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2008年11月 3日 (月)

Xanadu(ザナドゥ)①

うわぁっ!わああぁぁぁーっ

Dscf2020

思いがけず下からきた風に吹き飛ばされた。
風の背に乗って飛んでいて、わざと雲の中に突っ込んで向こう側へ突き抜けるのを面白がって繰り返していたときに…

ひときわ大きな雲めがけて入ったとき、何かが「ズン!」ぶつかってきた。
あっという間に雲の中を上の方へ向かって飛ばされていく。
飛ばされたというより弾き飛ばされたというほうが感じ!
あまりに急なことだったし、雲の中をきりきり舞いしているうちにどっちが上だか下だかもわからなくなっていた。

Falldownあぁっ!ああああぁぁぁ…

目が回る! 
回りが明るくなって空の青が見えたから雲の外には出たんだろう。
でも、吹き飛ばされた勢いでくるくる回りながら落ちていく!
乗り移れる風を見つけようとしたけど、そんな余裕はなかった…

落ちる! 落ちてく! 落ちちゃう!
スピードはどんどん早くなって、もうどうにもできなかった。

雲にイタズラしたからだなぁ…
あっ森が見える! 落ちるんだ…このまま…

落ちていくというより空に生い茂った森に向かって飛んでいくみたい…。

もうダメーッ!    カズくーん…

Sky1

落ちた─

Nagisaon あれ?…あれれ? なんともないや…確かに落ちたのに…
…そっかぁ私、幽霊だったんだよね…

回りは木でいっぱいだった。
空はちゃーんと頭の上にあって 雲も何事も無かったようにゆっくり流れている。

あーっ…でも、死ぬかと思ったぁ…

Dscf3651まだ すごくドキドキする
それにしても ここはどこだろう? 
たしか森に向かって落ちてきたはずだけど…舗装されてるみたいだけど草が生い茂っていて忘れられた道のようでいて、広場みたいにも思えるところにいる。
近くに小さな家があった…

              ─♪─

なにか聞こえた─ たぶん音楽がそこの家の中からかすかに…
少し楽しい感じのするその音にひかれて、家の方へ行ってみる。

あーっ!

Dance_2

Dscf3690 誰かいる! 男と女の人が踊っていた。
大人で、バリッとしたスーツ姿の男の人と素敵なドレスの女の人。
まるで外国の映画に出てくる人みたいだ。
二人といってもひとつの生き物のように付かず離れずにいるのでそんな風に見える。
大きからず 小さからず 音楽はホールの中に響いてて、外にも漏れ出していた。
その姿に心を奪われて しばらく見とれていた…

Dscf3633

Dscf3613そこは、ホールといっても─
あちこちに誰かの名前や漢字が色とりどりにたくさん書かれてた。
大きいのや小さいの…模様や絵みたいなのもあるけど「キレイ」という感じじゃない。
小さな欠片や白いビーズも床にたくさん散らばってる。
横の壁も穴だらけで…なんだか「戦争があった場所」という感じ…。

そんな荒れ果てたところを
二人は何も気にならないように一糸乱れぬポーズを決めていく。
まるで機械みたいに─
声をかけようと思ったけど、とても口をはさめる雰囲気じゃ…。

Dscf3608

「あら? ちょっと!あの子…」

「うん?」

あっ見つかった!
二人が動きを止めると 音楽も静かに消えていった。

3shot

Dscf3655_2 「どこから来たの?あなた…」

「すいません…空から…」

「空から?」

「落ちて来たんです…」

「フフ… そうなの!いらっしゃい天使さん」

あれ…なんか変なこと言ったかなぁ…

「ここは─ どこですか?」

「あら?知ってて来たんじゃないの? ここは、言うなれば私たちのホテルね」

ホテル…でもこの落書きや、壁に穴があいてたり、ガラスもほとんどなくなっているのは、まるで怪物が大暴れしていった跡みたいだよ…
私がよく泊めてもらう家は、古ぼけて物が散らばっていたりしてもこんなに荒れていることはなかった。
自然に崩れてきたり、嵐に巻き込まれたりとは、ちょっと違うような…

Dscf3499

「ラクガキが気になるのかい? あれは全部ここに来た人がやったんだよ。まだ生きてる人がね。」

やっぱりこの人たちも私と同じなんだ。
少し安心したけど、ここを壊したのが人だって? クマは字を書かないだろうけど…
壊れている壁や窓は、爆弾が破裂したみたいに見えて少し怖い感じもする。
その人たちはここで何をして、なぜ壊していったんだろう。

「私たちがここへ来る前の話だけど─」

Dscf3726

ここは戦後に産炭で栄えた町。
かつては、たくさんの建物…工場や店、病院もあり、鉄道も通じていた。
大きな戦争の後の日本を復興させるためにいろんなところで石炭が掘り出されて経済復興に使われます。
その黒い石が国をよみがえらせる力になったのです。
当然、この炭鉱で働く人たちも小さな国、日本を支える者としての誇りがあった。
しかし、地の底深くまでもぐっての作業は、一方で痛ましい事故により、炭鉱に尽力した多くの尊い人命も失わせることになりました。
でも工夫たちは、国を支えるものとしての心を萎えさせることはありません。
なぜならば、地上の…太陽に照らし出される地上のすばらしさを知っていたのは、誰よりも彼らだったからです。 ここもそんな町でした。

Dscf3771 やがて、時代が変わり石炭は、外国からもっと安価で輸入されるものや他の化石燃料、いわゆる石油にその座を明け渡す時がきたようです。
工夫たちの誇りや町に暮らす人々の願いもむなしく、不採算性を理由に山は次々に閉鎖されて人々も住み慣れた山を去らねばならなくなりました。
山は沈黙し、ひとつの町があっという間に消えていきました。
誰もが夢にも思わなかった故郷が消える日…

