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2008年7月29日 (火)

ONE(ラブホ牧場の朝)

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青空の下に広がる果てしない田園風景 風に波打つ青々とした草原
思い思いに空と大地のめぐみを食む家畜たちの群れ
鮮やかな色の畜舎

ビビッドな色ながら寛大に癒しをもたらす北海道の夏景色。
健康を景色に例えるとこんな景色もふさわしいと言うと言い過ぎだろうか。
道外の人に言わせると「こういうところに住むと人間ものんびりするんじゃないですか?」というところらしい。
それくらい北海道は広いらしい。道外では同じ景色がずっと続くような場所は少ないらしいから…。

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Dscf0188 でも、道民は意外とあくせくしている。行先が遠すぎるからアクセルを踏んでる。モータリゼーション化で一般家庭の自動車保有率が上がる。
その影響で公共の鉄路や陸路が減っていく。
線路は錆びて、バス停は朽ちかけて緑に埋もれていく。
なおさら車を持たねばならない。ガソリンを入れるために長い距離を走らねばらないという矛盾。都市基盤の分散や集中。内勤業務でも車がないと通えない。
だから「愛」にもガソリンが必要。
ガソリンで愛を語り ガソリンで愛を深め ガソリンで愛を確かめ合う
今言うと贅沢に聞えるね。
人目を忍んで走れ!二人だけの世界に 水入らずの砦は万全のセキュリティと幸福のひと時を約束する。決められた時間の中で…

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この牧場は、生産も飼育も出荷もしない。
利用者が「愛」を育てるための牧場というのが適当です。
今のように大手や系列チェーン展開のラブホではなく、個人経営によるもので大掛かりなギミックは無いようです。

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一帯は国道からさほど離れておらず、同一ホテルが点在する地域。一昔前までは…
ここ同様、廃業や商売替えで姿を消していったようです。
この手は街外れや郊外にあるのが普通の感がありましたが、今は国道隣接や街中や住宅街にも普通に存在しています。

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Dscf0346_2 幾千の夜 数多の朝
長すぎる昼 ひたすら短い夜
止まらない時間

いろんな秘密と思い出を詰めた牧場。
やがて時が来て牧場長も去りました。

語られない思い出
記録されない夢
色あせた愛
忘れかけた言葉

たしかにあった時間
たしかに横にいた人
たしかに覚えてること

それは 「もうひとつ」のことじゃなくて
「ひとつ」だったってこと…

自然の光には縁がなかったここに最高の光が差し込む
光がこんなにきれいに見えるのは この闇があったから
愛おしく感じることは それが もう戻らないから
こんな光景に宗教感を感じるのは
信仰も建物も時が深まると廃れていくモノだからなのか─
美しいものを愛でる心と卑しいとされる心はあまりにも近すぎるから誤解されやすく混同しやすい。

慣れるということは純粋じゃなくなること…純粋を恥じるかい?夢を笑うのかい?

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廃墟ミューズは静かに眠る
「いばら姫」のごとく 緑に埋め尽くされたこの牧場にひとり

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  zutto kokoni iruyo.

※アルバム完成 右欄外からどーぞ 

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2008年7月27日 (日)

0の丘∞の空⑥ 約束

Nagisa_stand

本当の体じゃないと聞かされたけどさ、この手には確かに血が通ってる気がする。 いろいろ悩んだけどさ、いざ自分の体を手に入れると嬉しくて思わず笑みがこぼれてきた。
もっと真面目に考えなくちゃいけないんだ!
でも、嬉しい…うれしいよ!

Green_storn2 「どう?感想は?」

「うれしいです!…でも、あんまり久しぶりだから…重いです。体がなんだか…」

「慣れるのにちょっと時間がかかるかもしれないね。でも、くれぐれも時間はオーバーしないようにね」

「はい…でも、その時間ってどうしたら分かるんですか?」

「爪を時々、気をつけて見ていればいいよ。今はヒトと同じピンク色だろうけど、時間が経つにつれて緑色になってく。あきらかに緑色だってくらいに色が鮮やかになったらその体から出られることができる。そうなったらすぐに内側から突き破って外に出なきゃいけない。その体は、元の光の粒になってすぐに消える。だけど、もし爪が茶色に変わってチョコレートみたいな色になると仮の体から出られなくなり、そのまま石みたいに縮んで閉じ込められることになるよ。僕みたいにね」

Dscf7385 大丈夫かな? 私、すぐポカンとするからなぁ…いやいや!そんなこと言ってられないよ。でも…この人はどうして失敗したの?

