窓を飛び出して ②
ここは、奇妙な家。 どこまで行っても同じ部屋ばかりです。でも、どんどん上まで上がってガラスの割れた窓から外を覗くと今まで行ったことのない遠くが見えて、心地よく潮の香りもしてきます。
とりあえず行くあてもない私ですから、犬や縄張りにうるさい奴らのいないここは気に入りました。『相棒』が私に色々食べ物をくれるのが、一番の魅力でしたが…
『相棒』は、よく私を相手に話をしました。
「しごと」 「かぞく」 「ゆめ」 「わかれ」…その意味は良くわからないのですが話しながらも嬉しそうだったり、悲しそうだったり、人間は話すと気持が大きく変わるようです。
『相棒』はこの家の中や回りに転がった古いものをたくさん集めていました。私が食べるものを探しているときに見た袋の山にも同じものがたくさんあったのを思い出します。食べられそうも無いので無視しましたけど…
彼は集めたものを袋にまとめたり、ひもで結わえたりすると大きな箱に積み込んで『行ってくるよ』と言ってその箱を引っ張って何処かへ運んで行きました。そんな時、私は相棒が少し開けておいてくれるドアから出て、家の中を探検したり、居心地のいい場所で日向ぼっこをしたり、部屋で眠っていました。すると『相棒』は食べ物を抱えて帰ってきます。
目が覚めるといい事が起こる、そんな毎日が楽しみです。
私もたまには、スズメを捕まえて『相棒』のところへ持っていきましたが、彼は笑っているだけで食べることはありません。どうやら口に合わなかったのでしょう。
相棒がいうところでは、この大きい家は、人間が遠くまで出かけたときに休んだり、眠ったりするところらしいです。縄張りを離れた所に来ると私も不安なので、こういうところがあるのは便利です。
でも、相棒以外の人間が来ることは無かったので人間はみんな自分の縄張りへ帰ってしまったようです。 相棒もいつか帰ってしまうのでしょうか… それを考えると少し淋しくなります。
夜になると窓から見える景色は色とりどりの光が遠くまで広がって見えました。はるか下には足の速いネズミのようなものが細い線の上を行ったり来たりして唸ってる。
相棒は夜は目が見えないようで、暗くなるとすぐ眠ってしまいます。時折、何かを呟いているようですが私には難し過ぎてわかりません。泣いている様に見えることもあります。
そんな時、私が首筋のあたりに寄り添っていると安心して静かに眠れるようです。思えば、それが相棒に私ができる唯一のことだったのかもしれません。
ある日の夜のこと、窓の外に見えていた月がどこかへ隠れてしまったころに大きな物音がしました。
家の中に何かが入ってきたようです。
しばらく、音が近づいてくるのに聞き耳を立てていましたが、相棒が突然目を覚まして『アラシだ!』と言うと飛び起きて、手馴れたようにドアの前に次々と物を積み上げていきました。
外からは、何か恐ろしい獣の奇声や笑い声が聞こえて、何かが壊れる音がひっきりなしに聞こえて私は思わず小さくなっていました。
相棒はドアの前でやっていた仕事を終えると『大丈夫だからな…』と言って私を懐に入れるとベッドの角で私を抱えるように座ってジッとしていました。この部屋のドアが叩かれたときには、さすがに私も震えましたが、相棒は黙って私の頭を撫でています。 やがて音が遠ざかる頃には私は相棒の懐の温もりで眠ってしまいました。その夜は、母の夢をみました─
次の日に部屋の外を見ると昨日までと打って変わって物が散らばったり、壁に穴があいていたりしました。そんな光景を見ても相棒はさほど驚かず、「いつものことだよ」とでも言うようにまた、缶やビンを集めだしました。
その後も『アラシ』というものは何度かありました。でもドアの外を通る恐ろしい獣の姿を見たことは、ただの一度もありません。
(つづく)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
うぅーん、なぜでしょう。
優しいのに不安。
投稿: haru | 2007年10月19日 (金) 02時04分
そうですか…最善は尽くします。
投稿: ねこん | 2007年10月20日 (土) 17時35分
お願いしますよ・・・
投稿: カナブン | 2007年10月20日 (土) 22時02分
写真入れたらアップします。泣いてね…
投稿: ねこん | 2007年10月20日 (土) 22時06分