煉瓦長者 ②
牛舎建設の煉瓦が余ったようです。住宅のほんの一部分、台所のあたりだけがプロヴァンスしています。
もしかするとこの部分だけをセルフリフォームしたのか?
でも、量が中途半端だったので、なりきれない感も否めません。
中のシンク台まで赤レンガのゴージャスな造り。キッチン回りだけで終わってしまったのは残念です。
赤レンガ製の建築は、そこそこ見かけられますが、外壁のみで内装にまで使用している例は、あまり見かけられません。
住宅のレンガ積みの仕方を見ているとあることに気が付きます。
牛舎及びサイロと住宅の積み方が異なりますね。前回のサイロの画像を見ると一定間隔置きにレンガの巾が変わります。
これは、普通に1段積み、次の段をレンガ巾半分づつずらして積んでいく「ランニングボンド式」が基本ですが、この積み方だと目地が直線にそろってしまい、強度を損なうことから一定間隔置きにレンガの向きを変えて積み上げることでその弱点をカバーすることが必要になります。壁に当然厚みが出ますが建物を屈強に造るには変則的な積み方の「フランス式」や「ドイツ式」が主流のようです。
この牛舎とサイロは、それをわかっている玄人仕事なわけですね。
それに比べて牛舎内部の倒れた塀や給餌槽、住宅、ともに「ランニングボンド式」で積まれているのがわかります。これが玄人と素人の分かれ目なのです。見た目の重厚感も素人目に顕著。
レンガはコンクリートに比べて酸の影響を受けにくいので、ずーっと新しい時代のものより長持ちします。もちろん目地は、セメントですが。
施工中のレンガの水漬け(予めレンガに水を吸わせておく)が甘いとセメントの水分をレンガが吸ってしまい、接着が弱くなるそうです。狼対策には、覚えておくと良いですね。
現在の住宅などは、レンガモドキの新建材があり、風合いもかなりのものですが、本物のレンガにはかないません。レンガのシンク台はその点、高級に見えます。(さすがにシンクそのものまではできなかったようです)
奥のお風呂場にもレンガが使われているようです。
…ん? 違うぞ… 中を真っ赤に塗っただけですね。お風呂場を赤くするのは、ちょっと不気味です。ボイラーが不燃を起して中が煤で真っ黒に汚れたので塗り直したのかな?隣の部屋がレンガだからということで…ちょっと落ち着ける雰囲気ではありませんね。
レンガから離れて住宅内を見てみましょう。このお宅は離農ではなく、数百メートル離れた向かい側へ営農基盤を移したので現役の酪農家です。経営規模拡大のため、レンガ牛舎が手狭になったそうです。
現在、農機具庫などに転用されていますが、大部分は当時のままです。田園景観と崩壊の危険もあり、町から遠巻きに取り壊しを要求されているそうですが、この家の牛舎もサイロも今の町役場よりはずっと長持ちしそうです。
幹線道に面している都合、住宅の全体外観公開は控えておきます。
平屋ですが、とても広い家。数十年前で時が止まったかのように飾られた絵や家具調ステレオの上に散らばったドーナツ盤のレコードがあります。昔から豊かな家だったようです。(自前レンガ積みはともかく)
部活や授業で書かれた絵や習字も張り出されたまま、過ぎ去りし過去を飾る博物館のようです。
古はどんどん遠ざかって行きます。
遠ざかっているのは、置いてきたものたちか自分のほうなのかは、それぞれ事情があります。
まだ、こうして思い出に浸れる場所が静かに残っているのは、良いものですね。
デジタルメディアは、ちょっとしたことで中身が予告無く失われてしまうことがありますが、アナログの代表であるレコードは、針を落とせば今でも古の記憶を呼び起こしてくれるのでしょう。ノイズも回転ムラもそのひとつとして…
しかし、新旧がそっくり入れ替えられる現在、レコード店がレコードを置かなくなった様に古の居場所も少なくなっています。 それは、人も違わぬようです。
過去は遠ざかったのではなく、現在が遠ざかったのです。
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