0の丘∞の空② 渡れない橋
「私も生き返られるんですか?!」
「まぁ そんなに慌てなさんな…わしがそれをできるってわけじゃないんだよ。そうして生き返ったヒトがこの近くにいることを鳥に聞いたことがあってな」
慌てるなって言われても『幽霊が生き返られる話』を聞かされて落ち着けるだろうか! 私もそんなことなんかできるとは思ってもいなかったけど、話を聞かされたらいても立ってもいられない!
「爺さん、まったく無責任だな!又聞きの話でよォ!」
コケシたちは呆れた様子だった。
おじいさん(家)はしばらく黙っていたけど、やがて話し始めた。
「それで娘さんは何故に生き返ることにこだわるのかな? ヒトの世界は苦しみが多いそうだからなぁ。無理して戻ることもなかろうに…しかし、ヒトの心も厄介なのかな」
「ご老人、あなた言いだしっぺで真理を説いてどうすんですか?」
「…私、9歳で終わっちゃったからたぶん、何も知らないんです。でも生きてることは、もっと楽しそうだって思うんです。うらやましいだけでいつも隠れて見ていなくちゃならないのが辛いんです…それで」
「見せかけだけ変われるのを覚えたんです。でも何にも変わらない。人のいるところへ行っても誰からも見えないか、気味の悪いものにしか見えないらしいから…私、普通に人の中に入ってみたいんです」
「面倒なものですね。ヒトにしかわからないんでしょうけど…」
「でもよォ、短かろうが長かろうが始めの命を終わらしてヒトの世から離れたら、もう俺たちと仲間じゃないかなァ?俺たちは元々一本の木だけど、生まれたことも死んだこともあったのか無かったのか全然わからねーよ。オサラバしちゃった世界にいつまでもこだわってもいらんないだろ!」
ずいぶんハッキリいうなぁ…でもそうかもしれないね。
…そうなのかもしれない。
「見たわけではないんだよ。鳥達の話では、そこの道を反対側へ山の方へ行ったところに古くて大きな家があってな、そこにそのヒトが住んでいるそうだ」
「その人、その方法は教えてくれるでしょうか?」
「いや、会ったことはないでな、詳しいことはなんとも…でも確かな話だと聞いているよ」
「ほら無責任だ…」
やっぱりそういう人がいるんだ。できれば生き返る方法を教えてもらいたい。いや、なんとか教えてもらわないと!
私の「死」がなかったことになったら─悪い夢のようだった何年間は霧のように消えてなくなるような気がしてた。ひとりぼっちで家にこもっていたあの時間、それが無くなってどこかへ行ってしまったママもそしてパパも戻ってきて─カズ君とも普通に会えていた…会えてた?
それはどうだろう…どうなんだろう?
でも、隣に越してきてたんだから会えたんだよね?
私、生きてても会えたよね?
「あ…はいっ! ごめんなさい」
「でも、それは自然に逆らうってことじゃないでしょうかね」
「そうだよ!長い短いはあっても自然は何も特別扱いしないんだ」
「うん…そうなんだろうけど…」
なんだか弱気になってきた。そんなことやっぱりダメだろうか…
「まだ、決まったわけじゃないんだ、会ってくればいいさ。何もしないで口だけ達者なら、このコケシ共と変わらんよ」
「キツイぜ、じいさん!…ったくよー」
「決めました!私、行ってみます!」
「そうか!こういう身なもので、これ以上はなんの力にもなれんが、良い結果になることを祈ってるよ」
「決めたんなら仕方ないね」
「うん!ありがとう!私こそ何の助けにもなれなくて…」
「おいおい!俺達別に不幸じゃないんだぜ!ヒトとは違うんだ」
そっかぁ…そうだよね。自分の置かれた立場を考えないでいること…それはそれで幸せなのかもね。
「道なりに行くと『道を横切る渡れない橋』があるから、そこをくぐったら黒い石を探しなさい。鳥達はその話をそいつから聞いて確かめにいったそうだからな」
「はい!ありがとうございました」
「ダメでも落ち込むなよ!ダメなら…ここで良いなら来いよ!」
「うん!ありがと!ホントは、やさしい人…コケシなんだね!」
なにも言わなかったけど少し照れてるようだった。
「またいつか、話を聞かせてください」 「そうだよ!」
「うん!きっと」
表に出ると、まだ霧が立ち込めてまだ空気はひんやりしている。
口にハッカ飴を放り込んで海と反対に向かう風を捕まえた。
『道を横切る渡れない橋』…? 『黒い石』…? なんだか不思議な目印だな。
いくらもしないうちに両側に山が連なって寄ってくると風が逃げようと上に登りだす。
目標を見失わないように道沿いに走る風に乗り換えて目を凝らしつつ、でも風の背から転げ落ちたりしないようにしながら先へ。
海から離れるごとに霧がだんだん薄くなって、木や道や家がハッキリしてきた…
道の途中に大きなコンクリートの塊がふたつ
道をはさみこむように立っていた。
渡るところがなくなっているから『渡れない橋』だよね?
