コッペリアの柩 ②
誰が見ても一見普通の少女“ナギサ”
帰宅バスに乗り損ねた町の子“ナチ”とたまたま出会いました。
ナギサは、本当はこの世のものではない自分が『生きている人』に化けることが、少し面倒なことにもなるんだと思った。
ところが、その子が「私、幽霊だったよ」言い出したことから会話がチグハグに…それは、ナギサの早とちりだったわけです。『ジゼル』とか『ウィリ』なんて難しい言葉が出てきたものだから…
『ジゼル』解説 『コッペリア』解説 出典:フリー百科事典ウィキペディア
「コッペリアって…?」
「えーっ!.知らないの? そっかぁ!一幕とかの区切りしかやってないのかなぁ。どんなとこだった?」
「うーんと…風に乗ってー、ひとつ目の巨人さんに会ったり…」
「はぁっ?おかしいなぁ…『コッペリア』ってそんなんじゃないよ。ちょっとおいで…」
ナチさんは図書館の中に戻って左右の棚をキョロキョロ見上げながら奥へ向かう。ある棚の前で止まると本の背を指でなぞりながら1冊抜き出してパラパラと…
「これこれ!変わり者の老人が作った自動人形、これがコッペリアで、いつも窓辺で本をよんでるの。…で「ジゼル」っていうのが…」
「あれ、なんの話でしたっけ?」
「バレエの話だよぉ!何だと思った?」
「ナチさんが幽霊だったっていうから…」
「幽霊って役の話だよ!私が幽霊のわけないじゃん!あんただってそうでしょ?」
「あはっ!なんか面白い人だね ナギサって!」
あぁ~私…変人だなこれじゃ…“幽霊”とか言われてつい…
あ…時間…まだ大丈夫か…緊張するなぁ…
それから学校の話をたくさん聞いた。
クラスのこととか担任の先生のこととか…
「家はどのへん?近いの?」
「いや…えーと、少し遠いです…どこっていうのかなぁ」
まさか誰もいない空家とも言えないし…
「まだ住所よかわかんないか…。たまにあるよね。郊外に家を建てたり農家跡の空家を直して入るとこ…そんなん?」
「…うん」 なんだか嘘ばっかりついてるな…私って。
「そんな空家に勝手に入って秘密基地にしてたことがあったよ。ずいぶん前だけどね」
「そういうところ好きなんですか?」
「そうじゃなくてーっ!近所にいた子が、隊長で私を隊員にして探険ごっこしたのさ。『廃墟』とか行ったり、川で泳いだりーとかしてさ…」
そう言うとさっきまで元気だったナチさんは、電池が切れたおもちゃみたいに急に静かになった。
「どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないよ!でも、安心した」
「えっ?」
「ずっと家にいて、ひとりで本を読んでた…っていうからさー。ちょっと心配したけど全然話すじゃん!自閉症なのかと思ったからさ」
そっか…私の事情知らないもんね。でも話すわけにもいかないか…信じられないだろうしね─
「人は人形じゃないから自分に閉じこもってちゃいけないんだよね」
「いや!人形は人形の生き方があるんですよ。自分の生まれた意味も知っているし、動けない自分を呪うこともないんですよ。人形はやっぱり人形でいたいと思ってるし…」
この前会った“ミハルちゃん”のことが頭をよぎって、つい出すぎたことを言った…。 気がつくと、ナチさんが目をまん丸くする。
「ビックリした…」
「すいません!つい…」
「いや…ナギサの言うとおりだよ。私そこまで考えなかったなぁ」
ナチさんはそう言って笑ってた。
なんだか嬉しそうに…
(つづく)
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