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2008年8月29日 (金)

初恋のひと

そよかぜみたいにしのぶ あの人はもう
私の事など みんな忘れたかしら…

Dscf8197

自分のルーツはどこだろう…
北海道に生まれたけれど数代前のご先祖様は北海道の人じゃない

Dscf8189 最果ての地での旗揚げ
開拓使に入ったりして一念発起の旅。
今風に言うならフロンティアスピリッツ?
この地に夢を馳せてか、またはやむなくという事情もあったかもしれない。
いまでこそ飛行機で数時間、さらに車で数時間。
それにしたって、その日のうちに到着できる旅。
でも蝦夷地が未曾有の資源の宝庫だった頃には、そうそうできた旅ではない。この地に渡ったご先祖様のほとんどは、故郷に戻ることのかなわない片道切符の旅になっただろう。

Dscf8175

Dscf8190 時折、自分の北海道以前のルーツをたどって家系図を完成させた人が新聞に載っていたりする。個人の出来事だけど、それほど難しい作業ということなんだろう。
時が重なるごとに難しくなっていく過去の検索作業。
なにもそこまで調べようとは思わないけれど、やはり自分の生まれる前の過去は気になる。

Dscf8184 経験したことなら記憶の中には残っているんだ。
ただ、それを証明する物は自分のことでも意外に失われていて、1冊のアルバムだけが時の断片を知らせる。
ほとんど塗り替えて ほとんど作り変えられた。
幸いかな、ひとり立ちするまでは家にいたし農業という家業の都合、故郷は今でもそこにある。
そうではない、例えば引越しの多かった家の事情や離農などで故郷を離れた場合は、記憶を紐解くときに何を想うのか…

Dscf8193

家は記憶する
壁が黒ずむごとに 風が窓ガラスをカタカタ鳴らすごとに
主が「家族」の冠である『家』をおいてその地を去ったあとも再び迎え入れるかのように「思い出」を内包して立ち続けるのか
自らの終の日まで…

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Dscf8169 在りし日の庭の風景は緑が大げさになり家よりも低かった木々はうっそうと自己主張する中、家は相変わらず存在し続けた。
変わったのは、この地におよそ不似合いな舗装道路だけ─

「どこへ 行っちゃったの?」

「いつ 帰ってくるの?」

Dscf8166 家はもちろん言わないし 吹く風も何も教えてはくれない

そんな家に自分が招かれうるかは分からないけれど、あえて訪れてみる。
家は意外と容易く記憶の断片を語りだした。
それは自分の記憶とは異なるものだけど、他人の記憶に浸っているような気分になる。
ちょうど人の心に入り込んだような─そんな感じ
こういう感覚は歴史的建造物からでも得られないと思う。
自分からあまりにもかけ離れてるからかな…

Dscf8168 見上げると壁に一際鮮やかな背景の往年のアイドルの写真が…
雑誌から丁寧に切り抜いて、別な台紙に貼り付けてあり手が込んでいる。
止めてあったステープラーの歯は既に錆びついて虫みたいになってた。

なんていう人かな?

「あー…たしか小川知子だよ」

画像を見せた人が知っていて、へーっ…ていうか良く知らない。そっち方面が疎いので…
詳しい芸能活動やディスコグラフィーは他所の方が詳しいので触れませんが、ここはその時代を残したまま30年以上の時を超えてきたんだと思うと
状況を残したまま地の上に在るタイムカプセルのようです。無造作に伸びていった木立が陽をさえぎって昔の色もさほど褪せさせることなく。
ここは時代の差はあるとはいえ、当時の若者の部屋の様相。
夢を馳せた部屋 憧れが目くるめく六畳間。
アイドル 車 音楽─  夢は部屋の形いっぱいに広がるんだ。

Dscf8186

故郷に帰ることのない引越しは、したことがないからわからないけど、
思い出すことはあるのだろうか?
この家のこと この部屋のこと おぼろげな日々のこと…

家は想うだろうか こんなことを 帰ってこない家族のことを

そよかぜみたいにしのぶ あの人はもう

私の事など みんな忘れたかしら…

(詩/有馬美恵子 歌/小川知子 『初恋のひと』より)

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2008年8月25日 (月)

