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2008年4月29日 (火)

ハッカ飴 ─言えなかったこと─

あの日からもう、10年。
この家の有様を見るとナギサの家もどこかへ引っ越してしまったろう。
一度も行ったことのないナギサの家(だったところ)に入ってみた。

バキバキッ… 「うぁっ!」 ブヨブヨにふやけた床を踏み抜いてしまった。
「痛ってぇ~っ」 見上げた天井から空が覗いていた。

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Dscf3913 台風か何かにやられてしまったのか窓は、ほとんど吹き飛んでいる。
そのせいで、あの頃は薄暗かった部屋の中が明るい。
朽ちかけた壁にナギサが描いた絵が残っている。確かにここにいたんだ!

でも、どこ行っちゃったかなぁ…ナギサ。 意外と近くで暮らしているのかも知れないし、僕と同じようにどこかの学校へ通っていて、ここにはいないのかもしれない。

「苗字も聞いておけばよかったな… まてよ、おばちゃんがたぶん何か知っているか!」

Dscf3915 「どうだった? 思い出は見つかったかい?」

「はい ありましたよ ところで…うちの隣に同じくらいの歳の『ナギサ』って子がいましたね」

「あぁー 確かにいたよねぇ…お父さんに聞いたのかい?」

「その子って今は、どちらのほうへ?」

「可愛そうにねぇ…まだ小学生だったのにお亡くなりになってさ…」

「えっ?! 亡くなった? 病気、悪くなったんですか?」

「病気? 病気ではなかったよ。あれは天気は良かったんだけど波の高い日ににさ…波にさらわれて…私もあの日、出かけるのを見ていたから一言、声でもかけておけばねぇーって今でも思うよ…」

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その話の経緯はこうだった。
ボクと同じナギサは、やはり両親が共働きの家で近所に遊び友達がいなかったのでいつもひとりで遊んでいた。
海が好きな子で、天気が悪い日でもなければ毎日海で遊んでいたけど、晴天にかかわらず海の荒れていたある日、波にさらわれて命を落としてしまった。そのとき小学3年生。

そんな家の不幸があってから両親の中はナギサのお葬式の後、険悪になっていき父親は家からいなくなってしまった。しばらく母親の方は閉じこもり気味の暮らしをしていたそうでオバサンが様子を気にしていたが、いつからか見掛けなくなり、1年ほど待ってから保証人の母方の親御さんに連絡を取り家をあらためたそうだ。
そこには小さな仏壇と遺骨の箱がそのまま残されていたらしい。それでも遺影だけは持ち出したらしく、なかったらしい…
写真があれば確認できたんだけど。

「あの子のおじいちゃんに当たる人が来てね『可愛そうに…可愛そうに』って遺骨の箱を泣きながら撫でているのを見たら私ももらい泣きしちゃってさ…溜まってたお家賃の話なんかできなかったさ…あの奥さんも可愛そうでねぇ『お前が殺したんだ!』なんてご主人から責められてさ…何度も止めに入ったよ。だからカズちゃんが遊びに出るときは、特に注意してたんだよ。うるさいと思ったろうけどさ」

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とても可愛そうな話だ… でも、何かおかしい…
僕の知っているナギサとは、えらく違うような気がする。

「オバサン? 僕はナギサちゃんに会ってますよね」

「そんなことないよ!あんだけの事件だったんだからちゃんと覚えているさ。事故はカズちゃんの来る前の年で、カズちゃん家が引っ越した後に向こうの親御さんに来てもらったんだから…カズちゃんの入ってたところから見たらちょうど奥の部屋の押入れの裏にお仏壇があったのさ」

Dscf4758 「???」 えっ?いったいどうなっているの? 頭が混乱してきた。
病気 自転車 夜の海 学校… いろんなことが頭の中でグルグル回っていた。

「ハッカ飴…」

「えっ? ハッカ?そういえばあの子は、ハッカ飴が好きだったねぇ 私があげたら、えらくお気に入りでね。 お仏壇を開けたときなんか床にいろんな飴がバラバラこぼれ落ちるほど詰め込んであったよ…お母さんのせめてものお詫びだったかねぇ… そうだ!思い出した!ちょっと待って…」

おばさんは何かを思い出したようで家の中に駆け込んで行った…
僕の知っているナギサは、いったい誰だったんだ?

「これさ、これこれ。なんか処分もできなくってねぇ…」
その、持ってきたものというのが…

Dscf7053 「これ、やるよ!記念に!」

「えっ? これカズ君の宝物でしょ?」

「だから! いつか返してもらいにくるよ!」

そうか…ナギサって…あの頃には既に…

「わたしが、一番嘘ついてるかもしれない… カズ君!わたしホントは…」

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涙が出てきた
ひとりぼっちで暗い部屋にいて寂しかったんだなぁ… ナギサ…ナギサ!

Dscf7084 「ホント可愛そうな話だよねぇ… そんなふうに思ってくれる人がいたらあの子も浮かばれるよ」

「これ…もらってっていいですか?」

「私も困ってたからねぇ…何とかしてあげてちょうだい。 私からもお願いするわ」

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Dscf7154 オバサン家をおいとましてから、またあの家に向かう。
まだ、やり残していたことがあった。
ポケットからハッカ飴をつまみ出して、いつもナギサと話をした押入れの上に置いた…

「遅くなったけど約束どおり来たよ。ナギサ!」

今やボロボロの廃墟になってしまった思い出の家から、なんの返事も返ってこなかった…。
あの日々が夢だったのか現実だったのか今にしてみるとよくわからない…でもナギサに預けたこの箱が全てを証明している。僕とナギサの約束のこと…

「バイバイ ナギサ! また会おうね!」 

静まりかえる家を後にする時、かすかに風が通り抜けていった。
一瞬ハッカの香りがしたような気がした…。

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_mg_0222 ポケットの中には今も
ハッカ飴のかけらがひとつ
王様と王女様みたいな
ボクラの恋がなつかしい