「あのー」 「なんだい?」

「どうして…そんな風に?」

「僕はたくさんの約束事を破ったからこうなったんだよ。だから仕方がない…」

「聞かせてください」

「…そうだね。話しておいてもいいかな…」

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僕は妻と生まれたばかりの娘の3人家族でね。機械の修理が仕事で車であちこちを行き来してたんだ。月に数回しか家に帰られないこともあったんだけど娘の成長を見るのが楽しみでね。赤ちゃんの頃はホントに大きくなるのが早いんだよ。帰るたびビックリしたなぁ…

Dscf7298 それがある日の帰り道で、居眠り運転の車と正面衝突する事故でそのまま死んでしまった。始めは自分がどうなったのか分からなくて、家に戻って驚いたよ。僕の葬式の準備の最中さ。奥の部屋に変わり果てた僕が寝かされてて…
あまりのことに、ただオロオロして妻や同僚にも僕がここにいることを教えようとしたけど…ダメだった。もう僕の声は誰にも届かなかったんだ。
何も知らない娘の寝顔だけが救いだったけど葬儀も終わり、僕の体は灰になった。
思ったよ…もう全て終わったんだなぁって。通夜の夜、娘を抱いた妻が涙ながらに「お願い!帰って来て!」って叫んでたのが心に痛かったよ。

Dscf7281 せめてずっと側にいようと思ってた。だけど、娘がやっと壁をつたって歩き始めて転んで額を少し切ったのをすぐ前で見ていながら何もできなかったことで思った。何もできない僕はもうここにいるべきじゃないってことに…

全てを忘れるためにあても無く出て、そこで思いがけず出会ったのが、あの石炭さ。
飛びついたね。その話!ダメだと言われたら燃やしてやるって脅かそうと思ったくらいさ。彼は「いいさ!別に。」と軽く教えてくれたけど、変身前後を人に見られないように気をつけることと時間に限りがあることを教えられたよ。そのときの僕にそれが重大な問題には、考えられなかったけど夢のような方法だと感じてた…

Dscf7288 ところがだよ。喜び勇んで自分の家へ飛び込むように帰ってみたら歓迎どころか恐怖の的さ。「出てって!」と言われた。
当然だよね。僕の『死』は現実のものだったんだから。
僕は、つい軽率な考えに走ったんだよ。

Dscf7278 それで行く当てのない僕は、ここへ戻ってきた。でも自分がこのまま存在している意味はもう無かったと思う。
彼(石炭)は「第二の人生さ。楽しめばいいよ」と言ってたけど、そんな気力もなかった。ただ丘に来る鳥達を眺めたり、気晴らしにクマの奴をからかったりしてたよ。時間切れ寸前に腕を噛ませといて「ポーン」とはじけて消える…
クマのやつの悔しそうな顔ったらなかったね。

「えーっ嫌だ…」

そのうち、そんなことにも空しくなってきた頃にうっかりやっちゃったんだよ。爪の色が変色してチョコボールみたいだった。もう遅かったんだ。そして、そのまま…こうなった。でも、どうでもいいやと思う。こうして何も考えずに転がってるのも悪いこっちゃない。
たまにイタズラに来る奴らに踏まれたり転がされたりはしたけど…

Hacca 「…かわいそうな話ですね」

「いや、それほどのことじゃないよ」

「でも、このままでいいんですか?お嬢さんのこと見守ってあげることもしないで…」 

探ったポケットの底に…あった!ハッカ飴

「…今さらね。辛いだけだよ」

「私がお譲さんだったら、わからなくてもいいから側にいて欲しいです。何もかも捨てても思い出はどこまでも付いてきますよ」

「……もう遅いよ。ここからは出られない」 

「遅くないです!私がやってみます!」

「ダメだ!それは自然との約束を破ることになる!甘くないんだ!」

「自然がそんな仕打ちするなんて私は認めない!」

Light 私は、自分に変なところがあることに気が付いていた─
─何か不思議な力が私にあること─
─私のポケットには、いつもなぜか『ハッカ飴』があること─

ずーっとそれが『意味すること』を考えていた。
そして試してもみたし、練習もした。だからこのくらいの石なら…
ハッカ飴が口の中で融け出すと、なにか新しい力が湧きあがるのを感じる。

Rockbrifgt 頭の中でイメージする。この石を砕くことを想像する。
その想いは、掌から糸のようにかすかでハッカのように透き通った光の筋を放つとスーッと音も無く、染み込むように石の中へ消えていく…
これでいい何度もやってみたとおりだ。うまくいけばたぶん…

石はゴトゴトと音を立てて揺れだす。

ドーン!

