廃墟の歩き方Ⅳ 『ちいさな頃から』①
『幽霊?』
『う…疑うの?アキさん』
『いや…そういうわけじゃなくて…』
『ホントにあの時見たのさ!あの炭鉱で…』
美玖さんに相談があると言われ週末、街で会うことになった。
久々の青空の下は気温もグングン上がり、通りは歩行者天国。夏のイベントでごった返している。どうも人の多いところは私の性に合わない…
待ち合わせた美玖さんは、この前、写真の師匠である神さんと行った山奥の炭鉱跡で偶然出会った。
彼氏に連れられてそこに来た美玖さんは『廃墟趣味』ではないらしく、あの草深い森の中では当然のごとく不満そうで…。
途中、ちょっとしたことから機嫌を損ねて遺構と樹木でうっそうとした森の奥を突っ走って行方不明になってしまった。しばらくして無事、見つかったけれど…
後日、その美玖さんが師匠を通じて私に連絡してきた─
まさかとは、思ったけど…
『名刺を見つけたの。アツシの部屋で。神っていう人の…それで連絡してみたんだ…』
なんの気なしに会ってみて、幽霊の話とは驚いた。
悪いけれど私は幽霊を信じる方じゃない。というかまったく信じてなどいない。
信じてたら廃墟など絶対行かないよ。
しかも、あの時に見たって…あの時は、まっ昼間じゃないのさ。
『すぐ近くにいたんだよ!はじめは、なんだろ?って感じだったけど、振り向いて“大丈夫ですよ”とか話してきてさ…』
『えぇっ…?…で、どんな感じでした?』
『うーん…白っぽくて少しユラユラしてて…影っていうか…そう、若い女の人の影に見えた!』
『女?』
『そう!若くて…ワンピって感じ』
『…』
古い炭鉱跡に昼間っからワンピースの女の霊?それは誰も信じないでしょ…まいったなぁ…
『信じてないっしょ?』
『いや…そういうわけでは…』
『ホントは、私も今になったら本当のことだったか怪しくてさ…。幽霊じゃなかったら宇宙人かなぁ…』
あの森の中で私と師匠、美玖さんとその彼氏、4人が右往左往していたのは、ついこの間のこと…
その日以来、雨の日が続いて思うように探索はしていない。
彼女ともそのときぶりだけど、神経質そうだったあの子が私に会いたいと連絡してくるとは思わなかった。
『そうなのさ!』
わっ!なんだ急に!
『あの日以来、ああいうとこ行かなくなったんだよね。アツシ…ひとりでも行かなくなったみたい。前は、ちゃっかり計画してて当日発表みたいなー』
『それは、まあ…ああいうことのあった後ですからね…』
『映画とか…ショッピングとか…連れて行ってくれるんだ。郊外へ出かけたって「また?」と思ったけど全然寄らなくなった』
『それはそれで、良かった…んじゃないですか?』
『…』
美玖さん…黙ってしまった…。
返す言葉に失敗したかな?
師匠に今日、美玖さんと会うんだと話したら…
『気をつけてくださいよ。あの子、神経質そうだから…』
『大丈夫です!師匠より女の扱いには長けてますから』
『そ・れ・が!イカンのですよ。話すときは、しっかり噛み砕いてからにしたほうが…』
『買いかぶらないで下さい。これでも私、ご飯は、しっかり30回噛むんですよ!』
『会話の話ですよ。それに、それを言うなら“見くびらない”です』
やっぱり師匠にも来てもらえば良かった!
