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2008年9月 8日 (月)

コッペリアの柩 ①

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「あ~っ!また置いてかれたぁ~っ!んもぉーっ!毎週毎週!」

とある土曜日の午後、部活帰りのバスに乗り遅れた子がひとり。
ここから話は始まります。

Dscf2722 一方、同じ町の図書館。
ずーっと本の虫になっている制服を着た少女がいた。

その子が今回のナギサの姿─

このところ数日、この町に留まってる。
ずーっと風に乗って旅をしてたんだけど図書館を見かけたら久しぶりに本が読みたくなった…
今は、仮の体で誰の目も気にしないでいられるから嬉しい。
郊外の人のいない農家の跡に泊めてもらいながら毎日、図書館の開く時間を心待ちにしている。もう5日位になるかな…

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「毎日いらっしゃいますね。良ければ借り出してご覧になってもよろしいんですよ」

「あ…いえっ!この町のものではないんで…」

「今は町外の方でも管内であれば広域貸し出しが可能なので、よろしければどうぞ」

「あのぉ…ちょっと遠いところで、短い間だけなんですよ…」

Gg084_l一度、図書館の人に声をかけられてから同じ姿で行くのはマズイ!ってことで町の人を観察して、毎回姿を変えていくようにした。
それというのも、今は読みかけの本が面白くて離れられないんだ。
夢中になりすぎて体の限界時間ギリギリであわてて出て行ったこともある。それからは壁の時計の音が聞えるほど近くにいることにした。
でも毎日2回、違う人が同じ本を同じ場所で読んでいるのって変に思われないかなぁ。悪いことしてるわけじゃないからいいか…

ナギサは風に乗って旅する幽霊。その道すがら、大気中に散らばる素(元素)を合成して仮の姿を作る術を身につけた。でもその体は4時間の制限があり、時が過ぎる前に出なければ体は萎縮し「石」になって閉じ込められる危険がある。まだ家に閉じこもって明るい日差しの世界を恐れていた頃にひとり読書にふけっていたことから読書好きになっていたのだろう。
本の魔力が何かの思惑があってナギサをこの町に足止めさせていたのだろうか?

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Nagisa2_3 その日のお昼過ぎ、制服姿の子を見て「午後は、あれでいこう!」ということにした。
うーんと、さっきまでのページはと…

それから10ページくらい読んでいたら
急に背中をドンッと強く押された!

「わっ?!」

「ちょっとー、ミクーっ!図書館なんて、アンタらしくないとこいるじゃんか!」

Monoomoi 思いのほか大きな声だったので貸し出しカウンターの人が一瞬こっちをジロッて見た。
私はイタズラを叱られた子猫みたいに…すごく悪いことをしたような気持がした。うつむきぎみにそーっと後ろを振り向くと…

「あーっ…違う!ごめん!間違えた…」

同じ制服を着て、大きなバッグを肩に背負ったその子は、まん丸な目で私より驚いたみたいに口元を押えてた。

「ごめんね!後ろから見たら友達と思ってさぁ…」

「いえ…いいんです…」

「でも余り見かけない子だね。何年?うちの学校だよね」

マ…マズイ!マズくなってきたよぉ…

「えーと…あの…1年です」

「へーっ同じじゃん!でも知らないなぁ…もしかして転校?」

「は…はい!そうです!転校です

「そっかぁー私、ナチ!あなたは?」

「ナギサ…」

「よろしくね!今日ガッコ来てた?土曜だけど」

「…」

「たぶん転入試験かぁ…私、部活で出てきてたんだけど、それがさぁ─」

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「雑談はロビーの方でお願いします─」

彼女の大きな声で、カウンターの人に注意された。

はーい!すいませーん! ねぇ時間あるしょ?友達になるんだから付き合ってよ。バスに乗り損ねて2時間くらいヒマでさぁ~」

「は…はい…」 やれやれ困ったことになったぞ…
読みかけの『ダレン・シャン』がぁ…
逃げれば良かったかな…でも普通なら逃げる理由ないし─

「私、バレー部なのさぁ 今日も部活でね」

「バレーボール?」

「うんそう!それがさぁ私、小学校の時バレエやってた時があってね。それをどこで聞いたんだか『経験者なら入れ!』って顧問が話も聞かないでさぁ…全然違うのに」

「はぁっ?」

「あんね!わかんない?私がやってたのは“バレエ”バレーボールじゃないの。わかる?」

「あ…ああっ!わかります!」

「そんで無理矢理やらされてさーっ『何だ全然じゃないか!』ってことになったのさ!ところが、訳を知っても辞めさせてくれなかったわけよ!『お前は身長があるから向いてる』って褒め言葉にもなんないよ!」

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「ハハハ…へーっ、バレエをやってたんですか。お姉さん…」

「お姉さん?あれ!同じ歳じゃないの?」

「同じ!同じです!大人っぽいからつい…

「私も嫌なら辞めれば良かったんだけどね。ズルズルとさ…」

Hd088_350a「バレエってどんなのをやったんですか?」

「いやーっそんなにやってなかったよ。3年も続かなかったから…発表会の『ジゼル』で役をもらったのさ。私、幽霊だったんだよ」

「ええっ?!そうなんですか?」 それは意外だったなぁ…私と同じ人がいるんだぁ

「うん 暗い森に住む精霊…」

「実は…私もそうなんです」

「えっそうなの!奇遇だね。…で、何?ジゼルとかミルタとか他のウィリとか…」

「へ…?いや…私こっちへ来るまでは、ひとりで家にいてずーっと本ばっかり読んでたから…」

「え…?なんか違うんじゃない?それって『コッペリア』じゃないの?」

『コッペ…』?何それ。あ~っなんだか頭が混乱してきた…

(つづく)

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