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2008年5月30日 (金)

ぱだん ぱだん ③

Nagisa_down

その学校にいる先生に会ってみたいと思ったのは、聞いてみたいことがあった。
それは、いつか会いに来てくれる引っ越したカズ君とのこと…。

そのことで、いつも考えていたことがふたつある。
ひとつは、私がホントは「幽霊」だと言えなかったこと。
もうひとつは、カズ君がきた時、私はどうしたらいいのかということ…

先生、それも私と同じ存在の先生なら良い答えを教えてくれるだろうと思う…
1年生の頃、話ベタな私は友達ができなくて、担任の先生がそんな私を気にしてくれて話を聞いて、一緒に悩んでくれた。そしてだんだん話せるようになってクラスの他のこと変わらず遊べるようになれたことがあった。
だから先生は、いつも素敵なアイディアを持っている人…そんな風に思ってる。

でも、正直それを聞くことが怖い気もした。
大事なことだからいつまでも逃げていられないけどね。だから…。

ふたつ目の山の縁を巡る風に乗って大きく回り込んだとき、学校が見えた。

「あそこだ!」

私が通っていた学校と違って、ほとんど木でできた1階だけの校舎だけど横の幅は同じくらい長い。いきなり中に入って、さっきの学校と違ったりってのもなんだから、少し慎重にいこう。
道の近くに降りて学校を見渡す。この校舎は背中に大きな山を抱えて勇ましく見える。

Front

グランドは、しばらく使われていないようで草だらけ。
学校も今は学校として使っていないみたいだ。
学校が学校でなくなる事ってどういうことだろうか…

子どもがいなくなったのか
人がいなくなったのか
古くなりすぎて使えなくなったのか…私にはわからない。

Dscf7986

学校ではなくなったここに、ひとりでいる先生ってどんな人だろう。
黄色いブランコが私を誘って静かに揺れてた。

「久しぶりの子どもじゃない ちょっと乗っていきなさいよ─」

「─ごめんなさい 後でね」

Haill_nagisa 学校に近づくと、横の大きな教室の壁がなくなっていて中が丸見え。
何かの大きな機械が置いてあって、下には青いビニールを敷いてある。わらもたくさん散らばってる。たぶん体育館のようだけれど、床はなくなっている。そう、誰かが物置にしてるみたいだよ。

学校の奥に通じる入口は、板で塞がれてた。小さい隙間を探せば私は入っていけるけど、あきらめて正面に回ろう。

昔見たテレビのアニメで見たように幽霊は、壁を通り抜けられると思っていたけど、今の自分になってからそれが出来ないと知った。ほんの少しでも光が漏れるような隙間がないと…

せっかく来たんだから普通の小学生らしく戸を開けて入ろうと息巻いて正面のドアに手をかけたけど…重い…ちょっと無理。
仕方なくドアの隙間を滑り込んだ。

「わぁーっ」

Art1

Dscf4730中には子どもの描いた絵が飾ってある。

学校の絵と、みんなでスキーをしているところ。
スキーの絵がとっても楽しそうで、しばらくニンマリして見上げてた。
私の通っていた学校にも卒業した生徒の絵がこうして飾ってあったっけ…
自分の学校じゃないのに懐かしい感じがする。

Dscf5172それ以外は、葉っぱとかが散らばって下駄箱もないガラーンとした玄関。
誰も来なくなって可愛そうだね…。そうだ!忘れてた。

「こんにちはー」 返事はなかった。 
あれ、おかしいな…

「こんにちはー」 シーン… 

廊下の方を覗き込むように声をかけたけれど何も聞えない。

Nagisa_in

「いないのかなぁ…」 薄暗くて静かな廊下。横の教室から光が差し込む。
教室の中はガラーンとして時がすっかり乾いてしまったみたいだ。
机ひとつなく薄暗く広い教室の中で、光の束がすごく威張り散らしている感じがした。少し前までは、私もあの光が怖かったんだなぁ。
ずっと暗い部屋にいたから、あの光に当たると霧みたいに消えてしまう気がしてた…

「テレビかなんかの見過ぎだよ。吸血鬼じゃあるまいし」

風の乗り方を教わったサーファーのサトシさんにそんなこと言われたっけ…

Bell ジリリリリリリリリリリリ…

「わぁっ!」

思い出にふけっているところに急なベルの音で飛び上がった!

リリリ…リン!

つまづくように鳴り止んで、一瞬散らばってた空気がまた固まり静かな部屋になった。

「あぁ…驚いた。胸がドキドキする…」

「やあ、こんにちは…」

その声に振り返ると背広姿の男の人が立っていた。

Tsensei

「あ…すいません!勝手に入って!」

「いいのですよ。学校は子どもの場所ですよ。私はモトミヤといいます。君は?」

「はい!ナギサです。猫を連れた人に聞いてきました!」

「あぁ!あの人に会ったのですか!とても面白い方でしたよ」

あぁ!やっぱりここで間違いなかったんだ!

Dscf5153

「あの…あの…先生!私が来たのは、先生に聞いてみたいことがあって…あの…」

Dscf8001 いざ、話をしようとしたらなんだか舌が回らなくなっちゃった…

「おやおや、あわてんぼうさんですね。とりあえず席について落ち着きなさい」

先生が手を差し伸ばした先には、さっきまでなかった机と椅子があった。

Pastel

(つづく)

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2008年5月25日 (日)

ぱだん ぱだん ②

Dscf8084

「その先生も私たちと同じなんですか?」

「あぁお化けだよ。なんでも昔、赴任してた学校らしくてさ。そこには、もう1年くらい居るらしいよ」

そっかーそういうところなら私も気兼ねしないでいけるね。
でも、このおじさんの『お化け』とか言うのちょっとやだな…

Dscf8443 「まだ、そこにいますか?」

「まだ今朝のことだからね。出かけてなきゃいるだろうよ」

「私…これからその先生に会ってきます!」

「そうかい。相棒!俺らもそろそろ行くか!温泉行って来ようや」

「ニヤ?」 相棒さんは、温泉は乗り気ではないらしい…たぶん。

「じゃあ!ありがとうございました!」

「うん!会ったら先生によろしくいっといてや」

「はい!」

湖を駆け抜ける風を捕まえて空へ跳び出した。広いところの風はやっぱり捉えやすい。一気に湖が遠くなる。手を振ると、それに応えていたおじさんと相棒さんがグングン小さくなっていく。

Padan2top

「なぁ相棒、俺…ちゃんと方向言ったよな。あの子あわてて行ったけど、間違ってるみたいだ…」

Dscf8138とはいったものの学校はどの辺だろう。道の両側を見落とさないようにさかのぼっていく。上からだと学校なのか牛舎なのか迷ってしまう。
牛がいなさそうなところが学校だよね。

建物の周りに木もあって分かりずらい。低いところまで少し降りてみよう。

「あ!ここ?! ここ!!」

木立を過ぎたところにそれが現われたので、あわてて風の背から転げ落ちちゃった…

Padan_down

Dscf8125「あ…ハハ…何やってんだろ私…」

たぶんここかなぁ… 様子を見てみよう。

「こんにちはー こんにちはー! 誰かいますかぁー?」

Dscf4820 返事は無い。ここは違うのかなぁ…学校っぽくない気もするし…
あれ? 壁に校歌が貼られている。やっぱり学校だよ!

