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2008年9月24日 (水)

廃墟画廊

Dscf3129

ホント言うと Uターンするのが すごく苦手。

できないわけじゃないけど 前に道が続いているのに引き返すのがもったいない…と思う。

だから行けるところまで行ってみて
適当な脇道から本道に戻ろうと考えるんですよ。

Dscf3141

でも 

いけども脇道が見つからなくて、とんでもないところに行き着くこともある。

『地図では国道へ戻る脇道があるんだよね…』

ナビなんて持ってないし 持ってる地図は8年位前の…
 「これ以上、行ってもダメだ~ ってところまで行って
やむなく引き返した。

Dscf3106 

だけど

戻るんじゃなく 引き返す自分ってのが許せなくて
途中見つけた脇道さらに紛れ込んだ。
ずーっと山の間を縫う舗装道だったからダイジョウブ ということで…

ところが徐々に舗装と砂利が交互して
そのうち工事を途中で放棄したみたいなところへ出て
きれいな舗装とは えらく様子が変わってきた。
路面は雨に洗われて凸凹
土のうまで路面に散乱してる。

Dscf3142「ここどこだろ?スタックしてもJAF呼べないよ…

…と半分泣きの入ったところで遠くの林に赤い屋根が…。
近くまで行ってみると林に埋もれてて 見るからに廃墟っぽい。
でも人里のいたるところへ出たってことで一安心。
『国道まで●㎞』の表示も見つけた。

 

とりあえず

あの赤い屋根を 今日最初の訪問ということで…
近づいてみると学校のようです。
手前に地区会館(地域公民館)があってますます学校跡っぽいな。
そこまでは笹ヤブが少し続くので 装備を最小限にして いざ!

Dscf3109校舎らしきものは少し山側へ高くなっているので
手前のここは どうやらグラウンドというところでしょう。
向こう側に『お墓』のようなものがある。
行ってみると平成7年建立の馬頭観音らしい
しかし 既成の墓石に篆刻したものみたいだし
形はあきらかに『お墓』

その碑を横目に校舎を目指す。
今年は何度か「ササダニ」に食いつかれたので
正直 笹ヤブは苦手だよ~

近くまで行くとやはり学校
それも わりと近代的な体育館のようです。
回りに校舎は見当たらないので 体育館以外は解体らしいです。

Dscf3130

バタバタバタ…

Dscf3126 入ると同時にハトが数羽飛んでった。建物の向こう側から…
そう その先は建物が角から崩落して青空が覗いている。
う~ん、こういうところを見つけるのはハトの方が断然早い。

中は農具の倉庫に使われていたらしく工具や機械が数点置かれている。
でも落葉松の木や笹に囲まれているくらいだから今は使われていないんだろう…
学校の面影としては 生徒用のイスがいくつか投げ出されていた。
記憶は刻まれてやしないかと壁を食い入るようにたどる。
当時の傷らしきものは見えるけど落書きの文字とかは確認できなかった。

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Dscf3118 でもそこに

1枚の絵があるんだ。
朽ち始めた合板に描かれた卒業記念らしい絵が…
シカとウサギ 故郷の山々
こんな風に朽ち果てる定めなら 作者達にとって描くことが空しい
今や 朽ちかけた画廊はこの1枚絵だけを掲げ、終の日まで営業し続ける。

Dscf3138 だがしかし

もう1枚絵があったんだ。
天井から大きく崩れ落ちてぽっかりと開いた壁の向こう
広がる空と緑の絵が…
夏の空 青みがかった雲が流れて
濃いブルーの空が穴のように見える。

なんとなく思った。
バチカン宮殿・システィーナ礼拝堂の天井壁画で
ミケランジェロ「最後の審判」ってのを思い出した。
あの背景も 青空っぽかったね。
神の鉄槌は 天変地異を伴うんじゃなくて
意外とこんな青空の下に振り下ろされるのかもしれないよ。

Dscf3135閉校記念品として保存されるべきだった校旗が寂しく取り残されてた。
真っ赤な 血のような赤 命の色

そして 暖かい色

ミケランジェロ/『最後の審判』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 

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2008年9月19日 (金)

コッペリアの柩 ③

Dic1

「表に行こ!なんか、にらまれてるから」

私もつい大きな声を出したものだからカウンターの係の人が気になるみたいで、こっちをチョロっと見ていた。
昼過ぎとはいえ、太陽はまだ高い。底を平らにした夏の雲がゆっくり流れていく。

