2011年4月18日 (月)

丸く小さな廃墟の話

Maru

 帯広の東5条の根室本線にある踏切から、札内川鉄橋にかけての一帯は自殺の名所である。根室本線が開通して以来ここで命を絶った数はかなりのものだが、その他にこの鉄橋が帯広と札内市街を結ぶ最短距離であることから事故にあって死んだ人も少なくない。
 こうした条件がそろうと、おそかれはやかれ怪談の名所ともなるわけだが、ここも帯広の怪談名所のひとつである。

Tekkyou

 ここに現れる幽霊はザクザクと砂利を踏む足音で姿は見えないのだが『幽霊には足がない』という定説をくつがえしているところに特徴がある。
 戦後もいろいろなうわさが立ったが、一番はなやかだったのは昭和10年頃だったそうだ。近所のひとの話によると終電車が通り過ぎ、本当の真夜中ころになると根室本線の上をザックザックと通り過ぎていく足音が聞こえるという。そして1人が通り過ぎてしまうと、また1人が、そしてときには5人10人と一定の間隔をおいて足音の聞こえてくる夜があるという。そしてそのほとんどの足音が帯広のほうへ向かってあるいていゆくというのだ。

Bluered  そのころ。帯広に来て間もない恋人同士が、何も知らずに別れを惜しみ終電車のすぎたあとの根室本線の上を鉄橋へ向かって歩いていた。
星の一つもなく、雨がやって来そうな暑い夜だった。
と、こんな夜ふけなのに札内川の鉄橋の方から誰かが、ザックザックと歩いてくるのだ。

『だれだろういまごろ』

 暑くなっているところへ水をさされたような不快さを感じながら、2人が口をつぐんだとたん足音は鉄道の砂利の上からそばの草原にそれ消えてしまった。

『気持がわるいわ』

 女の方が男によりそったとき、また別の足音がザックザックと近づいてくるのだ。そして今度も2、30メートル前までくると草原にそれて消えていった。
足音がそれると、またつぎの足音がザックザックと近づいてくる。
若い2人は、きびすを返すと一目散にいまきた道をかけ出していた。

 そのうちにこれと同じ足音を聞いたという風来坊も出てきたりして、夜ここを通る人はほとんどなくなった。そしてそれから間もなく『きっとここで死んだ連中が、行くところへ行きつけず帯広のネオンが恋しくなって出かけてくるのだろう』と、もっともらしく言いだす者が増えはじめていた。
 『とかち奇談』 より 「足のある幽霊の列」 (渡辺 洪 著  天地人出版企画社 昭和54年発行)

Kawamo  

現在も運行されている根室本線は、十勝の中心都市「帯広」と隣町、「幕別町」の間を流れる清流「札内川」を渡る。
そこを渡る鉄橋が、このお話の舞台です。

今も徒歩で川を渡るには、数㌔上流か、下流の橋を渡らなければならない。
当時は、下流の橋1本。帯広の街からほろ酔いで帰宅する隣町の人は、手っ取り早く鉄橋を渡ろうとしたこともあったのでしょう。

Katamari  幽霊話が、実際のことか、事故を戒めるための都市伝説か、それも今となっては測ることはできません。
 現在の鉄橋も当時のものではなく、レンガ積みの橋脚だったようですが、すぐ脇にコンクリート製のものに立て替えられ、話の真意を知っていたであろう初代橋脚は引退、
解体されたようでしたが、その後川原に変った感じの玉石が散乱することとなります。やけに目立つ真っ赤な石。塊によってはレンガ積みの目地まで残っている。

この怪談話を知るまでは、上流にレンガ製の建物でもあったのかと思っていましたが、どうやらそれが橋脚の名残のようです。
 以前は、鉄橋の近くにそのときの土台らしきものも見えていたけれど、今年の春は、まだ川の中のようでした。

Rever

レンガのひとつひとつが固まって大きな力になる。
それは既にレンガではなく、大きな力を持つ柱。
その柱が、再びバラバラになったとき、始めのレンガに戻ったかというと…
決してそうではなく、存在意義とともに自分さえも見失っているかのようだ。

だけどギザギザになったその身も
年月は丸く変えていくもののようだ。

そう考えると
人の作るものは、人の鑑でもあるように思えました。

Brick

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2010年2月 2日 (火)

ディーゼル

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Dscf4362 小さい頃、初めて見た工場は、地元にある製糖工場でした。
もうもうと水蒸気を上げる大きな建物は、学校よりも大きくて威圧感がありました。
工場に搬入された契約農家で栽培された甜菜(ビート)は指先に乗るほどで、いびつな「こんぺいとう」みたいにガタガタで、育苗後、畑に移植されて夏の太陽の下、大きなカブ状に成長します。
初霜の季節に収穫され、満載のトラックで次々に搬入されて糖分を抽出される。
見た目はカブっぽいけど切り口を舐めてみるとすごく甘かった。

Dscf4371 糖分を抽出された搾りカスも乾燥圧縮されてビートパルプという家畜(主に乳牛)の飼料として出荷されます。切干ダイコンみたいに水で戻して給餌するわけです。
そのほかにもシーズンになると未乾燥の生パルプも供給されることがあり、契約農家が自家トラックでの積み込みに工場入りします。
それで何度か父に付いてこの工場へ来たわけですが、蒸気を吐き続ける稼働中の工場の姿は、爆発寸前に見えて怖くて車から降りられたことがありませんでした。

今も稼働中の工場に入ることはもうありませんが、凍てつく冬の空へ蒸気を吐き出す工場を見ても淡々と感じてしまうのは、やっぱり大人の証拠なんだなぁ…と思う。

この工場の裏を通っていたら古ぼけた機関車があるのが見えた。
場所は工場関係者の通用口のようだけど、動体展示してあるようなので見るだけなら叱られはしないだろうと行ってみた。

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ずっと知らなかったけど貨物駅と工場を行き来した工場専用線があったらしい。
専用線だから一般が見たり乗ったりするものではなかったけれど、こんな活躍をする小規模な鉄路もたくさんあったようです。
貨物駅廃止の原因は、たぶんトラック輸送の影響なんだろう。
公園で定期的に塗り替えられる蒸気機関車と違い、古ぼけるままにされているようで真っ黒なSLよりも過去のものに見えた。
それでも古巣の方を向いてのんびりする姿は、どこかしら人間臭くも見えるものです。

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★ホクレン清水精糖工場専用線★
ホクレン専用線は、昭和36年8月工場建設のクワ入れと共に布設され、建設資材の搬入から副資材、製品の入出荷などで活躍し、旧国鉄十勝清水貨物駅の廃止に伴い昭和62年3月21日現役引退になるまで25年の歴史を歩みました。
 ここに保存された20t液体ディーゼル機関車は二代目で、最盛期の扱い量は1日最大500t、25年間で述べ260万tを取り扱い、精糖工場の操業に多大の功績を残した。

Dscf4365 ★機関車略歴★
車種形式/20t液体式ディーゼル機関車
       DL20-HC-1067DMH17C型
製造場所/日本輸送機株式会社
製造月日/昭和37年8月
工場配置/昭和58年11月15日
現役引退/昭和62年3月21日
主要寸法/長 6,750㎜
       巾 2,525㎜
       高 3,460㎜
最大牽引/換算25両以内 100t