「こんにちはー!!」

「誰だよ!うるさいなぁまったく! 見つかるだろ!」

「え?!」 誰かに凄い勢いで怒られた。

「ごめんなさい」 

Dscf4825  向こう側にあるドアの影から男の子が出てきた。私より年下みたい…

「ボク?何年生なの?」

「1年!お前は?」

な…なに?この態度…

「私は3年生だけど…」

「歳は?」

うっわぁ~なんかヤだな。少しムッとするよ。

「私、9歳だよ!」

「なんだ!本物か」

「なに?本物ってー!」

「俺、86歳だも」

Dscf4829 「あーっ!カッちゃん見っけぇー!」

私の後ろからもうひとり女の子が出てきた。

「ダメだよ!今の無し!こいつが急に出てきたから悪いんだよ!」

「でも『待った』ってしてないよ!」

えーっ何なのこの子たち…?

Dscf4834

「お姉ちゃん誰なの?」

「わたし…ナギサ。ここに先生がいるって聞いたから来たんだけど」

「ここは俺たちだけだよ!先生なんていねぇよ!」

「そうだよ!ここはカッちゃんとアタシだけしかいないんだよ」

なんだか分かんなくなってきたな…

Cat 「ニャ~ン」

「あっ相棒さん!」

「あ!猫!かわいい~っ!」

「化け猫だ!」

それを聞いて相棒さんが男の子をにらんだ。

「お姉ちゃん、どこから来たの?」

「私、あっちの湖でこの猫と一緒にいた人にこっちの学校に先生がいるって聞いてきたの…」

「湖からなら反対の道の方だろ?山の向こうにも学校があったよ!」

「あ…そうだ、聞いてたんだ。私あわてて…」

「ニャー」

そっかぁ教えに来てくれたんだね。

「ありがとう!」頭をなでてあげると相棒さんは喉をゴロゴロ。

「なんだよ!人騒がせだなぁ!」

「ごめんなさい…」

Dscf4833

「でも、良かったね!猫が教えに来てくれて…ねぇ!ちょっとでいいからカクレンボしようよ! 私、トシコ!」

Dscf4826 「うん!いいよ!」

「良かったぁ!カッちゃん、今度オニだよ!」

「なんだよ!今の無しだってば!」

「じゃあ私もやめるよ!」

「なんだよ、わかったよ…」

それから相棒さんを抱いて、みんなでカクレンボ。

Dscf8135 「ナギサお姉ちゃん!こっち!カッちゃん学校の中ばっかり探すから」

トシコちゃんと一緒に少し校舎から離れた小屋に入り身をひそめていた。

「ねぇ?あの男の子、さっき自分のこと86歳って言ってたけど…」

「そうだよ!アタシは90。カッちゃんより長生きだったから」

Dscf8105 「えぇーっ?」 どう見ても1年生くらいじゃない…

「お姉ちゃん もしかして、ずっと3年生やってるんだ!」

「そんなこと、どうやってできるの?」

「簡単だよ!アタシとカッちゃんはずっといっしょに遊んでいたいから1年生の頃に戻ったの!もっと上にもなれるけど90より上になっても変だしね。お姉ちゃんはいくつになりたい?」

「私、自分が大人になったところとか分からないし…」

Dscf8108 「できるんだよ!ただ、考えればいいの。昔の記憶よりは小さいけど来るはずだった未来の記憶も心の中に眠っているからね」

あれ?なんだかこの子の言うこと、やっぱり大人びてるみたいだね。
ホントにそんなことが出来るのかな…。
ちょっと大人になった自分を考えてみた…

Dscf8102_2 「ほらぁ!見つけた!」

「あーっ!なんでぇ?」

「そんだけしゃべってたら誰でも分かるさ!」

それからまた、3人と1匹で鬼ごっことかして遊んだ。
こんなに夢中で遊んだのはいつからだっただろう。ホントに楽しい!

「相棒さん、ありがとう おじさんによろしくね」

「ニャーン」
そういうと相棒さんは、ピョンと空に跳ね上がって私より何倍も早いスピードで湖の方へ消えていった。さすが猫だなぁ…

Nwide

「どうもありがとう すごく楽しかった!」

「また来てね お姉ちゃん!」

Dscf4839 この女の子が90歳と知っちゃたら、何だか『お姉ちゃん』と呼ばれるのが変な感じになった…でも言われなきゃホントに1年生だよ。

「ケッ来なくていいよ!」

「なにさカッちゃん!いじけてさー!」

「いじけてねェよ!」

Dscf8100 「うん!ありがとうカッちゃん!」

カッちゃんは、ちょっと照れくさそうな顔。

「その学校に行くなら戻るより、この山を越えていったほうが近いよ。裏にもうひとつ山があるから、その向こうのすぐ下にあるよ」

「ありがとう!元気でね」

Dscf7043「いっつも元気だって!」

「あっそうだ!これあげる」

ポケットからハッカ飴を出してふたりにあげた。

「わぁーハッカ飴だ!懐かしいねーカッちゃん!」

「うん!」

Padan2end

私もひとつ口に放り込むと山に向かう風を見つけて飛び乗って空へ。
この向こうに目指す学校がある!

振り返ると、大きく手を振る二人の姿が見えた。

雰囲気じゃないから聞けなかったけど…
あの子たちって夫婦なのかもしれないね。

(つづく)

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2008年5月23日 (金)

ぱだん ぱだん ①

Fly_top

あえて、叶うはずのないことを夢とするなら「空を飛ぶこと」と「語らぬものの声を聞くこと」ことを望みたい。
「飛ぶこと」は鳥のように羽ばたくのではなくて、風とひとつになって自在に空を駆け巡ぐること。
「語らぬものの声を聞くこと」は…例えば川原に転がる変わった顔の石ころやのんびり川縁に寝転んでいる流木、そして荒野に取り残されたサイロや家族に置いてけぼりにされた廃屋なんかの話を聞いて見たい。
できるはずもない想い。でも間違いなく空から見える無限のロケーションはあるし、朽ちた板壁も崩れかけたコンクリートも何かを記憶しているはず。

Dscf8098 半人前の幽霊「ナギサ」。幽霊に半人前なんてことがあるのでしょうか?
ナギサは青空と海が大好きで、いつも青空の下で約束の日が来るまで風に乗り旅を続けます。
…風に乗り、聞えぬ声を聞く
その中で何かを覚えて、考えて、成長していく。
果たしてこのまま幽霊と呼んでいていいものかな?

いつも会えていたのに今生では、もう会えなくなった人たちが自分の前に現れないのは、こんな旅がよほど面白いんじゃないかと思います。
生きることとか 死ぬこととか 尊いとか切ないといったことは別にして、みんな青空の下を気ままに巡っているんじゃないかなと…
普通に人の心を持ち合わせた人が終の日を迎えたからといって、闇の中でネガティヴに潜むのだろうか?