骸の道

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道が変わり続ける
回りの風景とひとつになってどこまでも続く
いつも変わり続ける道を通り抜けるだけだから
いつも変わった事に気がつかない

Dscf9219道は覚えるのか 景色で覚えるのか 
雑草が並木みたいに育った誰も歩かない歩道
センターラインを横切るヒビが緑の血管になり

命の証を向こう側へ渡す

道を忘れない 道を思い出せない
表面温度を上昇させて、血流速度があがっていく
忘れられた道は 静脈瘤のようにクリップで留められて
記憶の本流からも消えていった

グレーの血管を流れる色とりどりのヘモグロビン
大きいものや 小さいものや 新しいのや 古いもの 
少しでも早く 少しでも先に

ここは、とある峠道の途中。
かつては難所とされましたが道の整備もどんどん進み、今では通年を通して快適な道になりました。
始めて通った頃は、まだ整備途上というか砂利道と道路工事の交差待ちが多くて快適とは程遠い状況でした。
いまや、そんな面影も残らないほど整備が進み、トンネルの入口にレリーフをあしらったりして砂埃の立たない舗装路面を景観を楽しみながら通り過ぎることができます。

Dscf9233 そう「通り過ぎる道」。ほとんどの場合、ここは道央・道南へ向かう通過路で、峠が目的で来る人は林道マニアとか周辺の自然を楽しみに来る人たち程度で、札幌へ向かう道すがらというのが正直なところでしょう。
途中はトンネルや覆道を除けば十勝側にドライブインがふたつ。日高側降り口にもひとつ。ほかは除雪ステーションとか砂防ダムの水門とか、道路情報のライブカメラが目に付く程度です。

整備が整ったとはいえ、工事は常に続いていて、維持管理工事・橋などの付け替え、トンネルの修復、豪雨による法面崩落の修復、そして路線修正など…
仕事上、頻繁に通るなら気がつきますが日高側のカーブと覆道の連続する付近は景色も同じように思えてきて一部変更になっても正直気がつきません。
真新しいトンネルを通り過ぎたところで左手に植えられた苗木の向こう側に旧路線が見え隠れする。

「おやーっ?あそこは…」

Dscf9220

十勝支庁と日高支庁を分断する日高山脈は太平洋側から来る地殻プレートの影響とかで隆起した山脈で古い地盤が露出しているところが多いようです。
元々、ほとんどが海の中だった北海道。その影響で、アンモナイトや海竜など海洋生物の化石が出土するところがあり、地域の博物館にはそういった出土品も展示されていました。
こんな、通行中に耳がツーンとしてくる高所でも海の中だったんですよ。

Dscf9236 この山脈を横切るルートの決定も、始めは徒歩によるものだったそうだ。
視界に広がる山々がまだ自然のままの原生林に覆われた時代、ここを走破するのに幾日かかっただろうか?
そんな古い地層からなる山脈をぬい、あるいは貫通して1本の道が敷設。
だだっ広い平野を結ぶ社会の血管は様々な車が行き来する。

Dscf9222 近くにある山の名を持つこの覆道。たぶん何度も通ったんだろうけど低木に前後を囲まれている上、似たような覆道も連続する道だから記憶の中でも存在感がおぼろげです。
降雪や雪崩、岩盤の崩落に対処する目的(?)で設けられたものですが、新トンネルの貫通で役目は終えたようです。
まだ、現役を取れるような状態ですが、既に静かに緑の中に埋もれていく運命になったようですね。

この道を歩いたことはない
というか歩くための道ではない

そんな道を改めて歩くと
道の重さ・偉大さが見えてきた

Dscf9229

現在、高速道路が、この峠のほとんどを難なく通過する路線が開通。
流通などの業者は変わらずこの峠道を利用するが、一般の利用は激減しているように思えた。
Dscf9235峠の店もラジオCMなど流して必死で生き残り策を模索している。

覆道の柱を眺めながら歩くと博物館で見た大きなクジラの骨格を思い出した。道は巨大な骸を晒していく。自然が再び仲間に受け入れる日まで…
それは既に遠い未来の話じゃなくなった。
でも、両側にゲートも付けられて車など通るはずのない道だけど、カーブの向こうから今にも車がかっ飛んでくるような気がした。