Bom 「わっ!ビックリした!!」 石は、大きな音とともに粉々に破裂。同時に光の粒も飛び散った。土埃が舞い上がり、辺りはよく見えなくなる。窓から建物のどこかにいた鳥さんたちがあわてて飛び去っていくのが見えた。

「だ…大丈夫ですか?!」 自分でやっておきながら、あまりのことに驚いた。
石の欠片もない!私、やりすぎた?丸ごと吹き飛ばしちゃったのかな…
やがて埃が静まっていくと、石があった場所に白い影が浮かび上がってきた。

Fun 「いやぁ…荒っぽいね…」

「すいません!ごめんなさい!やりすぎました!」

「いや!やっぱり君の言ったとおりかもしれない。僕は自分の境遇に悲観してやるべきことをしなかったんだ。それに気づいたときは、もう遅いんだと思ってたよ。…だから返ってありがとう!」

「いえ!いいんです。私こそ…ありがとうございました」

「僕は、家族の元へ行くことにする。僕の娘の将来を見届けるために。君はこれからどうするの?君のご両親はどうしてる?」

Nagisa_holga 「わからないです。私のせいでどこかへ行ってしまって…ともかく旅を続けます。いつか会えるかも知れないから…それに今はいろんな経験ができるので楽しいんです」

「そうか…頑張ってね。それと君の手に入れた力…できれば、それで誰かを幸せにしてあげて欲しいな」

「はい!そうします。それじゃあ失礼します」

ペコッと頭を下げると、建物を後にした。
丘に吹き上がってくる風の中から遠くへ行けそうなのを探す。

Wait 「あーっそうだ!言い忘れてたよー。その体でいるときは、風に乗ったりとかできないよ!普通の人と一緒だから。時間までは体から出られないんだからねー。もっとも普通の人が死んじゃうほどの怪我でもすれば体のほうが分解するけどー」

「えぇえーっっ?!」 それぇ…キツイなぁ…

「とりあえず歩いて行きます。アハハハ…

無限の空が急に遠く感じた。
あのクマ…出てこなきゃいいな…

Last

かつて炭鉱として栄えた街跡の丘に佇む建物は、人にとって失ってしまった過去の象徴なのでした。

このふた棟も屍のような朽ちた体を晒してやがて無に返っていくことでしょう。
でも無は単に「ゼロ」ではないのです。
「ゼロ」は始まりのことでもあるのです。
そこから見渡す景色はどこまでも無限。今までも、この先もずっと…

人生はやり直せないというけれど大自然の一部と考えれば「ゼロ」に還るものではなく「無限」の一部なんだ。…そう思います。

だから、ここは始まりの場所 そういうことにしておきましょう

Youtube「0の丘∞の空」 遊佐未森

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2008年7月21日 (月)

0の丘∞の空⑤ 再生の光

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悲しみにくれるようなくすんだ壁の色に反して、色鮮やかな苔に覆われたその石は、まるで緑豊かなひとつの星のようにも見えた。
人探しに夢中で何度もその脇をすり抜けていたから石に話しかけられたとき驚いたよ。

Green_storn 「あの…私、ナギサっていいます。こんにちは…」

「はい こんにちは」

「実は私、幽霊で…あの、旅してるんですけど向こうの道のそばにいる『セキタン(石炭)』さんに聞いて…あの、魔法みたいなので生き返った人がここにいるから見てきてくれって頼まれたんですけど…」

Dscf7327 「うん それで?」

「あ…勝手に入ってすいませんでした。…私、その人を探してるんです。」

「そうか、その人とは、たぶんボクのことだよ」

えっ!この石が?! あ…待て待て!またココロを読まれてたら大変だ!
でもこの石が生き返ったことがある人ってのは何かおかしいなぁ…
そんなことを考えるので、つい石から目をそらせてしまう。本当の人が近くに隠れていて様子を見られてるんじゃないかって気もした。

Dscf7375 「実は…わたしもその『生き返る魔法』を教えていただきたいのですけど…」

「彼(石炭)に聞いたのかい?」 「はい…」

「君は、いくつで霊だけになったの?」

「9歳です」

「9歳?! 9歳か…ずいぶん早いんだね…そうは見えないけど」

「こ…これは、見た目だけ変わってるんです」

「いろいろあったんだろね。いいさ!彼にことわったんなら教えてあげるよ」

「ホントですか?ありがとうございます」

ずいぶんいろいろ聞く人(石)だなぁ…

Dscf7399 「ただし、残念だけど言っておくよ─」

「え…」 急に口調が変わって、私は思わず後ずさりしてしまった。

「『生き返る』ってのは無理なことなんだ!残酷なことを言うけど…それが自然との約束なんだよ…この術を知った人がみんな生き返って普通に生き続けられたら、たぶん世の中はメチャクチャになってしまう。人間の世界だけに係わらずね。これはこの星だけじゃなくて宇宙全体の約束事なんだよ。」