夢の中 日々の中 どこにいても いつも
夏の日に僕を戻す ハッカ飴のかけら
秋が来て冬を過ぎ 春の風を越えて
きっとまた夏は来る キミがいなくなっても
そして いつかボクらは気づくだろう
宝物の行方に…

バイバイ…        「ハッカ」/エレキブラン

End

「アリガト… カズ君…」

cat「ハッカ飴」内の使用画像に関して 北海道廃墟椿 のカナブン師匠にご協力いただきましたことを感謝申し上げます。happy01

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2008年4月27日 (日)

ハッカ飴 ④

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Dscf7022 「カズくーん、どしたの?」  「え? なにが?」

「なんだか元気ないみたいだね…悩んでるみたい。わたしのこと?」

「いや!ぜんぜんないよ!そんなこと…」

父さんから聞いた引越しのはなし…

「まだ、決まったことじゃないから…」

そう言ってたけど、どうやら今度の土曜日に決まったらしい。
いつもそうさ。子どもは黙ってついていくしかないんだ…子どもだから…
家の中は、もう段ボール箱がいくつか積まれていた。

まだ、ナギサには言ってない。
言えなかった。突然、奇跡が起こって魔女の呪いが解けるみたいに全ての悩みが消えてしまわないかなーって思っていた。

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「昼間、カズ君のところ、なんだかゴトゴト騒がしいね」

「あぁ?母さんが片付けでもしてるんだろ。昼過ぎにはパートに行ってるから」

Dscf6869 ナギサも薄々感じてるのかな?
でも、ホントのこと言ったらどうなるだろうか。泣いちゃうかな…意外とあっさりしてたりして…

「あのさぁ…」  「なーに?」

「…あ…えーっと、また行こうね。海…」

「うん!行こうね!」

「カズ君?」  「えっ?」

「ありがとう わたしのために…」

「いや なんも…」

心の中の塊が重さを増してきた。 痛いくらいに…

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Dscf6779 ナギサと話すのが辛くなってきて学校から真っ直ぐ家に帰らず海辺で時間を潰すことも多くなった。
大家のオバサンにもあまり海で遊ばないように言われてたけど…
帰ってもドロボウみたいに物音をたてないで静かにマンガを読んでいないふりしてた。
声をかければいつもナギサが返事してきてたから、押入れの壁のすぐ向こう側でナギサが待っているかと思うと、そっちを見る気にもなれない。

でもボクは、このままどうしようってつもりなんだろう?
話をすることもなく、あさっての土曜日には、黙って幽霊みたいに消えるつもりなのか…
ただ、話のつづきを知っているマンガをずっと読み続けている。

「カズ君…」  「うわぁっ!!」

「ごめん!帰ってくるの見えたし、玄関あいてたから…」  「あ… あぁ…」

ボーっとページをめくっていたらナギサがいつのまにか目の前に立っていた。

Dscf6846 「ずいぶん片付いたんだね」  「…」

「こないだ、カズ君のママと大家のオバサンの話聞いてたから知ってたよ。引越しのこと…」

「ごめん…」

「ううん気にしないで。カズ君優しいから言えなかったんでしょ。その気持はわかるから…」

「反対したんだ!でも…」  「仕方ないよね」

全部バレてた。最低だ。ホントに幽霊みたいに消えてしまいたい。

Dscf6840 「カズ君、ホントに楽しかったよ。すごくいい思い出ができたから」

「…ナギサのこと、またひとりぼっちにするのかと思うと辛かったんだ。」

「ありがと 大好きだよ!カズ君」

ナギサは、照れくさそうに笑った。

「でも、嘘ついてたよ。」

そう言うとナギサは、顔がまじめになって… 泣いてた

「わたしが、一番嘘ついてるかもしれない… カズ君!わたしホントは…」

「いいよ!言わなくても!」 なんとなく聞いちゃダメな気がした。

「言わなくても…」

「ごめんね…」 女の子の涙には、男はかなわないなぁ…

しばらく部屋の中が静かになって、すごく耐えられなくなってきた。
なにか言おうとして回りを見てて、カードの箱が目に入った。

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Dscf7041 「これ、やるよ!記念に!」

「えっ? これカズ君の宝物でしょ?」

「だから! いつか返してもらいにくるよ!」

「うん…わかった。待ってるよ!ずっとここで…わたしこんなのしかないけど…

そういってナギサはポケットからハッカ飴を出した…

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Dscf3946 「カズ!用意できたか? そろそろ行くよ!」

「みじかい間ですがお世話になりました。」

「いーえ!なにもお構いできなくてね。なにかあったらいつでも連絡ちょうだいよ。ここで出会ったのも縁なんだからね。」

「いやぁーうちのカズを見てていただきながら…」

「子どものことはね…前もいろいろあったから気になるんですよ。うちの子もとっくに手を離れたからカズちゃん可愛くてね…」

「それでは、そろそろ長旅になるので… カズー! どうした?」

「今いくよー!」

手間取ってた。最後にナギサになにか言おうとしたけど。呼んでも返事がない。いつもなら向こう側で待っていたみたいに返ってくるのに…

「ナギサ? ナギサ!いないの?」 出かけたのかな…?