Dscf3768 「ここは、もともと町の病院だったそうよ」

「僕の若い時は、ここの噂も聞いていたけどね。今じゃ地図にも載っていないところらしい」

「そうですか…でも、何だか病院っていう感じがしないですね」

「そのころの炭鉱が産業の中で一番栄えていたからね。石炭が日本復興の力になったってこともあるし、いろんな文化もたくさん入ってきたんだね。建物にしても最新式のデザインが。こんな山の中でも文化的だったんだ。」

ふーん そうだったんだ…想像もつかないけど…
炭鉱といえば、よその炭鉱の近くで『石炭』さんにそんな話を聞いたことがあったなぁ…

「今は、石炭も掘らなくなって、人もすっかりいなくなったこんなところが私たち幽霊が泊まるには都合が良かったんだけどね。生きてた頃の習慣で屋根のあるところが落ち着くみたいにさ。…たまに山菜取りや釣りの人が来るくらいで静かなところよ。昔は毎夜、集まった連中で生きているころの話を語りあったものよ。」

Dscf3495

Glas ところが、物好きたちが静まり返ったこの町へ来るようになった。
そんなときは幽霊たちも静かに見守って帰るのを待っていたのだけれど…
もともと根も葉もない噂が静かな町を再び喧騒に巻き込むようになる。
肝試しとか怖いもの知らずを自負する連中が押し寄せて、やりどころの無い力や勇気を建物にぶつけるようになる。

凍てつく冷たい風と温かい日差しをより分けたガラスは1枚残らず粉々に飛び散り
雪や雨から患者を守った壁もこのうえなく凌駕された。
でも建物は中に居るものは全て守り抜くのが定めだというようにジッと耐え忍ぶ。

Dscf6653 「具合の悪いことに、そんなやつらを見かねて懲らしめようとしたのがいたらしいんだ」

「えっ?何をしたんですか?」

「たいしたことではなかったらしいけれど、そのときの連中は、かなり恐怖だったろうね。ところがそれが返って逆効果だったらしいんだ。むしろそんな連中がもっと来るようになった」

「結局、話に尾ひれがついて、ここは「怨念のこもる場所」ってことだそうよ。確かにこもってはいるけどね。人騒がせな連中が頻繁に来るようになったものだから、嫌になって大勢がどこかへ行ってしまったわ。今じゃたまに流れてくるのがいるだけで…あのころは、みんなで夜通し踊ったものだけど、今じゃホントに静かになった…」

Dscf3729

話を聞いていたら何を言えばいいのか分からなくなった…
同じ人間で 体があるかないかの違いでしかないのに、どうしてそんなことになるのだろう。
でも…私も「幽霊」になって人の目が怖くなった。
まだ、自分の体があった頃は「幽霊」の本を読んでいて怖くてビクビクしていたこともあった。
理解できないようで、私にも同じ気持ちはあったんだよね。

「あなたたちは、どうして残ったんですか?」

Dscf3529「私たちには、ダンスがあったもの。このひとと一緒になったころは、仕事だ!子育てだ!って全然心に余裕がなかったけれど定年で引退してから二人で社交ダンスを始めたの。そのころは、もう今みたいに体が動かなかったけれど楽しかったぁ…でもね…」

「ちょっと待ってくれよ。話すのかい?」

「いまさら照れることないじゃない。…このひと病気になっちゃってね…それが思いのほか進んでいたものだから2年で先に逝っちゃったのよ。」

ご主人は、照れるように窓の外を見て黙っていたけど、なんだか落ち着かないみたいだ。

「最後の日に小さな声でやっと言ったの。『向こうで練習してる…。来るのはゆっくりでいい…』ってね。実際わたしが逝ったのはそれから12年も先のことだったけど、ちゃんと迎えにきてくれたわ…」

Dscf3763 「え…?今いくつなんですか?」

「彼は64で、私は76」

え… えぇっ?! …あ、ごめんなさい!

「いいのよ。ホントにおばあちゃんなんだから」

9歳の自分が大人のフリしてて何だけど、ホントにビックリした…

「あなたは何をしてたの?」

いままであったこと 見てきたことを話した。
ただ…私に『生きている人になりすます力』があることは約束もあったので話さないでおいた。

Dscf3705 「ふーん…その男の子には君が幽霊だなんて全然分からなかったんだ…」

「はい…自転車にも乗せてもらったし、手もつなげました…」

「…で、その子と会うことがあなたの夢なのね?」

「はい…?」

そのご夫婦は、お互い見つめ合って不思議そうな顔をしている。
なんだか変な雰囲気…

「今は、お二人だけなんですか…ここ…」

「いや!いるのよ他にも。もっとも滅多に話もしない偏屈ばかりだけど」

「むこうにしたら、こっちも充分変わり者だろうけどね」

「ちょっと…見てきていいですか?」

「もちろん!ここはパブリックさ」

Dscf3632

ホントは見てきたいわけじゃなくて
雰囲気にいたたまれないのを感じたから…

走って逃げたいような気持ちを押し殺しながら
緑に囲まれた病院の下の階へゆっくり下っていった…

(つづく)

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コメント

物語少しずつ見てますが 面白いですよね。
アクアも絵心があったら書いてみたいと思ってはいるんですけど。
イメージはあってもそれを表現できるかできないか

廃墟をテーマに曲でも作りたいですけど 笑

投稿: アクア | 2008年11月 8日 (土) 19時37分

アクアさん ありがとーっ
やってみるとみんなできるもんですよ。
みんな照れちゃうだけでね。
人それぞれ廃墟の感じ方が違うのも面白いし。

投稿: ねこん | 2008年11月 9日 (日) 00時14分

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