2009年9月14日 (月)

マカロニ ③

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お店の外は、太陽が真上を越えて建物の大きな日陰を作り始めていた。
さっきよりも大勢の人で賑わってきて、たまに大きな笑い声があがる。それが少し怖い気がする。
真ん中にいる人はよく平気だなぁ。私があの場に出されたら怖くて一瞬ではじけ飛んでしまうかもしれない。
小さい頃のお祭りは、スゴク楽しいと思えたけど今そう感じてしまうのは、私がいかに人目を避けなきゃならなかったかってことなんだろうね。

Dscf1648 「何のお祭りなんですか?」

「うーん いわゆる夏祭りなんだろけど、時間によっては神輿が出たり、夜は盆踊りもあるよ。それだけじゃなんだから昼間はいろんなイベントしててね。毎年、大道芸人も来るんだよ」

「ふーん」

「こういうの好き?」

Dscf1605 「人の多いところ、苦手なんですよ。…慣れてないので」

「じゃ、ここ離れよう。おいで!」

彼についてわき道の方へ─
高い建物が多くて、コロン(連れの石の魂)と待ち合わせてる大きな看板が見えなくなった。
行った先は車がたくさん停まってる。ここ駐車場?
その中の1台のところへ彼は、歩いていった。

「えっ?私…そんなに遠くまでは…

「そんなに走らないよ。少し気分転換さ。まだ時間、充分あるじゃない」

「そうですけど…」

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断わる理由も思いつかなくて、隣に乗る。
大丈夫かな…今何時だろ。どのくらい経ったかな?

Dscf1929_2 車は駐車場を出て、ゆっくり通りへ出て行った。
お祭りの店がたくさん並ぶ通りを過ぎると嘘みたいに歩く人がいなくなる。
街じゅうの人が、さっきの通りに集まっていたみたいだ。

甘い香りの漂う車の中…聞いたことのない音楽…。
高い建物が後ろへ走り去る様子は、映画を見てるみたい。
いつも空の上から見る地上は、みんなゆっくり走っているように見えるのに車の中からだととても速く感じる。
当たり前なのかもしれないけど、それが私だけの発見みたいでなんだか嬉しくなった。

002424 「なに?」

「はい?なんですか?」

「笑ってたよ」

「そうですか?ちょっと嬉しかったんで…」

ヤバイ! 景色が流れるのが早いから…とか言うのは変だよね。
それにしてもこの人、私が幽霊と知ってもなんとも思わないのかなぁ…
もしかしたらこの人も幽霊だったとか…。

Dscf1945

「あのーっ幽霊とかどう思います?」

「…どうって別にねー。たまに友達と心霊スポットへ行ったりするよ。夏とかには…」

「心霊スポット?」

「幽霊屋敷の噂があるとことか、地縛霊がいるらしいとことかね」

「自爆霊ですか…」 なんだそら…

002085 失敗とか多い私は、たしかに自爆霊に違いない。
そういうのが集まるところでもあるのかな?

それにしても、本当は、私が幽霊だってこと信じてないんだろうか?
そういえば昼間から街中をフラフラして、マカロニグラタンを食べる幽霊なんて私だけかもしれないきっとそうだよ。

「そういうところで幽霊を見たことあるんですか?」

「ないよ!話ではずいぶん聞いたけどね。結局“きもだめし”だから。ホントに出たら行かないよ。呪われちゃたまんないし」

「えーっ“呪い”だなんて…

ヒドイこというなぁ…元は同じ人間なのに…

「良く行くの?ああいう廃墟みたいなとことか」

「へ?」

行くのかなぁ…行くというか夜は、回りが見えないから屋根のあるところで休んでるだけなんだけど…。まさか普通のホテルに泊まれるわけじゃないし…。

「いや…行かないです。幽霊もいろいろだと思いますよ。そんな気味の悪いものじゃ…」

「そういや、ナギサちゃんも幽霊だったよね?」

「でも半人前だし、あまり幽霊に向いてないですけどね…」

「幽霊にも資格がいるの?死ぬのも面倒なんだなぁ」

「落第もできないんですよ」

「ははは…♪試験も何にもない♪ってか」

「ハハハ…

それって、妖怪じゃないかなぁ…
生きてる人のフリしてここにいる私も考えると人に化けるキツネやタヌキと一緒なのかも。

…やっぱり私が幽霊だってことは、本気にしてないみたいだ。
だよね…。私も「トイレの花子さん」とか怖いなぁ…と思ってたから。

自分がそういう身になったら、むしろ生きている人のほうが怖くなってしまったようだ。その「怖さ」というのは、自分がどんな目で人から見られるかということで、人のことが怖いわけじゃない。どこか“仲間はずれ”にされている気持ちと似てて、スゴク孤独な空気に縛られる感じがするんだ。

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あれ…? 気がつくと、景色から高い建物がほとんど逃げ去っていた。

「どこまで行くんですか?」

「どこか行きたいとこある?」

「いえ…近ければどこでも行きます…」

「うん、わかった」

コロン、何してるのかなぁ…
さっきのお祭りのどこかにいたんだろね。一緒に行けば良かった…。

Dscf1940 車は、スーッとスピードを落として左へ…

「ここは?」

「ちょっと休んでこ」

「はあ…」

地下室みたいなところに車を止めて、言われるまま付いていく…
昼間なのになんだか薄暗い…オバケ出そう。(自分がそうか…)
彼がうっすら明るいところのガラスの棒みたいなのを取ると廊下がパッと明るくなる。

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「あーっ青空!」

天井や壁一面に白い雲が流れる青空が…これは、絵だよね。でも青空を見たら少し安心してきた。動かない雲 焼けることのない空…

「ここだよ」

「あ…はい!」

 バーッ

Dscf4513 ドアから入ると水道の勢いよい音が聞こえた。隣にお風呂場があるみたい。
ふーん…こんなとこ初めて。
いつも夜休ませてもらう空家とは大違いだね。
どこからかかすかに音楽が聞こえる。

「部屋はそっちだよ」

「はーい」

えーっなに?この部屋!薄暗くて窓がない!
外が見えなくてどうするの???
中は部屋いっぱいの大きなベッドと テレビと 椅子と小さなテーブル
そんなもの…

002885 「あのーっ…ここ、なんですか?」

「えっ?なにって…ホテルだけど?初めて?」

「たぶん…ですね…」

「…まあいいや。ゆっくりしてこうよ」

「…」

変なとこだなぁ…そんなに広いところじゃないし…

枕元にスイッチがたくさんある。
入れてみたら部屋が明るくなった。
こっちは何だろ?

「…続いてのニュースは、また行楽シーズンの痛ましい事故です…」

わっ テレビか…
ベッドの端に座って、しばらく見てた。何のことを言ってるのか全然分からないけど…
─とバスタオルを腰に巻いた彼が部屋に入ってきた。

002286 「テレビに夢中だったから、お先に使ったけど、お風呂入れるよ」

「えっ?」

「今日は、朝から暑いしねー」

「はあ…」

お風呂に入ることになった。まだ昼間なのに…
なにしてるんだろ私…今日は変な日だよ。
とりあえずお風呂には、入らなきゃならないみたいだし─
大きな鏡のある前で服を脱ぎだした。

「えーっ

002886鏡に映る自分を見てビックリした。

「私って─こんなにオトナだったんだ…」

何をいまさら…って感じだけど、こんなふうに自分の体を見たのは初めてだった。
いつも大して考えもしないで人に化けたりしたけど─

「どしたのー?」

「いいえーっなんでもないですーっ

000080ともかく─
自分が自分じゃないことを思い知った気がした。
なんだか…なんだか…なんだかすごく恥ずかしい…

鏡を見ながら思わず手で顔を覆った…
指の隙間から見えるのは…見えたのは… 『あぁっ
爪の色がすっかり変わってる。
まずい!時間じゃないか! いつの間に時間が経ってたんだろ!
早く元に戻らないと、この体から出られなくなる!

あれ?いくらなんでも遅いな…「ちょっとーまだ上がらないのー」
あれ?いない!あれ?あれれっ?逃げられた?