Dscf9226

文化の血流は滞ることはない
むしろ高血圧を伴って、ますます速度を上げていく

少し その流れに逆らってみようか
何か忘れてきたものが見つけられるようで…

Nagisa_stand

「…って言うか、ここ入っちゃダメですよーっ」

「えっ?」

※この覆道は現在立ち入り禁止の措置がとられています。
警告を無視した上での事故等に対し、当該局は一切責任を取りません。 

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2008年8月21日 (木)

あなたがここにいてほしい②

Top

この子の魂を引きずり出しちゃった…
そんなーっこんな簡単に出るなんてどうかしてるよ。
ミハルちゃんは驚くでもなく、まん丸な目でキョトン!としながら目の前の自分の体と今の自分の手を交互に見ている。

Miharu 「お姉ちゃん!」

「は…はい まいったなぁ…

「すごいことできるんだね!わたし、自分で動いたの始めて!なんだかスゴイ!」

急なことだったので泣き出すかと思ったら、嬉しそうに手をグーパーさせてジッとみている。

「そっ…そう?良かった… さて、これからどうしようか…元に戻せるのかなぁ

「ねぇ!お姉ちゃん。どうやったら歩けるの?」

「歩く?」 そうか、この子歩いたことはないんだな…

「えっと…まず、片足を上げて…いや、ちょっと待って!私が手を繫いであげるから…」

右・左・右・左…自分の足元をジッと見ながら一歩づつぎこちなく前へ出していく。なんだか赤ちゃんみたいで可愛いなぁ。

Kumo 「どう?」

「たのしいよ!すっごく!」

「良かったら、お空にも連れてってあげようか?」

「お姉ちゃん飛べるの?!」

「うん!しっかり手を繫いでてね」

海の方から来る風を見つけてサッと飛び乗った。

「わぁっ!」

先頭を競り合う風の背を次々にどんどん移ってどんどん上までいく。
私もいつのまにか、こんなことを得意げにできるようになってたんだなぁ…
ミハルちゃんは、怖いのか目をギュっとつぶってたけど、やがて上やら下やら頭をあちこちに向けて目を丸くしていた。

Sky

「すごい!すごい!お姉ちゃんって天使なの?」

Sea 「天使…? うぅん違うよ。普通の幽霊だよ…」

それから山の向こうへ行ったり、海辺に下りて遊んだり…。
うん 楽しいなぁ…このままこの子を妹ってことにして一緒に旅するのも悪くないなぁ…ミハルちゃんもその方が楽しいかもしれない。波と追いかけっこする姿を見ていたらそう思った。“お姉ちゃん”って呼ばれることが何だか嬉しく思えた。

Holga_school「お姉ちゃん?あそこは…?」

街の上を飛んでいたときグラウンドと校舎が見えて、ミハルちゃんは、私に聞いてきた。

「あれは学校だよね。今は、なんの時間かな…」

Holga_ground「そう…」 

「疲れた?」

「うん、少し…なんだか帰りたくなってきちゃった…」

調子にのって、いきなり連れまわし過ぎたかもしれない。
少し休んだら「いっしょに旅しようよ!」って言ってみようか。

さっきのところへ戻るといつのまにか奥にトラックが1台止まっている。
そーっと様子を伺うと、中で男の人が、いびきをかいて昼寝しているのが見えた。

「ここにいつも来るおじさんだよ。私をここに置いたのもそう。いつも何かを運んだり降ろしたりしてるの」

ミハルちゃんって今までずっと荷物の見張りをしてたんだろうか?かわいそうにー。
一緒に連れて行ったほうがこの子の為だよね。

「ねえ お姉ちゃん!わたしを体の中に戻して」

「えっ?」 言い出そうとしたとき、その言葉に驚いて思わず引っ込めた。

「わたしミハル。だから、ここで見張ってなきゃならないの。それが仕事だから」

「でも…ここは学校の近くじゃないよ」

「うん。そのほうが良かった…でも、わたしの体をひとりぼっちにしておけないから…」

そういってミハルちゃんは大粒の涙をポロポロ落とした。
さっき、学校を見て疲れた感じに見えたのは、寂しかったんだなぁ…
私、ミハルちゃんの気持考えていなかったか…
そうだよね─

