ぱだん ぱだん ②
「その先生も私たちと同じなんですか?」
「あぁお化けだよ。なんでも昔、赴任してた学校らしくてさ。そこには、もう1年くらい居るらしいよ」
そっかーそういうところなら私も気兼ねしないでいけるね。
でも、このおじさんの『お化け』とか言うのちょっとやだな…
「まだ今朝のことだからね。出かけてなきゃいるだろうよ」
「私…これからその先生に会ってきます!」
「そうかい。相棒!俺らもそろそろ行くか!温泉行って来ようや」
「ニヤ?」 相棒さんは、温泉は乗り気ではないらしい…たぶん。
「じゃあ!ありがとうございました!」
「うん!会ったら先生によろしくいっといてや」
「はい!」
湖を駆け抜ける風を捕まえて空へ跳び出した。広いところの風はやっぱり捉えやすい。一気に湖が遠くなる。手を振ると、それに応えていたおじさんと相棒さんがグングン小さくなっていく。
「なぁ相棒、俺…ちゃんと方向言ったよな。あの子あわてて行ったけど、間違ってるみたいだ…」
とはいったものの学校はどの辺だろう。道の両側を見落とさないようにさかのぼっていく。上からだと学校なのか牛舎なのか迷ってしまう。
牛がいなさそうなところが学校だよね。
建物の周りに木もあって分かりずらい。低いところまで少し降りてみよう。
「あ!ここ?! ここ!!」
木立を過ぎたところにそれが現われたので、あわてて風の背から転げ落ちちゃった…
たぶんここかなぁ… 様子を見てみよう。
「こんにちはー こんにちはー! 誰かいますかぁー?」
返事は無い。ここは違うのかなぁ…学校っぽくない気もするし…
あれ? 壁に校歌が貼られている。やっぱり学校だよ!
「こんにちはー!!」
「誰だよ!うるさいなぁまったく! 見つかるだろ!」
「え?!」 誰かに凄い勢いで怒られた。
「ごめんなさい」
向こう側にあるドアの影から男の子が出てきた。私より年下みたい…
「ボク?何年生なの?」
「1年!お前は?」
な…なに?この態度…
「私は3年生だけど…」
「歳は?」
うっわぁ~なんかヤだな。少しムッとするよ。
「私、9歳だよ!」
「なんだ!本物か」
「なに?本物ってー!」
「俺、86歳だも」
私の後ろからもうひとり女の子が出てきた。
「ダメだよ!今の無し!こいつが急に出てきたから悪いんだよ!」
「でも『待った』ってしてないよ!」
えーっ何なのこの子たち…?
「お姉ちゃん誰なの?」
「わたし…ナギサ。ここに先生がいるって聞いたから来たんだけど」
「ここは俺たちだけだよ!先生なんていねぇよ!」
「そうだよ!ここはカッちゃんとアタシだけしかいないんだよ」
なんだか分かんなくなってきたな…
「あっ相棒さん!」
「あ!猫!かわいい~っ!」
「化け猫だ!」
それを聞いて相棒さんが男の子をにらんだ。
「お姉ちゃん、どこから来たの?」
「私、あっちの湖でこの猫と一緒にいた人にこっちの学校に先生がいるって聞いてきたの…」
「湖からなら反対の道の方だろ?山の向こうにも学校があったよ!」
「あ…そうだ、聞いてたんだ。私あわてて…」
「ニャー」
そっかぁ教えに来てくれたんだね。
「ありがとう!」頭をなでてあげると相棒さんは喉をゴロゴロ。
「なんだよ!人騒がせだなぁ!」
「ごめんなさい…」
「でも、良かったね!猫が教えに来てくれて…ねぇ!ちょっとでいいからカクレンボしようよ! 私、トシコ!」
「良かったぁ!カッちゃん、今度オニだよ!」
「なんだよ!今の無しだってば!」
「じゃあ私もやめるよ!」
「なんだよ、わかったよ…」
それから相棒さんを抱いて、みんなでカクレンボ。
「ナギサお姉ちゃん!こっち!カッちゃん学校の中ばっかり探すから」
トシコちゃんと一緒に少し校舎から離れた小屋に入り身をひそめていた。
「ねぇ?あの男の子、さっき自分のこと86歳って言ってたけど…」
「そうだよ!アタシは90。カッちゃんより長生きだったから」
「お姉ちゃん もしかして、ずっと3年生やってるんだ!」
「そんなこと、どうやってできるの?」
「簡単だよ!アタシとカッちゃんはずっといっしょに遊んでいたいから1年生の頃に戻ったの!もっと上にもなれるけど90より上になっても変だしね。お姉ちゃんはいくつになりたい?」
「私、自分が大人になったところとか分からないし…」
「できるんだよ!ただ、考えればいいの。昔の記憶よりは小さいけど来るはずだった未来の記憶も心の中に眠っているからね」
あれ?なんだかこの子の言うこと、やっぱり大人びてるみたいだね。
ホントにそんなことが出来るのかな…。
ちょっと大人になった自分を考えてみた…
「あーっ!なんでぇ?」
「そんだけしゃべってたら誰でも分かるさ!」
それからまた、3人と1匹で鬼ごっことかして遊んだ。
こんなに夢中で遊んだのはいつからだっただろう。ホントに楽しい!
「相棒さん、ありがとう おじさんによろしくね」
「ニャーン」
そういうと相棒さんは、ピョンと空に跳ね上がって私より何倍も早いスピードで湖の方へ消えていった。さすが猫だなぁ…
「どうもありがとう すごく楽しかった!」
「また来てね お姉ちゃん!」
この女の子が90歳と知っちゃたら、何だか『お姉ちゃん』と呼ばれるのが変な感じになった…でも言われなきゃホントに1年生だよ。
「ケッ来なくていいよ!」
「なにさカッちゃん!いじけてさー!」
「いじけてねェよ!」
カッちゃんは、ちょっと照れくさそうな顔。
「その学校に行くなら戻るより、この山を越えていったほうが近いよ。裏にもうひとつ山があるから、その向こうのすぐ下にあるよ」
「ありがとう!元気でね」
「あっそうだ!これあげる」
ポケットからハッカ飴を出してふたりにあげた。
「わぁーハッカ飴だ!懐かしいねーカッちゃん!」
「うん!」
私もひとつ口に放り込むと山に向かう風を見つけて飛び乗って空へ。
この向こうに目指す学校がある!
振り返ると、大きく手を振る二人の姿が見えた。
雰囲気じゃないから聞けなかったけど…
あの子たちって夫婦なのかもしれないね。
(つづく)
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コメント
この二つの学校と湖・・・私の10年来の釣りと探索のポイントですが・・・ここに幽霊さんたちがいたとは・・・
湖に落ちていた子どものリュック、そこから少し離れた場所に落ちていたスケッチブックの持ち主たち?
投稿: K | 2008年5月25日 (日) 22時52分
Kさん(総統)粋な幽霊は、人と無縁なところで第二の余生を楽しんでいるんですよ。
学校のふたりは86歳と90歳ですからね。
リュックは別物ですよ。
湖畔のホテルで優雅にコーヒーを楽しんできました。
静かないいところです。
宿代がちょっと痛いですけど、泊まってみたいですね。
投稿: ねこん | 2008年5月25日 (日) 23時12分