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「すっかり、お待ちさせたでしたナギサーン。大盛りでお待ちですか?」

「ううん。そうでもないよ─」

「お楽しみかったらしさです。笑わせた人がたくさんあったから」

「ふーん…良かったですね」

「ナギサンは、何をおこなってたんでしょうか?」

「私?いや…何もしてないよ」

「だから ご一緒したきたら良かったのにですより…」

「うーん…そうだね。次はそうするよ…」

「なんだか、お元気が台無しですね。ナギサン?」

「そんなことないよっ。 もう行こ暗くなってきたから」

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赤から紫色に変わり始めた夕日の下で、相変わらずにぎやかな音がしてる。
夜が怖くない人たちの笑顔は、大人も子どもも、どれも同じに見えた。

Dscf1178 今日のことはコロンには黙っておこう。
何言われるかわからないから…

それにしても勝手に逃げちゃって悪いことしたな…
でも、おいしかった…マカロニ

Youtube 「マカロニ」 Pafume

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2009年9月 3日 (木)

マカロニ ②

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「飲み物は?」

「い…いいえ水でいいです」

「じゃ…それで」

「かしこまりました。アイスコーヒーおひとつ、マカロニグラタンがおひとつ。以上ですね」

「はい」

002011_2まいった…
うっかり大声で言っちゃった…

「もしかして、お腹空いてた?」

別にお腹が空いていたわけじゃない。
目の前のことと頭の中が別のことを考えていたんだ。

「は…ははははは…すいません。つい…何年も食べてなかったので…

「えぇっ?」

「いや…食べてます。飴くらいは」

「飴だけ?」

「い…いや食べてます。人間だから…」

うっわ~話せば話すほどボロが出てくるよ…
今すぐにでも逃げ出したい。
向かい側から、ジッと私のほうを見てる。
怪しまれてるかな…私が本物の人かどうか…

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「ところで、この辺の人?」

「いえーっ旅の途中で、ちょっと立ち寄っただけなんです。友達が見たいものがあるとかで…」

「そっか、お祭りだしね。その友達ってのも女の子?」

「はい。今日は…」

「今日は?」

「いやいや今日もです

マズイぞ!絶対マズイ!
なにか話を変えないと…

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「あの…あの、あなたは何者なんですか?」

「ナニモノってかい?そう…たぶんキミが待ってた人」

なに?ちょっと待てよ!名前が同じとしても、この人が私のカズ君のはずないよ…
もしかしてコロンが私を騙そうとしてるのかな?…いや、そんなはずは…
待てよ…落ち着けナギサ!混乱してると相手の思うツボだ。
普通に振舞わないと…普通に…

「私もそう思います」

「へぇッ!話が早いね」

その気になれば何とかなるもので…何とか話に慣れてきた。
車がどうとか仕事がどうとか、よくわからない話をズーッと聞かされたけど、何となく返事をしていれば勝手に話してくれるから楽だな…

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「幽霊?」

ドキッとした 店のどこからか、そう聞こえた。
少し離れている席の女の人らしい…。
背を向けているけど、私の正体を見破ってるのかな?
それとも私の変身がヘタで正体がバレバレなのか…

「お待たせいたしました」

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懐かしい香り─
小さい頃の…生きていた頃の…思い出の香り。
フツフツと香りを立ち上らせる黄金色のマカロニグラタン…
しばらく見とれていた。

「食べてていいよ」

Dscf1188「…あ…はい いただきまーす

アチッ…アチチチチ…

「そんな、あわてることないのに…」

「すいません!死んでから、しばらくこういうの食べてなかったので…」

「えっ…? もしかして…ナギサちゃんてさ、幽霊さんなの?」

あ… しまった…。グラタンに夢中になって自分でバラした…。

Dscf1550 「なんか変わってる子だなぁって思ったよ」

「ごめんなさい…騙すつもりじゃなかったんですけど…」

「でも、こんなカワイイ幽霊なら歓迎だけどね」

「怖くないですか?」

「うん、いろんな人と知り合ったことがあるよ。マリー・アントワネットの生まれ変わりだーとか、実は金星人なんだーとか…他にもいたかな」

「金星?」

私みたいなのの他にもいろんな人がいるんだ。
それにしても幽霊が怖くなさそうな人に驚いた。

「でもさ、幽霊って昼間でも大丈夫なの?」

「始めは…幽霊になった頃は、陽に当たると溶けちゃうと思ってたんですよ。でも違うってことに気がついて…それから風に乗っていろんなところを旅してきました」

008013_2 「風?自分で飛ぶんじゃないの?ユラユラ~って」

「いやぁ風船じゃないんですよ

「ハハハ…」

「へ…エヘへ…」

自分が幽霊だということにズッと引き目を感じていたけど、話を聞いてもらうと、今まで縮こまっていた気持ちがほぐれてきた。

「やっぱり幽霊になるってのは、この世に未練とかあるのかなぁ」

「無いですよ。私は…。気がついたら幽霊だったし…それに始めは、そのことにも気がつかなかったけど。でも…悔しいとか、悲しいとか、そういう気持ちでいっぱいになっちゃってる人もいました。スゴク可哀そうで…」

「えっ?えっ?えぇぇっっ

また向こうで女の人が大声を出した。
あれ…?

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「騒がしい店だなぁ…食べ終わったらどこか他所で話そうよ」

「はい」 …向こうの人たち…どこかで会ったような気がするなぁ…。

(つづく)

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2009年8月24日 (月)

マカロニ ①

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「ナギサーン 地面に降りませんか? 空ばかりで たくさん つまらないです」

Hands1 「えっ…あっ…そう?」

相変わらず言葉のヘタな『石』…。私が教えてるから仕方ないけど…。
今は時計の姿で私の左手に巻きついているコロンさん─ 
旅の道連れになった「石」のことをそう呼ぶことにした。コロコロ転がる石だからコロン。
石といっても、お地蔵さんだったけど。元から名前は無いそうだし、付けられた名前も知らないらしいから。
言葉に慣れていないコロンさんは、私を『ナギサン』と呼ぶ。
「ナギサ さん」じゃなくて「ナギサ ん」
別に「ナギサ」でいいんだけど…

「どこか…行きたいところ、ありますか?」

そう言っても風任せだから思うほど好きな方へ行けるわけじゃないけどね。

「群れの 人達のいる地面 いいですね」

「えーっそれはちょっと嫌だなぁ…

「何だから ですか?」

「いや…誰かに見られたらヤだなーって…

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風に乗って青空の中にいる私は、これでも幽霊だ。
人に見られたりするのは、好きじゃない。
怖がったり、驚いたりされるから…
要領のいい幽霊なら、そう簡単に見られることもないだろうけど、わたしはどちらかと言うと「へたっぴ」だから、やたら見られたりする。

Dscf1690 「ナギサン ホントは 人に見られたいじゃないですか? 本当は 見られたくないじゃなくて。 ワタシ 見られない しかできない ですから」

う…鋭いこと言ってるかも…
確かに仮の体を作って中にいるときは堂々としてられるけど、今のまま人目に出るのは、すごく怖い…
心だけの存在のような私は裸同然ということになるだろうか。
だから見られそうな気がしてオドオドして、かえって人目につくのかもしれない。

「ちょっとだけですよー。ならいいけど…」

「はい ガッテン 承知でした」

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風の進む先にてっぺんがキラキラ光る塔のようなものを見つけて、そっちへ向かってみる。
思ったとおり街の方にやってきた。いざ街へ入るとなると、なんだかドキドキしてくる…。
とりあえず、なるべく人目につかないところを見つけないと…大きな看板が見える。
あちこち剥がれ落ちているみたいで網のようなものをかけてある。とても古そうな看板。あそこならそれほど見られないかな…

Nagisahawaii 「ここで待ってるから行ってきていいですよ。いつまでにします?」

「そね。5時 どうですか?」

「えっ?かなりあるじゃない」

「短くですか?」

「いや…別にいいよ…

コロンさんは「待ってました」とばかりに私の腕から離れて形を人の姿に変えた。
今日は─ 女の人の姿 
「石」だから男女の区別は、無いらしいけどホントのところどうなんだろう…