用事で札幌へ行くって言ってたけど確信犯だなぁ…
なんだか、緊張してきた…。
お腹空いたなぁ…緊張するとお腹空いて来るんだよ…
あーっこの暑いのに熱いグラタン食べてる子がいる。変なヤツだなぁ…
『ねぇ!ちょっとアキさん!聞いてるの?』
『あ…はい!聞いてます!』
『で…ものは相談なんだけどさ!どこか知ってる廃墟に連れてって』
『えっ?えっ?えぇぇっっ』
思わず大声が出て、回りの視線が一斉にこっちへ…
美玖さんもグラタン女もキョトンとした顔で私を見つめてる…
うわぁーっ恥ずかしい…
美玖さんが急に思いもしないことを言い出したからじゃないかーっ
『私、廃墟なんか嫌いだよ!でもさ…ああいうところでアツシは幸せそうな顔を見せてくれたのさ。今でも笑ってくれるけど…違うんだよね。なんだか自分にウソ付かせてるみたいなのさ…』
『はあ…』
『一緒に行ってても“こんなとこ嫌だ”って感じで見てたから、アツシの感じるものをわからなかったんだなぁって…。そういうのを理解したい気持ちもあるんだけどアツシ行こうとしなくなっちゃったし。ああいうことのあった後だから私から言えないし…』
この前、グチってばかりいた子とは思えない。
今時、こんな理解力のある子、いないじゃないか。
私もこういう理解ある彼氏欲しいなぁ…廃墟趣味に理解のある…
『へへっ… まあね…』
『で…いつ行きます?』
『明日でも、どう?時間ある?』
『明日』
『アツシ、明日まで仕事で出張だからさ。近いとことかないの?』
『いや…あることはありますけどね』
弱ったなぁ…師匠もいないし…
近場か…近いとこ…ないことはないけど…
『こんにちはーっ』
『おやぁ?またあんたかい!物好きだねぇ…こんなとこばっか来てたら嫁の貰い手なくなるべさ』
『だいじょうブイです!すいません今日も見てきていいですか?』
『ああ!怪我だけは、しんようにね。あんなとこだしさ…。また写真かい?』
『いえ!今日は見るだけで…。あっちのバリケード、大きくなってましたけど、また誰か来てたんですか?』
師匠と一緒に来たことのあるこの廃墟は、ずいぶん前に閉鎖されたラブホテル跡。
高台の突端にあるので上水道の充実していなかったころに近隣の道路拡張工事の影響で地下水脈が変わり、地下水を汲み上げられなくなったのが閉鎖の原因とも聞いている。
この廃墟に隣接している裏の道は一見、ここの道のように見えるけど、まったく無関係で、奥にある家の私道だ。心霊スポットの噂もある場所だから夏になると肝試しの連中が毎夜のように来るらしい。
事情を知らない人が奥の家をホテルの廃屋と思って勝手に覗きに行くことがあったんだそうだ。
そういうこともあるので、ブログに場所のことは載せられないし、時々来る情報照会のメールも丁重に断わるようにしている。
『この前の連休あたりからね。ボチボチ出てきてるよ…』
『あまりひどかったら通報した方がいいんじゃないですか?』
『いんや、そこまで迷惑こうむってるもんでもないし…ウチのもんでもないからさ』
心霊の噂もあるここは、夏場になると肝試しのハッテン場になっているらしい。
噂の信憑性は、近所で聞いて回っても「そんなこと初めて聞いたよ」と言ってたくらいだから、やっぱり怪しいんだろう。
それでも冷やかしの連中は良く来るらしく、中はずいぶんと荒らされてる。それとは別にこっそり不法投棄していく人も相変わらずいるみたい。
他にも銅線の窃盗目的で来る人もいるらしく、あちこちの電線が切断された跡がある。
天井裏にまで入った痕跡もあったし…
『ずいぶんかかったね。面倒なの?』
『いえ!世間話ですよ…。ホントにいいんですか?』
『…うん』
今まで、いろんな廃墟を見てきたけど、こんなに気が重いのは初めてだ…
とりあえず、近場と言えばここしか知らないし「心霊の噂」だけは黙っておこう…
(つづく)
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コメント
会話の顔文字がとても効果的ですね。
私はかなりの暑がりですが、夏でもクーラーの効いたところなら、グラタンとかラーメンとかカレーとかたくさん食べられます。
投稿: アツシ | 2009年8月 7日 (金) 01時29分
アツシ様
登録の顔文字が少ないのが悩みです。。。
微妙な表情がないので。
しかし、北海道もここ数日、暑いです。
昨日も30℃超え。
そんなこと言ってると南の人に笑われますけど
投稿: ねこん | 2009年8月 7日 (金) 12時22分