Brand New Wave Upper Ground ③
また、ひとりぼっちの毎日が戻ってきた。
せっかく教えてもらった「風乗り」もぜんぜんしていない。
『ホントに幽霊だよな…わたし…』
それでいいなんて言っちゃったけど、旅してみたい気持も確かにあった。
でも、カズ君を待たなきゃいけないんだ。約束だから…
カズ君は、いつ来てくれるんだろうか。カズ君の宝物のカードを眺めながら考える…。
「あんまり家にこもっちゃダメだよ。ホントの幽霊になっちゃうから」
そう言われた。 うん…確かにそうだ。
「いいんです!私、幽霊だから…」
そんなことを言ってしまった。そうしたいわけじゃないのに…
どうして幽霊なんだろう。なんのために存在し続けてるのか、私にはわからなくなった。
でも、幽霊でいたいわけじゃない。
少なくともカズ君の前だけでは、普通の女の子でいたい。
カズ君は、どんどん大人になっていくんだろう。私はずーっと小学3年生のままなんだ。
昼間、人の話し声が表で聞えているときは、なんとなく気もまぎれるし、雨の日は屋根の穴から絶え間なく注ぎ込む雨粒が畳を打つ音を聞いていた。
風が剥がれかけた屋根の鉄板を揺らして「クワン クワン」と鳴かせる。
でも、静かな夜は耐えられない。
寂しいよ 寂しいよ
人知れず、ひとり泣いていた。
人が通って聞かれたら、ここはホントの幽霊屋敷だね…
いっそ全てを忘れてここからどこかへ行ってしまおうか。
私が死んじゃったとき、幽霊になったことがわからなかった。
パパもママも私の話を聞いてくれなくなってしまった。
木の箱の中の私の写真に話しかけたけど、私の方を向いてくれることは、一度もなくて…
いつも注意されたのに海で遊んだ罰なんだ。こうなったのも…
その罰はとても辛くて、パパがママを毎日のように責めるのを見なければならなかった。そのとき、やっとわかった。私がどうなったのかを…
「お前がナギサを死なせたんだ!」
パパは、いつからか帰らなくなってしまったみたい。
ママもある日、私の写真を持って「ごめんね」と言って戻ってこなくなった。
その日から私は、この家でひとりぼっち
でも、今でも海は大好きだ
カズ君は、そんな毎日を全く変えてくれたから、私が幽霊だなんて言えなかったよ。
言わなけりゃカズ君もわからなかったくらい、その時は普通の女の子で、幽霊じゃなかったんだよね。
だから、家の都合で引っ越していった時は悲しかったよ。
「いつか きっと来るよ!」
その言葉を信じたい…今はこんなに辛いけど、それまでに比べたら…
えっ!? 誰? どこにいるの?
ここだよ ナギサちゃんのいる、この家さ…
お家? お家さんが私のこと知っているの?
もちろん 見ていたよ ここに来たときのことも、可愛そうな出来事も、カズ君のことも…
そうか!私はひとりぼっちじゃなかったんだね。
ナギサちゃん ホントは旅してみたいんだろう? わかるよ…
わかっているよ カズ君が来ることが気になっているから跳べないんだろう?わたしがここで待っているから行っておいで…
でも…それじゃ…
わたしのことは大丈夫 頭に穴が空いたくらいじゃ、まだまだへこたれないからね
何かあったらハッカの香りの風で教えてあげるよ 行っておいで…
でも、お家さん…
わたしもその日が来れば、広い大地や大きな海を旅できる。だから行っておいで 今のうちに ここにいて寂しい幽霊でいることはないよ カズ君もそんなナギサちゃんは、望まないだろうよ…
…ありがとう お家さん…
私はひとりじゃなかったんだ。だのに私…
もうすぐ いい風が吹いてくるよ さあ!
うん! そうだ!カズ君が大きくなってくるなら私も大きくなって待っていたい!
お家さんの言葉で、私自身を傷つけていた気持が癒える気がした…。
ありがとう! 私、行きたい!行ってきます!
いってらっしゃい…
窓際に立つ。ポケットから忘れてたハッカ飴を取り出して口に放り込むと爽やかな空気が全身に広がった
今なら風になれる!
サトシさん あなたの言うとおり
「幽霊でいい!」 なんて冗談でした…ごめんなさい!
もしかして…わかってた?
明るくなってきた空 緩やかに重なり合う風の隙間が曲がりくねった道に見えた…
明け方
まだ、少しぎこちないながらも強い光の筋が空へ登っていった
その光は、決して全ての人に見えるものではないようです…
そして、これがこれからの始まり…
(Prologue)
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