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2008年6月25日 (水)

0の丘∞の空① 鉛色の海

廃墟を絡めた一連のお話に出てくるナギサという子は、幽霊です。
「幽霊」とすると現世に執着して彷徨っている感じがありますが、こう思ってください…
─『身体』という器(ケース)から解き放たれた『存在』と

Top_sky

しかし、器は、不要な物ではありません。
多くのものはケースを見て買う。ケースがないと価値が落ちるものもある。
大好きな音楽の本質はディスクの中にあるのにケースも大事なように。
見た目が重要なのか、中身が本質なのか…人とその心とどこか似ているようです。
いずれにしても中身の価値も器の真価も生きてこそ上げられる。

問題なのは、秤も物差も実にあいまいなことです。

ナギサは、ケース(身体)を失った子。
心の自由さがありながら、自由になりきれないのは、失ったものがあまりにも大きかったからなのでしょう。なぜならば、この子自身の「ドキドキしたこと」や「泣いたこと」も実はケースがあってこそ。
そして『廃墟』は、中身を失いつつ失った中身を語るケース。捨てられた空き箱のような存在ですけれど…どこか捨てがたいのです。

Sky2

海を見に来た。
霧をかき分けてやっと来たから今どこの海にいるかは良く分からない。
でも、どこでもいいから海が見たくて─

霧に包まれた海は、鉛色でどんよりしていたけど波は力強く浜を洗い続けている。

Sea1 「うーん いいよねー 海…」 
いつも海の端っこだけで大海原というのは、見たことがないけど、それだけでいつも胸がいっぱいになる。
いっぱいになってつまらない悩み事が押し出されるみたいだから海が好き。
いつか本で読んだことがある。海は、あらゆる生き物のふるさとで、海から離れるとき海を忘れないように体の中に海を作った。それが「血」らしい。
だから体の中の海は目の前の海と同じで「命の元」を運び続けているそうだ。
体の無い私もそうだと思う…。

Dscf7578 血の通う体、欲しいな…ほんの短い時間でも…
「約束の日」に『私、実は幽霊でした!』ってわけにいかないなぁ。
いっそ約束とかみんな忘れちゃって、このまま彷徨っていようかな。
その方が辛い思いしなくていいかもね…

「…あーっ!こんなこと考えに来たんじゃないんだよ!」
打ち寄せる波のドーンという音でモヤモヤした気分は、とりあえず弾け飛んだようだ。

カタタタン…カタタタン…
後ろの駅を電車が止まることなく走り抜けていく。

Nagisa_station

Dscf7239 すぐ近くに駅があるのにホームは誰もいない。近くに家がいくつか見えるけれど、人の気配のする家はほとんどなくて辺りはただの草原。どうしてこんなところに家を建てたんだろう…
「なんだか寂しいところ…」

「なんだい!ずいぶん言ってくれるじゃないか!これでも元は賑やかな街だったんだよ!」
急にどこからか怒鳴り声が聞こえた。

「えぇっ!すいません!」 

…でも誰? 見渡すけどどこにも気配はない。駅の中にも外も…

「あの…どこにいるんですか?」

「こっちですよ…」 「…?」

近くに見える傾きかかった家から聞えてくる

「お家さん?」

「違うよ!このポンコツは居眠りばっかりで喋りゃしないよ!」

House_inあれーっ?なんだか声がバラバラだなぁ

「いいからさっさとこっち来いよ!」

「はい!おじゃましまーす…」

とは言ったものの声の相手はどこ?
家具がケンカしたみたいにあちこちに転がっている。
床も力なく崩れているから歩きにくい…

「踏まないでくださいよ!」

「えっ…あっ!」

足元に小さなコケシがいた。

「なーんだ!こっちの声が聞こえるから何者かと思ったら人間の幽霊か」

「で、何しに来たんだ?」

Dscf3524

「あなたね…自分で呼んでおいて、そんな言い方は無いでしょう?この子が可哀そうじゃないですか」

「口が悪いのは生まれたときからだよ!」

Dscf0808 コケシの兄弟(?)が床に転がって言い合いを始めた。ほかにもお仲間がいたけど面倒なのか眠ったふりしてるみたい。
そんな様子をボーっと見下ろす私。人が見たらこれは奇妙に思うだろうね。

「まぁ!ここにお客は何十年ぶりだからいいじゃないか。…で、あんた誰でどこから来たんだい」

「えーっと ナギサです。もともとよその海辺にいて、それからあちこちに行って…」

「ぜーんぜんわかんねぇや」

うへーっ キツイなぁ、そのリアクション…

「聞き方が悪いんですよ!すいませんねーこいつは波の音と汽笛しか聞こえない毎日で魂が腐っているから口が悪いんですよ。気にしないでください。退屈していたのは私も一緒です。あなたの見てきたことや聞いてきたことの話を聞かせてくれませんか。ヒトの話も久しぶりですんで」

Dscf0847

「そうですか。じゃあ何から話せばいいのかな… 私、海辺の町で生まれて…」

それから話したのは─

私が生まれたところのこと 学校に通った時 事故で今みたいな姿になったこと ずっと家の中にこもってたこと 

隣に越してきたカズ君と友達になったこと いろんな話をしたり、夜にふたりで出かけたり そしてカズ君はまた引っ越すことになって いつか会いにくるよと約束したけど、また元のひとり…