「カズー! 早くしろー!」 もう時間だ。仕方ないな…

家を出ようとしたとき、一瞬振り返った。 「バイバイ ナギサ!」

「なにしてたんだ?!」 「なんにもしてないよ!」

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「バイバイ… カズ君…」

(つづく)

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2008年4月26日 (土)

ハッカ飴 ③

夜の海 街灯の明かりが かすかに水面を見せている
月が静かに輝やくこんな時間には、不似合いなふたりが昼間よりずっと短くなった浜辺で波の音を黙って聞いていた
打ち寄せる波は明るい時のワクワクする感じじゃなくて、届かない何かにたどり着こうと、もがいているように見えた。

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_mg_0260 「いいねー 海!」

「えーっ? なんも見えないよ」

「見えるよ。カズ君にも見えるよ!きっと」

「そっかなー…」
暗闇に目が慣れたとは、いっても暗がりの黒い海。波が時おり、白っぽく浮かぶ…

「小さい頃、保育所の帰りにママと毎日海に来てたんだ。波が何度も浜にザーって来るのをずーっと見てるとさ…。海って命のある生き物なんだなぁーって思ったよ。カズ君は思わない?」

Dscf7983 「うーん分かんないなぁ…オレ…ここに来るまで山の中みたいなとこばっかだったから海は珍しかったよ。貝殻とか外国の字の書いてあるビンとか変わったもの見つけてさ。海の匂いも今まで知らなかったし…ずーっと住んでたら飽きちゃうんだろうけど」

「飽きることなんてないよ。本で読んだけど海は命の始まったところだから体の中には海がふるさとだって気持ちが残ってるんだって。だから、みんな海は忘れないでいて、最後には海にいって海とひとつになるんだよ。川が海に向っているみたいにさ…」

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Img_0230 「うーん なんだか難しくてわかんないや…」  「そっか…だろうね!」

「頭悪いっての? でも1個だけわかったことがあるよ」  「なーに?」

「ナギサが渚(なぎさ)にいる」  「あはは… そうだね!」

なーんか すっげぇ自分らしくないことを言っちゃった…。でも 壁1枚間にあるときは、平気でいろいろ言えたのに なんか頭と口がかみ合わない気がする。

「自転車に乗る?」 「うん!」

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後にナギサを乗せて夜の海岸通りを走る。二人乗りだけどペダルは、すごく軽い。街の明かりからグングン離れていくと真っ暗で見ずらかった景色も見えるようになってきた。水平線のほうに眩い光を放った船が浮んでいる。遠くに遊園地がぽっかり現われたみたいに…。

Img_0159 「寒くない?」

風を受けて走っていると腕が冷えてきた。腰に巻きついたナギサの腕も冷え切っているみたいだ。

「だいじょうぶだよ カズ君の背中あったかいねー」 「そっかなー」

「うん やっぱり生きてるんだ…」 「なんだよ変なこと言って」

しばらく走っていたら、なんとなく地平線が輝きだしてきたようだ。

「もう明るくなるね。そろそろ帰らなきゃ」

「うん。そうだなー」

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夜の冷たい風がこたえて鼻水なんか出てきたりもしたから Uターンして、うちに戻った。
まだ時間があるんで、ナギサにコレクションを見せた。
集めてたシールとかカードなんかを。女の子に見せても分かんないと思ったけど、なんか感心してるのか「ふーん」ってマジマジと見てた

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Dscf6158 「学校の教科書見せてくれる?」 「いいけどつまんないよ」
ナギサに教科書を見せているうちに少し眠くなってきた。

「いいなー勉強」 「別にいいことないよ つまんないし」

「カズ君らしいよね。私には憧れだけど学校…」 「……」

「あれ?眠くなった?」 「ん…少しね…」 でもいつのまにか…

「おやすみ 今日はありがとう」

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Dscf6176 「カズちゃん まぁー布団も被らないでゴロ寝して…」

「あ…オバサン!」 すっかり明るくなっていた。

「ご飯食べに来ないから 見に来たんだけど 大丈夫かい?」

「はい…あれ?ひとり?」

「まだ寝ぼけてるのかい? 早くおいでよ」

そっか、ナギサは帰ったんだ。
押入れに行って呼んでみたら返事はなかった。やっぱり眠てるんだろな。

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Dscf6113 「ただいまカズノリ」 「おかえりーっ」

「ひとりでちゃんとできた?」 「うん…まぁね!」

「カズノリ! 良いニュースだ。もう引越ししなくてすむかもしれないよ」

「えっ?ホント!」

Dscf4732 「うん 向こうで知り合った人から良い話があってな。会社の専属を紹介してもらえるかもしれないんだ」

「へー父ちゃんやったな!」

「連絡が来たら仙台まで行くことになるけど、そのあとはもう、めんどうなことは無くなるよ」

「えっ? そんな…また引越し?! イヤだ!! 行きたくない!!」

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目の前が真っ暗になった。月のない夜みたいに…

(つづく)

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2008年4月23日 (水)

ハッカ飴 ②

でも、不思議なんだよな。ナギサの家。
病気ったって、女の子ひとり家に置いてさ
全然物音がしないっていうか ほかに人がいる感じがしない…
よっぽど遅いんだろうか?
知りたいと思うけど、病気のことなんかも聞きずらくて…

だからナギサのこと 「囚われのお姫様」 そんな風に思ってた

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Dscf7020_2 「ハッカばっかじゃ飽きるだろ? ラムネやるよ!」

「うん ありがと!」

相変わらず押入れの隅の小さな穴のやり取り。
たまにナギサの指に自分の指が触れることがあった。 柔らかいけど冷たい指先。

ナギサを見てみたい。思いっきり蹴飛ばせば壁ごと外れるだろうけど、父さんにすっごい怒られるだろうな…

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Tsubakia_2 「ねぇ!自転車でどこまで行ったことあるの?」

「うーん…遠いとこなら古いトンネルの辺りまでは行ったなぁ…かなり走るよ。古い船とか投げてあってさ。でも近くの浜に降りたりするから、そんなに遠くまで行かないことのほうが多いよ。近頃じゃトラック走ってるから母さんうるさいし。」

「いいなぁ… 海行ってみたい…」

「全然ないの?」

「あるよ! でも最後に行ってから何年経つかなぁ…」

「そんなに行ってないんだ?! すぐ近くなのに」

すると、もう何年も家から出ていないってことなの?

