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2008年2月 4日 (月)

水中メガネ ③

Title3

また冬がやってくる
もう、ふた夏を過ごした『ひみつ基地』は、また雪で閉ざされてしまう。
次にここへ来るときは私もKも6年生。
基地の中にはストーブは置けないので寒さがこたえるようになると学校以外ではあまりKと会えなくなる。
いつもの冬より早くまとまった雪を見て、今年はこれで最後だな…という冬の入口の日曜日。基地の戸締りを直した後、Kは今日のうちに見に行きたいところがあると言い出した。

「ちょっと遠いんだけどさ…」

「はい!隊長!」

Kを『隊長』と呼ぶのも、すっかり慣れてきた。学校ではそうはいかないけど…
一度、教室で『隊長!』と呼んでしまい、皆は何かの冗談かと思う程度だったけどKがすごくバツの悪い顔をするのを見てから気をつけるようにしている。私も『隊員』の自覚ができたということなのだろうか。

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Holga3 隊の活動は、相変わらず古い家や牧場に入ったり川原で遊んだりだけど、主にKはマンガを読んでいて、私は毎週土曜日のバレエレッスンを翌日、復習していることが多い。
私も『隊長の部屋』でKと一緒にマンガを読んだりしていた。それだけでは間が持たないので、よく話もした。うちのことや学校であったこと、バレエの話なんか…
Kも本を読みつくしてしまったようで、話を聞いてくれる。こんなに聞き上手な男とは思わなかった。
今年の夏休みも暑い日が続き、昼間は川や泉でずーっと遊んでたので、(あいかわらず水着は用意しなかった。むしろ近くにプールもないのに水着を持ち出すと怪しまれそうだったから…水中メガネはいつも持っていたね)基地に戻ってから疲れて眠りこけてしまったことがあったね。
すっかり暗くなってから帰ったらさすがにパパに怒られちゃったよ…。

でも『ひみつ』は守ったよ。隊長。

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Dscf0094 その日は確かに遠いところまで行った。自転車で1時間はかかっただろうか。

「あそこだ!」 その先には大きな屋根が見える。

塀の板がなくなっているところから中に入ってみると何かの工場のようで、木のいい香りがうっすら漂っている…

「隊長 ここは?」

「製材所だよ うちの父ちゃんが働いていたところ 今年の夏に潰れちゃったんだ…」

「えっ?」

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始めて聞いた。Kの家は私の家から近いところだけれど、うちと違って農業じゃないことは知っていた。Kと良く話はしていたけど、Kは自分の家のことってあまり話さなかったことに今さら気がついた。

「今はどうしてるの? お父さん…」

「少し聞いたけど『ホケン』があるから大丈夫だって言ってた。仕事はしてないんだけど毎日どこかへ行ってるよ」

「そう…」

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Dscf0088 それ以上は聞けなかった。思ったよりKはケロッとしていたけど聞かない方がいいと思った。
その後はいつものように探検した。この前の雪もすっかり溶けてしまったけど、この工場は冷え切っているのか、あちらこちらに雪は残っている。
奥には中に入れそうなくらい大きなパイプや天井まで届きそうな機械、ギザギザの歯が見える大きな恐竜のあごみたいなもの。近くにいると食べられてしまいそうなくらい大きい。

いつもは、ふざけて走り回っているKは、いつもと違ってなんだか寂しそうに見えた。
何か言って慰めるべきなんだろう。私がレッスンにめげてKに慰められたときみたいに。
でも、言葉が出なかった。私がわかる問題じゃないような気がして…

【イマハ ソットシテオコウ】 そんな空気も感じた

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Dscf0084 「これって何に使うもの?」

重い空気に絶えられなくなって聞いてみた。

「あーそれか?帯ノコっていうのの歯でさ、大きな木から板を切り出すのに使う機械につけるのさ。あっちの丸ノコっていうのも使うけど。ここはその歯が欠けたりして切れ味が悪くなったら直す部屋さ」

Dscf0089 「どうして、工場は無くなったのかな」

「輸入する板のほうが安くて質が良かったからじゃないかなぁ。そんなこと聞いたことがあったよ」

いきなり聞きずらい・答えずらいようなことを聞いて失敗したような気がしたけど、普通に答えてくれたから少し安心した。

Dscf0107 冷たくなってさび付き始めた機械 集まって慰めあう塵たち 自分の運命を呪って波打つトタン板 心まで白くなっていく山積みの板 みんな切ないほど静かなんだ。

帰り道 私はなんだか膝が痛くなってきた。こんな長い距離を走ったのは久しぶりだったからだろう。でもこのまま家までは行き着けそうもない。

「明日取りに来てやるから後ろに乗っていけよ」

そう言われて適当なところに私の自転車を置いてKの後ろに乗った。
背中の温かさがが心地いい

「ワタシタチッテ ナンダロウネ?」

Kの背にもたれかかって夕日に染まる道を見下ろすと二人の影はすっかり長くなりながら追いかけてきてた。

Sunset

もうすぐ冬が来て景色は真っ白になるだろう。
季節の彩りに使い切った絵の具箱の最後の色。
その白で次の春のためにキャンバスを元の純白に戻すみたいに…

Kの背中がなぜか小さく感じた
でもそれは感じただけじゃなかった

このころから何かが大きく変わり始めてきたんだと思う
洪水みたいに何かがふたりのところに静かに押し寄せてきたんだ…

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コメント

Kさんは、お父さんの仕事が大好きだったんですね。
文末の「きたんだ・・・」に青春のほろ苦さを感じます。

投稿: アツシ | 2008年2月 5日 (火) 08時39分

まだ青春のほんの入口は、自分がわからないそんなことが、ややあるのだと思います。
ココロだけで引き合って精一杯悩むことができた時は、今思えば懐かしさでいっぱいです。
そのときにはイバラの道だったのかもしれませんが。
そんな時も今では、何となくあった子どもと大人の境界線が見えなくなっているような気がします。
次回、お話は大きく動きます。

投稿: ねこん | 2008年2月 5日 (火) 15時44分

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