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2009年3月 8日 (日)

『夏草の線路』 リプライズ

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『ルイン・ドロップ』を御覧いただいてありがとうございます。
時期的に年度替りの繁忙期ということもあって頓挫中。。。

といっても何もしていなかったわけでもなく
近頃始めたサブ・ブログ『プチ・ドロップ』のほうは、そこそこ更新してました。

だから、本家がおろそかになるんだな。。。

Cuppola 1年ほど前に『ルイドロ』上で公開したストーリー『夏草の線路』を再編して、その連載が終了してところ。
再編なので、大まかな筋はそのままだけど、思い入れというのもあったので返って煮詰めてしまったようです。

北海道帯広市から上士幌町十勝三股を結んだ旧国鉄士幌線
その山岳地帯を縫うように走ったアーチ橋群、そのなかでも『幻の橋』の名で知られる北海道遺産『タウシュベツ川橋梁』と最寄の温泉街糠平が舞台。

『プチ・ドロップ』を公開してるのが、この旧路線跡のある上士幌町で運営されているブログ・ポータル・サイト『かみしほろん』です。
昨年12月にグランドオープンしたポータル・サイトですがよろしくお願いします。

『プチドロ』上では、『ルイドロ』でも公開していない橋梁・廃駅なども取り扱っております。
できましたらサイト・トップから上士幌町長のブログ『竹中町長のまちかどウォッチング』『田舎暮らしランキング』プチッしてくれると嬉しいです。
すみませんね。面倒なこと頼んで。。。

そういえば、忙しさに翻弄されてたら『ルイドロ3年目』を忘れてました
さあ、ボチボチ動き出しますよ。
いつもごひいきいただいてありがとうございます。
今後ともよろしく

コメントちょうだい…寂しいわ~っ

※各サイトへのアクセスは、左欄のテキストリンクまたは、本記事中の下線リンクから飛べます。

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2009年2月 7日 (土)

いまさら いまさら…

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『全部食べれないと昼休み遊べれないからね!』

うつむいて見下ろす下に
憎らしいほど嫌いなものの入った傷だらけの銀の器─

小学生の頃
『食育』なんて言葉も無くて給食を残さず食べるのが常識というか絶対条件。
「給食委員」という大義名分で恐ろしい顔で腕組みしている子が前に立ってた。

『どうして こう嫌いなものばかり入ってるんだろ…』

どうやって食べるかというより、あと何分耐えれば開放されるんだろう…
そればかり考えてた…

今は、そんなことないらしい。
アレルギーとかいろいろ問題があるらしくてね。

『好きなものなんか出やしない…』

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Dscf7781 『好きだねぇ…』

『はは…それもそうですね…』

後ろの道を挟んだ反対側にボロボロの小屋がふたつ。
そこに駅がある

北海道ちほく高原鉄道 ふるさと銀河線 西一線駅
西一線地区に設けられた駅だから『にしいっせん』。
特に縁もない名前。特徴もない…
あるとしたら駅でありながら、いくら待っても電車が来ないこと。

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『いやぁ~っ走ってる時にたくさん来れば、今でも汽車見れたっしょ』

Dscf7789 老婦人の言葉には少し棘がある。

近くにあるからそのうち乗ってみようとは思ってたんですけどね…
レールは、とっくに車輪の触れる面まですっかり赤く錆付いていた。

このころ、沿線の踏み切り部分は、既に撤去されて単管パイプの柵が施されていた。
近隣諸国の近代化による鉄需要拡大で、レールが破格に現金化できることから地区行政は財源確保のため、にわかに撤去にのりだした。
麗しきメーテルの横顔を描いた車両が走った軌道では、レール並みにボロボロの重機が路盤石をガタガタと踏み潰していた。

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『このあたりのレールも外してくんでしょうね。駅は残すんでしょうか?』

『あんなん残したってしょうないしょ!』

老婦人は、もう話したくないかというようにバス停へ向かっていく。

Dscf7799_2 1910年(明43)網走線 池田─淕別(現・陸別)間開業
1911年(明44)網走線 淕別─野付牛(現・北見)間開業
1912年(大元)網走線 池田─網走間を網走本線と改称
1961年(昭36)北見以降を分離 池田─北見間を「池北線」と改称
1989年(平元)北海道ちほく高原鉄道㈱設立。
         JR池北線 池田─北見間廃止
         北海道ちほく高原鉄道 ふるさと銀河線開業
1991年(平3)JR根室本線 帯広池田間に乗り入れ開始
2005年(平17)ふるさと銀河線廃止決定
2006年(平18)4月21日 廃止 バスに転換

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Dscf1122駅近くの道に真新しいバス待合室が並ぶ。
全てが終わったようだけど
軌道は、にわかにざわめきだした。

動かないレールが動きだし
犬釘も散らばった
枕木は寄り添い大きな塊になる

軌道の規則正しいルールも全て御破算
1本に繋がれてた仲間とももう会うことはない

Dscf7784さよなら さよなら

ボロボロの駅待合
何か面影まとって大きくため息をつく

「ボクモ スグ ユクヨ」

なんとなく残して なんとも思わなかった時代─
あのころは それが当たり前みたいだったけど
なにかを残そうなんて もう無理なのかもね…。

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Dscf7785相変わらずガラガラの代替バスが静かにやってくる。
老婦人は、まるでこの土地最後の生き残りみたい。

バスが静かに走り去って、残り物好きがひとり残された。

線路は行き来する人もない
バラ撒きの砂利道に変わり果てていく─

全て無駄なく取り払われて有効に利用される。
適切に 偽りもなく 取りこぼしもないように…

路線最長の鉄橋   これも近々跡形も無く消える。

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Dscf7795 棘のある老婦人の言葉は
「無関心」とか「あきらめ」ではなく
ただ ただ無念です…という感触だった。

彼女にとって この鉄路は
通院するための足というだけでなく
時代を生きてきた友であったのだろう。

カタタン カタタン…
レールを食む車輪の音は、もう取り戻せない

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2008年7月 6日 (日)

0の丘∞の空③ 黒いダイヤ 

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たしか、この辺に住んでいるらしいんだよね…

Dscf7817 緩やかなカーブの道の上にどっしりと座る大きな門を越えて歩いていく。
他には何もなさそうな所だけど、倉庫っぽい青い屋根が目に入ったのでそっちへ向かって歩いていくと、一軒家が見えてきた。

「あっあそこだな─ 

走って戸口まで行き、とにかく会ってみようとノックする。 …音がしない。そっか…私、幽霊だった…

「ごめんくださーい ごめんくださーい…」

─? あれ?中から反応はない。
まてよ その生き返れた人って、私みたいな「幽霊」の声なんてもう聞こえないんじゃないかな─?

「えーっ! そいつはまずいよ!

