廃墟の歩き方Ⅲ 「ら・ら・ら」①
「えーっまだ先があるのーっ
」
「うん…こんなに奥深いとは思わなかったなぁ。さすが炭鉱だよ!ほら、向こうにもホッパーが見える。スッゴイなあ…」
『スッゴイなあ』って…
知ってたんじゃないの
せいぜい1、2箇所かと思ってたら何?この森は…次から次にボロボロな建物が出てくる。
ひとつの中に入って彼がシャッター音を響かせてたら『向こうにもあるよ』って次々渡り歩いていく。
黙って後を付いてきたけど車を止めた道はとっくに木立の向こうで見えなくなった。
「大丈夫なの?ちゃんと戻れる?」
「うん!来たときの通り、辿っていけば大丈夫さ」
「なんだか…クマでも出てきそうなとこじゃない?」
「話しながらならクマも寄ってこないんじゃないかなあ…」
「かなあ…」とか言うけどクマに聞いたわけじゃないじゃん!
あ~っ…それにしてもどこまで行くんだろ… あっ…また向こうにもある…
「スッゴイですねえ!
師匠ーっ!入口んとこのゴミの山見たら正直メゲましたけど。これはもう鼻血ものですよお!」
「うん!大願成就です!うちからじゃここまでは滅多に来られませんしね。途中の街でポジフイルムを調達できなかったのが残念でしたけど…」
「夕べ、ここのことを調べたら『クマの生息域なので単独行動はしないこと』とか警告を載せてるところが多かったですよ。出るんですか?ここ」
「出たという話は聞かないですけどね。これだけ人里離れるとありえないことではないでしょう。エゾシカでもいれば少しは安心なんですけどね」
「そうなんですか?」
「シカも用心深いからクマの気配のあるところには近づかないそうです」
「あっ!師匠!向こうにも
ホッパーホッパー!
」
「はいはい順番にね」
「ちょっとおー」
「なに?」
「今の聞こえなかった」
「何が?」
「獣の鳴き声みたいな…さかってるみたいな…」
「いやー、聞こえなかったけど」
確かに聞こえたよ!
風なんかなかったし…
クマの声は聞いたことがないけど、テレビか何かで聞いたけど木の上のサルが人間が来たのを威嚇するみたいな声が聞こえた気がする。
「こんな人も滅多にこないようなところまで来てヤバくない?」
「そうでもないみたいだよ。結構あちこちに足跡もあるし…」
そういわれて下を見ると、湿った粘土状の土の上に靴跡がたくさん見える。
こいつみたいなもの好きが他にもいるんだろうか…
それよか、私のソールもすっかり泥だらけだ…トホホ…泣きたいよ。
「あそこまで行ったらとりあえず今日は戻ろう。これ以上行ってもキリ無いみたいだし」
「ホント?わかった」
彼の指差す向こうにひときわ大きい建物が見える。
ともかくあそこまではガマンだ…
「師匠ってクマと遭遇したことあるんですかあ?」
「いや!ないです。でも、新しいフンを見たことがあるし、何かが近くにいる気配も感じたことがありますよ。その時は、さすがに深入りできませんでしたけど…」
「ここって遺構がたくさんあって嬉しくなっちゃいますよォ
正気を失いそう
」
「倒産ではなくて閉鎖ですからね。場所によっては国有地だったから閉鎖のときに原状回復でほとんどの建物を解体したところもあるようです。この辺りは、まだ地権は保有されているのでしょう」
「あっ!あっちの大っきい
すぐ行きましょう
」
「話、聞いてませんね…。やれやれ…」
「えっ
何か言いました?」
「いや!アキさんもカメラの腕が上がったなぁって…」
「もっと言ってください!私、褒められて伸びるタイプですから」
あーっシンドイなぁ…。どうしてこんなところをサクサク進んでいけるんだろ?カメラとか三脚とか持ってて…。
同じ道を戻ることを考えただけで、うんざりだなぁ…とにかくここで終わりらしいから、この辺で待ってよ。
ガサガサッ!