Dscf1615 「ナギサンも 来るといいよ。 見える姿なら 恥ずかしい ナイね」

「でも、私幽霊だから…

「暗いだな。いつも空飛ぶだから 上昇志向 ですよ」

ヘンな言葉知ってるなぁ… 石のクセに軽いし…

「うん…考えとく。ここに飽きたら降りてみるよ」

コロンはニコッと笑うとビルの谷間に飛んでいった…
いつもは、あまり動きたがらないから左腕に巻きついたままだけど、こういうときは動きが早い。前に「人間 見るの好きです。大盛りで…」とか言ってたけど

「あっ 時計が行っちゃった

忘れてた… どうしよう。時間が分からないとどこにもいけないや…。

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Dscf5390 しばらく空を飛んでいたけど遠くまで行くわけにも行かないので結局、街に戻ってきた。
ビルの間に挟まれたところを人がたくさん行き来して、どこからか楽しそうな笑い声も聞こえる。 …私も下を歩いてこようかな…
少しくらいなら仮の体降りれば大丈夫だよね。でも、あと何時間あるかなぁ…

人気のない薄暗い通りを見つけて、体を造った。
街の中は、道から車が締め出されていて、人が大勢車道を歩き、あちこちになにやら人の塊があった。それを見ているだけで不安になってきた…
さっきの通りには、全然人がいなかったのは、皆ここにいたからかな?
どうやらお祭りかなにかのようだ。

ドキドキする…体があるからホントに胸がドキドキしてる…

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Dscf1581 空のこぼれ種と 緑の食べ残しと 大地の吐息
そういうものをかき集めてこね上げた私の体。それでも人と同じように動く。
ドキドキとは、しているものの「体」という鎧の中から外を見ている安心感があるから、すぐにでも逃げ出したい気分も少しは薄れるよ。
でも、すれ違っていく人が急に立ち止まり
「おや?キミはホントの人間じゃないな」と聞いてきたらと思うと、ちょっと憂鬱だ…。

「ちょっとキミ?」

000153うわあぁぁっっ

振り向くと知らない男の人
嫌だ…正体バレたっっ?

「すっごい驚き方だね。こっちが驚くよ!」

「あ…すいません…。あの…なにか?」

「何か探してるの?」

「いえーっヒマなんでー。ただブラブラと…」 普通にしないと…普通に…

「だったら、そこの店で少し話しようよ。外は暑過ぎるしさぁ」

Dscf1627 「でも…」

こまったなぁ… でも幽霊とはバレていないようだ

「誰かと待ち合わせ?」

「はい…友達と5時に向こうの通りのビルの屋上で…」

「屋上?」

「いえビルの中です

「5時なら、まだまだじゃん。適当に時間つぶしにもなるでしょ?」

「…はい、少しなら…」

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理由が見つからず、言われるままにその人に付いて近くの店に入った。
うーん…困ったな…

000643 「いらっしゃいませー」

「ふたり!」

「2名様ですね。こちらへどうぞ」

うっわーっ こんなところ初めてだ…。

「こちらのお席へどうぞ。 お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」

なんていうんだろ…お店の中、外国みたい…。
明るくて、なんだか天国みたいな気がする。
よく夜を過ごす空家とは大違いだなぁ。

000640 「なんにする?」 向かいの彼がメニューを私に手渡す。

 ナニこれ 写真載ってない文字ばっかりだ…英語まで書いてある。
小さい頃、両親と3人で大きいレストランへ行ったことがあったけど、あそことはずいぶん違うなぁ…そういえばあの時、何を食べてたんだっけ? うーんと…

「名前聞いていい?」

「ま…まだ決まってないです

002086「いや…それはゆっくりでいいよ。君の名前の方さ」

「あっ…ああ…私ナギサです」
 
なんだ…ビックリした…すごく、ぎこちない私…

「素敵な名前だね」

「はい…ありがとうございます…」

「…僕の方は聞いてくれないの?」

「ご…ゴメンナサイ! お名前は?」

「カズヒロ!」

「なに…」

008003 この人もカズ君と同じ名前
私の行く先には「カズヒロ」って名前の男しかいないの?

「…いや、ステキなお名前です」

「女性にそんなこと言われたのは初めてだなぁ。すごくありふれてると思うけど」

「そんなことないです!たぶん…絶対…」

     ミーッ…

「なに 何の音

「オーダーしないと…まだ決まってなかった?」

…忘れてた。

「お決まりですか?」

「アイスコーヒー!ナギサちゃんは?」

えーっ! えーっ! どうしよう…
あ…そうだ思い出した

「マカロニグラタン

「えぇっ

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     (つづく)

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2009年8月 9日 (日)

廃墟の歩き方Ⅳ 『ちいさな頃から』②

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「へーっここ遊園地かなにか?」

「いえ…ラブホです…」

「えっ?ランボー?」

「ラブホですよ」

「らぶ…。あっあぁ~っラブホテルね。なんだ…変なとこーっ

Dscf0265 変なとこって…
しかし、廃墟嫌いと言いつつ、ケロッとしてるなぁ。
自分で来たいって言った手前、仕方ないだろうけど。

「良く見たらスペースシャトルの形だ。キレイな時だったら来ても良かったねぇ…」

「…」

「こういうところ、良く来るのぉ?」

「いや!ラブホは行かないです

「はぁ?廃墟のことだよ」

Dscf0305 う…墓穴掘った。なんか調子狂うなぁ。
なんていうか、いかにも理解のなさそうって感じの人と来ると、私もこんなところで何やってるんだろ…って気がしてくる。
師匠だったら、私が言ったことに的確にリアクションしてくれるけど、趣味が違うからなんだろうけど。
師匠は聞き上手だよ。やっぱり…
あ~っ神経が疲れてくる…

Dscf0290「営業していた頃は、まだ上水道が来てなくて地下水汲み上げだったそうです。それが近くの道路工事の影響で水が上がらなくなったと聞きましたよ」

「それでこんな有様に…中、見れれる?」

なんだか美玖さんのほうが乗り気だなぁ…
彼氏と廃墟へは行ったことがあるらしいから慣れてるんだろけどね。
好き嫌いは感受性の差なんだろう。
シャトルルームの中でも割と中がきれい目なところを選ぶ。
と、言っても、どこもかしこも木片や誰かが放り投げた室内電話や消火器とかの備品も散乱している。
いつから放ってあるのか知らないけれど消火器は、破裂することもあるらしいからなるべく近づかないようにしてる。

「気をつけてくださいよ。頭の上とか…」

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Imga0236「わーっ汚ったないでも広いんだなぁ…。こっちは、お風呂だ腐ってるーっ

「…」

こう、わかってくれそうな人だったら「ここがいい!」とか「ここはキレイだね」とかも言えるけど今日の場合は難しいなぁ…。私が私らしくなくなる。

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「どのくらいやってるの?」

「えっ?何がですか?」

「こういうところに来るのをさ」

「そう…5年くらいになるかなぁ…始めは同じような趣味の人を知らなかったから、ずーっとひとりで…」

「ふーん…でも今は、理解ある彼氏がいるからいいよね」

「へっ?誰…まさか師匠の話

「うん」

「ち…ちょっとぉなに言ってるんですか勘弁してくださいよ

「だってぇ、こんな怪しいところに一緒に来れる人ったらそうじゃないのぉ?」

ないないないですかんぐり過ぎですって

「もう外へ行こ。なんだか空気がスゴク重たい感じがするよ…ここ」

ふーっ。いきなり何を突っ込んでくるのさ…あ~っ早く帰りたい

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Dscf0229 シャトルを出て、管理室と通常ルームのつながる棟へ。
真っ暗なボイラー室を通り抜けるとき、美玖さんが背中にピッタリ張り付いてきた。
反対側の客室の棟はいくつか部屋が並んでいるけど端から2部屋は内装作製中に工事中断して、柱とかが剥き出しのまま。
たぶんシャトル棟だけで用が足りたので全てを完成させずに営業していたんだろう。
一番手前の部屋もボイラー室から直接繋がっているので客室ではなく、乾燥室に転用していたようでタオルや浴衣が散乱して、天井には物干しがたくさん。
のこり3部屋が客室として使われていた。もっともひとつはガレージのシャッターが閉まったまま壊れているので『開かずの間』と化している。

Dscf0283 「ずいぶん人が来てるんじゃない?あちこち壊されてるけど…」

「たぶん、肝…」 マズッ

「なに?」

「いや… 危ない危ない…

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「小さいころさぁ…小1くらいの時かなぁ!捨て猫を拾ってさ、真っ黒いけど目がビー玉みたいにキラキラの子猫。近所の子とこんな狭い階段のある空家の2階で飼ってたことあるよ。その頃、私んち社宅だったし、他の子の家もダメだったから…」