とりあえず、この半人前の娘にそういったことの答えを託して…

Dscf8468

「あぁー!もう目が回りそうだぁ!」

山の間を巡っていると急に風が忙しくなった。我先に行こうとする風に乗っていくのは、正直くたびれた…どこかで一度降りようっと…。
どこかいい場所を…と辺りを見ていたけれど風のスピードで満足に探せない上、舗装の道が途切れてきたので、道が森に埋もれないうちにそのまま降りた。
先には曲がりくねってズーッと続く道。せっかちな風のせいで体がユラユラする。
森の木立のせいで風を感じなくなってきたから少し歩くしかない…。

Dscf8063

しばらく高台を跳ね飛んだり、ゆるい風を捕まえたりして進むうち、強い真っ直ぐな風を見つけた。

Dscf8064「この先に広いところがあるみたい…」

その風に乗って跳ぶと一気に海に出た。…いや海じゃない。香りが違う…
それに山が近いなぁ…そうか『湖』っていうのだね。へーっ始めて見るなぁ。海かと思ったよー。

Dscf8071海と一番違うのは、潮の音がしないからすごく静かなところ。
回りを大きな木に囲まれて山間に横たわる姿は大きな生き物のようだ。
海は語りかけてくるけど、この湖は誰が来ようと無関心で、風が水面を波立てているのも気にしていないみたい。

外国のような建物が見える。
でも、人がいるようなので近づかないでおこう。面倒なことになるのもイヤだから…
人目を避けて岸を歩いていく。少し行ったところで桟橋が見えてきた。

Jum1 「あ…誰かいる…!」

思わず茂みに身をひそめた…少し違う…。たぶんあの人は、私と同じだよ。

そっと桟橋から近づく。 やや近くまで行ったとき、その人が急に振り返ったからドキッとした。
その人は、私を見て驚くでもなく肩越しにニコッと笑った。

「やぁ!こんにちは」

「こんにちは…」

「きれいだよネェ この湖…」

「はい…あのぉ…もしかして…」

「おっちゃんかい?そうだ。お化けだな…相棒もそうだ!」

おじさんの足元から小さいものが顔を出した。

Dscf8074_2

「ニャーン!」

「あーっ猫だー!かわいいー」

手招きするとすかさず寄ってきてゴロゴロ言い出した。

「相棒!スミに置けないなぁ全く…」

「この子の名前は、なんていうんですか?」

Cat017「…名前か?そういや付けたこと無かったなぁ 相棒とか猫とか呼んでっからさ…やっぱおかしいかな?」

猫は、ちょろっとおじさんの方を見た。

「そっか!いまさらおかしな名前付けられたくないか!ハハハ…」

「あのぉーこの辺の方ですか?」

Dscf9140 「いや!もう少し南の方から来た。生きてたときは、やっと食うことで手一杯だったからね。今は、そんな心配しなくなって相棒とブラブラしてるんだよ」

「私もそうなんです。前はずっと家の中にいたんですけど」

「へぇ~おっちゃんらは、大っきいビルみたいなホテルにいたからねぇ…もっともボロボロだったけどさ」

猫も「そうだ!」というかわりに「ニャーン」と答えた。

Dscf8069 「お嬢ちゃんは何年生だい?」

「3年生です」

「おやまた、ずいぶん小さい子なんだ…学校も途中かい? もう少し通いたかったでしょ?」

「はい…」

いつも窓の外で大きな声をだしながら走っていく子を見て羨ましかった…
私の3年生は、運命のあの日以来止まっている。

「そういや、ここに来る途中の古い学校に先生がひとりでいて、立ち話ついでにこの湖を教えてもらったんだけど、この先の道から舗装と反対を道なりに行ったところだよ。寄って来たかい?」

Dscf7986

学校? 久しぶりに聞く、その名に胸が高鳴ってきた。

(つづく)

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2008年5月18日 (日)

名前のない馬 ②

Past

Dscf8138 「ともかく!この際だから色々聞いてもらうけどね…」

ひやぁ~ …まいったなぁ…長くなりそうだよ。

変わった形に興味を持って降りてみたら、こんな個性の強い家と思わなかった…
すぐ逃げちゃえばよかったなぁ…。でも迫力に負けて動けなかった。

「近頃のガキ共ったら壊すことしか脳がないて言うかさ!こっちが黙ってるのをいいことにやりたい放題だからね。こちとら動けたら踏み潰してやるよ!」

「アハハ…そうですね…」

Dscf8092_4 「笑いごっちゃないよ! おたくら幽霊さんも一宿の恩を受けながら、いちいちそんな輩をからかうから、アタシらが幽霊屋敷呼ばわりされるんだよ!」

「あっ…すいません…ごめんなさい!」 

怖いなァ…この人(家)…

「あんた、いい子ネェ…素直で。いじめたら可愛そうになってくるわ…」

思ったほどそんなに悪い人(家)でもなさそうだ…

「えっと…いつからここにいるんですか?」

「そう…もう20年は過ぎたかねェ…まぁ立ち話もなんだから中に入って見てご覧なさいよ」

「はい」 入口を固く閉ざす雑草を飛び越えて中へ入った。

Nagisa_in

この辺りは、競争用のサラブレッドという種類の馬がたくさん飼われている。
そう!走るために生まれたみたいな美しい馬。
わたしもいつか見たことがあるけど、彫刻みたいに美しい体。無駄なものが何もないっていうか、ホントに走るために生まれてきたみたい…でも大きいから怖くて近づけなかったけどね…。
そんな馬たちがたくさんいるこの町で、馬たちが死んだときも人みたいにお葬式をする場所をこの見晴らしのいい山の上につくることになったそうだ。

Oil

「アタシができたところまでは良かったんだけどね。登記するときに失敗に気がついたみたいでさ…」

「失敗?」 『トウキ』とか難しい言葉がたくさんでてくる

Dscf8091 「アタシの中は3階建てになってるんだけどね。火事のときに人間を逃がすための階段とかをこさえないと消防署が建物としてはダメなんだってさ!この美しい体に下品なニシンの骨みたいな階段を付けないとサ!あーアタシにあんなものつけるなんて考えただけで耐えられないよ!」

私も学校に通っていた頃に避難訓練があって普段は使わない階段を使ったっけ。それのことなんだ。

「天気のいい日の夕方なら、この荒れ放題の山にアタシの美しい影が伸びるんだよ。サラブレッドみたいに美しいのがね。誰も見にきやしないけどサ。」

そっか! 縦長で耳のあるような、あの形は馬の顔なんだ。
どうも、その『トウキ』というのに失敗したことで、その後作られるはずだった火葬場とかを作り始めないうちに建てた人は、どこかへいなくなってしまったんだそうだ。

Dscf81132

「まったく!立場がまずくなったらすぐ逃げちまうんだからね。人間ってやつは!」

「すいません…」

Dscf8106 「何もアンタが謝ることじゃないよ。器以上のことをする奴が多いのさ人間ってのは…おかげでアタシも生きる意味がないままここにいるんだけどね。」

ひとりぼっちだったんだなぁ… それでこんな性格に?

「それでサ!その後ここに住み始めたやつもいたんだけど、道も満足に出来てないからすぐいなくなって、山の上の変な家さ。ガキ共が幽霊屋敷呼ばわりして壁は蹴るわ、石をなげるわ…挙句の果てにいい大人が山ほどゴミを置いていくし、やりたい放題だったね…。」

Dscf8130 「大変だったんですね…」 

話を聞いてて何だか可愛そうで泣けてきた…

「あらぁ!あんた幽霊のクセして泣けるんだねェ!」

「えっ?どうしてですか?」

Dscf8120 「だってサ、アタシが見てきたやつは、血の流れる体を持っていないから心もドライになってたみたいだよ。自分を神かなんかと思ってるのか態度ばっかりデカくてさァ!アタシらまで見下してるみたいだったよ」

「そうなんですか…」 体とふたつに分かれても困った人っているんだな…

「アンタは見込みあるから、そんなやつらと一緒になるんじゃないよ!」

「はい!」

Dscf8116

「ところでアンタ、どこ行こうとしているの?」

「あてはないです。約束している人がいて、その人が来る日まで旅しているんです。『家にこもっていたらホントに幽霊になっちゃうよ!』って言われたこともあるんですけど…あっそれは、別な人から言われたんですけどね」

「ヘェ~!お熱い話だねェ。その人も幽霊なんだろ…」

「いいえー!まだ生きてる人です」

「で…会ってどうするの?死ぬのでも待ってるのかい?それとも獲り殺してやるとかかい?」

「そんな…!そんなつもりじゃ!!」  

Dscf8139 その瞬間、近くの窓ガラスが歪んで『ギン…!』と音をたてて表面にヒビを走らせてはじけた。床にガラスのかけらが落ちて神経質な音を響かせる…

「な…何サ! 冗談だよ!」

「…あ…すいません…そんなつもりじゃ…」

なにか変な力を出してしまったようだ。この私が?

