マカロニ ②
「飲み物は?」
「い…いいえ水でいいです」
「じゃ…それで」
「かしこまりました。アイスコーヒーおひとつ、マカロニグラタンがおひとつ。以上ですね」
「はい」
「もしかして、お腹空いてた?」
別にお腹が空いていたわけじゃない。
目の前のことと頭の中が別のことを考えていたんだ。
「は…ははははは…すいません。つい…何年も食べてなかったので…
」
「えぇっ?」
「いや…食べてます。飴くらいは」
「飴だけ?」
「い…いや食べてます。人間だから…」
うっわ~話せば話すほどボロが出てくるよ…
今すぐにでも逃げ出したい。
向かい側から、ジッと私のほうを見てる。
怪しまれてるかな…私が本物の人かどうか…
「ところで、この辺の人?」
「いえーっ旅の途中で、ちょっと立ち寄っただけなんです。友達が見たいものがあるとかで…」
「そっか、お祭りだしね。その友達ってのも女の子?」
「はい。今日は…」
「今日は?」
「いやいや今日もです
」
マズイぞ!絶対マズイ!
なにか話を変えないと…
「あの…あの、あなたは何者なんですか?」
「ナニモノってかい?そう…たぶんキミが待ってた人」
なに?ちょっと待てよ!名前が同じとしても、この人が私のカズ君のはずないよ…
もしかしてコロンが私を騙そうとしてるのかな?…いや、そんなはずは…
待てよ…落ち着けナギサ!混乱してると相手の思うツボだ。
普通に振舞わないと…普通に…
「私もそう思います」
「へぇッ!話が早いね」
その気になれば何とかなるもので…何とか話に慣れてきた。
車がどうとか仕事がどうとか、よくわからない話をズーッと聞かされたけど、何となく返事をしていれば勝手に話してくれるから楽だな…
「幽霊?」
ドキッとした 店のどこからか、そう聞こえた。
少し離れている席の女の人らしい…。
背を向けているけど、私の正体を見破ってるのかな?
それとも私の変身がヘタで正体がバレバレなのか…
「お待たせいたしました」
懐かしい香り─
小さい頃の…生きていた頃の…思い出の香り。
フツフツと香りを立ち上らせる黄金色のマカロニグラタン…
しばらく見とれていた。
「食べてていいよ」
アチッ…アチチチチ…
「そんな、あわてることないのに…」
「すいません!死んでから、しばらくこういうの食べてなかったので…」
「えっ…? もしかして…ナギサちゃんてさ、幽霊さんなの?」
あ… しまった…。グラタンに夢中になって自分でバラした…。
「ごめんなさい…騙すつもりじゃなかったんですけど…」
「でも、こんなカワイイ幽霊なら歓迎だけどね」
「怖くないですか?」
「うん、いろんな人と知り合ったことがあるよ。マリー・アントワネットの生まれ変わりだーとか、実は金星人なんだーとか…他にもいたかな」
「金星?」
私みたいなのの他にもいろんな人がいるんだ。
それにしても幽霊が怖くなさそうな人に驚いた。
「でもさ、幽霊って昼間でも大丈夫なの?」
「始めは…幽霊になった頃は、陽に当たると溶けちゃうと思ってたんですよ。でも違うってことに気がついて…それから風に乗っていろんなところを旅してきました」
「いやぁ風船じゃないんですよ
」
「ハハハ…」
「へ…エヘへ…」
自分が幽霊だということにズッと引き目を感じていたけど、話を聞いてもらうと、今まで縮こまっていた気持ちがほぐれてきた。
「やっぱり幽霊になるってのは、この世に未練とかあるのかなぁ」
「無いですよ。私は…。気がついたら幽霊だったし…それに始めは、そのことにも気がつかなかったけど。でも…悔しいとか、悲しいとか、そういう気持ちでいっぱいになっちゃってる人もいました。スゴク可哀そうで…」
「えっ?えっ?えぇぇっっ
」
また向こうで女の人が大声を出した。
あれ…?
「騒がしい店だなぁ…食べ終わったらどこか他所で話そうよ」
「はい」 …向こうの人たち…どこかで会ったような気がするなぁ…。
(つづく)
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コメント
いい天気なのにいきなり雨がポタポタと降ることもありますね、最近の天気は。
そこでふと空を見あげたらハワイがありました。
こんなに近くに住んでいるのに気づかないものなんですね。
投稿: カナブン | 2009年9月12日 (土) 21時28分
看板下の最上階はどうなっているんだろう。。。
投稿: ねこん | 2009年9月13日 (日) 19時36分