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玄関が開いていたので中へ入ってみる。

Dscf8154 薄暗い部屋、誰かいる様子はないみたいだ。
「すいませーん…」 やっぱり返事は返ってこない。
他の部屋も見て歩くけど、家具とか何かの道具がたくさん散らかっているだけ…

Dscf7801 しばらく探してたけどこれ以上は無駄のようで表に出ちゃった。
「出かけてるのかな…それとも、どこかよそへ行っちゃったのかな…」
辺りを見回してみたけど元は何だったか解らないほど崩れた建物がいくつかあるだけ。
体はないから疲れないはずだけど、気持ちがすごく疲れてきた…

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Dscf7434 「どうしたんだぁい、お嬢さーん? 湿っぽいハートにゃ火は点けられないよ」

「誰? どこにいるんですか?」 誰かすぐ近くにいる!

「こっちさ、横を向いたら大きい記念碑が見えるだろ?そこの上だよ」

記念碑? あそこだ!パッと駆け寄ると小ぶりで真っ黒な石が乗っている。
あっそうだ!「黒い石」を探せって言われてたんだ。

Sekitan

Dscf7423 「あ…あの!『黒い石』さん!私、聞きたいことがあって来たんです!」

「まぁちょっとお待ちなさいな。武骨だけど『石炭』って立派な名前があるんだ」

「セキタンさん…ですか?」 なんだろう『セキタン』って

「今時の子は知らないか…これでも小さい日本を世界と対等に渡り合える国にする為に地の底から来て働いた存在なんだよ。要するに『社会基盤』を作っていたんだな。今はナヨナヨした『石油』に歩を奪われちゃったけどさ…『黒いダイヤ』って呼ばれて大事にされたこともあるんだよ」

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Dscf7425 …それからの話が長かった。私は良く長話を聞かされるけど難しいなぁ…
『石炭』というのは大昔の植物が埋められて、すごく長い間、地の底の熱や土の重さで『炭化した石』、要するに植物の化石になるんだそうだ。

この道の先に『炭鉱』があってそこから来たらしい。
その『炭鉱』というのがこの国のあちこちにあって、そこから掘り出された『石炭』さん達が日本の『産業革命』の原動力になっていたそうだ。『石油』に取って代わられるまでは…でも、話がやっぱり難しすぎる。私が学校で習っていたのは、まだ『私たちの町の仕事』だったから

「全然分かってないようだね。お嬢さんには難しすぎたかなぁ?ハハハ…」

なーんだぁ?このちっこい石。それよか早く聞きたいことがあるんだけどなぁ…

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「まぁ君の気持も分かるけど、話を聞くのも社交辞令だよ。知りたいことは教えてあげるけどさ」

「えっ!なんで…?」まるで心を読まれてるみたいだ

「ちゃーんと顔に書いてあるよ。思ってることがさ」

「…あ ごめんなさい…でも、どして?」

「僕達にはそれだけ歴史があるってことさ。人間がこの世に出てくるずっと前からね。それにあいつにその方法を教えたのは僕だから」

「そうなんですか?!」

今日は意外な話ばかり聞かされる日だなぁ。この石コロみたいな…おっと、ヤバイよ。

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「あのぉ…私も教えて欲しいんですけど…」

「あぁ、かまわないよ。ただし頼みがある」

えーっ難しいことかなぁ…まいったなぁ…

Dscf7242 「そう難しくもないよ。君の探している男はそこのわき道を上がって行ったところに住んでいるんだ。ヒトの世にずいぶん未練があるらしくて、生き返る方法があるよって話を何かの拍子に話したら、『是非教えて欲しい!』って言うんでね。それで、想いを遂げに帰っていったようなんだけど戻ってきてね、すっかり別人みたいに落ち込んでいたなぁ… 次にここに来たら聞いてみようかと思ってたんだけど、もう1年以上見かけなくなって気になってるんだ。たぶん…ボクの話した忠告を忘れて失敗したんじゃないかなぁって思うのさ。だから様子を見てきて欲しい」

Dscf7424 「わかりました。見てくれば、その方法を教えていただけるんですか?」

「うん!もちろんいいともさ。彼がいれば彼に教えてもらってもいいよ。それは許す。もし彼があそこからいなくなってたなら、それでもいい。ここへ戻っておいで」

「はい!…で、その忠告ってなんだったんですか?」

「それもそこに行って彼がいれば分かると思うよ。あの道を登りきったところにヒトの言うところの大きくて『古い』アパートがあるんだ」

「はい!行ってきます! それにしてもそんなところにアパートがあるんですか?」

「そうとも!ボクラが頼りにされていた頃は、このあたりは家や店がたくさん並んでいたのさ。このあたりも、海沿いの駅の回りにもね。でも。ヒトは『豊かさ』を手に入れると、どんどん先の方ばかり見て、それまでのことを忘れてしまうようだ。それで鉱山も閉められて、ここの街もなくなっていったんだ。要するに『本末転倒』っていうのかなぁ。ここじゃそれは2回目のことなんだけどさ。」

あのコケシたちのいたところもそんな風にさびしくなっていったんだね。

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「あーそうだ!途中にずるがしこいクマもいるかもしれないから気をつけてね。」

えぇっ!クマ? ちょっと待ってよ…

(つづく)

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2008年7月 1日 (火)

0の丘∞の空② 渡れない橋

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「私も生き返られるんですか?!」

Dscf1712「まぁ そんなに慌てなさんな…わしがそれをできるってわけじゃないんだよ。そうして生き返ったヒトがこの近くにいることを鳥に聞いたことがあってな」

慌てるなって言われても『幽霊が生き返られる話』を聞かされて落ち着けるだろうか! 私もそんなことなんかできるとは思ってもいなかったけど、話を聞かされたらいても立ってもいられない!

「爺さん、まったく無責任だな!又聞きの話でよォ!」

コケシたちは呆れた様子だった。
おじいさん(家)はしばらく黙っていたけど、やがて話し始めた。

Dscf3976 「それで娘さんは何故に生き返ることにこだわるのかな? ヒトの世界は苦しみが多いそうだからなぁ。無理して戻ることもなかろうに…しかし、ヒトの心も厄介なのかな」

「ご老人、あなた言いだしっぺで真理を説いてどうすんですか?」

「…私、9歳で終わっちゃったからたぶん、何も知らないんです。でも生きてることは、もっと楽しそうだって思うんです。うらやましいだけでいつも隠れて見ていなくちゃならないのが辛いんです…それで」

Dscf3526 「へーっ9歳?子どもじゃん。見えないなぁ…」

「見せかけだけ変われるのを覚えたんです。でも何にも変わらない。人のいるところへ行っても誰からも見えないか、気味の悪いものにしか見えないらしいから…私、普通に人の中に入ってみたいんです」

「面倒なものですね。ヒトにしかわからないんでしょうけど…」

「でもよォ、短かろうが長かろうが始めの命を終わらしてヒトの世から離れたら、もう俺たちと仲間じゃないかなァ?俺たちは元々一本の木だけど、生まれたことも死んだこともあったのか無かったのか全然わからねーよ。オサラバしちゃった世界にいつまでもこだわってもいらんないだろ!」

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ずいぶんハッキリいうなぁ…でもそうかもしれないね。
…そうなのかもしれない。

Dscf8298 「見たわけではないんだよ。鳥達の話では、そこの道を反対側へ山の方へ行ったところに古くて大きな家があってな、そこにそのヒトが住んでいるそうだ」

「その人、その方法は教えてくれるでしょうか?」

「いや、会ったことはないでな、詳しいことはなんとも…でも確かな話だと聞いているよ」

「ほら無責任だ…」

やっぱりそういう人がいるんだ。できれば生き返る方法を教えてもらいたい。いや、なんとか教えてもらわないと!