Dscf8104 「アンタ…その辺のザコ幽霊と違うんだね…」

「いえ…そんな…」

「…で、その人と会ってどうするんだい?」

「どうって…考えてはいないです。ただ会いたいだけで…」
たしかにどうしようかなんて何も考えていなかった…

「大事なことだよ。それは…すぐ答えを出さなくてもいいんだろうけどさ…」

「はい…」

「でも、うらやましい話だよね。アタシもさっさとブッ潰れて、この山からおさらばしたいモンだよ。…まったく痛みずらい体も恨めしいもんだよ。」

Dscf8119きっと! いつか、いいことがありますよ!」

「そう思ってくれるかい?ありがとさん…」

ホントは、どうにかしてあげたいけど私にそんな力はないし…

「これからどこに行くんだい?」

「あてはないです。あてなく出てきましたから」

「そう…なにか答えが見つかることをアタシも祈ってるよ。こんなアタシに付き合わせちゃって悪かったね」

「いいえ!私も最初は、ちょっと怖いな~って思ってました」

「ずいぶん正直に言っておくれじゃないのサ!」

また口がすべった。

「ごめんなさい!」

「いいんだよ!さぁ、お行き!アンタの答えを探しに」

「はい!ありがとうございました!」

Kumo

今まで遠慮していた風が南から昇り始めた。
その背に飛び乗って空へ舞い上がる。

「さようなら」

「あぁ、元気でね…」

その美しい体を飛び越えたとき…

Photo  

「あっ…!馬!」

空いっぱいの馬がやさしい目でこっちを見ていた。
これが、この家のホントの姿なのかもしれないね…

たぶん…きっとそうだよ!

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2008年5月17日 (土)

名前のない馬 ①

Nagisa_right

わたしはナギサ
当てもなく風に乗って旅する幽霊。

すれ違う風に潮の香りがしてきた。
ほんの少ししか離れていなかったのに懐かしさを感じる。
海のそばにいると考えることもなかったけれど、この香りは私にとってたいせつなものだ…。

同じ香りでも場所によって少し変化するみたいだ。
渡り鳥が旅をできるのも、こんなことを感じ取っているからできるのかもしれないね。

Sky

「あれっ?」 今…大きな動物とすれ違ったような気がした。

あれは…たぶん馬…?
そうだ!うま!馬が飛んでたよ!!…でも…私も飛んでるから別に普通か…。
どこへ行ったんだろう。私と一緒で旅してるのかな…?

潮の香りに誘われて海まで出た。

Sea1

「やっぱり海だよねー。うん!うみ!海!」

いつかこの海の果てまで行ってみたい。『風乗り』を教わったとき、ずっと上の気流に乗ればずっと遠くまで行けると聞いたけど、どこまで行くのかわからないらしいから怖くてできない。
低いところだと、風の勢いを捕まえてひんぱんに乗り換えないとならないから、いつもあやふやになって落っこちそうになるんだ。

わたしはやっぱり向いていないんだなぁ…でもいいや!今でも充分だ!
海に会ったら力が湧いてきた。

「また来るね!」 海から来る風を見つけて飛び乗り、山の方へ向かう。

「あれは…なんだろ?」

山のてっぺんあたりに変わった形の不思議な建物がある。
急いでいるわけじゃないし…降りてみよう…。

私の姿は、大抵の人からは見えない。
でも、たまに見える人がいるようで、すごく変な目で見られる。
それが耐えられなくてなるべく隠れるようにしている。

Nagisa_fall

人がいないかどうか確認しながらゆっくり舞い降りた。
どうやら人は、いないらしい。

「へーっ すごく変わったお家だね。」

「変わってて悪かったわね!」

「わっ…すいません!口がすべって…悪気じゃないんです…」
うっかり口に出したので、このお家の気に障ったようだ。

「…蠅みたいにまとわりついてきたから何かと思ったわよ」

「ごめんなさい!すいません!」

「まぁ、そのへんの悪ガキと同じじゃなさそうね。いいわ!許してあげる。」

「ありがとうございます。あの…すごく…その…ステキですね!」

「無理しなくていいの! どうせ放り出された身だからさ…」

なんだか色々あったみたいだ。気をつけて話さないとまた怒らせてしまうかも…

Pan018

「あのーっ 聞いていいですかぁ?」

「アタシが何かってことでしょ? 馬の葬儀場よ!」

「えっ?馬の?」 さっき空ですれ違った馬のことを思い出した。

「あんた!飛んできたんだったらこの辺は、馬がたくさんいるのは、見てきたでしょ?」

Dscf8137 「あ…はい…」 ホントは海に気を取られて見てなかった…

「この辺の馬は、うまくいくと大スターで、人間が一生かかってもできないほどの大金を稼ぐのヨォ。子どものあんたにゃ分からないだろうけどさ」

「それって『競馬』っていうのですか?」

「おや!分かるの? 見かけによらず、ませた女の子ねぇ…ともかく、そういう『お馬様』だから人間並みの扱いなわけでアタシが作られたってワケ!」

ちょっと思った。このお家…男か女か分からないよ。
しげしげと見上げて、そう思ってた。

「アタシの体がそんなに気になるの?」

「いえっ!そんなわけじゃ…」

Dscf8143 「アタシをその辺のモルタルや見せかけの建材と一緒にしないでよ!めっきり錆に強いガリウム鋼板製だからね。」

「あのぅ…『コウバン』ってなんですか?」

「知らないの?要するに鉄板よ!だからって、その辺の缶詰野郎と一緒にしないでよ!」

Dscf8132_3 あーっ何だかここにいるの辛くなってきた…

「あのー ありがとうございました。私これで…」

言いながら横目で風を探した。でも、こういうときに限って風が来ない…

「なにも急がなくてもいいじゃないさ。久々に話の分かりやすそうな娘が来たんだから、ゆっくりしてきなさい!いっつも騒ぐことしか能のないガキに比べりゃ可愛いものだわ」

うっ…困ったなぁ… どうしよう…

(つづく)

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2008年5月11日 (日)

HONOKA

Dscf5791

廃墟に行ってきます─

普通─ こんなこと言ってると変わり者。
確かに人の家のゴミ箱あさっているみたいなことかもしれないね。

「今度の休みも『廃墟』かい?」

「いいとこあったら教えてくださいよ」

会話は成立してるけど どことなくシニカルだね

Dscf5794  

強く地味でいることに飽きて 脆く鮮やかに赤茶けた階段

骨を氷柱みたい溶かし出して 風になろうとするコンクリート

老人のように しわを浮かせて反り返る板壁

Dscf5793

何ゆえに こんなものたちに魅力を感じ、癒されるのか
考えているようで、考えたことがない わかっているようで、わかっていない
いわゆる『骨董趣味』と似たものだろうか?
でも、この取り残された思い出たちは 骨董にはなりえない

骨董というと 手軽な和骨董とか古布とかが静かにブームが続いていて骨董市とか骨董入門みたいな本をチラ見することが多い。買わないけど。
以前、図書館で読んだ骨董の本で、あるお店へのインタビューがあった。