それから─

Dscf4047 南から来た人に風の乗り方を教わったこと

旅に出るようになっていろんなものをみたり聞いたり 出会ったり…

ずっと宇宙人を待つ一つ目の巨人

空を駆ける馬とちょっと変わったお家 

湖であった相棒さん(猫)と旅するおじさん

ずっとカクレンボしている86歳と90歳の小学1年生

誰もいない学校を守っている先生

古いお家の写真を撮りながらケンカしているカップル

森の中で外の全てを憎んでいた人…

青い空や流れる雲 すごいスピードの電車 虫みたいにうごめく自動車

うまく説明できないけど思いつくままに話した。

Dscf3525

「へーっいろんなことあったんだな」

「ひさびさに面白い話を聞きましたよ。ありがとう」

Dscf3530 「いえーっそんなたいしたことじゃ…」

「…で、その『グズ』とかいうやつってホントに来るのかい?」

「『カズ』っていってたでしょ。失礼ですよ」

「えーっそれは…約束したし…」

「ちょっと言いすぎじゃないの?それ」

「でも、現実だろ?大事なことさ。向こうは相手が幽霊だって知らないんだろ?いくら好きだってもさ、幽霊だって分かったら逃げちまうだろさ!そんな勝手なんだぜ。人間はさ、自分と違うと認めないって!」

それは、なんとなく思ってた。分かってたけどそれを言われるとすごく悲しい…。 また、涙がガマンできなくなった…

Dscf4022

Dscf1707 「ほらーっ泣かしちゃって…アンタはデリカシーってものがホントにないね。同じ木から削りだされたなんて認めたくないですよ」

「なんだよ!人間社会はもっと厳しいらしいんだぜ!こんなことでいちいち泣いててどうすんだよ!」

「それと泣かせていいかってことは、ぜんぜん別だろ!だいたいこの子は、もう人間社会にはいないよ」

Dscf1712 「そうですよ。アンタは鬼ですよ。人間がどーのこーの言っててもヒトより劣る!コケシの風上にもおけませんね。」

「じゃぁ!どうしろってんだよ!」

「責任とれ!」 「そうです!」

「わかったって! なぁ!何つったっけ…?そうナギサさんよ!そんなに泣かないでくれよ」

Shot 「うわぁーっ!」  バン! バン!

これ以上もう何も聞きたくなかったから耳を押えて大声で叫んだ。
窓ガラスが何枚か弾けるように砕けて散った音が響く。

「あぁっ何事だ?コケシ共め!また何か悪さしとるのか?」

ずっと静かだった家がその騒ぎで覚めたようだ。

「こいつが可哀そうなヒトの女の子を泣かせたんだよ。」

「うっせーな!チクるなよ!」

Dscf3531 「もういい!黙れ、小童が!!話は何となく聞いてたさ。なぁ娘さん、ちょっと気を落ち着けてこの翁の話を聞いてくれないか?」

まともに話せそうもないから黙ってうなずく

「あんたが体を失って嘆いているのなら何か力になれるかもしれん!あんたは生身の体になれる方法を探しているのかな?」

「えっ?─」

意外なことを聞かされて涙が引っ込んだ

「爺さん!あれ教えんのかよ。まずいぜ!この子生き返らせる気かよ!」

─生き返らせる…?

Dscf7442

「だまっとれ!いずれにしても決めるのはアイツじゃ!教えるくらい構わんだろさ」

「生き返ることなんてできるんですか?それ教えてください!」

(つづく)  

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2008年6月21日 (土)

廃墟荘の光

Dscf5852

新アルバム「廃墟荘の光」アップしました。
右側メニューよりお入りください。

「たぶん知らないうちに解体されるんだろうな…」と思っていましたが。幸運にも解体作業開始前に見るチャンスに恵まれました。
意外と人に荒らされた痕跡は皆無と思われます。

Dscf9591 平日、昼の小1時間の調査で、200枚以上撮り上げる興奮気味の物件です。
今日(21日)から2週間程度の予定で解体作業が本格化するそうで、消える前にアップしました。

何も残すことはできず、ここから全て運び出されていく運命。
止める事もできなければ、止める理由も無い。

でも、「留める」ことはできました。
それだけでもね…

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2008年6月17日 (火)

ススキノ廃屋

普通に道を走っていても車窓から見えないもの
そういうものが目に入るのはなぜだろう?
それほど能力があるとも思えませんが、時として普通じゃ目に入らない…
そんなところに行き着くのは、もしかすると向こうから誘われているのかもしれない。

Dscf9101

残念ながら、ここは札幌市の一大歓楽街「薄野」ではありません。
あちらのススキノは、遠い昔ススキで覆われた静かな大地だったそうですが、現在は心の隙間を埋めたり、繕ったりする場所になったようです。
あちらはあちらでアルコールの力やネオンの幻惑では見えない「静の癒し」が見え隠れしていますが、今回はかつてススキに覆われて再びススキに覆われることになったところです。

「うーん 枯れススキしか見えない…」

Dscf9102_2 自分の背丈を軽く越える細く枯れたススキの群生地。
でも回りの雑草とは違って異常に群れた様子に何となく何かあるな…と感じました。
近くに小川があるわけでもなし、沼がある様でもなさそうだし…しばらく回りを観察して横へ大きく回ってみると脇のほうから屋根の縁が覗いている。

Dscf9124 そう思ったのも以前、山際のススキで覆われた廃屋が淡水魚の養殖業を営んでいた痕跡を見たことがあるからです。

屋根が見えるなら間違いない。建物が隠れている。

生簀などに注意しながらススキが幾重にも重なった中へ踏み込んだ。

程なく住居の全体が見えた。木造モルタルの平屋らしい。
夏至が近いとは言え、山を抱えたようなこの場所じゃ日没も近いし、藪や木立で暗くなるのも時間の問題。
屋内は、ことさら暗くなるので時間はかけたくない。