Hacca 「はい!」 ハッカ飴を取り出してミハルちゃんに渡した。

「なぁに、これ?」

「飴だよ。不思議な気持になれるから」 私もひとつ自分の口に放り込む。

ミハルちゃんも珍しそうに包みをガサガサひねりまわしてようやく飴を出すと口に入れた。

「ホントだー何だかふしぎーっ 体の中から風が吹いてくるみたい!」

Back「ミハルちゃんの願いを叶えてあげる…」

両手をギュッと握るとミハルちゃんはニッコリ微笑む。
その笑顔に光がにじんでやがてその姿は輝く光の玉に。
そのままそっと人形の胸へ持っていくと乾いた土に水が染み込むみたいに光は中に染み込んでいった。

─ありがとう─

ううん これからだよ
心の底から無数の糸を繰り出して、回りをさまよっている『素』を絡め取る。
私の中心に集められた『素』は、やがて何かを思い出したかのように合わさりだして、更に回りの『素』もどんどん引き込みだしていく。
万物を作る『素』は、それ自体がひとつになろうとする想いを持っているから、それに私の想いも重ねて4時間だけの私の体は作られる。

「お姉ちゃんって…スゴイ!」

Henshin

Tech 「すいません!お昼寝中すいません!」

「…え?あぁっ?なんだねぇ?」

「あのーっ 私、街の小学校の方から来たのですが」

「はぁっ?先生?うち子どもは、おらんですよ…孫はいますがな。そんでなんですか?」

「あの、あそこのお人形のことなんですが」

「あ?あれ!向こうにあった学校を壊したときの雑品なんですよ。人の形してるから潰せんかったんでね。ああやって置いとります」

「そうですか…ああいうのって子どもの安全のためにも学校近くの横断歩道にいたいと思ってるんじゃないでしょうか…」

「思ってる?」

「いえっ そうじゃないかなーって

「ところで…先生様、どちらの学校ですか?」

「あーっ 街に入ってすぐ近くの空から見たらL字型の学校です…」

「へぇっ? あーっ●●ね。孫も通ってますよ。先生は何年生の受け持ちですか?」

「いえっ 私は担任じゃないんで…ところであのお人形のことなんですけど、お孫さんも通ってるってことですし、近頃はやたら飛ばす車も多いですから、ぜひ…」

「えぇまぁ…今日の受け入れが終わったら構わんですよ。帰りに置いてきますよ。」

「ありがとうございます ヤッター!

「ところで先生様、ここまでどうやって来よったんですか?」

Ashi「あーっ… もう少し先のところに置いてきたんですよ。このあたり止められそうもなかったので…

「はぁ…?」

「すいません!ちょっと急ぎますんで、よろしくお願いします!あまり手荒に扱わないように優しくお願いします。それじゃあこれで…

うっわーっヤバイヤバイ… あーっミハルちゃんクスクス笑ってるわ…
先生のフリ、難しい…
おじさんは、まだ不思議そうに私を見ていた。
ここにいる訳にもいかず、海の方へ向ってトボトボ歩いた…。

ようやく陽が落ちてきたころ 体から飛び出してミハルちゃんのところへ。
もうそこにミハルちゃんの姿はなくて、まあるい跡が残ってるだけ。

「おじさん ちゃんと運んでくれたんだね ありがとう」

暗い中で風に乗ったことはないけれど、ちゃんと街へ行けたか気になった。
夜の風は静かになることが多い。一日中競って飛び回るから疲れてしまうんだろう。
とりあえず頼りなげな風に乗って街の方へ向ってみる。

Night

街の駅前にある大きな通りでミハルちゃんは、すぐ見つかった。

「あっ お姉ちゃん!来てくれたんだ。もう行っちゃったかと思ったよ」

「ミハルちゃんがちゃんと来られたか見とどけたかったからね」

「そういえば お姉ちゃんの先生役、可笑しかったよ」

Miharu_stand 「え…やっぱり? らしくなかったかぁ…

「でも、ありがとう 嬉しかったよ。願いがかなったんだから、とっても!」

「うん!よかった!じゃあ お姉ちゃん、もう行くね」 
夜とはいえ人通りもあるから、あまりここにはいたくなかった。

「これから どこに行くの?」

「うーん…決めてないなぁ 帰る家はあるんだけど、まだその時じゃないから」
遠くから人が歩いてくるのが見えた。もう、行かなくっちゃ…

「ごめんね…」

「えーっ? なにが?」

「あの…いろいろ してもらって…」

Fright 「別にたいしたことなんかしてないよ。元気でね!ミハルちゃん」

「ありがとう! 元気でね!」

飛び乗った風の上で振り返ると─ 
ミハルちゃんのまっすぐ上げた右手は、私に向って振っているように見えた。

Miharu_town

きれいだなぁ青空 あそこまでいったんだよ
お姉ちゃんといっしょに…
わたしのお姉ちゃんと─

Youtube 「あなたがここにいてほしい」/元ちとせ

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2008年8月13日 (水)

