廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』③
【前回までのあらすじ】
廃墟がスイーツより大好きなサブカルOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐコア廃墟サイトを運営する先輩、神氏(
A型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、別ルートからは、もう一組のカップル。その彼女・美玖(AB型)の方は、ホントは『廃墟』が大の苦手。彼・敦(B型)の方は、廃墟を撮るのが大好き。物事を深く考えない性格なのか、週末デートも半分廃墟巡りのようです。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしましたが、些細なことから美玖の廃墟嫌いが爆発…廃墟の森を奥深く駆け出して行ってしまいました…
「あの…携帯で呼んでみたらどうですか?」
「あっそうか…いや…ダメだ…ここは圏外です」
私のもダメ…この山奥にエリア拡大ってのも妙な話だけど、これじゃ意味無い…
「とにかく、手分けして…」
「闇雲に動くのはやめたほうが良いですよ。近くにいるかも知れないし。とにかく、こっちまで迷い込んだらコトですから少し冷静になりましょう」
「あれ…ここどこ?」
表に飛び出してガムシャラに走ったけれど、落ち着いてきたら自分が来た方向もどっちかわからなくなった…
相変わらず、遠くにボロボロな建物は見えているけど、どれも同じにで、方角も分からない…
「アツシぃ…」
私、迷った…? どうしよう…
「あれから…どのくらい経ちます?」
「30分くらいになりますかね」
「美玖がヘタに動いていたらマズイな…」
「そうです!いくらなんでも迷ってたら気が付いてるでしょう!」
「おーい!美玖―っ」
「ミクさーん!」
これは私のせいだなぁ…責任感じるよ…。
あ~っ完全に迷っちゃった…どうしよう…
「アツシー!アツシーッ!どこーッ!」
困ったなぁ…困ったなぁ…ずいぶん歩いたけど、道がどっちだったかも分からない…
鳥になれたらこんなところからすぐに逃げ出せるのに…
こんなことになるならはじめからハッキリ「行きたくない」って言えば良かった…
でも言えなかったな…アツシの夢中な姿見てたら…
それにしても疲れたよぉ…どこかで少し休もう…
そんな地上の騒ぎなど意に介さないほど青い空。
海を目指して風の背に乗っている女の子がひとり。
「ズンタカター♪ズンタカターッ♪海!うみ!もうすぐだよーっ
」
ところが思い通りにならないのが風。海の方へ向かう風がなかなか吹いてくれないようです。
風任せの旅もメンドーだなぁ…降りてどこかの車に乗せてもらおうか…
でも、まだ木の海の真上。走っている車どころか、道も見えない。
「木が多すぎるんだ。少し低いところを行こう」
低いところは、山や木の影響があるので風も不安定だけど、今日は穏やかだから大丈夫だよね。
山の中なのに小さな家が点々と見える。
おや?緑の中に誰かいるみたいだなぁ…あんなところで何してるの?
「ミクーッ!」
「おかしいですね。聞こえないのかな…」
「もしかしたら、車のところへ行ってるかもしれません。もしやということもありますから様子を見てきます」
「見つけたらクラクションを鳴らしますから」
「いなかったら?」
「いたら『プー』で、いなかったら『プップップ』にしましょう」
「プーとプップップですね」
笑いそうになったけどそういう状況じゃない…
「それと、なるべく音を出すようにしてください。まさかとは思いますが…」
「え?クマでも出るって言うんですか!」
「ここは、シカがたくさんいるって聞いてるんですよ。でもズーッと痕跡も見ないので…。こっちの気配でいなくなったのかもしれませんけど、万が一のこともありますから…」
ここはどの辺なんだろう…
どっちを向いても同じような風景。気のせいか回りは山ばかり…
「そうだ!ケータイ!」
圏外…!なんてとこだろ…
ガサガサ…
なんだ?今の音!
「アツシ? アツシなの?」
音のした方を見たけどなにもいない…薄暗い林と何かがあったコンクリートの跡が見えるだけ…
こんなところにいるのは、シカかクマくらいだよね…
クマ…! だったらどうしよう!
ジッと林の方を見ていた。風かもしれないけど草が揺れて見える。
なにか…なにかあそこにいる?
クマだったら見つからないようにしないと…気味悪いけど、あそこの廃墟に隠れてよう…
「おや?動き出した…。 あ…もう一人いる。…人じゃない?クマだ。あのままじゃクマと鉢合わせになるよ」
「う~んシカの奴らすっかり見かけなくなったな…。待ち伏せしやすいところだったが、そろそろ他のところへ行かないとダメか…」
「あーっどんどん近づいていくそっちに行っちゃダメだって
」
「ん…?獲物の匂いがするな。まだマヌケな奴が残っているようだ。ヒヒ…」
「あのーっクマさん
ちょっと待ってください
」
「んッ?なんだお前は! どこかで見た奴だな…」
「あーっ?いつかのクマさんですね…。生まれ変わったら食べてやるとか言われてたんだ…」
「思い出したぞ!あのときのカスミ女だな!相変わらずカスミのままなのか!」
「カスミって… 私、ナギサですよ。
ここで何してるんですか?」
「俺は今、忙しいんだ!獲物がいるんだ
」
「獲物って…この先にいるのは人間ですよ」
「だからなんだ」
「なんだって言われても…」
うーん…ヤバイなぁ…。やっぱりあの人を狙ってるのか…
(つづく)
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コメント
外の景色も緑が増えてきてます。
この物語もそろそろ緑の奥から、ウクレレが聞こえてきそうな雰囲気です。
師匠はきっと、生ぬるい手洗水を車に用意していると思います。
無事に皆さんが廃墟からの脱出できることを願います。
投稿: カナブン | 2009年4月10日 (金) 21時06分
廃墟の中からウクレレ弾きながら現れたらサイコと思われますよ。
投稿: ねこん | 2009年4月10日 (金) 23時27分
まさかの森のクマさん登場で急展開です!
投稿: アツシ | 2009年4月12日 (日) 00時55分
北海道でクマはお約束です。
開拓期は、人よりクマのほうが優勢だった地域もあるそうです。
そういうねこんは、クマにあったことはありませんが、あちこちに『クマ出没注意』の看板はありますよ。
投稿: ねこん | 2009年4月12日 (日) 15時00分