バンザイと牛乳 ②
Y君とは、親が同じ常会同士。小学校併設の保育所の頃からいっしょでした。とは言え、この広い北海道では隣の家までもそこそこ距離があります。Y君の家は数件隣という距離なので地元風に言うと数キロ。車なら10分程度の家でもまだ、自転車も乗れなかったねこんには地の果てと同じ印象の距離。自転車をまるで軽業師のように扱う兄(そう思っていました)なら難なく行けたのにマイペースな彼は面倒がって連れて行ってくれることはありません。
まれに父の用で一緒に行ったこともありましたが、そんなときに限ってY君は留守(入院していた)で残念な思いもありました。
夏休みのある日、朝からY君の家に行くことになりました。何だかウキウキして、ポケットにはY君に見せようと大事な宝物(畑の脇で見つけた散弾銃の薬きょう!よりによって…)を忍ばせて勝手に軽トラに乗って待っていました。
Y君の家には人がたくさん集まっています。今まで見たことも無い幌付きの大きなトラックが2~3台。『なんだろう?』
Y君はちゃんと家にいて、満面の笑顔で『いらっしゃい』と行ってくれた。(今、考えると上品な言葉使いをする子だった) 招き入れられて家に入るとあまり物がなくて、何だかガラーンとしている感じ。大人だけがせわしなく動いている。
『今日でお別れだね…』でも、その言葉の意味はよく分からなかった…
大事な宝物を見せてみた。 『凄いもの見つけたね。大事にしなよ。』本当はY君にあげようと思っていたけれど何だか渡しそびれてポケットの中に押し込んだ。
Y君の兄は、ツンとした顔で覗き込んでいる。
父に呼ばれて外に出た。近所のみんなが1ヵ所に集まっていて、気がつくとY君の一家4人が家の前に並んでいる。
良く分からない大人の話が長々と続いて、ある大人が凄く力の入った話をしたあと『バンザーイ!』と大声で叫んだ。間髪入れず回りの大人も『バンザーイ!』つられて自分も力なく両手をあげた。Y君一家は大きなトラックに乗り込むと先頭の車から出発しだした。
Y君に聞きたいことがあったのだけれど大人の影になってY君の顔すら見ることもできず見送った。『夏休みが終わったら聞こう…』そう思っていましたが、これが最後。
『離農』を間近に見た経験です。この後、数年間同じことが数度ありました。
だから『バンザイ』はとても寂しい気がしてきます。今は身近なところでは結婚式でしか聞きませんがそういう時、場の雰囲気とは別の方に心が向かうのは、こんな経験のなせる業かもしれません…
Y君の引越し先は、以外に近い所だったかもしれません。親戚筋も近くにはありますし。
でも、いまだに再会はありません。というか、会おうともしなかった。記憶はあの頃のまま、解凍されることを望んでいないのでしょう。
数十年ぶりにこの家に来て、何か思い出せるかなと期待しましたが、記憶に家のこと自体はあまりなかったようです。
『Y君ごめんね 牛乳は飲めるようになったけど、今でも嫌いなんだよ』
そんな罪悪感があったから、会えなかった…?
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