私の「死」がなかったことになったら─悪い夢のようだった何年間は霧のように消えてなくなるような気がしてた。ひとりぼっちで家にこもっていたあの時間、それが無くなってどこかへ行ってしまったママもそしてパパも戻ってきて─カズ君とも普通に会えていた…会えてた?
それはどうだろう…どうなんだろう?

でも、隣に越してきてたんだから会えたんだよね?
私、生きてても会えたよね?

Koke 「よう!ナギサよう!聞いてんのか?」

「あ…はいっ! ごめんなさい」

「でも、それは自然に逆らうってことじゃないでしょうかね」

「そうだよ!長い短いはあっても自然は何も特別扱いしないんだ」

「うん…そうなんだろうけど…」

なんだか弱気になってきた。そんなことやっぱりダメだろうか…

「まだ、決まったわけじゃないんだ、会ってくればいいさ。何もしないで口だけ達者なら、このコケシ共と変わらんよ」

「キツイぜ、じいさん!…ったくよー」

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「決めました!私、行ってみます!」

「そうか!こういう身なもので、これ以上はなんの力にもなれんが、良い結果になることを祈ってるよ」

Dscf0848 「行くのですか?恐ろしいところかもしれないですよ」

「決めたんなら仕方ないね」

「うん!ありがとう!私こそ何の助けにもなれなくて…」

「おいおい!俺達別に不幸じゃないんだぜ!ヒトとは違うんだ」

そっかぁ…そうだよね。自分の置かれた立場を考えないでいること…それはそれで幸せなのかもね。

「道なりに行くと『道を横切る渡れない橋』があるから、そこをくぐったら黒い石を探しなさい。鳥達はその話をそいつから聞いて確かめにいったそうだからな」

「はい!ありがとうございました」

「ダメでも落ち込むなよ!ダメなら…ここで良いなら来いよ!」

「うん!ありがと!ホントは、やさしい人…コケシなんだね!」

なにも言わなかったけど少し照れてるようだった。

「またいつか、話を聞かせてください」 「そうだよ!」

「うん!きっと」

Nagisamist

Dscf7233 表に出ると、まだ霧が立ち込めてまだ空気はひんやりしている。
口にハッカ飴を放り込んで海と反対に向かう風を捕まえた。
『道を横切る渡れない橋』…? 『黒い石』…? なんだか不思議な目印だな。

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いくらもしないうちに両側に山が連なって寄ってくると風が逃げようと上に登りだす。
目標を見失わないように道沿いに走る風に乗り換えて目を凝らしつつ、でも風の背から転げ落ちたりしないようにしながら先へ。
海から離れるごとに霧がだんだん薄くなって、木や道や家がハッキリしてきた…

Kyo 「あ…あれ? 『渡れない橋』」

道の途中に大きなコンクリートの塊がふたつ
道をはさみこむように立っていた。
渡るところがなくなっているから『渡れない橋』だよね?
近くまで降りて見たその姿は上から見るよりも大きくて古代遺跡のように見える。

Nagisa_on

ホントにあった。あったよ…
もうドキドキしてきた…

その橋は、橋と言うよりも門のようで、ここから先が別の世界のように感じた。少し怖い気もしてきたけど今さら逃げるわけにはいかないね。

(つづく)

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2008年6月25日 (水)

0の丘∞の空① 鉛色の海

廃墟を絡めた一連のお話に出てくるナギサという子は、幽霊です。
「幽霊」とすると現世に執着して彷徨っている感じがありますが、こう思ってください…
─『身体』という器(ケース)から解き放たれた『存在』と

Top_sky

しかし、器は、不要な物ではありません。
多くのものはケースを見て買う。ケースがないと価値が落ちるものもある。
大好きな音楽の本質はディスクの中にあるのにケースも大事なように。
見た目が重要なのか、中身が本質なのか…人とその心とどこか似ているようです。
いずれにしても中身の価値も器の真価も生きてこそ上げられる。

問題なのは、秤も物差も実にあいまいなことです。

ナギサは、ケース(身体)を失った子。
心の自由さがありながら、自由になりきれないのは、失ったものがあまりにも大きかったからなのでしょう。なぜならば、この子自身の「ドキドキしたこと」や「泣いたこと」も実はケースがあってこそ。
そして『廃墟』は、中身を失いつつ失った中身を語るケース。捨てられた空き箱のような存在ですけれど…どこか捨てがたいのです。

Sky2

海を見に来た。
霧をかき分けてやっと来たから今どこの海にいるかは良く分からない。
でも、どこでもいいから海が見たくて─

霧に包まれた海は、鉛色でどんよりしていたけど波は力強く浜を洗い続けている。

Sea1 「うーん いいよねー 海…」 
いつも海の端っこだけで大海原というのは、見たことがないけど、それだけでいつも胸がいっぱいになる。
いっぱいになってつまらない悩み事が押し出されるみたいだから海が好き。
いつか本で読んだことがある。海は、あらゆる生き物のふるさとで、海から離れるとき海を忘れないように体の中に海を作った。それが「血」らしい。
だから体の中の海は目の前の海と同じで「命の元」を運び続けているそうだ。
体の無い私もそうだと思う…。

Dscf7578 血の通う体、欲しいな…ほんの短い時間でも…
「約束の日」に『私、実は幽霊でした!』ってわけにいかないなぁ。
いっそ約束とかみんな忘れちゃって、このまま彷徨っていようかな。
その方が辛い思いしなくていいかもね…

「…あーっ!こんなこと考えに来たんじゃないんだよ!」
打ち寄せる波のドーンという音でモヤモヤした気分は、とりあえず弾け飛んだようだ。

カタタタン…カタタタン…
後ろの駅を電車が止まることなく走り抜けていく。

Nagisa_station

Dscf7239 すぐ近くに駅があるのにホームは誰もいない。近くに家がいくつか見えるけれど、人の気配のする家はほとんどなくて辺りはただの草原。どうしてこんなところに家を建てたんだろう…
「なんだか寂しいところ…」