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Img_0227 「…うん 行ってない… 行きたいな…」

「…そんなに悪いの? 病気…」

「ううん 今は全然平気だよ! でもね…」

「出られるもんなら、連れてってあげられるのに…」

なんだか 会話がぎこちなくなった。

「…連れてってくれる?」

「エッ?」

「でも 夜しかダメだな…わたし…」

Img_0248 「いいよ 夜でも。 親が留守の時にでも」

「ホント? いいの?」

「約束する」

「ありがとう! え~っ楽しみぃ なんだかドキドキしてきた…」

ボクもかなりドキドキしてた。

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「ホントに大丈夫なの? ひとりで…」

「大丈夫だって…もう3年だよ。」

「ずいぶん頼もしいな。しかし、一泊でも帰ってくるのは夜になるぞ」

「平気だって!危ないことしないし、ちゃんと留守番できるよ

「そんなに言うなら大家さんにもお願いしておくけど…」

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チャンスは、けっこう早く来た。親戚の結婚式に父さんたちは、出掛けるらしい。
そのことを父さんたちがテレビを見ている間にこっそりナギサに知らせた…

Dscf6156 「ナギサ? ナギサ?」 

「えっ? どしたの?」

「今度の金曜に父さんたちでかけるよ」

「ほんと? やったね!」

「何時ころ出かけるかわかんないけど…そっちは?」

「うん! だいじょうぶ」

「大家のオバサンとこで、ご飯食べてくるから出られそうになったら声かけてよ」

「わかった!」

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_mg_0279 「たくさん食べてきなさいよ!」

「うわ~!焼肉だ!すっげぇ!」

うちじゃ家族みんなが揃うことってめったにないから焼肉なんてホントに久しぶり… つい調子にのって動けなくなるほど食べてしまった。
帰り道、隣を見ると電気がついていない。

「どこか行ってるのかな?」

自分ちに入ってゴロゴロしてると、お腹がいっぱいになったせいで眠くなってきた…

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Nagisa 「カズ君! カズ君!…」

「う~ん…なに~?」

「カズ君! わたし! ナギサだよ!」

「えっ?!」  一発で目が覚めた。

隣にナギサ…だよな?…女の子が座ってこっちを見ていた。

「ナ…ギサ?」

「うん! 始めましてだね! 声かけたんだけど、返事がなかったから…ごめんね起こして」

「いやー寝ちゃったぁ…今何時?」

「もう12時過ぎちゃったね。 これからで大丈夫?」

「うん 目は覚めた」

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Zitensya 宵闇の外、自転車小屋からそうっと自転車を引っ張り出す。

港に停泊している船の灯

遠くで犬の遠吠え

夜空に少しかすんだ月が見えた

みんなもう寝ているから 見える家の窓は暗い
昼間とは別世界の感じがするよ

波の音を包む闇のところどころで街灯が虫を集めて賑わってた

「これ、ブレーキの音うるさいからこのへん離れてからね」

「うん!」 月灯りに浮かぶナギサの白い顔が、すごく嬉しそうだった。

(つづく)

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2008年4月22日 (火)

ハッカ飴 ①

ハッカ飴は夏のかけら 汗ばむボクらも溶けてゆく
王様と王女さまみたいな ボクらの恋は実るかな…

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ハッカ飴を見かけると手を伸ばさずにいられない。
その水晶みたいなかけらの中に思い出が閉じ込めてあるようで、つい光に透かしてみる…そんな癖がある。

Uni1「あっらぁ~カズちゃん! 見違えちゃってぇ~ すっかり大人になったねぇ!」

「もう20歳ですよ 10年ぶりくらいです」

「ご両親はどうしてる? お元気なの?」

「はい!やっと仙台のほうで住み家が落ち着きました」

「転勤が多かったからねぇ 落ち着けてよかったわぁ カズちゃんは今どうしてるの?」

「今、大学生ですよ。夏休みなんで久しぶりにこっちを回ってみたくて…」

うちは、親父の特殊な機械のオペレーターの仕事の関係で引越しが多かった。
今だと親父の単身赴任って時代だけど、うちはいつも家族は一緒で小学生のころ、短い間だったけどここにいたことがある。
そのときお世話になった借家の大家であるオバサンは、白髪も増えたけど元気なところは変わりなく安心した。
あのころは、両親とも仕事だったので、遅くなるときはちょくちょくオバサンの家でご飯を頂いたことも、この間のようだ…

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Dscf6154 「あら そう 今日はどこへ泊まるの? うちで良かったら…」

「宿、取ってるんですよ …それにしても まだあの家残ってるんですね」

「もうあんなにボロだから、役場からも言われるし、うちの人にも危ないから処分してって言ってるんだけどね…すっかり物ぐさになっちゃったもんだから…」

「ちょっと覗いてみていいですか?」

「いいけど 崩れそうだから気をつけなさいよ。遊んでた子が怪我したこともあったから」

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Dscf6175  ボロボロの2軒続きの借家の手前の部屋がうちの3人家族が入居していたところ。覚えのある落書きがあった。
10年程の間で、こんな竜巻にでも見舞われたみたいに変わり果ててしまった…。
父さんの現場の仕事は、1~2年くらいで、もう引越しみたいな暮らしが長かった。でも、オバサンに、ずいぶん可愛がってもらったし、海の見えるこの町は特に思い出深い。

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Dscf6177 それと ここでは特に思い深い出来事があった。
ちょうど小学3年生に上がる頃、この町に来て、新年度早々に回りが「見慣れないやつがいる」って視線がグサグサッと刺さってくる感じが嫌だった。
それなりに話しかけられもしたけど、なんだか億劫がって、会話もあまり続かず、当然クラスの中でも孤立した感じになるのも当然。

「どうせまた引っ越すんだし…」

Dscf4733 そんな気持が友達を作るのを避けていたのかもしれない。
だからもっぱら、オバサンにもらったお下がりの自転車で海辺へ行って遊んでばかり…
やっと自転車に乗れるようになったのにこんなに思いっきり走れることは、今まで無かったから嬉しかった。
でも当時、工事のトラックの往来も多くなり、学校の生徒との事故もあったことから、少し控えるように言われて、家でひとりでテレビを見たりマンガを読んだりで過ごす日も多くなった。