Dscf0315 「そうですか…」

「カワイかったんだぁ。すぐ死んじゃったけどね…っていうか殺されたんだけど」

「えぇっ?」

「みんなの秘密基地にしてたけど、ひとり男子がさぁ、じぶんの兄ちゃんに教えちゃったのさ。後で白状させたけど…。その子達、行ったみたいで“黒猫は悪魔の使いだ!”って寄ってたかって蹴り殺しちゃったらしい…見つけたときはもう、ボロボロで冷たくなってた。あんなやつら呪われてしまえばいいのに!」

「…

「それからこんなとこ来なくなったよ…」

そういうことあったのか…
ないとしても普通は、廃墟好きにならないだろうけど…

Imga0249

「もういいや…帰ろう

「なにかに…なりました?」

「うーん…よくわかんない私には、さっぱりさぁ…」

その横顔からは、廃墟が好きだとか嫌いだとか、そういうことは読み取れない。
意外とスッキリしたような表情ではあるけど…
ただ、ここに来てみた─それだけなのかもしれない。

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「このシャトルがホントに飛んでいったら私たちの街の上だよね」

Dscf0345 朽ちかけながらも整然と並ぶシャトルは確かに街のほうを向いている。
夜なら、空と地上の星に挟まれる…ここは天と地の境目がわからなくなる景色なのかも…
でもシャトルは、静かに…ただ静かに空を見上げるだけ
鳴り物入りで打ち上げるスペースシャトルとは違うから…

「たまに…アツシも誘ってあげて」

「いいんですか?

「うん!たまにならね。アキさんの彼氏と3人なら構わないよ」

だから…違うって…

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Dscf0301 「あーっビックリした…人が来るとは思わなかったよーっ

「そうですなんですか?人間はいろんなとこへ来るあるますね…」

「そう…“あるます”だよ…

Youtube/JUDY&MARY『小さな頃から』

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2009年7月17日 (金)

いちごいちえ ③

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ザーン… ザーン… 海の見える山の上まで来た。ここまでも潮騒が聞こえる。
下の道を忙しく走る車の音もなんだか波の音のような気がして心地いい。
海はやっぱりいいなぁーッ
港に大きな岩が見えた。船よりもとても大きくてまるで山みたいな…。
実は大きな海亀がジッとしているだけだったりしてね…

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『ここにいるところがワシどものいる山でした』

『いいところですねーっ海が見渡せられて…ここは、なんて山ですか?』

『下に住みいる人物は“かんのんやま”というわな』

かんのんやま… 観音山…? 観音様がいるんですか?』

『どこさかは知らんしな…でゃが、わちきもそのひとつらしきことです』

『…? あなたの体はどこなんですか?』

『あの木な下におります』

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遠くまで海を見通せる山の中に細い道がずーっと続く。
その両側にはたくさんのお地蔵様が並んでて優しく微笑んでいる。その目は何を見ているのだろう。
昔(生きていたころ)、人は死んだら神様の元(天国)へいけると思っていた。
でも、幽霊のこの身になって、いまだに神様にあったことがない。
ホントは私にとって行かなければならないところがあって、そこにはたぶんいるんだろうけどね…。
それは、私がさまよっているから…迷っているから…迷ってるのかなぁ…

Dscf8086 『こいつが、吾ですねぇ…』

『えっこれって神様(仏様)じゃないですかあなたは、神様だったんですか?』

『いやさ、ここまで人共が持ち上げて、こな形したです。何かに見せたいだろね。ワシらば当たり前の石ですねい』

『ほかの…お地蔵様もそうなんですか?』

『きとね…そうだしょね』

Dscf8084 木の根元に並ぶお地蔵様の端で、柵に寄りかかる一際小さなお地蔵様が、この人(石)だという。
確かにお地蔵様の形はしているけど石には違いない。
私のいた家の近くにも小さな神社のような家があって、その中にお地蔵様が入っていた。
一度、覗いてみると、その顔はとても怖かったけど…。覗いたので怒っていると思ったものだから学校帰りにそこを通らず遠回りするようになったっけ…

『いいですね…お友達がたくさんいて。人もたくさん会いにくるだろうし…』

『いんにゃ!人々と同じもので。小さくなると、それずれ、あちらの考えること分からんようなりす。元よりし、動かぬからに…』

『じゃあ…ここに並ぶほかの人(石)とは…?』

『話もたなです。話したは、ここに訪れはった傷をした小さの人だけ』

『傷? 小さい人?』

『女な人だに。顔に大きの…小さのたくさん傷ついてさ、背をこう…曲げなさったな人』

『…おばあさん… その人と話をしたの?』

『話せなんだす。こちさ話、聞こえなで。そん人な、いつも“なまんだぶ…”ゆうだけでた。なんことだろかな』

Dscf8081

その、おばあさんは、お地蔵様の姿をした石の人をお参りに来ていたんだということは想像できる。
“なまんだぶ”…お経だろうけど何て説明したらいいのかなぁ…

きっと、あなたの姿が神様だから願い事されていたんですよ』

『ふむ、そら思いた。何か願いばされてんね、何かしねばならん思いした。でも聞いたは“なまんだぶ”いっこです。そっていつか来なくなりやった…』

来なくなった… 来れなくなったんだ。そんなおばあさんに高い山の上はね…

『でやから、下へよって探しいたりてたり、人の言うことを聞くことやってしとりました。人の日は短けけどもみんなさん滅茶知っとります。石ん日は長けども、見て聞いとらだけやす。人は面白て飽きまへん』

『そうかもしれないですね…』

Dscf8066

『おで、おまさんは、人なだすか?』

えーっ 急に何を聞きだすんだよ…。難しいこと聞くなぁ…

もちろん人ですよ…。体は…ホントの体とは離れてしまったけど…今は心だけで生きてます』

Dscf8046 『人んてのは、みな、あゆこと出来ようなるんですか?』

『あゆこと?って…』

『辛抱ない石を細くするやとか…』

『えぇっ あれは…わざとじゃないって言うか…わざとか…。その…すいません。あれ、仕方なかったんです』

『なんらOKです。石らは小さなるだけんで何も変わらす。あの、空さ飛んで来くるのは良かすな。遠くんの人も見て来れる』

『気持ちいですよー風に乗るのは。思い通りの方へ行ってくれないから風任せだけど…』

Dscf7978 そういいつつ、この海に来るまでずいぶん苦労したことが頭をよぎり、自分ながらおかしなことを言っている気もした。

『連れてたもらねんばできんかな?うぬもそうして沢山人ん話ば聞いて、見てきたす…』

『うーん…じゃぁ…風の乗り方、教えましょうか?コツさえ覚えれば簡単ですよ。数日も練習すれば』

Dscf8078 『じゃがま、うぬら石は、よう転がりしも手前で動きらすんのは、上等でなさするしな…。よか、簡単手前手法があるますわ』

そういうと石の人は、人の姿を崩して小さな塊に変わっていく…

『その手の方一本、上げ立ててもらえぬかない』

『???』

言われて手を上げると石の人は、ヒュルヒュルと左手首にまとわりついてきた…。

Dscf0441 『えっ?なに?』

気味が悪くなって、思わず払いのけようとしたところで、その形が固まりだして…
どうなるのかとジッと見ていると、形がハッキリしてきた─

『時計?─』

『そすな。人は、みな、こげんなものをしとるましたから』

『これって…時間合ってるんですか?』

『いちおクオーツ(水晶)だすらら、石んは得意なこってす。ほな、行きまっせら?』

時計─ 時計だーっ変な言葉で話す時計─。
妙な時計…じゃなくて石と知り合ったなぁ…

『何しすたか?』

『いや…なんでもないです。 じゃあ…行きましょうか』

『よろしく頼もす…』

Hands1

やさしい潮風が山のてっぺんにある森に吹き込んできた。
海に浮かんでいる小船みたいにちょっと妙な気分と何だか説明しずらい気持ちも心の中でプカプカ浮かんでいた。
いいや!とりあえず旅の道連れ、ということで…
風に飛び乗って小路を突き抜けて空高く上がっていく。