「早めに片付けよう…」

Dscf9113

Dscf9103 ところが意外と中が明るい。家の反対側にはススキの群生はないようだ。
明るいのはそれだけでなく、屋根と天井の崩落が初夏の陽射しを適度に呼び込んでいた。
旧家とも言い切れない屋内、冷蔵庫とソファーが1脚見える。この手の感じだと大抵、主が居を手放したのは、およそ1970年代初期頃だろうか。
回りに他の納屋などの様子もないことから農業とも言い切れない。
養殖業にしても規模が中途半端。まだ敷地の奥に何かは残っていたかもしれない。

とりあえず、この家だけは調べておくことにして…

Dscf9107 出窓の手前にシールが並べて貼られてある。妖怪というかモンスターというかお目にかかったことのない異形のキャラクターが整列。居間兼台所の室内に残るシンクはすでにステンレス製だが、まだシステムキッチン化する前の木枠に板金張りしたもの。
お風呂はまだタイル張りのポリバス以前の品物。釜はすでに灯油式です。ひとり掛けソファーの座面は、小動物の仕業らしく大きく抉れていました。

「おや?こんな山の中で…」

Dscf9114

Dscf9118Dscf9111  魚網が一塊、浜に打ち上げられたかのように床で亡骸を晒していました。
やはり、生簀がどこかにあるのかも…湧水が豊富な場所は、意外とニジマスなどの養殖が試験的に行われていたようです。
北海道とはいえ、隣町が米作の盛んな地域でもあることからこの一帯もかつては田んぼの広がる地域で、米作減反から養殖に鞍替えというのも無い話ではありません。釣り堀を生業とする元稲作農家も一時期はあちこちで見られます。

Dscf9120 Dscf9110 この町は、アイヌ語で「崖の間にあるところ」の意を持つ地域でこのあたりで栄えたアイヌ民族の発祥の地でもあり気候は温暖なようです。
反面、山脈が連なる地形のためか、しばしば集中豪雨にも晒されていたようで、十数年前に車のワイパーも役に立たない川のような雨を体験したことがありました。
あるいは、そんな天災で生業をあきらめざろう得なかったこともあったのかもしれません。

Dscf9122 人は去っても家は静かに残る。
やがて存在意義を失って力尽きるように崩れ落ちていく姿は、自分を元の無に戻すための孤独な清算作業のようにも思えます。
そんな一刹那、ここを訪れて本物の静寂に身を置いたときに心を過ぎるのは、自分のものではない家の持つ記憶の欠片のような気がしました。

Dscf9116

Dscf9119 自分なりに労いの念だけは送りたいものです。
かけがえの無い時間の功労者達のために…

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2008年6月14日 (土)

Some small hope ②

Dscf9292

Dscf9285 「ここは俺の公園だ!さっさと出てけ!!」

大人の姿になれてちょっと気分が浮かれてたら、この人に急に怒鳴られた。
あっけにとられてポカンとしてた。
『立入禁止』のところに入ったのは私が悪いとしても…俺の公園ってどういうこと? 我が物顔で言いたい放題の態度に少しムッとしてくる。おまけに『ババア』まで言われてさ…

Dscf9363 「俺のって…公園はみんなのものなんじゃないですか?」

「なんだ?生意気だぞクソガキ!さっさと帰れ!」

えぇっ?今度は『ガキ』? 人のことなんだと思ってるのさ!
そいつは、始めから話なんかするつもりはないって感じで家(東屋)へ上がっていった。

「ちょっと!なんでなんですか?いきなり『出てけ!』って言われても…」

考えてみると私は人のことに首を突っ込みすぎたのかもしれない。
背格好が大人になったから気も大きくなっていた

「生意気だって言ってんだろ!」

Shot2

Leaf そう言ったとたん、手が私の方に飛んで来るのが見えた…
その途端、ものすごい衝撃を胸に感じて後ろに飛ばされた。
後ろにあった木にぶつかって根元に崩れ落ちる。
まだ、青々とした葉がハラハラと落ちる。さっきまで聞えた小鳥のさえずりもピタッと止また。
森の中は風と違うざわめきが起こり始める。

Nagisa_fall 飛ばされた時、木にぶつかった体は痛くはないけれど、心にすごい痛みが走る。こんなこと初めてだ… 

Leaf_fall_down 「え…あ…?」 何か言おうとするけど驚きでうまく話せない…

「ここは俺の森だ!生きてるヤツだろうが幽霊でもここを犯すのはゆるさん!俺を無視した奴も親も先公もここに入ってくる奴は絶対に許さんからな!なんならブッ殺してやる!!」

なんなの?この人…すごく恨みに満ちてて、みるみる心が黒くなっていくのが分かった。

Dscf9361

Dscf9271 「…どうして…?」

「俺は何年も学校で、見に覚えのないことで人間以下の扱いをされてたんだよ。毎日のように殴られたり、金せびられて…親も学校も目の前で起こらないことは信じちゃくれねぇし…みんな無視して助けてくれなかったから…俺の『死』であいつらを戒めてやろうとしたんだよ!ところがあいつらは、無罪放免さ」

あいつら? 殴られる? 金? 無視? 戒め? どういうことなの…
でも、この人がいじめられていたんだってことは、何となく分かった。
俺の『死』で戒めるって…まさか?