「なんだい!ずいぶん言ってくれるじゃないか!これでも元は賑やかな街だったんだよ!」
急にどこからか怒鳴り声が聞こえた。

「えぇっ!すいません!」 

…でも誰? 見渡すけどどこにも気配はない。駅の中にも外も…

「あの…どこにいるんですか?」

「こっちですよ…」 「…?」

近くに見える傾きかかった家から聞えてくる

「お家さん?」

「違うよ!このポンコツは居眠りばっかりで喋りゃしないよ!」

House_inあれーっ?なんだか声がバラバラだなぁ

「いいからさっさとこっち来いよ!」

「はい!おじゃましまーす…」

とは言ったものの声の相手はどこ?
家具がケンカしたみたいにあちこちに転がっている。
床も力なく崩れているから歩きにくい…

「踏まないでくださいよ!」

「えっ…あっ!」

足元に小さなコケシがいた。

「なーんだ!こっちの声が聞こえるから何者かと思ったら人間の幽霊か」

「で、何しに来たんだ?」

Dscf3524

「あなたね…自分で呼んでおいて、そんな言い方は無いでしょう?この子が可哀そうじゃないですか」

「口が悪いのは生まれたときからだよ!」

Dscf0808 コケシの兄弟(?)が床に転がって言い合いを始めた。ほかにもお仲間がいたけど面倒なのか眠ったふりしてるみたい。
そんな様子をボーっと見下ろす私。人が見たらこれは奇妙に思うだろうね。

「まぁ!ここにお客は何十年ぶりだからいいじゃないか。…で、あんた誰でどこから来たんだい」

「えーっと ナギサです。もともとよその海辺にいて、それからあちこちに行って…」

「ぜーんぜんわかんねぇや」

うへーっ キツイなぁ、そのリアクション…

「聞き方が悪いんですよ!すいませんねーこいつは波の音と汽笛しか聞こえない毎日で魂が腐っているから口が悪いんですよ。気にしないでください。退屈していたのは私も一緒です。あなたの見てきたことや聞いてきたことの話を聞かせてくれませんか。ヒトの話も久しぶりですんで」

Dscf0847

「そうですか。じゃあ何から話せばいいのかな… 私、海辺の町で生まれて…」

それから話したのは─

私が生まれたところのこと 学校に通った時 事故で今みたいな姿になったこと ずっと家の中にこもってたこと 

隣に越してきたカズ君と友達になったこと いろんな話をしたり、夜にふたりで出かけたり そしてカズ君はまた引っ越すことになって いつか会いにくるよと約束したけど、また元のひとり…

それから─

Dscf4047 南から来た人に風の乗り方を教わったこと

旅に出るようになっていろんなものをみたり聞いたり 出会ったり…

ずっと宇宙人を待つ一つ目の巨人

空を駆ける馬とちょっと変わったお家 

湖であった相棒さん(猫)と旅するおじさん

ずっとカクレンボしている86歳と90歳の小学1年生

誰もいない学校を守っている先生

古いお家の写真を撮りながらケンカしているカップル

森の中で外の全てを憎んでいた人…

青い空や流れる雲 すごいスピードの電車 虫みたいにうごめく自動車

うまく説明できないけど思いつくままに話した。

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「へーっいろんなことあったんだな」

「ひさびさに面白い話を聞きましたよ。ありがとう」

Dscf3530 「いえーっそんなたいしたことじゃ…」

「…で、その『グズ』とかいうやつってホントに来るのかい?」

「『カズ』っていってたでしょ。失礼ですよ」

「えーっそれは…約束したし…」

「ちょっと言いすぎじゃないの?それ」

「でも、現実だろ?大事なことさ。向こうは相手が幽霊だって知らないんだろ?いくら好きだってもさ、幽霊だって分かったら逃げちまうだろさ!そんな勝手なんだぜ。人間はさ、自分と違うと認めないって!」

それは、なんとなく思ってた。分かってたけどそれを言われるとすごく悲しい…。 また、涙がガマンできなくなった…

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Dscf1707 「ほらーっ泣かしちゃって…アンタはデリカシーってものがホントにないね。同じ木から削りだされたなんて認めたくないですよ」

「なんだよ!人間社会はもっと厳しいらしいんだぜ!こんなことでいちいち泣いててどうすんだよ!」

「それと泣かせていいかってことは、ぜんぜん別だろ!だいたいこの子は、もう人間社会にはいないよ」

Dscf1712 「そうですよ。アンタは鬼ですよ。人間がどーのこーの言っててもヒトより劣る!コケシの風上にもおけませんね。」

「じゃぁ!どうしろってんだよ!」

「責任とれ!」 「そうです!」

「わかったって! なぁ!何つったっけ…?そうナギサさんよ!そんなに泣かないでくれよ」

Shot 「うわぁーっ!」  バン! バン!

これ以上もう何も聞きたくなかったから耳を押えて大声で叫んだ。
窓ガラスが何枚か弾けるように砕けて散った音が響く。

「あぁっ何事だ?コケシ共め!また何か悪さしとるのか?」

ずっと静かだった家がその騒ぎで覚めたようだ。

「こいつが可哀そうなヒトの女の子を泣かせたんだよ。」

「うっせーな!チクるなよ!」

Dscf3531 「もういい!黙れ、小童が!!話は何となく聞いてたさ。なぁ娘さん、ちょっと気を落ち着けてこの翁の話を聞いてくれないか?」

まともに話せそうもないから黙ってうなずく

「あんたが体を失って嘆いているのなら何か力になれるかもしれん!あんたは生身の体になれる方法を探しているのかな?」

「えっ?─」

意外なことを聞かされて涙が引っ込んだ

「爺さん!あれ教えんのかよ。まずいぜ!この子生き返らせる気かよ!」

─生き返らせる…?

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「だまっとれ!いずれにしても決めるのはアイツじゃ!教えるくらい構わんだろさ」

「生き返ることなんてできるんですか?それ教えてください!」

(つづく)  

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2008年5月 3日 (土)

愛すていしょん

2005年3月『ふるさと銀河線(ちほく高原鉄道)全線廃止決定!

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国鉄の時代から続く路線だったけど利用客の減少で赤字路線となり、廃止となるところを第三セクター化して運行を続けていた。
第三セクターといえばバブル期のテーマパークと同じで多額の融資を受けることが可能だった時代に可能な事業だったと言われますね。バブルバブルって未だに言われるのも可愛そうな気がするよ。
バブルの恩恵ばかりでもないと思うけど。

Dscf5132 ともかく、今のご時世、決まると早い。約1年後の2006年4月21日をもって「ふるさと銀河線」は全線廃止になりました。今の時代、特に減算的なことにおいては、バブル狩りみたいに早いです。

ダイヤとか詳しくないので言えたものではないですけど、各駅停車の小旅行みたいなことを数回したことがありました。
「乗ればどこかに着くだろう」と自分のことには天性楽観的な性格が災いして、今で言う所の秘境駅で降りてしまい、自分の手のひらも見えなくなるような本物の闇に包まれる無人の駅舎で翌朝まで恐々としたこともありました。

Dscf5131 「ふるさと銀河線」もいつか乗っておこうと思っているうちに廃線が確定。そのあとも機会を作れず最後の日を過ぎてしまいました。
こういうことって近くの親友みたいなもので、「いつでも会えるから…」と思ってるうちに二度と会えなくなってしまうってことも無いことじゃありません。

「近くだから会っておこう」 それも必要。

現在、沿線は一部の町では、公売に出した廃レールが意外と高額で落札されたことから、同様の向きが広がるのも避けられないことなのでしょう。
既に軌道に積まれた枕木の山を見かけるところも多くなり、作業は進んでいるようでした。

そんな中、沿線の陸別町が観光資源として単独運行が始まったようです。
あの『銀河鉄道999』のメーテルも健在で!

