あなたがここにいてほしい①
「彼氏とケンカでもしたんでしょ?」
「えっ?! どうしてですか?」
「だってさ…近くに家もないし…なんだか、この辺の人っぽくないしさ。この辺じゃ人が歩ってることなんかないし、夜だったら幽霊かと思っちゃうよ。バッグも持ってないから、ケンカして彼氏の車から降りてきたんじゃないのかなーって…」
えーっ?そんなに変なのかなぁ…私、普通の人に見えない?
この服、かわいいと思ったんだけど…
あの丘の家を出てからは、風に乗れないから、ずーっと歩いてきた。クマには会わないですんだのは良かったけど…
空の上にいるときは全然気にしてなかった道がすごく長く感じたし、慣れない体の重さも感じていたからすぐにくたびれてきた。
なんとか大きい道まで来て、車が横を走りぬけるのに怯えながら歩いていると大きなトラックが私の横にゆっくり止まって─
「どこまでいくの?港まで走るけど乗るかい?」
正直、助かったーって思った。
「ハハ… そうなんですよ。実は…
」
「心配してんじゃないの?彼氏、探してるかもよ」
「はい… いえっ!大丈夫ですよ」
「それにしても近頃の娘(こ)っていうのは、すごいねー。爪の色とか…オッちゃんの世代じゃ信じらんない色だよねぇ」
「えっ!!」
あわてて手を見た。あ…いつの間にか爪が緑色になっている!
さっき見たときは、どっちかというとピンク色だったのに!
─爪が緑色になったら体の外にでなければならない。緑が濃い茶色になったら時間切れだ─
もう、そんなに時間が経ってたんだ。ずいぶん長いこと歩いていたから…
「すいません!ここで降ろしてください!」
「あぁっ?ここで?まだ近くの街もしばらくあるよ」
「ごめんなさい!大事なこと思い出したんです!」
プシューッ
空気が勢い良く抜ける音を出しながらトラックは大きな体をゆっくりと止めた。
「ホントに大丈夫かい?街まで、まだ5キロくらいあるよ」
「すいません!助かりました。ありがとうございます!」
バタン!
お礼もそこそこに車から飛び降りて脇道をさかのぼって走り出す。
肩越しに振り向くとまだトラックのおじさんがキョトンとした顔でこっちを見ていた。変なヤツだと思うだろうな…絶対思ってる!
お願い!早く行って!見られるわけにいかないの…
あ…さっきより爪の色が濃くなったような気がする!
まずいよ…回りを見回すと、身を隠せるようなところが見つからない。
道はまだしばらく真っ直ぐだった。
「もうダメ!ダメ!間に合わない!」
もう一度振り返ると ─あっ行った!今しかない!
中からこの体に力を込めて一気にはねのける
パー…ン
かすかだけど 乾いた 花火みたいな音がして カラダが光の粒になって飛び散って消えていった
─さよなら さっきまでの私…─
「えぇっ?なんなのこの人?!」
「え…今の声…見られた? トホホ…先行き悪いなぁ…
」
体が消えたから今はもう見えてないよね… そーっと声のした方を振り返ると…あれ?誰もいない…気のせいだった?
「この人なんだかユラユラしてるーっ!エーッなにぃ?」
やっぱりいる!えっどこ?私には見えない…見えるのは何事もなかったように通り過ぎていく車とか何かの看板とか…何かの工事道具置場…その横に片手を上げた黄色い服の子どものお人形くらいしか…
─お人形ー?─
そっか!このお人形が話してたんだ。そうだよね!
そんな気がして、そのお人形の方へ近づいてみた…
「あっ!こっちに来た!」
やっぱりそうだ!このお人形が話してる!