Balet_2 「…で、どうして辞めちゃったんですか?バレエ…」

「え…その話?…聞きたい?」

ナチさんの表情がちょっとこわばった…マズイこと聞いたかな

Dscf2382「いえっ無理には…」

「別にいいよ。近所に住んでた男の子に『気持悪い』って言われてね頭の中が真っ白になっちゃったんだ。…で、その日のうちに『辞める!』って…『習いたい!』って言ったのも自分だったけど」

「そうだったんですか…すいません」

「いいのいいの!男の子には理解できないんだろうからさ。いつもいっしょに遊んでた子なんだけど、頭はともかくスポーツ万能でさ、特に泳ぎなんか信じらんないくらい凄かったよ。私、劣等感感じてたんだよね。そんでバレエ始めたんかなぁ…あの頃、ただ憧れてて考えなかったけど、認めて欲しかったのかなぁ…自分もできることがあるって」

「残念ですね…」 どうもうまく言葉が出ない…

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「それがさ!結果的には見せたんだよ。うちの近くで良く探検した廃校でね。衣装も無しの1対1で。」

Dscf4968 「そうなんですか?!」

「うん!感動してくれたよ。でもねー引っ越しちゃったんだ。その後すぐに遠いとこへ…」

「…」

「それで終わり!バレエも探険も」

そう言いつつナチさんは、何かを思い出してるみたいだった…言葉を出せない静かな時間

「あっそうだ!バスの時間だ!ごめん!もう行かなきゃ!ごめんね、つき合わせて…」

「いえっ!私こそ色々教えてもらって…」

「じゃねーっ学校で会おうねーっ!私、A組だからーっ」

Nagisa_nail2 大きいスポーツバッグを肩に背負ってナチさんは駆けていった。時折振り返って手を振りながら…
振り返す私の手をふと見ると爪が緑色に変わってきていた。

もう時間だ…

このところ居候していた家の畜舎の屋根裏でずーっと今日のことを考えてた。

「友達か…でも学校にはいけないよなぁ」

結局ズーッと嘘を付きとおしてしまった。
本当のことなんて何ひとつ言えなかったけど…言っても信じてもらえないだろうけどさ…

Dre とりあえず、明日の朝が来たらこの町は離れることにした。
読みかけだった「ダレン・シャン」は残念だけど、またいつかよそで読むことにしよう。

誰にもホントの気持を出せないまま本を読みふけっている私は確かに『コッペリア』と同じなのかもしれないね。
でもバレエのように華やかにはなれないんだろうね。私は…

…うーん、ダメだ! こんな考え方!

できることならホントの友達になりたいね。ナチさん…

西日がドアの隙間から差し込んで薄暗かったここが一瞬舞台のように輝きだした。…バレエは良くわからないけど光の中で踊ってみる。こんな感じかなぁ…。でもモヤモヤした気持ちがなんだか薄れていくようだった…

Nagisa_ballet2

Pfa023 「ねぇーっフジタぁーっ」

「あのなぁ新井!俺は担任であって友達じゃないんだぞ?そういう呼び方はやめてくれ!」

「えーっ?なにカッコつけてるのさぁ!フジタはフジタじゃないさ!」

「…それでなんだ?」

「そうそう!うちらの学年に転校生来るっしょ?いつから来るんだろ」

「いや、そういう話は聞いてないぞ」

「いるよぉ!昨日会ったもぉ図書館で!もう制服だって着てたしぃ!」

「いないって!お前、数学の時居眠りしてたろ?俺の授業中に夢見ないでくれよ…もう部活の時間だろ?ほどほどにがんばれよ」

「えーっどうなってんのさ?ナギサぁ…確かに会ったよねぇ…?」

Kumo

その頃 ナギサは、風の上
雲の間を飛びながら後ろ髪引かれる想いを押さえ込んでいた…

このふたりが再び出会う日のお話は
また次の機会に

Youtube/ALI PROJECT「コッペリアの柩」

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2008年9月12日 (金)

コッペリアの柩 ②

Ruin_sky

Nagisa_down誰が見ても一見普通の少女“ナギサ”
帰宅バスに乗り損ねた町の子“ナチ”とたまたま出会いました。
ナギサは、本当はこの世のものではない自分が『生きている人』に化けることが、少し面倒なことにもなるんだと思った。

ところが、その子が「私、幽霊だったよ」言い出したことから会話がチグハグに…それは、ナギサの早とちりだったわけです。『ジゼル』とか『ウィリ』なんて難しい言葉が出てきたものだから…