「…」 『無理』 やっぱりそう?
命は、やっぱりひとつだけなんだね…。
そんな都合のいい話は、やっぱりないのか… 
期待してた分だけガックリした…考えてなかったわけじゃないんだけど。
あれ?目の前がユラユラして見える。
私、また泣き出してしまったんだ。

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静かな丘の家の大きな家の中、私の涙を押し殺そうとするかすかな声だけが響いていたんだろう。
しばらくして、その石は、また話しだした。

「でも、自然は決して無情でもないんだよ。むしろその逆さ。それができるのが、この術なんだ。彼(石炭)が遥か太古の昔に土に埋もれたとき、土に還らずに自分達の姿をこの世に残すために見つけた術がこれなんだそうだ。それには『自然とのちょっとした約束』を守らなければならない」

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ちょっと難しい話になるけど…
この世の中にあるものは、硬いものや柔らかいもの、軽いものや重いもの色々ある。例えば青々と茂る木の葉と川原に転がっている石は、見た目も触った感じも違うということは君にも解るだろ?

はい…

Ge027_l ものには、それぞれ持って生まれた豊かな『性質』というものがある。
人の世界でも、その性質は違っても、そもそも『ものというのは何からできているか?』という疑問が昔から学者の間には、あったんだ。
最初それを解こうとした人は、水と火と空気と土という風に考えていたけど誰もが納得できる答えではなくて、ずっと後の時代になってから『分子』というものが発見されたんだ。さらにその分子は『原子』というものが組み合わさってできているということもわかってきた。
わかるかい?この話

─えーっよくわからないです…

うん。難しい話だよ。でも100年くらい前にその『原子』も実は、『電子と陽子と中性子』というモノすごく小さいものからできていることまでわかったんだ。

Dscf7296 ─???─

つまり、葉っぱも石も元を正すと同じ目に見えないような小さい粒が積み木とかパズルみたいに組み合わさってできているということなんだよ。
少し別のものも含まれているけどおおよそ、この三つのものからできていると思っていい。
その組み合わせのほんのわずかな違いが、硬いものや柔らかいもの…空を行く雲もそれを見上げる人も、その人が乗っている自転車さえも作っているんだ。
そして、君が生きていた頃の体も、今の姿も全ておんなじっていうことなんだね。それは自然が全てやってきたことなんだ。

Dscf7363 はあ…

そのパズルの破片は、何もないように見えるこの空の下に無限にある。
それを自然から借りるのがこの術だ。
ただし、それは借り物でしかないから生きている頃の姿になれるのは、ほんの短い時間。人から見れば生きている人と変わらないし、時間内なら生きている人と全く同じと思っていい。

─その時間って…どのくらい?

その破片の質によって違うけど僕の経験では、一番いい状態ので4時間くらいだろう。その後は、自分で体を壊して元に戻らないと…

どうなるんですか?

僕のような姿になるよ。体は一気に縮んで、ずーっと閉じ込められることになる。約束を守れなかったことへの罰だね

…それでその姿に? 聞いてゾッとした。永遠に石の中に閉じ込められる自分のことを想像して…。

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「…で、どうする?やめるかい?」

Dscf7294 自分のことだけど自分じゃ決められない気がする。どうしよう…ホントの体じゃないっていうし、うっかり時間を忘れたりしても『シンデレラ』のお話みたいには、なりそうもない。
あーっ頭の中がゴチャゴチャになってきたよ。
落ち着け!そう言い聞かせて目を閉じる。

「教えてください。そのために来たんです。お願いします…」
ココロにあの人の笑顔がよぎって、そう答えた。

「わかった。それを決めれば決して難しいことじゃないよ。それと約束して欲しい。これは誰にでも教えないこと!良くないことを考えるのもいるかもしれないし、生きている人たちを困らせることになっちゃいけない。術を使うところや解くところを見られるのもいけないよ。仲間の霊であっても…」

「わかりました」

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Nagisa_flash昔、たくさんの人が住んで、たくさんの人が住んで賑やかだった街。
時代が変わり、人も家も消えて全てを失った街は、この「ゼロの丘」に痛々しくもかすかな記憶を残している。
でも、無くなったのは目に見えるものだけで、無限のものがここにはあったんだ。どこまでも空が続いていくように…
小さな数え切れないほどの光があちこちから私の体に絡みつくのを感じながらそれを思ってた。

先の不安もあったけれど、今は気持の何かが勝っている…

Nagisa_rebirs やがて、まとわり付く全ての光が静まった…
そっと腕を動かしてみた
あっなんだか…今までと違う感じがする
そう、吹き込んできた風が頬をくすぐるのもわかる!

うまくいったのかな?

