ぱだん ぱだん ③
その学校にいる先生に会ってみたいと思ったのは、聞いてみたいことがあった。
それは、いつか会いに来てくれる引っ越したカズ君とのこと…。
そのことで、いつも考えていたことがふたつある。
ひとつは、私がホントは「幽霊」だと言えなかったこと。
もうひとつは、カズ君がきた時、私はどうしたらいいのかということ…
先生、それも私と同じ存在の先生なら良い答えを教えてくれるだろうと思う…
1年生の頃、話ベタな私は友達ができなくて、担任の先生がそんな私を気にしてくれて話を聞いて、一緒に悩んでくれた。そしてだんだん話せるようになってクラスの他のこと変わらず遊べるようになれたことがあった。
だから先生は、いつも素敵なアイディアを持っている人…そんな風に思ってる。
でも、正直それを聞くことが怖い気もした。
大事なことだからいつまでも逃げていられないけどね。だから…。
ふたつ目の山の縁を巡る風に乗って大きく回り込んだとき、学校が見えた。
「あそこだ!」
私が通っていた学校と違って、ほとんど木でできた1階だけの校舎だけど横の幅は同じくらい長い。いきなり中に入って、さっきの学校と違ったりってのもなんだから、少し慎重にいこう。
道の近くに降りて学校を見渡す。この校舎は背中に大きな山を抱えて勇ましく見える。
グランドは、しばらく使われていないようで草だらけ。
学校も今は学校として使っていないみたいだ。
学校が学校でなくなる事ってどういうことだろうか…
子どもがいなくなったのか
人がいなくなったのか
古くなりすぎて使えなくなったのか…私にはわからない。
学校ではなくなったここに、ひとりでいる先生ってどんな人だろう。
黄色いブランコが私を誘って静かに揺れてた。
「久しぶりの子どもじゃない ちょっと乗っていきなさいよ─」
「─ごめんなさい 後でね」
学校に近づくと、横の大きな教室の壁がなくなっていて中が丸見え。
何かの大きな機械が置いてあって、下には青いビニールを敷いてある。わらもたくさん散らばってる。たぶん体育館のようだけれど、床はなくなっている。そう、誰かが物置にしてるみたいだよ。
学校の奥に通じる入口は、板で塞がれてた。小さい隙間を探せば私は入っていけるけど、あきらめて正面に回ろう。
昔見たテレビのアニメで見たように幽霊は、壁を通り抜けられると思っていたけど、今の自分になってからそれが出来ないと知った。ほんの少しでも光が漏れるような隙間がないと…
せっかく来たんだから普通の小学生らしく戸を開けて入ろうと息巻いて正面のドアに手をかけたけど…重い…ちょっと無理。
仕方なくドアの隙間を滑り込んだ。
「わぁーっ」
学校の絵と、みんなでスキーをしているところ。
スキーの絵がとっても楽しそうで、しばらくニンマリして見上げてた。
私の通っていた学校にも卒業した生徒の絵がこうして飾ってあったっけ…
自分の学校じゃないのに懐かしい感じがする。
それ以外は、葉っぱとかが散らばって下駄箱もないガラーンとした玄関。
誰も来なくなって可愛そうだね…。そうだ!忘れてた。
「こんにちはー」 返事はなかった。
あれ、おかしいな…
「こんにちはー」 シーン…
廊下の方を覗き込むように声をかけたけれど何も聞えない。
「いないのかなぁ…」 薄暗くて静かな廊下。横の教室から光が差し込む。
教室の中はガラーンとして時がすっかり乾いてしまったみたいだ。
机ひとつなく薄暗く広い教室の中で、光の束がすごく威張り散らしている感じがした。少し前までは、私もあの光が怖かったんだなぁ。
ずっと暗い部屋にいたから、あの光に当たると霧みたいに消えてしまう気がしてた…
「テレビかなんかの見過ぎだよ。吸血鬼じゃあるまいし」
風の乗り方を教わったサーファーのサトシさんにそんなこと言われたっけ…
「わぁっ!」
思い出にふけっているところに急なベルの音で飛び上がった!
リリリ…リン!
つまづくように鳴り止んで、一瞬散らばってた空気がまた固まり静かな部屋になった。
「あぁ…驚いた。胸がドキドキする…」
「やあ、こんにちは…」
その声に振り返ると背広姿の男の人が立っていた。
「あ…すいません!勝手に入って!」
「いいのですよ。学校は子どもの場所ですよ。私はモトミヤといいます。君は?」
「はい!ナギサです。猫を連れた人に聞いてきました!」
「あぁ!あの人に会ったのですか!とても面白い方でしたよ」
あぁ!やっぱりここで間違いなかったんだ!
「あの…あの…先生!私が来たのは、先生に聞いてみたいことがあって…あの…」
「おやおや、あわてんぼうさんですね。とりあえず席について落ち着きなさい」
先生が手を差し伸ばした先には、さっきまでなかった机と椅子があった。
(つづく)
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