「このお店で一番のものを見せてください」

主が出したものは、これ以上ないというくらいに潰されたコーラの空き缶を納めた額。
のみの市で若者が並べて売ってたそうだ。
その若者いわく、

「自分が美しいと思うものを選んで並べています」

主はその潰れ缶を300円で購入。それが店一番の宝。
骨董の価値観と異なるものがそこにある。

Dscf5797

「こんにちはー すいません あのサイロ撮らせてくださいませんか?」

  「あー? いいけど あんなボロ撮ってどうするの?」

「この家いいですねー 中、見ていいですか」

  「こんな 火にくべるしか能のないもの見るってかい?」

Dscf5810 そう言いつつ 向こうの顔は、ほころんでいたりする。
永久に表に出ることはないであろう歴史を聞かされたりもする。
歴史はあるのに歴史的価値は認められないものたち
その古が開封されるとき現われるのは「愛」の記憶だ。

…言い過ぎだって? そうかもしれないね。

でも考えてごらん。小さい頃からずーっと何気なく見ていたあの角にあった古い小屋が、ある日なくなったら 君の心に穴が空くよ。

それは、愛着があったということ。
愛がないと目的地に到着できない。

Dscf5803

廃墟に行ってきます。

なぜかって?
「好きです」 それだけでいい。 
LOVEだろうと LIKEだろうと「好き」に変わりはないよ

得られるものがあるなら、ホントのところ「廃墟」というのは、ふさわしくない冠だ。

なにも大げさで存在感のあるものじゃなくていいから、そういうものを見つけたい。

Dscf5808

「廃」と書いて「愛」と読め! 

なんちって

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2008年5月10日 (土)

ひとつ目の巨人

風になってずっと飛んでいた
雲の間をすり抜けながら何も考えないで真っ白になっている
どこまでも続く空みたいに 心の中が透き通る…

ずっと高いところを飛んでいたけど、大きな山を越えてから低い所に降りてくると、かすかな点にしか見えなかった建物もはっきり見える。
どこまでも続く道がヘビみたいくねくねして、脇に家が点々と座っている。その数がどんどん増えて、その先に街が見えた。道なりに左へ進路を取る。
もう「風乗り」が板に付いたみたいで半分得意気になってるよ。

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「あれ?なんだろう…」

今、通り過ぎたばかりの山に不思議なマークが見えた。

Dscf8686 近くまで寄ってみたけど、見れば見るほど何だかわからない。
風の上からだとゆっくり見れないので、とりあえずこのへんに降りてみることにしよう。

地面に降りると、ずっと高い所を飛んでいると平らに見えた山も下から見るとすごく大きい。
さっきの場所へ向おうと道をさかのぼっていくと鮮やかな色の大きな門があった。
大きいなぁ…こんな門は見たことがない。それに変わった形だよ。よっぽどすごいお家なんだろうな。
その先に続く木立に囲まれた道を登っていくと、さっきの不思議なマークが見えてきた。
「家… じゃない?」
草に覆われた急な階段の先に空を睨んでいる一つ目の巨人がいた。

Dscf8689

Dscf8695 家の階段にしてはすごく長いうえ、とても急だ。
普通の人ならすぐ疲れるだろうなーって思いながらテンテン跳ねながら上がっていった。
途中に白いテーブルみたいなものが…これって…空飛ぶ円盤?
ここは、宇宙基地なのかな?それとも宇宙観測台だろうか…

とりあえず上を目指す。
人がいたら厄介だけど、かなり古ぼけた感じがして、しばらく人もきていないみたいだ。
登りきったところで振り返ってみると…いい眺め!
道を走っていく車が虫みたいに見えた。

Dscf8712

Dscf8711 「ようこそ…!」

「わっ! びっくりした!」

ひとつ目巨人が私を見下ろして力強く呟いた。

「あなた達が来るのをずっと待っていました。歓迎します。」

「たち? 私ひとりですけど…。私のこと知ってるんですか?」

Dscf8700 「もちろんです。ずっと信号を送っていましたから」

信号? 私、そんなの見てないよ…

「ところで、どちらの星からお越しですか?」

「星? 私地球人です。 あれっ?地球人だったかな?前は地球人…今も地球人か。でも人間でもないか…。地球にいるんだから地球人だよ。それとも…?」

「なんだか難しそうですね…」

Dscf8709 「あ…はい。地球人だと思います。いちお…ずっとこの星ですから…」

「しかし、さっき空から降りてくるのが見えたよ。人間には真似できないことだ」

「風に乗ってきたんです。海の方から。 私…幽霊ですから。」

「そうか…地球人か…また違ったんだ…」

古ぼけた巨人が前より荒んで見えた。ちょっとがっかりさせたみたいだな…。

「宇宙人を待っているんですか?」

「そう!ずーっとね。40年くらいになるかなぁ…これが僕の仕事だから。」

「へーっそんなに長く…誰のためにですか?」

Dscf8696 その経緯と言うのが…
宇宙から来る人たちと友達になることを願って集まった人たちが昔、オキクルミカムイという神様がカムイシンタという竜に乗ってこの山に降りたという伝説から、ここに彼を建てたのだそうだ。全て集まった人たちの手作りで。
やがて、その指導をした人が病気になり、しばらくしてみんな山を降りて行ってしまったそうだ。
残されたこのひとつ目巨人さんは、またみんなを呼び戻すためにひとり空に信号を送って、宇宙人が来るのを待っている。

「宇宙人って、怖くないです?」

「そんなことはない。とても美しい人達らしいよ」

ふーん…会ってみたいな。でも、こんな崖みたいなところに空飛ぶ円盤が降りられるんだろうか?

「その『大きいクルミ』って神様はどんな方だったんですか?」

「『オキクルミ』だよ。足元の右にいったところに像があるから見ておいで」

「はーい!そうします」

Dscf8707  

吹き下ろす風に飛び乗ってそっちに行ってみる。

Dscf8691 「あっこれか…なんか変だなぁ…」

神様と言うよりも飛行機だよね。これ… 前に回ってみると…裏に生き物がいた。

「あーっデンデンムシ!可愛いなぁ…」 指で突っついていると…

Dscf8693 「だっ誰だ!ちょっとやめてくれよ!」

「あっしゃべった!ごめんなさい!」

「…ったく…朝っぱらから…」

「すいません…『オクイクルミ』ってこれですか?」

デンデンムシさんは、寝起きでイライラしている風だったけど教えてくれた。

Dscf8687 「『オキクルミ』だろ?もっと向こうだよ。小さい熊が2匹下にいるからすぐわかるさ!」

「じゃぁ…これはなんですか?」

「こいつは、向こうのオンボロを作った奴らが置いていったんだ。なんでも宇宙人が地球の最後の日に選ばれた人間を宇宙に連れ出すための宇宙船らしいぜ。もっとも何も来なかったらしいけどな」

「地球最後の日? それ困るよ。カズ君に会えなくなる!」

「なんのこっちゃ? どーせなら人間みんな連れていってくれりゃいいのさ。もういいだろ!もう少し寝かせてくれや…」

「ありがとう…」 地球最後の日? ずいぶん怖い話だな…でもいまだに来ないっていうのは、まだその日は来てないってことだよね?
デンデンムシさんに聞いたほうに大きい像があった。手前に可愛い熊を2匹従えて。
その神様は静かに座っている。まだ、神様には会ったことがないけれど宇宙人って感じじゃなくて、やさしいおじいさんみたいだ。
石の像は本当の神様じゃないらしくて何も話さなかった…