「えっ?なに!」
「あ…あれっ?」
「どうしましたか?」
「あの…いや!後で話します…」
あれーっ?なんでバッテリー切れるんだよぉ!おっかしいなぁ…こんなはずじゃないのに。
やっぱりフイルムカメラも持ってくれば良かった…
ん…?
「師匠
なにかいます
今、あそこでなにか動いた
」
「シッ!静かに…」
何かいる!壁の向こうに…!
どうしよう!私ひとりだ。ヘタに動いたり騒いだりして、もしクマだったら…
どこにいる? あっ!あそこだ!
手を振ってみよう。
離れ過ぎてて全然気付いてくれない… そうだ!何か投げてみよう。
この棒でいいか…それっ!
あーっ
当たった…
「痛っ!なんだよ危ないな!」
「誰か住んでいるんですか?ここに」
「いや…同業ですね。静か過ぎるし、心霊系でも昼真っからは来ないでしょう。かすかにシャッター音もするようです」
「さすが師匠!年の功!」
「褒めているんですか?それ…」
「もちろんです!師匠も褒められて伸びるタイプです。さあ!行ってください!」
「なんか変だなぁ…」
「ギャーッッッッ助けてぇーッ
」
「何だ!どうした?」
「決して怪しい者じゃありません!」
「そうです!怪しく見えても実は違います!」
「どういう意味ですか?それ…」
「ははは…
頭悪いんで上手く言えないんですよ」
「どちら様ですか?」
「いや、僕らもここを撮りに来ただけで…驚かせてすいません」
「そうですか。こんな場所で同業と会うのも珍しいですね」
同業? なんだコイツら!
死ぬほど驚かせて何のんびりしてるんだ!
あ…壁に寄りかかったから服が汚れたよ。トホホ…
「ゴメンね。驚かせるつもりじゃなかったんだけど」
「いえ…大丈夫です…」
「いいえ。単に写真が趣味で撮るだけですよ。サイト運営してるんですか?」
「はい『廃墟楓』というのを…」
「あーっ!良く見てますよ!すごいですよね。あの写真技術は!」
「本当ですか。それは嬉しい! これ…私の名刺で、今後ともよろしくお願いします」
「いやっ!これはご丁寧に…仕事用で失礼ですが、こういう者で…」
なに? こんなとこで名刺交換? 信じらんない!
嫌だな… なんだか長引きそうだ…
「ねぇお互い大変ですね…」
「えっ
何が?」
「変な趣味の男と付き合ってるとさぁ…うんざりするよ…」
「えぇっ
あ…
そ…そうですよね…確かに…」
そっかぁ、この人は趣味じゃないんだ…
まいったなぁ…『私もそうなんです』とか言えないなぁ。これじゃ…
(つづく)
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コメント
最後の写真は廃墟楓の「遺跡廃校」でしょうか?
この物語、最後は「この物語はすべてハックションです」と書いてくださいね。
事実と勘違いされたら、おなじみ物件を別物件にカモフラージュしてUPしているのがばれてしまいます。(;;;´Д`)
投稿: カナブン | 2009年3月20日 (金) 22時00分
下から4つ目の撮影後、獣に襲われました。
投稿: ねこん | 2009年3月20日 (金) 22時09分
あなたたち、そういう関係だったの!!!しかも出会いが・・・
投稿: K・T | 2009年3月20日 (金) 23時22分
それがどんな場所でもね。
マニュアルなどありません。
投稿: ねこん | 2009年3月21日 (土) 10時41分
マニュアルのある愛なんてつまらないじゃないですか。
明日はどうなるかわからない。
だから愛は楽しいのです。
こ ん ば ん は.... カナブンです。
投稿: カナブン | 2009年3月22日 (日) 21時25分
そういうことを含めてゼロ地点から自分を考え直すことのできる場所が、例えばこういうところなのかもしれません。
投稿: ねこん | 2009年3月22日 (日) 23時09分