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2008年2月29日 (金)

廃墟の歩き方

「エーッ またぁー?」

車をいきなり脇道へ入れて変な建物の前で止まるで、つい大きな声を出した。

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「『また』はないじゃんか! 分かってると思ってたよ!」

Dscf1329_3 失敗した…つい本音を出した。たしかに分かっていたんだ。郊外にドライブなんて「こいつは、また『廃墟』に行く気だ」ってことは。
後部座席にカメラの入ったバッグも目に入っていたんだから覚悟して当然だった。だから近頃は、それを見越してドライブの時にお気に入りを着ていくのはやめた。
いつぞや、壁の釘で引っ掛けて破いてしまったことがあったから当然何があっても無難な服装にしている…

なのに口に出してしまったから、バツが悪い。押し問答になるとAB型のこいつに理屈では勝てっこないから。

「いや…ごめん」

大抵こういうときは、黙って付いていく。バツが悪いというより、ひとりで車に残るのが嫌だから…。 今日はまた古そうな家を選んだものだ。

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「いやぁー これは凄いな…」

なにやらニヤニヤしながらカメラを取り出して、バシャバシャと撮り始める。
正直、こんな粗大ゴミみたいなところは私は好きになれない。埃だの蜘蛛の巣など不快なものが多いし、妙ちくりんな匂いもするから。

ここはそれでも日の当たる側が廊下で、ガラス戸が入っているから明るい。
もうすぐ春も近いので陽射しのあたる部屋の中は暖かだ。
でも、その辺に触ると埃以上のものにまでくっ付かれそうで、私は終始腕組みで床を選んで歩いている。

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Dscf1322 「なんなの ここ…」

「説教所じゃないかなぁ 開拓時代まで遡ると宗教団体の入植は多かったし、普通の集団入植でも開拓が軌道に乗ってくると故郷からお寺を呼んだりしたそうだから。開拓団が分散するとこんな説教所が置かれて住職が巡回したりするんだよ。 それ以外にも地区集会所にも使ってただろうけどね」

「どこで調べてくるわけ? そういうの…」

「図書館の郷土史とか…」

似合わないなー こいつが図書館なんて…
いつから、こんなことやり始めてたんだっけ?
たしか部屋で『廃墟の歩き方』なんて本を見つけたときだったな…
その頃は、ひとりで回っていたようだ。

Dscf1327 朝から電話にも出ない 携帯は圏外 部屋へ行ってみたらやっぱり留守… 後で聞いてみると…

「写真撮りにいってるー」

でも度々続くと 怪しくなって言った。

「連れてって!」 これが失敗だった。

 

「3時ね。朝の3時にうちに来て」

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Dscf1321 えぇ~?なにそれ! 信じらんない…
ふたりで旅行したときもそんなガッツなかったのに!
自分から言った手前「嫌だ!」と拒否もできず、夜も明けきらない時間に起きる破目になってしまった。こんなことは、釣好きと付き合っていたとき以来…。
それ以来、たびたび廃墟めぐりに同行するようになったが、いつも行くわけではないし「今日はどこそこに行く」ってなことも言わないので性質が悪い。

「廃墟って言っても地面の上に建っている以上、持ち主がいるんじゃないの?」

「うん たぶんね。近くに家があったら聞いてから入るけど、辺りに人がいる様子が無かったらそのまま入るかな…写真だけだし」

Dscf1324 たまに廃墟の中で私のことも撮ることもある。「あがったよ」 とプリントを渡されるが場所が場所だけに人様に見せられるものではない。そういうときの顔は大抵ムッとしているからなおさらのことだ。

「廃墟と私」どっちが大事?
そんなことを聞いてみたい気もする。愚問だろうけど…さすがに聞くのは気が引ける。

「ねぇ!」 三脚の脚を伸ばしているときに声をかけた。

「なに?」 

「廃墟のどんなところが良いの?」

Dscf1323 「うーん 何でかなぁ… でも新しい家より、古い家のほうが絵になるだろ? それに、こう崩れかけているところなんて遺跡みたいでさ こんな名も残っていない家でも風情があっていいんだよね」

すごく嬉しそうに笑顔で話す。
でも私にとって、こういうところは幽霊屋敷以上の何ものでもない。

「それに 俺んとこ引越しの多い家でさ ほとんど1年くらいで動いてたからさー」

なるほど、それで友だちが少ないから偏屈な趣味を持つようになったのか…。

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Dscf1319 「故郷って無いんだなぁ 友達とか長く住んでるやつらは、こんなボロボロの家とかをよく知ってて、うらやましかったよ。 1回連れてってもらった空家に何十年も前のマンガがあって、忍者ものとか宇宙ものとか、今の感覚と違ってすごかったな… 鬼太郎も載ってたよ。40年くらい前のマンガさ 何かすごいもの見たなーって気がしたよ」

ふーん そうなんだ…

「いっつも付き合ってもらってありがとね」

「えっ?」

「嫌々ってのは分かってるんだけどさ。明日は好きなところ一日付き合うよ。」

ファインダーを覗きながらそう言った…
そうだよねー なに言っても捨てたもんじゃないんだよね。
その一言で、気分が澄み渡った。

「そうだねー たまに釧路の方行ってみたいなー」

「釧路!いいよ! 尺別寄っていいかな?」

 

 

ゲッ… またかい…
当分、こないだ買った服は着られそうもない。

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コメント

「ふーん そうなんだ・・・」の瞬間に、彼女も廃墟の世界に一歩足を踏み入れましたね。

投稿: アツシ | 2008年3月 1日 (土) 00時20分

つづきはあるのでしょうか?

出演者は先輩殿よりいいカメラを使ってそうですね。

この廃屋、デザインがよいですね。大変よいです。

投稿: カナブン | 2008年3月 1日 (土) 01時57分

これは小品なので、続かないです。
モデルは師匠です(?)。
三脚でそう思いましたね。ねこんは、三脚をつけると不釣合いでカッコ悪いのでいつも車の中です。

投稿: ねこん | 2008年3月 1日 (土) 10時57分

アツシ様:ステディのいる廃墟マニアはこんな感じかなーって想像です。
考えの相違はあっても、なにかしら理解してもらいたいものでえすね。
逆のパターンも作ってみたいものです。

投稿: ねこん | 2008年3月 1日 (土) 11時06分

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