あなたがここにいてほしい①

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「彼氏とケンカでもしたんでしょ?」

「えっ?! どうしてですか?」

「だってさ…近くに家もないし…なんだか、この辺の人っぽくないしさ。この辺じゃ人が歩ってることなんかないし、夜だったら幽霊かと思っちゃうよ。バッグも持ってないから、ケンカして彼氏の車から降りてきたんじゃないのかなーって…」

えーっ?そんなに変なのかなぁ…私、普通の人に見えない?
この服、かわいいと思ったんだけど

Scnd 

あの丘の家を出てからは、風に乗れないから、ずーっと歩いてきた。クマには会わないですんだのは良かったけど…
空の上にいるときは全然気にしてなかった道がすごく長く感じたし、慣れない体の重さも感じていたからすぐにくたびれてきた。
なんとか大きい道まで来て、車が横を走りぬけるのに怯えながら歩いていると大きなトラックが私の横にゆっくり止まって─

「どこまでいくの?港まで走るけど乗るかい?」

正直、助かったーって思った。

Hamabe

「ハハ… そうなんですよ。実は…

「心配してんじゃないの?彼氏、探してるかもよ」

「はい… いえっ!大丈夫ですよ」

Nail 「それにしても近頃の娘(こ)っていうのは、すごいねー。爪の色とか…オッちゃんの世代じゃ信じらんない色だよねぇ」

「えっ!!」

あわてて手を見た。あ…いつの間にか爪が緑色になっている!
さっき見たときは、どっちかというとピンク色だったのに!

─爪が緑色になったら体の外にでなければならない。緑が濃い茶色になったら時間切れだ─

もう、そんなに時間が経ってたんだ。ずいぶん長いこと歩いていたから…

「すいません!ここで降ろしてください!」

「あぁっ?ここで?まだ近くの街もしばらくあるよ」

「ごめんなさい!大事なこと思い出したんです!」

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プシューッ

空気が勢い良く抜ける音を出しながらトラックは大きな体をゆっくりと止めた。

「ホントに大丈夫かい?街まで、まだ5キロくらいあるよ」

「すいません!助かりました。ありがとうございます!」

バタン!

お礼もそこそこに車から飛び降りて脇道をさかのぼって走り出す。
肩越しに振り向くとまだトラックのおじさんがキョトンとした顔でこっちを見ていた。変なヤツだと思うだろうな…絶対思ってる!

お願い!早く行って!見られるわけにいかないの…
あ…さっきより爪の色が濃くなったような気がする!
まずいよ…回りを見回すと、身を隠せるようなところが見つからない。
道はまだしばらく真っ直ぐだった。

「もうダメ!ダメ!間に合わない!」
もう一度振り返ると ─あっ行った!今しかない!
中からこの体に力を込めて一気にはねのける

パー…ン

Nagisa_blast

かすかだけど 乾いた 花火みたいな音がして カラダが光の粒になって飛び散って消えていった

─さよなら さっきまでの私…─

「えぇっ?なんなのこの人?!」

「え…今の声…見られた?  トホホ…先行き悪いなぁ…

体が消えたから今はもう見えてないよね… そーっと声のした方を振り返ると…あれ?誰もいない…気のせいだった?

