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2007年10月21日 (日)

窓を飛び出して ③

ここに住み始めて長くなりました。
 晴れの日、曇りの日、風の日、… 相棒は雨の日以外の昼間は一生懸命ガラクタにしか見えないものを集めて働いています。 私は、そんな相棒の仕事を眺めているだけですが、彼は、そんな私を見て笑ったり、集めたものが何か私に教えてくれたりします。

「人は色々な物が欲しくなって手に入れて使うけど、壊れたり邪魔になったら捨ててしまうんだよな…。 最後のひと働きができるものでもさ。俺がぁ、その最後のひと働きをさせるんだよ。このホテルもそうだ…いじめられるために立っているんじゃぁ無い…」

Cat052  この家はいじめられているのか…。
あちこちが壊れたり、穴が開いたり、黒くなったり…
私も他の猫や犬や人に追い掛け回されたり、何かをぶつけられたりして、逃げ回ったことがありましたが、この家は逃げることができなかったんだね。一生懸命働いたのに、捨てられて寂しいんだね…
 それを思うとこの家がとてもかわいそうです。
今は、私と相棒が「かぞく」と思っていてくれるのでしょうか…

 その日も相棒は、朝早くから家の中や回りに落ちているものを集めて大きな箱に積み込んでいました。(数日前にすっかり片付いたところにもいつのまにかまた、増えている)
 ひと通り、仕事を終えると私を抱いて部屋へ戻り、いつもどおり私のミルクとご飯を用意すると『じゃぁ行って来るよ』とわたしの頭を愛おしく撫でて出かけていきました。
 足音が聞こえなくなってややして、窓際に「ぴょん」と飛び乗ると窓の外を見ました。ものすごい勢いで走り回る奇妙な生き物の脇を相棒が箱(リヤカーと教えられた)を引っ張りながら歩いて行きます。できるだけ長く見送ろうと割れたガラスの間から「ひょい」と顔を出していましたが、やがて大きい建物の影に隠れました。

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 陽が真っ赤になって落ちていきます。この家の大きな影が相変わらず走り回る生き物の上に大きな影を落としています。いつものこの位の時間には相棒は帰ってきているのですが今日は、遠くまで行ったのかまだ帰ってきません。
 下へ降りてしばらく待ってみましたが、いつも相棒の入ってくる塀の隙間をジッと見つめていても彼は戻ってきそうもありません。
 そうしているうちの陽がとっぷりと暮れてしまいました。暗くなると相棒は目が悪くなるので今日は帰ってこられなくなったのかもしれません。
 私は部屋に戻ると、いつも相棒の横たわるベッドで眠りに付きました。

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『ウォーっ 怖ぇーぞ!』 『何ぃー?何んかいたぁー?!』

私は飛び上がって驚きました。声はすぐそこです。『アラシ?』 まだ、相棒は戻っていないようで、私はあわてて壁とベッドの隙間に飛び込んで小さくなりました。

『おぉーっ?誰かここに住んでるみたいだぞ!』 部屋にアラシが入ってきました。

『なんか臭ぇなー!ゴミだらけじゃん。』 部屋の中が灯りで照らされます。

『汚ったない! 早く出よう!』 アラシが何かを蹴飛ばしてガラガラと激しい音が部屋に響きました

『そういうなよ。 凄っごい部屋があるんだよ。そっち行こ!』 扉を乱暴に『バタン!』と閉じるとアラシの叫び声は遠ざかって行きました。相棒のいないときにこんなことになるなんて…私は小さくなったまま、隙間で震えていました。

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Dscf9099 もう、どのくらいたったのでしょうか…
何度か昼と夜を繰り返したようですが、相棒は帰ってきません。
迎えに行こうにも相棒が私のためにいつも少し開いておいてくれる扉は「アラシ」に閉められてしまい、私には開けられません…
もうお腹もすっかり空いて、喉もカラカラです…

次の日、強い風と雨が降りました。窓から吹き込む雨を舐めて少し元気になりました。
相棒は何処へ行ってしまったのでしょうか?窓から外を見ると空が怒り狂っています。

 私はすっかり疲れてしまいました。お腹はもう空いていません。ただ、凄く疲れてしまって起きることができません。相棒が帰ってきても飛んで迎えに行くことが今の私にはできそうもありません。それだけが心残りですが、今はもう少し眠ろうと思います。

目が覚めると良いことがある…いつもそう…そのはずですから…

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Cat056 なにやら暖かい感じがして、目が覚めました…
窓の外が明るく輝いて、でも不思議とまぶしくない心地の良い暖かさです。

