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2008年5月23日 (金)

ぱだん ぱだん ①

Fly_top

あえて、叶うはずのないことを夢とするなら「空を飛ぶこと」と「語らぬものの声を聞くこと」ことを望みたい。
「飛ぶこと」は鳥のように羽ばたくのではなくて、風とひとつになって自在に空を駆け巡ぐること。
「語らぬものの声を聞くこと」は…例えば川原に転がる変わった顔の石ころやのんびり川縁に寝転んでいる流木、そして荒野に取り残されたサイロや家族に置いてけぼりにされた廃屋なんかの話を聞いて見たい。
できるはずもない想い。でも間違いなく空から見える無限のロケーションはあるし、朽ちた板壁も崩れかけたコンクリートも何かを記憶しているはず。

Dscf8098 半人前の幽霊「ナギサ」。幽霊に半人前なんてことがあるのでしょうか?
ナギサは青空と海が大好きで、いつも青空の下で約束の日が来るまで風に乗り旅を続けます。
…風に乗り、聞えぬ声を聞く
その中で何かを覚えて、考えて、成長していく。
果たしてこのまま幽霊と呼んでいていいものかな?

いつも会えていたのに今生では、もう会えなくなった人たちが自分の前に現れないのは、こんな旅がよほど面白いんじゃないかと思います。
生きることとか 死ぬこととか 尊いとか切ないといったことは別にして、みんな青空の下を気ままに巡っているんじゃないかなと…
普通に人の心を持ち合わせた人が終の日を迎えたからといって、闇の中でネガティヴに潜むのだろうか?

とりあえず、この半人前の娘にそういったことの答えを託して…

Dscf8468

「あぁー!もう目が回りそうだぁ!」

山の間を巡っていると急に風が忙しくなった。我先に行こうとする風に乗っていくのは、正直くたびれた…どこかで一度降りようっと…。
どこかいい場所を…と辺りを見ていたけれど風のスピードで満足に探せない上、舗装の道が途切れてきたので、道が森に埋もれないうちにそのまま降りた。
先には曲がりくねってズーッと続く道。せっかちな風のせいで体がユラユラする。
森の木立のせいで風を感じなくなってきたから少し歩くしかない…。

Dscf8063

しばらく高台を跳ね飛んだり、ゆるい風を捕まえたりして進むうち、強い真っ直ぐな風を見つけた。

Dscf8064「この先に広いところがあるみたい…」

その風に乗って跳ぶと一気に海に出た。…いや海じゃない。香りが違う…
それに山が近いなぁ…そうか『湖』っていうのだね。へーっ始めて見るなぁ。海かと思ったよー。

Dscf8071海と一番違うのは、潮の音がしないからすごく静かなところ。
回りを大きな木に囲まれて山間に横たわる姿は大きな生き物のようだ。
海は語りかけてくるけど、この湖は誰が来ようと無関心で、風が水面を波立てているのも気にしていないみたい。

外国のような建物が見える。
でも、人がいるようなので近づかないでおこう。面倒なことになるのもイヤだから…
人目を避けて岸を歩いていく。少し行ったところで桟橋が見えてきた。

Jum1 「あ…誰かいる…!」

思わず茂みに身をひそめた…少し違う…。たぶんあの人は、私と同じだよ。

そっと桟橋から近づく。 やや近くまで行ったとき、その人が急に振り返ったからドキッとした。
その人は、私を見て驚くでもなく肩越しにニコッと笑った。

「やぁ!こんにちは」

「こんにちは…」

「きれいだよネェ この湖…」

「はい…あのぉ…もしかして…」

「おっちゃんかい?そうだ。お化けだな…相棒もそうだ!」

おじさんの足元から小さいものが顔を出した。

Dscf8074_2

「ニャーン!」

「あーっ猫だー!かわいいー」

手招きするとすかさず寄ってきてゴロゴロ言い出した。

「相棒!スミに置けないなぁ全く…」

「この子の名前は、なんていうんですか?」

Cat017「…名前か?そういや付けたこと無かったなぁ 相棒とか猫とか呼んでっからさ…やっぱおかしいかな?」

猫は、ちょろっとおじさんの方を見た。

「そっか!いまさらおかしな名前付けられたくないか!ハハハ…」

「あのぉーこの辺の方ですか?」

Dscf9140 「いや!もう少し南の方から来た。生きてたときは、やっと食うことで手一杯だったからね。今は、そんな心配しなくなって相棒とブラブラしてるんだよ」

「私もそうなんです。前はずっと家の中にいたんですけど」

「へぇ~おっちゃんらは、大っきいビルみたいなホテルにいたからねぇ…もっともボロボロだったけどさ」

猫も「そうだ!」というかわりに「ニャーン」と答えた。

Dscf8069 「お嬢ちゃんは何年生だい?」

「3年生です」

「おやまた、ずいぶん小さい子なんだ…学校も途中かい? もう少し通いたかったでしょ?」

「はい…」

いつも窓の外で大きな声をだしながら走っていく子を見て羨ましかった…
私の3年生は、運命のあの日以来止まっている。

「そういや、ここに来る途中の古い学校に先生がひとりでいて、立ち話ついでにこの湖を教えてもらったんだけど、この先の道から舗装と反対を道なりに行ったところだよ。寄って来たかい?」

Dscf7986

学校? 久しぶりに聞く、その名に胸が高鳴ってきた。

(つづく)

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コメント

ちょっとだけ残っていた過去のエピソードの悲しみが、ナギサによって昇華されていきますね。おじさんの傍らにはビニール袋が・・・イメージがピッタリです。
廃校に先生が一人だけなんて、読む前から泣けます。

投稿: アツシ | 2008年5月24日 (土) 01時45分

いや…あれ、ビニール袋でなく相棒が座って湖の反対側見てるんです…
丸っこくしちゃったから鏡餅みたいですけど。

投稿: ねこん | 2008年5月24日 (土) 10時47分

これは失礼しました(汗)。相棒のご飯を持ち歩いてるのかと思いましたよ。

投稿: アツシ | 2008年5月24日 (土) 11時20分

猫は、けっこういやしいですからね。
うちの通い猫も態度は、悪いけど寂しそうに待っているのは卓越しています。

投稿: ねこん | 2008年5月24日 (土) 13時20分

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