『ジゼル』解説 『コッペリア』解説 出典:フリー百科事典ウィキペディア

「コッペリアって…?」

「えーっ!.知らないの? そっかぁ!一幕とかの区切りしかやってないのかなぁ。どんなとこだった?」

「うーんと…風に乗ってー、ひとつ目の巨人さんに会ったり…」

「はぁっ?おかしいなぁ…『コッペリア』ってそんなんじゃないよ。ちょっとおいで…」

Coppelia_2 ナチさんは図書館の中に戻って左右の棚をキョロキョロ見上げながら奥へ向かう。ある棚の前で止まると本の背を指でなぞりながら1冊抜き出してパラパラと…

「これこれ!変わり者の老人が作った自動人形、これがコッペリアで、いつも窓辺で本をよんでるの。…で「ジゼル」っていうのが…」

「あれ、なんの話でしたっけ?」

「バレエの話だよぉ!何だと思った?」

「ナチさんが幽霊だったっていうから…」

「幽霊って役の話だよ!私が幽霊のわけないじゃん!あんただってそうでしょ?」

Nagisanachi_2「はい!生きてます。私!幽霊じゃないです!」

「あはっ!なんか面白い人だね ナギサって!」

あぁ~私…変人だなこれじゃ…“幽霊”とか言われてつい…
あ…時間…まだ大丈夫か…緊張するなぁ…
それから学校の話をたくさん聞いた。
クラスのこととか担任の先生のこととか…

「家はどのへん?近いの?」

Win

「いや…えーと、少し遠いです…どこっていうのかなぁ」

まさか誰もいない空家とも言えないし

「まだ住所よかわかんないか…。たまにあるよね。郊外に家を建てたり農家跡の空家を直して入るとこ…そんなん?」

「…うん」 なんだか嘘ばっかりついてるな…私って。

Dscf6574_3 「そんな空家に勝手に入って秘密基地にしてたことがあったよ。ずいぶん前だけどね」

「そういうところ好きなんですか?」

「そうじゃなくてーっ!近所にいた子が、隊長で私を隊員にして探険ごっこしたのさ。『廃墟』とか行ったり、川で泳いだりーとかしてさ…」

Ruin

そう言うとさっきまで元気だったナチさんは、電池が切れたおもちゃみたいに急に静かになった。

「どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないよ!でも、安心した」

「えっ?」

「ずっと家にいて、ひとりで本を読んでた…っていうからさー。ちょっと心配したけど全然話すじゃん!自閉症なのかと思ったからさ」

そっか…私の事情知らないもんね。でも話すわけにもいかないか…信じられないだろうしね─

「人は人形じゃないから自分に閉じこもってちゃいけないんだよね」

「いや!人形は人形の生き方があるんですよ。自分の生まれた意味も知っているし、動けない自分を呪うこともないんですよ。人形はやっぱり人形でいたいと思ってるし…」

Dscf1582 この前会った“ミハルちゃん”のことが頭をよぎって、つい出すぎたことを言った…。 気がつくと、ナチさんが目をまん丸くする。

「ビックリした…」

「すいません!つい…」

「いや…ナギサの言うとおりだよ。私そこまで考えなかったなぁ」

ナチさんはそう言って笑ってた。
なんだか嬉しそうに…

(つづく)

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2008年9月 8日 (月)

コッペリアの柩 ①

Bus

「あ~っ!また置いてかれたぁ~っ!んもぉーっ!毎週毎週!」

とある土曜日の午後、部活帰りのバスに乗り遅れた子がひとり。
ここから話は始まります。

Dscf2722 一方、同じ町の図書館。
ずーっと本の虫になっている制服を着た少女がいた。

その子が今回のナギサの姿─

このところ数日、この町に留まってる。
ずーっと風に乗って旅をしてたんだけど図書館を見かけたら久しぶりに本が読みたくなった…
今は、仮の体で誰の目も気にしないでいられるから嬉しい。
郊外の人のいない農家の跡に泊めてもらいながら毎日、図書館の開く時間を心待ちにしている。もう5日位になるかな…