Dscf9316 「自殺…?」

「そうさ!ここで首吊った。ここは、俺って亡霊の出る心霊スポットだよ。 死んでんのにまだ、からかいに来るんだよ!バカ共が『肝試し』とか言ってさ!」

「その人たちに何かしたの?」

「やったさ!脅かしたり、失礼な奴は道を壊して怪我もさせてやった!だからここは立入禁止になったけどな」

「それ…違うよ。間違ってるよ…それじゃ何も変わらない!あなたがいじめられたように、この森があなたにいじめられてるんだよ!」

Evil_black

「なに?! 生意気だぞ!ぶっ殺してやる!!」
その人は、みるみる黒ずみだして悪魔のような顔になった
その恐ろしい視線だけでもチクチク刺さってくる

殺す? 誰を殺す? 私を この幽霊の私を殺せるの?
まさか、と思ったけど…

「やめて!」

憎悪に満ちたものが私に向ってきたとき、思わず叫んだ
同時に私の頭の中で何かが「ギンッ!」と音を立てて…

Evil_gost

「あ─…」

その黒い恐ろしい影は、一瞬でどこかへ消え失せた

私は、何かした?   私が、何かした!   私は、何をした?

Dscf9355

森は、ほんの今まで起こっていた恐ろしい出来事を何も知らぬかの様に静まり返っている。どれだけの時間が経ったのか小鳥のさえずりも戻ってきて、何かが終わったことを感じた。

Dscf9358_2  怖かったよ
ホントに殺されるかと思ったよ

危機は逃れたのだろうけどまだ、怖い
私が今、何をしたのかということが…

森は、何があったのか教えてくれない
私は、聞こうともしない

座り込んだまましばらく泣いてた

Dscf8497

暗くなって、町外れの空家に泊まった

「お客さん どうしたんだい?」

「…」 

お家さんが声をかけてくれたけれど、私は部屋の隅で、座ったまま黙って闇を見つめている。
さっきのやつが闇の中から飛び出してきそうな気もしてたから…

Dscf8307「外のことでも話してくれないかい?」

「…うるさい!」

「おやおや、何だか荒れてるねェ…」

「あ…ごめんなさい…」

私もおんなじだ あの人と同じ…
明日は、元の私に戻ろう
朝が来たらきっと…

たったひとつの小さな希望を持って…

You tube: Some small Hope/Virginia Astley

※この公園の木道は実際に老朽化で通行に危険とのことから、数箇所の通行が禁止されています。
ここは、地域の開拓時代を彷彿とさせる原生林と湿地の残る緑地公園です。
不法投棄、樹木の成長による近隣住居の日照不足などの問題はありますが、市内数箇所に残る緑地帯の中でも秀逸の場所です。
 木道が再整備されていないのは、財政難が起因しているのかもしれませんが、実証は分かりません。

※このお話の内容は創作であり、この緑地公園で同様の事件・事故等の過去はありません。

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2008年6月11日 (水)

Some small hope ①

満たされぬまま広がる あらゆる夢
私たちの前を通り過ぎていく あらゆる生き物
私の孤独な魂は ささいな思いに悩む
けれど真心だけは 純粋でいられる

Nagisa_top

真っ青な空に雲が優雅に踊る 
筋状に広がって一斉に同じところへ流れていく雲
どこへ行くでもなく空の真ん中で孤独に浸る雲
回りを巻き込んでどんどん湧き上がる雲

その中を大抵の人には見えない小さな光の軌跡を残しながら
「ナギサ」と言う名の幽霊が雲の間をぬって飛んでいる

空のものは決して地を這うものを見下しているわけではなく
地に下りることがかなわないがため、憧れの視線を下ろしているのかもしれません。

Dscf8339_3  

Dscf8401 雨上がりの空を飛んで 久しぶりに人のいる街に来た。
緑の広がる中に街を見つけたら行ってみたくなった。

たくさんの家 私のいたところよりたくさんの車が走ってる。
そんなに忙しく、どこへ行くのかな?
大きな橋の上にある塔が空を突き破ろうと背伸びしてがんばっているよ。
橋の上にもたくさんの車が走ってて、みんな あくせくと楽しそうだ。 
顔には出さないけど、生きてることを楽しんでるんだね。

少し人恋しくなっったんだろうか。でも、私みたいな『幽霊』が見える人がいるかと思うと降りてみる勇気は出ないな。
だから高いところや隠れられるところを選んで様子を伺っている。

Dscf7217

Dscf5876 街の真ん中に大きなコンクリートの橋が長く横たわっていた。その上を列車がゆっくりと駅に向って入っていくところが見える。青くてスラッとした体が光ってとてもきれいだ。
大きな三角定規の上に立って人の流れを眺めていた。

─間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号発車の時刻です…

「バンザーイ! ロックシンガーシゲオ! バンザーイ!」

えーっ!なんだ…? ひとりで大声でバンザイしてる人がいる… 

「ち…ちょっと…やめてくれよ! おおげさだなぁ…」

「なに言ってんだよ! RUINSの代表にエールを送って何が悪い! 笑いたいやつは笑わしとけ! バンザーイ!」

あぁ!見送りかぁ… 嬉しそうだなぁ あの人、友達なんだね。
ともだちかぁ…
友達欲しいなぁ…

見ていたら、何だかやるせなくなってきたよ。街を離れることにしょう…。
山の方に向かって走る風を捕まえて飛び乗った。

Dscf8400

Dscf8550 途中、ずーっと屋根の波が続く先にお城のようにそびえる緑の塊が見えた。
「あそこは何だろう?」

ちょっと寄ってみよう…

まるで森の中のみたいに木々や草が茂っていて木でできた道が続いている。誰かいるかもしれないから様子を見に入口の方へ行くと立て札があった。

「木道の老朽化により通行を禁止します 委託管理者」

後ろの漢字が分からないけど、どうやら道が壊れているので、人は入れないみたいだ。
ちょうどいいから少しここで休んでいこう。
聞えるのは鳥のさえずりと、そよ風に踊る葉の音。
時折聞える車の走る音が懐かしい波の音に聞える。
地上に降りてまわりを気にしないで歩けるのは、やっぱり気分がいい。