「この人なんだかユラユラしてるーっ!エーッなにぃ?」

Whatnow

やっぱりいる!えっどこ?私には見えない…見えるのは何事もなかったように通り過ぎていく車とか何かの看板とか…何かの工事道具置場…その横に片手を上げた黄色い服の子どものお人形くらいしか…

Dscf1583 ─お人形ー?─
そっか!このお人形が話してたんだ。そうだよね!
そんな気がして、そのお人形の方へ近づいてみた…

「あっ!こっちに来た!」

やっぱりそうだ!このお人形が話してる!
姿勢正しく片手を上げてジッと空を見ているけど、ココロは私のほうに向いてる。

「こんにちは!」

「えっ?あなた私の声が聞こえるの?」

「うん!聞えるよ!ごめんね驚かせて…」

「あなたって…人間じゃないの?」

えーっ変なこと聞かれたなぁ… でも人間…じゃないか…

Vs

「私、ナギサ 幽霊なの。あなたは?」

「わたし…ミハル 子ども達のために車を見張ってるの」

「…子ども達?ここに子どもが来るの?近くに学校は、ないみたいだけど…」

Dscf1586_2 「前はいたの…この道のもっと先で、ずっと前だけど。私も知らない昔は街もあったそうだよ。今はここで時々トラックの出入りを見てるの。車を見張るのが私の仕事だから」

見えるところには学校があったようなところには見えない。ここ以外には草原や点々とした木立、遠くに山が見えるくらいで、さっきのトラックのおじさんが言っていたとおり人が歩いていそうにないところだ。

「あなた…さっきは大人の人だったのに今は、どうして変わっちゃってるの?」

Dscf1879

「ヒミツ…守れる?」 (私も軽いなぁと思うけど言ってもいいよね)

「うん!」

「私、自分の体がなくなっちゃって、ずっとこんな感じだったんだけど、人間そっくりの体を作って中に入ってるの。さっきまでのがそうなんだけど、中にいられる時間が短いんだよね。ホントは小学3年生だけど…そのときからずーっと3年生だけどね」

Dscf1584 「ふーん でもいいよね 自由に動けるんだから…」

「あ…ごめん…」

「あーそういう意味じゃないの。わたし子ども達のいるところにいたかったけど、自分じゃ動けないし…だからいいなぁーって思ったの。わたし、立っているために生まれた人形だから。毎朝、お友達が『おはよう!』って言ってくれるのが嬉しかったけど…」

そっかぁ…自分のいたい所に行けなかったんだ。かわいそうだなぁ…

「私が何とかしてみようか?」

「そんなことできるの?わたしホントはすごく重いんだよ。大人の男の人でもやっとだから…。風の強い日でも倒れないように重くなってるんだけど」

自分から言い出しておいて…よわった。
そんなに重いんじゃ、もう一度体を合成しても運べないかな…さっきのおじさんも近くの街まで5キロあるって言ってたんだな…
でも、話を聞いて「さよなら」とも言えなくなっちゃったなぁ…

Hands 「とりあえず…どれだけ重いのかちょっと見させて」

へぇーっかわいい手 色白だなぁ…

あれ?なんだこれ?
あれれ?どんどん出てくるー

Doll_out 「あぁっ! わたし、どうなったの?!」

その子自身である人形は、そのまま立っていた。
私がいま手をつないだ子は…

「あ…あのーっ 私、中身を引っぱり出しちゃったみたい…

(後編へ)

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2008年8月 8日 (金)

案山子と炒飯

Dscf9924

北海道の十勝。芽室町西部の農村風景が続く通り。
この道、じつは信じられないほどの交通量、それも尋常でないスピードの対向車とひっきりなしにすれ違う。昼も夜も…
幅員も普通の郊外の町道レベルしかなく、歩道は昭和51年に閉校となった学校があった辺りにしか設けられていない。広くて直線が続くというわけでもないになぜこんなに飛ばす車両が多いのか。

Dscf9986食料自給率の低い日本において、驚くべきことに十勝の食料自給率(カロリーベース:平成18年度)は1100%という話です。その西部に位置する芽室町は『スイートコーン』の作付面積が808ha。収穫量が9,770tで、作付・収穫共に日本一の出荷を誇っています。その反面、就農者人口の減少。少子高齢化による後継者不足Dscf9983 は深刻で地区農村青年部も部員の減少から近隣地区と合併を余儀なくされている例もあるようです。農業を取り巻く情勢も安定したものではなく、家と畑を守りたい気持と厳しい経営を後継者に任せるべきかという気持の葛藤の話も多聞にあります。
Dscf9988 所々に生産者の遺跡が点在するのが目に入り、それを合わせても家の数は決して多くはないように思える。でも古い地図を見ると、その土地にはびっしりと名前が書き込まれていて一戸辺りどれほどの土地を持てたのかと思うほど。
豊かながらもどこかしら寂しい雰囲気があるのは、描き上げた絵を塗りつぶしてしまうかのような激しい季節の変化のせいか、大地の広さのあまり心がぽっかり抜け出してしまったからなのか…

