんか?」

「牛舎は余計だろ?! 豆腐屋が何言ってんだよ!」

「やめれって!平和な会話できんかな! まったくお前らよー」

火花を散らすふたりの声ににイライラしたリョージがカラオケのカウンターを物色しながら、ふたりより大きな声で怒鳴る。

Dscf0929_2 ヒロとタクはいつも喧嘩腰の話をする。
いつもどちらかが 「辞める!」と言いださないかといつもハラハラしていた。
大抵、神経質なリョ-ジがたしなめる役に回り、最悪の状況は回避できていた。

「全部残っているかと思ったけど、結構運び出されたりしてんだなぁ」

「そらそうさ 倒産が決まる前に情報が取引先に伝わるらしいから、裁判所の管理に落ちる前に業者があわてて回収するんだとさ」

リョージは、おかしなことに情報が早い。そのためかバンドの活動も先頭に立ってやってくれる。結局のところ親分肌なんだな。

一触即発な関係ながら6年一緒にやってきた。

(つづく)

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2008年2月14日 (木)

水中メガネ ~エピローグ~

Title7

大人になるのはキャベツみたいなものだ
そう思っていた

元にある自分に経験や学習や見たり聞いたりすること全てが重なっていって大人の自分になるんだと…

今、そのことを思うと それは津波みたいなものだった。
望む・望まないは関係なく「時間」という波が積み上げたものを容赦なく押し流す。
思い出という残骸、幼稚さという欠片だけを残して…

あとには新たな自分が建てなおされて何事も無かったようになる。
人は変り続けるのだろう。私も例外なく…望む・望まないに関係なく…

Mori

Tontmusi 昨日のことが夢のようだ
草の種が弾け飛ぶみたいに心の中で時を待っていた何かが全部弾けたんだろう。
傷もすっかり癒えて、今の心は何を積み重ねても向こうが透き通るみたいにクリアになっている。

どうすることもできないのは、今日でKちゃんは私の前からいなくなってしまうことだ…

 

「また 会えるよね」

 

Ha そうは言ったもののKちゃんが行くところは、おいそれと行けるところじゃない。
会える時が来たとして、Kちゃんも私も今の気持のままでいられるのだろうか…
それが避けられない現実なら、旅立つKちゃんに余計な荷物を背負わせるべきではないんだろう。

「大好き」だからこそ…
そう、「好き」だったんだよ。 いつも一緒だったから確かめようともしていなかった。

Dscf0591

私とKちゃんが離れていくのは、大人の都合だ。
でもそれに対して何ができるだろう

噛合っていなくても歯車は動いていたからね

Dscf6687

 

 

今日でKちゃんは、いなくなる
私は、学校へ行くことにした。

絶対辛くなるし、大人がたくさん来るようだから、Kちゃんとあまり話せないような気がしたから… そのことは昨日Kちゃんとも話した。

Dscf5115   

 

    「そうだね…そうしよう…」

 

 

もう、このバス停も私ひとりぼっちなんだな…

「バンザーイ バンザーイ バンザーイ」

Kちゃん家のほうから聞こえた。もう、見送りしてるんだ。
どこかの家が引越しのときも、集まって「バンザーイ」ってやってたな…
もう出ちゃうのか…今日中にフェリーに乗るって言ってたな…こんなに早いなら、もう一度会えたかな… でもこれ以上は辛くなりすぎる。

「今日くらい休んで、お見送りしたら?」

ママに言われたけれど、断ったんだ。