Cop_top

「毎日いらっしゃいますね。良ければ借り出してご覧になってもよろしいんですよ」

「あ…いえっ!この町のものではないんで…」

「今は町外の方でも管内であれば広域貸し出しが可能なので、よろしければどうぞ」

「あのぉ…ちょっと遠いところで、短い間だけなんですよ…」

Gg084_l一度、図書館の人に声をかけられてから同じ姿で行くのはマズイ!ってことで町の人を観察して、毎回姿を変えていくようにした。
それというのも、今は読みかけの本が面白くて離れられないんだ。
夢中になりすぎて体の限界時間ギリギリであわてて出て行ったこともある。それからは壁の時計の音が聞えるほど近くにいることにした。
でも毎日2回、違う人が同じ本を同じ場所で読んでいるのって変に思われないかなぁ。悪いことしてるわけじゃないからいいか…

ナギサは風に乗って旅する幽霊。その道すがら、大気中に散らばる素(元素)を合成して仮の姿を作る術を身につけた。でもその体は4時間の制限があり、時が過ぎる前に出なければ体は萎縮し「石」になって閉じ込められる危険がある。まだ家に閉じこもって明るい日差しの世界を恐れていた頃にひとり読書にふけっていたことから読書好きになっていたのだろう。
本の魔力が何かの思惑があってナギサをこの町に足止めさせていたのだろうか?

Dscf1970

Nagisa2_3 その日のお昼過ぎ、制服姿の子を見て「午後は、あれでいこう!」ということにした。
うーんと、さっきまでのページはと…

それから10ページくらい読んでいたら
急に背中をドンッと強く押された!

「わっ?!」

「ちょっとー、ミクーっ!図書館なんて、アンタらしくないとこいるじゃんか!」

Monoomoi 思いのほか大きな声だったので貸し出しカウンターの人が一瞬こっちをジロッて見た。
私はイタズラを叱られた子猫みたいに…すごく悪いことをしたような気持がした。うつむきぎみにそーっと後ろを振り向くと…

「あーっ…違う!ごめん!間違えた…」

同じ制服を着て、大きなバッグを肩に背負ったその子は、まん丸な目で私より驚いたみたいに口元を押えてた。

「ごめんね!後ろから見たら友達と思ってさぁ…」

「いえ…いいんです…」

「でも余り見かけない子だね。何年?うちの学校だよね」

マ…マズイ!マズくなってきたよぉ…

「えーと…あの…1年です」

「へーっ同じじゃん!でも知らないなぁ…もしかして転校?」

「は…はい!そうです!転校です

「そっかぁー私、ナチ!あなたは?」

「ナギサ…」

「よろしくね!今日ガッコ来てた?土曜だけど」

「…」

「たぶん転入試験かぁ…私、部活で出てきてたんだけど、それがさぁ─」

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「雑談はロビーの方でお願いします─」

彼女の大きな声で、カウンターの人に注意された。

はーい!すいませーん! ねぇ時間あるしょ?友達になるんだから付き合ってよ。バスに乗り損ねて2時間くらいヒマでさぁ~」

「は…はい…」 やれやれ困ったことになったぞ…
読みかけの『ダレン・シャン』がぁ…
逃げれば良かったかな…でも普通なら逃げる理由ないし─

「私、バレー部なのさぁ 今日も部活でね」

「バレーボール?」

「うんそう!それがさぁ私、小学校の時バレエやってた時があってね。それをどこで聞いたんだか『経験者なら入れ!』って顧問が話も聞かないでさぁ…全然違うのに」

「はぁっ?」

「あんね!わかんない?私がやってたのは“バレエ”バレーボールじゃないの。わかる?」

「あ…ああっ!わかります!」

「そんで無理矢理やらされてさーっ『何だ全然じゃないか!』ってことになったのさ!ところが、訳を知っても辞めさせてくれなかったわけよ!『お前は身長があるから向いてる』って褒め言葉にもなんないよ!」

Hd084_350a

「ハハハ…へーっ、バレエをやってたんですか。お姉さん…」

「お姉さん?あれ!同じ歳じゃないの?」

「同じ!同じです!大人っぽいからつい…

「私も嫌なら辞めれば良かったんだけどね。ズルズルとさ…」

Hd088_350a「バレエってどんなのをやったんですか?」

「いやーっそんなにやってなかったよ。3年も続かなかったから…発表会の『ジゼル』で役をもらったのさ。私、幽霊だったんだよ」

「ええっ?!そうなんですか?」 それは意外だったなぁ…私と同じ人がいるんだぁ

「うん 暗い森に住む精霊…」

「実は…私もそうなんです」

「えっそうなの!奇遇だね。…で、何?ジゼルとかミルタとか他のウィリとか…」

「へ…?いや…私こっちへ来るまでは、ひとりで家にいてずーっと本ばっかり読んでたから…」

「え…?なんか違うんじゃない?それって『コッペリア』じゃないの?」

『コッペ…』?何それ。あ~っなんだか頭が混乱してきた…

(つづく)