Dscf8718

Dscf8716 「どうだった?」

「はい…なんか、不思議な人だなーって…」

「そう!宇宙人は、地球人にできない不思議な力を持っているそうだよ」

「死んだ人を生き返らせることなんかもできますか?」

「きっとね。僕のボロボロの体も直してくれるだろうさ…彼らが来たら風に乗せて教えてあげる」

「早くその日がくるといいですね。じゃ!私いきます。どうもありがとう!」

「風に乗るんだったら僕の頭の上から行けばいい。ちょうどいい風が吹いてきているよ」

「ありがとうございます」

Nagisaflight

巨人の頭のてっぺんに上がった。遠くまで見渡せて気持がいい。
ここからなら空飛ぶ円盤が来たらすぐ見えそうだね。
私は、朝の新しい風に飛び乗って山を離れた。

Hayopira

「さよなら巨人さん」 早く願いが叶うといいね…。
振り返ると、相変わらず赤い目で空を見続けていた

ほんの一瞬も見逃さないぞ! という目で…

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2008年5月 6日 (火)

Brand New Wave Upper Ground ③

また、ひとりぼっちの毎日が戻ってきた。
せっかく教えてもらった「風乗り」もぜんぜんしていない。

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『ホントに幽霊だよな…わたし…』

Dscf4597 それでいいなんて言っちゃったけど、旅してみたい気持も確かにあった。
でも、カズ君を待たなきゃいけないんだ。約束だから…

カズ君は、いつ来てくれるんだろうか。カズ君の宝物のカードを眺めながら考える…。

「あんまり家にこもっちゃダメだよ。ホントの幽霊になっちゃうから」

そう言われた。 うん…確かにそうだ。

「いいんです!私、幽霊だから…」

そんなことを言ってしまった。そうしたいわけじゃないのに…
どうして幽霊なんだろう。なんのために存在し続けてるのか、私にはわからなくなった。
でも、幽霊でいたいわけじゃない。 

少なくともカズ君の前だけでは、普通の女の子でいたい。
カズ君は、どんどん大人になっていくんだろう。私はずーっと小学3年生のままなんだ。

Dscf7613

昼間、人の話し声が表で聞えているときは、なんとなく気もまぎれるし、雨の日は屋根の穴から絶え間なく注ぎ込む雨粒が畳を打つ音を聞いていた。
風が剥がれかけた屋根の鉄板を揺らして「クワン クワン」と鳴かせる。
でも、静かな夜は耐えられない。

寂しいよ 寂しいよ

Dscf1056 人知れず、ひとり泣いていた。
人が通って聞かれたら、ここはホントの幽霊屋敷だね…

いっそ全てを忘れてここからどこかへ行ってしまおうか。
私が死んじゃったとき、幽霊になったことがわからなかった。
パパもママも私の話を聞いてくれなくなってしまった。
木の箱の中の私の写真に話しかけたけど、私の方を向いてくれることは、一度もなくて…

いつも注意されたのに海で遊んだ罰なんだ。こうなったのも…
その罰はとても辛くて、パパがママを毎日のように責めるのを見なければならなかった。そのとき、やっとわかった。私がどうなったのかを…

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「お前がナギサを死なせたんだ!」

パパは、いつからか帰らなくなってしまったみたい。
ママもある日、私の写真を持って「ごめんね」と言って戻ってこなくなった。
その日から私は、この家でひとりぼっち
でも、今でも海は大好きだ

カズ君は、そんな毎日を全く変えてくれたから、私が幽霊だなんて言えなかったよ。
言わなけりゃカズ君もわからなかったくらい、その時は普通の女の子で、幽霊じゃなかったんだよね。
だから、家の都合で引っ越していった時は悲しかったよ。

「いつか きっと来るよ!」

その言葉を信じたい…今はこんなに辛いけど、それまでに比べたら…

Dscf1054ナギサちゃん…ナギサちゃん…

えっ!? 誰? どこにいるの?

ここだよ ナギサちゃんのいる、この家さ…

お家? お家さんが私のこと知っているの?

もちろん 見ていたよ ここに来たときのことも、可愛そうな出来事も、カズ君のことも…

そうか!私はひとりぼっちじゃなかったんだね。

ナギサちゃん ホントは旅してみたいんだろう? わかるよ…

Dscf1053_2 いや…それは…

わかっているよ カズ君が来ることが気になっているから跳べないんだろう?わたしがここで待っているから行っておいで…

でも…それじゃ…

わたしのことは大丈夫 頭に穴が空いたくらいじゃ、まだまだへこたれないからね
何かあったらハッカの香りの風で教えてあげるよ 行っておいで…

でも、お家さん…

Dscf1055_2 わたしもその日が来れば、広い大地や大きな海を旅できる。だから行っておいで 今のうちに ここにいて寂しい幽霊でいることはないよ カズ君もそんなナギサちゃんは、望まないだろうよ…

…ありがとう お家さん…

私はひとりじゃなかったんだ。だのに私…

もうすぐ いい風が吹いてくるよ さあ!

うん! そうだ!カズ君が大きくなってくるなら私も大きくなって待っていたい!
お家さんの言葉で、私自身を傷つけていた気持が癒える気がした…。

ありがとう! 私、行きたい!行ってきます!

いってらっしゃい…

窓際に立つ。ポケットから忘れてたハッカ飴を取り出して口に放り込むと爽やかな空気が全身に広がった
今なら風になれる!

サトシさん あなたの言うとおり
「幽霊でいい!」 なんて冗談でした…ごめんなさい! 
もしかして…わかってた?

明るくなってきた空 緩やかに重なり合う風の隙間が曲がりくねった道に見えた…

Csk058

明け方
まだ、少しぎこちないながらも強い光の筋が空へ登っていった
その光は、決して全ての人に見えるものではないようです…

そして、これがこれからの始まり…

(Prologue)

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Brand New Wave Upper Ground ②

風になる─
そんなことができるのかと思うとワクワクする。
浜で知り合ったサトシというサーファーの人(幽霊)に『風に乗る』レッスンを受け始めた。  
ところがその初日に…

「とりあえず、こんな風だってとこ見せるね」 と言われ、見せられたのが…

Sky1

「えっ? えええぇっ?!」

後ろからゆるい風を感じただけなのに次々に空をどんどん跳ね飛んだかと思ったら見えなくなって、今度は長い滑り台を滑り降りるように戻ってきた…。

「…と、まあこんな感じで…あれ? どうしたの?」

「と…とてもできないです!わたし!」

すっかり臆病になった。

「風は見るものじゃなくて感じるんだよ。慣れると風の筋や切れ目や次の風がわかって、こっちに大きいのが来るとか、どっちへ向かうとか簡単に分かるんだよ。
上に向かう風には下にもぐりこんで下がってくる風が必ずあるから、その重なりを感じるんだよ。
逆に帰りは下の風に乗れば帰ってこれる。それにさ、今さら怪我するわけじゃないし…」

そう言ってくれたけど…思った以上に大変なことみたい…
サトシさんはサーファーだったからお手の物なんだろうな…。

Dscf4779

Dscf4737_2 「とりあえず見えるものでやってみようか? あのトーチカがうまい具合に並んでるからあれを使って…」

「トーチカって…何ですか?」 浜に転がるコンクリートの塊。気になってたけどトーチカって言うんだ。

「あー知らないんだ。元々は海沿いの高台に埋まってたんだろうけど波に洗われて転がり落ちたんだね。 昔、戦争があった頃に軍人が海から来る敵を迎え撃つための隠し砦にしていたところだよ。あの中に銃を据えつけてね。海をにらんでたんだ。」

「ここにも戦争があったんですね…」

Dscf4749 そういってみたものの、私は『戦争』がよくわからない。

「昔は日本中がね。よその国がみんな敵だった。敵にしちゃったんだよ。恨みも無いのに戦って、命を取り合って…でも彼らの話じゃその敵はここに来なかったそうだよ」

「彼らって…あのトーチカ?」

「そう、彼らも形を持って生まれたから心を持っているよ。でも僕らのように自由になるには時間がかかるみたいだ」

その彼らの背を借りて、私の練習が始まった。
最初は風に乗っても最初のトーチカさんの手前や向こうに落ちたり波風や山風にあおられて落ちたり、かなりめげたけどだんだん思い通りに渡れるようになって、横からの風も使えるようになった。そうなってくると「風に乗る」感覚がたまらなく楽しい!