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Oshiire 初夏のある日、押入れの奥に積んである本の山を崩して選んでいたら隅の壁に穴を見つけた。ネズミでも開けたんだろうか?向こうから、うっすら光が漏れてくる。
隣を除いて見たい気になって、押入れの中で寝そべってその穴から向こうを見てやろうとしたけどうまくいかない…悪戦苦闘しているうちに突然、

「そこに誰かいるの?」

「ぅわっ!」 
急に壁の向こう側から声がしたので、ビックリして体が跳ね返った。

「誰かそこにいるのね?」

「え…? いや、何もしてないよ」

「別に怒ってないよ…誰なのかなーって思って…この穴からこっちを見えてたでしょ?」

「なにも見えなかったよ!!」

「ほーら やっぱり見ようとしてたんだぁ」

Kamome

声の感じで、同じ小学生だと思った。

Dscf6182 「お前誰だよ!」

「わたし ナギサ! 君は?」

「…カズノリ」

「『よろしく』っていうのも変だね。顔も会わせてないのに… カズ君、何年生?」

Dscf6173 「4年だよ」

「じゃあ 同じだ!」

「えっ? 何組?」

「わたし…学校行けないんだ…  病気だから…カズ君、よく海に向かって自転車で走ってるね。よく窓から見てたよ…」

「ふーん 病気か…大変なんだなぁ…」

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「ねぇ? たまにこうして話し相手になってくれる?」

「俺がそっちに行こうか?」

「ママが鍵してるから帰るまで出られないんだ… それに…わたし明るいところに出ちゃダメだし…」

「いいよ 話し相手やるよ!」

「ホント?嬉しい これ、お近づきの印ね!」

隅の穴から小さな白い指が覗いてこっち側に何かを置いた。

「なに?これ?」

「ハッカ飴 わたしの大好物!」

「うん ありがと!」

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それから押入れ越しの奇妙な友達関係ができた。
むしろ、その時が楽しみで学校からいそいで帰ってくるようになり、学校のことや前に住んでいたところのことなんか沢山話した。
俺ってこんなに喋るやつだっけ?というくらい。
ナギサはいつも楽しそうに聞いてた。
あまり自分のことは話さないけれど、いつも家の中にいるから話すことはあまり無いんだなって思ってこっちは聞かなかった。

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でも ナギサってどんな子なんだろう? 頭の中で想像が膨らんでくる。
窓越しに顔を見るくらいできないことなかったと思うけど、その時は思いつきもしなかった。

(つづく)

※一部の画像を『北海道廃墟椿』カナブン師匠より御提供頂きました。 

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2008年4月14日 (月)

ラマンチャの兄妹

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Dscf6056 「風が鳴き 空が怒る 空忍ハリケンレッド!」

「えーっ またぁ? あたしキュアホワイトがいい!」

「プリキュアなんて女ふたりじゃねーか! ハリケンブルーにしろよ」

「やだなー…いっつも…」

「じゃあ もうやめるぞぉ!!」

「わかったって!! もう! 『水が舞い 波が踊る 水忍ハリケンブルー…』」

Dscf6078 「人も知らず 世も知らず…」

「イエローはどうすんのさぁ!」

「ふたりしかいないのにできねぇよ!! うるっさいなぁ! もうやめる!」

「だからプリキュアがいいって言ってんのに… もーっ!すぐイジけて!」

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丘の上 勇者ドン・キホーテとその従者サンチョ・パンサがそんなふたりを静かに見下ろしていた。

Dscf6057 騎士道物語を読みふけりすぎたために現実と虚構がわからなくなったラマンチャの男は自ら『ドン・キホーテ・デ・ラマンチャ』と名乗り、虚構の旅に出た。
やがて出会った酒場の女アルドンサに恋するが彼女は自分の境遇から狂言と相手にしない。
しかし、あくまでも自分に淑女として接してくるドン・キホーテに心が動き始めた頃、虚構の旅に出た彼を追ってきた主治医に連れ戻されて現実にもどされていった。

Dscf6058 アルドンサは彼を探し、サンチョ・パンサの助けもあって、やっとの想いで彼に出会うが、既に彼は「ドン・キホーテ」では無い。
思わず口ずさむ彼の唄っていた「見果てぬ夢」が彼の中の『ドン・キホーテ』を甦らせ、サンチョ・パンサを従えて声高らかに騎士道を歌い上げる。だが、彼は既に命尽きる宿命だった…

昔見た映画、ピーター・オトゥール主演の『ラ・マンチャの男』はこんな話だったと思う。ミュージカル映画はあまり見ないけれど、これと『チキチキ・バンバン』は好きな映画から外せない。

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Dscf6064 ある意味 子どもの頃は、男の子でも女の子でも「ドン・キホーテ」か「ハックル・ベリー」だと思う。例えが古いがゴーレッドとキュアドリームでもいい。
ともかく自分を何の抵抗もなくヒーローと自分を同一視できる。
いわゆる「なりきり」というやつですね。
ただ根底になるものは前出のふたつの物語に行き着くと私は思います。
ヒーローになりきる、なりきろうと夢を馳せる物語。
外国のお話ですから反論もあるでしょうけど…
ひとつのキャラクターとして捉えなければ両者共ヒーローになりきるという意味では接点があると思います。

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丘の上に立つ2基のサイロ
赤茶けた鉄兜を被ったノッポとズングリを見上げて自分はこれを「ラ・マンチャの男」と重ねた…それだけのことです。