YouTube『ジゼル』   YouTube『コッペリア』

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2008年9月 3日 (水)

廃墟淑女

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昔の人で ツィッギーとイーディは同じ人だと勘違いしていた。
ふたりともモデルだったからね。

ふたりの大きな違いは
ツィッギーは自分を探し イーディは自分を開放したってところ
そんな印象を持っている

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Dscf8536 雑然として節度をなくした木々が生い茂る林の中に何かが見えた。
回りは整備された土地なのに ここだけがモラルを欠いたように空気感がことなっている。
きれいに整備された舗装道から一歩入ると、もう膝上の雑草が絡み付いてつま先が見えない。

マムシでも踏んじゃったらどうしよう…音速で逃げるしかないよね。

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Dscf8455 程なく廃車が目に入り 庭が雑木になったか雑木林に家があるのかわからないところに家が現れてきた。
平屋で木造モルタルの淡いピンクの壁。
道から家へ続いていた道は、笹に塗りつぶされて人がいたことも感じられないほどです。
窓はあちこち破損していてるけど 人がやったのか朽ち枝の仕業かは、既に分からない。
人が消えると家は、これほどまでに変わるんだと実感する。

家は人と共に生きている。
この家自体は今でも同じ形の借家が見られるくらいだから特に珍しいほどではないけれどここにはまだ人が住んでいた。

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Lady 人というのは間違いだ。正確には人形。その姿にツィッギーかイーデイの印象の見とれる彼女は、この家のプラスチック製のベッドの中で静かに眠り続けていた。
床も落ちて 廃れが極みに入り始めたところだけど彼女にとって安らぎの家。

しばし、外の空気を吸ってもらった。
長い年月眠っていたとはいえ、一糸乱れぬ凛とした姿はモダンながらも気品に満ちている。
このあたりは一帯でも田園風景の広がるところで、かつては稲作も広く営まれていたけれど今、その面影は道端に時折見える水門しかない。

Dscf8506水田はやがて畑に転用されていったいったけれど、冠水させなければならない田と、冠水してはならない畑。同じような実りの園でも本質は異なっている。畑に転用するためには暗渠排水などの整備が必要になります。
時代は米余りから減反政策に転じて収穫のできない田んぼは、どんどん畑に変わっていきました。

でも、中には違う道へ行く家も─
この家がそうであったように養魚業が各所で営まれていきました。
養魚の盛んなところは意外と湧水も豊富で、廃墟となって数十年が経過したような家でも裏の水槽脇のバルブからは清水がコンコンと湧き続けています。
『廃墟』といえば「衰退」とか「滅び」とか「死」とかマイナスな印象が付きまとうのに生命の象徴のように命の源である『水』が弛まなく躍動し続けているのは『廃』は人の世だけのことなんだと思います。

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Dscf8496 うっそうとした木々は、雑然としながらも生命力にあふれている。
あたかもこの家で眠る彼女が『いばら姫』であるかのように…

眠りに着く前、ここはどんなところだったのだろうか?
彼女の口から枯れススキに埋もれた庭の在りし姿は聞かれなかったけれど、たくさんの人が訪れて釣り糸を垂れて漁の成果を楽しんでいたことでしょう。

Dscf8469 『廃』は人の世界だけのことです。
鳥や虫や獣たちには耳障りな喧騒の過ぎ去ったオアシスなのかもしれません。人が忌み嫌うところで小鳥がさえずり、リスが木々を渡り、蝶は野に還った庭でこぼれ種から生じた花を渡り飛ぶ。
そんなところに忌まわしい、汚らわしい伝説を作るのは、そのパラダイスに近づかんとする人を戒めるある意味優しさの面もあるのかもしれません。

この家の淑女には、またしばらく眠りについていただきました。
彼女がこのパラダイスを守る女神であるかもしれないからです。

だから、これ以上、無用に人の目には晒さないでおきましょう。

Dscf8516

ツィッギーは『未来』を見つめ イーディは『今』を認めた
ツィッギーは輝きを探し イーディは輝きを留めた

ふたりの探したものは同じ
『廃墟淑女』は、その二人どちらでもある

ツィッギー(Twiggy)
イーディ・セジヴィック(Edie Sedgwisk)  (出典:フリー百科事典ウィキペディア)

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