「おめでとう!成功したよ。思った以上の出来だ!」

(つづく)

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2008年7月14日 (月)

0の丘∞の空④ 緑の石

Dscf0661_2 おしゃべりなセキタン(石炭)に聞いた道をさかのぼっている。
この道を行ったら大きな家がふたつ並んでいて、そのどちらかに探してる人がいると言うのだけれど…道はどんどん寂しくなってきたよ。
こんなところを歩いていたら、お化け…いや、何か出てきそうだな…。

私の知らない昔、ここは人がたくさんいた街で家やお店もたくさん並んでいたそうだけど、今はそんなこと全然分からないほど寂しさが落ち葉みたいに積もってしまったようだ。

ガサガサッ…!

「ひっ?!」 な…なに?

Kuma ヤブの中から出てきたのは大きいクマ!
ぬいぐるみのクマとは違って見るからに怖そうな顔をしている

─途中にずるがしこいクマもいるかもしれないから気をつけてね─

そうだ…聞いてたんだ! イヤだ!食べられる…!

「ん…?なんだカスミか…腹の足しにもならんな!カスミがこんなところで何してるんだ?」

「私…ナギサです。『カスミ』じゃない…」

「んぁ?俺のひと吹きで吹っ飛ぶんだから『カスミ』だろうが!さては丘の上の家に行くんだな?」

「知ってるんですか?まさかクマさん…その人を…」

「ハハハ…アイツはもう、煮ても焼いても食えんよ!お前、アイツのところに魔法でも習いに行くんだろ?うまくいったら俺様が美味しく食べてやるから来な!ガハハ…」

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クマは身をひるがえしてヤブの奥へ去っていった。
あーっビックリした。『食べてやる』なんてごめんだよ!
でも帰りに会ったらヤだな…
なんで歩いてきちゃったんだろう…
ハチミツばっかり食べてるんじゃないんだろうな…クマって

Dscf7269 道を登りきると広い草原に出てきた。でも草原と遠くにある山と木しか見えない。
「あれ…まちがったのかなぁ」
クマに驚いて違う道に入ったのかもしれないね…。
振り返って道を戻ろうとすると…

「あーっ!あった!あれだーっ!」

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大きな横長の建物がふたつ丘の上に並んでいる…でもボロボロになってとてもかわいそうな姿。回りを草原に囲まれて、ここに前からいたというよりも、どこからかここに運ばれたみたいにポツンと立っている。
ホントはこの回りにも他の家もたくさん並んでいたんだろうか。
なんとなく想像できない…

とにかく、あそこに私の探している人がいる!

Dscf7361 遠くから見た以上に壁はボロボロ。なにかのお菓子みたいにも見える。
もう片方は、まだきれいな壁をしているけど同じところにたっているのにずいぶん違うんだなぁ…

左の壁がきれいな方へ行ってみる。入口が見えないので窓から失礼。あれ?床がない。あちこちから草のつるが家の中を覗き込んでいる。

Dscf7258「こんにちはーっ」 返事は返ってこない。この雰囲気だと、やっぱりいないのかもしれないな…。

─お前、アイツのところに魔法でも習いに行くんだろ?─

クマさんはそう言ってた。どこかには、いるんだろうか。広い家だし、ふたつあるから、もうしばらく探してみよう。

行く先で、いろんなお家の話を聞いてきたけれど向こうから話しかけられることはあっても私から話しかけて応えてくれる家ってあまりない。家も無口なところもあるんだろうか?

あちこち見て歩く。家は人が暮らしていた名残を少しづつ見せている。ここに暮らしていた人たちはどこへ行ってしまったんだろう。
ここには人がたくさんいて、街があった。
あのセキタンを必要とする人たちのため、ここに住んだたくさんの人達が地面の下のずっと深いところで仕事をしていたそうだ。

Dscf7374 落書きやシールの跡がある。私みたいな子どももいたんだね。
近くには学校もあったかもしれない。
あの『渡れない橋』が渡れた頃に“セキタン”をたくさん積んだ汽車が行き来してとてもにぎやかだったんだろう。

Dscf7262 この世の中は私の知らないことのほうがたくさんあって、それを見て回りたくて出てきたけれど、人の目が怖いから自然と寂しいところをたどる旅みたいになっている。
ここまで来て「生き返る方法」の話を聞いてあわてて飛びついた。
だけど私はそうして何をしようっていうのだろうか?

