« 名前のない馬 ① | トップページ | ぱだん ぱだん ① »

2008年5月18日 (日)

名前のない馬 ②

Past

Dscf8138 「ともかく!この際だから色々聞いてもらうけどね…」

ひやぁ~ …まいったなぁ…長くなりそうだよ。

変わった形に興味を持って降りてみたら、こんな個性の強い家と思わなかった…
すぐ逃げちゃえばよかったなぁ…。でも迫力に負けて動けなかった。

「近頃のガキ共ったら壊すことしか脳がないて言うかさ!こっちが黙ってるのをいいことにやりたい放題だからね。こちとら動けたら踏み潰してやるよ!」

「アハハ…そうですね…」

Dscf8092_4 「笑いごっちゃないよ! おたくら幽霊さんも一宿の恩を受けながら、いちいちそんな輩をからかうから、アタシらが幽霊屋敷呼ばわりされるんだよ!」

「あっ…すいません…ごめんなさい!」 

怖いなァ…この人(家)…

「あんた、いい子ネェ…素直で。いじめたら可愛そうになってくるわ…」

思ったほどそんなに悪い人(家)でもなさそうだ…

「えっと…いつからここにいるんですか?」

「そう…もう20年は過ぎたかねェ…まぁ立ち話もなんだから中に入って見てご覧なさいよ」

「はい」 入口を固く閉ざす雑草を飛び越えて中へ入った。

Nagisa_in

この辺りは、競争用のサラブレッドという種類の馬がたくさん飼われている。
そう!走るために生まれたみたいな美しい馬。
わたしもいつか見たことがあるけど、彫刻みたいに美しい体。無駄なものが何もないっていうか、ホントに走るために生まれてきたみたい…でも大きいから怖くて近づけなかったけどね…。
そんな馬たちがたくさんいるこの町で、馬たちが死んだときも人みたいにお葬式をする場所をこの見晴らしのいい山の上につくることになったそうだ。

Oil

「アタシができたところまでは良かったんだけどね。登記するときに失敗に気がついたみたいでさ…」

「失敗?」 『トウキ』とか難しい言葉がたくさんでてくる

Dscf8091 「アタシの中は3階建てになってるんだけどね。火事のときに人間を逃がすための階段とかをこさえないと消防署が建物としてはダメなんだってさ!この美しい体に下品なニシンの骨みたいな階段を付けないとサ!あーアタシにあんなものつけるなんて考えただけで耐えられないよ!」

私も学校に通っていた頃に避難訓練があって普段は使わない階段を使ったっけ。それのことなんだ。

「天気のいい日の夕方なら、この荒れ放題の山にアタシの美しい影が伸びるんだよ。サラブレッドみたいに美しいのがね。誰も見にきやしないけどサ。」

そっか! 縦長で耳のあるような、あの形は馬の顔なんだ。
どうも、その『トウキ』というのに失敗したことで、その後作られるはずだった火葬場とかを作り始めないうちに建てた人は、どこかへいなくなってしまったんだそうだ。

Dscf81132

「まったく!立場がまずくなったらすぐ逃げちまうんだからね。人間ってやつは!」

「すいません…」

Dscf8106 「何もアンタが謝ることじゃないよ。器以上のことをする奴が多いのさ人間ってのは…おかげでアタシも生きる意味がないままここにいるんだけどね。」

ひとりぼっちだったんだなぁ… それでこんな性格に?

「それでサ!その後ここに住み始めたやつもいたんだけど、道も満足に出来てないからすぐいなくなって、山の上の変な家さ。ガキ共が幽霊屋敷呼ばわりして壁は蹴るわ、石をなげるわ…挙句の果てにいい大人が山ほどゴミを置いていくし、やりたい放題だったね…。」

Dscf8130 「大変だったんですね…」 

話を聞いてて何だか可愛そうで泣けてきた…

「あらぁ!あんた幽霊のクセして泣けるんだねェ!」

「えっ?どうしてですか?」

Dscf8120 「だってサ、アタシが見てきたやつは、血の流れる体を持っていないから心もドライになってたみたいだよ。自分を神かなんかと思ってるのか態度ばっかりデカくてさァ!アタシらまで見下してるみたいだったよ」