今の正直な気持ち…
私の時計─ なんだか嬉しい─ 

Youtube 『いちごいちえ』 やなわらばー

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2009年6月23日 (火)

いちごいちえ ②

Rockfallnega私に向かって崖のてっぺんからゆっくりと回りながら落ちてくる岩を見ながら思った…

「また、厄介なことに巻き込まれるんだな…」

Nagisabom 人の目に触れないように風任せの旅をしていても、行く先々で何かしら事件が起こる。
厄介なことは、人の世界だけではないようだ…
いろんなものと出会って いろんなことになって…その度に何とか切り抜けてこれたけど、いつまでも幸運が続くとは思えないなぁ
あの岩を私めがけて落としてきたあの人の考えていることが何かはわからない。
でもなにかしらたくらんでいるのは間違いんだろう。

Rockshot

逃げようが無いことになって、かえって開き直った。
借り物の体を開放してこみ上げていたイライラを岩に全部ぶつける。

        バーン…

パラパラと小石になった岩が夕立みたいに撒き散らされる音が波の音をかき消す…
どうにもならないことになって私は、ホントに開き直ってしまったようだ…
一番避けたかったこと 一番見られたくないところ 
そして、たぶん相手が確かめようとしたこと
あの大きな岩の下敷きになっても、私がこれ以上死ぬようなことはないけど。
なぜなら私は幽霊だし…
問題なのは、私が人の皮を被った幽霊であることで、それを他の幽霊に見られてしまったということ…
粉々に ホントに粉のように飛び散った岩の土煙があたりに漂って、そこにいた敵は見えなくなっていた。

Brind

『さて、どうしよう…でも、戦わないといけないんだな…』

人に化けるのが問題じゃない。
人に化けようとする幽霊がどんな考えを持つかということ。
時間に限りがあるといっても人と霊の世界を行き来することが容易くできるとしたら、それは場合によって良くない結果になるらしい。
私がその力を教えてくれた人が、そんなことを言っていた。
それに簡単に人と霊の間を行き来することは『神様』の意思に逆らうことになりはしないだろうか?
そう思うことがあって誰彼教えることのできる力ではないと思った。

薄らいできた土煙の向こうの「あいつ」の気配は、まだ確かにそこにある。
あいつが何を考えているか、私にはわからない。
人であっても霊であってもそれは同じ。心の中まで読むことはできないから…

Nagisaangry

『あーっ大丈夫だねったね。良かたなや』

相手が敵となったら、本格的にその妙な言葉使いがイラッとする。

『さあ!もう急ぐ必要はなくなったよ!何が望みなの?』

『そうなの?じゃあ教えて欲しかことがあるだよ』

そらきた。人に化ける方法を聞こうと言うんだな… 

Dscf8063 『なに

『人の言葉の作り方、知りたです。どうも難しいよしな』

『はぁっ』 何を言ってるのこいつ…

『ずっと人の声、聞いてきたけな、男とか女とか、小さのとか大きの、様々で色々でわからないのよ。だからオラ話すことも…めっさワヤじゃから教えて欲しいもし』

なに?言葉を教えて欲しいって? なんだか思いもしない言葉が返ってきて構えていた私は少しうろたえてしまった…

『そのために私に向かって岩を落としたんですか?』

『いや…あれらは、しごく辛抱なかったんらわ。奴ら、もう辛抱できなす。それ、そこの見て後ろごらんね』

Dscf8050

なに?うしろ…? あーっ…
道いっぱいに岩が崩れて小山になっている。
「こいつ」のことが気になっていて目に入っていなかった。
ずっと歩いてきた道は、見上げるほどの山肌に鉄の網が張り巡らされていたけれど、ここはみかんのネットみたいにボロボロにちぎれて岩があふれ出したみたいになっている。

Dscf8046 『本日は、もう落ちれんど、次の来週ふたつ落ちるつもりするす。この奴らは生まれつきの辛抱ないらしいですのな』

『どうしてそんなことがわかるんですか?』

『わらもそいつらと同じ岩ころでから。当たり前、出場所はちゃうけどねん』

『岩?あなた、石なんですか?』

『はいです…』

『でも人の姿してるし…』

Aitsu 『こうしていねとな、貴方みたいな方と会っても話しないの多い。今カッコもホントものでなく、あしは、岩ころだから元よりオスでもメスでもねいよね』

変な話かた…なんだか混乱してきた…
この人は私みたいな幽霊じゃなくて、なんだ。石の心なのか…石がしゃべるか?
まてよ、わたしに色々教えてくれたのもおしゃべりな石炭だったっけ。

Dscf8053 『で…何を知りたいんですか』

『そね。“なまんだぶ”まず、というのを分るたいなす』

『なまんだぶ?えーっそれはちょっと…なんでまたお経なんかを?』

『“オキョウ”てか?アタのとこ来るンは、皆しゃべる。でも知らんだら』

 

うっわ~っますます調子の狂う話し方だな…色んな言葉がゴッチャゴチャしてるみたいだぁ。

『ウラん居るとこぁ、この向こうあっちのほうのどっしり山なだ。行っててみますか?』

この自分が石だという人のことに興味が出てきた。
少なくとも─私の持つ力を知りたいのではないようだ。

『はい。行ってみたいです』

『だいぶ歩くますからけども…』

Fallup 海から新鮮な潮風がシュンと吹き上がるのを感じる。 うん─

『大丈夫。手をつないでください』

『うっは

そいつの腕を引っぱって風に飛び乗ったとき、ずいぶん驚いたようだ。
新しい風はとても乗り心地がいい。
風は弱々しくも高くそびえる岩肌を一気に登りつめていく…

気持ちいいーっ

(つづく)

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2009年6月 7日 (日)

いちごいちえ ①

Rousoku

『ほら!あれだよ!ローソク岩』

『あれ…?ローソクっていうよりお米の粒みたいですね…』

『うーん…そう言われりゃそうか。でも、あれだよローソクの炎の形にも見えるっしょ!』

波打ち際にどっしり座った大きな石。
こんな大きなのは見たことがない。
ちょっと押したら倒れてしまいそう…。

Road ようやく海に来たーっ。
すぐにでもここから飛び出して行きたいくらいだよォ
いつ以来だろう。ずいぶん長いこと来ていなかった気がする…
トラックのおじさんに乗せてもらって、ずーっと話をしながらここまで来たけれど
海が見えだしてから、あんまり嬉しくて何を言われても半分、上の空だった…
ここまで来る間中、おじさんの家族やおじさんが子どもの頃の話を聞いた。
人(生きている)の話をこんなに聞くのもずーっとなかったなぁ。
まさか、おじさん隣に座る私の正体が「幽霊」だなんて思わないだろうね。

『伝説じゃさーっ…お腹のすいた神様がこの辺でクジラをつまみあげてヨモギの串で焼いてたんだとさ。その串の折れたのが、あの岩だってよ』

『えっそんな大きな神様がいたんですか

『ハハハ…伝説だってで…どの辺りまで行くの?おっちゃん、このまま隣町まで行くんだけどさ』

『そうですねー。どこか止めやすいところでいいです。早く海のそばまで行きたいんで…』

『じゃあー街の入口あたりで止めるよ』

Dscf1604

おじさんは、このあたりの町へ荷物を配達するのが仕事なんだそうだ。
海のほうから潮の香りの風がどんどん吹き込んでくる。
風に乗ってこようと頑張っていたら、気まぐれな風に流されてどこに行ってたかわからない。

Dscf7994 私の爪は、まだピンク色。
これが緑色になってきたら仮の体(命の元を集めて合成した体)から出る時間。
出ないと時間切れになって、この海辺に転がる岩の塊みたいに小さく固まって出られなくなる。
爪が緑色になってくるのがその始まり…それまで4時間ほどだろうか。
少しの時間しか持たないこの体…おじさんは知るよしもない。
目の前で時間切れの私がはじければ別だろうけど…

「あっちの方に古い道があって、親子岩とか眺めのいいところがあったんだけどさ、岩盤が不安定でガケ崩れが良くあったもんだから通行止めになっちゃったさ。この新しい道からだと一番いい景色が見られなくなっちゃったんだなぁ」

「そんなに危ないんですか?」

「まぁねえ…通行止めで仕事にならなかったこともあったよ。道が良くなってから仕事は楽になったけどね…あっこの辺で止めるよ」

プシーッ

空気が抜けるような音がして、大きなトラックは「ウワン ワン」と体に似合わない小さな泣き声を出して止まった。

「すいません!ありがとうございました!」

「泊るとこあるの?知り合いの旅館なら顔が効くよ」

「いいえーっ当てはあるんです」
と、言ってもあるわけじゃない。たぶんどこかの空家にお願いして泊めてもらおうと思う…

Dscf8074 「そっかい!なら気をつけてね。あーっ良かったら、おっちゃんとメル友になってくんないかなァ」

「メルトモ?」

「えっ携帯持ってないの?」

メルトモ? ケータイ? なんだそれ?