無くした時間を取り戻す?
─取り戻せる?この家みたいにただ取り残されていくだけじゃないだろうか?
うーん…私、学校ちゃんと行けなかったから、あまり頭良くないみたいだし、わかんないなぁ…でもカズ君と会える日の不安はなくなりそうだから、それだけでも気持が軽くなれそうだよ。

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始めの建物はくまなく回ったけど、ここには誰もいないみたい。
隣へ行ってみよう。

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Dscf7408 壁のブロックがカスカスになって、あちこちに穴も空いている。
ずいぶん長い間、雨や風に耐えてきたんだろうなぁ…ここにいた人はここのことは忘れちゃったんだろうか?ここでの思い出のことなんか…
2階へ向かう階段の途中に子どもの絵が見えた。女の子が描いたようだ。私も部屋の壁に描いて怒られたことがあったよ。ずっと小さい頃で何を描いたかも覚えてないけど…

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Dscf7402 「うわぁっ!」

壁の絵に気を取られて階段を上りきったところで足元に骨が転がっているのを見て驚いた。

「何?なにがあったの?」

壁沿いに避けるように回り込みながらその骨を見ていたらどうやら人の骨ではないようだったけど他にも骨がいくつか散らばっていた。
これは、さっきのクマの仕業かな…たぶん

「骨が気味悪いのかい?」

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Dscf7265 声にハッとして辺りを見まわした。いる!あの人が!
でも見えるところには誰もいない。確かに声がしたけど。
突き当たりの部屋の影に隠れているのかな?そっと近づいていく。
部屋の入口あたりに緑色の大きな石が落ちていて(こんな大きな石を誰かが投げ込んだ?)その向こう側の部屋に誰もいなかった。
ガラスどころか枠も無い窓や壁の穴から風がゆるやかに吹き込んでくる。

「どこにいるんだろう?」 でも確かに声はしたよね。気のせいだった?

「こっちだよ」

Dscf7302 今度は後ろから声がした。部屋に入るときは回りにいなかったのに…
あれ?向こうから私は見えているの?

「どこにいるんですか?!」

「さっきからここだよ!」

すぐ近くで声が聞こえる。ホントにすぐ近くで─

苔むした入口には、これもまた苔がびっしり付いた緑色の大きな石があるだけで、脇の部屋にも誰もいなかったはずなのに…

…石?

「やっと気づいたようだね」

話しかけてきていたのは、なんとその石だったんだ…

(つづく)

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2008年7月 6日 (日)

0の丘∞の空③ 黒いダイヤ 

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たしか、この辺に住んでいるらしいんだよね…

Dscf7817 緩やかなカーブの道の上にどっしりと座る大きな門を越えて歩いていく。
他には何もなさそうな所だけど、倉庫っぽい青い屋根が目に入ったのでそっちへ向かって歩いていくと、一軒家が見えてきた。

「あっあそこだな─ 

走って戸口まで行き、とにかく会ってみようとノックする。 …音がしない。そっか…私、幽霊だった…

「ごめんくださーい ごめんくださーい…」

─? あれ?中から反応はない。
まてよ その生き返れた人って、私みたいな「幽霊」の声なんてもう聞こえないんじゃないかな─?

「えーっ! そいつはまずいよ!

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玄関が開いていたので中へ入ってみる。

Dscf8154 薄暗い部屋、誰かいる様子はないみたいだ。
「すいませーん…」 やっぱり返事は返ってこない。
他の部屋も見て歩くけど、家具とか何かの道具がたくさん散らかっているだけ…

Dscf7801 しばらく探してたけどこれ以上は無駄のようで表に出ちゃった。
「出かけてるのかな…それとも、どこかよそへ行っちゃったのかな…」
辺りを見回してみたけど元は何だったか解らないほど崩れた建物がいくつかあるだけ。
体はないから疲れないはずだけど、気持ちがすごく疲れてきた…

Gg106_l

Dscf7434 「どうしたんだぁい、お嬢さーん? 湿っぽいハートにゃ火は点けられないよ」

「誰? どこにいるんですか?」 誰かすぐ近くにいる!

「こっちさ、横を向いたら大きい記念碑が見えるだろ?そこの上だよ」

記念碑? あそこだ!パッと駆け寄ると小ぶりで真っ黒な石が乗っている。
あっそうだ!「黒い石」を探せって言われてたんだ。

Sekitan

Dscf7423 「あ…あの!『黒い石』さん!私、聞きたいことがあって来たんです!」

「まぁちょっとお待ちなさいな。武骨だけど『石炭』って立派な名前があるんだ」

「セキタンさん…ですか?」 なんだろう『セキタン』って

「今時の子は知らないか…これでも小さい日本を世界と対等に渡り合える国にする為に地の底から来て働いた存在なんだよ。要するに『社会基盤』を作っていたんだな。今はナヨナヨした『石油』に歩を奪われちゃったけどさ…『黒いダイヤ』って呼ばれて大事にされたこともあるんだよ」

