希望の家 ③
音の無い静かな空間。ここにいる自分も時の経過からはじき出されてしまった気がします。時折聞こえてくる車の通過音が、かろうじて現実世界に引き戻してくれます。
窓枠が額縁に見えて、外の風景があたかも縁遠い『理想世界の風景画』のように見えてきます。
先にも触れましたがこの牛舎は15頭ほどの収容力。搾乳形式はエアーポンプ(圧縮空気を動力としてミルカーと呼ばれる搾乳機本体のポンプを動かす。:エアーの出入りを交互に繰り返すためちょっとした人工心臓のようです。このエアーにより、牛の乳頭に装着されたライナーというもののゴム部分が収縮・膨張を繰り返し、手搾りと同じ状態を作り出します。)によるバケット式(搾乳機とチューブでつながれているバケツ状の器が付属。内部が真空状態になるので牛乳はこの内部に溜まる。1頭分でも結構な重さになります。)と思われます。
出荷は送乳缶と言われる容器(持ち手と蓋のついた金属製容器)によって毎日集苛していた時代でしょう。送乳缶今では博物館や郷土資料館で見る程度で現在はバルクタンクという冷蔵機能(送乳缶では冷却機で温度を下げた後、冷水槽につけておくため保存性が悪い。現在のタンクでは、ほぼ1日置きの集荷)のあるタンクが主流でミルクローリー車によって集荷されます。また、タンクまではパイプライン化しているため搾乳機も軽量化。現在は搾乳機自体が牛の乳頭を探して自動着脱する完全オートメーション式もあり、ねこんが思うに酪農とパチンコ店は見るたびに『へ~っ!』というほど進化し続けているようです。
手搾りの時代はともかく、バケット式の当時も重い物を持つ作業が多くなりがちで腰を痛めてしまった人は多かったようです。この方式が最新だったのでしょうが…
給餌槽の上部の柱にここにいた牛の名前が記されています。多くの牛(ホルスタイン種)は外国(主に米国)産を種にもつ由緒正しい血筋なので名前は全て、父母の名からなるカタカナです。登録名でもあり、決して「太郎」とか「花子」や「吉田君」ではありません。成績と年齢の差はあってもエリートなんですね。
誤解される部分ですが牛は人と同じく子を産むことで乳を出すので元から乳を出す動物ではありません。
ちなみに黒っぽい牛からコーヒー牛乳は出ません。茶色の牛もフルーツ牛乳など出しません。念のため…
散乱した寝藁。給餌槽の食べかす。牛に擦られて角の取れた柱など現役時の様子が色濃く残っています。
壁には投薬記録や子どもの落書きが見られます。
そのなかにまじって数十箇所にわたり、書かれた文字…『希望』
日々の暮らしに未来を見出せなくなったのか
都会に憧れ、自分の境遇を悲観した子が書いたか
好きな言葉をモチベーションの呪文としたか
それは、計る事はできませんが後の暮らしが希望に満ちたものだったことを願ってやみません。
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