「ケータイ…? たぶんないです…」

「へーっ珍しいね。まぁいいや!毎日ここ走ってるから、また会えたらいいね。いつもは退屈な道だけど楽しかったよ」

「はい!私も!」

Truckdown

大きなタイヤがゆっくり動き出して、おじさんの大きなトラックが道に戻っていく。

パーン…

Greennail手を振っているとラッパみたいな大きな音がして、ビックリして手を引っ込めた。
「あ…」目に入った爪はいつの間にか薄っすら緑色…
もう時間か…ギリギリで間に合った。
いつもうっかりしそうなので、人のフリをするのが正直まだ怖い。

とにかく、人目につかないところを探さないと…人がはじけるところなんて見せたらエライ騒ぎになるだろうから。
でも、山と海の間に続く細長い街には隠れられそうなところが意外と見つからない。どうしても目の届くところにチラチラ人が見え隠れする。
どこか、いいところは─ あっ♪

Nagisasea

─視線の奥に海のほうへ向かう柵のある道が目に入った。
ちょっとつかわれていない感じの…あそこへ行ってみよう─

ここが、さっきおじさんの言っていたガケ崩れのあった道らしい。
時間は、あまりないけど慎重に回りの様子を伺いながら道を進む。
海から ザーン ザーン と波が来て、時折飛んでくる飛沫が心地いい。
『生きている』ってこういうなんだなぁ…

Dscf8061 私にまだ自分だけの体があった頃─
学校から帰って、いつも海へ来ていた。
波が行ったり来たりするのをずーっと見ていたり、貝殻やまあるく角の取れたガラスの欠片を拾い集めたり、浜で変な虫がピョンピョン跳ねてるのを見て逃げたり…
楽しかったなぁ…海の向こうのことを考えたりして。
今でも私は海のこっち側にいるけどね…カズくんは、この海の向こうにいるんだろうか?
いるところがわかればすぐにでも飛んで行きたいけれど、私にとって海は、まだ越えちゃいけないものな気がする。
その気持ちがどこから来るのかは、わからない…
 『…おや?』

人がいる! …釣りの人かな?
まいったなぁ…時間もないし、ここまで来たら戻るわけにもいかない。脇道もなさそうなぁ…
でも変な人だなぁ。 人じゃない? もしかして幽霊?(自分も)
かえってマズイよ。秘密を見られるわけに行かないし…

Dscf7989

私が仮の体を使うことを良くない考えの霊に見られたら、きっとその方法を知りたがるだろう。
生きている人たちに何か悪いことをすると考えたらゾッとしてくる。
うーん とりあえず、見えないフリして向こうまで行こう…あっちまで行ければ。

「普通の人 私は普通の人だよーっ わたし幽霊なんか見えないよー 全然わからないよー」

Goo「…こんちはー」

「…」 無視無視っ

「どこ行くんだべ?」

「…」 なんだ?この人

「見えてるんじゃないかしら?」

「…」 うっわぁーっ

「頭にクモつけてるじゃん」

ひーっ どこ どこぉっ  …あ

「ごらんなさい!やっぱなあ!」

う…騙された…

「見えんフリすることないじゃないですか。別にへんなことする気ないのにヨォ…」

「いえ…あのーっ急いでいるので…」

「なんでじゃ?こんな人の来ない道でさ。このまま進んだって海と岩しかないっしょや」

…変な話し方。それをひょうひょうとしゃべるその人(幽霊)は話し相手が来たと喜んでいるのかもしれない。
でも、今の私にはそんな時間は…  あーっ爪の色、濃くなってきた。こんなところで捕まってる場合じゃない!

Dscf8004

「この辺の人じゃないべ。どこから来たのかしらん?ワシが見えるんだば普通の人でねーしょ?」

「か…関係ないじゃないですか私、時間ないんです

あせっているのと、バカにされてるような口調についイライラして怒鳴ってしまう。

「いっやぁ~あずましくないねぇ…少し話相手してくれてもいいじゃない?」

パラ パラパラパラ…

Dscf8030

岩の壁に張り巡らされた網の向こう側で小さな欠片が落ちる音がした。

「危ないよね。あまり大きな声をだしたらばぁ…」

「すいません!失礼します!」

Dscf8062 これ以上相手してるわけにいかない。
その人が付いてこないか心配だったけど私がスタスタ歩き出しても、ズーッとそこに座ったまま…
そのままそこにいて!お願い付いてこないで!

「今は、そっちへ行かないほうがいいだよ。もう本当に踏ん張りが効かんみたいですから」

もぉーっ何言ってるんだコイツぅ!
…とにかく今は無視して行こう。
とりあえず、こっちの都合を終えてからちょっと懲らしめてやろうかな…

「行かんといてややめておいたらば

あーっうるさい!うるさい!

「ホラ見れ上が来たです逃げれー

何?何なの?…

「あ…うわぁ…っ」

Rockfall

思わず見上げたら
こっちに向かって落ちてくる大きな岩が目に入った…

                      (つづく)

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2009年5月12日 (火)

ひとりじゃないの

Dscf9216

私はナギサ 風に乗って青空を旅する幽霊。
どうにもこの辺りはイジワルな風が多いのか海に行こうとしているのになかなかたどり着けない。
昨日なんか高いところから海が見えていたのに風に引き戻されて、また山の方へ戻ってしまった。

Dscf9213

「ホントにもぉー」

「何を怒ってるんだい?」

Dscf9180_2 家が話しかけてきた。
あちこち痛んで、骨ばかりになった屋根から白々と明けて空が見えている。
風は昨日と同じで山の方に向かって吹いているようなので、また足止めかと思ってうんざりする…

昨日も数え切れないくらい風を乗り換えたけれど、進んでいるような、いないような…
必死(幽霊だけど)になっても仕方がないので、この家に夕べから泊まっていた。
幽霊といっても私もやっぱり人だから、夜は何かにぶつかるのが怖くて飛ばないし、屋根のあるところで休みたい。
もちろん、生きてる人のいるところには行けないし、崩れているとか汚れているとか…そういうのは幽霊の私に関係ない。

「風が…言うこと聞いてくれないんです。海に行きたいんだけど…」

「海?そこのテレビで見たことがあったなぁ。わしも行ったことはないけどね…でも今ごろは、南からくる温かい風が多いから風に言うこと聞かせるのは難しいだろうね。故郷を目指す鮭みたいなもんだわ」

「そうですか…やっぱり。もう少し明るくなったら、海の方へ向かう車に乗せてもらおうと思うんですけど…海に向かう車って、この前の道、通りますか?」

「うーむ…車のことまでは分からないな…でも南の方から、この辺とは香りの違う車が通るから左の方へ向かう車なら行くんじゃなかろうかね」

「はい、そうしてみます…」

Dscf9178

南の風が穴の開いた屋根から吹き込んできて私をからかうように剥がれかかった屋根の鉄板をカラカラ鳴らしている。

Dscf9195 「こんなになっちゃって屋根…痛くないですか?」

「いや…別になんともないさな。冬の北風が悪さして…わしも歳だから、やられ放題だよ。それでもご主人が帰ってくるまではなぁ…」

「ええっ?」

屋根にこんな大穴が開いて部屋の中に木も生えてきてるのに家の人が帰ってくるんだろうか?
もし、そうでもこの有様を見たら、たぶん入りもしないで帰ってしまうと思うけど…

Dscf9207

「そうとも!だからストーブもテレビもちゃーんと置いていってる。ここの子の大事なオモチャもな。だから家族が帰ってくる日までわしは、ここから消えるわけにはいかないよ」