一眠りしたので体もすっかり元気になったようです。窓の外が気になって窓際に飛び乗ります。窓の外は、いつもの生き物が走り回る風景ではなく、遠くまで広がる草原でした。
無性にあそこへ行ってみたい。あそこでなにかが私を待っている…そんな気がして私は、窓の外へ飛び出してみることにしました。振り返ると薄暗い部屋。私と相棒の楽しい日々が詰まった部屋です。ここにいても相棒にはもう合えないのかも知れません。

ネズミを捕るときみたいに体に力を溜めると一気に窓の外へ飛び出しました。
まるで鳥になったみたいに体が軽くスイーっと飛んで行きます。一瞬、後を振り返るとあの思い出の大きな家がどんどん小さくなっていきます。

『ありがとう…』 

向こう側の丘にトンと降りて、もう一度振り返ると家は消えていました。
走り回る生き物もアラシももう会うことはないのでしょう。

『帰られなくてごめんな…』 待ち焦がれた声に振り向くと相棒がいました。
見違えるようにすっきりした姿の相棒が…

私は答える代わりに差し出した彼の手に愛おしく頬ずりしました。

(おわり)

Photo これは、かなりできすぎた話なのかもしれません。
落書き、破壊、放火(?)にさらされて執拗に荒らされたビジネスホテルは、『心霊スポット』の名を記せられて元の姿も分からぬほどになってしまいました。
 この物件の歴史と真実と虚実は調べることが可能なのでしょうが、私は、あるひと部屋が気になりました。荒らされて、汚されまくり憎念と失意の巣窟のような建物の中で大量の生活感のあるゴミの袋の山と比較的きれいに保たれている室内。苦悶の表情の無い猫の亡骸。それらを観察して、このネガティヴな空間に小さなドラマを感じました。
 ですから、このお話は100%脚色によるもので、真実とは異なるのかもしれません。たぶん、そうなのでしょう。

 都市の比較的郊外とはいえ、近代化に包み込まれた空間の中にこの廃ホテルがいまだ存在し続けるのは、地権者の所在が不明という単純なことだけではないのかもしれません。私にはここが世の中の罪のようなものを一身に受け入れている想念の墓場にもみえてきます。 噂や真実は、この前で、もはや必要は無いことと私は考えます。

 火災の跡は、ホテル営業中のものか廃墟後のものかは、はっきりしません。ただ、ある階が猛烈な炎に包まれたことは事実です。よって、鉄骨およびコンクリートの強度は非常に脆くなっています。事実、取材中壁の裏で崩落音があり、壁の一部がビスケットのように簡単に割ることができました。無事に戻ってこられたのはあるいは幸いだったのかもしれません。あなた自身ここに行くことがあったなら『心霊話』の根拠にだけは、なりませんように…

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コメント

泣いてしまいました。
涙もろいので悲しいのは苦手です。

投稿: haru | 2007年10月21日 (日) 15時03分

とある私設美術館のパンフレットに書かれていました。
「泣かない目玉は目玉ではない」
目玉は心を見ると共に心を出すのです。
泣くことを恥じるのは大人の勘違いだとねこんは思います。
だから泣くことはあの猫へのせめてもの弔いなのです。

投稿: ねこん | 2007年10月21日 (日) 18時35分

私も廃墟の新たな表現を模索していますが。
さすが先輩殿、有名物件を新たな鮮度で見せるとは、絶好調なねこんマジックでございます。
この物件探索時は戦意喪失状態になった私ですが、後日この猫ちゃんに会いに行きたいと思います。
先輩もここ行ってたんですね。

投稿: カナブン | 2007年10月22日 (月) 20時18分

悲しいですね。

廃墟で見つけた手紙を読んでしまったとき、非常に後悔しました。

投稿: アツシ | 2007年10月22日 (月) 22時24分

カナブン師匠様
 確かに現地は戦意喪失するほどに重たい雰囲気のある物件です。
回りにはネオンやきらびやかな光にあふれて美しいのにまるで全ての罪を背負い込んだかのような遺構。確かに幽霊話はあって然りなのでしょう。我々はそこを冷静な眼で見て行くことが必要なのだと思います。

アツシ様
 よほどの手紙だったのでしょう。心中お察しします。
人の目に触れることなく朽ち果てて行くこともまた、悲しい。そんな気もします。ドラマは物件の数だけありますから…

投稿: ねこん | 2007年10月22日 (月) 22時57分

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