Tochika1

Dscf4750 「そろそろ上に跳んでもいい頃だね。」

「エーッでも…高いところは、まだ…」

「もうあとは経験だよ。すぐ慣れると思う。最初はいっしょに跳んであげるよ。」

トーチカの上で風を待った。ドキドキする。

「高い風に乗っても体を引いちゃダメだよ。風の先になる気持で…今だ!!

あ…待って! という暇もなく風に乗る。手を引かれるままに跳んで、気がつくと凄く高いところにいた。不思議なもので風の中にいると風は全然感じない。自分が風のひとつになっているんだと思った。

Ska008  

あーっこれは癖になりそう…

降りるとき、風が見えた。この感覚なんだ!

「どうだった?」

「わたし…すごくドキドキしました!」

「ドキドキ? 面白い子だね。あとはこの感覚を忘れないように練習すれば大丈夫だよ。怖がらないで」

「はい!ありがとうございます!」

「じゃあ僕は、そろそろ待っていた風が来るから、これでさよならになるよ」

「えっ? もう行っちゃうんですか?」 

「うん 南に置いてきた思い出を探しにね 僕の最終目的地さ」

サトシさんが急にそう言い出した。いつかは…と思っていたけど…しばらく寂しさを忘れられていたのに…

23phah13

「なんなら 一緒に来るかい?」

そう言われて少し心が動いた…でもカズ君のことがよぎる。

Ska016 「実は…私…」

サトシさんにカズ君とのことを話した。

「ふーん普通に会ってたんだ。不思議な話だね。たぶんカズ君はナギサちゃんにとって特別な人なんだよ」

「ごめんなさい…」

「早く会えるといいね。僕もいつか会ってみたいよ。怖がらせたくないけど」

いつもの海と違う香りの風が吹いた
この風に乗って行っちゃうんだ…

Dscf4775 「じゃぁ行くよ!また会えるといいね…あ…っと、あんまり家にこもっちゃダメだよ!ホントの幽霊になっちゃうから…」

「いいんです! 私、幽霊だから…」 寂しくなりたくないせいかそんなことを言ってしまった。

「ハハハ…それは悪い冗談だよ!」 そういうとサトシさんは風に飛び乗った。

肩越しに手を振る姿は、私が手を振ったときにほとんど空の彼方へ行ってしまった…

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私は旅立つことのできない幽霊
そんな自分になんだか泣けてくる…

(つづく)

 

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2008年5月 5日 (月)

Brand New Wave Upper Ground ①

─暗い部屋で思い出に浸ってると いつかホントの幽霊になっちゃうよ─

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暗い部屋の中でひとり考えてた

隣のカズ君が引っ越して、ずいぶん経っちゃったね。
たまに夜の海へ行くけど、カズ君と自転車で走った月夜が懐かしい…。
考えてると悲しくなるから、そんなとき口にハッカ飴を放り込むと心の中のモヤモヤが霧になって飛んでいくみたいでスッキリできる。
それは私にとって、心を洗う呪文かもしれない…

できるなら どこか遠くへいってみたい。

カズ君 新しい暮らしに慣れた? わたしもあれからいろいろあったよ…

バチバチバチバチ…
大粒の雨が窓を破ろうとガラスに当たってくる
カクッ…カクッ…  なに?あの音? 天井裏で変な音がする

次の瞬間! バリバリバリ…!
怖い!イヤだ!どうしたの?
部屋の真ん中に大きな何かがバサッと落ちてきた
ただ怖くて部屋の隅で小さくなっていたわたし。

Ska023

朝が来て、鳥のさえずりに気が付いて外を覗くと昨夜の嵐が嘘みたいに治まってきれいな青空が広がってた。
道に錆付いた鉄板が散らばっている。
あれ? いつもより部屋の中が違うような気がした…
振り向いてビックリ! 天井の板が1か所抜け落ちて、その上に大きな穴が空いている。
そこから光が差し込んで床に光の束を作っていた…

Dscf4705 「えぇっ?! そんな!」

もし、あの光に入っちゃったら、闇の中で生きている私は、あっという間に蒸発して消えてしまうだろう。
しばらくその怪物とにらみ合っていて、もっと大変なことに気が付いた。

「動いてる!こっちに…」 

怪物はゆっくりと私のほうに近づいてくる。

「誰か助けて…!」

あまりのことに動転して外に助けを求めようとして窓にへばり付いた。
外には麦わら帽子をかぶった小さな子が陽射しの下、お母さんと楽しそうに歩いてる。

Dscf1052 そうなんだ。光が怖いのは、私だけ。
それに私の声も姿も人には、わからないんだ。

わたし…幽霊だから…

こうなったとき、パパとママからも見えなくなったらしくて、すごく悲しかった。
だけど、カズ君だけが私を普通の女の子のように見てくれた…。

「カズ君助けて!」 といっても、それは…。

カズ君が来てくれる日までは、消えたくない!助けて神様!
震えながら祈るけど怪物はどんどん近づいてくる。

もう、逃げられない… カズ君ゴメン!待てなかったよ…
ホントのことも言えなかったね…

ギュッと目を閉じて覚悟した。

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あれ? あきらめて光に包まれるままにされていたけど、何ともない。
光が指先でにじんできれいだった。

「あったかい…」 
こんな感じはいつ以来だろう?
少なくとも生きてた時からずっとなかったと思う。

見上げたら屋根の穴の向こうに青空が見えてた

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周りを伺いながら家の外へ出てみる。
ドロボウなら暗がりでする事を私は昼間からしている。
外では、私にハッカ飴をくれた大家のおばさんが一生懸命に嵐の散らかしたものを片付けている。
急に立ち上がって、こっちを見たのでドキッとした。けど、やっぱり私が見えないみたい。

Dscf7068 さっきまでこの世の終わり(?)みたいに思っていたのにすごく気分がいい。
また、太陽の下に出られるなんて嘘みたいだよ。
おや?やっぱり私には影ができないんだな…でもそんなのどうでもいいや!
真っ青な海を見ながら歩いていると…さっきの麦わら帽子の子だ。お母さんに手を引かれてこっちにくる。
かわいいねー…あれ? こっちを見てる? 見てる!…変な目でずっと私を追っている。この子には見えてるんだ。
黙って私を見る目に耐えられなくなって、慌てて防波堤の向こうに飛び降りた。

なぜ? 私が見えるの?
カズ君も私が見えてた。普通に触れてた。
あの時は、話ができたことで舞い上がっていたから何も思わなかったけど…
カズ君もこんな私が幽霊なんて知らなかっただろう。

とにかく、家に戻ろうと防波堤の上を覗くと中学生らしい女の子がふたりこっちに来た。
なんとなく見覚えが…たしか学校で同じクラスだった子だ! へーっ大人になったんだなぁ…いいなぁ…

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「知ってるー? この辺、幽霊出るんだってさ!」

「えーっ ホントー? そんな話きいたことないよー」

え…? まさか…私のこと?

