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2008年3月30日 (日)

蒼い戦士たち ③

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あの日の朝、リョージと僕は駅のホームにいた。
上京の手はずがつき今日、新千歳まで迎えに出ているプロダクションの人と合流する。

興奮して夕べは眠れなかった。電車の中で仮眠すればいいだろうと当分戻ることのない部屋を朝まで整理してた。

リョージはすっかりテンションが上がっていて、服装もすっかりロッカーを気取っているかのように皮のパンツとジャンパー。サングラスも新調したようだ。

Dscf5340「これから行く所は北海道と違うんだぜ…」

「わかってるさ! 別に変じゃないだろ? ナチ!」

ナチがひとりで見送りに来ていた。
ヒロとタクには、あのもめた日、以来会っていなかった…

「うん…でもリョージのイメージには、ちょっとねー」

「似合ってないってのかよ!」

「そんなんじゃないけどさ…違和感っていうか、今までそんなリョージ見たことないから…フフフ…」

「笑ってんじゃねェや! デリカシーねーな!」

それはそうだ 今まで破れジーンズに同じTシャツをローテーションで着てたリョージが、いかにも真新しい皮の上下なんだから…

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間もなく2番線ホームに入る列車は 新千歳経由札幌行き スーパーおおぞらです…
アナウンスの後、程なくホームに列車が入ってきた。

「先、乗ってるぜ…」
ギターケースとバッグを取るとリョージはそそくさと乗り込んでいった。

Dscf5335「じゃあ 連絡するから…」

「うん…」

「卒業したら、こっちにこないか?」

「うん…考えとく…」

「そっか…」

昨日まで普通に話せていたのに今日は、始めて出会ったみたいな、ぎこちなさを感じる。

「シゲオ!席どこだ? 早く来てくれよ!」
先に乗ってるとか言って、意外と気がきく奴と思っていたが考え違いのようだ…

「今行くよ! …じゃあ向こうに着いたら連絡する」

「うん…元気でね」

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 戸口に立って見つめ合っていたけど、ナチはどこか伏せ目がちだ。

RRRRRRRR…

「がんばってね」

「うん! ナチも…」

Dscf5311プシューッ  言いかけたところでドアが閉まる音で途切れてしまった。
上げた手がふたりの言葉を代弁した。

席のほうへ行くとリョージは、ようやく席を見つけて悦に入っていた。

「グリーン車かー 初めてだぜ、こんなの」

数時間後には飛行機の中。
ホームでうつむいているナチの姿に後ろ髪引かれる想いがする。
やがて動き出す特急列車。ナチの上げる手に応えるがガラス1枚向こうが映画を見てるように別世界の気がした。

「あれ? あれタクじゃないか?」

「えっ?どこに? 出発のことタクは知らないよ! これるわけないだろ!」

「まぁそうだけど…勘違いかもしんねぇな…階段のところにいた奴がタクそっくりだったけどよ…」

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それから、今日までヒロやタクどころか、ナチにさえ一度も連絡を取ることはなかった…
向こうについてから時間の流れ方が一変した。今までは時間が無いと騒いでいても時に隙間があったのことを改めて感じた。
それに思っていた以上にめまぐるしい世界に翻弄されて、自分を見失ったようだった。

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夕食の時、母さんに聞いた。

Fb074「そう言えば 高校まで同じだった●●さんとこの那智って子 今はどうしてんの?」

「あー なっちゃんね。結婚したって聞いてたけど…1年…2年になるかしらね。大学卒業間近だったけど中退して…」

そうか…数年の間、街並みは変わらなくてもいろんなことは、ずいぶん変わったんだな…
約束も守らなかった僕にそれを責める資格なんてあるはずもない…

「シゲオ、ヒロユキ君のところには顔出してきたのか? うちでも豆腐の配達を頼んでるから帰ってくることは言っといたよ」 父さんがそう言い出した。

「えっ? いや…今日は別なところにいってたんだ 明日行って来るよ。 母さん 明日も車貸してもらえるかな?」

「いいわよ。用事はお父さんに頼むから それより久しぶりの休みなんだから もっとゆっくりしてよ」

「父さん ヒロユキ 何か言ってた?」

「うん 『そうですかー久しぶりっスねー』 とか言ってたよ」

 

 

Dscf5310豆腐屋の朝は早いそうだ。
ヒロのところも3時くらいからその日の仕込みをしている。
まだ『RUINS』の活動中にヒロの父親が倒れて豆腐屋の経営が危うくなり、ヒロの母さんは商売は続けるということで経費節減ということもありヒロがそれまで勤めていた会社を退職して手伝うようになっている。
だからデビューの足がかりができたときは、すごく後ろめたかった。

それにしても早く来すぎたか…店の車がないから配達に出てるんだろう。
とりあえずいくあてもないからしばらくここで待つか…
タバコを取り出して火を点けかけたとき…

コンコン… 

顔を上げると横のウインドウにニッと笑ったヒロが立っていて、思わずタバコを落としそうになった。

「おい!うち見張って何やってんだよ 入んな!」

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「営業車は、車検に出してきたとこだよ」
事務所の脇に懐かしいベースが立てかけてある。

「今でもやってるのかい?」

「あぁ!…っていっても近所の高校生に教えてるくらいだけどな 言っとくけど今でも腕は落ちてないよ」

Dscf5696ベースを取ると懐かしいナンバーを弾き出した。ヒロのベースは、アタックが特徴的でアンプに繋いでいなくても体に響いてくる音だ。

「タクのところは行ったか?」

「え…あ…あぁ…昨日行ったよ…」

「じゃあ もう知ってるな?」

「おおよそのことはな…」

「タクの嫁さんのことは?」

「…いや…」

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「そうか…知っといたほうがいいだろな お前も一番知りたかったことだろうし…タクの嫁さんてのはナチなんだよ」

「え?」

変わっていないと思った様々なことが、実は自分以外の全てが変わってたってことに気づくことになった…。

(つづく)

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コメント

霧のかかった写真素敵ですね。

③の最後に大きな?展開が。。。。。
さぁどうなるんでしょ???
ドキドキです

投稿: ランドリー | 2008年3月31日 (月) 20時07分

ちょっと危ない展開…でもないか…

投稿: ねこん | 2008年4月 1日 (火) 12時39分

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