それは、良しとして
たいていの地区は沿線撤去の方向でしょうか…
今も残る駅舎も「道の駅」になったものや地域福祉館として生まれ変わったり、歴史的建造物として保管されるもの。そして先行きもまだ決まらないままに取り残された古くも新しくもない小さな駅。

そんなひとつに寄って来ました。

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Dscf5131_3 足寄町「愛冠(あいかっぷ)駅」。
ちほく線 全33駅中、十勝池田駅から数えて11駅目で足寄駅の次になります。
名前は知っていましたが、始めて現地に行って驚いた。

「えっ?ブライダル・ブリッジ???」 BBですか? そりゃブリジット・バルドー。
何だか妙な名前だな

愛冠(あいかっぷ)=愛のカップル にかけているそうです。元々そういう意味じゃないだろうけど。
変わった形の駅舎も冠の形にしているというお話です。存続時も
近場で言うと「旧広尾線」の「愛国駅」や「幸福駅」みたいなものです。いわゆる『駅婚』というのが執り行われていたらしい。
わきの東屋には「愛の泉」の名が掲げられる名水が滾々と湧き出してた。

愛の泉は、廃線になっても枯れることはない

Dscf5129 その泉の味は─   無味無臭。
そんな味がたまらなく美味しく感じられるんだよ。人は

人は、その清らかな泉を濁らせたり、枯らせたりもするんだよ。故意じゃなくても…
そうならないためにも泉は常に滾々と湧き続けてなければならない。

簡単そうで難しいこと 自分を潤してくれる泉を探すのは大変だ
ところが、その大変さを感じないのが、感じさせないのが『愛』の時間だよね。

泉を見つけたら枯らせないようにしよう
泉も炎も湧き上がるところは似ている
だから大事にしないと…

Dscf5128 そして それは こころのありかたと おなじ
王冠は ふさわしいところに来る
強いだけじゃもらえないよ
ちょい難しいね。

簡単なこと 難しいこと

かけがえのないこと とりとめのないこと

些細なこと 大げさなこと

そんなことみんな じつは それほど違わないことなんだ
そんな気がする 『愛』の前ではね

どう思う? どう想う…

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ひとつだけ気が付いた
「駅婚」は終着駅では成立しない…よね

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2008年2月26日 (火)

夏草の線路 ④

04phaj29

Window

その日は、お互い離れられない気分で、Yの部屋に寄ったまま泊まった。

自分の部屋でも狭いと思っていたシングルベッドもふたりで寝ていたのにそれを感じなかった。

 

  ブーン… ブーン…

えっ? また汽笛?
いや、携帯のバイブ音だった…

Room3すっかり目が覚め、あわててでる。

「はい? あぁ… うん 大丈夫だよ。 いゃ…うっかりした。 うん 今? うん…ちょっと帯広の方にいるよ。 えっ? 今日帰るよ。 はいはい… じゃ…」

昨日、帰らなかったのでどこかでガス欠になったと思ってたようだ。電話も入れなかったので心配はするだろうな… 峠でガス欠は確かに多いらしいから。
それにしてもまだ朝の6時前じゃないか…

「すぐ近くにいるのにね…」 毛布にくるまってYが茶化し笑い。

とっさに「帯広」と言ってしまった。

「ここにいるとも言えないだろ?」

「どうしてー? 言っちゃえば…」

「なんだよ! このぉー」

知り合った頃からYは言葉が少し挑発的だ。 それにまともに食ってかかるのが自分。
いつも、からみあってて、傍からみると喧嘩しているみたいだった。 昔も今も…

Pencil 

BookRoom2ずっとベッドにいて、起きだしたときはもう10時を回っていた。 

「今日、帰っちゃうんだね…」

「うん…」

「汽笛…」

「え?」

Toteppo「あの汽笛ってどうやって鳴らしたのさ?」

「どうって…Mちゃんがそう書いていたからそうしようと… でも、機関車まともに見たことないからイメージがわかなくって…この辺にも士幌の駅にもないし、帯広へ見にいったのさ。「とてっぽ」っていうのを。そしたら全然小さくてさ…違うな~って。」

「あれは軽便鉄道だろ」 

※旧十勝鉄道=とてっぽの名で親しまれていた軽便鉄道車両

Roco1「そんなのしらないもの… そしたら新得にあるって話を聞いて、見に行ってきたんだ2両 そしたらイメージしやすくなったよ… これを走らせようって… 橋とか赤茶けた線路を走っているところを目をつぶって考えて… でもホントに届いてるのかってのは分からなかったよ」

※新得市街に近い旧狩勝線と新線の並ぶ脇に保管されている車両

確かに聞こえていたんだ。今思うとかなり前から… 手紙のやり取りの頃からとすると結構前からだ。 もっとも「耳鳴り」と思ってたわけだけど。

「俺にもできるのかな?」

「うん きっとできるよ 向こうに戻ったらやってみて 聞こえたら私も応えるから」

でも不思議なこともあるもんだなぁ… Yは、そうは思っていないようだけど。

 

Mugi「●●さんの言うこと 少し考えたってや 今もいい仕事なんだろうけどサ あの人もここのこと考えてるんだわ」

「うん わかったよ 考えとく」

「忙しくても ちゃんとご飯は食べとくんだよ! 何すんのも体が資本なんだから」

「うん うん 解ったって! じゃ 電話するから」

そこそこに糠平を出発した。
それにしても帰省ごときで大げさだよなぁ 親心なんだろうけど… 

Michi2

途中にある黒石平へ向かう。 林道を少し入った所に昔、この辺りにあった黒石小学校跡を示す碑が残っているらしい。
Yはそこで待ってると言った。別に家でもよかったんだけど…

「おばさんにちょっと後ろめたくなっちゃったから…」

「なんでー? 何の罪悪感?」

「んー そーいうんじゃないけどさ…」

 

Dscf9345_2 この辺りは、昭和28年に電源開発に伴った糠平ダム工事の着工で集落が形成されて学校も創設されたそうだ。発展期にあって、ダム建設という新技術が児童の創造力に灯を点したのか『全校生徒が発明家』のタイトルで学校がテレビ紹介されたこともあったらしい。その証として昭和37年に発明工夫功労校を当時の科学技術長官から賞された。
ただし、ダムの完成から現場は解体。人々は黒石平を離れていった。

現在は発電所を除き、後の電力館を初め、全てが『無』に帰してしまった。
ただ当時を偲ばせるのは、この『小学校跡の碑』だけ。

 

Dscf9342_3 「待った?」

「ううん 少し前に来たから」

「これかー “小学校跡” 校名は入ってないんだな。」

「刻まれちゃったから ここの自然とひとつにもなれないんだね…」

…? 

