ハッカ飴 ②
でも、不思議なんだよな。ナギサの家。
病気ったって、女の子ひとり家に置いてさ
全然物音がしないっていうか ほかに人がいる感じがしない…
よっぽど遅いんだろうか?
知りたいと思うけど、病気のことなんかも聞きずらくて…
だからナギサのこと 「囚われのお姫様」 そんな風に思ってた
「うん ありがと!」
相変わらず押入れの隅の小さな穴のやり取り。
たまにナギサの指に自分の指が触れることがあった。 柔らかいけど冷たい指先。
ナギサを見てみたい。思いっきり蹴飛ばせば壁ごと外れるだろうけど、父さんにすっごい怒られるだろうな…
「うーん…遠いとこなら古いトンネルの辺りまでは行ったなぁ…かなり走るよ。古い船とか投げてあってさ。でも近くの浜に降りたりするから、そんなに遠くまで行かないことのほうが多いよ。近頃じゃトラック走ってるから母さんうるさいし。」
「いいなぁ… 海行ってみたい…」
「全然ないの?」
「あるよ! でも最後に行ってから何年経つかなぁ…」
「そんなに行ってないんだ?! すぐ近くなのに」
すると、もう何年も家から出ていないってことなの?
「…そんなに悪いの? 病気…」
「ううん 今は全然平気だよ! でもね…」
「出られるもんなら、連れてってあげられるのに…」
なんだか 会話がぎこちなくなった。
「…連れてってくれる?」
「エッ?」
「でも 夜しかダメだな…わたし…」
「ホント? いいの?」
「約束する」
「ありがとう! え~っ楽しみぃ なんだかドキドキしてきた…」
ボクもかなりドキドキしてた。
「ホントに大丈夫なの? ひとりで…」
「大丈夫だって…もう3年だよ。」
「ずいぶん頼もしいな。しかし、一泊でも帰ってくるのは夜になるぞ」
「平気だって!危ないことしないし、ちゃんと留守番できるよ」
「そんなに言うなら大家さんにもお願いしておくけど…」
チャンスは、けっこう早く来た。親戚の結婚式に父さんたちは、出掛けるらしい。
そのことを父さんたちがテレビを見ている間にこっそりナギサに知らせた…
「えっ? どしたの?」
「今度の金曜に父さんたちでかけるよ」
「ほんと? やったね!」
「何時ころ出かけるかわかんないけど…そっちは?」
「うん! だいじょうぶ」
「大家のオバサンとこで、ご飯食べてくるから出られそうになったら声かけてよ」
「わかった!」
「うわ~!焼肉だ!すっげぇ!」
うちじゃ家族みんなが揃うことってめったにないから焼肉なんてホントに久しぶり… つい調子にのって動けなくなるほど食べてしまった。
帰り道、隣を見ると電気がついていない。
「どこか行ってるのかな?」
自分ちに入ってゴロゴロしてると、お腹がいっぱいになったせいで眠くなってきた…
「う~ん…なに~?」
「カズ君! わたし! ナギサだよ!」
「えっ?!」 一発で目が覚めた。
隣にナギサ…だよな?…女の子が座ってこっちを見ていた。
「ナ…ギサ?」
「うん! 始めましてだね! 声かけたんだけど、返事がなかったから…ごめんね起こして」
「いやー寝ちゃったぁ…今何時?」
「もう12時過ぎちゃったね。 これからで大丈夫?」
「うん 目は覚めた」
港に停泊している船の灯
遠くで犬の遠吠え
夜空に少しかすんだ月が見えた
みんなもう寝ているから 見える家の窓は暗い
昼間とは別世界の感じがするよ
波の音を包む闇のところどころで街灯が虫を集めて賑わってた
「これ、ブレーキの音うるさいからこのへん離れてからね」
「うん!」 月灯りに浮かぶナギサの白い顔が、すごく嬉しそうだった。
(つづく)
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