先の兄妹には冒頭ような会話があったのでしょうか?
それはなんとも言えませんが丘の上に建ち四方広がる大地の中でのびのび育ち、どんな夢・想いを通わせていたのか…

今や廃墟となって住宅も解体されてかつての生活は見えませんが、この兄妹には普通の兄妹とは少し違った結びつきがあったのです。

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二卵生双生児 一卵性とは少々異なりますが、いわゆる双子
見えない心の繋がりは 同じ母の兄妹も及ばないほど深いという。
同じ愛を受け、同じ時間を同じように見つめてきたふたりなのだから…

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Dscf6077 兄妹を見守り続けてきたドン・キホーテは従者と共にここで立ち続ける
今も「見果てぬ夢」に想いを馳せて。

誰もが見ることをやめてしまう夢のために

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2008年4月13日 (日)

あなたがいた森

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Dscf5917_2 今日は 半年ぶりに彼の元へ行く

山を愛する彼がずっと山にいるようになってもう数年…
今は年に何度か私が会いにいく
街にいた頃は、いつも私のところに迎えに来てくれたけど、今は、それができない。

道が舗装されているとはいえ、こんな山の中にずっといるんだ。
街は、すっかり春めいて冬の名残もなかなか見つけることはできないけれど、ここではまだ雪の塊が大地に名残惜しそうに点々としがみついている。

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仲間がたくさんいるとはいえ、冬は雪に閉ざされるここにいて寂しくはならないのだろうか? でも人の波の中にいても寂しさを感じる街よりは恵まれているのかもしれない…。
街は山よりも乾いている。

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彼は同じ大学の時から山岳部に入って北海道内や道外の山に登っていた。
卒業後の進路も登山ができるかで場所も決めたようだ。
それが私の故郷でもあった。

Dscf5987 「ねぇー? 私と山と どっちが好き?」

こんなことを聞いたことがあったよ。

「どっちも好きだよ とても魅力的で それに僕をやさしくしてくれる 」

なんとなくそんな答えだと思った。
山と同じ… 喜んでいいのかな…いいよね

そうだ 彼のところへ行く前にちょっと大好きな場所に寄ってこよう。

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Dscf5893_2 ふたりで来たことのあるキャンプ場のある公園地 ここに滝がある。
本当は何十年も前に作られた電力用の小さなダムだったらしいけど大雨で底を抉られて陥没。 一夜でこんな景観を作り上げたのだそうだ。
人工と自然が作り出した奇妙な景観。
小さいといっても展望台から下を見ていると吸い込まれそうになる…

Dscf5899 しばらく水が流れ落ちていく様に見入っていると、つい…

「…」 「えっ?!」

誰かに呼ばれた 振り返ると誰もいない。
気のせい…だよね? 彼に呼ばれた気がしたけど、ここに寄ってることなんか知らないはず。 それに今日来ることは言っていないから…

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ここの上流を少し行くと公園を備えた水源地ダムがある。
それまで、この川は、大雨の時にすごく荒れ狂う川だったそうだ。
下流に位置する街ではそんなこと考えられないほどの清流なのに…
更に上にいったところに登山のベースキャンプに使われるヒュッテ(避難小屋)があり、何度か登山のときにそこまで送ったことがあった。

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Dscf5949 今はまだ登山シーズンに早いので途中のゲートは閉まっている。
大抵、ここに来るときは仲間と2・3の山を縦走することが多く日程も予備日数を入れると1週間ほどにもなる。
さすがに大きな日程では仕事を何度も休めないので年に1・2回。
それ以外は、日帰り日程のスケジュールがほとんど。

一度、一緒に登ったことがあって初心者用とは聞いていたけれど登り途中で体力の限界で彼に連れられて下山した挙句、翌日から3日間下半身の筋肉痛で仕事を休んだ。それからは誘われても迷惑になりそうで行かなかった。

「最初は誰でもそうだよ 小さい山から少しずつ ゆっくりこなして あの高みを目指すんだ」

うん わかってるんだけどね… それでも頂上の景色は素晴らしいんだろうな…
彼が登る山は写真でしか見たことが無いけど、もっとすごいんだろう。
まるで恐竜の背中のような尾根を伝って歩くのは、怖くてとても真似できないよ。

そうだ そろそろ行かないと…

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Dscf5965 彼のいるところは周りを木立に囲まれた森の中
その木立の上に彼の好きだった山々がそびえ立つ
大自然に抱かれ、ここに彼はいる。

「また 来たよ…」

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Dscf5996 ここに眠る彼は 答えることも 抱きしめてくれることもない…

「じゃぁ行ってくるよ」

大きな赤いザックを背負った彼が心の中で笑ってた

「また 迎えにいくよ」

いつか 私が心から彼に迎えられる日まで 私が通い続ける…

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Dscf5906日高山脈は中生代ジュラ紀より、新世代三期にかけて生成された褶曲(しゅうきょく)山脈でスイスアルプス、ヒマラヤ、ロッキーの造山期と同じころ、その骨格が組み立てられたといわれており、幌尻岳(2,052m)を最高峰として札内岳(1,896m)、十勝幌尻岳(1,846m)、ペテガリ岳(1,736m)楽古岳(1,472m)など1,500-2,000m級の山脈を連ね、その稜線は鋭く切れ込んだナイフブリッジで現在も風化侵蝕が進み山容はいずれも峻険で深い峻谷を刻んでいる。

日高山脈国立公園は、北海道を東西に二分する全国一の規模を持つ山岳公園である。
植生はヒダカソウ・アポイツメクサなど固有種・希少種の高山植物が存在している。

利用状況としては山脈が極めて急峻であるため登山などの自然探勝に限定されてきた。アプローチは相当に長く、アポイ岳を除いては経験者向きの山が多い。
現在であっても7月から8月にかけて入山するパーティーは100を越すことからも、ここがアルピニストを魅了する山脈群に他ならない。

しかし、札内岳(1,895.5m)を源とする北海道有数の急流河川、札内川のもつ特性(急流・出水量の変化の著しさ)から上流地域では、滑落・水死などの犠牲者が後を絶たない。さらに雪崩・熊害などの事故で平成20年現在、59名の痛ましい犠牲者が出ている。