Dscf9931

Dscf9972 この風景の中を車種を問わずたくさんの車が通過するようになったのは、ずいぶん前からです。小型・中型はもとより、大型車の通行料が多い。それも工事関係車両などではなく、貨物車両が特に多いのです。
Dscf9942 何ゆえ、この道にそれほどの交通量があるのかというと、町の中央部を横断する国道38号線を迂回するようにこの道が外側(山側)にあり、日勝峠まで続いていました。
一見、近道?と思いますが、距離的にはさほど差は無く、速度制限やオービスなどのある国道より速度を上げられる分だけ急ぐ人には都合がいいということがこの交通量の理由のようです。ただ者の速度でもないので、警察の測定も頻繁に行われているようですが、常時見張るというものでも無く、歯止めにはならないようです。
道なりに停車して風景でも撮ろうと降りてみても、道の前後に気をつけなければ非常に危ないのがこの通りの印象。

Dscf9991

Dscf9927 この危ない通りに10年程前から『ただ者』ではない集団が通りの左右に立ち始めました。その数およそ60人。
その始まりに位置するところに看板があります。

『かかし街道』

そう、道の両側に点々と立ちつくす彼らは『案山子』。
でもその役目は害鳥から作物を守るという本来の目的ではなかったようです。

それにしてもたくさんいるんだなぁ…

Dscf9929

Dscf9952 ビュンビュン追い越していく車を避けながら撮り続けていっても「まだある!」 「あっ!あそこにも」
その案山子たちも、農夫姿だけではなく子ども・婦人・老人など様々。
中に、手の込んだ一団がありました。
ここのお宅は、陶芸と篆刻の工房「太情庵(どんかち)」で、案山子は流木を加工した手の込んだものです。その姿は、群を抜いてユーモラス。
畑の中なのに漁師なんかいたりして…

Dscf9956 「ホントに凄く飛ばしていくんだよね…」

なんでもこの『かかし街道』は今年限りと聞きましたが…

「うちの前の連中はこのまま続けていくけどね。街道を始めた人たちももう歳だからねぇ。準備とか下草刈りとか、しんどくなったみたいでね。」

そうですか…残念ですね。

「でも、青年部の人達が引き継いでいくって話も出てきてるんですよ」

そうかぁ。ただ消えていくんじゃないんですね。

Dscf9969

Dscf9951 『かかし街道』だけじゃない。
この街では今年度から特産品のスイートコーンでご当地メニューを提案し、『コーン炒飯』プロジェクトを立ち上げ、ご当地メニューの発信を始めた。
ただ時勢や環境に流されるだけじゃなく、小さくてもいいから何か始めてみようという動きが出てきた。
それは何もここだけの話じゃなくて、そういう動きはどこの町にもあると思います。
『なにか始めてみよう』 その気持が、混沌とした世に光を指し示す指標になるのかもしれない。少なくとも何もしないでいるより前進しているよ。

Dscf1558 さて、そのコーン炒飯、味はいかがなものでしょうか?
噂では「あんな感じかなぁ…」という風にも聞きますが…

それは機会があったならどうぞ。味は噂で伝わりません。

ただ…この炒飯は夢と情熱のかくし味がふんだんに香る。

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2008年8月 3日 (日)

蟹の並ぶ廃屋

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その家は、なぜか一目置いていた。
特に理由も無いけれど雰囲気というか異質な空気というか、そういったものを感じる…
景色の色数が制限される冬場ならともかく、緑の過剰投資が盛んな夏場だとそこに大きな家があるとは思えないほど緑に埋め尽くされている。
遠巻きに見るその光景は、さながら緑の炎のようです。

Dscf6467

トタン葺きの屋根なので旧家というには少し違う趣ですが、家そのものの作りは縁側や雨戸を持つ内地の様相を模したスタイル。
畑の中にポツンと佇み、家人が植えたシャクナゲやツツジも季節には花を広げ、家の栄華の時代を回顧させるようです。

