廃墟の歩き方Ⅲ 『ら・ら・ら』②
【前回までのあらすじ】
廃墟大好きOLアキ(A型)は、週末に師匠と仰ぐ廃墟サイトの先輩、神氏(
A型)と炭鉱跡へ来ました。
一方、この場所へ別ルートから別なカップルも入っていたのです。ところがその彼女・美玖(AB型)は、口にこそ出さないものの『廃墟』は本当は大の苦手。彼・敦(B型)の方は、その心のうちを察することができず、廃墟を撮っているつもりが廃墟に気を取られていて彼女のことが気に止まりません。
そんな二組が廃炭鉱の奥深くでニアミスしてしまいました…
『ええ…そうですね…
』
『薄気味悪いし、汚らしいし、虫はいるし…前は一緒に来なかったけど、どうも行動が怪しいから「連れてけ」って言ったら、それから開き直っちゃって…』
『でも…こういうところって滅多に見られるものじゃないし…
』
『これって粗大ごみみたいなもんじゃない!誰からも見放されてさ、わざわざ草をかき分けて来るほどのところとは思えないよ。そうでしょ?』
『まぁ…
そうですよね…』
どうやら私も師匠に無理やり連れてこられてるのだと思っているらしい。
カメラの調子が悪くてバッグにしまってたからなおさらそう思われたかな…
それにしてもバッテリーの調子が悪いのにはまいったなぁ…目の前にこんな凄いところがあるのになぁ…
『このタイプのレンズのボケ足が、これまた良いんですよ…』
『へぇ~っ検討してみます』
いっや~っ…
思ったとおり話が長引いてきた。
『退屈だよねぇ…座れるところもないし。ホント、デリカシーないって言うか…そっちも大変でしょ?』
『いつもじゃないんだけどさ、ちょっと遠出したら「当然の権利」みたいによるところを決めてるし、その間なんかこっちのこと放ったらかしだもの…』
『はっきり言ってみたら良いんじゃないですか?』
『言えるなら言ってるよ…ダメなんだよね。近頃はストレス感じてる…』
『それじゃ良くないでしょう?言わないとわからないこともあるし…』
『うん…そうなんだけど。でもさあイキイキしてる顔見せてくれるのは、こういうところだけなのさ…。そっちはどうなの?』
『ええっ?
そう!ヒッドイですよぉ!映画1本連れってってくれないし、毎週のようにですよ。こういうところ!』
…つい、相手に合わせてウソをついてしまった…
『よくガマンできるよね』
『いやぁ…問答無用ですよ。「次行こう」とか「早く行こう」とか興奮しまくって鼻血ブーです』
これは自分のことだな…ハハ…
『あの人、そうは見えないのにね…それに比べたら私はまだ甘いんだなぁ…。でもさあ、一緒にいてもひとりっきりみたいなのさ…なんだか…』
『アキさん?なに話してるんですか?こっちに来てくださいよ』
えっ!ちょっとぉ師匠今、話を振られるのマズイよぉ
『えっ?なに?どうしたんですか?へんなポーズして…えっ?違う?なんですか?はっきり言ってくださいよ』
『あのアノあの…
ちょっと外の空気吸ってきますぅ…
カビ臭くて具合悪いんで…ハハハ
』
いっやぁー師匠のバーたれっ
空気読め
空気
『そうですか?それほど感じませんけど…むしろさわやかな…』
『一緒に行きませんか?話長そうだし…』
『はい…』
ピコピコ…
『あ…
』
『アキさん!あれ?そういえばカメラは、どうしたんですか?』
『あっちゃあぁ…
』
バッテリー生きてたのか…スイッチ切ってなかったみたいだ…
『カメラって…』
『そうだ!アキさんのカメラ見せてもらえますか?あれがまた良いものなんですよ』
『あんたも…? …なの?』
『ははは…
はい…実は…
』
『私をだましたの?』
『いいえ…
決してそういうわけでは…
』
ヤバイ…どうしよう…
『あれ?どうしたんですか?』
『…なにさぁどいつもこいつも廃墟
廃墟
廃墟
って!まともな人間いないの
』
『ちょっと!美玖…?どうした?』
『いやあぁぁぁっっっもう嫌だぁぁぁっ
こんなの耐えられない
』
『待って
どこに行くの
』
ヤバイヤバイことになった…
山の奥の方へ行っちゃった
『あれっ?なにがあったんです?』
『師匠のバカぁっ
』
『マズイ連れ戻さないと
』
彼氏の人はあわてて後を追って走っていった。
『私も行きます
』
『美玖ーっ!おーい!』
見渡す限り人の足跡を感じないフキの海に埋め尽くされた炭鉱跡。
どこへ消えたのか、既に彼女の姿は見えない。
この緑の中に一瞬にして飲み込まれたみたいに…
その真ん中で、彼はただオロオロしていた。
いったい…いったい、どこへ行ったんだろう。
たぶん…ここにいる誰にもここの土地勘はないと思う…。
『はて?なにかマズイこと言いましたか…?』
(つづく)
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