0の丘∞の空③ 黒いダイヤ
たしか、この辺に住んでいるらしいんだよね…
緩やかなカーブの道の上にどっしりと座る大きな門を越えて歩いていく。
他には何もなさそうな所だけど、倉庫っぽい青い屋根が目に入ったのでそっちへ向かって歩いていくと、一軒家が見えてきた。
「あっあそこだな─ 」
走って戸口まで行き、とにかく会ってみようとノックする。 …音がしない。そっか…私、幽霊だった…
「ごめんくださーい ごめんくださーい…」
─? あれ?中から反応はない。
まてよ その生き返れた人って、私みたいな「幽霊」の声なんてもう聞こえないんじゃないかな─?
「えーっ! そいつはまずいよ!」
玄関が開いていたので中へ入ってみる。
薄暗い部屋、誰かいる様子はないみたいだ。
「すいませーん…」 やっぱり返事は返ってこない。
他の部屋も見て歩くけど、家具とか何かの道具がたくさん散らかっているだけ…
しばらく探してたけどこれ以上は無駄のようで表に出ちゃった。
「出かけてるのかな…それとも、どこかよそへ行っちゃったのかな…」
辺りを見回してみたけど元は何だったか解らないほど崩れた建物がいくつかあるだけ。
体はないから疲れないはずだけど、気持ちがすごく疲れてきた…
「どうしたんだぁい、お嬢さーん? 湿っぽいハートにゃ火は点けられないよ」
「誰? どこにいるんですか?」 誰かすぐ近くにいる!
「こっちさ、横を向いたら大きい記念碑が見えるだろ?そこの上だよ」
記念碑? あそこだ!パッと駆け寄ると小ぶりで真っ黒な石が乗っている。
あっそうだ!「黒い石」を探せって言われてたんだ。
「あ…あの!『黒い石』さん!私、聞きたいことがあって来たんです!」
「まぁちょっとお待ちなさいな。武骨だけど『石炭』って立派な名前があるんだ」
「セキタンさん…ですか?」 なんだろう『セキタン』って
「今時の子は知らないか…これでも小さい日本を世界と対等に渡り合える国にする為に地の底から来て働いた存在なんだよ。要するに『社会基盤』を作っていたんだな。今はナヨナヨした『石油』に歩を奪われちゃったけどさ…『黒いダイヤ』って呼ばれて大事にされたこともあるんだよ」
…それからの話が長かった。私は良く長話を聞かされるけど難しいなぁ…
『石炭』というのは大昔の植物が埋められて、すごく長い間、地の底の熱や土の重さで『炭化した石』、要するに植物の化石になるんだそうだ。
この道の先に『炭鉱』があってそこから来たらしい。
その『炭鉱』というのがこの国のあちこちにあって、そこから掘り出された『石炭』さん達が日本の『産業革命』の原動力になっていたそうだ。『石油』に取って代わられるまでは…でも、話がやっぱり難しすぎる。私が学校で習っていたのは、まだ『私たちの町の仕事』だったから
「全然分かってないようだね。お嬢さんには難しすぎたかなぁ?ハハハ…」
なーんだぁ?このちっこい石。それよか早く聞きたいことがあるんだけどなぁ…
「まぁ君の気持も分かるけど、話を聞くのも社交辞令だよ。知りたいことは教えてあげるけどさ」
「えっ!なんで…?」まるで心を読まれてるみたいだ
「ちゃーんと顔に書いてあるよ。思ってることがさ」
「…あ ごめんなさい…でも、どして?」
「僕達にはそれだけ歴史があるってことさ。人間がこの世に出てくるずっと前からね。それにあいつにその方法を教えたのは僕だから」
「そうなんですか?!」
今日は意外な話ばかり聞かされる日だなぁ。この石コロみたいな…おっと、ヤバイよ。
「あのぉ…私も教えて欲しいんですけど…」
「あぁ、かまわないよ。ただし頼みがある」
えーっ難しいことかなぁ…まいったなぁ…
「そう難しくもないよ。君の探している男はそこのわき道を上がって行ったところに住んでいるんだ。ヒトの世にずいぶん未練があるらしくて、生き返る方法があるよって話を何かの拍子に話したら、『是非教えて欲しい!』って言うんでね。それで、想いを遂げに帰っていったようなんだけど戻ってきてね、すっかり別人みたいに落ち込んでいたなぁ… 次にここに来たら聞いてみようかと思ってたんだけど、もう1年以上見かけなくなって気になってるんだ。たぶん…ボクの話した忠告を忘れて失敗したんじゃないかなぁって思うのさ。だから様子を見てきて欲しい」
「わかりました。見てくれば、その方法を教えていただけるんですか?」
「うん!もちろんいいともさ。彼がいれば彼に教えてもらってもいいよ。それは許す。もし彼があそこからいなくなってたなら、それでもいい。ここへ戻っておいで」
「はい!…で、その忠告ってなんだったんですか?」
「それもそこに行って彼がいれば分かると思うよ。あの道を登りきったところにヒトの言うところの大きくて『古い』アパートがあるんだ」
「はい!行ってきます! それにしてもそんなところにアパートがあるんですか?」
「そうとも!ボクラが頼りにされていた頃は、このあたりは家や店がたくさん並んでいたのさ。このあたりも、海沿いの駅の回りにもね。でも。ヒトは『豊かさ』を手に入れると、どんどん先の方ばかり見て、それまでのことを忘れてしまうようだ。それで鉱山も閉められて、ここの街もなくなっていったんだ。要するに『本末転倒』っていうのかなぁ。ここじゃそれは2回目のことなんだけどさ。」
あのコケシたちのいたところもそんな風にさびしくなっていったんだね。
「あーそうだ!途中にずるがしこいクマもいるかもしれないから気をつけてね。」
えぇっ!クマ? ちょっと待ってよ…
(つづく)
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