Dscf7427

Dscf7425 …それからの話が長かった。私は良く長話を聞かされるけど難しいなぁ…
『石炭』というのは大昔の植物が埋められて、すごく長い間、地の底の熱や土の重さで『炭化した石』、要するに植物の化石になるんだそうだ。

この道の先に『炭鉱』があってそこから来たらしい。
その『炭鉱』というのがこの国のあちこちにあって、そこから掘り出された『石炭』さん達が日本の『産業革命』の原動力になっていたそうだ。『石油』に取って代わられるまでは…でも、話がやっぱり難しすぎる。私が学校で習っていたのは、まだ『私たちの町の仕事』だったから

「全然分かってないようだね。お嬢さんには難しすぎたかなぁ?ハハハ…」

なーんだぁ?このちっこい石。それよか早く聞きたいことがあるんだけどなぁ…

Dscf7433

「まぁ君の気持も分かるけど、話を聞くのも社交辞令だよ。知りたいことは教えてあげるけどさ」

「えっ!なんで…?」まるで心を読まれてるみたいだ

「ちゃーんと顔に書いてあるよ。思ってることがさ」

「…あ ごめんなさい…でも、どして?」

「僕達にはそれだけ歴史があるってことさ。人間がこの世に出てくるずっと前からね。それにあいつにその方法を教えたのは僕だから」

「そうなんですか?!」

今日は意外な話ばかり聞かされる日だなぁ。この石コロみたいな…おっと、ヤバイよ。

Dscf7249

「あのぉ…私も教えて欲しいんですけど…」

「あぁ、かまわないよ。ただし頼みがある」

えーっ難しいことかなぁ…まいったなぁ…

Dscf7242 「そう難しくもないよ。君の探している男はそこのわき道を上がって行ったところに住んでいるんだ。ヒトの世にずいぶん未練があるらしくて、生き返る方法があるよって話を何かの拍子に話したら、『是非教えて欲しい!』って言うんでね。それで、想いを遂げに帰っていったようなんだけど戻ってきてね、すっかり別人みたいに落ち込んでいたなぁ… 次にここに来たら聞いてみようかと思ってたんだけど、もう1年以上見かけなくなって気になってるんだ。たぶん…ボクの話した忠告を忘れて失敗したんじゃないかなぁって思うのさ。だから様子を見てきて欲しい」

Dscf7424 「わかりました。見てくれば、その方法を教えていただけるんですか?」

「うん!もちろんいいともさ。彼がいれば彼に教えてもらってもいいよ。それは許す。もし彼があそこからいなくなってたなら、それでもいい。ここへ戻っておいで」

「はい!…で、その忠告ってなんだったんですか?」

「それもそこに行って彼がいれば分かると思うよ。あの道を登りきったところにヒトの言うところの大きくて『古い』アパートがあるんだ」

「はい!行ってきます! それにしてもそんなところにアパートがあるんですか?」

「そうとも!ボクラが頼りにされていた頃は、このあたりは家や店がたくさん並んでいたのさ。このあたりも、海沿いの駅の回りにもね。でも。ヒトは『豊かさ』を手に入れると、どんどん先の方ばかり見て、それまでのことを忘れてしまうようだ。それで鉱山も閉められて、ここの街もなくなっていったんだ。要するに『本末転倒』っていうのかなぁ。ここじゃそれは2回目のことなんだけどさ。」

あのコケシたちのいたところもそんな風にさびしくなっていったんだね。

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「あーそうだ!途中にずるがしこいクマもいるかもしれないから気をつけてね。」

えぇっ!クマ? ちょっと待ってよ…

(つづく)

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2008年7月 1日 (火)

0の丘∞の空② 渡れない橋

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「私も生き返られるんですか?!」

Dscf1712「まぁ そんなに慌てなさんな…わしがそれをできるってわけじゃないんだよ。そうして生き返ったヒトがこの近くにいることを鳥に聞いたことがあってな」

慌てるなって言われても『幽霊が生き返られる話』を聞かされて落ち着けるだろうか! 私もそんなことなんかできるとは思ってもいなかったけど、話を聞かされたらいても立ってもいられない!