 

  

「こんど こっちにも遊びにおいで」

「うん きっと行くよ!」
 

 

白樺の木立に埋もれる碑の前でしばらく抱き合っていた。
このままだとずっと離れられなくなりそうだ…

「じゃぁ…行くよ」

「うん…気をつけて」

 

車に乗り込みエンジンをかけた。

「…ずっと待たせてて ごめんな…」

「待ってなかったよ 繋がってたんだから…」

「じゃ…」

黙って手を上げて返事。 見えなくなるまで手を振るのがミラー越しに写る…
帰途は、いつもより長かったような気がした。

Night_road

「やぁ 休暇はどうだった? 故郷を満喫できただろう」

「はい! おかげさまで 初めてタウシュベツの橋を目の前で見ましたよ 課長のおっしゃるとおり、あれは『ロマン』でしたね」

「そうか それは良かった。そういう感覚も君の武器になるだろうね」

「はい! ありがとうございます」

Warkたかだ、1週間のことだったけど 前と後では心の置き様が変わってしまったみたいだ。
日常がとてもぎこちなく感じている。

同じ空の下 同じ大地の上 地球儀を回してもとても小さい島国。それでも四季の豊かな国。 北海道ひとつとっても札幌と上士幌では空気も気温も違う。 それほどに遠く感じてしまうんだ。 車でも3時間程度 その距離がわずらわしい…

とりあえずもう少ししたら、これから先のことを考えよう。
「考えてみてくんないかな…?」
まだ漠然としているけど、それに関して良い返事はしたいと思う。
ごく近い将来に… 

そうだ 汽車か…頭の中で機関車が動き出すと想いが届くんだったな…
…といっても いつか見た「鉄道員(ぽっぽや)」しか浮かんでこない…
キハじゃなくてD51でないと…

 

 

  ボーッ… 

Cup

あ…

聞こえた…汽笛の音

確かに聞こえたよ…

Pencil_line

 このまま気づかずに

 通り過ぎてしまえなくて

 何処まで歩いても

 終わりのない夏の線路

 いつでもまなざしは

 眩しすぎる空を越えて

 どんなに離れても

 遠く君に続く線路

          「夏草の線路」 遊佐未森

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2008年2月22日 (金)

夏草の線路 ③

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「おっ Mちゃんお帰り 待ってたよ」 Yと家の前で別れて家へ入ると近所の民宿のおじさんが来ていた。

「どうも おひさしぶりっす 何か…?」

「お母さんともちょっと話してたんだけどさ…Mちゃん観光の仕事してるんだってね」

Dscf6309なんか妙な雰囲気…下心ありそうな感じだよな。

「普通のサラリーマンですよ 仕事の話すか?」

「うん そのことなんだけど…何となく聞いててくれてたと思うけど、Mちゃん こっち戻って糠平と町を助けてもらえんかな」

そらきたよ きたきた… たしかに前にもおふくろがそんな話をしてた。

Dscf6322「いやぁ そんな器じゃないですよ…それに…糠平も上士幌も充分やってますよ」

「でもなぁ 材料そろっていても、それを扱うソフトっていうのがさ… 関連会社とも話し合ってんだけど しっくりこないところもあって こう、何つうかさ 現場と中央を知ってる人の力が欲しいなってのがあるんだよ」

「はぁ…」

「うちらも旅館はプロだと思ってるけど 客が来ての商売だからね 人の足を向かせる努力ってのがもう少しな…」

「責任重大ですよね…」

「ちょっと考えてみてくんないかなぁ…」

「はい…」

嫌だよなぁ…当てにされてもなぁ…
その後は、世間話や昔話で飲んでいたけど正直ギスギスしてた。

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どうも眠れない。
しかたないので昔読んだ本をパラパラ…と間に写真が1枚。
学祭のときのだ。Yとふたりの学校ジャージ姿。フェイスペイントまでしてるけどなんのマネだっけ? とにかく世間のゴチャゴチャしたものを考えなくてよかった頃か…この半年後には別々になったんだな。

 

「じゃ また明日ね」

あいつ何考えてんだろ? 
こんな山奥の秘湯地暮らしといっても今は付き合っている奴でもいるんだろうに… 普通じゃ今時期みんな仕事だから暇なんだろけどさ…
俺も何考えてんだろ? 
木曜には札幌の暮しに戻るんだから元の何もなかった時間に帰るんだ。何か忘れたような気もしながら今まで過ごしてきたんだから…

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いつの間にか明るくなってきた。夏の朝は早い。キャンプシーズンがくれば、ここの朝も一時の賑わいで、ここの窓からでもテント村が見えるだろう。

おや…? あそこを歩ってるのはYじゃないかな? こんな早くから何やってんだ?
けどチョコチョコした歩き方で何となくわかる。鉄道資料館の方へ行くのか?
夏とはいっても朝は寒い。ここだとなおさらだ。白い息を吐きながら、あいつの行った先をたどった。

Dscf6299_2

Shiryou 資料館の辺りは元士幌線糠平駅があったところで駅舎自体は今は解体されている。かつての軌道跡に一定の区間レールが敷かれ、客車が1両往年の情景を偲ばせる。ここは遊歩道として簡単な維持整備で糠平川を越えるアーチ橋までを辿ることができる。
狭い街なので人目をさけるようにYと良くここを歩いた。バスにでも乗らなけりゃどこへも行けなかったから… アーチ橋下の川原でたいしてすることも無く、ダム湖に向って石を投げてた… 願い事でもするみたいに。

「タウシュベツへ行きたいね  幻の橋を見にさー」

「いいよ 今度行くよ…」

Dscf6297でも自転車だから、行かなかった。
バスもあったんだけど あの辺にはバス停もなく本数も少ないし、途中までバスで行っても林道の奥深くだから、本当に行こうとは思っていなかったな…

それで…あいつ、どこへ行った?
遊歩道は、そこそこ距離があって橋がこんなに遠かったかと思うほどだ。
何とか橋の上まで来たけれど見つからない。
いいや あとで聞けば。
ひょいと橋の下を除きこむと…

「あ… いたよ…」 向こうも橋を見上げてて目が合った。
ただし、カメラのファインダー越しで。

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Dscf6306 「びっくりしたよぉー! どしたの?」

「ゆうべ 寝られんかった… ●●荘の親父さんがきてさー」

「あー その話ちょっとおばさんに聞いたよ」

「で…どう思う?」

「いいじゃん? そしたら またいっしょにいられるし」

Dscf6310 それってマジで言ってんのか? 少なくとも5年は空白だったのに。
こういうのを小悪魔ってのかな… 25にもなったらそうは言わないか。

「そんで 何やってんの?」

「写真だよ カメラ持ってるしょー」
大きなデジ1眼がこいつには何だか不似合いに感じる。

「へーっ いつから」

Dscf6303 「2年くらいかなー その前は見るだけだったんだけどさ せっかく来てるのにもったいなくて…覚えるの大変だったさ」

「だろーね」

「いっやー ムカつく!」 そう言いながらも笑ってる。

道を引き返しながら話をした。

「昔、よく来たよねー ここ…どこかっていうと、ここばっかりでさ…」

「もう飽きただろ」

Hi_2 「ううん 飽きないよ 大好きだからー このまま変わらないでいてくれたらって思う」

「…(なに)?」

「今は、車があるから幌加とか三股なんかも。去年だったか撮ってたら川向こうに熊が出て逃げた!」

「危ないなぁ 逃げると追うんだぜ 熊は」

「そうだよね でも冷静になんかなれないよ!」

それはそうだ。

Room 「朝、まだでしょ? うちに寄って」

「いやー 眩しいな…」
部屋の中じゅう白一色。オフホワイトって程ではないけど天井から床まで全面「白」

「父さんの退職で公宅を出ることになって…探したんだ ここ。レンタルルームに改装したところらしいんだけど需要がなかったんだって。白いのは私がふた月かけて塗ったんだよ」