「ホントだってさ!先週の夜に防波堤に座って海を見てる男の幽霊を見たって聞いたよ」

「イヤだー! そんなん聞いたら通れないじゃん!」

えーっ? 男? じゃぁ私じゃないよ。ここんとこ外に出なかったし…
でも、なんか気になることを聞いたな…
私のほかにこのあたりに幽霊がいるんだろうか?

…なんか気になる 会ってみたいな

Img_0145

夜も更けて、車の通る音も聞えなくなった。
気がつくと屋根の穴から音楽がかすかに聞えてくる。
そっと外へ出て音のするほうを探してみた。
ある家の2階の窓が開いていて、そこからラジオの音が漏れているみたいだった。
せっかく外へ出たので、海の方へ行ってみた…

「先週の夜に防波堤に座って海を見てる男の幽霊を見たって聞いたよ─」

そうだ!そんな話を聞いたっけ…今夜はいるのかな?
防波堤に寄りかかって下を見ると…いた!誰かいる!普通の人(生きてる)にも見えるけど、どこか違う…

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勇気を出してそっと近づいていった。
声をかけようかと迷っているうちに向こうが振り向いてドキッとした。

Img_0224 「やあ!こんばんは」

「あの…私…見えるんですか?」

「もちろん見えるよ。君も見えるからここに来たんだろ?」

私より年上で日焼けしてるみたいに黒っぽい人だ。

「わたし、ナギサっていいます 聞いたんです。ここに男の人が出るって…」

「そっか…ここにも見えちゃう人がいるんだなぁ。うっかりしたね。僕の名はサトシだよ」

「ナギサ君はどこから来たの?」

Img_0230 「えっ?ずっとここですけど…近くに家があるので。どこから来たんですか?」

「ずっと南の方だよ。いろんな海が見たくて旅してるんだ」

たしかにこの辺の人の雰囲気じゃないと思った。

「旅ってどうやってしてるんですか?」

「風にのるんだよ。僕は生きてたときからサーフィンしてたからお手の物だよ。風の波を乗り継いで色んなところに行くんだよ。板がいらないからもっと自由かな? この間の嵐の夜以来、風が静まったから南に戻る風が出るまでこうして待ってるんだ。」

「風に乗れるんですか?私にはマネできないです」

Dscf7574 「コツを覚えたら簡単だよ。ずっと上の方のジェット気流に乗ればよその国に行くのもアッという間さ。それじゃ味気ないから下の風を乗り継いでいくんだ。風の先に乗って、次の勢いのある風に順番に乗り継いでいくと飛ぶみたいに自由に行けるよ」

「私にもできますか? それ…」

「もちろんさ 教えてあげようか?」

「はい!ぜひ教えてください!」 風に乗る自分を思うとなんだかときめいた。

「少し離れたところに人のあまりこない浜があるから明るくなったらそこででも…」

「明るいところってなんでもないんですか?私、光の下はずっとダメだと思っていたから…」

「テレビかなんかの見過ぎだよ。吸血鬼じゃあるまいし…」

「ずっと…5年くらい家の中にいたんです…」

「ハハハ… へーっ それじゃーホントの幽霊になっちゃうよ!」

そう言われて、なんだかすごく恥ずかしかった…
『風に乗る』 ってどんな感じだろう…

(つづく)

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2008年5月 3日 (土)

愛すていしょん

2005年3月『ふるさと銀河線(ちほく高原鉄道)全線廃止決定!

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国鉄の時代から続く路線だったけど利用客の減少で赤字路線となり、廃止となるところを第三セクター化して運行を続けていた。
第三セクターといえばバブル期のテーマパークと同じで多額の融資を受けることが可能だった時代に可能な事業だったと言われますね。バブルバブルって未だに言われるのも可愛そうな気がするよ。
バブルの恩恵ばかりでもないと思うけど。

Dscf5132 ともかく、今のご時世、決まると早い。約1年後の2006年4月21日をもって「ふるさと銀河線」は全線廃止になりました。今の時代、特に減算的なことにおいては、バブル狩りみたいに早いです。

ダイヤとか詳しくないので言えたものではないですけど、各駅停車の小旅行みたいなことを数回したことがありました。
「乗ればどこかに着くだろう」と自分のことには天性楽観的な性格が災いして、今で言う所の秘境駅で降りてしまい、自分の手のひらも見えなくなるような本物の闇に包まれる無人の駅舎で翌朝まで恐々としたこともありました。

Dscf5131 「ふるさと銀河線」もいつか乗っておこうと思っているうちに廃線が確定。そのあとも機会を作れず最後の日を過ぎてしまいました。
こういうことって近くの親友みたいなもので、「いつでも会えるから…」と思ってるうちに二度と会えなくなってしまうってことも無いことじゃありません。

「近くだから会っておこう」 それも必要。

現在、沿線は一部の町では、公売に出した廃レールが意外と高額で落札されたことから、同様の向きが広がるのも避けられないことなのでしょう。
既に軌道に積まれた枕木の山を見かけるところも多くなり、作業は進んでいるようでした。

そんな中、沿線の陸別町が観光資源として単独運行が始まったようです。
あの『銀河鉄道999』のメーテルも健在で!

それは、良しとして
たいていの地区は沿線撤去の方向でしょうか…
今も残る駅舎も「道の駅」になったものや地域福祉館として生まれ変わったり、歴史的建造物として保管されるもの。そして先行きもまだ決まらないままに取り残された古くも新しくもない小さな駅。

そんなひとつに寄って来ました。

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Dscf5131_3 足寄町「愛冠(あいかっぷ)駅」。
ちほく線 全33駅中、十勝池田駅から数えて11駅目で足寄駅の次になります。
名前は知っていましたが、始めて現地に行って驚いた。

「えっ?ブライダル・ブリッジ???」 BBですか? そりゃブリジット・バルドー。
何だか妙な名前だな

愛冠(あいかっぷ)=愛のカップル にかけているそうです。元々そういう意味じゃないだろうけど。
変わった形の駅舎も冠の形にしているというお話です。存続時も
近場で言うと「旧広尾線」の「愛国駅」や「幸福駅」みたいなものです。いわゆる『駅婚』というのが執り行われていたらしい。
わきの東屋には「愛の泉」の名が掲げられる名水が滾々と湧き出してた。

愛の泉は、廃線になっても枯れることはない

Dscf5129 その泉の味は─   無味無臭。
そんな味がたまらなく美味しく感じられるんだよ。人は

人は、その清らかな泉を濁らせたり、枯らせたりもするんだよ。故意じゃなくても…
そうならないためにも泉は常に滾々と湧き続けてなければならない。

簡単そうで難しいこと 自分を潤してくれる泉を探すのは大変だ
ところが、その大変さを感じないのが、感じさせないのが『愛』の時間だよね。

泉を見つけたら枯らせないようにしよう
泉も炎も湧き上がるところは似ている
だから大事にしないと…

Dscf5128 そして それは こころのありかたと おなじ
王冠は ふさわしいところに来る
強いだけじゃもらえないよ
ちょい難しいね。

簡単なこと 難しいこと

かけがえのないこと とりとめのないこと

些細なこと 大げさなこと

そんなことみんな じつは それほど違わないことなんだ
そんな気がする 『愛』の前ではね

どう思う? どう想う…

Dscf5135

ひとつだけ気が付いた
「駅婚」は終着駅では成立しない…よね

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