Some small hope ①
満たされぬまま広がる あらゆる夢
私たちの前を通り過ぎていく あらゆる生き物
私の孤独な魂は ささいな思いに悩む
けれど真心だけは 純粋でいられる
真っ青な空に雲が優雅に踊る
筋状に広がって一斉に同じところへ流れていく雲
どこへ行くでもなく空の真ん中で孤独に浸る雲
回りを巻き込んでどんどん湧き上がる雲
その中を大抵の人には見えない小さな光の軌跡を残しながら
「ナギサ」と言う名の幽霊が雲の間をぬって飛んでいる
空のものは決して地を這うものを見下しているわけではなく
地に下りることがかなわないがため、憧れの視線を下ろしているのかもしれません。
雨上がりの空を飛んで 久しぶりに人のいる街に来た。
緑の広がる中に街を見つけたら行ってみたくなった。
たくさんの家 私のいたところよりたくさんの車が走ってる。
そんなに忙しく、どこへ行くのかな?
大きな橋の上にある塔が空を突き破ろうと背伸びしてがんばっているよ。
橋の上にもたくさんの車が走ってて、みんな あくせくと楽しそうだ。
顔には出さないけど、生きてることを楽しんでるんだね。
少し人恋しくなっったんだろうか。でも、私みたいな『幽霊』が見える人がいるかと思うと降りてみる勇気は出ないな。
だから高いところや隠れられるところを選んで様子を伺っている。
街の真ん中に大きなコンクリートの橋が長く横たわっていた。その上を列車がゆっくりと駅に向って入っていくところが見える。青くてスラッとした体が光ってとてもきれいだ。
大きな三角定規の上に立って人の流れを眺めていた。
─間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号発車の時刻です…
「バンザーイ! ロックシンガーシゲオ! バンザーイ!」
えーっ!なんだ…? ひとりで大声でバンザイしてる人がいる…
「ち…ちょっと…やめてくれよ! おおげさだなぁ…」
「なに言ってんだよ! RUINSの代表にエールを送って何が悪い! 笑いたいやつは笑わしとけ! バンザーイ!」
あぁ!見送りかぁ… 嬉しそうだなぁ あの人、友達なんだね。
ともだちかぁ…友達欲しいなぁ…
見ていたら、何だかやるせなくなってきたよ。街を離れることにしょう…。
山の方に向かって走る風を捕まえて飛び乗った。
途中、ずーっと屋根の波が続く先にお城のようにそびえる緑の塊が見えた。
「あそこは何だろう?」
ちょっと寄ってみよう…
まるで森の中のみたいに木々や草が茂っていて木でできた道が続いている。誰かいるかもしれないから様子を見に入口の方へ行くと立て札があった。
「木道の老朽化により通行を禁止します 委託管理者」
後ろの漢字が分からないけど、どうやら道が壊れているので、人は入れないみたいだ。
ちょうどいいから少しここで休んでいこう。
聞えるのは鳥のさえずりと、そよ風に踊る葉の音。
時折聞える車の走る音が懐かしい波の音に聞える。
地上に降りてまわりを気にしないで歩けるのは、やっぱり気分がいい。
街中なのに、こんなに静かなのは人が来ないせいだけではないようだ。
途中、子どもの姿を見なかったから、今日は学校のある日なんだね。
旅に出てから曜日が分からなくなった。
お家にいた頃は、窓から外を覗くとランドセルを背負った子が見えたりして何となく曜日が分かったけど、今の私は毎日が日曜日…でもこの間、先生のところに行ったから久々の登校日だったな。
そういえばその前に寄った学校で男の子と女の子に会ったっけ。
1年生だけど86歳と90歳と聞いてびっくりしたよ。
でもあの子、言ってた…
「アタシとカッちゃんは、ずっといっしょに遊んでいたいから1年生の頃に戻ったの! できるんだよ!ただ、考えればいいの。昔の記憶よりは小さいけど、来るはずだった未来の記憶も心の中に眠っているからね」
そうだ大人になりたかったな。ホントだったら私も今頃は中学校へ通っていたんだけど取り戻せない時間のことを考えても仕方がないからずーっと考えてなかった。そのときの私は、どんなだっただろう。
…ずっと前に見たママのアルバムで見た写真のことを思い出した。
「ナギサは小さい頃のママに似ているから中学に上がる頃は、こんな子になってるね…」
そうだ、あの写真のママが、私がなれた姿なんだよ。
そう思ったとたん、軽いけど「ズーン」とめまいがして体が光の粒みたいにバラバラに弾けた気がした。
すぐ、何もなかったみたいに元の私に戻る…
「え…何だ今の…」
おや?何か変だ!急に回りがさっきまでと違うような…頭の上にあった木の枝がすぐ近くに見えた。たぶん踏み台の上にいるみたいに回りが少し違って見えた…ってことは…背が伸びている?
「あれ?成功したの?」
掌を見ると、手も指も自分じゃないみたいに大きくなっている。足もそう。
「鏡…どこかに鏡ないかな?」 でも、すぐ思い出した。自分が鏡に写らないことを…
「うーん… くっそー!!」 思わず大声を出してしまった。
「うるせぇな!!」
えっ?誰? どこにいるの? あわてて回りを見たけど分からない。
「誰だお前! ここは立入禁止だ!」
声のする方を見ると屋根のあるお家見たいな所に誰かが立っている…
中学…高校生かな…? ポケットに手を突っ込んでイラついた顔の男の人…
私が分かるってことは…仲間だよね?
「すいません 知らなかったんです」
そういうこの人はここで何してる?…と思ったけど、ちょうどいいから聞いてみた。
「あのーっ 聞いていいですか? 私、いくつに見えますか?」
「バ…ババア…?」
なんなの?この人!
(つづく)
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