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Dscf6006 平成元年 札内川ダムの着工に伴い、いくつかの犠牲者追悼碑が影響をうけることから工事関係者・地元団体で協議し、遺族の了解の元この地に「札内川上流地域殉難者慰霊碑」が建立された。

十勝地方特有の温和な気候を作り出す日高山脈は「魔の山」であり「神の山」でもある。
その本当の姿を知るのは、そこに挑んだ人たちだけなのだろう。

  YOU TUBE 「あなたがいた森」 樹海

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2008年4月12日 (土)

蒼い戦士たち ~蒼い季節にさよなら~

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Dscf8289 長かったような休暇も終わりに差し掛かり、もう向こうに戻る日がきた。

「体に気をつけてね 忙しくてもしっかり食べてよ」

「うん わかったよ」

学生の頃には、ウザイくらいに思っていた母さんの言葉も今は全てが温かく感じる。
父さんからは、特に言葉は無かったけれど何となく胸の内はわかるような気がした。
男同志ってやつかな…
去りがたい気も無くはなかった。みんな捨てちゃってさ…でもそうもいかないようだ。

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Dscf7356 夕べ、ヒロと飲みにいった。
豆腐屋は朝早い商売なのに遅くまで付き合ってくれた。

「もったいつけてないで、紅白にでも出ろや! 俺は待ってるんだゼ 俺だけじゃないさ タクだってリョージだって ナチだって お前からは見えんだろけど むこうは見てるはずだぞ」

「いや…紅白って…ちょっとそれは…」

すっかり目の据わったヒロは、ずっと僕を励まして(あおって)ばかりいた。
でもそれは、故郷にひとり残っているヒロの寂しさにも感じてる…ただ適当な言葉が見つからなくてずっと受身でいた。

「なぁヒロ… いつかまた、みんなでセッションしたいね」

「ん…? 言ったな? その言葉忘れねェぞ アマだと思って甘く見るなよ… 俺わぁ…豆腐なんて柔らかいものを扱ってるけど…音には固いんだ 絶対妥協せんぞ! 俺がOK出すまではスタジオ出せねェ~んだからな…」

「楽しみにしてるよ」

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こんな羽目をはずすヒロを見るのも久しぶりだ。
打ち上げのときは大抵こうだったな…

Dscf5885_2  「ライブ成功にカンパ~イ」

「リョージの失敗以外にカンパ~イィ!」

「なんだよ!いつ失敗したよ!」

「知ってるぜ3か所 なぁタク!」

「あぁ!」

「嘘つくなァ!おいナチ! おまえ前で見てたから知ってるよな? 俺、トチってないよな?」

Dscf2757 「うん!もっとやってた」

「ナチ!てめェなんだよ! シゲオ!お前もかぁ?」

「え…? いや…そんなことはなかったと思うけど…」

「シゲ ほんとのこと言わないとリョージのためにならないよ」

「いやぁーどいつもこいつも… そうだよ間違ったよ!全く うっせーなぁー!」

「リョージの失敗にカンパ~イ!」

「するか!このバカ!」

ついこの間のようで、遠い昔のような気もする

「シゲ!辛くなったらいつでもこいよ!甘い気持を叩きなおして、背中押し返してやるからよ!」

「あぁ…その時は頼む」

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荒っぽいけど、すごく嬉しかった。 ずっと心でこわばっていたものがほぐれた気がする。

もうずいぶん前から高架になった線路はビルの間をぬった滑走路のように見える。
数年前は夢に憧れてここに立った。
とりあえず夢は叶えられた今、何を想えばいいのだろうか?

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─お待たせいたしました 間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号が4番ホームに入ります

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やや置いて蒼い車体がホームに滑り込んできた…
さて、またこことも暫くの間 お別れだ…

Dscf5862 「おーい! シゲェーっ!」

「あ…」

車内に乗り込みだしたところにヒロが走ってきた。ところどころ大豆粕が付いたエプロン姿のまま…

「いっやー 間に合った まにあった 夕べは飲んだな~。寝過ごして母ちゃんにどやされてよ…何とか仕込んで配達の途中さ」

「大丈夫か?」

「ああ ちーっと二日酔いだ! それにしても たかだ見送りで160円も取るんだな今時の駅は うちの豆腐の方が価値あるぜ!」

Dscf5860 「ハハハ…豆腐と比較かぁ… 良く時間わかったね」

「シゲん家で聞いてきた ほれ!これ持ってけや」

手渡された袋包みは、ほんのり暖かい

「なんだいこれ?」

「いや! 油揚げだ 俺手作りの…小揚げ2、3枚だから試食と思って食えや! お前が思ってるようなやつとは味がちがうからさ」

「え…あぁ ありがとう」

「それと…さっきタクから電話きてたよ 話したら会いたがってたぜ ナチも… 子どもにもCD聞かせてるそうだよ」

「ホントかい? 僕も話したかったな」

─間もなく 釧路発・札幌到着のスーパーおおぞら4号発車の時刻です…

「がんばれよ! 応援してる ファンレターは書けんけど」

「ありがとう 連絡するよ」

「無理すんなって」

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RRRRRRRR…

「バンザーイ! ロックシンガーシゲオ! バンザーイ!」

急に大声で叫びだしたヒロに他の客も駅員も驚いて振り向く

「ち…ちょっと…やめてくれよ! おおげさだなぁ…」

「なに言ってんだよ! RUINSの代表にエールを送って何が悪い! 笑いたいやつは笑わしとけ! バンザーイ!」

プシーッ

ドアが閉まり、列車はゆっくりと走り出して両手を高々と上げ続けるヒロが遠ざかって行く…なんだか涙がこぼれてきた。
やがて線路の緩やかなカーブは視界からヒロの姿を隠していく…

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客車内に入るとさっきの騒ぎに気づいた人の視線がこっちをつき刺してきた。