「爺さん、まったく無責任だな!又聞きの話でよォ!」

コケシたちは呆れた様子だった。
おじいさん(家)はしばらく黙っていたけど、やがて話し始めた。

Dscf3976 「それで娘さんは何故に生き返ることにこだわるのかな? ヒトの世界は苦しみが多いそうだからなぁ。無理して戻ることもなかろうに…しかし、ヒトの心も厄介なのかな」

「ご老人、あなた言いだしっぺで真理を説いてどうすんですか?」

「…私、9歳で終わっちゃったからたぶん、何も知らないんです。でも生きてることは、もっと楽しそうだって思うんです。うらやましいだけでいつも隠れて見ていなくちゃならないのが辛いんです…それで」

Dscf3526 「へーっ9歳?子どもじゃん。見えないなぁ…」

「見せかけだけ変われるのを覚えたんです。でも何にも変わらない。人のいるところへ行っても誰からも見えないか、気味の悪いものにしか見えないらしいから…私、普通に人の中に入ってみたいんです」

「面倒なものですね。ヒトにしかわからないんでしょうけど…」

「でもよォ、短かろうが長かろうが始めの命を終わらしてヒトの世から離れたら、もう俺たちと仲間じゃないかなァ?俺たちは元々一本の木だけど、生まれたことも死んだこともあったのか無かったのか全然わからねーよ。オサラバしちゃった世界にいつまでもこだわってもいらんないだろ!」

Dscf1707

ずいぶんハッキリいうなぁ…でもそうかもしれないね。
…そうなのかもしれない。

Dscf8298 「見たわけではないんだよ。鳥達の話では、そこの道を反対側へ山の方へ行ったところに古くて大きな家があってな、そこにそのヒトが住んでいるそうだ」

「その人、その方法は教えてくれるでしょうか?」

「いや、会ったことはないでな、詳しいことはなんとも…でも確かな話だと聞いているよ」

「ほら無責任だ…」

やっぱりそういう人がいるんだ。できれば生き返る方法を教えてもらいたい。いや、なんとか教えてもらわないと!

私の「死」がなかったことになったら─悪い夢のようだった何年間は霧のように消えてなくなるような気がしてた。ひとりぼっちで家にこもっていたあの時間、それが無くなってどこかへ行ってしまったママもそしてパパも戻ってきて─カズ君とも普通に会えていた…会えてた?
それはどうだろう…どうなんだろう?

でも、隣に越してきてたんだから会えたんだよね?
私、生きてても会えたよね?

Koke 「よう!ナギサよう!聞いてんのか?」

「あ…はいっ! ごめんなさい」

「でも、それは自然に逆らうってことじゃないでしょうかね」

「そうだよ!長い短いはあっても自然は何も特別扱いしないんだ」

「うん…そうなんだろうけど…」

なんだか弱気になってきた。そんなことやっぱりダメだろうか…

「まだ、決まったわけじゃないんだ、会ってくればいいさ。何もしないで口だけ達者なら、このコケシ共と変わらんよ」

「キツイぜ、じいさん!…ったくよー」

Dscf3967

「決めました!私、行ってみます!」

「そうか!こういう身なもので、これ以上はなんの力にもなれんが、良い結果になることを祈ってるよ」

Dscf0848 「行くのですか?恐ろしいところかもしれないですよ」

「決めたんなら仕方ないね」

「うん!ありがとう!私こそ何の助けにもなれなくて…」

「おいおい!俺達別に不幸じゃないんだぜ!ヒトとは違うんだ」

そっかぁ…そうだよね。自分の置かれた立場を考えないでいること…それはそれで幸せなのかもね。

「道なりに行くと『道を横切る渡れない橋』があるから、そこをくぐったら黒い石を探しなさい。鳥達はその話をそいつから聞いて確かめにいったそうだからな」

「はい!ありがとうございました」

「ダメでも落ち込むなよ!ダメなら…ここで良いなら来いよ!」

「うん!ありがと!ホントは、やさしい人…コケシなんだね!」

なにも言わなかったけど少し照れてるようだった。

「またいつか、話を聞かせてください」 「そうだよ!」

「うん!きっと」

Nagisamist

Dscf7233 表に出ると、まだ霧が立ち込めてまだ空気はひんやりしている。
口にハッカ飴を放り込んで海と反対に向かう風を捕まえた。
『道を横切る渡れない橋』…? 『黒い石』…? なんだか不思議な目印だな。

Dscf7269

いくらもしないうちに両側に山が連なって寄ってくると風が逃げようと上に登りだす。
目標を見失わないように道沿いに走る風に乗り換えて目を凝らしつつ、でも風の背から転げ落ちたりしないようにしながら先へ。
海から離れるごとに霧がだんだん薄くなって、木や道や家がハッキリしてきた…

Kyo 「あ…あれ? 『渡れない橋』」

道の途中に大きなコンクリートの塊がふたつ
道をはさみこむように立っていた。
渡るところがなくなっているから『渡れない橋』だよね?
近くまで降りて見たその姿は上から見るよりも大きくて古代遺跡のように見える。

Nagisa_on

ホントにあった。あったよ…
もうドキドキしてきた…

その橋は、橋と言うよりも門のようで、ここから先が別の世界のように感じた。少し怖い気もしてきたけど今さら逃げるわけにはいかないね。

(つづく)

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