Dscf9177 「…その日からどのくらい経つんですか?」

「もう40年近くなるかなぁ…」

「えぇっ40年

それって私が生きていた頃どころか、私を生んだママさえ生まれていたかどうかってほど昔じゃない…

Dscf9175「帰って…くるんですか…?」

「そうさな!出発の日、わらしっ子は泣いて嫌がったが、父親の『すぐ帰ってこられるから!』の言葉についていったのさ。わしもそう思っている」

「でも…40年って…」

「何が?」

「いえ…別に…」

Dscf9173

Dscf9201こういうところに来るのはカメラを持ってる人くらいなんだろうけど…
もう、ここに住んでいた人は帰ってこないと思う。その子も今じゃすっかり大人なんだろうし、この家のことも覚えていないのかも…。
でも、お家に時間は関係ないんだろうな…少なくともこのお家は。

Dscf9196たぶん、お家は捨てられちゃったんだろう。
始めはそういうつもりじゃなかったんだろうけど、事情があって引っ越したんだと思う。
私の家の隣に越してきたカズくん一家がそうだったみたいに…

私もカズ君に忘れられるのかな…このお家みたいに。
そう考えるとウルウルしてきた…体のない私。幽霊のわたし…

Dscf9214

「おやおや?どうしたのかな?何があったか知らないが…」

「いいえ!なんでもないです。私のお家のこと思い出して」

Dscf9200 私のいた家もあの嵐の夜、屋根に大きな穴が開いて陽の光が入ってきた。
自分が、死んじゃって幽霊になったと気がついてから、明るいところに出ると蒸発しちゃうと思ったから太陽が怖かったなぁ…それで気がついたら何年も経ってた。
屋根が壊れなかったら、まだずっと家にいたのかもしれないね。

どうしてるかなぁ…私の家。「行っておいで」と送り出してくれたけど心配になってきた。
あれからどれくらい経ったんだろう…

「まあ、あせっても仕方ないさ。のんびりやんなさい。風もいつかは言うことをきくものさ」

「はい!そうですね」

陽が昇ってきたようで、部屋の中にも光が射しこみはじめてきた。

Dscf9186

Dscf9187 「あれ…あれは…」

押入れの中にひときわ眩い光が射しこんで、きれいな女の人の顔が浮かんできた。

「ああ…あれは『白雪姫』だよ」

「白雪姫って…あれはお話のひとじゃ…」

「ワシにはよく分からないが家の者は、そう言っていたな」

白雪姫ってホントにいた人だったの?
でもホントに美しい人…お話のことじゃなくてホントにいたかもしれない。

「その白雪姫がいるからワシもひとりじゃないって思えたのさ。いつも慰めてくれているよ…」

ゴーッ…

前の道を大きなトラックが走り抜けて行った。
朝がようやく動き始めたようだね…私もそろそろ行こう。
風は…穏やかな朝だけど、風はまだ気むずかしいらしい。

Dscf9208 「一晩お世話になりました。私、もう行くことにします」

「そうかい…ひさしぶりに楽しい夜だったよ」

「ちょっと…ここで着替えていっていいですか?」

「別にかまわないよ。なんなら目をつぶっていようか?」

「かまわないです…でも見たことは秘密にしてください」

「はい、わかりましたよ…」

Dscf9194

「ほお…こいつはたまげたな…」

「私の特技なんです。短い時間しか持たないんですけど…ホントにナイショですよ」

「もちろん!約束だからね…あんたもどこかのお姫様みたいだな」

「いいえーっ言いすぎですよ。それじゃさよなら。お元気で…」

「はい、さようなら。元気でね」

家の前のササをかき分けて表に出た。
足にササが絡まって進み辛い。こういう時は、体を持つというのも面倒なことだと思う。

Dscf9172

家のすぐ前に横たわる道の脇に立ってこっちに向かってくる車を待った。
たしか…向こうにいく車に乗せてもらえば海の方へ行けるんだ。
前にこうして道端で走ってくる車をジーッと見つめていたら乗せてくれたことがあったから、またそうしてみよう…あ…来た来た…

Dscf1617プシーッ…
大きなトラックが止まって、ずっと上の方にある車の窓から男の人の顔が覗いた。

「どうしたの?ヒッチハイクかい?」

「あの…海まで行きますか?」

「海?…まあ海沿いには行くよ」

「お願いします!」

Dscf1660_2 乗り込んで両手で大きなドアを バンッ と閉めるとトラックは、ゆっくり動き始めた。
このところ、仮の体も使っていなかったのでちょっとくたびれる。
軽くため息をついて外を見ると窓のところの鏡にさっきの家が写ってどんどん小さくなっていくのが見えた。

「旅行してる人?」

「え…はい!ずっと、ひとり旅してます」

「ふーん…それにしちゃ身軽だね」

「はい!風に乗れちゃうくらいですから…」

「ええっ?面白いこと言うね。ハハハ…」

Dscf1659

男の人は、大きなハンドルを握りながら笑ってた。
そりゃあ、そうだよね。

もうすぐだ、海…海。

Youtube 「ひとりじゃないの」天地真理

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2009年4月12日 (日)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』④

Dscf6893

【前回までのあらすじ】 
大好物のクリームコロンより廃墟が大好きなサブカルOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイト『廃墟楓』を運営する先輩、神氏(A型)と大きな炭鉱跡へ行きました。

同じ頃、別ルートからもカップルが一組。その彼女の方・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。写真を撮りに行くのを怪しいと疑っていた美玖の『いっしょに行きたい!』発言を趣味の一致と早合点していたようで週末デートも半分廃墟巡りに…。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから美玖の廃墟嫌いが爆発…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました。

そんな事件の最中、風の背に乗って空を行く幽霊少女『ナギサ』(血液型なし)
海へ向かう風に乗れなくて、辺りをウロウロしていました。
そこで目に入ったのが廃墟の樹海をさまよう美玖の姿。
それともうひとつ、近くをうろつくクマ(たぶんO型)の影。
『このままじゃ危ない!』
クマを説得しようとするナギサですが、クマはとっても頑固…。さて、どうしたものでしょうか

Dscf1805

「アツシ…」
そもそも私の疑り深い性格のせいなんだな…
それに嫌なら『行きたくない』と言えばいいのにそれができなくて…
だからって、少しは察してくれてもいいじゃない
普通はこんなところに来たい人なんかいないじゃない…
幽霊とクマくらいしかいなさそうなところだし…。
それにしてもアツシのほかにも同じ趣味の人がいたなんてビックリした。
一緒にいたあの子までそうとは思わなかったよ。

Dscf1692_2

Dscf1751 『ねえーっクマさーん…やめましょうよ…』

『うるさいなカスミのお前には関係ないだろ

『それはそうですけど…どうなるか知ってて見殺しにしたら私、一生後悔しちゃいます』

『一生って、お前1回死んでんだろ

『あっそうかクマさんナーイス突っ込みィへへへ…』

Dscf6874_2 『ドやかましいいいかげん行かないとバラバラになるほど吹き飛ばしてやるぞ

『でも、あの人襲っちゃうと鉄砲を持った人間がたくさん来てクマさんのこと探しますよ』

『なんで人間だけが特別なんだ俺にとっちゃあシカも人間も同じ食い物だノコノコ縄張りに入ってくる奴のほうが悪い

『じゃあ…私が替わりに食べられるようにしてあげますから、それでどうですか?』

『…今はインスタントは食いたくねえな

うーん…このクマ、すっごいムカついてきたぞ

Dscf1796

                         プップップー

「あっ合図です車のところで見つかったようですよ」

「いや…プップップだから車にはいなかったようです…」

そうか…師匠に確認した私が間違えてどうする

「このことで、やっとわかりました。僕は美玖に甘え過ぎてたんだなぁって…」

Dscf1747  「えっ?」

「解ってはいたんです。美玖がこういうところがキライだってことは…でも、美玖の好きな時間を作れば僕もこういうところへ来る時間を作れるって思ってて…それが結果として美玖に引き目を負わせていたんだなぁ…。僕は単に自分のエゴのために恩着せがましいことをしていただけなんですよ…僕は最低だ

「はあ…」

「何が自分に一番大事かってわかりました…」

Dscf1744 「あなたはやっぱり優しい人ですよ…」

「やっぱり、ここでジッとしていられないもし美玖がピット(穴)にでも落ちていたら

「あっ待ってください私も行きます

「いや僕の問題です。20分待っても何の合図もなかったら警察に連絡してください。お願いします

あ…行っちゃう…

Nagisa_on_ruin_2

「クマさーん?ホントはそんなにお腹空いてないんじゃないですかぁ?」

「しつっこい奴だなキサマ…いいかげんにしないとしまいには怒るぞ

「私もいい加減に分かってもらえないと怒りますよクマさんのためにも言ってるのに

「分からなかったら何だというんだ …あ

Nagisa_brake

           「ヒーッ

Dscf1746 あーっ…あっという間に逃げちゃった…
なにさーっ弱虫
ともかく何とかなったんだからいいや

「なに?」 向こう側の音は…動物の声?

