ひとつ目の巨人
風になってずっと飛んでいた
雲の間をすり抜けながら何も考えないで真っ白になっている
どこまでも続く空みたいに 心の中が透き通る…
ずっと高いところを飛んでいたけど、大きな山を越えてから低い所に降りてくると、かすかな点にしか見えなかった建物もはっきり見える。
どこまでも続く道がヘビみたいくねくねして、脇に家が点々と座っている。その数がどんどん増えて、その先に街が見えた。道なりに左へ進路を取る。
もう「風乗り」が板に付いたみたいで半分得意気になってるよ。
「あれ?なんだろう…」
今、通り過ぎたばかりの山に不思議なマークが見えた。
近くまで寄ってみたけど、見れば見るほど何だかわからない。
風の上からだとゆっくり見れないので、とりあえずこのへんに降りてみることにしよう。
地面に降りると、ずっと高い所を飛んでいると平らに見えた山も下から見るとすごく大きい。
さっきの場所へ向おうと道をさかのぼっていくと鮮やかな色の大きな門があった。
大きいなぁ…こんな門は見たことがない。それに変わった形だよ。よっぽどすごいお家なんだろうな。
その先に続く木立に囲まれた道を登っていくと、さっきの不思議なマークが見えてきた。
「家… じゃない?」
草に覆われた急な階段の先に空を睨んでいる一つ目の巨人がいた。
家の階段にしてはすごく長いうえ、とても急だ。
普通の人ならすぐ疲れるだろうなーって思いながらテンテン跳ねながら上がっていった。
途中に白いテーブルみたいなものが…これって…空飛ぶ円盤?
ここは、宇宙基地なのかな?それとも宇宙観測台だろうか…
とりあえず上を目指す。
人がいたら厄介だけど、かなり古ぼけた感じがして、しばらく人もきていないみたいだ。
登りきったところで振り返ってみると…いい眺め!
道を走っていく車が虫みたいに見えた。
「わっ! びっくりした!」
ひとつ目巨人が私を見下ろして力強く呟いた。
「あなた達が来るのをずっと待っていました。歓迎します。」
「たち? 私ひとりですけど…。私のこと知ってるんですか?」
信号? 私、そんなの見てないよ…
「ところで、どちらの星からお越しですか?」
「星? 私地球人です。 あれっ?地球人だったかな?前は地球人…今も地球人か。でも人間でもないか…。地球にいるんだから地球人だよ。それとも…?」
「なんだか難しそうですね…」
「あ…はい。地球人だと思います。いちお…ずっとこの星ですから…」
「しかし、さっき空から降りてくるのが見えたよ。人間には真似できないことだ」
「風に乗ってきたんです。海の方から。 私…幽霊ですから。」
「そうか…地球人か…また違ったんだ…」
古ぼけた巨人が前より荒んで見えた。ちょっとがっかりさせたみたいだな…。
「宇宙人を待っているんですか?」
「そう!ずーっとね。40年くらいになるかなぁ…これが僕の仕事だから。」
「へーっそんなに長く…誰のためにですか?」
その経緯と言うのが…
宇宙から来る人たちと友達になることを願って集まった人たちが昔、オキクルミカムイという神様がカムイシンタという竜に乗ってこの山に降りたという伝説から、ここに彼を建てたのだそうだ。全て集まった人たちの手作りで。
やがて、その指導をした人が病気になり、しばらくしてみんな山を降りて行ってしまったそうだ。
残されたこのひとつ目巨人さんは、またみんなを呼び戻すためにひとり空に信号を送って、宇宙人が来るのを待っている。
「宇宙人って、怖くないです?」
「そんなことはない。とても美しい人達らしいよ」
ふーん…会ってみたいな。でも、こんな崖みたいなところに空飛ぶ円盤が降りられるんだろうか?
「その『大きいクルミ』って神様はどんな方だったんですか?」
「『オキクルミ』だよ。足元の右にいったところに像があるから見ておいで」
「はーい!そうします」
吹き下ろす風に飛び乗ってそっちに行ってみる。
神様と言うよりも飛行機だよね。これ… 前に回ってみると…裏に生き物がいた。
「あーっデンデンムシ!可愛いなぁ…」 指で突っついていると…
「あっしゃべった!ごめんなさい!」
「…ったく…朝っぱらから…」
「すいません…『オクイクルミ』ってこれですか?」
デンデンムシさんは、寝起きでイライラしている風だったけど教えてくれた。
「『オキクルミ』だろ?もっと向こうだよ。小さい熊が2匹下にいるからすぐわかるさ!」
「じゃぁ…これはなんですか?」
「こいつは、向こうのオンボロを作った奴らが置いていったんだ。なんでも宇宙人が地球の最後の日に選ばれた人間を宇宙に連れ出すための宇宙船らしいぜ。もっとも何も来なかったらしいけどな」
「地球最後の日? それ困るよ。カズ君に会えなくなる!」
「なんのこっちゃ? どーせなら人間みんな連れていってくれりゃいいのさ。もういいだろ!もう少し寝かせてくれや…」
「ありがとう…」 地球最後の日? ずいぶん怖い話だな…でもいまだに来ないっていうのは、まだその日は来てないってことだよね?
デンデンムシさんに聞いたほうに大きい像があった。手前に可愛い熊を2匹従えて。
その神様は静かに座っている。まだ、神様には会ったことがないけれど宇宙人って感じじゃなくて、やさしいおじいさんみたいだ。
石の像は本当の神様じゃないらしくて何も話さなかった…
「はい…なんか、不思議な人だなーって…」
「そう!宇宙人は、地球人にできない不思議な力を持っているそうだよ」
「死んだ人を生き返らせることなんかもできますか?」
「きっとね。僕のボロボロの体も直してくれるだろうさ…彼らが来たら風に乗せて教えてあげる」
「早くその日がくるといいですね。じゃ!私いきます。どうもありがとう!」
「風に乗るんだったら僕の頭の上から行けばいい。ちょうどいい風が吹いてきているよ」
「ありがとうございます」
巨人の頭のてっぺんに上がった。遠くまで見渡せて気持がいい。
ここからなら空飛ぶ円盤が来たらすぐ見えそうだね。
私は、朝の新しい風に飛び乗って山を離れた。
「さよなら巨人さん」 早く願いが叶うといいね…。
振り返ると、相変わらず赤い目で空を見続けていた。
ほんの一瞬も見逃さないぞ! という目で…
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