近くまで降りて見たその姿は上から見るよりも大きくて古代遺跡のように見える。
ホントにあった。あったよ…
もうドキドキしてきた…
その橋は、橋と言うよりも門のようで、ここから先が別の世界のように感じた。少し怖い気もしてきたけど今さら逃げるわけにはいかないね。
(つづく)
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コメント
行きましたか、ここ、このアンダーパス、上は鉄道です、下は何?なぜ踏切ではなく?それは・・・・
投稿: K・T | 2008年7月 3日 (木) 23時40分
思わせぶりなこと言っちゃってさ
ブッキーじゃないですか
投稿: ねこん | 2008年7月 4日 (金) 07時42分
上は国鉄と同じ軌道幅の尺別鉄道、下は幅の狭い簡易軌道の硬明線の跡で、この交差は鉄道の交差のようです。
硬明線は現在の道路が昔は軌道も通っていたようです。
投稿: K・T | 2008年7月 4日 (金) 07時53分
硬明線?
それは初耳ですね。
山が近いところですが、開拓鉄道でしょうか?
その辺のところよろしくお願いします。
投稿: ねこん | 2008年7月 4日 (金) 08時33分
硬明線は資料が少ないですが、雄別のHPに写真とおおまかな地図が出てます。昔は現在の道路に続いていたようですが、廃鉱ころは一部しかなかったようですが、どこまで続いていたのかは不明です。
炭山駅の川を挟んだ場所に引き込みの跡があり、現在は草木が茂ってますが開けた場所に軌道が続き豆炭工場には続いていたようです。その先は現在の道の山側、崖っぷちに続いていたようです。近くに煉瓦の良い廃屋がポツンとあります。空中写真で見つけましたが、場所は分かりにくいところですが、道から直線で50mくらいです。私は硬明線の跡をたどっていて見つけました。
投稿: K・T | 2008年7月 5日 (土) 09時35分
拓鉄と河西の交差橋と河西の存在を知った時も驚きましたけど。
たくさんあったんですね。
投稿: ねこん | 2008年7月 5日 (土) 12時14分
陸別のふるさと銀河線のアンダーパスは昔は陸別の斗満森林鉄道と陸別森林鉄道のそれぞれの貯木場をつなぐ軌道の跡です。
投稿: K・T | 2008年7月 5日 (土) 22時28分
あの駅近くのところですか?
へーっじゃあ不自然なアンダーパスは、大抵交差橋ってことなのかなぁ?
投稿: ねこん | 2008年7月 6日 (日) 08時24分
私は見たことないですが、新得にも国道にアンダーパスがあり北海道拓殖鉄道跡だったようです。不自然な軌道跡の可能性が高いようです。
鉄道関係のアンダーパス、最近では大正付近だったかで3年ほど前に撤去されたはずです。
美幌、中湧別、津別、帯広もアンダーパスは撤去されています。
投稿: K・T | 2008年7月 6日 (日) 23時47分
越線橋よりはメンテ考えても採算がいいと思うんですけど…
投稿: ねこん | 2008年7月 7日 (月) 08時35分