「やれやれ…まいったなぁ…」
席につくと後方に流れていく街の景色を眺めながら、さっきの包みを思い出した。

「油揚げか…」 袋を開けると香ばしい香りが広がる。
1枚つまみ出してかじってみた。
揚げたてらしく、カリッとしている。 

「美味い!」 味噌汁の具とかに入っているのしか食べたことがないが、これは美味い。
このままでもいけるじゃないか…

香りが車内に広がったらしく視線がまたこちらに…

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ヒロ…タク…リョージ そしてナチ… またみんなで会いたいな。 その日がくるのを楽しみにしてる…

カタタン…カタタン… 
レールは心地よいリズムを刻み続けている

07phas06

未来(あした)にくじけそうな時
ここに来れば 誰か
背中押してくれるようで

ひたむきな瞳を忘れたくない
蒼い季節 みんな戦士だったね
ひとつの夢めがけて
つながっている
僕達は描いた道に
立ってるかな

(DEEN/蒼い戦士たち)

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2008年4月 6日 (日)

蒼い戦士たち ④

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Dscf3227 タクには、3つ年上の兄貴がいて江別のほうの農業系大学へ進んでいたが、向こうで自分の道を見つけて故郷に戻ってこなくなった。
だからタクが当たり前のように跡継ぎということになっていたのだろう。
時代の変化の中、農業経営の難しさは素人が志せるようなものではないらしい。
現役の農業人たちがその生業を見切ったとき、見切らねばならなくなったとき「地産地消」とか「食料自給率」なんて言葉は、閉校記念碑の碑文のように意味が風化して重さがなくなっていくようだ…

Dscf2763 「タクはデビューに乗りたかったんだ あいつもそれが夢だったから… あいつの腕ならどこでやっても無理じゃなかっただろ?」

「あぁ…確かに もっと話すべきだったかもしれないよな…」

「でも、あいつは行かなかったさ。 俺が先に 『行かない』 といったことに気を使ったんだろ それにあいつの家の経営が行き詰ったのは、あの時から見えてたらしいし、親も無理は期待してなかったらしいよ…でもタクは自分の夢をかなえるためにここに残る者の方を考えると行けなかったんだな」

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Dscf2772 「もめた日にタクが飛び出したホントの訳は、リョージの罵声じゃなくて あそこにいたナチの悲しそうな姿を見てられなかったんだそうだ そう言ってた」

「それって…」

「んー… お前と付き合っていたナチにタクも惚れたってことだよな」

「…」

「お前さぁ ナチに一度も連絡しなかっただろ?」

Dscf4716 「ああ… しないつもりじゃなかったんだけどさ…」

「まぁ とやかく責めんよ 事情もあるだろし…ともかく、あいつらは結果として惹き合ったんだと思うよ…そんで…子どもができたんで入籍だけして、ナチは大学中退ってことさ」

そっか… そうだな…3年もの間にはいろんなことが…。

「それから…子どもが生まれて間もなかったけど 職探しにタクは札幌に出て、後からナチと子どもを迎えに来た…そんで今はむこうにいる」

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東京に出てあっという間に過ぎていった3年が急に重みを増してのしかかってきた気がした。
そう 小さい頃、母さんが枕元で読んでくれた「浦島太郎」みたいに 軽々しく思っていた時の流れが、その本当の正体を現して後悔で僕を取り殺そうとしているかのようだ。

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Dscf4711 「タクが札幌に経つ日、シゲに『すまない』って言付かったよ それと『遠慮しないで歌ってくれ』とさ」

「遠慮?」

「CD聞かせてもらったけど『RUINS』でやった曲だけはパワーダウンするんだよな お前さ 俺たちみんなでやってた曲だから何か後ろめたさみたいのが出るんだよな タクも感じてた」

確かに その曲はレコーディングでも引っかかって何度も録り直した。音が変わったせいで違和感が出たくらいに思ってた。でも『RUINS』やみんなのことが頭に浮かんでいたと思う。

「ところでさ リョージはどうしてる? 途中から脱退した風だけど…」

「いや…他のメンバーと合わなくなったらしい 止めたんだけどさ 今はどうしてるか…」

Dscf3120 「あいつは喧嘩っ早いからなぁ 俺とタクが始終もめてたからさ あいつはまとまりのなさそうなところほど逆に冷静になるやつだからな… シゲ、お前も俺とタクは仲が悪いと思ってただろ?」

「え? どういう意味?」

「シゲも腫れ物に触るように感じてたろけど あれが普通だったからなぁ俺たちさ 言い訳もしなかったけど…俺、小3までいじめられっ子で登校拒否してて、見かねた親が山村留学させたところがタクのいた小学校なのさ 今じゃ廃校になったけど」

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山村留学した先でヒロに一番接してきたのがタクだったそうだ。
口数の少ないあいつがヒロより話すやつだったというのは、すごく意外に感じる。
そこから卒業して町の中学へ進み、タクが自分の兄貴の影響でドラムをやってたことからヒロもバンドに憧れてベースをやりはじめた。
『RUINS』のリズムラインはこの頃から始まって、高校で僕とリョージに出会ったわけだ。

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Dscf2294 「あの学校のあたりも寂しくなったな 閉校のときは12人だけになったらしいから… 学校も体育館以外は潰して公民館になって、いまじゃタクの家を含めて廃屋だらけみたいになっちまったけどな。近くの川へザリガニとかカエルの卵を取りに行ったっけなぁ」

そこまで言うと ヒロはベースをつかみ、黙ってまたリズムを刻む。 

「『RUINS』の頃はみんな蒼かったな…俺も今じゃ しがない豆腐屋家業だけどさ… なんとかやってるさ…」

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ギターの音が「泣く」という表現をすることがあるけど、静かに刻まれるベースの音こそ切なく泣いている。
心臓の鼓動のように…

ヒロが口に出さないで隠している寂しさが伝わってきた

(つづく)

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