街中なのに、こんなに静かなのは人が来ないせいだけではないようだ。
途中、子どもの姿を見なかったから、今日は学校のある日なんだね。

Dscf8535 旅に出てから曜日が分からなくなった。
お家にいた頃は、窓から外を覗くとランドセルを背負った子が見えたりして何となく曜日が分かったけど、今の私は毎日が日曜日…でもこの間、先生のところに行ったから久々の登校日だったな。

そういえばその前に寄った学校で男の子と女の子に会ったっけ。
1年生だけど86歳と90歳と聞いてびっくりしたよ。
でもあの子、言ってた…

「アタシとカッちゃんは、ずっといっしょに遊んでいたいから1年生の頃に戻ったの! できるんだよ!ただ、考えればいいの。昔の記憶よりは小さいけど、来るはずだった未来の記憶も心の中に眠っているからね」

Dscf8525

そうだ大人になりたかったな。ホントだったら私も今頃は中学校へ通っていたんだけど取り戻せない時間のことを考えても仕方がないからずーっと考えてなかった。そのときの私は、どんなだっただろう。
…ずっと前に見たママのアルバムで見た写真のことを思い出した。

「ナギサは小さい頃のママに似ているから中学に上がる頃は、こんな子になってるね…」

そうだ、あの写真のママが、私がなれた姿なんだよ。

Lifht

Dscf8538 そう思ったとたん、軽いけど「ズーン」とめまいがして体が光の粒みたいにバラバラに弾けた気がした。
すぐ、何もなかったみたいに元の私に戻る…

「え…何だ今の…」

おや?何か変だ!急に回りがさっきまでと違うような…頭の上にあった木の枝がすぐ近くに見えた。たぶん踏み台の上にいるみたいに回りが少し違って見えた…ってことは…背が伸びている?

「あれ?成功したの?」

掌を見ると、手も指も自分じゃないみたいに大きくなっている。足もそう。

「鏡…どこかに鏡ないかな?」 でも、すぐ思い出した。自分が鏡に写らないことを…

「うーん… くっそー!!」 思わず大声を出してしまった。

 

「うるせぇな!!」

えっ?誰? どこにいるの? あわてて回りを見たけど分からない。

「誰だお前! ここは立入禁止だ!」

Bad

Dscf8527 声のする方を見ると屋根のあるお家見たいな所に誰かが立っている…
中学…高校生かな…? ポケットに手を突っ込んでイラついた顔の男の人…
私が分かるってことは…仲間だよね?

「すいません 知らなかったんです」
そういうこの人はここで何してる?…と思ったけど、ちょうどいいから聞いてみた。

「あのーっ 聞いていいですか? 私、いくつに見えますか?」

Dscf8540 「あぁっ? わかんねぇこと聞くなババア!!」

「バ…ババア…?」

なんなの?この人!

(つづく)

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2008年6月 4日 (水)

GIRLS GO MANIAC

Dscf5257

「えぇ~?! なんで、あんたがいるんですかぁ?!」 
以前、とある廃屋を撮りにいったときにバッティングしたヤツと、またもや出会ってしまった…

24phan02 「いきなり『なんで』は、ずいぶんなごあいさつですね…久しぶりの再会なのに…」

「再会って…ち…ちょっとおかしいじゃないですか? こんな遠い所のマイナー物件で鉢合わせなんて絶対変ですよ…あ~っ分かった!あなた私のブログ見てますね?」

「えっ?ブログ開設してたんですか?」

くっそー!こいつ絶対見てるよ。しらばっくれやがって!…何でも載せるもんじゃないなぁ…全く!…ってことは、こいつのコメントに真面目にコメントしてたかもしれないな…え~誰だろ?気持ち悪りィ~!もしかしたらエロいカキコばっかりしてくる『赤座』とかいうやつか? 
「あのぉ~あなたどこの誰なんですか?」

Dscf3690 「だから、前も言ったじゃないですか。わたしは『廃墟』を司る神ですよ」

ンなわけネーだろ!このタコぉ!こいつが廃墟神ならアタシゃ廃墟ミューズだよ!…いや待てよ、それじゃ同類じゃん!
「いや…神って言われても…」

「とにかく、別に悪意はないですし、ジャマもしませんからフレンドリーにいきましょうよ。同じ『廃墟』を愛するもの同志なんですよ」

えぇえっ?! …はい…」
うーっこんな僻地まで来たのに何も撮らないで帰れないし、ヘタに怒らせたらヤバイな…完全にストーカーだよ。いや!サイコかもしんないな…全く今日の占い最低じゃん!何が『ハプニングと素敵な出会い』だよ…しかもラッキーカラーは水色って…こいつも着てるじゃないのさ!…なんか具合悪くなってきた…
やっぱり、ひとり探査はヤバイんかな…とにかくこの場は、うまくしのがないと…