「そうなんですか…」 体とふたつに分かれても困った人っているんだな…

「アンタは見込みあるから、そんなやつらと一緒になるんじゃないよ!」

「はい!」

Dscf8116

「ところでアンタ、どこ行こうとしているの?」

「あてはないです。約束している人がいて、その人が来る日まで旅しているんです。『家にこもっていたらホントに幽霊になっちゃうよ!』って言われたこともあるんですけど…あっそれは、別な人から言われたんですけどね」

「ヘェ~!お熱い話だねェ。その人も幽霊なんだろ…」

「いいえー!まだ生きてる人です」

「で…会ってどうするの?死ぬのでも待ってるのかい?それとも獲り殺してやるとかかい?」

「そんな…!そんなつもりじゃ!!」  

Dscf8139 その瞬間、近くの窓ガラスが歪んで『ギン…!』と音をたてて表面にヒビを走らせてはじけた。床にガラスのかけらが落ちて神経質な音を響かせる…

「な…何サ! 冗談だよ!」

「…あ…すいません…そんなつもりじゃ…」

なにか変な力を出してしまったようだ。この私が?

Dscf8104 「アンタ…その辺のザコ幽霊と違うんだね…」

「いえ…そんな…」

「…で、その人と会ってどうするんだい?」

「どうって…考えてはいないです。ただ会いたいだけで…」
たしかにどうしようかなんて何も考えていなかった…

「大事なことだよ。それは…すぐ答えを出さなくてもいいんだろうけどさ…」

「はい…」

「でも、うらやましい話だよね。アタシもさっさとブッ潰れて、この山からおさらばしたいモンだよ。…まったく痛みずらい体も恨めしいもんだよ。」

Dscf8119きっと! いつか、いいことがありますよ!」

「そう思ってくれるかい?ありがとさん…」

ホントは、どうにかしてあげたいけど私にそんな力はないし…

「これからどこに行くんだい?」

「あてはないです。あてなく出てきましたから」

「そう…なにか答えが見つかることをアタシも祈ってるよ。こんなアタシに付き合わせちゃって悪かったね」

「いいえ!私も最初は、ちょっと怖いな~って思ってました」

「ずいぶん正直に言っておくれじゃないのサ!」

また口がすべった。

「ごめんなさい!」

「いいんだよ!さぁ、お行き!アンタの答えを探しに」

「はい!ありがとうございました!」

Kumo

今まで遠慮していた風が南から昇り始めた。
その背に飛び乗って空へ舞い上がる。

「さようなら」

「あぁ、元気でね…」

その美しい体を飛び越えたとき…

Photo  

「あっ…!馬!」

空いっぱいの馬がやさしい目でこっちを見ていた。
これが、この家のホントの姿なのかもしれないね…

たぶん…きっとそうだよ!

|

« 名前のない馬 ① | トップページ | ぱだん ぱだん ① »

コメント

ご苦労さまです。
窓からの写真をあらためて見ると、えらく高い場所に建てたんだなと思いますね。

投稿: カナブン | 2008年5月18日 (日) 23時31分

catこれだけの景観だと名のある山(高台)だと思いますけどね。
上は砂利とかが積まれて殺風景でした。

投稿: ねこん | 2008年5月19日 (月) 06時00分

なぎさの秘められた力が垣間見えました。

投稿: アツシ | 2008年5月19日 (月) 23時50分

少しずつ育っていくんですね。
約束の日まで。

投稿: ねこん | 2008年5月20日 (火) 06時12分

いや、これはまたアーティスチックな廃墟ですこと。
階段がないなんて、山の牧場の話を思い出しましたよ

投稿: yamanashi | 2008年5月20日 (火) 22時13分

ありましたね「山の牧場」。新耳袋ですね。
ここの中には階段があるのですが、非常用はなかったんですよ。それが問題。
改善しないと、良くても3階は使用禁止になりますね。
本当はもっとシンボリックになるはずだったんでしょうが。

投稿: ねこん | 2008年5月20日 (火) 23時31分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/210516/21013270

この記事へのトラックバック一覧です: 名前のない馬 ②:

« 名前のない馬 ① | トップページ | ぱだん ぱだん ① »