どうりで、目が痛くなるほど白いんだ。

「色々撮っているの?」

Tea「うん アーチ橋は大体。トンネルも行くけどほとんど塞いであるし、怖いから入らないよ あとは風景とか気球とか…」
コーヒーマグを手渡しながら熱く語ってくる。
いつものひょうひょうとした性格と違うところが見えた。

Back「タウシュベツの橋も?」

「…いや… まだ行ってない…」

「えっなんで? あそこ有名じゃない」

「うん…そうなんだよね…そう…」

「…?」

朝食を食べながら話をした。

「どの辺まで撮りに行ってんの?」

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「士幌線だけだよ 今は 士幌駅までかなぁ…行ったの 今だに方向オンチだからさ。新得から戻るつもりで然別湖目指してたくらいだから 仕方ないからそのまま走ったけど湖畔の狭い道の対向車が怖くてさーすごく時間かかった」

Dscf6302 それは重症だ ナビでもないと。
運転免許をとって、もう4年。Tホテルが廃業した後らしい。
ここからの自動車学校通いは遠いので、えらく面倒だったようだ。
高校卒業が近づくころになると就職組の希望者には、まとめて送迎バスが出るけどその時は利用してなかった。

「Mちゃんさー 向こう(札幌)で付き合っている人いるの?」

「いや いないよ Yこそどうなのさ」 なんだ?いきなり…

「私はこんな場所だからねー 職場もそんな札幌みたいに出会いなんてないから」

「でも おふくろの話では、この辺でもロマンスなことあったそうだよ。ホテルだってお客さんは来るんだろうに」

「バッカじゃないの! 客室に用もないのに『こんにちはー』っていけるわけないじゃん!」

Dscf6343 「ふーん ホントかなー」

「ホ・ン・ト!勘ぐって何さ!」
フォークをこっちに突き刺すようなそぶりをして苦笑い

「なんで タウシュベツには行ってなかったのさ?」

 

「そうだよ… お願い、今日連れてって!」

「別に…いいけど?」
なんか妙だな…?

Michi3 家に戻って自分の車で出発した。

「めがね橋かい ガス欠に気をつけなよ。 父さんの車じゃあそこまでは行けんからね」

何だかんだ言っても自分も行った事はない。仕事上の素材写真では散々見ていたけど現地がどこかも正直知らない。

「林道の入口はわかるよ 今は表示もあるから」

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幌加駅跡より手前にその林道はある。タウシュべツ橋梁は4㎞先との表示もあった。
林道といっても車の行き来も多いらしく、砂利敷きの道とはいえ、状態は良い。

「えーっ ドキドキしてきたよ…」

大げさだなぁ たかが廃線跡じゃない…課長も言ってたな「ロマン」とか。

本来、タウシュベツ川河口にかかる橋梁は減水期の冬場は、その全体を現し、増水する6月ころから徐々に湖面に沈みだし、10月あたりには完全に没する。
こうなったのも廃線後に大量の発破作業を伴うダム工事で誕生した糠平湖がそうさせているわけで、ここだけではなく十勝ダムや金山ダムなども学校や最寄の集落を湖底に沈めている。糠平でも温泉旅館がその煽りで廃業している。
そんな季節で見え隠れするところが「幻の橋」たる所以なのだが、この状況から橋を保存することは不可能なのだと思われる。
カスカスのお菓子細工のような感じのこの橋もいつか完全に崩れ落ちてしまうんだろう。
旧国鉄上士幌線のこの辺りの橋は、アーチ形がほとんど。元より山の景観を損なわないものをという考え方がここにはあったそうだ。
骨材の砂利も現地調達ということで、この橋のように白っぽいものが存在する。

Dscf6319以外に遠く感じた4㎞先の深い木立の脇に駐車場があった。
そこから湖に向かって整備されているとは言いがたい(むしろ趣がある)川底のような道が森の間にぽっかりと開いている。湖畔までは、そこそこ歩きそうだ。

「去年は、雪も雨も少なかったからずっと見えていたんだって」

それも地球温暖化と関係あるんだろうか?
少なくとも気候が何かの影響を受けてはいるようだ。

「どうしよう 緊張してきた…」

ホントに来てなかったのかい。どうしてまた…熊がトラウマになってるのか?

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Dscf6318 森を抜けるとタウシュベツ橋梁が現われた。まっすぐこっちを向いていて、今歩いてきたところが軌道跡だったのだろうか。
角が取れてボロボロに風化して鉄骨も剥き出しになっている。その白い姿は橋と言うよりも大きな生き物…恐竜の骨みたいだ。 河口にゆったり横たわる巨大な恐竜の背骨。

「すごいねー この橋 優雅に走るんだろうね」

「走るって?」

Dscf6317 「そう 何か来るんだよ 向こうからこっちに… こっちから向こうにも…」

「ロマンチックだな」 ちょっと吹き出しそうだった。真顔で言うもんだから…

「あーッ バカにしてるしょ? ホントなんだよ」

何を言うやら そんな夢見る頃じゃあるまいし…

 

 

    ボーッ  

 

Dscf6315 え? また聞こえた 今度は、すごくはっきりと…
思わず回りを見渡した。 耳鳴り…? じゃないような…

「聞こえたの? 汽笛」

「えっ? 汽笛?」 たしかに汽笛みたいだった。

「前に手紙に書いてた『見えない汽車』をわたしが走らせたからだよ…」

「汽車?」

そうだ そんなことを書いた覚えがあった…

僕の事 思うとき
目を閉じて汽車を走らせて
聞こえない汽笛を聞くから

でもそれは、なんとなく思いつきで…

「だから…ずーっと走らせたんだ 私… 昨日も」

満天の星空の下、透き通るように白い汽車がこの橋を飛ぶように渡る様を想像した
湖畔に悠々と立っている橋の袂で続く沈黙

 

  

「聞こえていたな ずっと前から…」

「やっぱり聞こえてたんだねー ありがとうタウッシュー!」

「なんだ?それ」

「約束だったから、ひとりでここにこないって決めてたんだ だから橋が叶えてくれたんだよ」

そうだ 約束した8年は経っているけど…

「ありがとう 約束叶えてくれて…」

Dscf6316

「写真…撮んないの?」

「んー…今日はいいやー 何だか…」

手持ち無沙汰で、ついポケットの中で握りつぶして石ころになってた気持を橋の向こうへ思いっきり投げた。

「─ どしたの?」

「捨てたんだ ここに捨てるものをさ…」

不思議そうな顔してたYが笑った

(つづく) 

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