Dscf5284

えっ?何だろ。神様とか言ってたよ。普通の人みたいだけど…

Dscf3676 私はナギサ 旅する幽霊。
夜空は暗いし、風が落ち着つくことが多いので、辺りが暗くなると人がこなさそうな、こんなお家で休ませてもらう。
誰もこないと思ってたのに、夜が開けきらないうちにあの神様だという人が来て、あちこち写真をたくさん撮っていた。
強い光にビックリ! 隠れて様子を見ていたら今度は、あの女の人まで来た。でもあまり仲は良くないみたい…
どっちにしても今は、この家から出られないなぁ…

Dscf3665

とりあえず撮ると決めた手前、三脚に愛機をセットした。でも後ろが気になってしょうがない。心霊スポットの噂があるところに入ったときもこんなに緊張しなかったな…
これは、やっぱりリアル恐怖だよ。いざとなったら、この三脚で過剰防衛に出るしかないな…しっかし撮るわけでもなくその辺を物色して何やってんだろ?
 「あの…撮らないんですか?」

「いやぁ!ボクは早めに入って撮ってたんですよ。早朝派なもんで!」

 

そうだよー。撮ってたよ。さんざん… 私撮らないでねー 

 

Dscf3660 「そうですか…」 嘘こけェ!待ち伏せだよ 絶対待ち伏せ! こんな道から見えない廃屋で偶然なんてありえない!

「おや?ハガキですよ官製はがき!しかも5円ですよ。今の十分の一だ。45円分切手を貼ったら使えるかなぁ…」

Dscf6023

「さぁ?どうでしょうね…」 目もくれないで、とりあえずシャッターを切り続けた。でも注意は、前じゃなくてずっとアイツに向けてたから、いつもよりピタッと絵が決められない。

 

「ねぇ?お家さん。あの人たち何をしてるの? 女の人すごく怒ってるみたいだし」

「さぁ~こんな老体を撮ってどうしようってのかね…でも、男の方は前にも来たことがあったな」

「へえ~じゃあ知ってる人なんだ!」

「いや…知らないねぇ。何十年ぶりかで人が来たと思ったら、写真機と太巻きみたいな物をたくさん持ってたけど…」

「太巻き?運動会のお弁当に入れるやつのこと?」

「いや!写真機に太巻きは付けないでしょ? どうせならもっときれいな頃に撮って欲しかったね」

Dscf5282

うーん教えてもらったとおり、なかなかレアなところだね。いい感じの廃れ具合じゃない。あれ…あの神様はどこだい?…いいや今のうちに撮っちゃお おっ階段発見!

ギッ… ギッ…

 

「わぁ~上がってきたよ…どうしよう…」

隣の部屋の奥に納戸があるからそこに隠れておいで

「ハーイ…」

Dscf3684  

まさか上に潜んでるってことないよね?用心しないと…あっ部屋がある。
「うわぁ~すっご~い!」
とにかく夢中でシャッターを切る。
なんて言ったっけこれ、なんとかフラッグ?」

Dscf3680 「ペナントですよ」

げっ、いた…

「すごいでしょーここ。これだけのものが残されているのはちょっと無いですよ」

「?…知ってるんですか? ここ…」

「そらそうですよ。君にここ教えたの僕ですから… いつもカキコしてくださるお礼ですよ」

「うええええぇーっ?! まさかぁ?」

「そう!私がジンです。『神』と書いてジン。だから『廃墟を司る神』なんですよ。先ごろは不躾で失礼しました」

Dscf3685 「あの『廃墟楓』のジンさんですか?ちょっとぉーっ人が悪いじゃないですかぁ!」 
ジンさんって言えば、私がメールで良く相談とかする人で、写真の師匠と仰いでいる方じゃないか…!
それにしても、なんて謎かけだよ…そんなんわかるわけないじゃん!

 

あれぇーっ?なんか様子が変だよ…

Dscf3656 「あの時は知らなかったんですけど、後で掲示板を見たら『●●近くの廃屋で変なヤツにでナンパされた!』とかあったんで、自分のことだなぁーって。あまり、特定の場所はカキコしないほうがいいですよ。」

うっ…ヤベっ!何でもカキコするもんじゃないなぁ…
「すいません!あの時は、変質者かと思ったんです…」

「ずいぶん露骨に言ってくれますね。空手使いますよ!」

「は…ハハハ… お詫びにコーヒーでも…」

「喜んで。でも街まで1時間半はかかりますよ」

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はあ…やっと行っちゃったよ なんだろね?あの人たち…
「ねえ?お家さん こういうこと良くあるの?」

「ないって…」

※この小話は、フィクションです。登場する人物・サイトは、架空のものであり実際に存在する個人・サイトとは一切関係ありません。また、廃墟内での出会いが素敵なものである可能性はケースバイケースであることをご承知おきください。

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2008年6月 2日 (月)

「ぱだん ぱだん」の学校

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小学校は楽しいよ。

そんなことはないと言われても、本来そうあってしかるべきです。

幼稚園や保育所では、まだ早い─ 中学校以上は大人になり過ぎる

自分の考え方、すなわち自我と言うのがほぼ完成して、情報にも翻弄されすぎなくて、

多感で創造力もあるし、大人芸(画力・文章力)でも持たせれば最高の画家であり、前代未聞の詩人にもなれるでしょう。

大事なこと 大切なこと 大好きなこと カッコイイこと… そしてその反対のこと…いろんなことが光のように心に差し込んでくる。

蒔いた種が発芽するみたいな些細な事でも感動できる、ただ心が真っ直ぐな頃。

そう、こころのあり様に真っ直ぐになれるからです。

学校はひとつの社会です。

でも、そこが現代社会の縮図であってはいけない。

算数が苦手でどうにもならなかったけど、いじめられたこともあったけれど、小学校は楽しかった。どこが?と聞かれても答えようもなく楽しかった。

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Numa この町の外れにある湖の近くにそれぞれは離れていますが、背に山を抱いたふたつの廃校がありました。