アツシかもしれない

「えぇっ?」 な…何?あれ…

「あれ… もう大丈夫ですよ」 もしかして見えてる?

Nagisa_and_miku

「ギャーッ出たーッ

あら…行っちゃった…やっぱり見られた 
昼真っからこんなに見られて…私、幽霊向いてないのかなぁ

Dash

「今の声はミクーッどこだー

「えっ?見つかった

遠くからものすごい悲鳴とともに人間とは思えない勢いで美玖さんが走ってくるのが見えた!

「ミクーッこっちだ

「行ってカメラは預かっておきます」

「あっお願いします!ミクーッ

うっわーっものすごい勢い…。 あのままふたりがぶつかったらバラバラにはじけ飛んでしまうくらいスゴイ…

Dash2

「アツシィーッアツシアツシアツシアツシィーッ

「ミクミクミクミクーッ

「怖かったよ怖かったよォーッ離さないでよォーッ

「ゴメンこんなとこ連れてきて今すぐここから出よう

Dscf1827

「おっ見つかりましたか良かったぁ」

「いいにゃー。私も彼氏ほしい…

「こんな私もフリーですけど?」

「そうなんですか?お互いがんばりましょう

「…

Dscf1809_2

「あっ…風向きが変わったね…」
ここで足止めされてる場合じゃないや。とりあえず海を目指そう。
木立を吹き抜ける風に乗って再び空へ上がる。

「おや?あれはさっきの…。 彼氏とはぐれてたんだ…いいにゃーっ
私もこのままカズ君のところまで飛んで行こうか…
でも、どこにいるか知らないんだったなぁ…
とりあえず海行こ…ラララ~ッ

Dscf1741_2

それぞれの恋模様 それぞれの想い
一陣の風が運んでく
行きつ、戻りつ、行き着くべき場所へ
ずっとずっとずっと、一緒にいようね…

Youtube『ら・ら・ら』大黒摩季

※この物語はフィクションです。廃炭鉱は実在しますが、登場する人物そのほかは実在するものではありません。深読みしないように。。。
また、現地の照会はいたしかねます。たぶん

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2009年4月 9日 (木)

廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』③

【前回までのあらすじ】 
廃墟がスイーツより大好きなサブカルOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイトを運営する先輩、神氏(A型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、別ルートからは、もう一組のカップル。その
彼女・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』が大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。物事を深く考えない性格なのか、週末デートも半分廃墟巡りのようです。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから
美玖の廃墟嫌いが爆発…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました…

Dscf1691

「あの…携帯で呼んでみたらどうですか?」

「あっそうか…いや…ダメだ…ここは圏外です」

私のもダメ…この山奥にエリア拡大ってのも妙な話だけど、これじゃ意味無い…

「とにかく、手分けして…」

「闇雲に動くのはやめたほうが良いですよ。近くにいるかも知れないし。とにかく、こっちまで迷い込んだらコトですから少し冷静になりましょう」

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「あれ…ここどこ?」

表に飛び出してガムシャラに走ったけれど、落ち着いてきたら自分が来た方向もどっちかわからなくなった…
相変わらず、遠くにボロボロな建物は見えているけど、どれも同じにで、方角も分からない…

「アツシぃ…」

私、迷った…? どうしよう…

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「あれから…どのくらい経ちます?」

「30分くらいになりますかね」

「美玖がヘタに動いていたらマズイな…」

「そうです!いくらなんでも迷ってたら気が付いてるでしょう!」

「おーい!美玖―っ」

「ミクさーん!」
これは私のせいだなぁ…責任感じるよ…。

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あ~っ完全に迷っちゃった…どうしよう…

「アツシー!アツシーッ!どこーッ!」

困ったなぁ…困ったなぁ…ずいぶん歩いたけど、道がどっちだったかも分からない…
鳥になれたらこんなところからすぐに逃げ出せるのに…
こんなことになるならはじめからハッキリ「行きたくない」って言えば良かった…
でも言えなかったな…アツシの夢中な姿見てたら…
それにしても疲れたよぉ…どこかで少し休もう…

Nagisky

そんな地上の騒ぎなど意に介さないほど青い空。
海を目指して風の背に乗っている女の子がひとり。

「ズンタカター♪ズンタカターッ♪海!うみ!もうすぐだよーっ

ところが思い通りにならないのが風。海の方へ向かう風がなかなか吹いてくれないようです。

風任せの旅もメンドーだなぁ…降りてどこかの車に乗せてもらおうか…
でも、まだ木の海の真上。走っている車どころか、道も見えない。

「木が多すぎるんだ。少し低いところを行こう」

低いところは、山や木の影響があるので風も不安定だけど、今日は穏やかだから大丈夫だよね。
山の中なのに小さな家が点々と見える。
おや?緑の中に誰かいるみたいだなぁ…あんなところで何してるの?

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「ミクーッ!」

「おかしいですね。聞こえないのかな…」

「もしかしたら、車のところへ行ってるかもしれません。もしやということもありますから様子を見てきます」

Dscf1741_2 「そうですね。お願いします…」

「見つけたらクラクションを鳴らしますから」

「いなかったら?」

「いたら『プー』で、いなかったら『プップップ』にしましょう」

「プーとプップップですね」

笑いそうになったけどそういう状況じゃない…

「それと、なるべく音を出すようにしてください。まさかとは思いますが…」

「え?クマでも出るって言うんですか!」

「ここは、シカがたくさんいるって聞いてるんですよ。でもズーッと痕跡も見ないので…。こっちの気配でいなくなったのかもしれませんけど、万が一のこともありますから…」

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ここはどの辺なんだろう…
どっちを向いても同じような風景。気のせいか回りは山ばかり…

「そうだ!ケータイ!」

圏外…!なんてとこだろ…

ガサガサ…

なんだ?今の音!

「アツシ? アツシなの?」

音のした方を見たけどなにもいない…薄暗い林と何かがあったコンクリートの跡が見えるだけ…
こんなところにいるのは、シカかクマくらいだよね…
クマ…! だったらどうしよう!
ジッと林の方を見ていた。風かもしれないけど草が揺れて見える。
なにか…なにかあそこにいる?
クマだったら見つからないようにしないと…気味悪いけど、あそこの廃墟に隠れてよう…

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「おや?動き出した…。 あ…もう一人いる。…人じゃない?クマだ。あのままじゃクマと鉢合わせになるよ」

Dscf6874 「う~んシカの奴らすっかり見かけなくなったな…。待ち伏せしやすいところだったが、そろそろ他のところへ行かないとダメか…」

「あーっどんどん近づいていくそっちに行っちゃダメだって

「ん…?獲物の匂いがするな。まだマヌケな奴が残っているようだ。ヒヒ…」

「あのーっクマさんちょっと待ってください

「んッ?なんだお前は! どこかで見た奴だな…」

「あーっ?いつかのクマさんですね…。生まれ変わったら食べてやるとか言われてたんだ…」

「思い出したぞ!あのときのカスミ女だな!相変わらずカスミのままなのか!」

「カスミって… 私、ナギサですよ。ここで何してるんですか?」

「俺は今、忙しいんだ!獲物がいるんだ

「獲物って…この先にいるのは人間ですよ」

「だからなんだ

「なんだって言われても…」

うーん…ヤバイなぁ…。やっぱりあの人を狙ってるのか…

Nagisaruin2

                                (つづく)

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