廃墟の秘め事 ②
この家が廃墟化したのは1970年代前半。
1977年の空撮映像で、既に屋敷回りは草で覆われているのが分かります。
それを裏付けるように残されている住人の痕跡は60年代後半ころから70年代初期。
家自体は古く、防寒用に壁に貼られた新聞の見出しがほとんど今と逆の入れ方(右から左に文字が並ぶ。本来日本では横書きは存在せず、縦組みの1字づつ行替えとする)の昭和20年~30年代初期。昭和27年頃から「左から右へ横書きするのが好ましい」とされてから【基本縦書き 見出しは1文字づつ改行】な表記の命運が尽きたようです。
日当たりに恵まれなかった家は、よほど寒かったらしく奥の部屋は天井までビニールを張り巡らせてあります。たぶん結露も凄かったのでしょう。2間共湿気のため床が既に落ちています。
仏間に結構な数が残されている雑誌類。映画雑誌「スクリーン」1968年5月号。40年前のものです。「卒業」とか「イージーライダー」などのアメリカンニューシネマが封切りされた頃のようです。表紙はキャンディス・バーゲン。出演作はあまり思いつきませんが近年では「デンジャラス・ビューティー(2001)」に出ていました。一番新しいところではTVシリーズ「Sex and the City」にゲスト出演していたことも。
代表作もそこそこあるのですが、古い映画になってしまうので近作ではなじみがありません。時代的にはアラン・ドロンやスティーヴ・マックィーンが映画界の前線で活躍していた時代です。ちなみに現在古書店で900円
「婦人公論」1960~1972年の号。定期購読していたようです。
大正5年創刊。昨年が創刊90周年だったそうです。「自由主義と女権の拡張を目ざす」といのがコンセプトだったそうです。ぱらっと見てみると、結構生々しい特集記事が…こういう雑誌だったんだ…
「?」 近くに散らばる雑誌。これは露骨です。「ルイドロ」にそっちの露骨は出せません。でも、新しすぎる…? この手の雑誌は発行日とかの記入がないんですね。
昔バイトしていた深夜スーパーに月遅れ男性誌3~5冊くらいを1パック2000円位で置いて(そういう業者がいる)ありましたが、おじさんが中を確認するのにパックを破ったり、「これ、バラ売りできんの?」とかよく言われて困りました。
旬じゃなくても買う人はいるんでしょうね。売り場は年中「春」。すぐ横に暖房機があったから頭がなおさらカッカするし…(店長が、立ち読み対策でわざと向けていた)
部屋の中ほどにストーブ。餅焼き網もありますが、煙突がないので使うと自殺行為です。
回りには、これまた比較的新しめのヤカンや鍋なども。ガスボンベもあるので本格的です。調味料の賞味期限は2003年。
「誰か住んでいた? それも近年…」そう思うと隣部屋で目に入っていたブルーシートが折り目が残ってほつれも退色もなく新しい。押入れの下段を囲むようにしたその中には積まれた布団が数枚あります。辺りに男性ものの下着も散らばっていて「誰か寝泊りしていたようだ…」
でも、溜まり場になっていたわけでもなく、ひとり分の生活跡…
市街地からは、かなり奥に入った農村地域の民家もまばらに点在し、見えるところに隣家はない。ここでは浮浪者が住み着く土地ではないし、この下着の柄だとたぶん中・高生だよな…。栗原某氏の「廃墟には高確率でエロ本が落ちている」法則があると話しておられましたが、ここで読みふけるのも倒錯的だなぁ… いくら廃墟好きっていったって寝泊りはねぇ…プチ家出かな?
…ふと、目に入った丸めてねじった紙。
そっと開いてみると、手紙だ。ここで書いていたのでしょう。
文中に何度も書かれる女の子の名前と「ごめんね」。
…! 書きなぐって支離滅裂で、まるで遺書みたいだ。途中で文は途切れてる。
「俺がもっと近くにいられればよかったんだ…」
…そうか、たぶん街の子と付き合っていたんだね。
学校はスクールバスで行けても、恋には辛い場所だったんだね。ここは。
大人の恋は、確かに容易くて君からすると呪うべきものなんだろう。
駅前で待ち合わせて●●へ映画を見に行ったことが書いてある。
それが思い出のデートだったようです。
産まれた家が不運とか、住んでる所が悪いなんて、それで終わる愛ならたいした愛じゃないじゃないか。
失恋の挙句、自暴自棄で孤独に浸りたくて、ここに来たのでしょう。
まさか、ここで孤独に朽ち果てようなんてことまで考えていたんじゃ?
廃屋はそんな彼の怒りや涙を黙って見ていて、同じ孤独のものとして彼を癒したのです。そう思いたい。
おおよそ平成●年が涙の年。当時、中学生だとしても今は既に成人なはず。
あれほど恨んでいた大人の恋もできているころ。
あのときの失恋は他愛もない思い出になっているのでしょうか。
家だけが、その孤独を知っている… そして、家だけが孤独に返っていった…
幾重にもかさなって ほどけない思い出を
眠れない夜の中 ひとつづつ数えてみたら
静かな水の底に うつした映画のように
消えそうなかたち 揺らして沈んでゆくけど
さよなら やさしい目をしてた あの日のこいびと
さよなら 守れず残された あの日の約束たちよ
取り戻せるものと 取り戻せないものとが
同じように見えるの 手を伸ばせば届きそうに
何度も呼んだ名前 いくつもの愛の言葉
スクリーンの上に にじんで 今は読めないの
駅へ続く道 待ち合わせ 暮れてく街並み
思い出のむこう 閉じ込めた 風景ほどきにゆこう
さよなら かえらぬものたちを 心で待ってた
さよなら はじめに続いてく 夢だと信じていた日
(KARAK/水の底の映画 from「サイレント・デイズ」)
恋は麗しく そしてもの悲しい 時限爆弾が破裂したあの日の後遺症は生涯心を惑す…
痛く 切なく 古傷は常に疼き続ける いつかその痛みが癒える日まで
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コメント
手紙が残っていたのですか…
違うほうにばかり目が行ってしまっていました。
投稿: haru | 2008年1月 8日 (火) 22時36分
う〜ん、驚きですね〜
北海道にも廃墟住人は多いんですね、私もドラマーハウスから結構見つけてますからね。
エロ本文化も大切だな〜と感じますね。
投稿: カナブン | 2008年1月 8日 (火) 23時46分
ねこんは、ソフト重視ですからね…
見つけた宝物は静かに光が出るまで磨きます。
師匠には到底及ばない、ねこんの苦肉の技です。
いつかそれぞれの利点を生かしてネット競演したいですね。合同もそれで意味が出てくると思います。
投稿: ねこん | 2008年1月 9日 (水) 17時01分