 ナギサが目的の学校と勘違いして訪れた始めの学校は、地域特有の山々に囲まれた狭長な地形で、近くの市街地から数キロ走り、緩やかな坂を越えると右手に見えてくる学び舎です。一見「ここは学校?」と見まごうほどでした。

Dscf4830  大正2年頃から開拓の鍬が入れられ、戦後の緊急開拓期には18戸が入植してきましたが通学区である学校は遠く子ども達の通学、特に冬期間は困難で年間60~80日の欠席も余儀なくされる子もいたほどの環境であったそうです。

 後に学校設立期成会が結成され、国庫補助により昭和28年落成された戦後誕生の学校です。もとより戸数の少ない地区であるため、児童数も少なく2学級。(当然、複合学級と思われます)

Dscf4828  歴史も浅いことから輩出した卒業生の数も少なかったことでしょう。町史で見られる在りし日の学び舎は、見まごうことない学校の姿ですが、農機具庫等に再利用された姿は、すっかり変わり果ててしまったようです。

Dscf4844残された子ども達の図画が、主の元へ返されることなく散らばる物悲しい光景。でも、それがあるからこそ、ここが子どもの場所であったことを語ります。

ここにいたふたりは共に人生を全うして懐かしき日を取り戻し、永遠に終わることのないカクレンボをしています。そんな絵をここで見てみました。

もうしなくなって久しいのですが、メンバーがいれば今でもやってみたいですね。かくれんぼ…

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 次にナギサが向った学校は現在、幹線道も整備されて開けた印象も受けますが、最寄の市街地から15㎞。隣町との町界までもわずか5㎞という町の端に位置する学び舎です。 主要交通機関がバスのみという地域で、それすらも赤字路線として常に存続が危ぶまれていて、前出の学校と共に僻地級3級校の指定でした。

Dscf7991 閉校後は、一時期郷土資料館として使われていたようで作り置きの棚や展示品分類票がありますが、現在は全て搬出されて今は未利用の状態です。

 卒業記念の協同絵画や誰かの図画、物置に積まれた机や椅子。そういった遺物が解凍されることのない記憶を闇に封じ込めているかのようでした。

Futa  往年は、学校樹もふんだんに植えられていたようですが、数本の松が残るのみ。

校門も幹線整備の盛土のため、半分ほど埋まっています。

それでも町史に書かれた生徒たちが植樹した桜の木は学校の裏に残り、春には満開の花を咲かすことでしょう。もっとも再訪した頃は、この地まで桜前線は、まだ来ていませんでしたけど…

Dscf4740  これらの学校の歴史が閉じられた背景は、少子化ではなく基幹産業である林業の衰退や就農人口の減少などであり、昭和下半期の統廃合の多い時代にあって閉校記念碑や記念誌の類が残されるのは稀だったようです。

 かつては、校庭に立っていたと思われるモニュメントが敷石替わりに体育館の中で半ば捨てられるように寂しく横たわっていました…。

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 現在、両校とも農機具庫などで個人あるいは地域常会の管理にあります。

「ぱだん ぱだん」及びカテゴリ「ナギサ・フライト」の内容は廃墟を舞台とした創作であり、現地で実際に霊が存在するという根拠は全くありません。

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でも、ナギサのモデルになった子は、存在します。

いいえ… してました とするべきですね。

その子もずーっと小学3年生。

きっと風になってどこかを飛んでるんだろうな…。

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2008年6月 1日 (日)

ぱだん ぱだん ④

Room_on_2

最後に教室で席に着いたのは何年ぶりだろうか…
あの、夏休みが近いある日いつもどおりに帰りの会の後、いつもどおりに帰って、いつもどおり海へ遊びに行った。
まさか、全てが最後の日になるなんて思いもしないで。

あの日がなかったら私も今は中学生になっていたはずだったけど…
机の上を見ていたらなんだか目が潤んできた。

「ナギサさん?どうしたのですか?」

「いえ!なんでもないです…」

「話してください そのために来たのでしょう?」

それを言われて涙がガマンできなくなった。止められなかった。
たぶん、まともに話せないくらいに泣いて 泣いて 泣いた…

Dscf4746 言葉も出ないまま、ずっと考えてた。
あの日、波に飲み込まれて苦しくてもがいたこと

ずっと心の中で「助けて!助けて!助けて!」と叫び続けて波の中を転がり続けてやっと静かになったとき、そっと目を開けて見上げると水の向こうから差し込む光がとてもきれいだったこと

