水の無いプール
今回は、そのままのタイトルになってしまいましたが、ずいぶん前に「シェケナ・ベイベー」の内田裕也さんが主演した映画で『水の無いプール』というのがありました。
男は地下鉄の駅員。家には口やかましい女房。職場の喧噪の中で次第に無気力になっていき、生き方を変えようとするがうまくいかない。仕事帰りに立ち寄った飲み屋で酔っ払いとやくざの喧嘩にまき込まれて手を負傷、噴水で血をながしているとき不思議な少女が近寄って来た。少女は男を水のないプールへ連れていき裸になる。その少女を置きざりにして、男数日前に暴漢から助けた「じゅん」という名の女性の部屋へ忍び込もうとするが気付かれて、戸締りをするように注意して出ていく。
ある日、男は息子の昆虫採集で使う注射器を見て、あることを思いつく…
日本映画お得意の喪失感と軽い不条理が交錯する映画です。
ここで言う「水の無いプール」は本来のあるべき姿を見失い、心の乾ききった男の象徴なのでしょう。(あるいは、世の中が水の無いプールのようにあるべき姿ではないということか?)
夏のプールは、季節がら「豆カッパ」と称される子ども達の喧騒で、はち切れんばかりになります。今年の北海道の夏も温暖化の影響からかあちこちのプールはフル回転でした。子ども達の姿の無い学校と対照的な光景です。
『こんにちはー』…? 返事の無い来校者出入口から入ってみましたが、職員室が分からない。
横の部屋を除いてみると3・4年生の女の子が二人おむすびを食べていました。
『こんにちは 職員室はどこなのかな?』
『あ…2階のほうです…』つぶして煎餅みたいにしたおむすびを隠すようにしながら女の子が教えてくれた。
来校者記入簿に記名して所定の来校者札を首から下げて2階へ向かう。白無垢のパイン材で作られた階段は学校には不似合いのような気がしましたが今時の学校は、こうなのかな…。 空港の搭乗ラウンジみたいな2階の一角に職員室がありました。
『こんにちはーちょっとお伺いしますが…』
『はい?』 教頭先生風の方が給湯室から出てきました。
『あの、ちょうどあそこの窓から見えるところのプールがありますよね。あそこは今、使っていないのですか?』
『あーあれね…この学校のプールでしたが、今は市内の小学校のほとんどが●●の森の方のプール(全天候型)を使うので今は使わなくなったんですよ。私が赴任したときからあんな状態です。』
『実は、差し支えなければあそこの写真を撮りたいんですよ。』
『えー別にかまいませんよ…でも廃墟ですよ。』
『あっかまわないです。壊したりとかしないんで…ありがとうございます。(廃墟だ!廃墟だ!)』
半スキップで昼真っから街中の廃墟へ向かう(しかも平日昼休み)。公園の一角にこのプールはあり、界隈は公園を中心に円形に造成された変わった造りの町内です。
柵を乗り越えないと入れないな…と思っていましたが側面のネットがグチャグチャに壊されているので難なく入ることができました。
学校プールに入るのは何年ぶりでしょう。小学生の頃、中耳炎常習の前科があったねこんは、親に禁止されて1年生の数回以来プールに入ることはありませんでした。
街中といってもセミの音が聞こえる炎天下の下、存在意義を失ったプールは、乾ききっていました。ブルーの屋内のあちらこちらで緑が繁殖しています。ステンレス製の昇降梯子はつやつやと輝き続けています。 プールの表面のシート(防水塗装かと思っていましたが)も浮き上がっていました。
このプールは具体的に閉鎖の形にはならず、とかく夏場の気温に左右されて利用できない日が多いことから、温度管理ができてオールシーズン使うことのできるプールが近郊に作られたことにより、その役目が自然消滅的になくなったのでしょう。
今だに泳ぐことができない。それはなにも中耳炎のせいだけではありません。自分の通った町では高校に一施設。更に離れた学校にもうひとつ。夏場のプール授業は実質3度あるかないかの回数でした。
泳げないと申しますが、泳ぎをマスターしていないだけで水が怖いわけではありません。
潜りはわりと平気です。
干上がったプールの中には水があるときには、はっきり確認できない色々な線やらマークがあります。
飛び込み位置の下には、十字架のようなマークが並んでプールが弔いの場のように静まり返えり、夏の青空に負けないスカイブルーがその寂しさをカモフラージュしているかのようです。
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コメント
自分ならこう撮るとイメージしてしまう好物件です、きれいに並ぶ白い十字架もナイスです。
先輩殿がさりげなくプチ不審者と思われた瞬間がいたたまれません。
投稿: カナブン | 2007年12月 5日 (水) 23時05分
いつもの「おむすび」をアレンジしたのを見られたバツの悪さが色濃い少女の微妙な表情が印象的でした。
投稿: ねこん | 2007年12月 5日 (水) 23時29分
学校のプールに屋根があるのは、こちらでは珍しいことです。「だるま浮き」をすると、必ず背中が上を向いたことを思い出します。
投稿: アツシ | 2007年12月 6日 (木) 01時41分
アツシ様:おはようございます
北海道の7月は、まだ気温が真夏になりきらないので保温の目的があるのかもしれません。
プール前に赤旗が立つと『利用不可』だったと記憶しています。
投稿: ねこん | 2007年12月 6日 (木) 06時29分