屋敷の外れには湧水槽があり、そこからあふれた水が水場を作り出しそこからミズバショウが大きな花を遠慮なく広げ、オタマジャクシにとってさながら天国。

Dscf6506

現在この家の敷地は土木会社の廃材置場に使われている様子ですが、時折訪れて何かを積み上げていき、反面こことは無関係な人が家を眺めていったりと、不思議と人の出入りが多いところです。
「古民家再生」というのが一時期ブームだったこともあり、その影響で物件に興味があったのでしょう。
不節操に伸びていく防風林が午後ともなると大きな影を屋敷に下ろし、家は不気味な様相をかもし出している。

Dscf6505_2 始めてこの家を見てから10年ほど経つでしょうか…その間、不思議な出来事も。
家の入口上部にある裸電球の外灯が空家なのに付いたまま数日たっていた事がありました。
しばらく無視していましたが、管理しているところが消し忘れているのであろうと思い、出入りするトラックに社名があったのを思い出し、教えておこうと電話してみました。

ところが、相手は…

「そんなことはありません」

「いや、現実に今も点いたままなんですよ」

「いえ、ともかくありがとうございます」

「…?」

Dscf6503なんとも後味悪いじゃないですか?
こうなると悪い癖で、この家を調べてみることにしました。

その結果は後として、台風並みの防風が過ぎ去ったある日、うっそうとした木立の隙間がいつもと違う感じに…
「雨戸が落ちている…」
これは事実確認のチャンスかな─
白樺の木立がはびこる間を縫って軒先へ到達。雨上がりのため薮蚊も多い。縁側の床の崩壊で連なった雨戸が落ちていました。

Dscf6469 入ってみたところ、思ったとおり建具などの廃材が山と詰め込んであり、営みがあった家とは到底思えない様子。
若干、暮らしの跡も見え隠れしますが封印が長かったのか埃が厚く積もっています。
煤で黒ずんだ梁や天井。1階は3部屋程度ですが間取りは大きい。同じ建坪なら今でも豪華な造りでしょう。でもいつごろまで人は住んでいたのかな?

Dscf6473 階段を見つけて上がってみる。撮る写真ほとんどにオーブと見まごう程の埃が写りこみます。マスクでもしておけばよかったなぁ…
Dscf6500当の2階も外灯の成れの果てが屍を晒すかのように横たわる。
階段を上がったところは広いスペースをとってあり、回りを部屋が囲むというような状況。かざりっけのない裸ベニアが壁を渋い色で覆っていた。

手前の部屋は、寝室だろうか。窓は高く外の様子は伺いにくい。家の面した道が木立の隙間からかすかに見えた。壁は何度か張り替えたようで同じ材質でも色合いが異なり、つぎはぎの感じもある。

Sanren

Dscf6479隣の小部屋。ここは化粧ベニヤが数箇所使ってあった。
古い飲料水のステッカーやステレオの広告が貼ってある。憧れのオーディオといったところかな?新聞は昭和45年。1970年代です。
その並びの部屋を覗いてみると─

「おぉっ!」 昭和のアイドルがお出迎え。

Dscf6491 西城秀樹・山口百恵・三浦友和・桜田淳子
桜田淳子にいたっては、陽にあたらなかったのか往年の美貌を称えたままですね。何となく合成っぽい写真でしたけど。
こういうものを見ると当時の西城秀樹氏は、シャツや上着に恵まれなかったことが偲ばれます。郷ひろみや野口五郎が見られないことから主に秀樹ファンと思われます。

Dscf6492 なにやらいわくありげな家ですが、調べたところでは、およそ30年ほど前に離農。市街地で暮らしているようで因縁めいたものはありませんでした。
じゃあ、あの外灯は?とも思いましたが、引き込みを無断失敬していたのかもしれません。

Dscf6494

1階へ降りて玄関周りを確認。
玄関も間口が大きい。本家筋だったのかな…

「おや?」

足元に奇妙な鉄板。一斗缶の蓋のようですが、裏面に蟹缶のラベルが連続。これは面白いね。缶詰用のものを再利用したんだ。
古いブリキの車の中に見えるボディの裏側が鯖缶らしかったものを見たことがありましたが、リサイクルは昔からあったのですね。

Dscf6496

今は単に捨てるものが多くなっただけ─という気もします。

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