自分がどうなったか分からなくて、家に帰ってもパパやママが私に気が付いてくれなくなったこと

そして気が付いた。私がどうなったかということ…そして私ひとりが家に残されて毎日泣き続けた

そんなある日、隣に越してきたカズ君と仲良くなって、ずっと行きたかった海にふたりで行ったこと

カズ君は、また引っ越すことになって言ってくれたこと「いつかきっと来るよ」

そのカズ君もまさか私が幽霊なんて心にも思っていないだろうし、会えたとして私はどうしたらいいんだろう…
そんないろんな事のいったい何から話したらいいのか…

Dscf4729 「…そうですか ずいぶん辛い思いをしてきたのですね 可愛そうに…」

「え…?」 先生は、まるで聞いていたみたいなことを言うからドキッとして涙が一気に止まった。

「私…話してました?」

「いいえ ナギサさんの心の声がわたしに語りかけてきました。わたしには聞えるのですよ」

それを聞いたら、逆に恥ずかしくなってきた…

「でも、わたしには不思議なんですね…ナギサさんが普通にカズ君と話したり触れたり出来たことが…」

Dscf5180 考えたら確かに不思議だよね。
確かにカズ君は私が幽霊なんて分からなかったんだろう。

「先生?たまに私のことが見える人がいるみたいなんです。変な目で見られて、なんだかそれがイヤなんです…」

「たぶん見えないことが普通なのですよ。見える人たちには、何だかユラユラした霧か何かのようにしか見えないでしょう。わたしたちは体を失って心だけのような存在なのですから」

「じゃあ…どうしてカズ君だけが…?」

「たぶん…なにかきっかけがあったのでしょうけど 私にもはっきりとした答えはわかりませんね 残念ながら…」

そっか…先生にもわからないのか…

「たぶん、ナギサさんかカズ君のどちらか…もしかしたらふたり共に特別な何かがあるのかもしれないですね」

「…私もそんな気がします」

Dscf5166

「ナギサさんは、そのカズ君のことが好きなのですか?」

「えっ?!」 急に言われて カーっと顔が熱くなる…。

「せ…先生!」

「いや!ちょっと聞いてみたかったんですよ ハハハ…」

「そんなこと急に聞かれたらドキドキするじゃないですかー!」

「ドキドキ…? いや!ごめんごめん! …ところで、せっかく先生と生徒がいるのですから授業でもしてみませんか? わたしも先生といってもずいぶん授業などしていないものですから…」

「はい!」

Nagisa_book_2

それから先生と国語の勉強。
あんまり久しぶりで 嬉しくてずっとニンマリしていた。
先生も嬉しいらしくて、ずっとニコニコしてた。

「よくできました 普段からしっかり本を読んでいらしたようですね」

「ありがとうございます!」

「今日はこれまでにしましょう。続きは次ということで」

窓から差し込む光が長くなっていて、いつのまにか陽が傾いていたみたいだ。

「先生 ありがとうございました」

「いいえ!今日は私もとても勉強になりました。わたしこそありがとうございます。また、いつでも来てください」

Last

「先生? 先生は、なぜこの学校にいるのですか?」

「わたしは、自分で希望して小さな学校ばかりに来ていたんですよ。わたしが小学生の頃に通っていた学校もそうでしたから…同級生が3人くらいのね。そこも、卒業式を迎えることなく街の学校と一緒になりましたが、その頃の楽しい思い出が先生になったときも忘れられなかったのです。特にここは一番思い出が詰まっている学び舎です。だからここを去らねばならなかったときは子どもの頃のように泣きましたね」

「この学校も先生が去ったとき悲しかったんですよ 私に話してくれました」

Blanko 向こうで黄色いブランコがキィと鳴った。

「あのブランコも『私のことはどうなったのさ!』って言ってます!」

走っていってせっかちなブランコに飛び乗った。

先生は私のことをポカンと見ていた。
先生にはブランコの声は聞えてなかったのかな?

Sunset

「お世話になりました先生」

「これからどこへ行くのですか?」

「決めてないんです。ただ色々見て来たいなーって…お家にもいつか戻らなきゃならないし」

「そうですか 気をつけて旅してくださいね」

「あっ!そうだ!」 
「はいっ!」ポケットからハッカ飴を出して先生にあげた。

Hakka 「おや!これは懐かしいものですね…」
先生はなにやら不思議そうにハッカを夕日に透かしてる。

「どうしたんですか?」

「いや…秘密は意外と、これにあるのかなーってね…」

へぇっ?なんだろ…

「じゃあ先生さようなら! また来ます!」

「はい!さようなら それと…」

「なんですか?」

「学校にお菓子は持ってこないように」
先生は笑いながら言った

「はーい!ごめんなさい!」

グランドをすり抜けてきた大きな風の背に飛び乗って空へ舞い上がる
あっという間に学校は小さくなっていった。
先生ありがとう 聞きたかったことはまだあったけれど、それは私がもう少し考えることなのだと思います。おかげで心はずっと軽くなりました。

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その姿を見送りながら先生は思っていた─

ナギサさん
あなたは、ドキドキできる幽霊なのですね。
私ももう一度そんな思いをしてみたいですよ。心臓のないこの体ですけれど

でも、わたしたち幽霊は想いがあるから生き続けていられるのです。
思い出の中でただ留まり続ける私のようなものは別としても…

想いが叶うとき…それはわたしたち幽霊が『己』という最後の存在を終えて、この星の一部に戻るときなのです。それが涅槃というものなのかもしれません。
そういう方をずいぶん見てきましたが…ナギサさん、あなたにそのことは言えませんでした…

今のあなたにそれを言うのは酷だと思いました。それにあなたには、その輪禍に囚われない何かがあるような…そんな気もしたからなのです。
その源が何であるのか? わたしにはわかりません。
それは、あなた自身がこれから見つけることなのだとわたしは思いますよ…ときめきの幽霊さん。

この学び舎がここでふんばり続ける限り、わたしも存在し続けます。
また、ナギサさんと会えること、あなたのような子ども達に会えることをこころ待ちにしながら…

Nagisa_flight_sunset

「そっかぁ私、恋してたんだね…。さぁーっどこへ行こうかな…そう、風まかせだね。約束の日まで…」

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