姿勢正しく片手を上げてジッと空を見ているけど、ココロは私のほうに向いてる。
「こんにちは!」
「えっ?あなた私の声が聞こえるの?」
「うん!聞えるよ!ごめんね驚かせて…」
「あなたって…人間じゃないの?」
えーっ変なこと聞かれたなぁ… でも人間…じゃないか…
「私、ナギサ 幽霊なの。あなたは?」
「わたし…ミハル 子ども達のために車を見張ってるの」
「…子ども達?ここに子どもが来るの?近くに学校は、ないみたいだけど…」
「前はいたの…この道のもっと先で、ずっと前だけど。私も知らない昔は街もあったそうだよ。今はここで時々トラックの出入りを見てるの。車を見張るのが私の仕事だから」
見えるところには学校があったようなところには見えない。ここ以外には草原や点々とした木立、遠くに山が見えるくらいで、さっきのトラックのおじさんが言っていたとおり人が歩いていそうにないところだ。
「あなた…さっきは大人の人だったのに今は、どうして変わっちゃってるの?」
「ヒミツ…守れる?」 (私も軽いなぁと思うけど言ってもいいよね)
「うん!」
「私、自分の体がなくなっちゃって、ずっとこんな感じだったんだけど、人間そっくりの体を作って中に入ってるの。さっきまでのがそうなんだけど、中にいられる時間が短いんだよね。ホントは小学3年生だけど…そのときからずーっと3年生だけどね」
「あ…ごめん…」
「あーそういう意味じゃないの。わたし子ども達のいるところにいたかったけど、自分じゃ動けないし…だからいいなぁーって思ったの。わたし、立っているために生まれた人形だから。毎朝、お友達が『おはよう!』って言ってくれるのが嬉しかったけど…」
そっかぁ…自分のいたい所に行けなかったんだ。かわいそうだなぁ…
「私が何とかしてみようか?」
「そんなことできるの?わたしホントはすごく重いんだよ。大人の男の人でもやっとだから…。風の強い日でも倒れないように重くなってるんだけど」
自分から言い出しておいて…よわった。
そんなに重いんじゃ、もう一度体を合成しても運べないかな…さっきのおじさんも近くの街まで5キロあるって言ってたんだな…
でも、話を聞いて「さよなら」とも言えなくなっちゃったなぁ…
へぇーっかわいい手 色白だなぁ…
あれ?なんだこれ?
あれれ?どんどん出てくるー
その子自身である人形は、そのまま立っていた。
私がいま手をつないだ子は…
「あ…あのーっ 私、中身を引っぱり出しちゃったみたい…」
(後編へ)
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コメント
ストーリーに乗せて、被写体を紹介していくスタイルの記事と言うことでいいのかな? とてもいいですね(^^
白いシルエットは、手書きなんですか?
後編では、サプライズとかあるのかな? たのしみにしてます。
投稿: Show-G | 2008年8月17日 (日) 21時59分
show-G様 始めまして
この「あなたがここにいてほしい」はカテゴリ『ナギサ・フライト』のひとつで、お察しのとおり“廃墟”をストーリーで語る感じのお話です。
単発式に繋がっていくので、やや説明不足なのですが毎回あらすじを立てるのも何だと思い、左欄に説明用のフォト・アルバムを設けました。良かったら見てください。
以前から“廃墟”を「廃墟を内面的に語りたい」「廃墟に語らせてみたい」という想いがあり、プロトタイプ的にストーリー仕立ての話を作ってきました。
そのひとつで「幽霊少女ナギサ」のお話を作ってから、この子を使うと話に深さを出せる気がして拡大しているところです。文章で人様を感動させるほど技量はないと思いますし、後から甘い文だな~って思うこともあります。
ただ、書いていくうちにこの創作の存在が自分のパートナーであり、最愛の娘にも思えています。
始めは撮った写真に話を乗せていくつくりでしたが、ナギサの立つ空間も意識して撮るようになりました。
ナギサ自信の造形はシルエット素材やフリーライセンス素材を使っています。
合成はチャチですけどその程度の技術なのでお許しおき下さい。
大それた想いですが、飽和状態な「廃墟界」に新しいものを出せたなら本望で、あわよくばこの世界を「サブカルチャー」というくくりから引き上げられればと思っています。
show-G様との出会いも大切にしたいです。
以後お見知りおきをお願いいたします。
ねこん 8月17日 23:32
投稿: ねこん | 2008年8月17日 (日) 23時24分
お久しぶりです、いつも更新楽しみにしております。
みはるちゃんは随分と中身も(魂?)小さな女の子みたいですね。
早く続きが気になる所ですが
ねこんさまはお怪我をなされたようで…
どうぞご自愛くださいませ。
投稿: おおもり | 2008年8月20日 (水) 13時48分
大まかに完成してるんですが、愛娘の姿が気に入らないといじりすぎて時間かけてます。
技量もないのにねーってところです。
言えてるーっ(ナギサ)
投稿: ねこん | 2008年8月20日 (水) 13時55分