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2008年6月17日 (火)

ススキノ廃屋

普通に道を走っていても車窓から見えないもの
そういうものが目に入るのはなぜだろう?
それほど能力があるとも思えませんが、時として普通じゃ目に入らない…
そんなところに行き着くのは、もしかすると向こうから誘われているのかもしれない。

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残念ながら、ここは札幌市の一大歓楽街「薄野」ではありません。
あちらのススキノは、遠い昔ススキで覆われた静かな大地だったそうですが、現在は心の隙間を埋めたり、繕ったりする場所になったようです。
あちらはあちらでアルコールの力やネオンの幻惑では見えない「静の癒し」が見え隠れしていますが、今回はかつてススキに覆われて再びススキに覆われることになったところです。

「うーん 枯れススキしか見えない…」

Dscf9102_2 自分の背丈を軽く越える細く枯れたススキの群生地。
でも回りの雑草とは違って異常に群れた様子に何となく何かあるな…と感じました。
近くに小川があるわけでもなし、沼がある様でもなさそうだし…しばらく回りを観察して横へ大きく回ってみると脇のほうから屋根の縁が覗いている。

Dscf9124 そう思ったのも以前、山際のススキで覆われた廃屋が淡水魚の養殖業を営んでいた痕跡を見たことがあるからです。

屋根が見えるなら間違いない。建物が隠れている。

生簀などに注意しながらススキが幾重にも重なった中へ踏み込んだ。

程なく住居の全体が見えた。木造モルタルの平屋らしい。
夏至が近いとは言え、山を抱えたようなこの場所じゃ日没も近いし、藪や木立で暗くなるのも時間の問題。
屋内は、ことさら暗くなるので時間はかけたくない。

「早めに片付けよう…」

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Dscf9103 ところが意外と中が明るい。家の反対側にはススキの群生はないようだ。
明るいのはそれだけでなく、屋根と天井の崩落が初夏の陽射しを適度に呼び込んでいた。
旧家とも言い切れない屋内、冷蔵庫とソファーが1脚見える。この手の感じだと大抵、主が居を手放したのは、およそ1970年代初期頃だろうか。
回りに他の納屋などの様子もないことから農業とも言い切れない。
養殖業にしても規模が中途半端。まだ敷地の奥に何かは残っていたかもしれない。

とりあえず、この家だけは調べておくことにして…

Dscf9107 出窓の手前にシールが並べて貼られてある。妖怪というかモンスターというかお目にかかったことのない異形のキャラクターが整列。居間兼台所の室内に残るシンクはすでにステンレス製だが、まだシステムキッチン化する前の木枠に板金張りしたもの。
お風呂はまだタイル張りのポリバス以前の品物。釜はすでに灯油式です。ひとり掛けソファーの座面は、小動物の仕業らしく大きく抉れていました。

「おや?こんな山の中で…」

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Dscf9118Dscf9111  魚網が一塊、浜に打ち上げられたかのように床で亡骸を晒していました。
やはり、生簀がどこかにあるのかも…湧水が豊富な場所は、意外とニジマスなどの養殖が試験的に行われていたようです。
北海道とはいえ、隣町が米作の盛んな地域でもあることからこの一帯もかつては田んぼの広がる地域で、米作減反から養殖に鞍替えというのも無い話ではありません。釣り堀を生業とする元稲作農家も一時期はあちこちで見られます。

Dscf9120 Dscf9110 この町は、アイヌ語で「崖の間にあるところ」の意を持つ地域でこのあたりで栄えたアイヌ民族の発祥の地でもあり気候は温暖なようです。
反面、山脈が連なる地形のためか、しばしば集中豪雨にも晒されていたようで、十数年前に車のワイパーも役に立たない川のような雨を体験したことがありました。
あるいは、そんな天災で生業をあきらめざろう得なかったこともあったのかもしれません。

Dscf9122 人は去っても家は静かに残る。
やがて存在意義を失って力尽きるように崩れ落ちていく姿は、自分を元の無に戻すための孤独な清算作業のようにも思えます。
そんな一刹那、ここを訪れて本物の静寂に身を置いたときに心を過ぎるのは、自分のものではない家の持つ記憶の欠片のような気がしました。

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Dscf9119 自分なりに労いの念だけは送りたいものです。
かけがえの無い時間の功労者達のために…

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コメント

ススキノの屋台団地を連想させます。
最近は廃屋を見つけては「なぜここに!」って思うことがありますね。
どんどん深みにはまりそうです。

投稿: カナブン | 2008年6月17日 (火) 21時15分

廃墟は、用法・要領を守ってお楽しみください。
過度の世襲は兼行に師匠を来たします。

投稿: ねこん | 2008年6月17日 (火) 21時48分

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